仮面ライダーディージェント 第10話:食卓戦争のち、思わぬ協力者 |
「ウマッ!?お前の作ったチャーハンウマいな!」
「それはどうも」
「それにしても、二人とも料理上手いね……」
現在、亜由美達は真司が元居たマンションの一室(今は歩の移住先)で夕食を取っていた。
そこで歩が作ったチャーハンと、真司が作った餃子を食べているのだが、どちらもかなりの絶品だった。
一応、歩が料理を作れる事はもと居た世界で尾行した時に大体察しはついていたが、まさかここまで上手いとは思いもしなかった。しかも真司まで上手いとは……女性としての尊厳を失いそうだった。
「そういや、何でお前、俺が餃子作れる事知ってたんだ?」
「さっきも言ったと思うけど、僕は『オリジナル』…つまり並行世界の君の情報をある程度持っている。その情報の中に『餃子を作る腕は一品』っていう情報が入っていたからね。それで一度食べてみたいと思ってたんだ」
「やっぱもう一人の俺も、餃子作るの上手いんだな……」
「って言うか、まず歩がそんなに食通だとは思わなかったんだけど……」
亜由美の言う通り、既に歩は真司の作った餃子の大半を食べていた。その顔でグルメとか…違和感あり過ぎなんですけど……。
「人を見かけで判断しちゃいけないよ」
「ってまた人の心を勝手に読むなあぁぁぁ!!」
「あんたら仲良いなぁ〜。…ってアレ?あんたら兄妹なんじゃないのか?何か亜由美ちゃん、さっき知ったみたいな事言ってたけど……」
「え?え〜とぉ…それはぁ〜……」
「あぁ、確かに兄妹とは言ったけど、本当に兄妹ってわけじゃないよ。彼女は僕の異次元同位体…つまり並行世界のもう一人の僕なんだよ。でもそんな事言っても変な目で見られるだけだから、当たり触りのない兄妹って事にしてるんだよ」
「ってそんなアッサリとバラしちゃいます!?それから歩!さっきから真司さんの餃子取り過ぎ!私にも回してよ〜!!」
歩は説明しながらも、真司の作った餃子の入った大皿を現在進行形で絶賛独占中だった。
それに対して亜由美がとうとう強行手段に入り、餃子を奪取しようとするが、亜由美が箸で掴んだ最後の餃子を歩も箸で無表情のまま掴み、そのまま両者睨み合い、拮抗状態に陥った。
「あの〜、良かったらおかわり作ろうか?明日の分の作り置きもあるし……」
「あぁ、お願いね」
「って歩、まだ食べる気ですか!?よくそんなに食べて太りませんね!?」
「僕は太りにくい体質なんで」
「この乙女の敵ぃ〜!!」
仲の良い兄妹ゲンカをBGMに真司は再びキッチンに立ち、餃子を焼き始めた。
「それで、これからどうするかなんだけど、まずはそれぞれのライダーにコンタクトを取ろうと思うんだ」
夕食を食べ終え、更に食器洗いも済ませた頃 (因みに食器洗いは亜由美が担当だった) 、歩がそう淡々と話を切り出した。
その理由としては、まずディージェントである歩がライダー達と交戦する事により、ディージェントドライバーから送られてくるそのライダーの情報と照らし合わせて、何処に『歪み』があるか調べるとの事だ。
『セカンド・オリジナル』であるこの世界であれば、『オリジナル』とほぼ同じ歴史を辿っているので、『歪み』があればすぐに分かるらしい。
「なぁ、それって俺も来た方が良いのか?」
「そうだね。流石に僕でも多対一で挑まれたらかなり厳しいからね。少しでも戦力が多いに越したことはないよ」
真司の質問に歩はアッサリと肯定すると、更に続けた。
「詳しい作戦についてはまたその時にでも話すよ」
「それって単に決まって無いんじゃないの?」
「そうとも言う」
「そんなにサラッと認めないでください!悲しくなってきます!!」
「でも、無駄に作戦が合っても邪魔になるだけだしね。相手がどういう手を使ってくるかも分からないし」
「まぁ、それもそうだけど……」
歩の曖昧な回答に亜由美は茶々を入れると、歩は何も隠すことなくハッキリと無計画と言ってしまう。
