仮面ライダーディージェント 第16話:Next stage 555
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ディージェントは自分のアタックライドの効果で出来上がったクレーターの中心に立っていた。

そのクレーターからは大量の熱気が立ち込めており、所々が余りの高温で赤みを帯びている。

 

ディージェントの使った「スクリーム」のカードは、自分の声を衝撃波として放つ広範囲殲滅用カードだ。

その声の振動による大気摩擦で物体を灼熱化させて粉砕してしまう……まさに、ディージェントの“とっておき”だ。

 

「そ、そんな、大声出せたの?今まで、そんな雰囲気じゃ、なかったのに……」

「人を見かけで判断してはいけませんよ」

 

ゾルダはクレーターの中で倒れながらもディージェントに問い掛けるが、あっけらかんとした態度で淡々と答えた。

 

「は、ははは……やっぱり、アンタは敵に回すんじゃ、なかった…よ……」

 

ゾルダはそう苦笑交じりに言うと、ガックリと気を失った。

「アンチ・キル」の効果によって気絶する程度で済んでいる。それはファムも同じ様で、既に気絶しているようだった。

 

「むぅ…まさか、これ程とはな……」

 

クレーターの外から声が聞こえ見上げてみると、そこにはオーディンが佇んでいた。

どうやら何をするのか感づいて瞬間移動で効果範囲外へ逃げたのだろう。

 

「確かに神童が言った通り、ここで排除せねばならぬようだな……」

「神童さんを知っているんですか?」

「奴がリュウガを作った様なものだからな」

「……貴方はアレがこの世界を壊す存在だと言う事は知っているんですか?」

「ああ、神崎から聞いた。この世界を崩壊させる存在だとな。だが神童からはお前の事も聞いているぞ、“破壊の代行者”」

「……またその名前ですか」

「お前は確かに“悪魔”の様な存在だな。神崎はお前の事を認めている様だが私は違う。貴様はここで排除しておく必要がありそうだ」

「……そうですか。でも、僕もここで死ぬつもりなんて一切ありません」

 

[ツールライド…アンチ・キル!]

 

ディージェントはそう淡々と答えると、「スクリーム」を発動させた事によって効果が切れてしまった「アンチ・キル」を再び発動させた。

 

「フン、またそのカードか。どうやらそのカードは殺傷力を抑えるカードの様だが、そんなハンデを持った状態で私に勝てるとでも思っているのか?」

「そのつもりです。僕の目的はあくまで『歪み』の修正……この世界のライダーを破壊するわけにはいかないので」

 

[アタックライド…スラッシュ!]

 

ディージェントは更に「スラッシュ」を発動させ、クレーターを駆け上りながらオーディンに接近し、手刀で斬り付けようとするが瞬間移動でかわされてしまい見失ってしまう。

だが、ここまでは予想通りだ。姿を見失ったと言っても相手が自分の近くにいればどの位置にいるかは把握できている。

ここで更に二枚のカードを取り出し、その中の一枚だけをバックルに挿入して発動させる。

 

[アタックライド…ブラスト!]

 

「…ハァッ!」

「ぐぬぅ!?」

 

カードを発動させると同時に右側に現れたオーディンを蹴りつけ、さらに「ブラスト」の効果で足からエネルギー弾を撃ち出してオーディンを吹き飛ばした。

そして、取り出しておいたもう一枚のカードをバックルに挿入した。

 

[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]

 

右手をオーディンに突き出し、その右腕を左手で抑えて構える。

その間にディージェントのライダーズクレストが描かれたビジョンがオーディンを拘束した。

 

「くぅ…!う、動けん……!」

 

ビジョンはディージェントの演算能力によって作られたシックスエレメントと次元断裂の塊だ。

そのビジョンは拘束した相手の演算能力を狂わせ、使用不能にしてしまう作用を持っている。

それはオーディンも例外ではなく、瞬間移動をして逃げる事は不可能だ。

 

「それでは止めの一発、行きますよ?」

 

ディージェントがそう呟いている間に右手にシックスエレメントが溜まって行き、やがて腕全体を藍色のノイズが包み込んだ。

 

「フゥゥゥ……ハァ!!」

「ぬうおぉぉああぁぁぁぁ!!」

 

ディージェントの「ブラスト」との併用によって使う事が可能になる必殺技・ディメンジョンバスターがオーディンとその背後に張り付いているビジョンに直撃する。

ビジョンはその砲撃を受けるとそれを吸収して更に光り輝いて行き、砲撃が終わると同時に一際強く輝いたかと思うと、次の瞬間には大爆発を起こした。

 

