仮面ライダーディージェント
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風都タワーに秘密裏に作られた部屋……。

そこへナスカドーパントがジョーカードーパントと麗奈を連れて次元断裂の中から姿を現した。

ナスカドーパントは抱えていた麗奈をジョーカードーパントに預けて自分の顎に手を添えると、そこからメモリ排出して人間態である二枚目顔のキザッたらしい顔をした男・井上運河へと姿を変えた。

運河がやって来たこの部屋はとあるNEVER…所謂一度死んだ人間達が隠れ家として使っている空間だ。

運河自身もNEVERであり、自分達を纏めるボスにただ付き従ってるだけにすぎない。

何故この身体がNEVERになったかなんて、とうの昔に忘れてしまっている。

ただ面白そう。それだけの理由で井上運河と言う男はここにいるだけだ。

「上手く行ったみたいだな」

するとそこへ自分達がボスと呼んでいるレザースーツの男が、部屋の中央に置かれた拘束椅子に腰かけ、口元を笑みの形に歪めながら声を掛けて来た。

「ええ。しかし予想外でしたのは、更にもう一人特別なドライバーを持った人間がいた…という点ですね」

「まだいたのか?」

「はい。河壁からの報告にあった剣を持った仮面ライダーの他に、藍色の仮面ライダーがいましたよ」

レザースーツの男に簡単な報告を世間話でもするかのように伝えると、男は「そうか」とだけ答えて椅子から立ち上がると、ジョーカードーパントに手招きをして麗奈を座らせるように命令した。

『………』

「よし、ご苦労だったな」

『グッ…!?ウ、ウゥゥゥゥ……!!』

ジョーカードーパントがその命令に無言で頷いて麗奈を椅子に座らせると、男は指をパチンと鳴らしながら特に感情を込めていない労いの言葉をジョーカードーパントに掛けると突然苦しみ出し、首筋からジョーカーメモリを排出して西方駆に戻るとそのまま倒れてしまった。

