聖夜決戦〜終幕〜 |
「戦場で・・・会うのはこれで二度目かアシトラよ。」
対峙するはかつての幼馴染。
セイルは魔王。
闇のレジスタのトップとなりこの戦争の引き金を引いた張本人。
アシトラはあの後も剣の腕を磨き宣言どおり聖女騎士団団長の座を勝ち取った。
そして二人はここにて対峙する。
「ええ・・・そうね。2度目よ。私はあなたとの約束を果たしたわ。でも・・・あなたは・・・。」
悲しそうな目でセイルに訴える。
以前会った時はセイルたちレジスタの完全な勝ち戦の終わりがけでセイルは去るところだったためお互いの姿を確認するくらいしかなかったが今は違う。
目の前にかつて誓いを交わした相手が、己の好きだった相手が立っている。
敵として。
「強くなったなアシトラ。しかし、まだ足りぬ。余に打ち勝つにはその程度では足りぬな。」
「黙れセイル!なぜだ!!なぜそんな道を選んだ!!あの時お前は・・・。」
「余は王になると言った。王になり世界の全てを救ってみせると。しかしあの頃の夢では世界のすべては救えない。それをハーデスを通じて知りそして理解した。」
そう言うとセイルの背後に巨大な影が現れる。
ハーデス、闇の魔王だ。
『我らは救う。そう決意しここにある。我はこやつの決意に力を・・・ただ、貸すだけだ。』
その言葉にアシトラは過剰に反応する。
剣と強く握り締め、言葉を発する。
「黙れ悪の根源が!!貴様が・・・貴様さえ・・・!!」
強い力はアシトラの体からあふれ出し光となって光の聖王アシェラトが現れる。
『アシトラ、私はあなたに力を貸しましょう。あなたが思ったことをまっすぐその剣に乗せて語りなさい。』
そういうとアシトラの剣が光輝きだした。
その光は暖かく眩しく綺麗でそして強い光だ。
その剣を再び強く握りしめたアシトラは剣を天へと振りかざし高らかに叫んだ。
「者共!これは聖戦である。我々騎士団はこの戦いに勝利しそして必ずや光ある明日の日々を守り抜くであろう!!抜刀せよ!!」
様々な金属音が鳴り響きアルカライズ軍が光を発し始める。
セイルはそのアシトラの行動に「変わらないな」と呟き片手を掲げる。
「皆のもの、今日まで良く余に付いてきてくれた、礼を言う。その戦いも今日を持って終戦となる。明日は新たなる世界の幕開けだ。進め・・・各々の思いを胸に。そして己の全てを解き放ちこの世の全てをねじ伏せよ!」
レジスタ軍の顔つきが変わり戦人の顔となる。
それまで己の鍛え上げてきた武器を、己の右腕となり敵を倒してきた、敵から身を守ってくれた武器を手に前へと進んでいく。
「「聖戦の幕開けだ!!!」」
力は拮抗していた。
それは今までの10年の戦でわかっていたことだ。
個々の力ではアルカライズ軍のほうが上だが軍となってはその何倍もの兵のいるレジスタに楽が出来るわけではなかった。
戦争は両者の入り乱れる正面からの殴り合いである。
アルカライズ軍は本国をすぐ後ろに構えこの一線を通すわけにはいかない。
そしてレジスタ軍はこの一線さえ通ってしまえば勝利は目前だった。
この細く大きなラインを上に両者は向かい合う。
それはまた魔王と聖王をつけたものも同じくして。
「私は・・・強くなったわ。あなたは大きくなったわねセイル。」
優しい声で投げかける。
「そうだね。でも、君に僕は殺せない。君の太刀は僕の命までは届かない。」
一瞬で剣から大量の光が漏洩しだす。
「そんなこと・・・やってみなければわからない!!!」
剣と大きく振り光は衝撃波となって空を裂く。
しかしセイルはそれに微動だにせずただそれを見つめていた。
不意に横から影が飛び出し光の衝撃波を弾く。
「魔王様!止めますけどせめて避けて下さい!」
「クククッすまんすまんルミエラよ。ではかのものの相手は汝らに任せるぞ。」
そう言ってセイルは戦場の真っ只中へと消えていく。
一歩一歩アルカライズ本国に向けて。
「ま、待てセイル!!逃がすわけが・・!」
そう言って追いかけようとした矢先四方八方から先を感じ身を固める。
「っちぇ、そのまま後ろを向けば一刺しだったのに。」
「くだらん、仮にも騎士団団長だぞ、そんなへまするわけがあるか。」
そう言いながら現れたのは5人の戦士だ。
「貴様らは・・・魔王の側近か・・・。いいだろう手短に片付けてやる!!!」
「俺達もなめられたものだな。・・・まぁいいさ後はあの御方が何とかしてくれる。」
一対五。
彼女の剣の強さはそのレベルだ。
まともにやり合って敵う者は魔王ただ一人。
そして魔王を殺せるのも彼女一人だった。
あの別れ際に交わした約束。
それは幾度となくセイルの命を救った。
どれだけ致命傷を受けようとあの契りの元に死ぬことはなくここまで来れたのだ。
『良いのか?セイルよ。これで別れとなるのだぞ?』
「いいさ、俺は魔王で彼女は聖女。違いすぎるにもほどがある。それより急ごう・・・もう、終わりは近いのだから。」
