仮面ライダーディージェント
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楓は風都タワーに向かって走っていた。

歩から聞いた話だと、どうも麗奈と言う女性を攫った中にはジョーカードーパントがいたらしい。

そのジョーカードーパントと言うのは、あの健と言う男が言っていた事が正しければ、間違いなく駆の事だろう。

だとすれば、ヴァンと言う青年と一緒に健を抑えている歩の頼みと合わせて、駆を連れ戻すチャンスだ。

 

あと少しで風都タワーの入り口まで辿り着くと同時に、周囲に違和感を覚えた。

 

(人が、いない…?)

 

この時間帯であれば、観光客などでここは人で溢れ返っている筈なのに、人気が殆どないのだ。

唯一いるとすれば、屋外に出された白いテーブルに着いてコーヒーを優雅に飲んでいるタキシード姿の優男くらいだ。

 

「おや?来ましたか」

 

その優男はこちらの気配に気が付くと、手に持ったコーヒーを皿の上にカチャリと置いて席を立った。

 

「ねぇ、ここ全然人がいないけど、ひょっとしてアンタの差し金?」

「ええそうですよ。これから始まるショータイムには邪魔になりますので掃除させて頂きました。しかし貴女が来るとは思ってもみませんでしたよ、仮面ライダー殿」

 

そう言って懐から取り出したのは金色のガイアメモリで、中央にはイニシャルの“N”が描かれていた。

 

「アンタもドーパントか……ひょっとして、アンタもNEVERとか言うヤツだったりするわけ?」

「ええ、私の名は井上運河。またの名を……」

 

そこで言葉を区切ると運河はガイアメモリのスイッチを押してガイアウィスパーを鳴らした。

 

[ナスカ!]

 

「ナスカと申します。どうやら健が貴女にトリガーメモリを返してしまったようですね…まったく、彼は少々早とちり過ぎますよ。ボスが必要ないと言ったからといって、敵にそう簡単に返すのは浅はか過ぎます」

「何でその事知ってんの?」

「あの場に居たからですよ。本来ならあそこで取り返してもよかったのですが、私は一対一で戦う主義なのでね。ここに先回りさせてもらったんですよ」

 

そう言い切ると運河は手に持ったガイアメモリを顎に出現していたコネクタに挿し、その姿をナスカドーパントへと変化させた。

 

『貴女の持っているメモリ…すべて頂きますよ』

 

「生憎だけど……」

 

[サイクロン!]

 

楓は顔を伏せながらドライバーを装着し、サイクロンメモリのスイッチを押して起動させる。

コイツ等がガイアメモリを集めて一体何をしようとしているのか知らない。だが、集めて何か良からぬ事をしようとしている事は確かだ。

そんな奴らにメモリを…駆との“絆”をくれてやる道理はない!

 

「あんた達には一本もやらないわよ。変身!」

 

[サイクロン!]

 

サイクロンへと変身を遂げると、右手をスナップさせてナスカを指差して宣戦布告を告げた。

 

「さあ、アンタの罪に気付きなさい」

 

 

 

 

 

[アタックライド…スラッシュ!]

[アタックライド…スラッシュ!]

 

「…フッ!」

「はいっとぉ!」

「………」

 

[アタックライド…ディメンション!]

 

ディージェントとディバイドは「スラッシュ」を発動させて、ディージェントは手刀で、ディバイドは手に持ったディバイドライバーでそれぞれ斬り掛かろうとしたが、ディボルグは無言でカードを一枚バックルに装填し、ディボルグブッカーに嵌めこまれたトリックスターを叩いた。

 

「ふんっ!」

 

そして槍を地面に向けて構え、思いっきり地面に突き刺した途端、ディボルグを中心に地面から無数のディボルグブッカーと同じ形状の槍が放射線状に突き出して来た。

 

「…ッ!?」

「うぉわっ!?」

 

その突然の出来事に二人は反応できず、飛び出して来た槍に吹き飛ばされてしまう。

 

「ディメンション」は複数の槍を地面から生成するカードだ。

この効果は十秒もすればすぐに切れて生成された槍は消えてしまうが、即効性と威力に関してはかなり高い。

現にディバイドにライドカードシステムの性能を半分奪われてしまっているにも関わらず、二人を吹き飛ばしてしまったのだ。

もしディバイドが能力を奪っていなかったら、かなりの致命傷になっていた事だろう。

 

「どうした?その程度か、悪魔共」

「クッソォ…意外と強えぇ〜……」

「……そろそろ変身してから2分が経つ。早く解除させないと装着者が危ない」

 

