仮面ライダーディージェント
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好太郎が気を失ってしまった為、一時的に撤退した歩達は路地裏の入り口の所まで次元断裂を通って移動していた。

しかし移動するや否や、ファイズが掴まれていた腕を振り払い、歩の胸倉を掴んで壁に押し当てた。

 

「貴様、何故逃げた!?このままヤツを野放しにすれば、どうなるか分かったものじゃないぞ!!」

「先ほども言った通り、このままアレを倒せば章治さんを消す事になります。それに、怪我人を庇いながら戦うのは、さすがに不利です」

「クソッ…!こっちは急いでると言うのに…!!」

 

歩の主張を聞くと、ファイズは乱暴に胸倉を離しながら悪態を吐いた。

 

「“急いでる”?何かあったんですか?」

「お前には関係ないだろ…大体、お前らは一体何なんだ?さっきの灰色の靄と言い、何をしたんだ…?」

 

歩はそれにどう答えようか頭を掻きながら考え出した。

しかし今回は何時もの様に強くガリガリと掻くのではなく、指先で軽くポリポリと言った感じだ。

 

「ん〜…とりあえず簡単に言ってしまうと、宇宙人と言った方が分かりやすいですね」

「は?何を言ってるんだお前……ん?待てよ……」

 

ファイズは仮面の奥で訝しげな顔をしたが、正幸から聞いたある事を思い出した。

 

“異世界のライダーズギアを持った奴がミラーモンスターをこの世界に連れ込んだ”と言う事だ。

 

「……お前、まさかライダーズギアを持ってるのか?それも、従来の物とは違う……」

「まあ、確かにこの世界で言うライダーズギアは持ってますよ。でも何で知って……」

 

歩が言い切る前に、ファイズは手に持ったファイズフォンの銃口を歩の顎に押し当てた。

 

「なら、貴様だな?ミラーモンスターとか言う鳥の化け物をこの世界に連れ込んだのは……」

 

歩は一瞬思考が停止したが、ファイズの言いたい事は大体分かった。

どうやら神童がこの世界に送り込んだゴルドフェニックスが、ファイズ側で暴れている様だ。

しかも神童が自分が「歪み」を送り込んだと、出まかせを吹き込んだらしい。

そうなると、ファイズが自分を敵と思いこんでしまっても仕方がないが、ここで言い争ってる時間はなさそうだ。

 

「違います。少なくともそのミラーモンスターは僕が送り込んだ物ではありませんし、初めからそれも消す予定でした。それで、急いでると言うのはひょっとしてスマートブレインのどこかがミラーモンスターの攻撃を受けているんですか?」

「ああそうだ。今我々の施設が襲撃を受けてるんだ。だから早く章治を連れ戻して援護に向かわなければならんのだ」

「その施設はどこですか?」

「それを聞いてどうする気だ…?」

「ミラーモンスターを消しに行きます」

「貴様はまだ信用できん。もし貴様が本当に“悪魔“ともなれば、尚更な……」

「………」

 

歩は視線を下へ向け、それを否定する事ができなかった。

自分が“悪魔”だと思った事は何度もある。

今まで渡って来た世界でも、その得体の知れない力の所為でそう罵られた事もあった。

それでも歩は世界を渡り続けた。そうしなければその世界が「歪み」の所為で消えてしまうからだ。それだけは絶対に嫌だった。

自分が貶(けな)されるだけで世界が救われるんだったら、喜んでその役目を担おう。

そして、いつかは自分を認めてくれる…そんな場所があるんじゃないかと思い、その小さな希望に縋(すが)って今まで世界を渡り歩いて来たのだ。

自分の存在意義を求めて……。

 

「あの…ちょっと良いですか?」

「何だお前は…?」

 

そんな考えに浸っていると、亜由美が好太郎の様子を看ながらも、ファイズに問い掛けて来た。

その口論に割って入って来た亜由美をファイズは睨みつけるが、亜由美は更に続けた。

 

「え、えぇ〜と…よく分かんないんですけど、今はその施設に行った方がいいんじゃないですか?それに、歩は“悪魔”なんかじゃありません。私の大事な家族です」

 

そう亜由美が断言した事に歩は軽く驚いた。

彼女に“家族”と呼ばれたのはこれで二度目だ。

本当は血の繋がりも何もない赤の他人の筈なのに、この少女は自分の事をそう言ってくれる。

もしかしたら、彼女なら自分の居場所になってくれるかもしれないが、本当に自分を認めてくれるかなんて分からない。

 

