王蛇との戦闘を終えた後、真司達は一度現実世界に戻り、人気のない裏道を歩いていた。

「それで、これからどうするの？」

「黒い龍騎を探します」

「どうやって？」

「決めてません」

「おいっ！それじゃあ探しようがねぇだろ！？」

歩のまさかのノープラン宣言に真司は思わずツッコミを入れてしまった。

自分は何時の間にツッコミが定着してしまったのだろうと心の奥底で思っていたりしたが、考え出すと埒(らち)が明かないので深く考えない事にした。

「でも、何の意味もなくこんな所を歩いてるわけじゃないよね？」

「え？」

「まぁ、そうですね」

「お、おい！二人とも、俺にも分かる様に説明してくれよ！！」

真司はもう何度目になるか分からない会話の置いてきぼりにされ、またもやツッコミを入れてしまった。

正直もう泣きたい。

そんな真司を見て北岡は深く溜め息を吐き、歩は頭をガリガリ掻きながら何から話すか考えている様だった。

「ハァ〜、まだ分かんないの？何の為にこんなところほっつき歩いてると思ってんの？」

「ん〜確かに黒い龍騎を探す方法は決まってないけど、ライダー達を見つける方法は分かっているからね。今はそれを実際にやってるんだよ」

「へ？」

つまり二人の説明によると、あえて人気のない場所を歩いてライダー達に自分たちを襲わせるようにおびき出すそうだ。要するに真司達は釣り針に付けた餌なのだ。

その餌に黒い龍騎が喰い付いてくるかどうかは分からないが、その餌に喰い付く可能性は高い。

「でも、それだと残りのライダー全員で襲いかかってくる場合もあるんじゃないか？」

「十中八九そうなるね」

「おいっ！それじゃあヤバいだろ！？」

「でも、あっちはさっき追っ払った浅倉を除いて後四人。それに、こっちにはコイツがいるし、大丈夫でしょ？」

「そんなに期待しないで下さいよ？さっきだって結構危なかったんですから」

「いやいや、あんなにヒョイヒョイ避けててよくそんな事言えるね」

真司は流石にこちらの方が不利なのではないかと思ったが、それは北岡の一言で一蹴された。

“それに、こっちにはコイツがいるし、大丈夫でしょ？”

確かにコイツは強い。別の世界からやって来た仮面ライダーだ。

別の世界のライダーがどんな奴なのか聞いてみたが、「別の世界の情報はこの世界にとって毒でしかないから教えられない」と言われてしまい聞けなかったが、一つだけ教えてくれた。

“皆、何かを守るために戦っている”と……。

ひょっとしたら、そんなヒーローの様な存在こそが本当の仮面ライダーなのではないだろうか？

この世界の様にライダー同士で自分の願いを叶える為に戦うのではなく、互いに手を取り合って大切なものを守る存在こそが……。

だったら、信じてみようじゃないか。この目の前にいる何かを守る為に戦う一人である、仮面ライダーを……。

目が死んでるけど……。

「今何か、失礼な事考えなかった？」

「え！？いやいや！そんな事ないぞ！絶対！！」

――――キイィィィィン……――――

そんなやり取りをしていると、どこからか耳鳴りが聞こえて来た。

どこから聞こえて来たのか探っていると、道の端にカーブミラーを見つけた。

そして、そのカーブミラーの中には二つの白い影…タイガとファムが映し出されていた。

『どうやら、本当に裏切ったみたいですね……』

『北岡、この罪は重いわよ』

「悪いね。ここまで来たらもう後戻りができなくってね」

「どうやら二人だけみたいだね。この二人も軽く叩きのめすよ」

「“叩きのめす”って…お前本当に物騒な言い方するよな……」

二人のライダーと北岡のやり取りを尻目に、真司は無表情で恐ろしい発言をする歩に軽くツッコミと溜め息をついた。

『さぁ早くこっちに来なさい。いくら自分を弁護しても意味ないわよ』

「このスーパー弁護士でも弁護できないとはねぇ…ま、そんなつもりはないんだけどね」

『残りの二人は僕が相手をするよ…これくらい英雄には造作もないからね』

「それじゃあ、第二ラウンド行くけど大丈夫？」

「………」

「真司君？」

デッキを取り出し、戦闘準備を整える北岡を見ながら、歩は真司に問い掛けた。しかし、何の本能も帰ってこなかった事に不思議に思い、真司の方を振り向くと、何やら真剣な面持ちで俯いていた。

