仮面ライダーディージェント
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ノアオルフェノクを完全に消滅させた次の日の朝。歩と亜由美、そして好太郎を加えた一行はスマートブレイン本社まで来ていた。

そこの受け付けカウンターで歩が正幸に来るように言われた旨と、自分達の名前を伝えると、受付嬢は「須藤歩様ですね。社長が23階にあります応接室でお待ちしております。こちらのネームプレートを首から下げてお通りください」とマニュアル通りの丁寧な言葉を並べると、「GUEST」と書かれたネームプレートを順番に三人に渡した。

しかし、何故か好太郎に渡す時だけ訝しげな表情を作り、ネームプレートを渡すのを戸惑っていたようだったが、好太郎は気にした様子もなく掻っ攫う様にしてネームプレートを受け取った。

 

その後も応接室に行くまでの間に分かったのだが、確かに好太郎は“人には避けられる体質”の様だった。

社内を歩いてる間に、廊下ですれ違った人の中には大きく分けて二種類があった。

 

一つはただ単純に通行人として見る者達。これくらいだったらビジネススーツを着ている歩と一緒についていればそれほど目立つ事もなく、ただの客程度にしか見られる事はない。

その人達は恐らく、この会社に勤めるオルフェノクだろう。

 

そしてもう一つは、好太郎を冷たい目で見る者達だった。

これには歩と好太郎曰く、ディジェクトドライバーが関係しているようで、そこから発せられる特殊周波が人に不快感を抱かせる物なのだそうだ。

しかし自分達ワールドウォーカーと呼ばれる者や、世界の脅威となる存在には大して効果が無いため、亜由美と歩はこうして普通に好太郎と接する事が出来るらしかった。

 

何故彼が孤独な目に遭わなければならないのかと思い、好太郎に話してみたが「今はもう慣れてる」としか言わなかった。

しかし、そう言っている彼の目は実に寂しそうな物だったので、これ以上この話題をするのはやめて応接室に向かう事にした。

 

しばらくして応接室の前まで辿り着くと、歩が扉を三回ノックして「須藤歩です」と扉の奥にいるであろう人物の淡々とした口調で声を掛けると、ガチャリとドアノブが動いて扉が開かれた。

 

「やあ。よく来てくれたね」

 

扉を開けたのは正幸であり、歩に爽やかな営業スマイルを送って三人を中へ招き入れた。

 

中へ入るとその部屋はカーテンを全て閉められており、上質なライトが天井から少し狭い印象を与える部屋全体を明るく染め上げている。

そして中央には一台の高級木材を使用して作られた短脚テーブルと、向い合せになる様に置かれた赤茶色の大きめのソファーが二つ置かれていた。

 

テーブルの上には二つのアタッシュケースが置かれており、そのどちらにもスマートブレインのロゴマークがプリントされていた。

 

部屋の大まかな全容を見た後、亜由美はある事に気が付いた。

美玖と章治がいないのだ。

 

「あの、美玖さんと章治さんはどうしたんですか?いないみたいですけど……」

「実はあの後しばらくしてからまた倒れちゃってね…それで今療養中だよ」

 

「章治はそれの付き添いさ」と付け加えながら亜由美の質問に答えた。

それを聞くと、今度は歩が正幸に尋ねて出した。

 

「一緒にいなくていいんですか?こう言う時って、貴方もいた方がいいのでは……」

「ま、俺もそうしたいのは山々なんだけどね……。俺にはあの研究所の事後処理とかもあるし、折角会えた二人に水を差すわけにはいかないよ。まぁ適当に腰掛けてよ」

 

そうフランクに亜由美達は正幸にソファに座るように促され、三人が右から亜由美、歩、好太郎の順に座ると、彼は自分達の前のテーブル越しにあるソファに座って本題を切り出した。

 

「で、用件は実は二つあるわけなんだけど、まずは一つ目、今回のお礼だよ」

 

そう言いながらテーブルの上に置いてあった内のケースの一つを手に取って開くと、中央にいる歩の前に置いて見せた。

 