だからこそ、彼女とは未だにシンクロしていない。

最初はそんな事など考えずにシンクロしようかと思っていたが、加奈のあの言葉を聞いた時からそれはしない事に決めた。

彼女には普通の生活をしていて欲しいと思ったのだ。

もし彼女とシンクロすれば、例え彼女が自分の代わりにDプロジェクトを完遂する事にならなくても、日常生活に何らかの影響が出る。それだけは避けたいと思ったのだ。

それなら態々彼女の世界から連れ出さなければ良いのではないかという話にはなるのだが、あのまま彼女を止めた世界に置いて行く気にはならなかった。

姿形は違えど、彼女は自分の異次元同位体…そしてその考え方も少しだけ自分と似ている。

誰かが傷ついてて、それを助けられるんだったら絶対に助けたいと言う想いだ。

それに感化されたからだろう…彼女をこうしてライダーサークルへ連れて来たのは……。

 

「フン、家族…か。確かに家族を罵倒されれば、怒るのも当然だろうな……。それで、本当にミラーモンスターは消すつもりなんだな?」

「ハイ」

 

その短い返事を聞いたファイズはしばらくその目を見た後、ファイズフォンを下げて閉じると、ドライバーにセットした。

そして歩が撤退する時にこの空間まで同時に移動させておいたオートバジンに歩み寄って跨ると、こちらを向いた。

 

「だったら、証明して見せろ。お前が“悪魔”ではないという証明をな」

 

そう言うと親指で後部座席を指差した。どうやら乗れと言う事なのだろう。

 

「自分のがあるので結構です」

 

そう断りを入れて自分の横に次元断裂を展開させると、マシンディージェンターをクラインの壺から取り出した。

そのありえない現象を見たファイズはしばらく固まっていたが、「本当に何でもアリだな」と呟いてエンジンを蒸かして走り出した。

それを見た歩は、ポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、それにこの世界の移住先までの簡単な地図を書くと、それを千切って亜由美に渡した。

 

「ここに書かれてる場所でしばらく待ってて。イメージすれば簡単に行ける筈だから」

「ウン…でも、大丈夫なの?さっきまで倒れてたのに……」

 

亜由美は歩を心配そうな目で見て来た。

確かに、今のままでは十分には動けないだろう。それでも、決めたのだ。自分を犠牲にしてでも世界を守るために戦うと……。

それは、ディージェントになったあの時からずっと変わらない、須藤歩としての意思だ。

歩は亜由美の顔を覗き込みながらできるだけの笑顔で答えた。

 

「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう……」

「おい、何してる!早く付いて来い!!」

 

亜由美の頭をクシャリと撫でながら礼を言っていると、痺れを切らしたファイズが怒鳴って来た。

歩は踵を返しながら「じゃあ、行って来る」と言って、マシンディージェンターにヘルメットを付けながら跨った。

 

そしてその様子を見たファイズは再び走り出し、歩はその後を追った。

 

「……気を付けてね」

 

亜由美はそう小さく呟くと、その手に握られた紙切れに書かれている場所をイメージして次元断裂を展開させると、好太郎毎その中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

研究施設は悲惨な有様だった。

機材からは火が燃え上がり、床には灰の絨毯とライオトルーパーの装甲が辺り一面に転がっている。

 

ライオトルーパーは低コストでの生産に主力を置いたため、いくら装着者にダメージが通ってもその装甲が強制解除される事がない。

そのため装着者の限界を超えても離脱する事が出来ず、その鎧の中で死を迎える事になってしまうのだ。

 

「ハァ…ハァ……み、皆、無事…か……」

 

羽の爆撃による猛攻を終えた後、カイザは倒れた者達を見た。

しかしそこには蛇の特性を持ったスネークオルフェノクと、まだ中身の入っているライオトルーパーしかいなかった。

 

『ま、まだ生きてるぜ社長……』

「僕も…まだ死んでません……。でも、他の皆は……」

(まさか…もう二人しか残っていないなんて……)

 

カイザはあまりの生存者の少なさに思わず悲壮に暮れそうになったが、今はまだ早いと自分に言い聞かせて堪えた。

まだミラーモンスターは倒せていないのだ。ファイズが章治を連れ戻すまでは何とか持ち堪えなければ……。

 

――――キイィィィィン……――――

 

「っ!!来る!気を付けろ!!」

 

カイザの耳に再びあの耳鳴りが聞こえ、社員達に警告を出した。

 

