第7話:ライダーバトル、参戦
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龍騎の世界……

 

この世界は今、滅びようとしていた。

しかし、物理的な消滅ではない。「基点」の消滅による概念的な消滅だ。

それは例えるなら、小説の主人公が存在しないポッカリと空いた空虚の様なものだ。

 

「蓮(れん)…お前にも、答えは分からなかったんだろ……」

 

蝙蝠を模した騎士の姿をしたライダー…ナイト・サバイブがポツリと呟いた。

 

[ファイナルベント]

 

周囲にはこの世界のライダー達が自分を取り囲むようにそれぞれに備え付けられている召喚機にカードを装填している。そのカードの名は「ファイナルベント」…この世界のライダー達が使う自身の能力を一時的に急上昇させて一撃必殺の攻撃を放つ為のキーだ。

 

[ファイナルベント]

 

今この世界の裏側…「ミラーワールド」ではこの世界の「基点」となる人物…城戸真司(きどしんじ)が親友…秋山蓮(あきやまれん)の形見であるカードデッキを使い、ナイトに変身していた。

 

[ファイナルベント]

 

彼の本来の姿は龍騎である筈なのだが、それはこの激しい「ライダーバトル」の中で壊されてしまった。

 

[ファイナルベント]

 

「ライダーバトル」…それはライダーの力を宿したカードデッキを持った人間たちが繰り広げる殺し合いである。その最後の生き残った一人にはどんな望みも叶えられる力が与えられる。

 

[ファイナルベント]

 

その力を手にしようと、ライダーになった者達は戦いを繰り広げた。

だが、真司はこの戦いに意味を見いだせなかった。確かに望みを叶えられるというのは実に魅力的ではあるが、真司にとってはこんな殺し合いをしてまで手に入れる力だとは思えなかったのだ。

 

「お前は答えを見つける為に戦っていたんだ。だったら、俺も戦う…!」

 

[ファイナルベント]

 

しかし今、戦う理由を見つけた。

 

「お前の探していた答えを…見つける為に…!」

 

友の為に、戦う決意を……。

 

[ファイナルベント]

 

この場にいるナイトを除いた全てのライダー達が「ファイナルベント」のカードを装填し終えた。

 

「うらああぁぁぁぁぁ!!」

 

ナイトは雄叫びを上げながら、ライダー達に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

ライダー達が戦いを繰り広げる数十分前……

 

この世界に次元断裂空間を通ってやって来た亜由美と歩は繁華街を歩いていた。

 

「ヘェ〜、ここが別世界かぁ〜。何か思ってたのと違うなぁ〜。それにしてもアッツい……」

 

亜由美は周囲を見渡しながらそうぼやいたが、それは街中の雑踏の中に消えてしまった。

別の世界と言ったらもっとファンタジーなイメージを持っていたのだが、一見すると何の変哲もない現代日本だ。

唯一変わっている所と言えば、亜由美がいた世界では2011年の2月だったのに対し、この世界は2002年の9月だという事ぐらいだろうか。

この世界ではまだ残暑が続く9月だという事で、上着は脱いで自分の次元断裂空間に保管している。

この方法はつい先程、歩から訊いたのだが、こんな使い方があるなど到底思い付かなかった。

 

「まぁ、ファンタジーな世界もあるよ。一応」

「ヘェ〜そうなんだぁ〜…ってアレ!?また心読まれた!?」

「僕が最初に訪れた世界がかなりファンタジーだったから全部そうなのかと思ってたけど、別にそんな事はなかったね」

「そして無視しないでください!!」

 

心を読まれた事に動揺するもそれを華麗にスルーしながら話を続ける歩に思わずツッコンでしまった。ホントに一体何なのだろうか、この人は……。

そう思っていると歩のある変化に気が付いた。

 

「アレ?先生、何時の間に着替えたんですか?」

「ん?あぁ、コレね。Dシリーズの中にはその行った世界で何らかの『役割』を与えられるタイプがいてね。その時にこういった『役割』に適した格好になるんだよ」

 

