仮面ライダーディージェント |
ディジェクトは無尽蔵に湧き出て来るキャタピラーオルフェノクに孤軍奮闘していた。
迫りくるその内の一体を右腕に付いたブレードでなぎ払い、その隙を突いて別の個体が殴りかかって来るが、ディジェクトの装甲はDシリーズの中で比較的硬い方なので対して効いた素振りもなく、その個体を殴り飛ばした。
ディジェクトの攻撃を受けた二体はしばらくもがき苦しんだかと思うと、次の瞬間には灰化して風に晒されて消える。
しかしそれも束の間の出来事で、風に舞った灰は集まって二つの塊を作ると、その姿を再びキャタピラーオルフェノクへと変貌させた。
その復元中もキャタピラーオルフェノクの群れがディジェクトに襲い掛かっており、その再生を阻止する事が出来ずに、ただ視界の端に留めておく事がやっとだった。
一体一体の強さは大した事はないものの、その永遠に続くかのような修羅地獄に徐々に体力を奪われていく。
「グウゥゥ…!クソッ、キリがない…!!」
ここで「リジェクション」のカードを使ってしまえば楽にこの群れを除ける事が出来るだろうが、そうすれば自分以外を標的に変える可能性が高い。
それこそ街中にキャタピラーオルフェノク達が散らばってしまい、ディジェクト一人では対処しきれない。
こうなれば、あの奥の手(・・・)を使いたいところだが、それには一度変身を解除しなければならない上に、かなりの怒りの感情を有する。今の現状ではとてもそんな気にはなれないし、何より無差別に攻撃してしまう可能性だってある。
そんな事をしては誰かを傷つけてしまうだけの本当の怪物になってしまう。それだけは絶対に避けたい。
(チィッ!どうすれば……ん?)
心の中で悪態を吐いていると、周囲に変化が起き始めた。
キャタピラーオルフェノクが徐々に減っているのだ。
それも自分が攻撃しているしていないに関わらずその身体を灰へと還している。
やがて全てのキャタピラーオルフェノクが灰化し、そこにはディジェクトと、灰の絨毯だけが残される。
(一体何が起こって……ッ!?この気配、まさか!?)
先ほどからキャタピラーオルフェノクから発せられていた嫌な気配を一つに凝縮したかの様な、色で表せば“ドス黒い”といった表現がシックリくる気配が上空から感じ取ったディジェクトは空を見上げ、一つの灰色の点がこちらに迫ってるのを視認した。
ライダーの視力は人間のそれを優に超えている。
故にそれが一体何なのかこの離れた距離からでも分かる。
白い身体から灰色の翼を生やし、こちらへ急接近しているこの世界における二人の最強のライダーの内の一人……
「馬鹿な…サイガだと……?」
「ん?その声…先程の古き人類か……。暫くぶりだな」
仮面ライダーサイガ……オーガを「大地の帝王」と評すなら、こちらは「天空の帝王」と言えるだろう。
しかし今や「歪み」としてその姿を顕現しているだけの、大量殺戮兵器でしかないだろう。
サイガは満月を背に灰色の蝶の翅を羽ばたかせ優雅に空中に佇みながらあのノアオルフェノクの中性的な声で仰々しくディジェクトに声を掛けた。
「そのベルトは一体どうした……!?」
「これか?良く分からぬが、妙な男から譲り受けた物だ。この力は素晴らしいな……まさに“王”である私にこそ相応しい……」
相応しい?そんなわけないだろ、あれは最早害しか及ばさないただの世界を破壊する爆弾でしかない。
そんな力をこの「歪み」は手に入れてしまったのだ。アレに人類を滅ぼされるタイムリミットも更に縮んでしまっただろう。
一体どこの馬の骨がサイガギアを渡したのか知らないが、その内ぶっ飛ばしてやる…!
そう心の中で誓いを立ててると、サイガがゆっくりと地面に降りて来た。
そして悠々とした足取りと仰々しい言葉を言い放ちながら、ディジェクトへ近づいて来る。
「さて、早速貴様でこの力を試させてもらおうか」
「ッ!!」
[アタックライド…ファング・ショルダー!]
「ガァッ!!」
身の危険を感じたディジェクトはすぐさま「ショルダーファング」を発動させ、両肩に形成された二枚のブーメラン状のブレードを掴んでサイガへ投げつけたが……
「……フッ」
「な…!」
サイガは気にした様子もなく鼻で軽く笑いながら両手を左右に伸ばすと、あろう事かその先に次元断裂を展開させ、そこから操縦桿型ツール・トンファーエッジを取り出したのだ。
「フッ、ハッ」
(コイツ、何で次元断裂を…!?)
