仮面ライダーディージェント 第13話:真司と真司 |
とある廃棄工場の中……
リュウガは目の前に倒れている王蛇を何の感慨もなく見つめていた。
王蛇のバックルにセットされていたカードデッキに徐々に罅が入り、やがて「パリィン」と言う音と共に砕け散り消えてしまった。
それと同時に王蛇の纏っていた装甲も同じ様に砕け散り、装着者であった浅倉威がその姿を見せた。
その身体からは粒子が噴出しており、徐々に浅倉威の質量を失わせて行く。
その顔には苦悶の色は一切映っておらず、逆に清々しい顔で目を閉じていた。
やがて完全に浅倉威の存在が消えると、リュウガはポツリと呟いた。
「まだだ…俺はもっと強くなれる……。その為には、アイツの身体が必要だ……」
そこで言葉を区切って踵を返すと、リュウガはその名を口にした。
「城戸真司……」
亜由美はこの世界の移住先であるマンションで一人、留守番をしていた。
特にやる事もないので部屋の掃除をしていたら、玄関のドアがガチャリと開いて歩と真司が入ってきた。
「あ、歩、真司さん、おかえり〜」
「あ…おう、ただいま……」
「………」
「アレ?歩、どうしたの?」
歩の様子がどうも変だった。見た感じは普段と大差ないのだが、何処か元気がないというかそんな感じだ。
「………」
「あ!ちょっと!無視しないで……」
「あ〜!今日は亜由美ちゃんの作ったチャーハンが食べてみたいな〜!取り敢えず作ってよ!」
亜由美は何があったのか聞くが全く耳を貸す様子もなく無視し、それにカチンときて文句を言おうとしたが、真司がと何やら慌てた様子だったが夕飯の準備を頼み込んで来たので、とりあえず歩への尋問は後にして今日の夕飯を作る事にしたが、夕飯を作っている間も歩はどこか変だった。
帰って来てからずっと壁の方を向いて何故か体育座りをしているし、時々何やらボソボソと囁いていたが小さすぎて聞き取れない。
夕食の時も、昨日まで真司の餃子を独占していたと言うのに、今回はチャーハンだけをチビチビと口にしているだけだった。
これはまさしく異常だ。
「あの…真司さん、歩どうしたんですか?」
「あぁ、それがさ……」
真司はその時の事を思い出しながら亜由美に語った。
ディージェントがタイガと戦闘をしていた頃……
[ソードベント]
[ソードベント]
『うおりゃあぁぁぁ!!』
『グガウゥゥ!?』
二体のナイトはウイングランサーを装備し、デストワイルダーを圧倒していた。
ナイトの現在の装着者である真司は決して弱いわけではない。ただ人間(ライダー)と戦う事が嫌いなだけで、その実力は世界の脅威であるミラーモンスターとの戦いにおいてこそ本領を発揮するのだ。
「っしゃ!これで止めだ!」
[ファイナルベント]
[ファイナルベント]
ナイトがカードを一枚カードを引き向いてダークバイザーに装填させると、分身体のナイトも同じようにカードを引いて装填させていた。
するとナイトの契約モンスター・ダークウイングが飛来し、更に「トリックベント」の影響を受けて二体に分裂した。
『ハアァァァァ……』
二体のナイトがデストワイルダーに二方向から駆け出し、その背中にそれぞれ分裂したダークウイングが張り付き、マント状に変化する。
『タアァァァァ!!』
『グガアァァァァッ!!』
マントに変化した所で大きくジャンプし、ウイングランサーを相手に向けて高速で落下していく。