そんな想定外の返答に思わずツッコミを入れてしまうが、正論を言われて言い返せなくなってしまった。
そこで真司が手を上げてある提案をしてきた。
「なあ、こう言うのはどうかな?ライダーの何人かを仲間に引き入れるとか」
『………』
「あ、あれ?ダメだったか?」
真司の言っている事は確かに戦力の増加に繋がるが、この『ライダーバトル』に参加している者たちは自分の私利私欲のために戦っている者が殆どだ。そんなライダー達が今は戦うことを決めているが今日まで『ライダーバトル』を止めようとしていた危険分子に付くとは到底思えない。
「あの〜真司さんってまだ『ライダーバトル』を止めようとしてるとかって思われてるんじゃ……?」
「それに自分から『ライダーバトル』を止めないと宣言しても信じてもらえないだろうしね。少なくともあの中に自分の“願い”を放棄してまでこちら側に付くような人間がいるとは……」
「いや、ここにいるよ」
『!?』
声の聞こえた方向を三人が振り向くと、玄関の前で立っている深緑色のビジネススーツを着たインテリ風の男が立っていた。その男はどこかキザな印象の口調で更に続けた。
「あのねぇ、何そんなに驚いちゃってんの?ちょっと前まで住んでた家を調べるなんて、このスーパー弁護士・北岡(きたおか)秀一(しゅういち)にとっては朝飯前なの」
「き、北岡さん!?」
「え、誰!?」
「少なくとも、仮面ライダーであることは間違いないね」
「ご明答。アンタがあの青黒?そんなに強そうには見えないねぇ〜」
歩の推察に簡単に答えながらそのインテリ風の男…北岡は懐からある物を取り出した。
その取り出された物は緑色のカードデッキで、中央には牛の意匠が施されている。
まさしくこの世界のライダーの証であるカードデッキだ。
歩は立ち上がって無表情のまま北岡に近づいて行った。
「お?何、やる気かい?悪いけどそんなつもりはこっちには無いんだよねぇ」
「いえ、そうじゃありません。少しそのデッキを触らせてもらっていいですか?」
「へ?」
北岡が返事を返す前に、歩がそのカードデッキに一瞬だけ軽く指先で触れてからそのまま離れると、衝撃的な発言をした。
「仮面ライダーゾルダ、装着者は北岡秀一…“願い”は不老不死になって自分の不治の病を治す事…ですね?」
「な、何でそれ知ってんの!?その事はウチの秘書しか知らない筈なのに…!?」
「僕はそのライダーにコンタクトを取ればその人物の事は大体分かるんです。それで、何故僕達に協力しようと?そちら側が有利な筈ですが……」
淡々と感情の篭っていない声色で答える歩に、一瞬僅かながら恐怖を覚えた北岡であったが、気を取り直す為に軽く咳払いをすると、その理由を話し始めた。
「そりゃあ、君みたいに強いライダーがいるからに決まってるでしょ?それに君、何か“願い”を叶える為に『ライダーバトル』に参加してるわけでもなさそうだしね」
北岡の言い分だとこう言う事だ。
他のライダー達とはあくまで「ライダーバトル」を止めようとするナイトを倒す為だけに徒党を組んでいるだけで、ナイトを倒せばその後は敵同士になる。
それならば、あの王蛇をも圧倒する実力を持ち、尚且つ「ライダーバトル」に興味のないディージェントに付いて他のライダーを減らしてもらった方が効率が良いとの事だった。
所謂(いわゆる)、“漁夫の利”である。
「オーディンや王蛇なんかと戦うのは骨が折れるからねぇ」と付け加えながら説明する北岡に、歩は「そうですか」と素っ気なく返し、別の質問を始めた。
「確かに僕は“願い”なんて興味ありませんし、あくまでイレギュラーの排除が目的です。そのイレギュラーがライダー達の中に紛れ込んでいるのは確かなんですが、貴方は違うようですね。先程のコンタクトで分かりました」
「イレギュラー?そんなのがいるの?」
