仮面ライダーディージェント 第9話:龍騎との邂逅と人形
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ディージェントが戦闘を離脱する数分前……

 

「あゆむぅ〜、どこぉ〜?」

 

亜由美は絶賛路頭に迷っていた。

あの後、人目を避ける様にその場から離れ、歩を追う為に路地裏に入ったは良いものの、完全に見失ってしまったのだ。

路地裏は意外と入り組んだ構造になっており、もはやどう走って来たか分からない有様だ。

その目には涙がたまっており、家に置いてかれた一羽のウサギの様な可愛さと寂しさを醸し出している。

そして、そんな小動物を放っておく肉食動物などそうそういないだろう。

 

「お、いたぜ!さっき騒いでた女!」

「ヘッヘッヘ…お嬢ちゃん迷子かい?だったらオレ達が案内してやろうか?」

 

後ろを振り向くとそこいはいかにも不良ですと言っている様な格好をした男二人組がいた。

どうやらこの二人は先程の亜由美と歩のやり取りを見ていて、その後を着けて来た様である。

 

「さっきの男捜してんだろぉ〜?だったら、オレ達も手伝ってやるよ」

「イヤイヤ、そんな事より昔の男の事なんて忘れてよ〜俺達と遊ぼうぜ〜」

「いや、だからあの人は彼氏とかじゃ……」

 

不良二人組は時代遅れな感じのする古典的なナンパを仕掛けて来た。

 

流石2002年だな〜などと暢気な事を考えていると、すぐ近くに捨ててあった割れた窓ガラスから人が飛び出して来た。

 

「キャッ!?」

「うぉっ!?」

「何じゃあ一体!?」

 

三者三様に驚きその人物を見てみると、どうも男性の様だった。

歩より少し長い感じの茶髪で、その顔はかなり整っているのだが、今は苦しげに歪めている。

如何やら気を失っている様で、時折「うぅ…」と呻いている。

亜由美は自分でも無意識の内に、この男性に声を掛けていた。

 

「え、えっとぉ…だ、大丈夫ですか?」

「オ、オイ…今のは何……」

 

[ツールライド…リセット!]

 

「へ?」

「って誰だテメェ!?」

 

突然聞き覚えのある電子音声が聞こえ、不良二人組の方を振り向くと、そこには歩が何時もの死んだ魚の目で立っており、腰には何故かディージェントドライバーを着けていた。

 

「今見た事は忘れてもらうよ」

「おい、どういう事…ヘブ!?」

「何してヴァ!?」

 

不良二人組が言いきる前に歩が二人の頭を鷲掴みにすると、まるで糸の切れた人形の様にバタリと倒れてしまった。

 

「え!?何やったの!?」

「何も問題はないよ。今の記憶を消させてもらっただけだから」

「そ、そうなんだ……。ところで歩、今この人がガラスから出て来たんだけど、『歪み』と関係あるの?」

「それについては一旦この場から離れてからにしようか。この世界の移住先に行くよ」

 

そう答えると、歩は倒れた男性を担いでその場を後にする様なので、その後に続いた。

 

 

 

 

 

「う、うぅぅん……」

真司は呻き声を上げながら、ゆっくりと瞼を開けた。その目に最初に映って来たのはどこか見覚えのある天井だった。

視線を横にずらしてみると、これまた見覚えのある玄関が目に入る。

 

「あれ?ここ…俺のマンション?でも、確か追い出されたんじゃ……」

「今は僕が使わせてもらってるよ」

 

突然の声に、痛む身体を何とか起き上がらせてそちらをみると、そこには青年と少女の二人組がいた。

 

青年の方は自分より少し短めの黒髪で、その目は虚ろでまるで死人の様である。

 

対して少女の方は長い黒髪をポニーテールにしており、この辺りでは見かけない高校の制服を着用していた。

何処となく青年と似ているが、その目は青年とは正反対で好奇心旺盛と言ったところだろうか。

 

「ねぇ歩、起きたんだからそろそろ説明してよ」

「それもそうだね」

「あ、あんた達は一体……」

 

