仮面ライダーディージェント
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風都タワーの最上部に作られた広い部屋……。

ここは建設当初からあった物ではなく、つい最近秘密裏に作られた部屋だ。

当然一般人が入って来る事もなく、ここを作り上げた人物とその関係者しかこの場所を知らない。

その鉄色の壁と天井が密室空間を作り出している部屋には現在、ディバイドから逃げ切ったマグマドーパントだった男・河壁と、この空間を作り上げた張本人である黒いレザースーツを着たウェーブ掛かった茶髪の男。そして部屋の中央に設置された拘束具にまるで死刑囚の様に座らされているボサボサの黒髪の男が二人を睨みつけながら鎮座していた。

 

河壁はこの二人の男の名前を知らない。ただレザースーツの男から力を手に入れられるという理由でマグマメモリを受け取っただけだし、拘束具に縛られている男も、ただ必要な人材としか教えられてもらっていない。

 

こんな怪しい奴に本来なら関わり合いたくはないのだが、もし抜けようとしたらどうなるかなんてすでに分かっている。殺されるのだ。

 

以前抜けようとした奴がいたのだが、そいつは自分を含めたこの男の協力者たちの前で、拘束具の男が変身したドーパントに惨殺させられたのだ。

 

「………」

 

河壁は目の前にいるレザースーツの男に委縮しながら、その男が何か言い出すのを待った。

男は河壁から謎の仮面ライダーの報告を聞いてからずっと無言を貫いていたが、やがてその重い口を開いた。

 

「……つまり、あの女の他にも例のドライバーを持ったヤツがいるって事だな?」

「は、はい…そうです……」

 

河壁は顔を強張(こわば)らせながらも何とか応じる。

この男は常人には無い威圧感を常に発し続けており、本当に同じ人間なのかさえも疑わしい。

 

「そうか…ならそいつのドライバーを奪うのもありだな……」

 

男はニヒルな笑みを浮かべてそう呟いたのち、懐からある物を取り出した。

それは正規の物より一回り大きな黒いUSBメモリで、その中央にはイニシャルの“J”が描かれている。

それはガイアメモリと呼ばれる代物で、人を超人に変える事のできる魔の産物だ。

そして男が持っているメモリの正式名称はジョーカーメモリ。“切り札”の記憶を内包したメモリだ。

 

男はジョーカーメモリを手に持ってニヒルな笑みを浮かべたまま拘束された男に近づいて行く。

 

「……ッ!?ンーッ!ンンーッ!!」

 

それを取り出したのを見た拘束された男は、猿轡(さるぐつわ)をされた状態で必死に拒絶の態を示した。

その目は恐怖の色に染まっており、これからその男が自分に何をしようとしているのか分かっているからこその反応だ。

しかしレザースーツの男はそれを分かっているにも関わらず、まるで軽いイタズラをする子供の様な態度で口を開いた。

 

「ほーう、そんなにコレが欲しいのか?随分とジャンキーなヤツだな。そんなに欲しけりゃくれてやるよ。西方(にしかた)…駆(かける)……」

 

[ジョーカー!]

 

男はそのジョーカーメモリの下部に設けられたスイッチを押して起動させると、電子音声・ガイアウィスパーが発せられる。

それと同時に駆と呼ばれた男の首筋に、パソコンにあるコネクタのような物が出現し、男はメモリをそのコネクタに挿し込んだ。

 

「ングッ!グゥゥゥゥ!!」

 

メモリが差し込まれると、それは駆の体内へと埋まって行き、それが苦しいのか駆は苦悶の悲鳴を上げる。

やがて完全にジョーカーメモリが駆の体内に入り込むと、今度はその身体に変化が訪れる。

 

駆の目が怪しく紫色に光り、全身に禍々しい紫色のノイズに包まれると、その姿を変貌させていく。

駆の身体は一回り盛り上がり、ノイズが晴れた所からその変貌した姿を曝していった。

 