それを避けようにもナイトの連続攻撃で身体が思うように動けないデストワイルダーは二方向から迫りくるナイトの必殺技…「飛翔斬」に直撃してしまい、爆散した。
『っしゃ!!』
そう掛け声を上げてガッツポーズをすると丁度「トリックベント」の効果が切れたのか分身体がまるで鏡が砕けたかのように姿を消した。
その同時刻……
[シュートベント]
「二人の分身体、消えたくなかったら避けてね」
「はい」
「えぇ!?ちょ、北岡さん!?」
「へ?ってどわあぁぁ!?」
「きゃあぁぁぁ!!」
ナイトとディージェントの分身体の計三体がファムの動きを止めている内にゾルダは「シュートベント」を発動させてギガランチャーを装備し、分身達の退避も待たずに砲撃を放った。
ディージェントの分身体は事前に分かっていたのか既に射程範囲外に退避しており、残りのナイトの分身体の内の一体が射程範囲から逃げ切る事が出来ずにファム共々喰らってしまい、消えてしまった。
「ちょ、北岡さん、酷いじゃないですか!!俺の分身、一体当たりましたよ!?」
「ちゃんと警告したでしょ?」
「だからってあんなすぐに撃ちます!?それと歩!お前始めっから分かってただろ!?」
「もし避けれなくても、分身体だから大丈夫だと思う」
「コ、コイツ等冷たい……!」
どちらの分身体も意識は本体と繋がっているので本人と大差ない筈なのにこの二人(ディージェントの分身体含む)の余りの冷たさに思わず泣きそうになった。
するとそこでナイトの分身体が消えた。どうやら「トリックベント」の効果が切れたようである。
「お、どうも城戸の方は終わったみたいだねぇ」
「そのようで……っ!?」
「ってアレ?こっちも?」
突然ディージェントの分身体が何かに驚いて硬直したかと思うと、藍色のノイズに包まれ消えてしまい、ゾルダは溜め息をついた。
「ハァ〜ちょっとちょっとぉ、まだ片付いてないのにこっちも時間切れ?ホンット、今日はついてないよぉ」
「よそ見してる場合?」
「へ?うおっとぉ!?」
ゾルダが愚痴を溢している間にファムが態勢を立て直したようで再び接近戦で挑まなければならなくなったしまった。
「も〜またぁ?しつっこいなぁ……って、ん?どうやら、あっちでも何かあったらしいね」
ふと視線に何かが目に入りそちらを見ると、光の壁にタイガが張り付いた状態になっているのが目に入った。
あの光の壁はゾルダの記憶が正しければ、ディージェントの「ファイナルベント」の筈だ。
しかし、何故かディージェントは攻撃が決まる直前で固まっており、それにナイトが何やら話し掛けている様子だった。
ナイトがデストワイルダーを撃破した頃……
「歩!こっちは終わったぞ!そっちはどう…な……っ!」
ナイトがディージェントの方を振り向くと、ディージェントがタイガに止めの一撃を刺すべく、ディージェント特有の「ファイナルベント」を発動させている姿が目に入った。
タイガは契約モンスターが倒された事でブランク体になっていた。あんな状態で「ファイナルベント」を喰らおうものなら、一溜まりもないだろう。
恐らく「アンチ・キル」を発動させているとは思うが、ディージェントからは殺気が溢れている。
明らかに殺しそうな勢いだ。
「好きになる、か………意味が分からない」
ゾクリ、と背筋が凍るような冷たい言葉を吐きながら左指をクイッと招く様に動かして光の壁を引き寄せた。
間違いない、ディージェントは殺す気だ……!