この耳鳴りはどうもミラーモンスターが襲ってくる予兆の様だが、何故か自分にしか聞こえない。

恐らく一度襲われた影響で自分の中にあるオルフェノクとしての本能が耳鳴りと言う形で警告を出しているのだろう。

 

『キュアアァァァァ!』

「く、コイツ…!これでも喰らってろ!!」

 

鏡面化した機材から再びその姿を現したミラーモンスターに、ライオトルーパーがハンドグリップ型ツール・アクセレイガンを光線銃型のガンモードにしてミラーモンスターを撃つが、一切効いている様子がない。

 

一応このアクセレイガンにも全ての生物に有毒なフォトンブラッドを使っているのだが、この不死鳥はその毒を一切受け付けようとしないのだ。

 

『ギュゥアアァァ!!』

「えっ!?うわあぁぁぁぁ!!」

 

その身体に命中するエネルギー弾に、ミラーモンスターは煩わしそうに鳴くと、その撃ち出しているライオトルーパーに向かって襲い掛かり、その鉤爪で両肩を掴むとそのまま鏡の中へ引きずり込もうとした。

 

「やめろおぉぉぉぉ!!」

 

[エクシード・チャージ]

 

カイザは叫びながら、ライオトルーパーに襲い掛かろうとしたミラーモンスターを、カイザフォンのエンターキーを押した後にカイザ専用銃剣型マルチウェポン・カイザブレイガンで撃ち抜いた。

 

『ギュアァァ!?』

「うわっ!」

 

カイザブレイガンから撃ち出されたエネルギー弾が着弾したその瞬間、それが網目状に展開してミラーモンスターの動きを封じ、掴んだライオトルーパーを離すと、そのまま地面に堕ちた。

 

「大丈夫か!?」

「は、はい…!何とか……!」

 

襲われそうになったライオトルーパーに駆けつけたが、肩の装甲を軽く削られただけで大した怪我はなさそうだった。

 

それを確認するとすぐさまミラーモンスターに向き直り、カイザブレイガンを構えて突っ込んで行った。

 

「おおぉぉぉらあぁぁぁぁ!!」

『ギュアアァァァ!!』

 

黄色いフォトンブラッドで形成されたブレードでミラーモンスターの胴体を切り裂いて、その巨体に大きな風穴を空けるが、それと同時に拘束が解け、身体から粒子を噴き出しながら再び鏡の中へと戻って行ってしまう。

 

「クソ…!また逃げられたか…!このままだとジリ貧だぞ…!!」

 

カイザはファイズが抜けてから何度もエクシード・チャージを決めてはいるのだが、その攻撃によって粒子化させる事が出来ても、その後の決定打が打てずに鏡の中へ逃げられてしまうのだ。

何とかライオトルーパーやオルフェノク態の社員が止めを刺そうと奮闘するものの、彼らではどうしても火力が足りないのだ。

しかも今度はあの時の様に簡単に逃げ出そうとはせず、しばらく時間をおいた後にまた完全に再生した状態で襲い掛かって来るのだ。

このままだと、確実にこちらがやられる…!

 

(クソ…早く戻って来てくれ…!美玖…章治…!!)

 

そう心の中で叫ぶと、外へと続く廊下から二つのエンジン音が聞こえてきた。

まさかと思い外を見ると、バイクに乗った二つの影がこちらに近づいているのが見えた。

 

一つは先程も見たファイズ…そしてもう一つは、青黒い少し派手目なバイクに乗った同色のフルフェイスヘルメットを被った人物だった。

 

「社長!お待たせしました!!」

「遅いですよ美玖さん!!」

『ったく!待ちくたびれたぜ!!』

 

ファイズとフルフェイスヘルメットの人物がそのまま研究所内までバイクを走らせて自分たちのすぐ横で止まると、ファイズが声を張り上げた。

それに活気づく社員達を余所に、カイザはもう一人の人物を見た。

 

その藍色のバイクに乗っている人物は、灰色のビジネススーツを着ており、章治とは違う雰囲気を漂わせていた。

 

『今までどこほっつき歩いてやがったテメェ!!』

「まずはそのヘルメットを取って、僕達に殴られてください!!」

 

その雰囲気に気付かないまま生き残った二人の社員達はその人物に声を掛けていると、ファイズが申し訳なさそうに仮面越しに頬を掻きながら謝罪の言葉を述べた。

 

「その…実はな、章治は色々と事情があって連れ戻す事が出来なかったんだ。その代わりとしてコイツがアレを倒せるらしかったからな……。それで代わりに連れて来たんだ…本当に済まない……」