「……え゛」

「なっ……」

 

その中身を横から亜由美と好太郎が見ると、それぞれ短く声を発しながら目を丸くした。

ケースの中には大量の札束がギッシリと詰まっていたのだ。

こんな大金を目の前に突きつけられて歩は果たしてどのような反応をしているのかその横顔を覗き込むと……

 

「………」

 

ただ黙ったまま興味なさげにそれを見つめてるだけだった。

何でそんな冷静でいられるんですか!?と心の中で叫んでいると、正幸がこの大金を渡した理由を述べた。

 

「これは俺達、スマートブレインからのせめてものお礼だよ。一応三千万あるよ」

「さ、三千万!?」

 

そんな人生で一生お目にかかれそうにない額に、亜由美は驚嘆の声を上げた。

それだけあれば、一体どれだけ欲しい物が買えるだろうか?

そういえばずっと同じ制服だったなぁ〜などと、新しい服をこの機会に買う算段を立ててると、歩がその計画を根本からぶち壊す発言をかました。

 

「すみませんが、このお金は受け取れません」

「えぇ!?ちょ、何で!?」

「金銭問題だったら別に気にする必要もないし、僕がここに来た目的も、もっと別の物だからね」

「う〜…それは、そうだけど……」

 

たしかに、お金の問題だったら真司のアパートで歩が話してた“世界を渡るとその世界で活動する分だけのお金が手に入る”という、労働者に何とも失礼この上ないディージェントドライバーに備わっている機能のおかげで解決しているが、折角の人の好意をここで無碍にするのもどうかと思いながら歩の正論に何とか食い下がろうとするが、何を言えばいいのか分からない。

 

そしてふと自分の反対側に座っていた好太郎に目が行くと、彼はその大金を食い入るように見ていた。

 

「あの、好太郎さん…?」

「……な、何だ?」

 

明らかに目が泳いでる……。これはもしや……

 

「ひょっとして、これ欲しいの?僕は特にいらないから好太郎君が貰ったら?」

「いや、べ、別に欲しいとかは…思ってない、ぞ……?」

 

好太郎の目が泳ぎつつ、その視界に札束が写ると、一瞬だけ目の動きが止まる。そしてしばらくするとまた泳ぎ出す。

これをしばらく繰り返していたが、正幸を含めた三人の視線に、やがて観念したのか大金を眼前に据えた。

 

「ま、まあ…折角だしな……。遠慮なく貰ってくぞ」

「そうそう。好意は素直に受け取らなくっちゃね」

「この空気を作った元凶が言います?」

「さてと、それじゃあもう一つの要件だね」

「そこで無視しますかアナタは!?」

 

亜由美が軽く正幸にツッコムと、彼は華麗にスルーしながらもう一つのケースに手を掛けた。

亜由美のツッコミも何のそのでそのケースを開いてこちらに見せると、その中には青いラインの入っている白を基調としたメカニカルなベルトが入っていた。

 

「サイガのベルト…ですね……」

「そう。あの後これを章治の代わりに筧に調べてもらったんだけど、どうも変な機能が付いちゃってるみたいでね。しかも章治以外に適合できない仕様になってると来た。そこでイレギュラー専門の君達に意見を聞きたいんだけど、これってどういう事なのかな?」

 

正幸は顎を、合わせてた両手に乗せながら訊ねて来た。

その表情は純真無垢な子供その物で、特に怒ってると言う雰囲気はしない。

寧ろ今までにあった事のない不思議な出来事に目を輝かせていると言った感じだ。

 

「………」

 

歩は無言でサイガギアに無言で軽く触れて、そのライダーシステムの情報を読み取ると、すぐに問題が分かった。

このサイガギアには、クラインの壺が備え付けられているのだ。

 

コレを装着した人物は次元移動能力の有無に関わらず、サイガギアに備わっているクラインの壺と装着者の脳が直結して自由にサイガの武装のみを収納・展開する事が出来るようになっているのだ。

 

そんな事など歩には到底できない事だし、ましてやそれを実現させるワールドウォーカーがいると言う事には驚きだ。

好太郎の話ではある男がノアオルフェノクにコレを与える際に何らかの細工をした可能性があると言っていたが、その人物とはおそらく神童の事だろう。

彼は本当に何者なのだろうか?

