IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ― 三十四話
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今、俺達は帰るために全員がクラス別のバスに乗り込んでいる

 

「……………」

 

目を瞑り、右側(窓側)にだけイヤホンをしている俺に

 

「だ、大丈夫か?士」

 

と、箒が声をかけてくれる

 

いやー、ありがたいね

 

原作とは違って束さんとも仲直りできたし

 

でも……

 

「いや、体調が優れないんだ……もしかしたら死んでしまうかもしれない」

 

なんて事を言ってみる……否、言ってしまった

 

「な、何!?ほ、本当か!?それは、大変だ!待っていろ!水を買ってくる!」

 

冗談で言ったんだけどな……

 

物凄い勢いで水を買いに行く箒

 

バスが出発するまであと30分近くある

 

「やってしまった……」

 

体調が優れないのは本当なんだけど……

 

「大丈夫ですか?士さん」

 

「水なら私がやりたいんだが今は持っていない……な、なんなら……私のだ、唾液でも……///」

 

「水なら僕が持ってるよ♪はい、士」

 

鈴と簪は2、4組だからいない

 

「「シャルロット(さん)!!」」

 

シャルが飲みかけのペットボトルを差し出してくる

 

ありがたいけど……

 

「サンキューなシャル……でも、飲みかけだろ?シャルにも悪いし……」

 

「そ、そうですわ!」

 

「う、うむ!箒が水を買ってくると言っていたしな!」

 

セシリアとラウラが同時に頷きあう

 

「むぅ〜」

 

な、なんで惜しそうな顔するんだ?

 

なんて、揉めていると

 

車内に見知らぬ女性が入ってきた

 

「ねえ、神谷士くんっているかしら?」

 

誰だっけ?

 

今、しんどいんだから自重してくれよ

 

まあ、無視するのもアレだしな……

 

「……俺っす」

 

と、適当に手を振る

 

「君がそうなんだ……へぇ」

 

本格的に誰だ?この人

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ」

 

「ああ……アンタが……」

 

思い出した思い出した

 

そういやこんな人だったな……

 

「もう、体は大丈夫ですか?」

 

ブレイドのジャックは生半可な防御力では絶対防御があるとはいえ自身へのダメージも大きいはず

 

「ええ……心配してくれてありがと♪」

 

まあ、元気そうだな……

 

「元気そうで何よりです……あのセカンドシフトは、福音がアンタを守ろうとして……ですよね?」

 

俺が言うと、さっきまでの陽気な表情が一変し険しい表情になる

 

「……何故それを?」

 

言えないよな……原作知識なんて

 

「まぁ、憶測です……」

 

「ええ……あの子は私を守るために、望まぬ戦いへと身を投じた。強引なセカンド・シフト……あの子は私のために、自分の世界を捨てた」

 

千冬姉の報告では、コアは無事だったが暴走を起こしたことから凍結処置がとられてしまったと聞いている

 

これは……つらいな

 

「だから、私は許さない……あの子の判断能力を奪い、全てのISを敵に見せかけた元凶を―――必ず追って、報いを受けさせる……何よりも飛ぶことが好きだったあの子が、翼を奪われた……相手が何であろうと、私は許しはしない」

 

重々しく語るその表情からは激しい怒気を感じる……しかし、それと同じくらいの悲しさや切なさを感じる

 

ちょっとは……楽にさせてあげられねぇかな……

 

「ナターシャ……さん」

 

「何?」

 

イヤホンを外しながら立ち上がり、割と広いバスの通路で向かい合う

 

セシリア達は、少し後ろ側でその様子を、クラスメイトはよく分からない、聞こえない話に戸惑っている様子

 

「苦しいときってのは前進してるときだと思うんですよね……今回のこの事件はちょっとした不幸かもしれません……でも、不幸ってのはナイフみたいなものだと思うんです」

 

「ナイ……フ……?」

 

「はい……ナイフは刃を持つと手を切りますけど、ちゃんと取っ手を掴むと役に立つ……今回はたまたま刃を握ってしまった……いや、握らされたんです……だから……」

 

「だから……?」

 

「今度は、できれば俺を掴んでください……俺がナターシャさんのナイフの取っ手になりますから……辛いときは俺に声かけてください……絶対、助けてみせますから……」

 

小さく微笑みながら言う

 

これで楽になってくれれば―――って、うわわわわっ!