ディボルグの暴走システムが作動するまで、せいぜい後3分と言ったところだろうか。

あくまで装着者の疲労が限界に達した時に作動するので、その3分と言うのは大凡(おおよそ)の目安だ。

しかし何時装着者の限界が来てもおかしくないのだ。早くしなくては……。

 

「お前もあの小娘と同じ事を考えてるみたいだが、今更俺が死ぬなんて事はない。俺はNEVERだからな」

「NEVRE……?」

 

ディージェントが何を考えているのか察したディボルグが言い放った単語を反芻した。

 

ここはディケイドのデータに記録されていない世界。つまりDプロジェクトに於いて一切関係のない世界だ。この世界にしか存在しないライダーと関係のない特別な単語など、ディージェントには知る由(よし)もないのだ。

 

「正式名称『NECRO(ネクロ) OVER(オーバー)』。通称NEVER…簡単に言えば蘇生された人間…ゾンビだ。俺はどんな攻撃を受けても血の一滴も流しはしないし、死にもしない……。ただの人の皮を被った兵器だ」

 

「だが……」と一旦区切ると、カードを一枚取り出して次の攻撃態勢を整え、更に続けた。

 

[アタックライド…ラッシュ!]

 

「如何(いか)に不死身の身体であれど、今の様に肉体を無理矢理強化した状態でマキシマムドライブを受ければ肉体が耐え切れずに塵となって…消える!」

「うおっとととぉ!?」

 

ディボルグは「ラッシュ」の効果で攻撃スピードを上げ、ディバイドに連続突きを放った。

それをギリギリで避け続けるが、やがてスピードに追い付けなくなって何度か喰らった後、大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「んがっ!ごっ!ぐ…うぅ……」

 

その後何度か地面をバウンドしながらスピードを緩めて行くが、止まった頃には変身が解除され満身創痍の状態だった。

 

(つまり、暴走の心配はないと言う事か……でもその代わりに変身を強制解除しようとすれば、命を落とす…か……)

 

ディボルグの暴走システムは、あくまで装着者の負担が限界になった際に発動するものである。

彼の話が本当ならば変身しても披露しない為、暴走システムが作動する事はないだろう。

しかし、それと同時に別の問題が発覚した。もし強制的に解除させれば、彼は間違いなく死ぬ。

しかもこちらはヴァンが戦闘不能と来た。

 

「アンチ・キル」を使えば殺さずに勝てるかもしれないが、強制的に解除する事には変わりない。どうすれば……。

 

そう思った矢先にふと倒れたヴァンを視界に収めると、ヴァンが小刻みに震えているのが目に入った。

最初はあまりの痛みで筋肉が痙攣を起こしているのかと思ったが違った。小さな声であったが、変身して聴覚も上昇したディージェントにはその声がハッキリと聞こえた。

 

「ウルセェ…ウルセェんだよ……」

「何…?」

 

ディボルグが小さく疑問の声を漏らすと、ヴァンは手を着いてゆっくりと顔を上げた。

額を切ってしまったのか頭からは血が流れており、その血で金髪の髪の一部を赤く塗らしている。

 

やがてユラリと亡霊のように立ち上がったヴァンは、自身の血を整髪剤代わりにして、両手で前髪を後ろへ流してオールバックにした。

 

「“声”が…“声”が煩くて寝れねぇんだよぉ……!!」

(“声”……?)

 

その何処か血走った印象を抱く眼光は鋭く、ディボルグを正面から睨んでいる。

何時もの雰囲気からはとても想像できないヴァンの言動にディージェントは固まっていると、ヴァンは煩わしそうに耳を抑えた。

 

 

 

 

 

(助けて…)

 

「あぁぁウルセェェ…!何で何時まで経っても耳から離れねぇんだよぉぉ…!!」

 

[カメンライド……]

 

そう喚きながらディバイドライバーを拾い上げ、再びカードをスリットへセットする。

彼の頭の中に響くのはいくつもの絶望に満ちた声。それが5年たった今でもずっと張り付いて来る。

 

(助けてくれよぉ…!!)

 

ヴァンは先程まで完全に気を失っていたのだが、その所為で過去の出来事が浮き彫りになり、目を覚ました今でも耳に焼き付いてしまっているのだ。

 

(まだ…死にたくない!!)

 

「ああぁぁぁぁぁ俺に話しかけるなあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

[ディバイド!]