「ハイ。そのイレギュラーの所為で大変な事になるかもしれないんです。何か心当たりはありませんか?」
二人の問答を後ろから見ながら亜由美と真司は頭を抱えていた。
北岡の突然の協力やら不治の病やらは勿論だし、歩の順応力の高さの所為で話に上手く付いて行けてないのだ。
そんな二人に気付かず、北岡は何か心当たりがないか考えている様だが、やがて何か思い出したのか答え始めた。
「そう言えば、あの黒い龍騎は今日初めて見たなぁ」
「黒い龍騎…ですか?」
「そっ。ライダーってのは皆個性的な格好してんのに、あのライダーだけはまるで龍騎の模造品みたいな感じだったから…もしかしてそいつがイレギュラーってヤツじゃないの?」
「成程、そうですか……」
そう呟くと歩は後ろで未だ後ろで頭を抱えている二人の方を振り向き、ついさっき思い付いたであろう作戦を声高らかに宣言した。但し、抑揚のない淡々とした口調で……。
「よし、それじゃあまずは黒い龍騎から探って行こうか」
「いや、その口調でその台詞はどうなんだよ……」
「多分、あれでも元気一杯に言ってるつもりなんだと思いますよ?」
歩の妙なテンションに二人は溜め息を吐きながら今後の展開に一抹の不安を覚えていた。
因みにその後、北岡が「今日の終電終わっちゃったから泊めて。それも最高級のベッドで」などと実に図々しい事この上ない態度でのたまってきたが、それを亜由美と真司が全力で拒否し、北岡は近くのホテルに泊まる事になったという。
翌朝……
真司と歩は身支度を済ませると、北岡と事前に話しておいた集合場所に向かう事になった。
因みに亜由美は留守番だ。その理由は……
「それじゃあ行ってくるけど、あまり外に出ない方が良いよ。関係者と分かったら人質にしようとするライダーが出てくるかもしれないからね」
「家から出る前の開口一番がそれですか!?」
「いきなり物騒だな歩は!?」
と言う理由からだ。
軽い漫才(?)が入ったものの、二人はマンションを後にした。
「それにしても大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、何がって…これから北岡さんと合流するんだろ?そこで他のライダーが待ち伏せしてたらどうするんだよ?」
「その心配はないよ」
「どうして?」
真司は罠を張っているかもしれないと警戒していたが、歩は一切気にしていない様子だった。
歩はその理由を淡々と答えて行った。
「まず集合場所はどこだったか覚えてるよね?」
「あぁ、確か今結構人気の喫茶店だろ?それがどうしたんだ?」
「人気があると言う事は人の目が多いという事。そして仮面ライダーの存在は公(おおやけ)に曝してはならないという暗黙のルールがある。つまり一般人の多い場所でライダーに変身して襲い掛かって来ると言う事はまずないという事だよ」
「な、なるほど……」
などと話し合いながら歩いていると目的の喫茶店に辿りついた。窓側の席には既に北岡が座っており、こちらに気付いたのかキザッたらしく手を振っていた。正直なんかムカつく素振りだった。
店内に入り、店員に待ち合せの旨を伝えると北岡の席まで案内された。
「やあ、待ってたよ。別に罠とかは張ってないからそんなに警戒しなくて良いよ」
「本当だろうな…?」
「間違いないよ。近くにライダーの気配はしないからね」
未だに警戒する真司だったが、歩はそんな気は全くない様だった。
「へぇ〜、あんまり警戒してないんだねぇ〜。俺の予想だと君には結構怪しまれてると思ってたのに……」
「こんな裏切り行為に近いのを覚悟の上で近づいてきたという事は、少なくとも協力すると言うのは本当の様ですしね」
「成程、かなり頭が回るみたいだね。やっぱりこっちに付いて正解だったかな」
席に付きながら歩は淡々と説明するが真司はどうにも腑に落ちなかった。
(でもコイツ…蓮を殺そうとしてたんだよな……そんな簡単に信用しちまっていいのか?)