 

急に抱きつかれてる!?

 

「……ありが、とう」

 

俺の胸の中で静かにつぶやくナターシャさん

 

その声は震えている

 

小さく啜っていたその声は次第に大きくなり、それを泣くまいと耐えるように……それでも俺の胸にしがみつき、嗚咽を漏らしていた

 

冷やかしたり、茶化したりする者はいなかった……

 

 

 

「うん、ありがと……」

 

しばらくたち、落ち着いたのかナターシャさんが俺から離れる

 

「もう……大丈夫ですか?」

 

「ええ……それに、私の盾に……刃になってくれるんでしょう?」

 

少し、いたずら気味に笑いながら言ってくる

 

「まぁ……そうですね……折れない程度に頑張ります」

 

少しふざけて反す

 

「ぶぅ〜、しっかり守ってよ〜」

 

はぁ……面倒だけど

 

「分かってますよ……俺もそいつらは気に食わないですしね……たとえ折れても、守って見せますよ……それに俺は頑丈な方ですから……美人の一人や二人どんと来いですよ」

 

「び、美人!?」

 

ん?驚くことあるかな?

 

「はい……美人ですよ……ね?」

 

「え、ああ、えっと……あう〜///(美人なんて初めて言われた……)」

 

「ナターシャさん!?」

 

なんか、急にしぼんだぞ!?大丈夫か!?

 

「だ、大丈夫よ……それじゃあ、よろしくね……」

 

 

チュッ

 

 

不意討ちで頬っぺたにキスされてしまった

 

「へ?」

 

「本当にありがとうね、黄金のナイトさん♪」

 

「じゃあ、またね♪バーイ」

 

「うっ……うっす//」

 

ひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャさん

 

な、何だ?あの人……

 

 

 

 

 

 

 

 

ぞくり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ふと悪寒を感じ、おそるおそる、悪寒を感じた方向を振り向いた

 

「浮気者め」

 

「士ってモテるねぇ」

 

「本当に、行く先々で幸せいっぱいのようですわね」

 

 

すたすたとゆっくり歩いてくる三人

 

……に、加え

 

「士ぁ……私がせっかく水を買って来てやっているというのに……貴様は!」

 

ポニーテールの大和撫子が一人

 

 

皆さん、さようなら……また、会えるといいですね

 

 

 

 

 

 

士side out−

 

 

「……」

 

バスから降りたナターシャは、目的の人物を見つけてそちらへと向かう

 

「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ」

 

そう言ってきたのは、千冬だった

 

ナターシャは、その言葉に少しだけはにかんで見せる

 

「貴方をライバルにはしたくなかったのだけれど……参戦させていただこうかしら♪」

 

「やれやれ……それより、昨日の今日でもう動いて平気なのか?」

 

「ええ、それは問題なく―――私は、あの子に守られていましたから」

 

ここで言う『あの子』とは、つまり暴走によって今回の事件を引き起こした福音のことを指してる

 

「やはり、そうか……あまり無茶なことはするなよ……この後も、査問委員会があるんだろ?しばらくはおとなしくしておいたほうがいい」

 

「それは忠告ですか、ブリュンヒルデ?」

 

IS世界大会『モンド・グロッソ』、その総合優勝者に授けられる最強の称号・ブリュンヒルデ

 

千冬はその第一回受賞者であったが、正直その名前で呼ばれることは好きではなかった

 

「アドバイスさ……ただのな」

 

「そうですか……それでは、おとなしくしていましょう……しばらくは、ね」

 

一度だけ鋭い視線を交わしあったふたりは、それ以上の言葉なく互いの帰路に就く

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ」

 

「?」

 

「士は渡さんぞ?」

 

ゴゴゴゴッとナターシャを睨みつける千冬

 

しかし、ナターシャは笑みを浮かべて答えた

 

「ふふふっ♪それも忠告として心得ておくわ……でも―――障害が高ければ高いほど燃えるタイプなのよね」

 

ナイトによろしく♪と最後にナターシャは去って行った

 

千冬は頭を抱えて呟く

 

「まったく、あいつはどれだけ女を落とせば気が済むんだ……」

 

 

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三十四話
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