 

それを振り切るかの如く「変身!!」と言う掛け声と共にディバイドライバーを乱雑に振って変身し、ディボルグに向かって突っ込んだ。

 

「ふんっ、自棄になったか」

 

[アタックライド…スラッシュ!]

 

迫り来るディバイドに冷静に対処して「スラッシュ」の効果を発動させたディボルグは、こちらへ斬り掛かろうとするディバイドへ向かってカウンターの突きを放とうとした。だが……

 

[アタックライド…イリュージョン!]

 

突きに直撃する寸前でディバイドは分裂して左右に分かれ、更に二体からもう一体ずつ分裂して計4体のディバイドがディボルグの死角から一斉に剣を振り被った。

 

「何っ!?」

『ダァラアァァァ!!』

「ぐあぁぁっ!!」

 

ディボルグは咄嗟に反応できずに4体のディバイドからの攻撃を全て喰らってしまい、装甲から火花を激しく散らしながら仰け反った。

 

「くっ…この…!!」

 

ディボルグは槍で横に振って薙ぎ払おうとしたが、4体のディバイドはそれぞれバックステップで避けられて、空振りしてしまう。

ディバイドはその攻撃モーション後の隙を突いて再び四方向から接近し、斬り掛かろうとディボルグに迫る。

 

「何度も同じ手を喰らうか!」

 

しかしディボルグは槍を振った勢いでそのまま片足を軸に回転しながらもう一度横薙ぎする。

今度の攻撃は流石に避ける事が出来ずにそれぞれのディバイドが火花を散らして吹き飛ばされるが、そのうちの本体である一体からエメラルドグリーンのノイズの塊が上空へ出現し、それがもう一体の分身体へと生成され、上空からディボルグに兜割りをお見舞いした。

 

「何だとっ!?」

「オオォォォォラアァァァァァァ!!」

「ぐはあぁぁぁ!!」

 

左肩から右腰に掛けて叩き斬ると、ディボルグの装甲が激しくスパークしてやがてディボルグドライバーが装甲形成の限界を迎える程のダメージを受けた為に変身が強制解除され、その際に健の腰に装着されていたディボルグドライバーが外れて地面に落ちた。

 

「くっ…馬鹿な……」

 

健は左肩を抑えながら予想外の追撃によって自身が敗れたありえない出来事に、身体に走る激痛に苦しみながらも驚嘆の声を漏らした。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……聞こえなくなったか……」

 

ディバイドもようやく“声”が聞こえなくなり、息を荒げながら変身を解除して起き上がった。

あの“声”は自分が意識を遠ざけるとすぐに聞こえてくる。その所為で今まで安心して眠る事が出来なかったのだ。

自分でも助けてやりたいのにどうしても全てに手が届かないし、例えこの力を持っていても全てを救う事が出来ない。

そして助けられなかった者達の断末魔が自分の罪として永遠に追い掛けて来る。

この声から逃れるには、今の様に敵…脅威となる存在を徹底的に潰さないと何時まで経っても消えない。

聞こえて来る断末魔の原因となっている脅威を消さない限りは……。

 

「くそっ…だが、まだだ……。まだ俺は消えるわけにはいかない……!」

 

健がそう呟くと落ちたディボルグドライバーを拾い上げ、次元断裂を展開させてその中へと逃げて行った。

どうやらマキシマムドライブ並みの衝撃を受けなかったために、傷が浅く済んだ様だった。

 

「ヴァン君、ちょっといいかい?」

「あぁん?んだよぉ?」

 

“声”が聞こえなくなったことで落ち着いていると、そこへ変身を解除した歩がこちらへ近づいてきた。

その表情はどこか不機嫌で、虚ろな目を此方へ睨みつけている。

 

「君、変身を強制解除させれば彼が死ぬ事を分かってたよね?」

「ん?まぁそんな感じの事は言ってたような気がすんなぁ」

 

ヴァンはある程度落ち着いた事で何時もの間延びした口調に戻りながら、歩の不機嫌そうな顔を気にした様子もなく普通に話しかける。

それを聞いた歩は諦めた様な感じで溜め息を吐くと、抑揚のない口調で話しかけて来た。

 

「……まぁ、分からなかったんなら仕方ないけど、人の命はそう簡単に奪って良いものじゃないと言う事を忘れないでね」

「お、おう……」

 

そう言った歩の目は虚ろなものであったものの何処か悲壮感に満ち、畏怖を感じさせる物だった。

一体何故そんな顔をするのかは何となく分かった。今の自分の行動が拙かったのだろう。

恐らくこの男は人の命の尊さを誰よりも重要視している。

もし自分が死ぬのを分かっていて攻撃したと言っていれば、この男は一体どうしたのだろうか。

 

