IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
午前11時半。
福音撃墜の作戦開始時刻。
宿である旅館前の砂浜には一夏と箒。
俺は他の専用機持ちの面子同様にブリーフィングをしていた大広間で、指揮を執っている織斑先生たちと一緒に。
そしてバグのノイズは……刻々と強く。
まだ俺の捜索半径内には入ってきてないが近づいてきている。
場所の特定が完了し次第、俺も出るつもりだ。……無断の予定だから懲罰くらい受けるだろうけど。許容範囲内だ。
前の大型空中投影ディスプレイにISを装備した一夏と箒が表示された。
一夏は紅椿を装備した箒の背に乗る形になっている。
「織斑、篠ノ乃、聞こえるか?」
インカムを使っての織斑先生の問いに二人はうなずいて答えた。
「今回の作戦の要は((一撃必殺|ワンアプローチ・ワンダウン))だ。短時間での決着を心がけろ」
『了解』
『織斑先生。私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?』
「そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験が皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない」
『わかりました。できる範囲で支援します』
言葉遣いはいつも通りでも、どこか浮ついた声色の箒。
それには、こちらの専用機持ちメンバーからも声が出た。
「箒、なんか浮ついてない?」
「そうだね。大丈夫かな?」
「どうも調子がいいといいましょうか……」
鈴音、シャルロット、セシリアだ。
ラウラは何も言わなくても、厳しい顔つきで箒を見ている。
「―――織斑」
『は、はい』
「これはプライベート・チャネルだ。声は出さなくて良い。……どうも篠ノ乃は浮かれているな。あんな状態では何かし損じるやもしれん。いざというときはサポートしてやれ」
『わかりました。意識しておきます』
「頼むぞ」
プライベート・チャネルから、オープン・チャネルに戻る。
「では―――はじめ!」
その言葉と同時に、紅椿は急加速で飛び出した。
今度は、驚愕の声が上がる。
「あのスピード、((瞬時加速|イグニッション・ブースト))の比じゃないよ!」
「なんというスピード……」
「あれが、第四世代機の力ですの!?」
ディスプレイに表示される二人を写した映像の中で二人はどんどん遠ざかり、ものの数秒でそのカメラでは点として写るほど遠のいた。
表示される情報が、映像からレーダー表示と二人の機体情報に切り替わる。
――ティエリア、今の索敵半径は?
――先ほどと同様、半径50キロ圏内でアンノウン……バグの索敵をしている。
――それで、出たか?
――出たなら報告しているさ。
――まあ、そうだろうけど。引き続き頼む。
――了解。
ディスプレイに表示されるレーダーで、一夏と箒の二人が『銀の福音』にどんどんと接近していく。紅椿の性能なら後一分も経たずに交戦距離だ。
海上を横切る一つの光点と、それに近づいていく二つの光点が―――重なった。
――拓神、ここから20キロ沖にアンノウン反応を確認した。
――なっ!? 捜索半径は50じゃないのか!?
――こちらでもたった今そこに反応が出たんだ。
――……わざわざ巣から移動してここまで来る必要は無い、ってことか。たぶんその場所で実体化―――でいいのかわかんないけど、出現したんだろうな。
――どうする?
――場所は20キロ沖……キュリオスガストでの到達時間は?
――5分以内だ。大気圏外へ一度離脱すれば半分は縮まる。
――少しでも早く行きたいけどな……。大気圏外に出るってのは危険だな、国際問題的に。
――だろうな。
――ってわけだ。直線で進むから、キュリオスガストの展開準備を頼む。
――了解。
二十キロ……ここのレーダーにもう少しで入る距離だな。IS相当の速度なら10分経たないでここに到達することになる、無駄な余裕はなさそうだ。
そこで俺は、ダッシュで大広間から外に出た。
後ろから織斑先生の『どこへ行く!』なんかが聞こえたが、気にしたら負けだ。帰ったら怖いけどな。
◇
「全く、こんなときに何だアイツは」
多少のイラつきを隠さない千冬がそう言う。
その声には呆れと怒気が含まれていて、作戦中で無ければすぐに追いかけて捕らえていた事が容易に想像できた。
(まあいい、後で懲罰の一つでもくれてやればいいだろう)
そう完結して、千冬はディスプレイに向き直る。
つい今までレーダーだったのが、映像も表示されている。理由は監視衛星を利用しただけで、もちろん合法的に使用許可を取ってだ。
申請の許可がさきほど下りたことが、千冬には真耶から報告されていた。それのリンクが繋がったのだ。
映像に写っていたのは、二対一でも引けをとらず、むしろ優勢の福音だった。
総計で三十六もの砲口を持ち、それを利用した連射速度で一夏と箒を攻撃する福音。
しかもそれから放たれるエネルギー弾も厄介な代物で、触れれば爆発する―――つまり、かすっただけでもそこをえぐられるという、あくまで"実戦"を想定した武装。
そして必然的に回避重視になってしまう一夏と箒だった。
千冬は険しい顔つきでそれを見る。
そこに、いつもと違う鋭い真耶の報告が入った。
「織斑先生、ここから約二十キロの海域にアンノウンの反応が!」