ディケイドに壊された世界の住人だと言う話は聞いたが、それだけでは情報が少なすぎて分からない。

 

歩は神童の件を一旦頭の隅に置いて保留すると、正幸にサイガギアの詳しい機能を説明する事にした。

 

「ふ〜ん…成程ね。それで、これを元に戻す事は可能なのかな?」

「それは難しいですね、僕では出来ない芸当で備え付けられてますし。でも装着者…章治さんの身体に影響が出る事はなさそうですね。というより、これ以外のライダーズギアは使わせない方がいいでしょう」

「というと、章治は本当にオルフェノクじゃなくなったって事?」

「そうです。あの時、好太郎君が『リジェクション』の能力で“王”ごとオルフェノク因子を外に吹き飛ばしましたからね」

 

そう言いながら歩は好太郎をチラリと見た。

好太郎は視線がこちらに向けられている事が妙にむず痒くなったのか、ケースを手に持ってソファから立ち上がると、応接室から出て行こうとした。

 

しかし扉の前で足を止めると、こちらに振り返って正幸にある事を尋ねた。

 

「……章治達は今どこにいるんだ?」

「美玖と章治だったらここから少し西にある病院にいるよ。あそこはスマートブレインの直轄施設だからね。ひょっとして、見舞いにでも行ってくれるのかい?」

「フンッ、さぁな。そこへ寄ったらすぐにこの世界から出るつもりだ。だから亜由美、お前に一言だけ言っておきたい事がある」

「え、私にですか?」

 

突然名指しされた亜由美は思わずソファから立って好太郎を見るが、どうも言い辛そうにしており「もうちょっとこっちに来い」と言われて好太郎の前まで近づく。

そして自分にしか聞こえない様な小さな声でこう言った。

 

「……ありがとな。俺を人として見てくれて……」

「え……?」

 

それだけ言うと、すぐに亜由美から背を向けて応接室から出ていった。

すぐに閉められそうになるドアをノブを取って扉を開いて廊下を見渡すが、そこに好太郎の影は一切なかった。

 

(私、何かしたっけ……?)

 

亜由美自身は無意識でやった事なので気付いてはいないが、好太郎と一緒に行動したり、優しくしたりと普段の彼なら絶対にあり得ない経験が出来ていたのだ。

そしてそれは、彼を一人の人間として見ていた証でもある。

それだけで好太郎にとっては何物にも耐え難い経験だったと言えるのだ。

 

「へぇ〜、もしかして彼って……」

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」

 

先程好太郎がなんと言っていたのか聞き取れていたのか、背後から正幸が面白そうな声色で呟き、それに疑問を抱く歩の声が聞こえて来た。

 

『???』

 

亜由美にも正幸が何故おかしそうにニヤついてるのか皆目見当がつかずに、歩と同じように首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

スマートブレイン直轄病院のとある個室で、美玖は眠っていた。

正確には起きる事が出来ないほど衰弱していると言った方が正しいだろう。

彼女の身体からは、常に微量ながらも灰が少しずつ零れ出していた。

 

「………」

 

その様子を章治は黙って美玖の手を握りしめながら見つめていた。

彼女から噴き出す灰が、まるで彼女の命が尽きるまでの時間を計る砂時計のように感じながらも、章治はボソボソと呟き始めた。

 

「美玖、お前はこれが運命だって言ってたよな……。お前のせいで俺が消えかけたって、言ってたよな……」

 

彼は何時もの飄々としたエセ関西弁ではなく、誰にも見せない弱い自分の顔を曝け出していた。

 