その根元部分から流れる青いフォトンブラッドで生成したエネルギーブレードでディジェクトが全力で放った二枚のブレードを、まるで子虫でも払うかの如く軽くあしらって弾き返したのだ。
これの中身に人間の顔があったら仮面の奥で余裕の表情をしているに違いない。
そして何より驚いたのは、サイガが次元断裂を展開させた事だ。
次元断裂はワールドウォーカーの特権とも言える能力だ。
例え世界を歪める存在であっても、次元移動能力を使えるとは限らないし、前に見た時にはそんな素振りも一切なかった。
もし初めからあったなら、歩が逃亡を図る前に喰い止めていた筈だ。
サイガはブレードを弾いた瞬間、高速でディジェクトへ駆け寄り二本のトンファーエッジでディジェクトへ斬り掛かろうと迫る。
「ハッ!」
「チイィッ!グアァァウッ!!」
サイガの斬り上げをギリギリでかわすが、トンファーエッジの刃先が装甲を掠め、その摩擦で火花が飛び散る。
こちらも反撃しようとディジェクトは相手の攻撃モーション後の隙を突いてサイガに殴り掛かるが、サイガはディジェクトの腹に蹴りを入れてその反動で後退すると、再び次元断裂を展開してトンファーエッジをその空間へ収納し、今度はサイガ専用携帯電話型変身ツール・サイガフォンをドライバーから引き抜いた。
「どれ、早速こちらも……」
そう呟きながら更にサイガフォンを開き、番号を「106」の順で入力すると、「バースト・モード」と言う認識音声がサイガフォンから鳴り、横方向へ折り曲げるとその形態のアンテナ部分からフォトンブラッドで形成されたエネルギー弾をディジェクトへ向かって3連射した。
この世界に於けるそれぞれのライダーフォンにはフォンブラスターと呼ばれる光線銃へと変形する機能が備わっている。
そしてそれは特定の番号を入力する事で発動し、単発式の「シングル・モード」と連射式の「バースト・モード」の二種類がある。
つまり、今回サイガはその内の連射式機能を発動させてエネルギー弾を撃ったという事だ。
しかもその威力はファイズのそれを軽く凌駕する威力で、並のオルフェノクなら数発撃たれただけで灰化してしまう程の火力を有する。
「グガアァァァ!!」
そのエネルギー弾をモロに喰らったディジェクトは装甲をスパークさせた。
この程度でDシリーズの装甲は簡単には壊れないものの、その衝撃によるダメージを全て押し殺す事が出来ず、装着者である好太郎にダメージが入り踏鞴(たたら)を踏んだ。
「フム、中々の威力だな」
そう呟きながら右手に持ったフォンブラスターを繁々(しげしげ)と見詰めたサイガは、やがてそれを元の形状に戻してドライバーにセットし直した。
「き、貴様…!何故その能力を…!?」
「暫くこの姿でいるとな、何故か知らぬがそう言う能力が備わっていたのだ。恐らくコレを付けてるからだろうな……」
ディジェクトの疑問に律儀に答えながら自身の胸部装甲を撫でるサイガ。ディジェクトはその様子を忌々しげに睨みながら、ある仮説を立てた。
あのサイガギアには何らかの細工が施されているのではないだろうか?
だからあの時変身していた状態にも関わらず、オルフェノク態の時にのみ展開できる翅を、次元断裂を通して外に出すことができたのではないかとディジェクトは考察した。
それには恐らくサイガギアを渡した男が関わっているのだろうが、今はそれを知る術はないし、アレを何とかして倒すのが先決だ。
(仕方ない…だったら「リジェクション」で……)
ディジェクトはカードホルダーから「リジェクションの」カードを取り出し発動させようとしたが……
「甘いな」
「なっ…!?」
バックルにセットする寸前で一瞬の内にサイガがディジェクトの眼前に現れ、そのカードを持った右手を掴んで発動を阻止してきた。
今サイガが使った能力もドラゴンオルフェノクの能力の一つで、ファイズアクセルフォーム並みのスピードでの高速移動を可能とさせる能力だ。
「フッ!」
「グゥッ!ガアァァ!!」
「オゥッ」
サイガは掴んだ右手を捻りカードを奪い取ると、回し蹴りを放って吹き飛ばそうとしたが、ディジェクトはそれを持ち堪えて踏み止まると、サイガの顔面を殴り飛ばした。
しかしサイガは、まるで虫でも飛び付いて軽く驚いたかの様な反応を示すだけで、すぐに吹き飛ばされた態勢から受け身を取って立ち上がると、「フハハッ」と何が可笑しいのか仰々しい態度で軽く高笑いをした。
「……何が可笑しい?」
「いやなぁに、まさか私に一撃を加えられる輩がいるとは思わなくてな。それに私に触れて何ともないと言う事は、その鎧は灰化でも防いでいるのか?」