やがて、真司はポツリと呟いた。

「俺、やっぱり人を殺したくない……。でも、ライダーとして戦うって決めたんだ。だから決めた」

そう言って真司は顔を上げて歩の方を見た。その目は虚ろだが、その心はきっと真司と同じ信念を持っているのだろう。目の前のライダーも、何かを守る為に戦っているんだ。だったら自分だってできる筈だ。

「俺は人を守る為にライダーとして戦う！そしてその為だったら、ライダーを守ったっていい！！それが…俺の見つけた答えだ…！」

人を守る為に戦う…これこそが蓮の代わりに見つけた答えだ。

「そうか…それが君の見つけた答えなんだね」

「ああっ！！」

真司には歩が一瞬だけ微笑んだ様に見えた。今は既に何時もの無表情に戻っているが、そんな気がした。

そして歩がカーブミラーを見ながら灰色の板の中からバックルとカードを取り出し、もう一度訪ねて来た。

「それじゃあもう一度聞くけど、準備はいい？」

「おう！」

そう力強く返事をしながら、真司もデッキを取り出し、カーブミラーに翳してＶバックルを装着した。

『変身(！！)』

［カメンライド…ディージェント！］

三人はライダーに変身し、再び激戦の地・ミラーワールドへと入っていった。

場所は変わり、ミラーワールド内の何処かの工場跡地……

「ぬぐおぉあぁぁぁ！？」

「どうした？もっと遊ぶんじゃなかったのか？」

ディージェント達三人がタイガ・ファムと戦闘を繰り広げている頃、王蛇は龍騎に酷似した黒いライダーと戦っていた。

王蛇がベノサーベルで斬りかかろうとしたところ、この黒いライダーにカウンターを喰らって殴り飛ばされてしまったのだ。

先程から何度も攻撃を仕掛けようとしたのだが、この黒いライダーは最低限の動きだけで避け、王蛇の隙だらけになった身体を蹴る、殴るなりして反撃の隙を一切与えなかったのだ。

王蛇は積まれた機材の瓦礫に埋もれてしまっていたが、その中からゆっくりと起き上がり首をグルリと回すと、仮面の奥で凶悪な笑みを浮かべた。

「ここだ…俺が求めていた祭りの場所は…ここだあぁぁぁ！！ハァハハハハハァッ！！」

王蛇は狂喜した。やっと見つけた自分の居るべき戦場(まつり)を見つけた事に。

彼の言う祭りとは、狂気に満ち溢れた戦場の事である。ここはまさにそれなのだ。

圧倒的なまでの力の差。それはあの青黒いライダーと戦っていた時にも感じていたが、狂気が全くと言っていいほどなかった。あれでは自分の求めていた祭りとは言えない。

だが、ここはどうだ？目の前の敵は自分よりも強大な力を持ち、尚且つ純粋に自分を殺そうとしている。

この様な場所が今まであっただろうか？いや、人生で最初で最後になるかもしれないほどの…祭りだ！

「ハッハァ！！さぁ、もっと来い！！最高の祭りの始まりだあぁぁッ！！」

［ファイナルベント］

王蛇は「ファイナルベント」を発動させ、ベノスネーカーを背後に、黒いライダーに特攻して行った。

それを見ていた黒いライダーはデッキから一枚のカードを取り出し、やはり龍騎の召喚機に酷似した籠手型の召喚機にカードを装填した。

［ファイナルベント］

その電子音声は通常の物より低く、くぐもった声であったが今の王蛇にとってはどうでもいい。

黒いライダーの背後に龍騎の契約モンスター・ドラグレッダーを漆黒に染めた様なミラーモンスターが現れ、黒いライダーの周りを囲む様に飛び始める。すると、黒いライダーが浮かび上がり、その両足には黒い炎が燃え盛っている。