黒と紫のストライプの服と、それと同色の道化師のような帽子。

黒いペルソナから垣間見える紫色の鋭い眼光と黒く硬質な印象を与える皮膚。

 

ジョーカードーパント。それがこの西方駆と言う人間だった怪物の呼称だ。

 

『……ヌゥン!!』

 

ジョーカードーパントが拘束具を力任せに引き千切って身体の自由を取り戻す様子を見ながら、男はジョーカードーパントに言い放った。

 

「さぁ、例の女を探し出せ。邪魔する様なヤツがいたらそいつもここへ連れて来い」

『………』

 

ジョーカードーパントはその命令に無言で頷くと、帽子を被り直す仕草をしながら部屋から出ていった。

河壁はその一部始終を見ていると、邪悪な笑みを浮かべた男がこちらを振り向いてきた。

男から発せられる威圧感に思わず身体が竦(すく)むが、男は大して気にした様子もなく河壁に言い放った。

 

「お前にはアイツとは別行動をとってもらう。それにはお前の他に何人か向かわせてやるから、安心して行って来い」

「あ、ああ……」

 

何とか頷き返しながら河壁は思った。やっぱりコイツは正真正銘の悪魔なんだと……。

 

 

 

 

 

「へぇ〜随分と手の掛かるお兄さんなのね」

「ハイ、まぁ……」

 

歩がどこかに行ってからは、とりあえず楓と一緒に行動する事となったのだが、一応歩には自分がどこにいるのか分かるらしいし、それほど心配してはいないが、一体何があったのだろうか?

そして今、亜由美は楓と荷物を半分ずつ持って世間話をしながら、楓の自宅兼仕事場まで一緒に歩いていた。

 

この女性は加奈と似ているようでどこかが違う。

こうして話しているとやはり加奈その元なのだが、やはり楓は加奈とは違う点が多い事が分かった。

 

まず年齢。これは最初の時に聞いたから別に今はそれほど気にしてないが(気にしてはいけないとも言う)、考え方も大分違っていた。

何と彼女は私立探偵をして生計を立てているのだそうだ。

以前から加奈には探偵が似会うと思っていたが、当の本人は「どうせなるなら国家公務員」の一点張りで、探偵になる気は毛先一本分もなかったのだ。

しかし楓はと言うと「縛られるのは嫌いだから」と言う理由で警察よりも探偵稼業を始めたのだそうだ。

でも一人だと何かと不便ではないかと訊ねようとした時、亜由美の脳裏に楓のあの言葉が蘇った。

 

「そう言えば、歩を駆って人と勘違いしてましたけど、その人って誰なんです?」

 

その人物が一体どのような人物なのかは大体察しが付いていたが、あえてそう訊ねた。

少なくともあの歩の服装を見てその人と勘違いしたのだから恐らく同業者か何かなんじゃないかと思ったのだ。

しかし楓はその質問を聞くと、どこか寂しそうな面持ちになり、ポツリと答えた。

 

「私の相棒よ……。もう二週間以上も行方不明になってるの……」

「あ…その、ゴメンナサイ。嫌な事聞いちゃって……」

 

どうやらこの話題には触れてはいけなかった様だ。

楓にとって駆という人物は意外と特別な存在で、そんな存在が突然いなくなってしまえば、それは寂しいだろう。

 

「そんなに気にしなくていいわよ。どうせその内ひょっこり帰ってくる筈だから。私はそう信じてる」

 

しかし楓はすぐに明るい表情になって、亜由美にそう言った。

それは単なる寂しさを紛らわす物ではなく、本心からの言葉なのだろう。

亜由美はその強い意志を感じ取って、じゃあ自分はどうなのだろうと考えた。

 

(信じる…かぁ……歩は私の事を信じてるのかなぁ……?)

 

思い出したのは歩の過去を見たあの時の出来事だ。

そこで出会った士と言う青年は、この先には忘れたくても忘れられない出来事が待っていると言っていた。

もしその先に起きた出来事を見て、彼を受け入れていれば彼は自分の事を信じていたのだろうか?