例えるなら、シックスエレメントが空気だとすれば、次元断裂空間はそれを入れるゴム風船だ。

シックスエレメントを次元断裂空間に大量に注ぎ込んだために次元断裂空間がその許容量を超えて空間を歪めるほどの大爆発を起こしたのだ。

 

「……久々に使ったけど、やっぱり威力が高いね」

 

ディージェントはこの威力に正直引いていた。

この攻撃は何らかのサークル内であれば世界が崩壊せずに済むのだが、流石に「ノンポジション」の世界でしようものならすぐに崩壊してしまう程に強力な為、中々使えずにいたのだ。

たとえサークル内であっても何度も使っていい物ではないが……。

 

「さて、と…後はこの三人を現実世界に帰してから真司君の所に行こうかな。向こうも丁度終わったみたいだし」

 

気を取り直してそう呟くと、まずはゾルダとファムを担いでミラーワールドから出て行った。

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ…く、くそ……!」

 

ディージェントがミラーワールドから出た直後、オーディンが意識を取り戻していた。

ここまで早く目を覚ます事が出来たのも、神崎がオーディンしか「ライダーバトル」で勝てないほどにスペックを最大限に高めて作った為だろう。

 

「まさか、この私が負けるとは…神童の行っていた事は本当だったのか……」

「チッ、この役立たずが」

 

突然頭上から声が聞こえ、倒れた体を鞭打って何とか立ち上がるとそこには神童が立っていた。

 

「貴様は…!どう言う事だ、神崎から聞いたぞ、あのリュウガがこの世界を崩壊させるほどの異端分子だと…!」

「何言ってんだ?俺はアレを使えば簡単に終わらせる事が出来るって言っただけだぞ?」

「お、おのれえぇぇぇ!!」

 

[ファイナルベント]

 

神童はそう言って極悪人の様な笑みをオーディンに向けると、オーディンは激情して「ファイナルベント」を発動させた。

だが、これが神童に狙いだった。

 

「馬鹿が、甘えんだよ」

 

「ファイナルベント」の効果によって呼び出されたゴルドフェニックスを瞬時に次元断裂をキューブ状に展開してその中に閉じ込めた。

更にそのキューブの面積が徐々に小さくなって行き、ゴルドフェニックスがその場から消えた。

それと同時にオーディンの身体が灰色になって行き、形状も質素なものになってしまう。これはミラーモンスターとの契約が消えた事を意味していた。

 

「そ、そんな…事が……」

「お前の契約モンスターは別に死んだわけじゃねぇよ。次に奴が行く世界に餌として送り込んでやっただけだ。ま、どうせ神崎とかいうヤツがまた新しく作り直すだろうけどな。バハハハハ!!」

 

嘲笑する神童をオーディンは悔しそうに睨みつけるが、先程のダメージに加え、ブランク体になった為に力が失われてしまい、意識がどんどん薄れて行く。

このままでは終われない…!そう思った時だ。

 

「何をやってるんですか?神童さん」

 

最後にミラーワールドであるにも関わらず、神童と同じように生身で立っている青年が目に入った所で、オーディンの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

ディージェントは二人のライダーを現実世界に戻した途端、この世界のルールによって変身が強制解除されてしまい、そのまま変身せずにミラーワールドへと入って行った。

空間演算を使えば、この「龍騎の世界」に限り、ミラーワールドへ例え変身せずとも介入する事が出来るのだ。

それに態々変身せずとも、空間演算を行えばオーディンを担いでミラーワールドから出る事くらい造作もないのだ。

そして再びミラーワールドへは行ってみると、そこには神童とブランク体になったオーディンがいた。

間違いなく神童がオーディンに何かしたのだろう。

 

「フン…来たか、人形」

「何をしたんですか?神童さん」

「チッ、やっぱり人形には何を言っても駄目だな」

 

会話が全くかみ合っていない事に軽い苛立ちを見せた神童は舌打ちして更に続けた。

 

「大した事じゃねぇよ。コイツの契約モンスターをお前の連れてた小娘が流された世界に送り込んでやっただけだ。どうした?早く行かねぇと喰われちまうぞ?」

「……確かに、この世界にはもう『歪み』は存在してませんからね。すぐに迎えに行きますよ」

 

そう淡々と答えると、神童は忌々しげに顔を歪めた。

 

「チッ、一々癇に障る野郎だ…俺が世界に直接干渉出来りゃあ、一発殴っときたい所だぜ……!」

 

そう言い残して次元断裂空間を展開してその中に消えた。

歩は頭をガリガリ掻きながら今後の行動を考えた後、一先ずこの気絶したオーディンを現実世界に帰す事にした。

 

 

 

 

 