どうやらサイガは自分が一撃を入れた瞬間に、ドラゴンオルフェノクの灰化能力を発動させて装甲を消すつもりだったようだが、Dシリーズの装甲はドライバーを媒介にして次元断裂を質量化させた物質だ。
つまりこの世界どころかどの世界にも存在しない物質であり、それを特殊な能力(今回の場合は「灰化させる」という物質崩壊)で分解させる事は出来ないのだ。
それは例えるなら水と言う液体に火を入れればその火は消えるが、油と言う液体に入れればそれが更に燃え上がる事と同じ原理であり、似たような物質(装甲)でも、その性質が全く違うのだ。
その事に何となく勘付いたサイガは「まぁいい」と大して気にした様子もなく流すと、次元断裂を展開してその中からトンファーエッジが備え付けられた状態の飛行用バックパック・フライングアタッカーを取り出し、その噴出口を前方に向ける様に構えてブースターライフルモードに変形させると、更に続けた。
「別に灰化が効かずとも、貴様を屠(ほふ)る事など造作もない事だしな」
その言葉を皮切りにトンファーエッジに備え付けられていたトリガーを引くと、その噴出口からエネルギー弾を高速射出してきた。
「グッ…!クソォッ…!!」
その連続射出される光の弾幕に晒されながらも何とかしようと「リジェクション」のカードを取り出そうとするが、そこである事に気が付いた。
(しまった…!「リジェクション」は奴が……!!)
「ん?これが必要だったのか?」
サイガが片手でエネルギー弾の弾幕を絶えず撃ち出すためにトリガーを引きつつも、もう片方の手で「リジェクション」のカードをチラつかせた。
接近された時にカードを奪われてたことを失念していたのだ。
人間の顔があったらニヤついていたであろうサイガのマスクを、ディジェクトは忌々しげに睨み付けるが、こうなれば別の方法で対処しなければならないだろう。
しかし手持ちのカードは「レッグファング」と「ファイナルアタック」の二枚しか持ち合わせていない。
正直この二枚は切り札だ。今この二枚を使えば現在の状況は打破できるだろうが、例え今使っても相手に致命傷を与えられないだろうし、その後の打つ手がない。
ディジェクトのファイナルアタックライドは少々特殊で、ファング系統のアタックライドを事前に発動させて初めて発動条件が揃うのだ。
しかもディージェントの様に一度使ったカードの複製する機能は付いておらず、一度使ってしまえばもう一度変身し直す必要がある。
今ここで変身を解除すればもれなく蜂の巣になってしまうだろうし、この現状でなくとも戦闘中に変身解除するなど自殺行為でしかない。
これはもうゴリ押しするしかないだろう……。
「グウゥゥ……ガアアアァァァ!!」
そう決断を下すと、ディジェクトは咆哮を上げながら迫りくるエネルギー弾を無視してサイガに特攻を仕掛けた。
確かにこの弾幕は脅威ではあるが、それくらいで倒れるほどディジェクトは脆弱ではない。
「フゥム、仕方ないな……」
サイガもこれ以上撃っても無駄だと判断すると、トリガーを引くのを止め、フライングアタッカーからトンファーエッジを引き抜くと、そのエネルギーブレードで討ち返そうと向こうも迫って来た。
「更にこれだ」
[エクシード・チャージ]
ディジェクトへ駆け寄りながらドライバーにセットされたサイガフォンを開きエンターキーを押すと、電子音声が流れて両腕へと続くラインを青いフォトンストリームが伝ってトンファーエッジへ集約した。
青く輝くエネルギーブレードが更に輝きを増し、その凶刃をディジェクトへ叩きこもうと両腕を振り下ろした。
「ハッ!」
「ヌンッ!!」
「何とっ!?」
しかし対するディジェクトは、その凶刃を両腕に備え付けられている複数のライドプレートを使ってそれを防いだ。
本来ならば「アームファング」を発動させてブレードへ変形させてからする物なのだが、例え発動せずともある程度の攻撃を防ぎ切る程の硬度を有している。
その鍔迫り合いの状態から、ディジェクトは回し蹴りをサイガの脇腹へと叩きこんだ。
「ガアッ!!」
「ぐおっ!?」
その拍子にサイガはベルトの隙間に捻じ込んでいたカードを落とし、ディジェクトはカードの奪取に成功した。
(さて、後はこれをどのタイミングで使うかだな……)
ディジェクトは落ちたカードを拾い上げ、これをどう使うか思案した。
今はある程度体力も回復し、これを使うにも十分ではあるが、先のデルタとの戦闘の時みたいに何度も肉弾戦とフォトンブラッドによる攻撃を反射し続けていれば、間違いなく反動であの時の二の舞になる。
「……フンッ、今のは驚いたぞ」
そう考えている内にサイガは態勢を立て直し、こちらへ向き直って若干苛立ちの籠った声を漏らした。