今の歩の格好は茶色いスーツではなくなっていた。

白のTシャツに水色の袖なしパーカーを羽織った、ラフな格好になっていた。

更に肩には大きめのアナログカメラが担がれている。

そして歩はおもむろにパーカーのポケットに手を突っ込み財布を取り出すと、その中から一枚の名刺を取って一瞥すると亜由美に渡した。

 

「ん、なになに?『フリーカメラマン・須藤歩』……。これが今回、先生が与えられた役割?」

「まぁ、そう言う事になるね。でも『役割』と言ってもあくまで形だけだから態々それに従わなくてもいいんだけどね」

 

そう言いながら再び歩き出すと、ふと思い出したのかこちらに振り向いて来た。

 

「あ、それとこの世界じゃ『先生』じゃないから普通に『歩』で良いよ。タメ口でも構わないしね」

「あぁ〜、それもそうだね」

 

そう言いながらテコテコと付いて歩く亜由美に更にとんでもない事を言い出した。

 

「それから僕たちの関係はあまり人に聞かれても大丈夫なように当り触りのない兄妹という事にしとこうか。別に呼び方は『お兄ちゃん』とかでも良いよ?」

「ブッ!?」

 

思わず噴いてしまった。まさか『兄妹』ならまだしも、『お兄ちゃん』という言葉が歩の口から出るとは想定外だった。しかもそれを、自分に言えと……。

 

「ちょ、何言っちゃってんの!?流石に『お兄ちゃん』とは言いません!!ひょっとしてアレ!?歩って妹キャラとかに萌えるキャラだったの!?私の事、そんな目で見てたの!?」

 

両腕で自分を抱き、歩から後退りながら早口で捲(まく)し立てる亜由美に、疑問符を頭の上に浮かべながら首をコテンと傾げるが全然可愛くない。寧ろ虚ろな目と相まって不気味だ。

 

「何の事かよく分からないけど、妹って言うのは兄の事を『お兄ちゃん』って呼ぶのが普通だって聞いた事があるんだけど……」

「確かにそう言う呼び方する子っているけど、そう言う子は大体幼いかブラコンか二次元のキャラです!!私はそんな呼び方はしません!!」

「あの…そんなに叫ぶと周りに迷惑なんだけど……」

「誰の所為だと思ってるんですか!?」

 

周囲には人だかりができ始め、「痴話ゲンカか?」とか「仲の良い兄妹ねぇ」と言った言葉が聴こえてくるが、亜由美はそんな事など気にも止めずにツッコミを絶賛発動中だった。

 

「ハァ……ん?」

 

亜由美の果てしなく続くツッコミに溜め息を吐いていると、歩の中にある情報が入ってきた。

それはディージェントドライバーから送られてくるこの世界に関する情報で、その内容は衝撃的なものだった。

 

“この世界の「基点」となるライダーが消えた。”

 

その内容に歩は表情には出さなかったものの驚愕していた。

この世界がまだ「ライダーサークル」に存在する世界である為、まだ完全に「基点」が消えたわけではない様だが、それでもこの世界が滅びるのは時間の問題だろう。

歩は周りを見渡すと、路地裏の方へ人目も気にせず一目散に走り出した。

 

「あ!?ちょっと、歩!?」

「しばらくこの辺で待ってて!出来るだけ早く戻る!」

 

歩が珍しく大声で答えて路地裏に消えて行くと、亜由美はある事に気がついた。

周囲には自分を囲むようにしてこちらを見ている人だかり……。更にその中から「彼氏逃げたな」だの「フラれた?」等と言った雑言が聴こえて来た。

 

「〜〜!!…あの人は私の兄です!決して彼氏なんかじゃありません!!」

 

亜由美は羞恥で顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 

 

 

 

 

「確か、この辺りかな?人気もないようだし……」

 

歩は路地裏を走っていると、開けた空き地に辿りついていた。

辺りを見渡していると割れて破棄された鏡を見つけ、それに近づく。それと呼応するように耳鳴りが聴こえ出し、音量も徐々に大きくなっていく。

そしてその割れた鏡を覗き込むと、そこには巨大な蜘蛛のような怪物…ミラーモンスターがその場にいた一人のライダーを捕食している姿があった。

その周囲には他にもこの世界のライダーが何人か見受けられ、そのミラーモンスターを倒そうと奮闘している。

 