前のナイト装着者・秋山蓮は自分と一緒にいた為に裏切り者として殺された。
その中にはこの目の前の男も含まれ、当の本人は何の罪悪感もなくキザッたらしくコーヒーを飲んでいる。
そんな事を思っていると、「さてっと……」と言いながらコーヒーカップから口を離し、話を切り出した。
内容はあの黒い龍騎の事の様だ。
「今朝、軽くナイトと青黒の捜索について他のライダー達と集会を開いてたんだけど、やっぱりあの黒い龍騎だけは素性が掴めなかったよ。他の奴らだったらちゃんと変身者の顔は分かるのにそいつだけは何も分からなかったし、他の奴らも知らないみたいだったね」
「そうですか」
「何、その反応?もうちょっと愛想良くしようとか思わないわけ?」
「僕は感情表現が希薄なんでこれくらいの反応しかできないんです。それで、他に分かった事はありますか?」
歩の素っ気ない態度に北岡は眉に皺を寄せるが、すぐに諦めてもう一つ判明した事を述べた。
「ま、いいけどね。それで後分かった事なんだけど、どうもその黒い龍騎はオーディンと一緒にいる事が多いみたいだよ?」
「オーディン?どんなライダーですかそれは?」
「アレ?知らないの?鷲みたいな金ピカのライダーだよ。そしてそのオーディンってのがリーダー格なわけ」
「リーダー格……」
そう歩が呟くと、何やらぶつぶつと独り言を呟き始めた。
「細工」だの「神童」などと言った単語が聞こえてきたが、一体何を考えているのか分からなかった。
だが、そんな歩の思案も中断せざるを得ない事態が起きてしまった。
――――キイィィィィン……――――
『ハッハァッ!見つけたぞ北岡ぁ!城戸ぉ!そんでそっちのヤツは青黒だなぁ!?会いたかったぜえぇぇ!!』
「な!?まさか、今の声って…!」
「どうやら、勘付かれていたみたいですね……」
「あっちゃあ〜…まさか、こんな堂々と奇襲を掛けてくるとはね〜。コイツの事舐めてたよ」
突如耳鳴りと狂気を孕んだ叫びが聞こえ、その音が聞こえて来たであろう外…否、窓ガラスを見ると、窓ガラスの鏡面化した部分に王蛇と紫色の巨大なコブラ型ミラーモンスター・ベノスネーカーがこちらを見ていた。
ベノスネーカーは王蛇の契約モンスターだ。そしてそのミラーモンスターが強ければ強いほど、ライダーも強くなる。
王蛇の実力からして、このベノスネーカーはかなり上位のミラーモンスターだ。
『いいからお前らもこっちに来い!楽しい祭りの始まりだあぁぁぁぁぁ!!』
そう叫ぶと同時にベノスネーカーが真司たちをミラーワールドへ引き摺り込もうとガラスの中から飛び出してきた。
その一連の状況を見てしまった客や店員はパニック状態になり、店内は騒然となってしまう。
「でもお断りします」
『ジャオォォォ!?』
『あ゛ぁ?』
「な、何だこれ!?」
「これ、ひょっとしてアンタがやったの?本当に人間?」
「一応これでも人間です」
「“一応”って何だよ“一応”って!?」
しかし歩が感情の篭っていない声で呟くと、真司達とベノスネーカーの間にドロリと灰色に濁った板の様な物が現れ、ベノスネーカーはその板に思いっきりぶつかってしまった。
歩の存在が最早、人間かどうか怪しむレベルになってしまったが……。
『チッ!俺をイライラさせるなぁぁぁ!!』
そう叫びながらベノスネーカーを一度引き戻すとそのまま勢いを付けて灰色の板に突っ込ませて来た。
すると灰色の板に徐々に罅が入り始めてきた。
「拙(まず)いですね。次元干渉の演算がこちら(現実世界)とあちら(ミラーワールド)で違うからこのままだと防ぎきれません」
「こりゃあ早く逃げた方が良いね」
「お、おい!ここにいる人達はどうするんだよ!?」
真司の言う通り、ここには未だパニックに陥った人達がいる。
相手はあの浅倉威だ。下手をすればここにいる人達にも襲い掛かって来るかもしれない。しかもこうも切羽詰まった状況では避難させる事も難しい。
「ハァ…分かったよ。協力するって言っちゃったしね……。それじゃあお願いしますよ、先・生?」
「先生って何ですか?それにあまり期待しないでくださいよ?」
「え?え??」
すると北岡が軽く溜め息を吐きながら懐からカードデッキを取り出した。
それに倣(なら)って歩も手元に出した小さな灰色の板からこの世界のライダーの物とは違うバックルと、一枚のカードを取り出した。
突然の二人の戦闘態勢に付いて行けなくなってしまう真司だが、二人に声を掛けられてようやく付いて来れた。
「ちょっと、言い出した本人が何ボケっとしちゃってんの?コイツ倒すんでしょ?」
「このまま逃げれば被害が広がる一方だからね。黒い龍騎の前に、王蛇を倒すよ?」
「……ッ!お、おう!!」
真司と北岡が灰色の板越しに王蛇のいる窓ガラスにデッキを向けてVバックルを出現させて装着し、歩がバックルを腹部に宛がうとバックルから帯が伸びて腰に巻き付き、ベルトを形成させると、バックルの持ち手部分を引っ張った。
「僕が変身したらこの次元断裂も壊れるから気を付け下さいね」
「ふ〜ん、次元断裂って言うんだね、この壁。ま、どうでもいいけど」
(蓮…頼む、一緒に戦ってくれ!!)
『変身(!!)』
[カメンライド…ディージェント!]
真司はデッキに想いを込めながら共に闘う二人と言い所にライダーに変身した。
友の答えを、見つける為に……。
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今回微妙にギャグ回です。 | ||
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