「……ん…」

 

真司は気を失っていると、何かに呼ばれた様な気がした。

 

「し……君」

 

その声は何処か聞き覚えがある。そうだ…この感情の入ってない声は……

 

「真司君、大丈夫?」

 

歩だった。歩は真司の上半身を起こして声を掛けて来ていたのだ。真司はその姿を認識すると今できる精一杯の笑顔を作った。

 

「歩…俺、勝ったぞ……」

「ウン、知ってるよ」

 

歩が抑揚のない声でそう答えると、真司は更に続けた。

 

「アイツ、何者だったんだろうな……。何で俺の姿をしてたんだろうな……」

「……それは知ってるけど、教えられない。自分自身で答えを見つけてね」

「ハハッ…歩は厳しいなぁ……」

 

真司はそう苦笑しながら答えた。

知っていると言う事は「オリジナル」である自分が一度通った道と言う事だ。だったら自分で見つけないとな。そう思ってると、歩は更に続けた。

 

「それから、僕もそろそろ別の世界に行かないといけないから、せめて君を安全な所に運んでからこの世界を出るよ」

「そっか…じゃあ行く時になったら俺を起こせよ……。見送りくらいしてやりたいから…な……」

 

そこまで言うと、真司は深い眠りについた。相当疲れていたのだろう。何せ一度「歪み」に身体を乗っ取られていたのだから。

その寝顔はとても安心しきった表情で、歩はそれを確認すると、亜由美を迎えに行かなければならない筈なのに、ゆっくりとした足取りで真司を背負って自分の移住先へと歩いて行った。

少しでも疲れを取ってもらえるように……。

 

 

 

 

 

翌朝、真司は目を覚ますとそこは自分が住んでいたマンションだった。何やら良い匂いとジャッジャという何かを炒める音が聞こえ、起き上がってキッチンを見ると、歩が料理をしている姿が目に入った。

この匂いからしてどうやら作っているのはチャーハンの様だが……朝からチャーハンというのはどうなのだろうか……。

 

「おい歩、何やってんだよ。それに、亜由美ちゃんはどこ行ったんだ?」

「あ、真司君。起しちゃったみたいだね。亜由美だったらもうこの世界にはいないよ。別の世界に飛ばされた」

「っておい!それって大丈夫なのかよ!?そんな暢気にチャーハン作ってる場合じゃねぇだろ!!」

 

歩はチャーハンを作る手を止めずに衝撃的な発言をした事に、最早恒例となりつつある真司のツッコミが炸裂した。

 

「それなら大丈夫だよ。僕は亜由美と少しだけ(・・・・)繋がってるからどこに飛ばされたか分かるし、飛ばされた世界の時差がここよりかなり遅いみたいだから今行っても向こうではまだ一時間も経っていないよ」

「そ、そうなのか?」

 

歩は「ウン」と返しながら事前に置いておいた三枚の皿に均等にチャーハンを盛ると、一つにラップをして残りの二つを卓袱台(ちゃぶだい)に乗せて座った。

その右手には包帯が巻かれており、恐らく昨日の戦いの時に負ってしまったのだろう。

 

「それじゃあ、朝食にしようか」

「なあ歩、お前ってひょっとしてチャーハンしか作れねぇだろ?」

「真司君も餃子しか作れないでしょ?」

 

今気になった事を言ってみたら、見事に言い返された。人が何気に気にしてる事を……。

 

「うるせぇよ!?てかもう一つのチャーハンは何なんだよ!?」

「アレは真司君の昼食用だよ。これから先、大変だろうけど頑張ってね」

「え?お、おう……」

 

その不意打ちの様な優しい言葉に面喰ってしまうが、取り敢えず朝食を食べる為に席に着いた。

歩の口調や表情はともかくとして……。

 

 

 

 

 

「そうそう、君に一つ助言をしておくけど、リュウガ…黒い龍騎は完全に死んだわけじゃないよ」

「え?そうなのか?」

 

朝食もそろそろ食べ終わりそうになって来た時に、歩がそう切り出して来た。

 

「ウン、あれはある人物がこの世界にいるもう一人の君に力を与えて生まれた物だからね。態々そんな事をしなくても、時が来ればいずれ生まれて来る物だったんだよ」

「……じゃあ、何時かまたアイツと戦わなくちゃいけないって事か」

「そう言う事。でも、君ならきっと大丈夫だよ」

 

今の彼なら大丈夫だろう。

この城戸真司という存在が本来変身する筈の龍騎に戻ったのだ。

これでこの世界の「歪み」は完全に消えて、本来の歴史線に戻っている。

もうこの世界に来る事もないだろう……だからこそ、こうして最後に話しておきたかったのだ。この世界の真司と……。

 