「ゼハァッ…!ハァッ…か、克也かつや!その人をどうするつもりだ!?」

「別にどうもしないさ。ただコイツの持っているドライバーが欲しかった。それだけさ」

強制的にドーパントに変えられた拍子に猿轡が解けた事で、疲労が激しいもののここへ自分を拉致したレザースーツの男…克也へ問いかけた。

それに対し克也は床に落ちたジョーカーメモリを拾い上げながら、何でもなさそうに答えた。

小野塚(おのづか)克也(かつや)…十年前、ある事件を切欠に行方不明になっていた駆の元相棒だ。

二週間前に克也からの封筒が来て、それに書かれていた場所まで赴いたのだが、克也は変わってしまっていた。

いや、正確には何も変わっていなかったと言えるだろう。

彼は十年前のあの事件が起きてからというもの、克也は自分を何一つ隠す事なく曝け出すようになってしまったのだ。自身の内に押し込めていた破壊衝動さえも……。

「克也、お前は一体何がしたいんだ!?」

「そんな事、お前が一番分かってるだろ?復讐だよ。俺をNEVERにしたお前へのな……」

十年前のあの日、克也は一件の事件解決の際に命を落とした。

その悲しみに打ちひしがれていた時、藤原夫妻に会ってNEVERという蘇生実験をしている事を知った。

駆はその実験に克也の身体を受け渡す事を条件に、克也をNEVERとして生き返らせる事に成功した。

だが、全てはそこから崩れ始めた。

克也は人間としての道徳感が徐々に欠けて行き、自身の破壊衝動に従う様になってしまったのだ。

どうやらNEVERとして生き返らせた人間には副作用がある様で、生前の人格が時が経つ毎に失って行くのだそうだ。

その事に藤原夫妻はようやく気付くも時既に遅く、その頃には克也は完全にただの悪魔になってしまい、自分がこの手で殺した…筈だった。

だが彼は十年越しにその姿を自分の目の前に現したのだ。復讐鬼として。

駆は十年前の時と同じ様に何とか克也を止めようとしたが、克也の力は以前より増しており、ジョーカーでは太刀打ちできなかったのだ。

その後はここに縛られ、ジョーカーメモリに何らかの改造を施され、それの実験台としてジョーカードーパントに仕立て上げられてしまった。

「だったら、何でこの関係のない人達まで傷付けるんだ!?俺一人に復讐すればいいだろうが!!」

「あぁそうだな、だから関係のない人間も傷付けるんだよ。その方がお前に効くからな……」

克也はうつ伏せに倒れた駆の前にしゃがんで冷たい笑みを見せながら、自分を最も苦しめる方法を答えた。

本当に変わってしまった…誰であろう、自分のせいで……。

昔の彼ならそんな事は絶対にしない。

「それにな、まだ俺の復讐対象はいるんだよ」

「何…?まさか、藤原夫妻の事か?でもあの二人はもう……」

「いや違う…お前、そいつ等の娘を匿ってるだろ?」

「ッ!?まさか、楓を…!?」

どうやら克也の標的には自分だけではなく、楓も含まれている様だ。

彼女にまで手を出させるわけには…行かない!

「やめろ!彼女は関係ない!アイツは…俺の相棒だ!!」

「俺の相棒…か……。よく元相棒の俺にそんな事が言える…なぁ!」

「ガハッ!ゲヒッ…ゲホッ…!」

「ボス、この人どこにもドライバーを隠し持っていませんよ?」

克也は倒れている駆の腹を思いっきり蹴って身体から空気を無理矢理吐き出させる。

何度か咽ているところで運河が金属センサーを持ちながら克也に報告していた。

コイツ等は最初は藤原夫妻が開発した次世代型ガイアメモリ・T2ガイアメモリ26本を集めていたのだが、先日ここにやって来た謎の男に、この女性(来栖麗奈と言うらしい)が“特別なドライバー”を持っていると聞かされ、興味本位で部下達に探させていたのだ。

「ん?どうやら本当に何とかの壺とやらに入れてるらしいな……。ちょっとどいてろ」

そう呟いて運河を退かして麗奈の前に立つと、彼女の顔を左手で鷲掴みにした。

「ウッ…クッ……!」

「ほ〜う、これが何とかの壺か…確かにいろんなものがどっちゃりと入ってる」

麗奈が苦しそうに呻いているのを余所に、克也は目を閉じながら何かを集中して探る様な真剣な面持ちでぼやくと、麗奈を掴んでいる反対の手を右に向けた。

するとその真上に20〜30cm程の灰色の板が現れ、その中からズルズルと青黒い長方形のバックルが出て来て、ボトリと克也の手に落ちた。

「ヌッ!?グガァッ!」

「克也!」

克也がバックルを手にした瞬間、突然頭を抱えて悶えたがすぐに治まったのか今度はそのバックルを見ながらニタリと笑った。

「ハ…ハッハッハッハ……!これはいい物を手に入れたなぁ、確かにこれはもうエターナルも必要ないくらいの力だ…!」

「ボス、どうやらドライバーを手に入れたみたいだな」

克也が狂気に満ちた高笑いを上げていると、黒髪オールバックの無表情の男が部屋に入って来た。

この男の名は石原(いしはら)健(けん)。またの名をトリガードーパントだ。

彼もまたNEVERであり、克也が出す任務をただ淡々とこなすだけの格好の駒だ。

「健か…丁度いい所に来たな。剛(たけし)の奴はどうした?」

「黒金(くろがね)剛(たけし)は仮面ライダーとの戦闘で消えた。今度は俺が戦おうと思っていたんだが、“特別なドライバー”を持った奴が現れたんでな。一先ず引かせてもらった」

「そうか…まぁお前が帰って来ただけでも僥倖だ。取り敢えずこれを試しに使ってみろ。神童もお前に次元移動能力を与えていたからな。お前でも使えこなせる筈だ」

「……ッ!?」

そう言って麗奈から奪ったバックルを健吾に投げ渡すと、克也の時と同じように頭を押さえる。

やがて頭痛が治まったのか、手を退かしてバックルをまじまじと見つめている。

その様子を見ながら克也は不敵に笑いながら健に言い放った。

「それを使って試しに仮面ライダーと戦ってみろ。“特別なドライバー”を持った奴でも別に構わん。好きにやれ」

「……了解だ、ボス」

健はそれだけ答えると部屋から出て行った。

駆はその様子を倒れた状態で見ながら、ある推測を立てた。

克也の性格ならまず自分がその力を使う筈だ。それなのに何故か一介の部下に何のテスト段階も踏まずに使わせる……。それはつまり、健をただの実験台として使おうと言う腹か…!