「コレがこの世界のライダー達か…情報としては知っていたけど、本当にかなりの数がいるね……」

 

歩は彼らがライダーである事は分かるのだが、その名称を知らない。

 

歩はディージェントドライバーからライダーの情報を得ていると言っても全て知っているわけではない。

ライダーの情報はあくまでディケイドからダウンロードしたものが殆どだ。

ディケイドが復活する前だったら分かったかもしれないが、今の歩には「基点」となるライダーの存在感知とその「基点」が変身するライダーの情報…及び、世界の脅威の知識しか分からないのだ。

 

その情報にないライダーが捕食されるのを歩は黙って見ていた。

歩の目的はあくまで「歪み」の修正。つまりこの世界での事件には一切干渉する気はないのだ。

人が死ぬ所を見るのは気が引けるが、もし介入すればこの世界で本来起こるはずだった事象が起きない事になり、それによって新たな「歪み」が発生する可能性があるのだ。

歩は無表情の虚ろな目で、しかし拳を血が滲み出るくらいになるまで強く握りしめていた。

 

そんな時、変化が訪れた。

突然ライダー達と離れた場所にいたこの世界の「基点」…城戸真司が鏡の中に映る様にそのライダー達に近づいてきたのだ。

恐らく、先程まで龍騎として戦っていたようだが、デッキを壊されてしまった為、変身が解除されてしまったのだろう。

すると城戸真司はその右手に持った龍騎のものとは違うデッキを前に翳(かざ)してベルト…Vバックルを腹部に出現させる。

 

本来ならば鏡やガラスと言った鏡面化する物の前で翳さなければベルトは出現しないのだが、ミラーワールド全体が鏡となっている為、その制限がなくなっている様だ。

 

城戸真司は上半身を捻って左腕を前に突き出すと、ライダー達が持つ「覚悟」を意味する言葉を叫んだ。

 

「変身!!」

 

その掛け声とともに上半身を戻す勢いで右手のカードデッキをVバックルに装填した。

すると城戸真司の身体に銀色の鏡像が重なって行き、その姿を蝙蝠と騎士を掛け合わせたライダーに変えた。

 

その瞬間、城戸真司が変身したライダーの情報を歩は持っていなかったが、「基点」が変身した事により、歩の中に新たな情報が入ってきた。

 

「世界が…変わった?」

 

この世界は「龍騎の世界」であって「龍騎の世界」ではない派生した世界に変わったのだ。今のこの世界の名は……

 

「『ナイトの世界』…か……」

 

更に変身した蝙蝠と騎士を掛け合わせたようなライダー…ナイトはカードデッキから一枚のカードを引き抜くと、ナイト専用武器兼召喚機・ダークバイザーを構える。

 

引き抜いたカードは「サバイブ・疾風」…「龍騎の世界」における強化ツールである。

そのカードに反応して、ダークバイザーは細身の西洋剣の形状から蝙蝠の羽を模した青い盾型の召喚機…ダークバイザーツバイに姿を変え、その中にカードを装填した。

 

[サバイブ]

 

電子音声が鳴り響いたその瞬間、ナイトの周りに突風が巻き起こり、ナイトの姿を変えて行く。

その甲冑は青く、より鋭利なものになり、所々に金色の装飾が施されている。

仮面ライダーナイト・サバイブ…それがこのライダーの…城戸真司の今の名だ。

 

[ファイナルベント]

 

ナイト・サバイブはファイナルベントの効果を発動させると、契約モンスター・ダークレイダーを呼び出した。

 

契約モンスターはこの世界のライダー達の力の根源になる存在で、他のミラーモンスターや人間を捕食させることを条件に、その契約したライダーに自身の力を与える。

但し、長期間エサの配給を断てば契約破棄と見做されそのミラーモンスターに捕食されてしまう為、必然的に戦わなければならないのだ。

これがこの世界で『ライダーバトル』を行わせる一つの要素となっている。

 