歩は今もずっとその過去を引きずっている可能性は十分にある。

彼は自分の心の内をそう簡単に話そうとしないため、溜めこんでしまう癖がある。

そのことで龍騎の世界で歩を説教した事もあったが、未だに心の内を開く様な事は話していない。

あったとしても、精々夢で何があったかを話した時くらいだ。

 

『うわあぁぁぁ!!』

 

そんなに自分は頼りないのかと若干自虐的な思考に陥ってしまっていると、遠くの方から多くの騒然とした悲鳴が聞こえて来た。

その悲鳴は楓にも聞こえており、彼女は険しい表情をして「まさか……」と小さく呟いた。

そして次の瞬間に楓はその悲鳴が聞こえてきた方向へと一目散に駆け出して行った。亜由美の荷物の半分を放り投げて……。

 

「えぇちょ、投げないでくださいよもう!」

 

亜由美はそう怒鳴るが楓は既に亜由美からかなりの距離を離しており、聞こえているか微妙だ。

仕方なく亜由美は近くに誰もいない事を確認してから、自分のクラインの壺に荷物を納めると、楓の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

「へぇ〜そんな計画なんてあったんだなぁ〜」

「それって本当なんですか?私にはとても信じられませんが……」

「まあ知らなくて当然だし、そう簡単には信じられないだろうね」

 

歩はヴァンと麗奈と共に、港から街へと移動しながら自分の目的とDプロジェクトの大まかな概要を説明した。

どうやらヴァンの方は好太郎の時とは違って、他のDシリーズの事はある程度知っているようだったが、麗奈に至ってはそれ以前の問題だった。何せ記憶を失っているのだ。

 

どうも彼女のドライバーは彼女自身のクラインの壺の中へ入れているようなのだが、その取り出し方さえも忘れてしまっており、彼女がどんなDシリーズなのかは未だに不明だ。

 

「それで、その代行者様がこの世界に来たってぇ事は、何かしらの異変がこの世界で起きてるってぇ事だな?」

「まぁそうなるね」

「その異変って何なんですか?」

「それは僕にも分からない。とりあえず今は僕の連れを迎えに行かないといけないから、まずはそこまで……」

「おっと待ったぁ〜」

 

歩がこれからの予定を話そうとすると、ヴァンが両手で歩と麗奈の進行方向を塞いで立ち止まった。

 

「どうしたんですかヴァンさん?」

 

それに麗奈が疑問を抱いてヴァンに話しかけるが、歩には大体の見当がついた。

 

「もしかして、敵?」

「あぁ、何かいやぁ〜な気配が向こうの角からして来るぜぇ……。俺のこういう勘は結構当たるからなぁ〜」

「……麗奈さんは隠れてた方がいいよ。多分、狙いは君だろうからね」

「は、はい…!」

 

そう言って下がらせると、ヴァンはクラインの壺からドライバーを取り出して、カードを構え、歩は何時でも次元断裂を展開できるよう準備をした。

 

歩が次元断裂で相手の動きを止めて、その隙にヴァンがメモリブレイクさせるという算段だ。その方が効率が良い。

 

「あくまで事情を聞き出すからね。ちゃんとメモリブレイクする様にね」

「あいよっとぉ〜」

 

ヴァンに念のためそう釘を刺しておいた。

あの時、アノマロカリスドーパントは“そこの女に用がある”と言おうとしていた。

ドーパントはどうも彼女の持っているDシリーズ専用のドライバーが目的のようだ。

例えドーパントでも次元移動能力を持っていなければ使う事が出来る筈がないのに、何故欲しているのかは不明だが、少なくともドライバーを渡すわけにはいかない。

これらは下手に扱えば世界を崩壊させるほどの力を持っている。子供に銃を持たせているのと同じだ。

 

[カメンライド……]

 