「とにかく今は楓さんの後を追うよ。ナスカやジョーカーと鉢合わせしている可能性が高い」

 

そう考えていると歩はそう言ってヴァンの横を通り過ぎ、まっすぐ風都タワーへと向かって行った。

 

(アイツ、ホント一体何なんだろうなぁ…何考えてるかサッパリ分かんねぇ……)

 

ヴァンはそう思いながら後頭部をポリポリ掻いて歩の後を追った。

 

 

 

 

 

風都タワー前……

 

「はあぁぁぁ!!」

 

サイクロンが自身の特性である風の効果で自身のスピードを上昇させ、ナスカドーパントの懐へ潜って殴り掛かかる。

 

サイクロンが今使用しているサイクロンメモリには「風の記憶」が内包されている。

その恩恵で自在に風を操る事ができ、スピードにも特化されたメモリだ。

 

『アッハッハ!遅すぎますよ!』

 

本来ならばここで相手の腹へ風を纏った拳で吹き飛ばせられるのだが、ナスカドーパントはそのスピードに匹敵する高速移動能力を使ったサイドステップでかわし、一瞬でサイクロンの背後へ回り込んでその手に持った西洋風の片刃剣・ナスカブレードで斬り掛かった。

 

『そぉらっ!』

「うわっと!このっ!!」

 

その袈裟切りをサイクロンは前転して間一髪で避けると、すぐにナスカドーパントへ向き直って右手を大きく振り払うと、その際に生じた突風でナスカドーパントの動きを一時的に止める。

 

『くぅっ…!』

 

相手が両腕を盾にして防ぐも、サイクロンはその隙を見計らい、今度は突風を追い風にして飛び蹴りを放つ。

 

「たありゃあぁぁぁぁ!!」

『うおっ!?』

 

風の特性も相俟って、ナスカドーパントを大きく吹き飛ばして壁に叩きつけることに成功するも、ナスカドーパントはすぐに態勢を立て直してこちらへ超スピードで迫る。

 

しかしそう来る事をサイクロンは既に見切っており、今度は両手を大きく振り払って竜巻を発生させてナスカドーパントに向かって放つ。

 

『うおあぁぁぁっ!?』

 

それには高速移動でも流石に太刀打ちできずに堪らず吹き飛ばされ、風都タワーの土台となる壁に叩きつけられてしまった。

 

「もういい加減に諦めてここ通してくれないかしら?こっちは相棒を迎えに行かなきゃならないのよ」

『相棒…?西方駆の事ですか?アハハハ…生憎ですが彼はもう貴女の相棒ではありません。我々の所有物ですよ』

「…ッ!駆を物みたいに言うな!!」

 

ナスカドーパントの軽蔑の籠った嘲笑と物言いに、サイクロンは苛立ちを隠す事なく特攻して行く。だが、そんな簡単な挑発に乗ってしまったのが拙かった。

 

『意外と単純ですねぇ貴女は……』

 

ナスカドーパントがそう呟くと、手に持ったナスカブレードをサイクロンに向かって投げ飛ばした。

その剣先はサイクロンを真っ直ぐに捉えており、勢いに乗ったサイクロンは急に止まる事が出来ない。

 

(マズイッ!当たる…!!)

 

直撃を覚悟し思わず仮面の奥で目を瞑ってしまうが、剣がぶつかる衝撃は何時まで経ってもやって来る事はなく、代わりに何やら微妙に柔らかい壁に触れたような感覚が全身を襲った。

 

「うわっ!?え、何…?」

 

何かにぶつかった事で身体が止まり、その何かを目を開いて見ようとしてみると視界が灰色に濁っており、自分の胸元にはナスカブレードが自分に当たる直前でピタリと止まっており、やがて重力に従ってカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。

 

(何、これ……?)