「フゥゥゥ…ハ」
「やめろ!歩!!」
「っ!?」
思わず叫ぶとディージェントの手刀がタイガを刺し貫く寸前で止まり、タイガはショックで気を失っていた。
「どうしたんだよ歩!今のお前、何か変だったぞ!?本当にミラーワールドから追い出すだけだったのか!?」
「………」
ナイトは駆け寄って問い質すが、ディージェントは何も答えなかった。
まるで自分でも何をしようとしていたのか分からなかったようだ。。
「……一度、帰る」
「あ!おい待て、歩!!」
ディージェントはそう言って「ファイナルベント」の効果を解除して光の壁を消すと、ナイトの声に、全く反応せずにフラフラと歩いてミラーワールドから出て行った。
「……って言う事があってさ」
「そうなんだ……」
亜由美は真司から一部始終を聞くと、歩を見ながらそう誰にでもなく呟いた。
何があったか分からないが、とにかく歩にとって許せない事があったのだろう。
それでその時の怒りに任せてそのライダーを思わず殺しそうになった事に落ち込んでしまい、誰にも言えずに心の内に溜め込んでしまっている。
歩の性格上、何か悩んでいてもそうなってしまうのは間違いない。
だとすれば、自分の取るべき行動は一つだ。
亜由美は自分の分のチャーハンを素早くかきこむと、卓袱台(ちゃぶだい)をバンと叩いて歩の意識をこちらに向けた。
「歩、ちょっと来なさい」
そう言って返事も待たずに歩の腕を掴んで無理矢理立たせると、マンションの部屋から出て行って部屋には真司一人だけが取り残された。
「何かあの二人って、兄妹って言うより親子みたいだな……。それにしても亜由美ちゃんのチャーハン…あんまり美味くないなぁ…いや、食えなくはないんだけど……」
そうぼやきながら真司はチャーハンを食べながら二人が帰って来るのを待つ事にした。
後ろのベランダの窓からこちらを窺うもう一人の自分の存在も知らずに……。
マンションの外に出た二人はすぐ近くにある駐輪場で向き合っていた。
歩の方は何時もの死んだ魚の様な目だったが、亜由美の方は真剣みを帯びた僅かに怒りを表した目で歩を見ていた。
「歩、私が何言いたいか分かる?」
「………」
歩には亜由美が何を考えているのか分からなかった。
亜由美は完全にこちらとの繋がりを遮断してしまっている為、思考が読めなくなってしまっている。
そんな状態では分かる筈がない。
「じゃあ歩、ちょっとだけ目を閉じてて」
亜由美に言われるままに歩は目を閉じると、暫(しばら)くしない内に左頬に強く突き刺さるような衝撃を受けた。
何事かと思い目を開けると亜由美が手を振り抜いた状態でこちらを睨んでいた。
「何で誰にも言わないの!?そんなに苦しいんだったら、誰かに言えばいいじゃない!!」
一瞬、何の話をしているのか分からなかったが、漸(ようや)く理解した。自分が悩んでいることを相談しなかった事に怒っているのだ。
「……僕には、誰に言えばいいのか分からない…それに、言っても誰も聞いてくれない」
歩は幼少の頃から研究施設で育てられた。そこでの実験でどんなに苦しくて泣き叫んでも、研究者達はまるで雑音程度にしか感じていなかった。
自分の声は誰にも聞こえない、聞いてもらえない。それが歩の中での常識だった。
「だったら、私が聞く!歩言ったよね!?“兄妹”って!!家族だったら、それくらい頼ったっていいでしょ!?」
「家族……?」
歩には家族がいないも同然だった。両親の顔も今では全く思い出せないし、自分を育ててきた研究者達は歩の事をただの研究材料程度にしか思っていなかった。
「そう!家族だったらそれぐらいして当然でしょ!?」
その時、歩の中に何かが溢れて来た。歩にとっては形容しがたい、何かが……。
「………ッ!」
「えぇ!?ちょ、泣いたぁ!?な、泣かないで歩!ゴメン!何か言い過ぎた!!」
「いや、大丈夫……そう言う事言われたの、初めてだから……」
亜由美から顔を背けて目元を拭うと、歩は何時もの雰囲気に戻って亜由美に向き直った。
「その…ありがとう……」
その小さな声には確かに感情が入っていた。感謝と言う、気持ちが……。
「どういたしまして」
その言葉が届いたのか、亜由美はニコッと笑うとそう返した。
――――キイィィィィン……――――
そんな二人の耳に突然耳鳴りが聞こえてきた。
「!?歩!今の音って……!」
「多分ライダーだね。真司君が危ない」
「戻ろう!!」
何時もの抑揚のない淡々とした口調に戻った歩と亜由美は急いで部屋に戻っていった。
亜由美が歩を連れて外に出て間もない頃……
