［ソードベント］

［アタックライド…スラッシュ！］

「うおりゃあぁぁぁ！！」

「…フッ！」

「フンッ！甘い！！」

龍騎とディージェントがそれぞれ斬撃でリュウガに斬りかかろうとするが、リュウガが右手を大きく振ると、後ろで待機していたドラグブラッカーがその手の動きに合わせる様に龍騎とディージェントをなぎ払おうとして来た。

「っ！？避けるよ！」

「オ……グェッ！？」

ディージェントがそう叫びながら避け切れそうにない龍騎の首根っこを掴んで無理矢理引き下がった。

その際、龍騎からカエルが潰された様な声が出たが、ディージェントは何とも思っていない様子だった。

「ゲホッ…お、おい歩！今首絞まったぞ！！もっと別の方法はなかったのかよ！？」

「思い浮かばなかった」

「そんなハッキリ言うな！！」

「暢気に話してる場合かぁ！！」

「ヘ？うおぉぉぉう！？」

ディージェントと軽い漫才に入ってしまっている間にリュウガがドラグブラッカーを突っ込ませて来てそれをギリギリで横に跳んで避けた。

ドラグブラッカーが壁に激突し、大きな穴をあけていた。あんな突進を喰らえば一溜まりもないだろう。

「それじゃあ、まずはあの契約モンスターから何とかしようかな？」

［アタックライド…ダッシュ！］

そう淡々とした口調でディージェントは呟きながら一枚のカードをバックルに装填した。

その瞬間、ディージェントが目で追う事が困難なスピードでドラグブラッカーに突っ込こんで行った。

「はやっ！？」

「ハァッ！」

『グアァオォアァァァ！？』

ディージェントはドラグブラッカーに一瞬で近づき、その顎を思いっきり蹴り上げた。

その衝撃でドラグブラッカーが倒れるが、すぐに態勢を立て直すと逃げ去ってしまった。

これはあの王蛇の契約モンスター・ベノスネーカーにも見られた現象だ。例え最強のライダーだとしても、この世界の法則に順じたライダー。この世界でのルール通りに動かなければならない。

これでリュウガが再び「アドベント」か契約モンスターを呼び出して行う攻撃系カードを使って来ない限り現れないだろう。

「チッ、やってくれるな……」

［ソードベント］

リュウガは軽く舌打ちすると、「ソードベント」のカードを一枚取り出し、ブラックドラグバイザーに装填してドラグソードを装備すると龍騎に斬りかかった。

「うらあぁぁぁ！！」

「うおっとぉぉぉ！？」

その攻撃を龍騎は自分の持っているドラグソードで何とか受け止めると、そのまま鍔迫り合いに入った。

「ぐぬうぅぅぅ……！」

「くおぉぉぉ…！！」

「もう一人、忘れてるよ」

［アタックライド…スラッシュ！］

「何…！？ぐあぁぁ！！」

リュウガの背後からディージェントが手刀で斬りかかり、リュウガは直撃して屋外へと吹き飛ばされてた。

……龍騎を巻き込んで。

「うおぉぉぉ！？お、おい歩！何で俺まで吹っ飛ばすんだよ！？」

「このほうが相手に効率よくダメージが与えられるからね。それに吹き飛ばされた程度じゃ、大してダメージはないでしょ？」

「ぐ…正論言って来やがった……！」

ディージェントの非道っぷりに龍騎は怒鳴り散らすが、合理的正論を淡々と言われてしまい、上手く言い返せなくなってしまう。

それでも何か言い返そうとディージェントを睨みつけると、その姿が一瞬だけナイトと被った。

(え……？)

仮面の上から意味もないのに目を擦って再度見てみると、その影は消えていた。

だが、今見た幻影は只の見間違いではないのだろう。

(そうか…コイツ、少しだけ蓮に似てるんだ……)