「なに?」
「数は十。ISコアの反応はありません」
ISコアの反応が無い、ということに千冬はひっかかりを覚えた。
それはまるで―――
―――クラス対抗戦のときに復活した無人機のようだ、と。
「ええっ!?」
「どうした!」
ただでさえ緊急時なのに、それに重なるアンノウンの報告に千冬の声も荒くなる。
この大広間の中に集まる専用機持ちの間にも更なる緊張が走った。
「こちらからそれに向かって、超高速で向かう機影があります! この反応は―――玖蘭君です!」
大型ディスプレイが二分され、その半分に広域レーダーが映される。
確認できるのは十のアンノウンと、それに向かう拓神の反応。
その移動速度は、最新機であり最高性能機である紅椿をも遥かに上回っていた。
「玖蘭との連絡は?」
「無理です、繋がりません。あちらから拒否されているみたいで……」
「ちっ。アイツは、アレが来ることを知ってたとでも言うのか……」
拓神の力や、『マイスターズ』本来の性能を一部しか知らない千冬はそう考えた。
「どうしますか?」
こういうときだからこそ落ち着こうとする真耶の声にも、焦りが多くなる。
「本来ならここの専用機持ちを出すべきなんだろうが……」
どう考えても、あのスピードに追いつける機体は存在しない。紅椿の展開装甲を全て機動力に回しても……
「……あくまでこちらの本来の作戦は福音の撃墜だ。そちらを優先して対応する。アンノウンは玖蘭に任せるしかないだろう」
そう判断を下した千冬は、福音の戦闘の映像に目を向けた。
その顔に複雑な表情を浮かべながら。
◇
俺は旅館の廊下を全力疾走で駆け抜け、その途中にあった窓から外に飛び出した。
「展開準備は!」
『終了している』
「オーライ、『マイスターズ』展開!」
『了解。モード((選択|セレクト))、GN−003/af−G02『ガンダムキュリオス ガスト』』
キュリオスの装甲に包まれるが、その足には大型GNバーニアユニット。背にある機首ユニットはアビオニクスを強化された大型のものに換装されている。武装もGNサブマシンガンから超長距離射撃用のGNロングバレルキャノンに。
単独で成層圏突破が可能な機体の名は、突風の名を冠された主天使『キュリオス ガスト』。
旅館の建物にダメージを与えないよう高度を上げてから巡航形態に移行、バグに向けて航行を開始した。
「キュリオスガスト、これより迎撃に向かう!」
ただでさえ単独で大気圏を突破して((宇宙|ソラ))に飛び出せる速度を持つガスト仕様。その最大速度は他の機体とは比べ物にならない。
すぐ音速の壁を突破して最高速度に。空気抵抗で、前方に展開したGNフィールドと大気の境が高熱を帯びる。それでも速度は落とさずにバグに向かった。
◆
『敵機捕捉』
「確認してる」
超加速を始めて、ティエリアの推測通り三分経たずに目標を捕捉した。
『敵機の総数は十。―――ジンクスだ』
「黒いジンクス……カッコイイじゃねぇか」
目の前に出てきたバグは、流石にGN粒子は放出していないがジンクスの形状をしていた。
ということは、性能も……ってことか。
戦闘に備えよう。
『―――敵機ロックオン』
「了解。先制攻撃を仕掛ける!」
ハイパーセンサーがバグジンクスをロックオンした途端、俺は巡航形態のままGNロングバレルキャノンで十機のバグジンクスの一体に狙いを定め、撃った。
こっちが相手の索敵圏外に居るため、存在は気づかれずビームだけがバグジンクスに迫る。
突如飛来したビームに反応できなかった一機のバグジンクスは直撃を受け、残骸になったその姿を黒い霧のようなものに変えて――消えた。
残りは九機。
だが、それで((敵|こちら))の存在に気づいたバグジンクスが戦闘陣形に。お互いの背を合わせるように円を描く。
俺は一度人型に戻って雲の陰に入り、そこで止まった。
「モード変更、デュナメス」
『((準備|スタンバイ))……ロード……((完了|コンプリート))。GN−002『ガンダムデュナメス』』
一瞬で機体が変わる。
オレンジと白からモスグリーンと白に。
「追加展開。GNアームズ」
『準備……ロード……完了。GNR−001『GNアームズ』』
俺の背後に明るめのブルーのカラーリングがされた大型支援機が出現する。
GNアーマー。今回はデュナメス専用のGNアーマーTYPE−D。
ガンダムとドッキングすることでガンダムの火力と機動力の大幅な引き上げが可能な支援機。
ちなみにドッキングするまでの制御はティエリアだ。
「ドッキング頼む」
『ドッキングモードに移行』
GNアーマーが上下に広がってドッキングモードに。
そこに俺が後ろ向きで入り、コーン型スラスターと両足を固定。デュナメスのGNフルシールドを閉じた。
『ドッキング完了。GN−002+GNR−001D『GNアーマーTYPE−D』』
TYPE−Dの装備は、エクシア用のTYPE−Eと共通の大型GNキャノンと脚部クロー。それにTYPE−D用に右アームにはGNツインライフル、左アームには超大型GNミサイルポッドが装備されている。
「さあ、圧倒させてもらうぜ!」
バグジンクスとの壁になっていた雲を突き破りながら、俺はGNアームズで突進する。
気付かれ九機からビームライフルの猛攻を受けるが、距離が開いているため回避は容易。
回避しつつ左アームのミサイルポッドを開いた。
「くらっときな!」
ドシュシュシュシュシュ――――――!