王蛇は黒いライダーとの距離を半分ほど縮めたところで後ろに一回転しながらジャンプし、ベノスネーカーの目の前まで来たところで、ベノスネーカーが毒液を王蛇にに向けて大量に吐き出した。

「ファイナルベント」の効果によって、毒液の体制が極限まで高まっている為、自分がダメージを喰らう事はなく、逆にその毒液を利用してその吐き出した激流に乗って黒いライダーに連続蹴り・ベノクラッシュを放った。

同じく黒いライダーの方も、飛び蹴りの体制を構えた途端、黒い龍が黒いライダーの背後から黒炎を吐きだし、その勢いに乗ってこちらに迫って来た。

ここで自分が勝とうが負けようがどうでもいい…この祭りを楽しめたのならば、その後はどうなってもいい…！

王蛇と黒いライダーの蹴りがぶつかり合った瞬間、そこで王蛇…浅倉威の意識は途絶えた。

「はぁっ！やぁっ！」

「うわっ！ちょ、ちょっとタンマ！せめて距離くらい取らせてよ！」

「うるさい！」

人気のない裏道を映し出したミラーワールドの中では、ゾルダ達三人と二人の白いライダーが戦っていた。

現在ゾルダはこの目の前にいる唯一の女性ライダー・ファムと戦闘を行っているのだが、ファム専用のレイピア型召喚機・ブランバイザーでこうも連続突きを繰り出されていては、中々距離を取れない。

ゾルダは狙撃特化型ライダーだ。その為強力な砲撃を撃ち出す事には長けているのだが、接近戦に於いてはどうしても他のライダー達に劣ってしまう。

対して、ファムはパワーは低いものの、その軽いフットワークによるヒット＆アウェイによる戦法を得意とするバランス型ライダーだ。

このままでは相性が悪いので残りの二人と交代して欲しいのだが、二人も目の前の一人…いや、一人と一体に苦戦しているようだった。

「フッ！ハッ！」

「うおっ！？ちょ、アブなッ…！」

『グルオオォォォッ！！』

「……攻撃が不規則過ぎて読めない」

ナイトとディージェントはタイガとの戦闘を有利に進めて行ったのだが、タイガに「アドベント」のカードを使われた事で形勢が逆転してしまった。

「アドベント」のカードで呼び出された、タイガをそのままミラーモンスターにした様な契約モンスター・デストワイルダーが加わり、さらにそれがディージェントに襲い掛かって来た事で劣勢になって来たのだ。

ディージェントは先程の王蛇との戦いの時に知能の低い相手の動きを予測できないと言う弱点がある事をナイトは知っている。しかもあれほど猛攻されてはカードを取り出す暇もないだろう。

せめて自分があの契約モンスターの相手をすれば何とかなるのだが、タイガはその事を知ってか知らずか、ストライクベントで装着したデストワイルダーの両腕を模したクロー・デストクローで猛攻を仕掛けてくるのでなかなかチャンスを窺えない。

「歩！何かいいカード持ってねぇのかよ！？」

「あるにはあるけど、そのカード使ったら、真司君も巻き込むよ？下手したら、消し飛ぶかも……」

「どんなカードだよそれ！？お前って本当に物騒の塊だな！？」

「ほらほらどうしたの！？僕の英雄としての礎になりたくなった！？」

「しま…ぐわあぁぁぁっ！！」

ナイトがディージェントに何かないかと攻撃を避けながら訊ねてみたが、またもや物騒な単語が飛び出して来てついツッコンでしまった。その隙を突かれてタイガのデストクローの攻撃に直撃してしまい、ディージェントから更に距離が離れてしまう。