龍騎はディージェント…歩に何処か蓮の面影を重ねていた。

それは見た目とか性格とかではなく、もっと根本的な部分でだ。

蓮は昏睡状態に陥った恋人を助ける為に「ライダーバトル」で戦い続けた。

しかし、いざ人を…自分を殺そうとなると、それを戸惑ってしまった。それが原因で裏切り者として殺されたと言っても過言ではないだろう。

そこが似ているのだ。歩も人を殺しそうになった自分にひどく嫌悪感を抱いて塞ぎこんでいた。

きっと歩も人を殺したくないのだろう。自分や、蓮と同じように……。

「ぐぅ…貴様あぁぁ……」

リュウガが唸りながら態勢を立て直しながらディージェントを睨みつけた。

「この調子だったら何とか勝てそうだね」

『それはどうかな？』

［アドベント］

「……ッ！？」

突然背後からくぐもった声と電子音声が聞こえたかと思うと、何かがディージェントの両腕を掴み、後ろへと引き摺りこんで行く。

何が自分を掴んでいるのかは空間把握能力のおかげで見なくても分かる。金色の大鷲型のミラーモンスター…言うなれば不死鳥だ。

しかし、今の声が誰なのかは分からないが、声がくぐもっていたことからミラーワールドから話しかけて来たのだろう。

自分が現実世界にいる時にミラーワールドから近づかれては、空間把握能力の範囲外なので感知する事が出来ない。

だとすれば、このミラーモンスターは後ろで佇んでいるであろうライダーの契約モンスターなのだろう。

「歩！！」

「リュウガは任せた！出来るだけ早く戻る！」

そう龍騎に言い残してディージェントは後ろにあったのであろう窓ガラスに吸い込まれて行った。

「チッ、オーディンめ…余計な事を……」

「お前が呼んだんじゃないのか！？」

「あんな奴に頼らずとも、お前らなど俺一人で十分だ。それよりも、続けるぞ…らあぁぁぁ！！」

「うおっと！？おらぁ！！」

「ぐふぉ！？」

リュウガは気を取り直して龍騎へ斬りかかるが、それをなんとか受け止めると、ノーガードになった腹部を蹴り付けて後ろへ吹き飛ばす。

「ちいぃぃ…だったらこれだ…！」

［ストライクベント］

そう言いながらリュウガは「ストライクベント」のカードを取り出し、ブラックドラグバイザーに装填した。

すると、リュウガに右腕にドラグクローが装着され、窓ガラスの中からドラグブラッカーが飛び出し、リュウガの背後に待機。そしてリュウガがドラグクローを後ろに引く様に構えると、それに合わせる様にドラグブラッカーが口の中に黒炎を溜め始める。

「く…だったら、俺も……」

［ストライクベント］

龍騎も同じく「ストライクベント」を発動させ、龍騎の契約モンスターである、ドラグブラッカーを真っ赤に染め上げた龍・ドラグレッダーが現れる。

龍騎とドラグレッダーはリュウガとドラグブラッカーと同じ構えを取った。

『はああぁぁぁ！！』

そしてほぼ同時に互いのドラグクローを前に突き出すと、後ろに控えていた二頭の龍が炎の塊を吐きだし、激突する。

その瞬間、爆発を起こして龍騎のみが吹き飛ぶ。如何やらリュウガの方が強かったようである。

「うおぉあぁぁぁぁ！？」

「ハッハッハッハッハ！如何やら俺の方が上のようだな！！」

リュウガは龍騎の吹き飛ぶ様を見て嘲笑した。

やはり俺の方が強い、俺は決してコイツの虚像なんかじゃない。俺こそが城戸真司だ！！

「で、でも…まだだ！俺は諦めない！！」

「……貴様、何故諦めない！？」

しかし龍騎は立ち上がり再び自分に挑もうとして来た。

リュウガの方が優勢だと言うのに、目の前の自分は決して諦めようとしない。それが実に不愉快だった。

コイツが自分を作り出したと言うのに、コイツは決して自分を受け入れようとしない……。

ならば俺は一体何だ？只の幻だとでも言うのか？ふざけるな！そんな事、絶対に認めない！！

「俺はお前が何で俺と同じ姿をしているのかなんて知らない！でも、これだけは分かる！お前をこの世界にいさせちゃいけないって事が！！」

「チッ！お前が俺を生み出したと言うのに……偉そうな口を…！！」

［ファイナルベント］

リュウガは「ファイナルベント」を発動させると、ドラグブラッカーが自分を囲まむように飛び、リュウガの体が浮かび上がる。更にその両足は黒い炎に包まれて行く。

「この一撃で…貴様を消してやる。そして俺がお前の代わりに『ライダーバトル』で勝利してやろう……そして自分の存在を手に入れる！！」

「お前だけは…お前だけは絶対に勝たせない！！」

［ファイナルベント］

「ふぅぅ…ああぁぁぁぁあああああ！！はああぁぁぁぁ……！！」

龍騎も同じく「ファイナルベント」を発動させ、気合を入れて叫びながら独特の構えを取って覚悟を決める。

その龍騎の叫びに呼応するようにドラグレッダーが現れ、ドラグブラッカーの様に龍騎の周りを囲む様に飛び始める。

龍騎にはこのライダーが一体何者なのか、何故自分と同じ姿なのか分からない。

ひょっとしたら自分と同じ人間かもしれない。

人を殺すのは怖い…でも、やるしかない。人とライダーを守るために…自分を倒す！！

「たあぁぁぁぁぁ！！」

「やああぁぁぁぁぁ！！」

赤きライダーと黒きライダーの必殺の蹴り・「ドラゴンライダーキック」が同時に繰り出され、互いの蹴りがぶつかり合った瞬間、二人のライダーは爆炎に包み込まれた。

ディージェントはミラーワールドへと引き摺りこまれてそこで漸くこの不死鳥型モンスター・ゴルドフェニックスから解放されるが、それと同時に銃撃がディージェントの装甲に当たって火花が散った。