章治は幼い頃、オルフェノクに転生する前までは、引きこもりがちな性格だった。

しかしオルフェノクに転生し、家族を全て失ってからは、誰にも迷惑を掛けないように常に明るく振舞ってきた。

しかしその性格がここで祟り、彼女や仲間達に迷惑を掛けてしまった。

本当に死ぬべきだったのは自分の筈だ。

例えこの身体をあの愚王に喰い尽くされたとしても、彼女だけは死なせない。そのつもりだった。

しかし結果は思わぬ闖入者のせいで章治の計画は完全に狂い、自分はただの人間に戻ってしまった。

まさか彼女の寿命を延ばすつもりが、自分の寿命を延ばしてしまう事に繋がるなんて……もし神様がいたとしたら、そいつはとんでもないひねくれ者だ。

 

「俺はまだ、認めたくない……。お前はまだ、生きるべきなんだ……。これが俺の我儘だなんて、自分でも分かってる。それでも、俺はお前と共に夢を叶えたいんだ……。オルフェノクと人間が、手を取り合える世界を……」

『オイなんだテメェ!?』

『クッ…!せめてスマートバックルさえあれば……!!』

『どけ、お前らに用はない』

 

何やら廊下の方が騒がしい。何事かと思い後ろの扉を見ると、その瞬間オルフェノク態になった二階堂と筧が部屋に吹き飛んできた。

 

「どわあぁぁぁっとぉ!?な、何や、どうしたんや二人とも!?」

『いてて…オイ馬鹿主任!美玖さん連れてとっとと逃げろ!!』

『何だかよく分かんないですけど…歩さんに似たライダーズギアを持った男がやって来て……!』

「ここか……」

 

筧のオルフェノク態であるアメンボの特性を持ったポンドスケーターオルフェノクが言い切る前に、その現況が入口まで待って来た。

それは思わぬ闖入者の一人であり、自分が人間に戻ってしまった元凶でもあるディジェクトだった。

 

「……何やロン毛、まだウチに用があるんかいな?」

 

章治は目の前の存在に恐怖する自分がいるのを感じつつも、強がって自分が最大限に出せるドスの利いた声を発した。

 

オルフェノクではなくなった章治は、ディジェクトドライバーから発せられる特殊周波の影響を受けてしまっているのだ。

元がオルフェノクだったのでそれほど症状は強くないが、今にも腰を抜けてしまいそうだ。

 

しかしディジェクトはそんな事などどうでもよさげに、首を振って否定すると、章治時の後ろにいる人物を指差した。その人物とは一人しかいないだろう。美玖だ。

 

「用があるのはお前じゃない。そこの後ろの女だ」

「何!?」

 

一体この男が美玖に何の用があるのか知らないが、変身してると言う事は碌でもない事であるのは確かだろう。

そのふざけた言動に啖呵を切るように、スネークオルフェノクがディジェクトに言い放った。

 

『美玖さんは今絶対安静しとかなきゃならないんだっちゅうに!そんなホイホイと素人が下手に触ろうとするんじゃねぇよ!!』

「……フンッ」

 

スネークオルフェノクがディジェクトに向かって特攻するが、ディジェクトはその突っ込んできた頭を鷲掴みにして持ち上げる。

 

『あだだだだ!痛い!割れる割れる!』

「ガアッ!」

『うおわああぁぁぁ!!』

「二階堂!!」

 

ディジェクトは痛がるスネークオルフェノクを大きく振りかぶって窓へと放り投げた。

この高さから落ちても死にはしないだろうが、状況は非常に拙い。

何とか戦おうにも、サイガとデルタのベルトは正幸に没収されてしまっている。

どうするべきか考えてる内に、ディジェクトが章治の肩を掴んで入口まで投げ飛ばす。

 

「ぬぉっ!?」

『こ、この…!』

「グゥゥ…ガァァ!」

『うわぁ!!』

 

ポンドスケーターオルフェノクが何とか応戦しようと背中に生えた六本の細長い脚でディジェクトの装甲を叩くが、軽く火花を散らせる程度で大したダメージを与えられない。

ディジェクトはその攻撃を鬱陶しそうに仮面の奥で顔をゆがませると、ポンドスケーターオルフェノクに裏拳を放って章治と同じく入口付近まで吹き飛ばした。

 

『あ…ぐ……』

 

その際の衝撃が相当効いたのか、ポンドスケーターオルフェノクは元の人間態である筧に戻ってしまい、気を失ってしまった。

それを見たディジェクトは無言でカードをバックルにセットして読み込ませて効果を発動させると、美玖へゆっくりと近づいて行く。

 

「………」

 

[アタックライド…リジェクション!]

