IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
昼間になって楯無は午後の用事のために帰って、俺も昼食を取るために砂浜に戻ってきた。
「ん? なんだ?」
すると、一箇所に人だかり。中心に誰か居るようだけど……何があった?
それに近づいて、中心を見れる位置まで行く。
そこに居たのは―――
(水着姿の織斑先生か……)
人だかりの中心は織斑先生。
校内でもかなり人気のある先生だし、否定するところも無いようなスタイルを黒い水着がさらに強調していて―――ゾクゥッ!
な、なんだ? なんだか蛇に睨まれた蛙になった気分だ。なったこと無いけど。
気のせい……か? なんか背筋に冷たいものが走ったんだが。
と、とりあえず、手近に居る一夏を弄ろう。
「一夏くぅぅん?」
「な、なんだっ」
「実の姉を見て……何想像してるんだぁ?」
「なっ、そ、そんなわけないだろ!」
「鼻の下伸ばしてたくせにさぁ……なあ、デュノア」
一夏の隣に居たシャルロットに話を振ってみた。
「うん……一夏、織斑先生に見とれてたよね。鼻の下伸ばして」
「しゃ、シャルまで!? な、何言ってるんだよ……」
よし、シャルロットはこっちの味方だ。
「へぇ、じゃあ一夏は織斑先生に見とれてなかったと?」
「ぅぐ…………黙秘で」
「その申請は却下されました(棒読み)」
「なんでさ!」
クフフ…やっぱり人を弄るのはこうじゃないと。
それと、そのネタは駄目だ。お前となんら関係がない。
「はぁ。そら、お前たちは食堂に行って昼食でもとってこい。自由時間が無くなるぞ」
織斑先生の一言で、集まっていた女子はすたたーと旅館のほうに走っていく。自由時間が多く欲しいのは誰も変わらないらしい。
いまここに残ったのは、俺・一夏・シャルロット。鈴音とかは……あ、まだ鈴音とセシリアは鬼ごっこやってやがる。
他のヤツは……、
「えっと、先生は?」
「私か? 私はわずかばかりの自由時間を満喫させてもらうさ」
「そうですか。じゃあ俺たちは昼食に行ってきます。行こうぜ拓神、シャル」
「うん、わかった」
「あ、先行っててくれ。ビーサン回収しなきゃいけないからさ」
そういえばだ。今思い出した。別に盗られて困るものでもないけど、もしそうなったら気分悪いし、置いて帰ったら帰ったでうっかり忘れ去りそうだ。
「ああ、じゃあ先行ってる」
「また後でね。ほら行こっ、一夏」
「お、おう」
一夏はシャルに引っ張られて別館の方に。
確かビーサンはここだったよなーと、あったあった。
目的を達成した俺は、一夏たちを追って別館のほうに向かった。
◆
楽しい時間はさっさと流れ去って、時刻は午後七時半。
午後の海では、のほほんたちとビーチバレーやったり、一夏と競争したり、一夏とラウラとかのやり取りをイライラしながら見たり……ああ、最後のは愚痴だな。
今は大広間を三つ繋げた大宴会場で、みんなで夕食をとってる。
「うん、うまい! 昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」
「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」
「うまいもん食えるんだ。それだけで十分満足だよ」
気持ち的にも胃袋的にもな。
というか、どこからこんな金が出てくるのか知りたいが、それを今口にするのは無粋だ。
今の席は一夏を中心にその左右にセシリアとシャル、一夏の向かいが俺。
……正直セシリアとシャル以外からの視線が痛いが気にしない。
夕食のメニューは刺身に小鍋、それに山菜の和え物が二種類。さらに味噌汁とお新香。
それとここの旅館は食事の際は浴衣着用だそうで、俺も例に漏れず浴衣なんだが……ちょっと慣れないな。いままで着る機会も無かったし。
「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげえな、おい。高校生のメシじゃねえぞ」
だそうだ。
俺にはその違いがよくわからないんだよな、これが。わさびはわさびだろ。
「本わさ?」
頭の上に?マークを載せたシャルロットが、一夏に聞く。
「ああ、シャルは知らないのか。本物のわさびをおろしたやつを本わさって言うんだ」
「えっ? じゃあ、学園の刺身定食についてるのって……」
「あれは練りわさ。えーと、原料はワサビダイコンとかセイヨウワサビとかいうやつだったかな。着色したり、合成したりして見た目と色を似せてあるやつ」
「……何でそんなにすらすらと出てくるのか俺はただ疑問に思います。と拓神は一夏に問いただします」