ナイトはダークレイダーを「ファイナルベント」の効果でバイクモードに変形させ蜘蛛型のミラーモンスターをそのバイクの突進で倒した。

そしてバイクから降りると後を追って来たライダー達がナイトを取り囲んでそれぞれが「ファイナルベント」のカードを次々と発動させて行く。

 

そこで歩が動いた。

 

「……そろそろ行った方が良いかもね」

 

どのあたりが歪んでいたのかは分からなかったが、そこには確かに歪みが生じていた。

その証拠にナイト・サバイブを取り囲んだライダー達がこの世界の「基点」であるナイトを消そうとしている。

消させるわけにはいかない。

 

歩はディージェントドライバーとカードを次元断裂から取り出し、装着・装填させる。

 

「変身」

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

灰色のノイズに包まれ次の瞬間にはディージェントへの変身を完了させると、左右の手首を順番に握りながら、まるでグローブを強く嵌め直す仕種の後、鏡に近づいてその中に吸い込まれて行った。

 

Dシリーズはその世界に順じた能力を得る事がある。

今回の場合は「龍騎の世界」のルールである「ミラーワールドへの介入」と言う能力を得た事でこの世界に限りミラーワールドへ入る事が出来るのだ。

 

 

 

 

 

「うらああぁぁぁぁぁ!!」

 

ミラーワールドへ入った直後、ナイトが周囲を取り囲むライダー達に単騎特攻を仕掛けている姿が目に入った。

アレはどう考えても無謀だ。ナイトの「ファイナルベント」は既に使われている為決定打を与える事は出来ないし、更に周囲には「ファイナルベント」を発動させたライダー達…このままでは「基点」が壊されてしまう。

そう思ったディージェントの行動は早かった。次元断裂からカードを一枚取り出し、既に展開済みのカード挿入口に挿入して即座に持ち手部分を押し込んだ。

 

[アタックライド…キャンセル!]

 

電子音声が鳴り響くとディージェントの身体から衝撃波の様なものが出て周囲一帯に広がる。

衝撃波と言っても物体に直接干渉するわけではなく、ある特定のものを相殺するのだ。そのあるものとは………

 

「何故だ?発動しない……」

「だりゃあぁぁぁ!!」

「ぬおぉぉ!?」

 

“何らかのツールを使って発動させる能力の無効化”だ。

但し、その効果範囲は広いが、効果が発揮されるのは発動させた一瞬だけなので、使うタイミングが難しいのが欠点だ。

 

しかしそのおかげでライダー達の「ファイナルベント」は無効化され、ナイトが目の前にいる豪奢な装飾を施された鷲を模した金色のライダーに攻撃を与えることに成功させていた。

 

 

 

 

 

「うおおぉぉりゃああぁぁぁ!!」

「ぬうぅぅぅ…!!」

「一体、何が起きて…ってアレ?アンタ、一体誰?」

 

ナイトが鷲を模したライダー…オーディンを押し込む様子を見ながら、メカニカルな風貌の緑色のライダー…ゾルダが考え込んでいると、不意に矢印を顔に張り付けたイメージの青黒いライダーの姿を見つけた。

その声に次々とナイトとオーディンを除いたライダー達がそちらを振り向く。

 

その青黒いライダーは、ゆったりとした動作でライダー達を指差しながら言い放った。

 

「自分の存在意義を探す仮面ライダーだ。別に覚えなくていいよ」

 

しかし、その口調は抑揚のない淡々としたものであった。

説明
今回より、龍騎編に移ります。
龍騎編の世界観はTVSP版の「戦いを続ける」を選択した後のストーリーを基にしております。そのため、この作品に出てくる真司は龍騎ではなくナイトに変身します。
しかし侮ることなかれ、私の作品はそんじょそこらの二次創作とは一味も二味も違う独特の展開へと発展していきます。

それでは龍騎編、お楽しみ下さい。
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ディージェント ディケイド 独自解釈あり 挿絵募集中 仮面ライダー 

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