 

「おい、何するつもりや!やめろ!!」

 

それを止めようと身体を動かすが、思うように動かない。

人間の身体を心底不憫に感じながらもディジェクトに制止の叫びを投げかける。

しかしそれでもディジェクトは止まらない。そしてその手が美玖の頭に添えられた瞬間、ディジェクトは拒絶対象を宣言した。

 

「お前の中のオルフェノクを拒絶する」

 

そう宣言された刹那、ドバッと美玖の身体から大量の灰が流れた。

しかし美玖の身体が消える事はなく、そのまま眠っているだけだ。

 

「い、一体何をしたんや?」

「コイツの中のオルフェノクとしての部分だけを消した。コイツはもうただの人間だな」

「……ヘ?」

 

変身を解除しながら呟いたその言葉を聞いて、自分の口から何とも間抜けな声が漏れた。

何故コイツがそんな事をする必要があるのだろうか?

それに、歩も言っていたが彼らはそう言う干渉はしてはいけないのではなかったのではないのか?

そう思っていると彼はブーツをコツコツと鳴らしながら病室から出る時に、小さな声で章治に言った。

 

「亜由美には感謝しておけよ……」

(……あぁ、そう言う事かいな)

 

その言葉を聞いて章治は妙に納得してしまった。

どうやら亜由美があの時、悲しそうにしていたのを見るのが嫌で、せめて美玖を生き長らせ様と思ったのだろう。

確かに彼女には感謝した方がいいだろう。彼女がいなければ、好太郎がこんな行為をするはずがないのだから。

 

(ま、なんにせよ美玖を助けてくれたんやし、その事には喜ばんとな……)

「ん……」

「ッ!美玖!!」

 

好太郎がやったこと憶測を立ててると、美玖が呻き声を上げてゆっくりと瞼を開いた。

章治は美玖の傍まで駆け寄り、彼女の視界に入るように顔を近づける。

やがて眼の焦点があった美玖は幼少時の顔を認識し、彼の名を呼んだ。

 

「章…治……?」

「あぁ、もう…大丈夫やで……」

 

章治はそれだけ言って美玖の手を握りしめた。

 

これから二人は人間として生きていく事になる。それによってオルフェノクの時とは違う苦労があるかもしれないだろう。

しかしそれでもオルフェノクと人間が手を取り合える世界を作るために、これからも戦おう……。

人間として…ライダーとして……。

 

 

 

 

 

好太郎は病室から廊下へ出ると、すぐに次元断裂を展開してその中へ溶け込んで行った。歪んだ灰色の空間の中、好太郎はここにはいない歩へのこれからの自分の生き方を語り始めた。

 

「……お前が俺のしたことを知ったらどう思うんだろうな…やはり世界の秩序を乱すものとして敵対するか?それともアイツの彼女が助かった事を喜ぶか?ひょっとしたら亜由美は喜ぶだろうがな……。

まぁそんな事はどうでもいい…俺はお前が教えてくれたこの力の使い方で、今までに救えなかったものも救ってみせる。例え、お前に拒絶されようともな……」

 

そう独り言を一通り言い切ると、次の世界へと繋がる出口へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

歩達がいる世界とは違う別の世界……

その世界にある一つの大きな街に、モスグリーンの長袖Tシャツに、淡い色褪せた青いGパンというラフな格好の、前髪を異常に伸ばした金髪で目元を隠した青年が訪れていた。

現在のこの世界の時間は午後十一時。もうすぐ日付が変わろうとする時間帯で、それでもこの街の至る所に立っている風車は休むことなく回っている。

そんな街のビルの屋上に佇む青年は、青年は大きく欠伸をしながら屋上に設けられた手摺りまで近づいて、眠気眼で眼下に広がる街を一望する。

 