ゾルダから援護してもらえばこの状況を打破できるのだが、あちらも相当拙い状況に陥ってしまっている。

「だぁーもう！せめて、人手が増えれば……って、ん？人手…？そうか！このカードがあった！」

立ち上がりながら、ない物強請(ものねだ)りをしていると、あるカードの存在を思い出した。

すぐさまタイガが再び迫って来る前にそのカードをデッキから引き抜き、ダークバイザーに装填した。

［トリックベント］

タイガの攻撃が直撃する寸前、ナイトの身体が二つに分かれた。

「何！？」

タイガが狼狽している間にもそこから更に分裂して四体になり、更にもう一度分裂して八体になった。

「トリックベント」の効果は自身の分身体を作り上げる事。しかもその作り出せる分身は全部で七体。これで数の上ではこちらの有利だ。

八体のナイトはそれぞれ、タイガに四体、デストワイルダーに二体、ゾルダと戦っているファムに二体襲い掛かった。

「そう言えば、そんなカード持ってたの忘れてたよ」

『ってあるのかよ！？』

ディージェントは今思い出したのか二体のナイト(そのうち一体は本体)にデストワイルダーを抑えてもらっている隙に一枚のカードを取り出し、二体のナイトによるダブルツッコミを余所にバックルに装填した。

［アタックライド…イリュージョン！］

「何…？キャッ！？」

「お？へぇ〜中々変わった『トリックベント』だねぇ」

電子音声名鳴り響くと、ディージェントの身体から灰色のテレビのノイズの様なものが飛び出し、それがファムに激突すると、徐々に形を成して来てディージェントの姿となり、ゾルダと二体のナイトと共に応戦し始めた。

「『トリックベント』まで持っていたのか……」

そう言いながらタイガがこちらに歩いて来た。如何やら四体もいたナイトの分身体はやられてしまったようだ。

いくら分身体が本体よりは弱いと言えど、あの数を相手に勝つという事はかなりのものだろう。

「厳密には少し違うけど、その解釈で大体合ってるかな？」

そう言いながらディージェントはグローブを強く嵌め直す仕草をしながらタイガの前に立った。

「それじゃあそのミラーモンスターの相手を頼むよ」

「っしゃ！任せろ！！」

「さっきまで僕の契約モンスターに押されてた君が、僕に勝てると思ってるの？」

「まぁね。少なくとも、負けるつもりはないよ」

「言ってくれるね、英雄になるであろう僕に……」

ディージェントはデストワイルダーをナイトに任せ、タイガの前に立ち塞がった。

タイガは先程まで自分の契約モンスターに負けていたディージェントに軽い挑発をするが、ディージェントの挑発をものともしない淡々とした口調に、タイガは静かに怒りの炎を燃やしている様だった。