「さぁ〜どっからでも掛かってこいやぁ〜」

「……それだけ聞くと、全然やる気がなさそうだね」

「いやぁ〜今何か眠くってさぁ〜」

 

ヴァンはカードをスリットへ挿入して、何とも緊張感の抜けそうな口調でそう言うと、後ろへ下がった麗奈が軽くツッコミを入れた。

どうも睡魔が襲ってきているようではあったが、変身準備をしているわけだし問題ないかと思っていると、遂にその姿を曲がり角から現した。

 

黒と紫のストライプ柄の服の様な胴体と黒い硬質な印象を受ける肌に、道化師を思わせる帽子と靴。

そして黒い飾り気のない平面なペルソナで顔を覆い隠し、紫色に輝く眼光を発している。

その姿はさながらピエロと言ったところだろうか。

 

「じゃあ早速頼むぜぇ〜」

「……分かってるよ」

 

歩はヴァンに促され、そのピエロのドーパントの背後に次元断裂を展開させて、その動きを拘束しようとした。が……

 

『……ムンッ!』

「ッ!?」

「ってアラ?なんで?」

 

ドーパントに貼り付いたと思ったら、その身体に軽く力を入れて次元断裂をまるで窓ガラスのように粉々に粉砕してしまったのだ。

その現象が意味するものは一つしかない。アレは次元移動能力を持っているのだ。

 

「チッ、どうやら変身して倒すしかなさそうだね……」

 

軽く舌打ちを打ちながらそう呟いて、歩もドライバーを取り出して変身準備をする。

だがそれを敵が待っているわけもなく、一気にこちらへと駆け出した。

しかしヴァンがドーパントの前に立ちはだかり、バッターのように剣を構えてそれをドーパント目掛けて音声コードを唱えながら振るった。

 

「変っ身っ!」

 

[ディバイド!]

 

『ムゥ!?』

 

振った瞬間ドーパントの身体は吹き飛ばされ、そのドーパントがいた位置に次元断裂と二枚のライドプレートが出現する。

次元断裂がヴァンに迫ってその身体を包み込み、続いてライドプレートが顔に位置する箇所にV字に突き刺さる。

そこから全体のカラーリングを鮮やかなエメラルドグリーンへと変色させて、ディバイドへの変身を完了させた。

 

「今の内にアンタも変身しときなぁ」

「悪いね。変身」

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

後頭部を掻きながら歩にも変身するように言うディバイドに従い、歩も同じくディージェントへと変身を果たしてディバイドの横に並び立つと、そのドーパントを見据えた。

 

『ウゥゥゥ……』

 

ドーパントは即座に受け身を取ってこちらを警戒しており、獣のように唸っている。どうやらガイアメモリの毒素に当てられて暴走してしまっている様だ。

 

ガイアメモリには人体に有害な毒素が含まれており、それをドライバーと言うフィルターを通さずに体内へ挿入させると、感情や精神と言った人間の内側を歪めて破壊してしまう恐れもある。

そんな麻薬に近い作用を持った者の所為で使用者は徐々に壊れていく。そしてそれを止めるのが、この世界の仮面ライダーの役割だ。

 

「止めるよ……」

「了解っとぉ」

『ウァァ!!』

 

ディージェントはグローブを嵌める仕草をしながら、ディバイドに戦闘開始の合図を出すと同時に。

ドーパントが雄叫びを上げてこちらへと迫って来た。

 

 

 

 

 

亜由美が楓に追い付くと、そこは風都庭園と呼ばれる広場で、花壇や多くの樹木が立ち並ぶ緑の多い場所だった。

しかしそこに炎の塊の様な怪人が居座っており、木々へ自身の身体から生成した炎弾を投げつけて焼き尽くしていた。

 

「な、何ですかアレ!?」

「ドーパント…この街を泣かせる奴らよ。そこのアンタ!何やってんのよ!!」

 

亜由美が目の前にいる得体の知れない存在に驚きの声を上げると、楓はそのドーパントを忌々しげに睨みながら簡潔に答え、その怪物に恐れる事なく啖呵を切った。

 