時々吹く夜風がその前髪を靡かせて、彼の普通よりは整ったどこか外国人を彷彿とさせる顔と、眠たげな半開きの瞼を垣間見せる。

 

「ふぁ〜あ…っと……。ここは俺にとっての“最高の寝場所”になるのかねぇ〜……?」

 

その目と同じ感情を持ち合せた眠たげな声で、語尾を伸ばしながら呟いた。

 

「………」

 

一望し終えたのち青年は手摺りに手を置いて無言で瞼を閉じた。そして次の瞬間には……

 

「……グゥ」

 

寝た。

 

立ったままその絶妙なバランスが取れた状態で眠ってしまったのである。

それは彼の特技でもあり、欠点とも言える“寝る”という行動に誰よりも重要視した性格が起因している。

そのまま完全に夢の中へと旅立って行きそうになったその時……

 

『きゃあああぁぁぁ!!』

「ングゴッ!?」

 

突然ビルの真下から悲鳴が響き渡り、目が覚めてしまった。

一度(ひとたび)何らかの騒音で起こされてしまうと、その元凶を完膚なきまでに傷めつけなければ寝るに寝れない。

これはお仕置きが必要だな…特に悲鳴の原因への。

青年はそう思いながら前髪に隠された眉を不快そうに歪め、悲鳴の聞こえた眼下を睨みつけた。

その元凶はこのビルのすぐ真下から聞こえ、そこを見ると火の塊の様な怪人が一人の女性を襲っている光景だった。

 

アレはこの世界の世界の脅威とされる“ドーパント”と呼ばれる化け物だ。

ドーパントはこの世界にある物の記憶を内包した“ガイアメモリ”という装置を人間の体内に入れることで、その人間の身体を変異させて生まれる怪物だ。

 

「は…っ!は……きゃ!?」

『よぉし…ようやく止まったなぁ……』

 

火の塊の怪人…マグマドーパントは転んでしまった女性へ手を伸ばそうとしている。

こんな光景を目にしてしまっては、助ける以外の選択肢など無いだろう。

 

「はぁ〜、この世界のライダーは何してんだっつうのぉ〜。こっちは眠いってのにこれじゃ寝付けねぇだろうがぁ……」

 

その様子を見た青年は溜め息を吐くと、これまた眠たそうに語尾を伸ばした文句をこの世界に存在するであろうライダーにぶつけながら右手を前に突き出す。

するとその手元に次元断裂が現れた。しかしそれはすぐに消えると、そこには彼のファッションには不釣り合いなエメラルドグリーンに輝く日本刀が彼の手元に納められていた。

 

更に左手にも同じように次元断裂を展開させて、手元へ一枚のカードを取り寄せると、手摺りに片足を掛けて飛び降りる姿勢を取った。

 

「さてっとぉ…そんじゃ寝る前の運動、始めますかねぇ〜。変身っとぉ」

 

[カメンライド…ディバイド!]

 

そうぼやいた瞬間、青年は刀の鍔(つば)に当たる四角い板状の部分に設けられたスリットへカードをセットすると、ビルから飛び降りた。

そして地面との距離を縮めて行く毎にその姿を変貌させていき、地面との距離がゼロになった頃には先程の青年ではなく、Dシリーズ特有の特徴を兼ね備えたエメラルドグリーンを基調とするライダーが降り立っていた。

 

『んん?何だお前は、俺の邪魔をするなあぁぁぁ!!』

「あぁ〜ハイハイ、随分とウルサイこってぇ。とりあえず、永久に眠っとけぇ」

 

間延びした口調で目の前の溶岩の記憶を取り込んだマグマドーパントにそう言い放つと、後頭部を掻きながらその真っ赤な複眼で睨み、すぐに交戦が始めた。

説明
第31話:I reject the fate
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