「克也、お前まさか……!?」

「あぁそうだ、お前の考えている通りさ。アイツにはあのドライバー…ディボルグドライバーとか言うらしいが、そいつの実用テストをやってもらう。触れた瞬間分かったんだが、アレは相当クセの強いタイプだ。下手に扱えば装着者も危ないだろうな」

「それを知ってて何で……」

「言っただろう?何の関係のない人間も巻き込んだ方がお前には効くってな……。それに、健もそれを承知の上でアレを使おうとしている。俺に命令されたと言う事もあるが、例え命令してなくてもアイツは平気で使うだろうなぁ……」

駆はここにいる人間達の異常さを再認識した。

コイツ等は、もう人としての心を失っているのだと……。

 

 

 

 

歩達は現在、風都タワーまでの道程みちのりで楓に自分達の大まかな説明をしながら歩いていた。

その内容を聞いていた時の楓は、何とも胡散臭そうな顔をしていたが、歩が「別にそれほど重要な事でもないので信じなくてもいい」と言ってこの話しを締めると、楓は自分の考えを歩にぶち当てた。

「ま、確かにさっき出て来た灰色の窓みたいなヤツの説明もそれで納得できるかもしれないけど、そう言う事が出来るガイアメモリを持ってるって言う可能性もあるわけだしね。ガイアメモリ以上に不可思議な事件が起きて堪るもんですかっての」

(良かった。普通の反応だ……)

