IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
俺は織斑先生から受け取った鍵を使って、割り当てられた部屋に入った。
「十分……すぎるだろ」
外側の壁は一面のガラス張り。今も、日光に煌く海面が綺麗に見えてる。
次に洗面所の確認ついでに、その先のドアを開けて備え付けの風呂を見てみた。
「本当に俺一人でここなのか?」
ついついそう言うのも仕方ないと思いたい。
綺麗な風呂場の浴槽は、大人の男のが脚を伸ばしても大丈夫なほどに広かった。
これに限定して言えばIS学園より上だ。
男子の旅館の大浴場は時間交代で一部時間帯のみ使用可能との事。それ以外は部屋のを使え、だそうだ。ちなみに織斑先生より。
「とりあえずは……海だろ」
デカイボストンバッグから水着やタオル等の一式が入った手提げカバンを取り出して、ちょっと高めのテンションで俺は部屋を出た。
◇
更衣室のある別館へ歩いてると、
「う、ウサ…ミミ?」
なぜかウサミミが地面に"生えて"いた。
これって確かあの人だよな……。
そしてその近くに居る一夏と箒。
「……、私は関係ない」
一夏が箒に話しかけたようにすると、俺にはかろうじて聞こえたそれだけを言って箒は行ってしまった。
……よし、面白そうだから一夏を見てよう。
まず一人残された一夏は、周りを見回して……ウサミミに近づく。
そして触れた。んでもって、引っ張った。
「のわっ!?」
とりあえず、ウサミミが生えていたとしてその先に何があるわけでもなく、一夏は盛大にすっころんでくれた。
いや、普通だったら何か埋まってるとか思うだろうけどさ。
今の俺は笑いをこらえるので精一杯だ。
その一夏のところに、セシリアが来た。
一夏は倒れたままそっちを向いて……セシリアがスカートを押さえながら、ざざっ! と後ずさる。
あのやろう、またラッキースケベを……はぁっ
キィィィィィィン……
突然空気を裂く音が聞こえてきて……空気を裂く音?
ばっ! と真っ青な大空を仰ぐ。そしてそこにはこっちにくるオレンジ色。
ちょ、こっち来んな!
直撃しないってわかってても怖いものは怖―――
ドカ―――ン!
なぞの飛行物体O(O=オレンジ)は、一夏と十メートルくらい離れた地面に突き刺さった。
そう、巨大なにんじんが突き刺さった。
原作で知っていたはずだが、あまりにもぶっ飛んでいて可笑しな光景に固まる俺。
いや、知ってても理解できる光景じゃねぇよコレ。
パカン、と真っ二つに割れたにんじんの中から人が笑いながら出てくる。
残念なことにこの場所からだと声は聞き取れない。
少しすると、そのにんじんから出てきた人物―――篠ノ乃束博士―――は、トタタタター……と走ってった。織斑先生に見つかったらどうなるんだろうな。
まあ、今あったことは忘れて、海に行くとするか。じゃないとやってられないしな。
あのあと俺は一夏と合流して、別館で着替えて―――
「海かぁ、久々に来たぜ」
「俺もだ。何年ぶりだ?」
――砂浜に出てきた。
「あちちちっ」
俺の隣で一夏が太陽で熱せられた砂浜の餌食に。
「くははっ、馬鹿だろ? 馬鹿なんだろお前。ザマァ」
え? 俺? 俺はビーサン履いてるぞ。
「い、いいんだよ! 久々に来たんだからこういうのも懐かしいし!」
「まあ、どうせ海に入るだろうし、俺もそうするか」
確かに、来たなら満喫しないとな。
ビーサンを適当な物陰に置いて、先に行った一夏を追う。
「おい、一夏―――」
しゅっ! とそんな俺のすぐ脇を、なにやらツインテールをなびかせたヤツが通り過ぎていく。
「い、ち、か〜〜〜〜っ!」
正体は鈴音。
そんな鈴音は、一夏に飛びついた。
「まあ、なにやらほほえましい光景だけども……俺は泳ぎに行って来るぜ〜」
「あ、おう。後でな」
了解。と言って、俺は波打ち際に。
「え〜っと、なにか目印は……」
海を見渡して、遠くないちょうどいいブイを見つけた。
「さて、と。とりあえずあのブイまで泳ぐかな」
バシャン! と海に飛び込んでクロールでブイ向けて泳ぎだす。
特に急ぐわけでもないし、ゆっくりと海を楽しみながら泳ぐ。
(ここの海、キレイだな……)
旅館も最高レベルであれば、海のほうもレベルが高いようだ。ここの海の水は透き通っていて、少し深いところでも海面から海底が見える。
ブイまであと半分といったところで一度体を休めるために止まった。
「ぷはっ……久々に海で泳いだな。あっちでも海には行ってなかったし」
あっち=前世だ。
さ、あと半分。
特にクロールに意味を見出せなかったので、腕はだらっとさせてバタ足だけで進む。
(はぁ……やっぱ泳ぐのは気持ち良いな)
腕を使ってない+泳ぎ方?何それおいしいの? 状態なので一気に落ちた進行速度。
それで、あと四分の一くらいまで来た。
(……あと少し)
浮力に身を任せて、顔だけ出して進む俺。
さっきから波が顔に掛かって……げほっ、げほっ。
もう少しでブイにつくといったところで。
(――!?!?!? なにがっ!?)