 

 

 

 

朝食を食べ終わった歩は、立ち上がって玄関まで歩いてドアを開いた。

そこのは外の景色ではなく、歩の出す灰色の板の様なドロリとした空間が広がっていた。あそこから別の世界に行くのだろう。

 

「もう行くのか?」

「ウン。あ、そう言えば、亜由美が君の事心配してたよ。何か言っておきたい事があったら伝えておくよ」

「え?あ〜じゃあ『心配かけてゴメン。俺はもう大丈夫だから』って伝えておいてくれ」

「分かったよ」

 

歩がそう言って灰色の空間に入りそうになった時、真司はある事を思い出した。

 

「あっ!ちょっと待ってくれ!」

「?何だい?」

 

真司が歩を呼び止めると歩の前に立って右手を互いの顔の前に出した。

 

「?」

「ハァ〜、お前なぁ、こういう時はこうするんだよ」

 

歩は真司が何をしたいのかよく分からずに首を傾げていると、真司はその様子に溜め息を吐いて歩の右手を掴んで自分の右手と合わせた。

 

 

 

 

 

「………!」

 

歩は真司の手から包帯越しに伝わって来る不思議な暖かさに驚きながら真司を見ると、真司はニカッと笑ってこう言った。

 

「俺もこの先、いろいろと大変かもしれないけど、それはお前だって同じだろ?だったら、お前もガンバレよ!!」

「……ウン、ありがとう」

 

真司の快活な笑みにうつされて、歩も微笑んだ。

そしてその言葉は本当に感情の籠った声だった。

 

「じゃあ、行って来る」

「おう!行って来い!!」

 

歩は何時もの口調に戻って軽く手を振りながら灰色の空間に入って行くと、真司は大きく手を振りながら歩を見送った。

 

歩が次に行くべき…亜由美が飛ばされた世界は…「ファイズの世界」だ……。

 

 

 

 

 

「う……ア、アレ?ここ、どこ…?」

 

亜由美は目を覚ましすと、コンクリートがむき出しの天井が目に入った。

身体を起こして辺りを見渡すと、元はホテルの一室であったのであろう、ボロボロの部屋だった。

 

「え〜と、何があったんだっけ……。あ、そうだ…真司さんが『歪み』に飲み込まれて、それから逃げようとしてた時に吹き飛ばされたんだっけ……。じゃあ、ここはどこ?まだ『龍騎の世界』?」

 

何があったのか思い出していると、自分の身体に毛布が掛かっていた事に気がついた。

という事は誰かが掛けてくれたのだろうか…?だとしたら歩はもうここに来ているのだろうか…?

 

そんな事を考えていると、この部屋のドアが開いて一人の男が入って来た。

しかし、その男は歩ではなかった。

長い黒髪を後ろで縛り、ダークレッドのロングコートを羽織った男だった。その表情は若干鋭い目つきと相俟って、険しい印象を与えている。

 

「………」

 

男は亜由美を見るとその目を一瞬だけ驚いたように丸くさせるがすぐに元に戻り……踵を返し部屋から出ようとした。

 

「ちょっと待ったあぁぁ!何で出ようとするんですか!?アナタが私に毛布掛けてくれたんでしょ!?せめてそこは“起きたか”くらい言ったらどうですか!?」

 

男の行動にそうツッコムと、男はその動きを止めて振り返ると、亜由美を不思議そうな目で見た。

 

「俺が…怖くないのか……?」

「何で初対面で会った人をいきなり怖がらなくちゃいけないんですか!?そりゃヤーさんみたいな顔してたら怖がってたりしますけども!そんなに怖がる要素なんて見つかりません!!」

 

先程起きたばかりだと言うのに中々にキレのあるツッコミを繰り出す亜由美はその流れで自己紹介に持ち込んだ。

 

「私は須藤亜由美!貴方は誰ですか!?」

 

亜由美がそう自己紹介をすると、男も口籠りながらも自分の名前を口にした。

 

「皆葉(みなば)…皆葉好太郎……」

 

今ここに、新たな出会いが生まれ、新たな物語が紡がれようとしていた。

説明
今回で龍騎編が終了し、ファイズ編へ移行します。
ファイズ編からは、私が考えた完全オリジナルのキャラクターがライダーに変身します。
心情描写は大事にする主義なので、それぞれのキャラクターの個性を徹底的に詰め込んでいくのでよろしくお願いします。

ちなみに、本日の更新はここまでにして、続きは明日公開します。
もし待てないという方がいましたら、こちら→「http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=894184」へアクセスして下さいね。
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