 

その言葉を聞いた社員二人は目を丸くしながら、(実際は見えないが多分そんな顔をしてる)その人物を見た。

 

「でも、少なくともこの中ではアレに一番対抗できますので安心してください」

 

そう抑揚のない声で男がヘルメットをはずすと、その中からは少し長めの真ん中分けにした黒髪で、目の虚ろな青年の顔が出て来た。

 

「美玖…この人は一体……」

「私も完全に信じたわけではありませんが……例の神童とか名乗った男が言っていた“悪魔”らしいです」

 

カイザはファイズにしか聞こえない様にボソボソと話しかけると、ファイズはカイザが若干予想していた答えを口にした。

 

(じゃあ、コイツがミラーモンスターを…いや、それほど危ない奴には見えない……)

 

カイザは目の前にいる社員に色々としつこく質問されている青年を見た。

その青年からは異質な雰囲気が溢れ出ているものの、それほど危険と言ったわけではなさそうだった。

 

少なくとも正幸は大手企業の社長だ。人を見る目くらいはある。

それに、そんな危険人物を美玖が連れて来るわけがない事ぐらい、自分がよく知ってる。

 

カイザがその青年に近づくと、青年も自分をその虚ろな瞳でこちらを見てきた。

 

「……何でしょうか?」

「君は…世界を滅ぼしたいと、思った事はあるかい?」

 

おもむろにそう訊ねると、青年は一拍置いてそれに答えた。

 

「……確かに、少しくらいならそんな事を思った事があります。何故自分がこんな目に合わなければいけないのか…何故世界は自分を認めてくれないのか…そう思う事もありますけど、それでも世界を滅ぼせば、それだけ多くの人達を殺す事になる。だからそんな事は絶対にしません」

 

その答えを聞いてカイザは満足した。

 

この青年の言葉には嘘偽りが一切入っていなかった。

何故そう思うかと言うと、彼が自分を批評したからだ。

批評すればそれだけそちらが不利になるにも関わらず、この青年は自分のデメリットを何一つ隠すことなく答えたのだ。

もし彼が綺麗事しか抜かしていないようならば、それはただの偽善者でしかない。それでは信用するに値しない。

彼が世界を滅ぼしたくないと言うのは真実だろうし、もし仮に“悪魔”だったとしてもこの青年は世界を壊す様な真似はしようとしないだろう。

これは、今まで自分が磨いてきた観察眼による絶対的な直観だ。

これくらいなければオルフェノク達のボスなどやってられない。

 

カイザは仮面の奥で微笑みかけると、彼に手を差し出した。

それに一瞬青年が呆けたが、すぐにその動作を理解すると、同じように手を差し伸べて来て自分の手を掴んだ。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ。俺はスマートブレイン代表取締役・岸辺正幸だ」

「須藤歩です」

 

握手して軽く挨拶を交わすと、カイザは本題を切り出した。

 

「それで、アレを倒すにはどうすればいい?」

「僕一人でも十分ですので、皆さんは巻き添えを喰らわない様に下がっていてください」

『本当に大丈夫かよ?』

「途中で無理でしたは無しですよ」

 

そうあっけらかんと言ってのけた青年…歩の言葉に社員達は半信半疑な様相を示した。

 

社員達の気持ちは分からなくはないが、少なくとも自分達よりはアレに詳しい筈だ。

それに、自分達に被害が出ないように配慮もしているし、それだけ自信があるのだろう。

 

「まあまあ、ここは専門家に任せた方が得策だよ。ほら、『餅は餅屋』って言うじゃない?この人に任せてみようよ」

「まぁ、社長がそう言うんでしたら……」

『そんじゃ、俺達も任せるとするか…だが、言ったからにはゼッテェ倒せよ』

「初めからそのつもりです」

 

歩は社員達の言葉にそう素っ気なく返しながらバイクから降りると、何時の間にか右手に持っていた持ち手のついた大きなバックル状の機械を腹部に宛がった。

すると、持ち手の反対側から帯が伸び、腰回りを一周してベルトを形成した。どうやらこれが異世界のライダーズギアの様だ。従来の物とは全く違う。

これが終わったらちょっと貸してもらおう。

そう思っていると今度は持ち手部分を引いて、バックル部分が時計回りに90度回転させた。

するとバックルの上部にカードか何かを挿入するスリットが現れた。

更にスーツの右ポケットから一枚のカードを取り出し、バックルのスリットにセットした。

 

[カメンライド……]

 

セットされた瞬間、これまた従来の物とは違う認識音声が流れ、歩が右手をゆっくりと片の高さまで上げ、手首を反転させて外側を向けると、音声コードを唱えた。

 

「変身」

 

[ディージェント!]