「さっきから気になってたんだけど、どうしてそんなに英雄になりたいの？」

「君には関係ないさ。そもそも、それが人に物を尋ねる言い方？」

「僕って感情表現が苦手だからこれくらいの言い方しかできないんだよね」

「…その減らず口、今すぐ叩き直して上げるよ！」

そう言ってタイガはディージェントにデストクローによる攻撃を仕掛けたが、その特攻を軽く受け流し、そのままタイガの背中を抑えて、腹に膝蹴りを打ち込んだ。

「がっ…！？」

「……ハァ！」

予想外の攻撃によって蹲(うずくま)ったタイガの首根っこを持ち、更にその仮面を思いっきり殴り飛ばした。

「うわぁっ！な、何でこんなに強いんだ…！？弱い筈じゃ……」

「それは知能の低い敵が相手だった時ね。知能が低いと空間把握能力の演算から除外されちゃうから」

「クソッ！僕にも、そんな力があれば、英雄になれるのに……」

「………」

タイガのその言葉を聞いた瞬間、ディージェントの動きが止まった。

その時、ディージェントの仮面の奥の表情は完全に冷めきった物になっていた。

「……この力が本当に欲しいと思ってるの？」

「ウンそうだよ！！その力さえあったら僕も君みたいな英雄に……」

［ツールライド…アンチ・キル！］

［アタックライド…スラッシュ！］

ディージェントは二枚のカードを連続で発動させながらタイガに歩み寄り、タイガが言いきる前に手刀で思いっきり斬り付けた。

「うぐあぁぁぁっ！！」

「……何で、そんなに強くなろうとするんだい？それに僕は英雄なんかじゃない」

「ひっ！？」

タイガはこの目の前にいる見た事のないライダーに恐怖を覚えた。

間違いなく、このライダーは怒っている。自分の力を欲しがったことに……。

しかし、それはその力が必要だからと言った感じではない。まるで自分の力が好きじゃない(・・・・・・)かのような感じだった。

ディージェント…歩には理解できなかった。そこまで強くなって何がしたいのか。無駄に力があったから、自分の世界を壊してしまったのに……。

ホントウハ、コンナチカラナンテイラナカッタ……。

「うああぁぁぁ！！」

ディージェントは無言で更に蹴りによる斬撃を浴びせ、タイガを吹き飛ばして距離をとった。

「とにかく、君にはこの力どころか、そのライダーの力は大きすぎる…ミラーワールドから出て行ってもらうよ」

［ファイナルアタックライド…ディディディディージェント！］

電子音声が鳴り響き、タイガの身体をビジョンに拘束させて身動きできなくした。

「ま、まさか…『ファイナルベント』！？イ、イヤだ…まだ、僕は英雄になれてない…！」

「僕には何故そこまで英雄になろうとしているのか分からない……」

「え、英雄になれば、皆僕の事を見てくれる…！皆、僕を好きになってくれるんだよぉ！！」

「好きになる、か………意味が分からない」

そう冷淡に呟いて左指をクイッと招く様に動かした。それに応じる様にビジョンがタイガを磔にしたまま此方に迫って来る。

「フゥゥゥ…ハ」

「やめろ！歩！！」

「ッ！？」

突然、身体の動きが止まった。構えた手刀は既に突き出した状態になっており、その手刀の数センチ先にはタイガのカードデッキがあった。そしてビジョンもディージェントの動きに合わせたかのようにそこで止まっていた。

徐々に頭が冷えて来たのか、タイガをよく見てみれば灰色になっており、形状も質素なものに変わっていた。

恐らくナイトがタイガの契約モンスターを倒した事で力を失ってブランク状態になったのだろう。

「どうしたんだよ歩！今のお前、何か変だったぞ！？本当にミラーワールドから追い出すだけだったのか！？」

「………」

ディージェントは何も答えられなかった。本当に自分は殺さないつもりだったのか？

気が付けば「アンチ・キル」の効果が何時の間にか切れていた。いや、“切っていた”の方が正しいのだろう。

だとしたら、自分は本当に……？

「……一度、帰る」

「あ！おい待て、歩！！」

踵を返して、ミラーワールドから出て行こうとするディージェントをナイトが呼び止めるが、全く反応せずどこか覚束無い足取りでフラフラと歩いて行く。

「ファイナルアタックライド」の効果を解除してビジョンを消すと、タイガは支えを失った様にバタリと倒れてしまった。先程攻撃が当たる直前にショックで気絶してしまったのだろう。

「東條(とうじょう)！？ちっ、どきなさい！」

「うおっと！？」

「東條、大丈夫！？くっ、ここは一先ず退かせてもらうわ！」

ファムがゾルダとの戦闘を中断してタイガに駆け寄って来て、様子を窺うが気絶していることを確認すると、タイガを背負い、その場から立ち去って行った。

女性型ライダーと言えども、スペックは大の大人のそれを優に超えるからこそできる芸当だ。

「ねぇ、一体どうしちゃったの？アンタの分身がいきなり消えるし、アンタがタイガを殺そうとしてるし、黒い龍騎以外に用はないんじゃなかったの？」

「………」

ゾルダがディージェントに近寄って話しかけるが、一切耳を貸す事はなくゾルダを素通りして行った。

「ちょっと、無視してないで何か言ったらどう……」

「待ってください、北岡さん」

「何よもう、一体どうしちゃったのアイツ？」

ディージェントの肩に手を掛けようとしたゾルダをナイトが止めると、ゾルダは不満げに声を漏らすが、ナイトには今のディージェントの気持ちが何となく分かる気がした。

「多分アイツ、自分が怖いんだと思います」

「怖い？」

「アイツ本当は、誰も殺したくないんだと思います。俺と同じように……」

「ふ〜ん、成程。それで今自分が人を殺しそうになっていた事が怖いと」

「はい、多分……」

そんな話をしている間にディージェントはミラーワールドから姿を消していた。