((全弾発射|フルバースト))。数百発のミサイルがたった九機のバグジンクスに向かう。
それも一方面だけでなく三百六十度から。
当たればオーバーキルだが……そう簡単に置くとは思えないしな。
バグジンクスはそれに対して背を合わせた円形を維持したまま、メリーゴーランドのように回転をはじめてビームライフルを撃ちまくる。
ビームの弾幕にミサイルが次々に撃墜されて爆煙を撒き散らした。少し経つとライフルの銃声は消えて、爆煙に包まれたバグたちだけ。
俺はそこに向けて右アームのGNツインライフルと大型GNキャノンを撃ち込む。
『大型GNキャノン、圧縮粒子残量限界。チャージのために10秒使用不可』
「OK、作戦続行する」
爆煙の中に向けてツインライフルを撃ちながら、少し後退して様子を見る。
残っていた九機の内、爆煙の中から出てきたのは……七機。そのうち目に見える損傷が無いのは五機。
あれだけやって撃墜二……長引きそうだ。
俺はミサイルの切れたミサイルポッドを閉じて、ツインライフルをバグジンクスに向け―――
『左斜め上方に新たな敵機反応!』
「なにっ? ―――ぐぁっ!?」
機体に走る強い衝撃。
……くっ、被弾したか!
『GNアーマーの損傷危険域に突入! 離脱を!』
「ちっ、了解!」
ドッキングを解除、その場から緊急離脱する。
次の瞬間に、GNアーマーはバグジンクスと敵の増援のビームライフルを受けて目の前で爆散。
俺は回避の距離が足りずに爆発の爆炎に少し飲まれ、S・Eを消費した。
「誰だよ!」
ビームライフルを避けながら、頭上を見る。
そこには―――
「アイツら―――スローネ三機かよ……!」
たった今シールドバリアーを貫いてGNアーマーを破壊したのは、スローネアインのGNランチャー。もちろんその傍にはツヴァイとドライも居る。
これで敵の総数は十。数的には最初と同じでも、戦力的には大幅な上昇だ。
「戦況は極悪ってか?」
『追加で悪い報告がある。織斑、篠ノ乃の両名が福音に撃墜された』
本当に悪い報告だなコノヤロー……こっちは俺がやるしかないんだけど。
「了解。といっても助けに行けるわけでもなし……この戦闘に集中する」
『薄情な男だな』
「今はそんな感情を持ち合わせられるほど余裕じゃねぇだろ」
今まで俺の上に居た三機がバグジンクスと合流した。
「この状況、デュナメスじゃ分が悪い。モード変更、ヴァーチェ」
『準備……ロード……完了、GN−005『ガンダムヴァーチェ』』
モスグリーンと白から、重装甲な黒と白に。
俺がそれを展開したと同時に、合流したバグたちは一斉に攻撃を開始してくる。
「粒子圧縮率最大でGNフィールド展開!」
『GNフィールド展開、粒子圧縮率最大』
俺が、淡い緑の球体に包まれる。そのGNフィールドで全てのビームを弾き、俺は防御に徹した。
このフィールド内なら、ランチャーの直撃を受けてもダメージは無い。
唯一心配なのはツヴァイの実体剣だけ。……それでもあちら自身の弾幕でツヴァイはこっちには近寄れない。
「GNバズーカへの粒子チャージを停止。GNフィールドに最優先で粒子を回してくれ」
『了解した』
GNフィールドの淡い緑が少し濃くなる。粒子量が増加した証拠だ。
そして俺はさっきまで閉じていた通信を開いた。
「織斑先生、聞こえますか?」
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第44話『傷痕』 | ||
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