 

振り子の要領で上げた腕を勢いよく振り下ろして持ち手部分の底を押し込んでバックルを先程の反対側に90度回転して元に戻り、完全にカードの内容を読み取ったであろう認識音声が鳴り響いた。

それと同時に彼の身体がテレビの砂嵐の様な物に包み込まれ、バックルの中央に嵌っていた青黒い石から黒い板の様な物が複数枚飛び出した。

それが各身体の部位に突き刺さると、その部分から砂嵐が消え、その中で形成されていたであろう灰色の装甲が現れるがそれも束の間、次の瞬間にはいたが突き刺さった箇所から染み込む言うに全身を水色に染め上げ、更にその色を濃くしていきインディゴカラーへと変色する。

左右対称の横倒しになった黄色い三角形の複眼が顔に突き刺さった板で作られた二本線の矢印越しに輝き、これで全ての変化を完了させたようだ。

 

(これが…異世界のライダーか……)

 

――――キイィィィィン……――――

 

「ッ!?」

「そろそろ出て来るので皆さんは下がってて下さい」

 

この異世界のライダーにも自分と同じく耳鳴りが聞こえたのか、両手のグローブを嵌め直す仕草をしながらそう警告した。

 

『キュアァァァッ!!』

 

その瞬間、耳鳴りの元凶がであるミラーモンスターが、今度は設置されたディスプレイから完全に再生させた状態で飛び出して来てこちらに突っ込んできた。

 

『お、おい!こっち来てるぞ!?』

「心配はいりません」

 

オルフェノクの一人がそう狼狽した面持ちで異世界のライダーにそう言うと、彼は大したことではなさそうに素っ気なく返しながら、バックルの持ち手部分を引いて、どこからともなく取り出した一枚のカードをそのバックルのスリットへセットして持ち手部分を押し込んだ。

 

[アタックライド…ブラスト!]

 

「…ハッ!」

『ギュアァァ!?』

 

電子音声が鳴り響き、右手をミラーモンスターに翳すと、その掌から拳ほどの大きさの藍色のエネルギー弾を放った。

その一撃をくらったミラーモンスターは悲痛な鳴き声を上げ、空中で急停止してしまう。

 

「………」

『ギュイィッ!?ギュアアァ!!』

 

その隙に黙々と異世界のライダーが黙々とエネルギー弾を単発銃の様に撃ち放って行き、遂にはミラーモンスターの身体が粒子化し始めた。

ミラーモンスターはこの窮地を脱するためにその巨大な翼から黄金の羽根を鏤(ちりば)め、近くに合った鏡面化した機材の中へと逃げ込んだ。

 

「マズイッ!」

 

カイザは思わずそう叫んだ。アレは少しでも衝撃を与えればその瞬間爆発する代物だ。

それによって社員達が何人も灰へと還されていったのだ。

 

アレをまともに喰らうわけにはいかない…!

 

「全員、伏せてください」

「へ?ってどわあぁぁぁ!?」

 

そう思っていると、ライダーがそう呟いて警告を出し、今度は両手から先程よりも一回り小さいエネルギー弾をマシンガンの如く撃ち出して、空中に滞在している全ての羽を瞬く間に迎撃した。

それによって上から爆音と爆風が吹き荒れるが、こちらに被害は一切なく、それを実行したライダーはただ悠然とそこに立っていた。

その爆炎に包まれる風景の中に立つその姿はまさに、全てを救う救世主にも、全てを破壊する悪魔にも見える異端者だった。

 

 

 

 

 

(威力が、上がってる……?)

 

ディージェントはブラストを撃ち出した時にそう思った。

以前から単発式と連射式という使い分けがあったが、ここまでの威力はなかったはずだ。

それに、ディージェントは自分に関する情報はすべて持っているが、カードの種類が増えると言う事はあっても、スペックが上昇するなど今までなかった事だし、何より新しく入って来た情報が装着者に送られて来ないのはいくらなんでも不自然だ。

 

「すごい……」

『で、でもどうすんだよ。また隠れちまったら、さっきとあんま変わんねぇぞ』

 