――――キイィィィィン……――――
「ッ!?」
突然真司の耳に聞き慣れた耳鳴りが聞こえた。
どこから聞こえて来たのか鏡面化している部分を中心に探していると、ベランダのマンションの窓が目に止まった。
そこには一見、自分以外何も映っていない様にも見えるが、そうじゃない。
映し出された自分そのものが(・・・・・・・)不自然なのだ。
窓ガラスに映った自分の姿が突然ニヤリと笑った。
「え!?」
決して自分で笑ったわけではないのにその映し出された自分だけが笑ったのだ。
『よう、俺……』
「な!?」
窓ガラスに映った自分が突然自分に話しかけてきた事に驚くが、更に驚愕する事態が起きた。
窓ガラスに映った自分が近づいてくると、そのままヌルリとガラスから這い出てきたのだ。
「お、お前は一体……」
「俺はもう一人のお前さぁ」
その声は城戸真司そのものだったが、とても真司が出すとは思えない狂気を孕んだ声だった。
真司は近寄って来るもう一人の自分から後退りながら距離を取るが、やがて壁にぶつかってしまい、逃げ切れなくなってしまった。
「そんなに怖がるなよ…俺はお前なんだぞ」
「な、何の用だよ……!?」
真司は怖気付きながらも何とか言葉を発すると、もう一人の真司は更にその顔を狂喜で歪めて目的を述べた。
「なぁに、簡単な事だ…俺を受け入れろ。俺と一つになれば、最強のライダーが生まれるんだぞ。お前が望んでいる物も簡単に手に入るんだ。どうだ、欲しくないのか?」
「べ、別に俺に望みなんて……」
「蓮を、生き返らせたくないのか?」
「!!」
蓮は…自分を庇って死んだ。自分がいなければ、蓮は死なずに済んだかもしれないのだ。
「奴は、お前がいたから戦う事に躊躇してしまった。お前がいなければ、奴は裏切り者として殺されずに済んだかもしれないんだぞ?お前には責任がある。奴を生き返らせる責任がな」
だったら、生き返らせてやりたい…!自分の命に変えても…!!
「わ、分かった」
「フ…それでいい……」
真司は頷くと、もう一人の真司は右腕を自分の胸下に翳した。するとその腕から徐々に粒子化して行き、真司の中に入り込んでゆく。
「ぐ、ぐあ…ああぁぁぁぁ!!」
粒子が身体の中に入っていく毎に、真司の意識がどす黒い何かに塗りつぶされていき、やがて真司の意識が途絶えた。
「真司さん!」
「これは…!?」
歩と亜由美が戻ってきた頃には、時既に遅く、粒子の塊が真司の中に入っていくところを目にした。
それと同時に真司がガックリと倒れた。
「真司さん!大丈夫!?」
「待って!行かない方が良い!」
「え…!?」
「フ…フッフッフ…フハハハハハハハ!!」
真司に駆け寄ろうとする亜由美の腕を掴んで止めると、真司の身体がピクリと動いた。
その動きは徐々に大きくなって行き、やがて大きな高笑いを上げ出した。
「とうとう手に入れたぞ!人の身体…!俺は最早鏡の中の幻ではない!!」
「え!?どうなってるの!?」
「この世界の『基点』であるライダーが…消えた……。あれはもう、真司君じゃない」
その声は真司の物でありながら真司の物ではなかった。本当の真司ならこんな狂気に満ちたことを口走るわけがない。
「そうだ、俺の名は仮面ライダー……」
真司らしき者が右手を前に翳すと、その手の中に粒子が集まって行き、一つのカードデッキを形成した。
その黒いカードデッキには黒い禍々しい龍の意匠が施されていた。
「リュウガ。この世界、最強のライダーだ」
そう真司らしき者…リュウガが宣言すると、カードデッキを鏡面化した物に翳したわけでもないのにVバックルがリュウガの腹部に装着された。
リュウガの身体自体がミラーモンスターであり、鏡でもある為、自分の身体を鏡面として応用したのだ。
「お前がディージェントだな?ある男との契約でな、俺がライダーとしての力を得る事を条件にお前を消せとの事だ。聞く所によるとお前は“破壊の代行者”らしいな。どれほどのものか試してやろう……変身」
リュウガがカードデッキをVバックルに装填すると、リュウガの身体に次々と銀色の鏡像が重なって行く。
それと共にリュウガの身体が乱反射を起こした鏡の塊の様になって行き、最後の鏡像が重なると同時に鏡の塊が漆黒に染まりその姿をライダーへと変えた。
バーゴネットから覗く赤く輝く複眼は龍騎よりも鋭く、どこか禍々しくもある。
今ここに、この世界の最強であり「歪み」の根源でもあるライダーが君臨した。
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