『ウルセェ!俺は仮面ライダーに用があんだよ!!だからこうやって騒ぎを起こして釣ろうって算段だ!!』

 

どうやらこの炎の怪人はライダーを呼び出すためだけにこんな騒ぎを起こしたようだった。

それを聞いた楓は、顔を伏せて懐からある物を取り出した。

 

「……そう。そんなに会いたかったら、今すぐ会わせてあげるわよ」

 

懐から取り出したそれは、左右非対称の赤い無骨なバックルで、右側の部分に何かを嵌めこむスロットルがあった。

それを腹部に宛がうと、横から帯が伸びてベルトを形成して楓の腰に巻き付いた。

更に今度は胸ポケットから一本の緑色のUSBメモリを取り出してそのスイッチを押した。

 

[サイクロン!]

 

「この場所、結構気に入ってたのに…よくもこんなに荒らしてくれたわね……」

『ガイアメモリ!?まさか、お前が……』

「そのまさかよ、変身!」

 

[サイクロン!]

 

変身と言う掛け声と同時にドーパントがガイアメモリと呼んだメモリを、バックルのスロットルに差し込み右へ斜めに傾けるや否や、もう一度電子音声が響き渡って楓の周囲に突風が巻き起こる。

その強風やいなや、さながら台風の様な強さだ。

 

「キャッ!?」

『うおぉぉ!?』

 

この強さには、堪らず亜由美もドーパントも身構えて顔を防ぐ。

その間に楓の身体に変化が起き始める。

塵の様な物が楓の身体に寄り集まって装甲を形成し、それに合わせて楓の小柄な体格も二回り大きくなって180cm近い身長まで伸びる。

やがて風が止むと、そこには一人のライダーが立っていた。

 

ライトグリーンの装甲で全身を包み込んだ女性的なフォルムを形作ったボディ。

赤い複眼とイニシャルのWを模した角飾り。

更に先程の突風の余波で未だに靡く銀色のマフラー。

 

その姿はまさしく、仮面ライダーその物だ。

 

(か、楓さんがライダーになっちゃった……!)

「仮面ライダーサイクロン!さあ、風都に代わってお仕置きよ!!」

「そして何か懐かしいセリフ!?」

 

楓が変身したライダーは、右手首にスナップを利かせてから怪人を指差すと、何とも懐かしい昔の少女アニメの決め台詞に似た狂言を言い放った。正直古すぎます!!

 

しかも知り合いに似てる人物がライダーだった事がかなり違和感があり過ぎて、もう頭が状況に付いて行けない……。

 

『ま、まあいい。とにかく、お前を倒すよう言われてるんでな!思う存分嬲り殺してやんよ!!』

 

ドーパントも亜由美と同じくその決め台詞に若干引きつつも、気を取り直して本来の目的でもある仮面ライダーに向かって炎弾を放った。

 

「甘いわよ!!」

『何…うおっ!?』

 

しかしサイクロンが大きく右手を振り払うとそこから突風が巻き起こって迫りくる炎を吹き消し、さらにその奥にいる炎弾を放ったドーパントまでもを吹き飛ばそうとした。

 

『こ、このくらいの風で……!』

「隙あり!!」

『なっ!?はや…ブフォア!?』

 

突風によって怯んだ隙を突いて自分が起こした風を追い風にしてドーパントの懐まで一瞬で移動すると、そこからハイキックをドーパントの顎へ向かって叩き込んだ。

それによって踏鞴を踏んだ所へハイキックの反動で華麗に宙返りをして着地すると、更に追撃である渾身のボディーブローを岩石のように高質化している腹部へと放った。

 

「はぁぁ!!」

『どぅえあぁぁ!!』

 

しかもその際に拳からゴウッと竜巻の如く強風が吹き荒れ、ドーパントの身体を錐揉み回転させながら吹き飛ばした。

 

「今の内にとどめを刺させてもらうわよ」

 

遠くまで吹き飛んだのを一瞥すると、サイクロンはバックルのスロットルからガイアメモリを取り外し、右腰に設けられた別のスロットルへと差し込んで横を軽く叩く。

 

[サイクロン!マキシマムドライブ!]