そろそろ向こうも本気で掛かって来るだろう。今までのは遊び半分で戦っていたに過ぎないのは、あの態度から良く分かる。
現在使えるカードは決定打を与えるカードを除いて「リジェクション」のみ。
まずはこれを使って物理干渉を拒絶し、トンファーエッジなどのフォトンブラッドは出来るだけ拒絶せずにゴリ押しで押し通す。
そう決めてドライバーへセットしようとした時、目の前に次元断裂が展開され、その中から三人の人影が現れた。
「ん?」
「何だ…?まさか……」
その現象にサイガが首を傾げ、ディジェクトはその中から現れるであろう人物が誰か察しが着いた。
「どうやら、良い所に出て来れた様ですね」
「便利だねこれ。今度どう言う原理なのか教えてよ」
「ダメです」
「社長、そんな話をしてる場合ではありませんよ。それにしても、なぜサイガがここに……」
次元断裂が消えるとそこには周囲を見渡す歩と、暢気な声色で歩に話しかけるオーガ、更にそれを咎めつつ、サイガがこの場にいる事に疑問を抱くファイズがいた。
「ま、それもそうだけどさ…あんまり肩に力を入れ過ぎても良い結果は出せないだろうし、ここは…いや、こう言う時だからこそ何時も通りに最善の動きを取らないとね」
「つまり、これからやる事は少し規模が大きくなっただけの、反逆者の始末と変わらないと言う事ですね」
「そう言う事」と頷きながらファイズの結論に答えたオーガは続いてこちらを見て、近づいてきた。
オーガと言えば、サイガと対を成すこの世界に於ける最強のライダーの一人だ。
その戦闘力は帝王の名に恥じないほどの実力を有すると聞く。
しかし、その口調はどこまでも自然体で、優しげなものだ。
「君がディジェクトかい?確かに歩君の変身するライダーに似てるね」
「あ、あぁ……」
「おお、会いたかったぞ娘よ」
ディジェクトがオーガのその優しげな声色にとりあえず相槌を返していると、サイガはそのファイズの存在をようやく認知したかのような態度で、ファイズと歩に近づいてきた。
「……すみませんが、しばらくサイガの相手をしててもらえませんか?」
「任せろ。ああ言う迫って来る男の扱いには慣れている」
「よろしくお願いしますね」
ファイズが歩の頼みを快く引き受けると、サイガに駆け出して戦闘を始めた。
それを見届けていると、ズイッとオーガがその黒いマスクをディジェクトのマスクに近づけて来た。
「協力、してくれるよね?」
「あ、あぁ…分かった……」
「変身」
[カメンライド…ディージェント!]
その何とも言えない気迫に思わず了承の言葉を返してしまっていると、歩がディージェントに変身しながらこちらにやって来て、自分が手に持っている「リジェクション」のカードを一瞥すると、オーガに「どうやら間に合ったみたいです」と言葉を発した。
「そっか…で、この後どうすればいいんだい?」
「後は彼にアレを拒絶してもらうだけです。そうすれば章治さんの中からそれが出てきます。それと美玖さんの援護をお願いします。あのままだと、間違いなく負けてしまいますから」
そう言いながらファイズとサイガを指差した。
現状はやはりファイズのスペックではサイガに劣るのか、ファイズが劣勢になっている。急いだ方が良さそうだ。
それを確認したオーガは頷いて「分かった」と一言だけ言うと、ファイズを援護するため駆け出した。
ディージェントはそれを見送ると、再び此方へ視線を向けて話し始めた。
「さて、本当はあの時僕が勝ってこの頼みを聞いてもらおうと思ってたんだけど、状況が状況だしね。我儘かもしれないけど、聞いてもらいたい」
ディージェントが言っているあの時と言うのは、地下駐車場で戦う前に言ってた事だろう。
そしてその頼みと言うのは、今の現状を考えれば一つしか思い浮かばない。
あの「歪み」を倒す方法も事だろう。
だったら聞いてやろう。コイツが一体、どんな手段を使ってこの世界を救うのかを……。
「前置きはいいから話せ。俺は何をすればいい?」
「君にはこれから『リジェクション』の効果である物を拒絶して欲しい。でもその対象はかなり特別な物だから、一度使えばかなりの反動が来るのは覚悟しておいてね」
そう応じると、ディージェントはディジェクトに教え始めた。
「歪み」を消し、尚且つ章治を助け出すための方法を……。
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第29話:拒絶者VS天空の帝王 | ||
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