二人は何やら話している様だが、真司にはその内容が全く掴めない。

すると真司の内心を見抜いたのか、青年の方が軽く愛想笑いをしながら抑揚のない淡々とした口調で衝撃的な発言を口にした。

 

「そんなに警戒しなくていいよ。仮面ライダー龍騎改め、仮面ライダーナイト・城戸真司君」

「な、何でそれを…!?まさか、あんたもライダー!?」

「えぇ!?この人が龍騎なの!?でも改めナイトってどういう事!?」

 

真司は何故、自分が仮面ライダーである事をこの目の前の青年が知っているのか驚くが、もしかしたらあの時戦っていたライダーの中に混じっていたのではないかと勘繰った。

もしそうだとしたら、この青年は今すぐにでも自分を殺しに掛かるだろうが、そんな気配は微塵も感じらえない。

少女の方も何やら騒いでいるが、龍騎の事は知っていても自分が龍騎であった事は知らなかった口振りだ。

 

「二人とも落ち着いて。これから一つずつ質問に答えて行くから」

 

青年は騒ぐ二人を宥め、これから質問に答えて行く旨を二人に伝える。

 

「じゃ、じゃあ…まず俺からの質問だ。あんた達は一体誰なんだ?そっちの娘はライダーじゃないみたいだけど、あんたはライダーなんだろ?」

「まぁ、その通りだね。僕の名前は須藤歩。仮面ライダーディージェント。で、そっちの子は須藤亜由美。僕の妹だよ」

「え、えぇーと…は、初めまして」

 

真司の質問に青年…須藤歩は簡潔に答えた。しかし、その喋り方は独特で、台詞だけなら友好的に感じるのだが、口調に抑揚がなく淡々としている為、感情の入っていない…例えるなら只の人形の様だった。

そしてもう一方の少女は辿々しくはあるものの、きちんと挨拶をして来た。

兄妹でもここまで差が出るものなのかと思いつつ、もう一つの質問をした。

 

「やっぱり、お前も俺と戦うつもりなのか?それとも、俺と一緒に戦ってくれるのか?」

「いや、どちらでもないよ」

『へ?』

 

この答えには少女…須藤亜由美も予想外だったようで自分と同じように思わず呆けた声が出てしまっていた。

 

「何で?この世界の『歪み』を解決するのが目的なんじゃないの?」

「確かにそうだけど、彼の言っている事はあくまでこの世界の事象だからね。この世界の事象には一切関わるつもりはないよ」

「なぁ、一体何の話をしてんだ?」

 

「この世界」だの「歪み」だの訳の分からない話をする二人に問いかけると、歩が頭をガリガリ掻きながら、「ん〜そうだね〜」などとぼやきながら何から話そうか考え始めた。

やがて考えが纏まったのか、頭を掻くのをやめると、その虚ろな目で真司を見つめた。

何というか、まるで死体と目が合ってしまったような感覚だ。正直怖い……。

 

「じゃあ話すけど、信じてもらえないかもしれないよ?」

「信じるよ。少なくとも俺は」

 

そう答えると歩は「そうか」と呟いてから話し始めた。この世界…いや、「ライダーサークル」の融合崩壊の危機を……。

 

 

 

 

 

「じゃあ、あんた達は世界を守るために旅している宇宙人ってわけだ」

「まぁ、大体そんな感じだね」

「何だろう…すごく、デジャブが……」

 

真司の微妙にズレた結論に亜由美は慨視感を覚えつつ、頭を抱えていた。と言うか、それでいいのだろうか歩……。

 

「それで、その『歪み』ってのは一体何なんだ?」

「それは僕にも分からない。でも、この世界に『歪み』があるのは確かだよ。『セカンド・オリジナル』なら、尚更ね」

『セカンド・オリジナル?』

 

亜由美と真司の声がまたもやハモッた。今まで聞いた事のない単語だ。

 

「『オリジナル』とほぼ同じ歴史を辿っている『リイマジネーション』の事だよ。僕はその『オリジナル』の情報を持ってるから、この世界がその歴史から大きく外れている事が分かる」