楓の解釈を聞いた亜由美は内心ホッとしていた。

今まで会った人は「世界を旅する宇宙人」と変な解釈をする人だったり「科学者たる者それを信じて実証するべし」とか言ってアッサリ信じる人達ばかりだったからだ。

やっぱりこういう反応が普通だと実感できただけでも亜由美には大いに安心できる要素だ。

ずっと変な解釈する人達ばかりだったら間違いなく自分の頭の中の価値観がとんでもない事になりそうだ。

「で、そこにいる男は一体誰?アンタの連れだって言ってたけど……」

楓が話題を変えて今一緒に付いて来ているヴァンという男性を訝しげな表情で見た。

そして彼はというと、空を見上げながら何やら寝息の様な声を漏らしつつもしっかりと付いて来ている。

前髪が目を隠しているので見えないが、多分寝ていない。ただボーッとしているだけだ…と、信じたい……。

「何時知り合ったの歩?」

「ついさっき」

「それだけで連れって言わなくないですか!?」

「うるっせぇなぁ〜、寝れねぇだろうがぁ〜」

「ってホントに寝てた!?」

歩の単純すぎる解釈に亜由美がツッコミを入れると、ヴァンが眠たそうな声で語尾を伸ばしながら文句を垂れた。

まさか本当に寝てたとは…また変人の知り合いが増えた……。

「それにしてもよぉ、本当にあそこの東京タワーみてぇなタテモンの中にいんのかよぉ〜?」

「ウン。彼女の…と言うよりも彼女の持っているDシリーズの気配がするからね」

「ところで歩、その彼女って一体どういう人なの?」

先程から彼女彼女としか言っていないのでどう言う人物なのかサッパリわからない。

ただその人が歩やヴァンと同じDシリーズと言う事しか判明していないのだ。

そう問いかけると、歩の代わりにヴァンが大きく欠伸した後に答えた。

「来栖麗奈っていう美人だったぜぇ。しかも記憶喪失なんだとよぉ〜」

「美人で記憶喪失…しかも攫われてるって一体どこのヒロインよ……」

楓が尤もな反応を返した。そんな典型的なヒロインがいたら、実際に会ってみたいところだ。いや、今実際に会おうとしているわけなのだが……。

そんな事を考えていると、突然歩が立ち止まり、それに合わせて自分達も立ち止まった。

「どうしたんでぇ?代行者様よぉ」

「……Dシリーズの気配が、こっちに近づいて来てる」

ヴァンが歩に変なあだ名で訊ねると、歩は微妙な表情をしながらこちらへ近づいて来る気配を告げた。

「って事は、その麗奈さんって人が何とか逃げ出して来たって事?」

亜由美がそんな結論を口にしてみると、楓が首を振って探偵並みの(と言うか本業の)推理を展開させた。

「その可能性もなくはないけど、アナタの場合はそのDシリーズとか言うドライバーだったかしら?それの気配を確認できるんだから、麗奈って人からそれを奪ってこっちに誰か来てるって可能性の方が高いんじゃないの?」

「その通りだ」

楓が自分の推測を立てていると、前方からどこかで聞いた事のある声が掛けられた。

一行が前を見るとそこにはどこかのスパイや特殊部隊が身に着けていそうなポケットやポーチがいくつもある黒い軍服を着た黒髪オールバックの男がこちらへ歩み寄って来るのが見えた。

その男からは一般人とはかけ離れた異様な雰囲気を醸し出しており、まるでただの動く人形を彷彿とさせる。

「アイツ、さっきの青い奴じゃねぇかぁ〜?雰囲気が同じだしぃ」

「そうだ。俺の名は石原健、コードネーム・トリガー…だった男だ」

ヴァンがその男から発せられる雰囲気を読み取ってトリガードーパントだと推測すると、その健と名乗った男はトリガーメモリを懐から取り出した。

「アンタ、それ返しなさい!」

「分かった」

「ヘ……?」

「どう言うつもりですか?」

取り出されたトリガーメモリを見た楓が吼えると、健はすぐにそれを楓の向かって投げ渡した。

その潔さに楓は思わず呆気に取られるが、不審に思った歩が問い掛けると、彼は無機質な表情で理由を述べた。

「ボス曰く、もうT2ガイアメモリを集める必要はなくなったそうだ。その代わり、これの実用テストをして来い…との事だ」

そう言って今度は黒とダークブルーの放射線状のラインで彩られた手の平サイズのバックルを取り出して来た。

「……チッ、あまり会いたくないシステムに会っちゃったみたいだね」

歩がそれを見た瞬間、そのバックル…Dシリーズのドライバーの情報がディージェントドライバーから送られて来て、その内容に思わず舌打ちをした。

「お前にはこれがどういう物なのか分かっている様だが、俺は遠慮なく使わせてもらうぞ」

健がそう告げると、その手に持ったバックルを腹部に装着し、右腰にバックルと同じ配色ではあるが、中央に赤いトリックスターが設けられたカードホルダーが出現し、そこから一枚のカードを取り出す。

そしてそのカードには…Dシリーズの特徴を持った一人の戦士のイラストが描かれていた。

「おい代行者ぁ、アレは一体何だぁ?」

「ディボルグドライバー…戦闘能力を極限まで特化させたDシリーズの試作品だよ。まさか、麗奈さんがアレを持っていたとは思わなかった……」

「試作品って事は欠陥品って事かぁ?だったら何とかなるんじゃねぇのぉ?」

「アレには装着者が限界を超えても活動を続けさせる暴走システムが備わってる。一度起動したら、滞在している世界を破壊するまで止まらない……」

「え?それってもしかして……」

「装着者が死んでも動き続けるって事かぁ……そんな危なっかしいモン造るって、開発者は何考えてんだよぉ……」

歩からの説明を聞いていた亜由美がもしやと思い口をはさむと、僅かに難色を示したヴァンが代わりに答えた。

[カメンライド……]