銃撃がした右方向を見ると、そこにはゾルダがこちらへ銃口を向けている姿が目に入った。

更に左にはファム、そして後ろにはオーディンが自分を囲むように立っていた。

「悪いね、アンタを倒せば今回の裏切り行為は水に流すって言われてさ。悪く思わないでくれよ？」

「そうですか。ところで、タイガはどうなりましたか？」

ディージェントは自分の今の状況をそっちのけで、今ここにいないタイガの事を尋ねた。

確かあの後、ブランク体になったタイガをファムが連れて逃げて行ったはずだ。

「相変わらず素っ気ないねぇ……。東條だったらその子が殺したよ。“無駄足にしかならないライダーなんて助けるな”ってオーディンに言われてね」

「そうでもしないと私が殺されるしね、たまったもんじゃないわ。それにしてもアンタ、今の状況分かってんの？３対１のこの絶望的な状況で勝てるとでも思ってるわけ？」

「まぁね。一応こういう状況用のカードもあるし」

ディージェントはそう返しながら次元断裂からカードを二枚取り出した。

一枚は「アンチ・キル」のカード。そしてもう一枚のカードは…周囲一帯の敵を殲滅する為のカードだ。

とてもではないが味方や一般人がいる状況では使えないほど強力なカードだ。

前にタイガと戦っていた時にナイトに言われて使おうと思っていたカードで会ったが、簡単に説明した直後に使用を却下されてしまったあの時のカードである。この場に敵しかいない今がこのカードの使い時だろう。

ディージェントドライバーの持ち手部分を引いてカード挿入口を展開させて、最初に「アンチ・キル」のカードを入れて効果を発動させる。

［ツールライド…アンチ・キル！］

「何をするつもりか知らんが、そうはさせんぞ」

［ソードベント］

オーディンは自分の錫杖型召喚機・ゴルドバイザーにカードを装填し、ゴルドフェニックスの翼を模した双剣・ゴルドセイバーを装備すると、特殊能力である瞬間移動でディージェントの眼前に現れ斬り付けようとする。

だが同じ空間にいるならばその相手の行動はすべて把握できる。その斬撃をバックステップで避けると、もう一度持ち手部分を引いてもう一枚のカードを入れた。

［アタックライド…スクリーム！］

電子音声が鳴り響き、三人のライダーはどう行動するつもりなのか身構えた。

ディージェントの攻撃パターンは専用武器を一切使わずに肉弾戦のみで戦う事は今までの戦闘から判明している。

ならば「ブラスト」などと言う「シュートベント」でなければ接近戦を挑んでくる事は必然。

ディージェントの様子を窺うが、特に行動を起こす気配はない。ただ、深呼吸するように体を仰け反らせているだけだ。しかし、その考えが甘かった。

突如、ディージェントの仮面の口に当たる部分に線が入り「シャッ」と言う音と共にその部分の装甲が左右にスライドしてその仮面の内側に隠されていたのであろう銀色の横に長い四角形に�X字の線が入ったクラッシャーが展開したのだ。

更にそのクラッシャーが徐々に高熱を帯びて赤くなっていく。

「ッ！！いかん！離れろ！！」

「スウゥゥゥ…ガアアァァァァァ！！」

「うおおぉう！？」

「きゃあぁぁぁぁ！！」

オーディンが感づいた時には既に遅く、ディージェントが息を最大限にまで溜めてその息を一気に吐き出すように…吼えた。

その瞬間、周囲の窓ガラスが割れ、ディージェントを中心に衝撃波が発生し、オーディンを除いた二人のライダーが巻き込まれた。

龍騎は倒れているリュウガを見ていた。やがてその身体から粒子が噴き出し始め、装甲が消えて行く。

そして装甲が完全に粒子となって消滅すると、自分と同じ姿の城戸真司が現れた。

「ハァ、ハァ……。な、何故だ…！俺の方がお前よりも強いと言うのに…何故俺が負ける…！？」

もう一人の城戸真司は苦しそうに問い掛けてきた。その間にももう一人の城戸真司の身体からは粒子が噴き出している。

龍騎はその問いに答える様にポツリと口を開いた。

「お前には、何か守るものがあったのかよ……？」

「何…だと……？」

「俺は人とライダーを守るために戦っているんだ！何もかもを壊してまで自分の願いを叶えようとするお前にだけは……俺は絶対に負けない！！」

「ク…ソォ……！！」

龍騎の言葉にそうリュウガは吐き捨てると、身体からより激しく粒子が噴き出し、完全に消滅した。

「勝っ…た……」

龍騎はそう呟くと力尽きて倒れてしまい、それと同時に変身も解除された。