「拓神、なんだその喋り方」
うわ、質問のほうは無視されたよ。って拓神は自分の心の中で毒づきます。……なにやってんだろ、俺。
「あはは……じゃあ、コレが本当のわさびなんだ」
「そう。でも練りわさでも最近はおいしいのが多いぞ。店によっては本わさと練りわさを混ぜて出したりもするから」
本当なんでそんなことはすらすら答えられるんだよこの健康オタク。と拓神は(ry
「そうなんだ。はむ」
えっと……え? 見間違いじゃあ……無いんだよな。
今、シャルロットがわさびの山を食べた。原作で知ってたし、純粋なのはいいと思うけど目の前でやられると流石に……。
「お、おい? シャルロット?」
「――っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
案の定、涙目+鼻を押さえるシャルロット。
「だ、大丈夫か?」
「ら、らいひょうぶ……」
いまさらだが、前世のこの作品でのシャルロットの人気の高さが理解できた気がする。俺もそうだったし。
あ、ここが物語の世界でも俺にとっては((現実|リアル))の世界だから、今は前世で持ったようなそんな感情はまったく無いことは断言しとく。
それに……な、楯無に悪いし。
「ふ、風味があって、いいね。……おいしい、よ?」
さすが優等生。こんな時まで優等生か。
そのあとは、慣れない正座で足が痺れて食事を取れないセシリアに一夏が食べさせて騒ぎになって、それを織斑先生が鎮圧しにくるという……ある意味いつも通りの展開になった。
◆
夕食を終えた俺と一夏の男子組は、大浴場の露天風呂に入っていた。
本当、高そうな料理に露天風呂って……本当に臨海"学校"か?
「カポーン……」
「拓神、どうした? 大丈夫か?」
「いや、言ってみたかっただけ。ところで一夏」
「うん? なんだ?」
「お前って、好きな奴いるのか? もちろんLIKEじゃなくてLOVEだぜ?」
「ぶっ!? おま、急になんつう話を振りやがる」
いや、いつも鈍感ぶりを見せ付けられているこっちとしては、一度は聞いてみたいからな。
「で、どうなんだ?」
「……よくわかんねぇ。まずその好きって感覚がわかんないんだよ」
だろうな。じゃなくてあの鈍感だったら正直……死ねばいいのに。と拓神は(ry
「そりゃあ、確かに一人ひとりそれはばらばらだとは思うんだけど。でも、絶対に共通してると思うのはあるぜ?」
「それは?」
「簡単だ。『ソイツと一生一緒に居たい』……これだけは、どんな価値観でも変わらねぇよ。他にどんな((理由|ついか))が付いてきてもな」
「ふぅん、そういうもんなのか?」
「そういうもんだ。ま、俺の場合それに加えて『絶対に守りたい』ってのが追加されるんだけど」
「楯無さんをか?」
「もちろんだ」
楯無が弱くないとしても、男ってのはそういうのだろ。好きな奴は絶対に守り通すってな。
……? そういえば、俺はいつからこんなくさい台詞を言うキャラになったんだ? ……まあ、仕方がない。そう、仕方がないんだ。
「で、お前は? 誰と一緒に居たい? 篠ノ乃か? 凰か? オルコットか? デュノアか? ボーデヴィッヒか? それとも他にいるのか?」
「……それでもまだわかんねぇや。……でも、そいつら以外にも千冬姉も他のクラスメイトのみんなも、俺は守りたい」
だろうな。この鈍感野郎は欲張りすぎなんだよ。一人が守れるものなんてたがが知れてるのに……でも―――
「一夏らしいな。でも全員守れるとでも思ってるのか? だとしたらかなりの自信過剰だな。いっそのこと馬に蹴られて死ぬといい」
「おい! 今までのしんみりした空気はどこに行ったよ!? そしてヒデェ!」
「俺がいつからお前に優しい言葉だけを掛けるようになったよ? だとしたら今すぐにでも俺は死にたいな」
「もっとヒデェよ!」
「それにさ、俺たちにあんな空気は似合わない。だろ?」
一夏は一瞬ポカン……とした後、口を開く。
あー、らしくない。らしくないな、俺。
「……ははっ、確かにな。俺たちにあんな空気は似合わねぇよ」
「ああ。……でもな、俺がさっき行ったことは真面目だ。お前が絶対に守りたい奴、少しは考えとけよ」
――守りたいもんがあれば強くなれる。
俺はそれを告げて風呂から上がった。
久しぶりの一人の夜か。……寂しくないわけでもないな。
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第40話『嵐の前夜』 | ||
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