そんな反応などお構いなしに、健は着々とバックルの表面を左にスライドさせてカード挿入口を展開し、そこへ手に取ったカードを装填して閉じた。

「ま、待ってください!」

だが、そこで亜由美は健に向かって呼び止めた。

どんな人間でもそう簡単に死んでいい筈がない。きっと話せば分かる筈だ。

「なんだ?」

「それを使ったら死んじゃうかもしれないんですよ!?命令されたからって何もそこまで……」

亜由美が言い切ろうとしたところで、健が自虐的な苦笑を浮かべながら放った言葉に息が詰まった。

「使えば死ぬ…か……そんな事など俺にとってはどうでもいい。何せ俺は…とうの昔に死んだ人間だからな」

「ッ!?」

それは決して比喩的な表現で言った物ではなかった。まるで本当に死んでいると言っている様な…そんな顔をしていた。

健の衝撃的な発言によって固まっていると、遂に彼の口からあの言葉を紡がれた。

「変身」

[ディボルグ!]

音声コードを唱え、カードホルダーに設けられたトリックスターを叩くと電子音声が流れ、健を取り囲むように無数の槍の形状を模したダークブルーのノイズが出現し、彼に向って次々と突き刺さる。

突き刺さって行く毎に、健の身体がダークブルーのノイズに包まれて行く。

そして最後に槍が出現していた位置に滞在していたライドプレートが頭部や胸部・関節部に何枚も突き刺さってそこからノイズが晴れると、その正体を現した。

全体的にダークブルーを基調としているが、胸部と腕の装甲は黒く、頭部にはライドプレートが縦にまるで鳥籠の様に突き刺さっており、真上から見れば、それは中央から放射線状に伸びたラインを描く形になっており、各関節部に刺さったライドプレートも頭部に刺さった物と同じ形で横向きに刺さっている。

更に頭部のライドプレートの隙間からは、鋭利な形状になった赤い複眼がこちらを睨んでいた。

 

仮面ライダーディボルグ。Dプロジェクト始動段階前に試験的に生み出されたパワー超特化型のプロトタイプである。そのスペックは正規のDシリーズの中で、最も身体能力の高いディージェントを軽く凌駕する。

但しその分装着者への負担が大きく、自身の力で動けられる時間はせいぜい5分が限界だ。

つまり、その五分を超えればバーサーカーシステムが作動して、装着者自身も危なくなる。

「力が…漲る!」

「……亜由美は離れてて。楓さんは風都タワーに行っててください。ここは僕とヴァン君で引き止めます」

「おいおい、俺もやらなくちゃなんねぇのかよぉ〜?」

ディボルグへと変身した健は、両手を握り締めながら感嘆の声を上げる様子を見ていた歩は、亜由美に避難するように言い、楓に先に行くよう伝えた。

その中に自分が入っていないことから、自分も足止めに参加しなくてはならないのかとやや不満げな声を掛けるが、歩はディージェントドライバーを取り出しながら、あたかも当然の様に答えた。

「Dシリーズを止められるのは、同じDシリーズだけだからね」

「ハァ…やっぱ同族だからってそう簡単にホイホイ付いて来るんじゃなかったぜぇ……」

「じゃあ二人とも頼んだわよ。亜由美ちゃんはここに書いてある私の事務所に行ってて。そこなら安全だろうし」

「………」

「亜由美ちゃん?」

そう愚痴を零しつつも、ヴァンも同じくディバイドライバーカードを取り出し、臨戦態勢に入る。

その様子を見ていた楓が亜由美に事務所の住所が記された名刺を渡そうとしていたが、亜由美はディボルグを凝視していた。

彼は自分の事を死んでいると言っていた。

死んでいるからもう一度死んでもいいなんて、そんな筈はない。

だって…こうして自分と話してくれたではないか。それだけでも、生きた証になる!

「歩…絶対死なせないであげてね……」

歩の背中にそう告げて楓から名刺を受取ると、その名刺の記された場所まで走って行った。

「あの子、結構優しいわね……」

「そうですね……」

楓は走り去って行くその姿を見ながら小さくそう呟いた。

それには歩も同意できる。健の言っていた事が本当だったとしても、彼女は彼を生きている人間として見るだろう。

ならば、自分はどうなのだろうか。一度死んだ人間をただの死人として見るのか、それとも生きていると断言できるのか。

そんな事、自分には判断できない。やはり彼女は、自分よりも決断力を持った人だ。

「時間がない。始めるぞ」

「それもそうだなぁ。行くぜぇ代行者ぁ」

「……分かったよ」

ディボルグとヴァンにも急かされ、歩も同じく変身までのプロセスを進めて行く。

そしてカードを挿入し、音声コードをヴァンと同時に入力した。

『変身(っとぉ)』

[カメンライド…ディージェント!]