「つまり、本来だったら起きる筈じゃなかった事が起きてるってことね?」

「そう言う事だね」

「……なあ、聞いてもいいか?」

 

歩が簡潔に話し、亜由美がそれを自分なりに解釈していると、真司が恐る恐ると言った感じで訊ねて来た。

 

「その…『オリジナル』だったら、最後、どうなったんだ?戦いは止められたのか?それとも、今もずっと戦っているのか?」

 

真司は「オリジナル」がディケイドによって消滅している事を知らない。「オリジナル」が消滅したからこそ、今の無数の「リイマジネーション」が存在するのだ。その事実を伝えたら、真司はどう思うのだろうか……。

そんな事を考えていると、歩が口を開いた。その質問に対する歩の答えは……

 

「それは教えられない。あくまでその世界はこの世界の、もしこうなっていたらどうなったかと言う“IFの世界”。この世界の問題は、この世界の人間が解決しなくちゃいけない。

そこに“IFの世界”の情報を与えれば、そこに新たな『歪み』が生まれてしまう。だから教えられない」

 

そう抑揚のない口調で歩は答えると「話は終わりだ」と言わんばかりに、玄関の方へ歩いて行った。

 

(本当は、“教えられない”んじゃなくて、“教えたくない”んじゃないの?)

 

亜由美はそんな考えが過ぎった。

 

亜由美はまだ歩の事を全部知っているわけではない。

ただしばらく一緒に行動しただけで分かる。歩は本当はとても優しくて、でもそれを素直に表に出せないだけなんだと。

皐月が歩の事を“引っ込み思案なだけの良いヤツ”と言っていただけはある。

きっと歩は誰も傷付けたくないのだろう。

 

「何処行くの?」

「夕飯の支度をするから、材料を買ってくる。真司君はここにいた方が良いよ。多分、他のライダー達が探してるだろうからね」

「お、おう…分かった……」

 

亜由美の質問に簡潔に答え、真司に軽く警告をすると、歩はこのマンションの一室を後にした。

 

 

 

 

 

歩は繁華街に向かう人気の少ない道中、突然立ち止まると、ボソリと呟いた。

 

「…そろそろ姿を現したらどうですか?神童さん」

 

そう呟いた途端、歩の目の前に次元断裂が現れ、その中から黒い革ジャンを着た三十代後半と思われる男・神童が姿を現した。

神童は歩を忌々しげに睨み付けると吐き捨てる様な口調で話しかけて来た。

 

「チッ、次元移動能力だけは相当高い様だな。Dシリーズ適合者だからってわけじゃなさそうだが……」

「この能力は元からです。ちゃんと顔を合わせるのは今回が初めてですね」

 

「初めまして」と歩が言いながらお辞儀をすると、神童は更に憎たらしそうに顔を歪めた。

 

「……まるで人形みてぇなヤツだな。感情が全く籠っちゃいねぇ」

「よく言われます。それで、僕に何の用ですか?これから夕飯の買い出しに行かないといけないんですけど……」

「ウルセェ、テメェの事情なんざ知ったこっちゃねぇんだよ」

 

歩の言葉を遮って歳不相応な乱暴な言葉遣いで罵言を吐くと、更に言葉を続けた。

 

「この世界に少しばかり細工をさせてもらった。そいつで精々苦しみな」

「それだけですか?でもそれだったら自分でやればいいじゃないですか。何故態々そんな危険な事を……」

「ウルセェな、俺は世界に直接干渉できねぇんだよ。それに、テメェらDシリーズさえ壊せりゃ世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇよ」

「……その為に『ノンポジション』の世界に脅威を連れて来たんですか?」

 

歩はその言葉を聞くと、拳を握りしめながら言い放った。

神童の言っている事が確かなら、世界が崩壊する事を分かった上で、別の世界の脅威を送り込んだ事になる。

 