聖庭アルカライズ本国内部。
王とその親族ら上位階級の人間はこの国を捨て亡命をする準備で忙しかった。
城の兵達には悟られぬよう全ての兵を城外の防衛に当たらせ持てる限りの光り輝く金属物を手に裏口から逃げ出そうとしていた。
「ごきげんよう、見たこともない聖帝国王様。」
「き、貴様はレジスタの!!へ、兵は誰かおらぬか!!おい!!」
場内は静まり返っている。
足音一つしない。
城外は戦場の激しい音で城内の人の声など届くわけがなかった。
「醜いな。愚かなる国王よ、汝らは救うにあたいせん屑だ。・・・消えろ。」
そういうと王等は己の黒い影に徐々に徐々に飲み込まれていった。
そのときの叫びは誰の耳にも届くことはなく。
セイルは玉座にて待つ。
ただ時を。
なすべきことがなせる唯一にして一瞬の時を。
戦場は王が死に、夜となっても静かになることはなった。
そして誰もいない、入ってくるはずもない城内に足音が聞こえる。
大きすぎる月明かりが差し込む玉座野間の扉の向こうでその足音は止まる。
そして扉のわずかな隙間から漏れるは強く神々しく輝く光だ。
何も言わなかった。
何もせずただ大きな玉座の間の扉を開ける。
アシトラの正面で玉座に座っていたのはセイルだった。
「王はどうした・・・殺したのか?」
セイルは眠りについているかのように目を閉じたまま静かに答える。
「いや、あの屑どもは逃げた。お前だってわかってたんだろ?だから礼儀もなしに扉を開いたんだ。」
アシトラは静かに閉めた扉にもたれかかりながら答えた。
「そうか・・・殺したのか・・・私たちは・・・負けたんだな。私は結局お前には勝てなかった。」
泣きそうな声ででもまだ泣いていない声で小さくそう言った。
そしてその場から一歩踏み出し言葉を発する。
「でも、でもまだ2人の決着は付いてない。剣を抜け・・・セイルそして私と戦え!」
「その体で勝てるわけがないだろ。僕はあの子等に一太刀も受けずに勝てるんだ。僕のほうが強いよ。」
アシトラは剣を杖代わりに地面に刺しながら、体中から血を流しながら一歩一歩少しずつ前に進んでいく。
「もう、時間だ。」
セイルは玉座から立ち呪文を唱えだす。
静かな城内にそれだけが響き渡る。
それは瞬く間に城外へ戦場へそして隣の土地へと響き渡る。
「なんだ・・・これは・・・目が・・・霞む・・眠りの呪文?・・セイ・・る。」
アシトラはその場に崩れ去り刺されていた剣も音を立てて倒れる。
「おやすみ・・・アシトラ」心の中でそう思いながらも順番に呪文を唱え成すべきことをなしていく。
「魔王様・・・やったんだ。」
「寂しくなるね・・・。」
アシトラと戦い倒れていたルミエラたちもほんの一瞬目を覚ましそして再び眠りに付く。
そして世界は静まり返った。
『本当にこれでよいのか?』
「かまわぬ。」
『これで救えるとは限らぬぞ?』
「是非もなし。これにて全てが終わり、そして始まる。」
「終わらせない・・・私が止める。」
世界で一人眠らずにいたものがいた。
アシトラだ。下を噛み睡魔を避けた。
しかし言葉を発するも成すだけの力は残っていなかった。
「アシトラ、僕は今から全てを救うよ。その方法はもしかしたら救いから最も遠い方法かもしれない。でも救いから最も遠い方法でも世界の全てを無へと救ってみせる。だから・・・おやすみ。」
そう言ってセイルは再びアシトラにのみ睡魔の呪文をかけた。
『あなたはなにをするのです、魔王よ。世界の全てをを救う・・・そんなことが出来るとでも?』
聖王が問いかける。
『「ただ眺めることしか出来ぬ、貸し与えることしかせぬ王は黙っておれ。」』
「汝にはこの後の世のことを任せたい。アシトラとともに導きの手を差し伸べてやってくれ。」
『一体どういうことですか』と問いかける聖王の言葉はすでに二人の耳には届いていない。
『では・・・創めようか。我が契約者セイルよ。』
「うむ。世界の初期化を始めよう。」
そう言うとセイルの周りを黒い影が包みだす。
そう、あの時のように。
しかしもっと強く濃く黒い影が。
「世界の記憶の抹消を申請。」
『承諾。世界の記憶の抹消を許可する。』
「世界の全ての体制の初期化を申請。」
『承諾。世界の全ての体制を初期化する。』
「世界の全ての格差の消滅を申請。」
『承諾。世界の全ての格差の消滅を許可する。』
「以上により契約を形成。契約の対価は余の全て。」
『承諾。今より上記の契約を執行する。』
こうして世界は終わり・・・創まりを迎えるのだった。
説明 | ||
人には2種類いる。 光のものと闇のもの。 2つは交わることを許されず闇のものは光の国にいることすら許されない。 そして闇メシアを中心としたレジスタが動き出す。 |
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