腕を掴まれたような感触がある、と思った次の瞬間には海に引きずりこまれた。
急なことに息を吐き出してしまったため、そう長くは持たない。と、変に冷静になった頭が導き出す。
とっさな事のおかげで目を閉じてしまっていた俺は、状況を確認しようと目を開いた。
(くっそ、なにが……)
視線を何かの感触があるほうに向ける。
そこにあった。いや、居たのは―――
―――なっ!? 楯無ぃ!?
楯無。なぜ? どして? これって参加一年だけだよな?
つーかなぜに引きずり込まれてんの!?
直後、楯無が止まってこちらを振り向く。
楯無の水着はシンプルなスカイブルーのビキニ。だけども、とても似合っている。
……違う! そうじゃない! そうじゃないし、そろそろ息がまずいっ。
もう息が苦しいどころではなくなってきた。本能的に顔が歪んで首に手を当てる。
それが何を意味するのかを理解したらしい楯無が、すっと近くに来た。
そして唇を重ねられて、ぷくぷくぷく…と楯無から口渡しで空気が俺に渡され、俺の頭が再起動。
即座に神力で俺と楯無を中心に直径二メートルくらいの球体を作った。もちろんなかには空気有。
その床? まあ、とにかく下に足をついて俺は荒い息のまま寝転がる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……なにしてんだよ!」
「あはっ♪ やってみたかったのよ、ああいうシュチュエーション」
なんか反論する気持ちまで疲れに変えられた気がする。
「それに、拓神もあの程度じゃ死なないでしょ?」
「まったく……そうなんだけど」
神力を扱える者は死にかけると自己防衛で無意識のうちに神力を行使、その死を免れる。
つまり、寿命以外で死ぬことはあり得ない。
……気絶とかは自力じゃ回復しないけどな。
とりあえず、俺の息が落ち着いたところで話を切り出す。
「で、楯無。お前は何しに来たんだ?」
「簡単よ。拓神に水着見せたかったし、そのチャンスだったから」
楯無はくるりと一回転してみせた。
改めて見た楯無の身体は、やっぱりバランスがしっかり取れていて……綺麗だった。
水着はシンプルなスカイブルーで、ほとんど無地だが、そのシンプルさが魅力を増させているというかなんというか…
「そうか……その、まあ、似合ってるぞそれ」
まあまあ恥ずかしかったので、俺はそっぽを向いた。
この間あんなことをしておいていまさら、とも思うだろうけどいろいろと違う。
「ふふ、ありがと」
チラッと見たそう言う楯無の頬は、心なしか赤くなっているように見える。
「この前買い物誘ってくれたときあったでしょ? あのとき私もコレ買いに行ってたの。一緒に行けなくてごめんなさいね」
ああ、そうだったのか。
「気にしなくていいさ。……つーかお前、よくあんなに潜ってられたな」
「神力での強化を使ってみたからよ。すごいわね、これ」
「神の力だからな。その程度できなくて神の力じゃお笑いだろ?」
「そうなのかもね」
「ああ、そういえば楯無。お前どうやってここに来た?」
まず第一に今日のTS学園は、俺たち以外通常授業のはずだ。
「特別に学校休む許可……といっても、この後ちょっとロシアに行ってこなきゃいけないんだけど。それで午後の飛行機で行くから午前中は時間が空いてたのよ。それでこっちに来ちゃった☆」
「織斑先生に許可は?」
「とってないわね。見つかったら大変よ」
そう苦笑気味に言う楯無は、そんな状況も楽しんでいるみたいだ。いや楽しんでると言い切ろう。
「でも流石に海の中に居れば気づかれないでしょ? ISも((潜伏|ステルス))モードだし」
まあ、用意のいいことで。
俺は苦笑いだ。
「ははっ。……まあ、ありがとな。俺に会いにきてくれたんだろ?」
「うん」
答えた楯無は、すぐに俺に抱きついてきた。
水着でいつもより強調された胸が当たっていろいろとあれだが……まあ、耐えられなくはない。
「じゃ、どうする? 上には出られないからこの中だけだけど」
「じゃあ―――」
その後、昼間近くまで俺と楯無は他人は不可侵な球体の中と球体周りの海中で二人で海を楽しんだ。
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第39話『夏だ!海だ!』 | ||
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