ディージェントが自分のスペックの上昇に疑問を持っていると、後ろからライオトルーパーとスネークオルフェノクの会話が聞こえて来た。

確かに今のままでは相手に決定打を与えられないだろう。

しかもここは「龍騎の世界」ではないため、ミラーワールドへ介入する事は不可能だ。

 

しかし、そんな状況でも対処は可能だ。

ディージェントドライバーに備わっている成長記録機能が、この状況に合わせたカードを作成してくれたのだ。

その情報はすぐに装着者に伝わり、ディージェントは早速クラインの壺からそのカードを取り出した。

そのカードには龍騎がミラーワールドへ入る瞬間のイラストが描かれており、その下には「ミラーダイバー」と書かれていた。

絵柄のライダーが龍騎なのは、この能力の大元であるライダーに接触したからだろう。

それはつまり龍騎…真司との絆の証でもあった。

 

「真司君、早速君の力を使わせてもらうよ」

 

[アタックライド…ミラーダイバー!]

 

ディージェントは迷うことなくそこ効果を発動させると、ミラーモンスター・ゴルドフェニックスが入って行った機材の鏡面化した部分へと歩み寄り、その中へ吸い込まれるように消えた。

 

ミラーワールド内へ入ると、丁度身体の粒子化を止めたゴルドフェニックスと目が合った。

 

『ギュゥアアァァァ!!』

 

ゴルドフェニックスは耳障りな鳴き声を上げると、こちらへ向かって羽を弾丸の様に飛ばして来た。

しかしそれを見た瞬間、ディージェントはまたもや違和感を覚えた。

 

(空間把握能力も上昇してる……一体何故…?)

 

高速でこちらに弾丸が迫って来ているのも関わらず、ディージェントはその一つ一つの弾丸の正確な着弾地点が分かるのだ。

そしてその軌道に当たらない様に最小限の動きで避けながら一枚のカードを取り出し、バックルにセット・発動させた。

 

[アタックライド…スクリーム!]

 

「スウゥゥゥ…ガアァァァ!!」

『ギュイィィィ!?』

 

ある程度手加減して叫ぶと、そのスクリームの効果によって衝撃波になった咆哮が一直線に進んでゆき、全ての弾丸を迎撃しながらゴルドフェニックスに直撃した。

 

どうやら威力が上がっているだけではなく、精密さも上がっている様だ。

何時もなら手加減していても、周囲一帯を巻き込む形で衝撃波が発生するのだが、今回は一方向へその衝撃波を集中させて放つ事が出来たのだ。

 

もし全力で一方向へ放っていたらどうなるのだろうかと思ったが…何か恐そうだったので考えるのはやめた。

 

『キュァァァァァ……』

ゴルドフェニックスはミラーワールドにいた為、粒子化こそ起こさなかったが、相当弱っている。

倒すなら今がチャンスだろう。それに、ディージェントのスペックが上がってるとは言え、これはあくまで能力的な物だ。

身体能力までは上がっていないため、歩の身体の方はデジェクトとの戦闘でもう限界だ。

ここで「歪み」の一つであるゴルドフェニックスを倒してさっさとミラーワールドから出よう。

そう結論を出してファイナルアタックライドのカードを発動させた。

 

[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]

 

電子音声が鳴り響くと、ゴルドフェニックスを拘束できるほどの大きさのビジョンが、相手の足下に現れ、その動きを拘束させると、そのままカードがディージェントを向く様に立ちあがった。

 

敵が大型だった場合、ビジョンが相手の大きさに合わせて展開される事は以前と同じだった事に内心ホッとしつつ、自分なりの決め台詞をゴルドフェニックスへ言い放った。

 

「それじゃあトドメの一発、行くよ?」

 

そう淡々と述べるとゴルドフェニックスへ向かって走り出した。

その間に、両足には藍色のノイズ状のエネルギーが集まって行く。

 

「フゥゥゥ…ハァ!」

『ギュアアァァァァッ!!』

 

ある程度距離を詰めた所でジャンプして飛び蹴りを放った。

今回は何時もの回し蹴りよりも、こちらの方が相手にダメージを与えやすかったので、飛び蹴り版「ディメンジョンキック」をゴルドフェニックスへ両足を前に突き出した。

すると、ディージェントの身体はビジョンに吸い込まれるようにスピードを上昇させ、それに合わせてビジョンもディージェントに同じスピードで近づいて行き、その両足を直撃させた。

その攻撃を受けたゴルドフェニックスは悲痛な鳴き声と共に爆散し、この世界から完全に消滅した。

説明
第26話::不死鳥撃破と疑問を生む新たな力
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