 

すると認識音声が流れ、サイクロンの全身を緑色の風を彷彿とさせるオーラが包み込み、彼女を中心として周囲が台風のように吹き荒れる。

 

そしてそのオーラがサイクロンの右足へと集約し、彼女はその技名であろう掛け声を叫びながら、右足をフラフラと立ち上がろうとするドーパント目掛けて振るった。

 

「サイクロンカッター!!」

『ぐっ…ああぁぁぁぁ!!』

 

右足に集まったオーラが遠心力によりそこから勢いよく離れると三日月形の斬撃に形作られ、ドーパントの身体を鎌鼬(かまいたち)の如く切り捨てた。

それに一瞬くぐもった声を漏らした後、断末魔の悲鳴を上げてそのドーパントは爆散した。

 

爆炎が晴れると、そこには一人の男性が横たわっており、その横にはサイクロンが使っていたメモリに酷似した物が粉々に砕かれた状態で落ちていた。

 

「ひょっとして…この人がさっきの怪物だったの……?」

「ええそうよ。これはガイアメモリって言ってね、ドライバーを介さずに使うと今みたいな怪物になっちゃうのよ」

「な、何か恐い……」

 

サイクロンが変身を解除しながら男の横に落ちていたガイアメモリの破片を手に取って亜由美の呟きに答えると、亜由美は率直な感想を漏らした。

前の世界でもオルフェノクと呼ばれる人から怪物になった者達がいたが、アレは亜由美にとっては人種の違い程度にしか思えないし、章治や正幸、美玖のように優しい人達がいる事も知っている。

 

しかし今回はその逆だ。人でありながら人外の身体を求め、その結果本当に怪物その物に変えてしまう危険な代物……。

そう考えると、オルフェノクになってしまった人達より、ドーパントになろうとしている人達の方がよっぽど怪物らしい。

 

「……やっぱり、人って醜いと思う?」

「え?」

 

亜由美が何を思っているのか予想が出来ているのだろうか、楓は亜由美に向かってそう問いかけ、更に続けた。

 

「私は憎い。人を…この街を泣かせるドーパントが。そいつらのせいで、私の父さんと母さんは……!」

 

ギリッ…と、楓は歯を噛み締めながら、忌々しげに手に取ったガイアメモリの破片を握る。

彼女の過去に何かがあったよだが、亜由美にそれを知る術はない。

そんな楓の様子をどこか悲しそうな表情で見ていた亜由美に気付いたのか、彼女はこちらを向いてその表情を愛想笑いに変えながらガイアメモリの破片を投げ捨てた。

 

「あ、つまらない話をしちゃったわね。今のは忘れて」

「で、でも……」

「大丈夫よ。結局私もガイアメモリに頼らないと何にも出来ない訳なんだし、ドーパントと何ら変わらないわよ」

(やっぱり、加奈とは違うんだなぁ……)

 

加奈であれば、今の楓の様な自虐的な発言など絶対にしない。

まったくの別人である事は分かってはいるのだが、その顔でそんな事を言われるのは加奈の親友として、なんだか悲しかった。

 

「チイィィッ!!何だよもおぉやられちまったのかあぁぁぁ!!?もぉ少し持ち堪えたらどうなんだあぁぁぁ!!?」

「うわっ!ウルサッ!?」

「まさか、新手!?」

 

そんな事を感慨耽っていると、突然の大音量に亜由美は思わず耳を塞ぎながら大声の発信源を向くと、倒れている男の後ろから大柄の男がこちらへと歩いて来ているのが目に入った。

 