[カメンライド…ディバイド!]

変身が完了すると同時に、二人はディボルグに向かって駆け出した。

「……甘い」

ディボルグがそう囁くと、カードホルダーを腰から取り外した。すると上部と下部からながい柄が伸び、上部の先端部分には返し刃の付いた鋭い矛(ほこ)が備え付けられる。

ディボルグ専用武器・ディボルグブッカーである。

2メートルを有に超える長大な武器を大きく横に振って牽制すると、すぐさま流れを突きに変更して二人の腹部へと突きを喰らわせた。

「はっ!」

「クゥ……!」

「グァッ!」

立った一突きされただけにも関わらず、そのあまりの威力に装甲がスパークを上げながら二人は吹き飛ばされてしまう。

「まだまだ行くぞ」

二人との距離が開いた隙に、ディボルグはディボルグブッカーの中央にあるカード―ホルダーを開いてそこから一枚取り出すと、バックルをスライドさせて装填し、ディボルグブッカーに付いたトリックスターを掌で叩く。

[アタックライド…ブラスト!]

認証音声と同時に、ディボルグブッカーを突きの構えで持つ。そして……

「てりゃあ!!」

突きを放ったかと思うと、その矛先からダークブルーのエネルギー弾が射出され、ディバイドに直撃しそうになる。

だがディージェントが咄嗟に反応して態勢を立て直そうとしていたディバイドを突き飛ばし、そのエネルギー弾がディバイドに直撃する事はなかった。

「グッ!?ウゥ…!!」

代わりにディージェントがそのエネルギー弾を右肩に喰らってしまい、あまりの痛さに呻いてしまう。

「お、おい大丈夫かよぉ?」

「余所見よそみしてる場合じゃないよ」

「ぁん?ってうおぉぉっとぉ!?」

ディバイドの心配を余所に、ディボルグは次々と突きを弾丸に変換して撃ち出して来る。

ディボルグの「ブラスト」も、ディージェントの「ブラスト」と同じように銃撃用の武器が存在しない。

その為ディボルグの唯一の武器であるディボルグブッカーを用いて弾丸を放つのだ。

ディージェントはその弾丸を避けつつも、楓が風都タワーへ向かうのを見つけて、自分たちがするべきノルマを何とか達した事を確認した。

「行かせはしない」

しかしそれに気付いたディボルグは振り返って楓に向かって凶弾を放とうとしたが、そう簡単にやらせはしない。

[アタックライド…ブラスト!]

「ハッ!」

「くぅぅっ!?」

ディボルグが撃ち出すより先にディージェントがブラストを発動させて一瞬でディボルグを撃ち抜いた。

ディボルグは射出する前に必ず槍を構えなくてはならないので、その数瞬のタイムラグがディージェントの攻撃より後手に回ってしまったのだ。

「ほぉらもう一丁ぉ〜」

「ぅぐあっ!?」

更にディボルグはディバイドからの追撃を喰らってしまう。

「カメンライド…ディボルグ!」

ディバイドは事前にブランクカードをドライバーにセットしていたのか、そんな電子音声がディバイドライバーから発せられた。

それと同時にディバイドのバックルに設けられたディスプレイがディボルグを象徴するライダーズクレストへと変化し、ディボルグの身体能力を除いた機能の半分を奪う事に成功した。

「貰ったぜぇ。お前の能力の半分」

「油断はしないでね。アレの本質はライドカードシステムじゃないから」

「分かってるって代行者ぁ」

「……ふんっ、良い気になるなよ、悪魔共」

暢気に会話しているようにしか見えない二人に、ディボルグは小さくそう呟いた。

説明
第35話:Nの襲来/心の臓を喰らう槍
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