「あぁそうだよ。テメェらDシリーズの所為で俺の世界は完全に破壊されちまったんだ。だからそのお返しにテメェらDシリーズは俺が完全に破壊してやるよ」

「……もし世界を壊すんだったら、その前に貴方を壊します」

「ハッ!まさに悪魔だな、流石はディケイドの強化版バックアップなだけはあるぜ」

「今は『ライドカードシステム』も殆ど使えませんけどね」

「……チッ、人形が」

 

神童の軽い挑発に、歩は何でもない事の様に淡々と返した。

その反応に神童は不快気に舌打ちすると、次元断裂を再び展開してその中に入りながら続ける。

 

「一つ教えといてやる。テメェらを使って世界を復活させようとしている馬鹿がいるらしいが、そんなんじゃ世界は復活しねぇ。一度壊れたらもう二度と戻らねぇんだよ」

「世界を復活…?一体何の事ですか?」

「何?……ハッ!そう言う事か!やっぱお前はタダの人形だな!!」

 

神童は「バハハハハ!!」と豪快に笑いながら次元断裂空間を通ってこの世界から消えた。

 

 

 

「世界を復活……『オリジナル』は自分の世界を復活させようとしている…?でも、それはこの『Dプロジェクト』と一切関係ないはず……」

 

歩はブツブツと呟きながら繁華街へ歩いて行った。

 

『Dプロジェクト』はあくまで世界の融合を円滑にさせるための計画だ。例え世界を一つに融合したとしても、『オリジナル』の世界が復活するわけではない。

何故なら融合すれば同じライダーが複数存在する事になるからだ。それは最早『オリジナル』のいた世界とはいえない。

 

「まぁ、その内『オリジナル』に聞こうかな」

 

そう考えを区切ると、歩は丁度目の前に見えたスーパーの中に入っていった。

 

 

 

「どうだ、見つかったか?」

「いえ、まだ見つかりません」

「何処だ…あの青黒は何処に行ったあぁぁ!!」

「落ち着けって犯罪者、その内見つかるさ。それにしてもあの青黒、相当好かれちゃったねぇ……」

 

その頃、ミラーワールドではナイトと謎の青黒いライダーを、オーディンを始めとしたライダー達が探していた。

オーディンがタイガに訊ねるが未だ芳しくなく、王蛇は血眼になってナイトよりもあの謎のライダーを探している様だが、中々居場所が攫めずかなり気が立っているようだった。それを宥めながらゾルダはこの犯罪者の標的にされた謎のライダーに少しばかり同情していた。

 

「そろそろ日が暮れますね…今日はここまでにして体力を温存させた方がよろしいのではないでしょうか?」

「それもそうね、今日はもうお風呂に入って寝たいわ。こう何度も現実とミラーワールドを行ったり来たりしてたら身が持たないわ」

 

タイガがそう提案すると、ファムもそれに同意する様にぼやいた。

 

この世界のライダーはミラーワールドから出ると、強制的に変身が解除されてしまう。

それは現実世界とミラーワールドの環境の違いによる、身体の負担を軽くする為のものだ。

必要のない場所で宇宙服を着ているのと同じ事で、無駄にそれを着けていれば体力を消耗していくだけである。

 

「ではそうするとしよう。お前達は現実世界に帰り、体力の回復に努めろ。私も現実世界に戻る」

 

そうオーディンが号令を掛けると、ライダー達は散り散りに現実世界へ帰っていった。

そしてオーディンは隣にいるリュウガにも声を掛けた。

 

「お前はこのまま捜索を続けろ。ミラーモンスターでもあるお前なら、まだ動けるだろう」

「……あぁ、分かった」

 

そう言うとリュウガもこの場を後にした。

そしてオーディンは自分の現実世界へ帰る為の鏡へと歩み寄りながら誰にでも無く呟いた。

 

「まさか神童の与えた力でミラーモンスターをライダーに変えるとはな…だがそのおかげで我々の中でも最強の力を持っている。神埼(かんざき)もさぞ驚いているだろう……」

 

やがてオーディンは鏡の中へ吸い込まれて行くようにミラーワールドから消えた。

説明
今回の話で、歩達がいる世界があくまでリイマジネーションの世界であることを表現するため、独自の解釈を用いております。
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