筋骨隆々の上半身を裸にし、その身体に着せる為の上着を腰に乱雑に巻き付け、下は黒のジャージに下駄という奇抜な格好のその男は、倒れた男の頭を軽く二回蹴りながら、再びその口から大音量を発した。

 

「かぁわかべええぇぇぇ!!ボスに任されてたってのに、どぉ落とし前付けるつもりだ!!ああぁぁぁん!!?」

「く、黒金(くろがね)さん……ス、スミマセン。でもアイツ、思ったより強くて……」

 

あまりの大音量に目を覚ました河壁と呼ばれた男は、なんとか言い訳しようとするも……

 

「“スミマセン”で済んだらオレたちゃいらねぇんだよおおぉぉぉ!!」

「ごはあぁぁぁ!!」

 

黒金と言う名の男が怒号を放ちながら河壁を蹴り飛ばした。

その際に「ゴキッ」という嫌な音が河壁から聞こえ、一本の木にぶつかって止まったかと思うと、その背中はありえない方向に曲がって口から血と泡を吹き、目は白目を向いていた。

これには堪らず亜由美は河壁に駆け寄ろうとしたが、楓に手で阻まれてしまった。

 

「亜由美ちゃん、今近づいたら危ないわよ」

「で、でもあのまま放っておいたら……!」

 

確かに河壁が倒れているのは黒金のすぐ近く。不用意に近寄れば自分までああなりかねない。

それでも、助けたい。その為に歩について来たのだから。

それを聞いた楓は軽く溜め息を吐くと、妥協案を提示してきた。

 

「ハァ…分かったわよ。それじゃあ私がアイツをここから遠ざけるから、その隙に救急車なりなんなり呼びなさい」

 

[サイクロン!]

 

そう呟きながら楓はもう一度変身するためにドライバーとガイアメモリを取り出し、黙々と変身手順を進めていく。

それを見た黒金は「ああぁん!!?」と疑問の声をこれまた大音量で放つ。

 

「まさかそっちの方が仮面ライダーだったのかあぁぁぁ!!?まあいい!!俺も思う存分暴れさせてもらうぜ!!コイツでなあぁぁぁ!!」

 

そう叫びながらジャージのポケットから取り出したのは銀色のガイアメモリで、それの下部に設けられているスイッチを押すと、そのメモリの名称を発した。

 

[メタル!]

 

「メタルメモリ!?それってアイツの……それをどこで!?」

「俺に勝てたら答えてやるよおぉぉぉ!!ただし!俺が勝ったらお前の三本のメモリを頂くぜえぇぇぇぇ!!」

 

そのメモリの名称に驚愕の声を漏らす楓に、黒金はメモリを前方に投げながらそう言い放った。

黒金の手元から放たれたメモリは、まるで意志でも持っているかのように黒金の周囲を飛び回り、やがて背中にあるコネクタへと突き刺さった。

 

「おおおおぉぉキタキタアァァァ!!」

 

黒金の目が銀色の光を放ち、その身体が金属質な物へと変容していく。

やがて変異が収まると、そこには鉄人がいた。

鋼鉄独特の鈍色の無骨な身体を持ち、赤くて丸い複眼を右目に嵌めこんだ隻眼のメタルドーパントとでも言うべき怪人へと変貌したのだ。

 

『掛かって来いや小娘えぇぇぇぇ!!』

 

威勢良く叫びながら背中にマウントされたハンマー型ロッドを手に取り、まるでカンフーアクションの如く振り回す。

それを見ていた楓は、亜由美に「それじゃあ後は頼むわよ」とだけ呟いて自身の持つメモリをバックルのスロットルへと挿入した。

 

「何に使う気か知らないけどやらないわよ。変身!」

 

[サイクロン!]

 

挿入してすぐにスロットルを斜めに傾け、ドライバーにメモリを読み込ませると、再び楓の姿は仮面ライダーサイクロンへと変え、メタルドーパントの懐へと飛び込んだ。

説明
第33話:ドッペルK/逆巻く疾風
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