 

後ろに下がってみると、視界が灰色に染まっていたわけではなく、サイクロンの目の前に灰色に濁った窓ガラスの様な物が立ちはだかっていたのだ。

 

「間に合ったみたいですね」

『その声…貴方ですか……』

 

ふと声のした背後を見るとそこには歩とヴァンが立っており、ナスカドーパントが聞き覚えのある声に小さく呟いた。

 

「ジョーカードーパントはいないんですか?」

『アレはメモリ服用後の反動が激しくてですね、そう連続して何度も使えないんですよ。使い過ぎると壊れてしまうのでね』

「アンタ…!また駆を物みたいに…!!」

『まあ、ここは流石に退いた方が良さそうですね。3対1では分が悪過ぎます』

 

再び駆を者扱いする様な物言いをするナスカドーパントをサイクロンはキッと睨みつけ、怒りの籠った声をナスカドーパントにぶつけるが、そいつはそれを軽く無視してここからズラかろうとし始めた。

 

「逃がすか!」

 

すぐ近くに落ちてあったナスカブレードを拾い上げながら声を張ってそれを思いっきりナスカドーパントに向かって投げ飛ばして動きを止めようとするも、ナスカドーパントはその剣先を指先だけでキャッチし「これはどうも、では失礼」と言った瞬間にはナスカドーパントの背後に灰色の壁現れ、その中に飲み込まれる様にして消えて行った。

 

「またさっきの壁…!?まさかアンタが…いや、それはなさそうね」

 

歩が出していた壁と同じ者が出て来た事で、彼が壁を出現させて逃がしたのかと思ったが、違うと言う事はすぐに分かった。

もし本当に彼が敵だったら、態々こちら側へ着いてあのディボルグとか言う仮面ライダーの足止めをする筈がない。

 

「ディボルグは撃退しました。その後、次元断裂を使ってこのタワーの中へ逃げ込んだみたいですね」

 

サイクロンが推測を立てながら変身を解除していると、歩がディボルグを何とか退けた事を淡々とした口調で伝え始めた。

元からあの喋り方しかできないらしいが、正直な感想を言うとまるで人形の様で不気味だ。

だが少なくとも悪いヤツじゃないのは分かる。これは十年間探偵をやってきて培った勘だ。

そんな彼を信じるかどうかは、自分次第だ。

 

「そう……。ところで、アンタにはDシリーズとかいうヤツ以外の気配は分からないの?例えばこの中に何人いるかとか……」

「僕にはDシリーズと亜由美と、そしてこの世界の“基点”である貴女の気配しか分かりませんが、ヴァン君でしたら少しは分かるのでは?」

「んん?俺かぁ〜?」

 

楓は歩に超能力(?)で中の状況が詳しく分からないか尋ねてみたが、よく分からない単語と共に否定の言葉を発し、横にいるヴァンに話題を振ると当の本人は眠たげに語尾を伸ばしながら楓の質問に応じた。

 

「ん〜確かに嫌か気配がすんが数までは分かんねぇなぁ〜。俺はお前みたいにそこまで敏感じゃないんだよぉ〜」

「そう…それだとぶっつけ本番で入るしかないわね……。ところで“基点”って何?」

「世界を一冊の小説に例えるなら、“基点”はその中の主人公みたいなものだと思ってください」

「ふぅ〜ん、私ってそんな大層な役柄でもないんだけどなぁ〜…まあいいわ。それじゃあアンタの依頼、“来栖麗奈の奪還”…引き受けさせてもらうわよ」

「よろしくお願いしますね」

 

“基点”の意味を何となぁ〜く理解した楓はソフト帽を深く被り直しながら妙に照れ臭い気分を誤魔化すが、すぐに仕事モードに入って歩の頼みと言う名の依頼をここで改めて引き受けた。

 

自分の目的である駆の奪還も合わせて、絶対に連れ戻す。

 

 

 

 

 

風都タワー最上階にある一室では、健が克也にディボルグドライバーの性能と副作用を事細かに伝えていた。

 

あの時、ディバイドから予想外の大きなダメージを喰らってしまった為に変身が解除されてしまったが、マキシマムドライブ級の威力ではないことが幸いしてか健に致命傷は殆どなかった為、細胞崩壊を起こす事がなかったのだ。

 

「ふん、成程な…それなら別に使っても問題ないな……」

 

ディボルグドライバーを受け取りながら不敵な笑みを浮かべながら呟く克也に健は「ああ」とだけ相槌を打って答えていると、簡素なパイプ椅子に縄で縛り付けておいた麗奈が小さく呻き声を上げて目を覚ました。

 

「こ、ここは……?」

「漸くお目覚めか?お姫様」

 

麗奈が不意に声のした方を向くとそこには見知らぬ男が二人と、拘束具にガチガチに縛られた男がいた。

ここはどこなのかと思い辺りを見渡すと、質素なコンクリートが剥き出しの状態の壁が周囲の殆どを包み込んでおり、拘束具の男がいる右側には壁がなく、大きな換気扇の様な物がゆっくりと回っている。

そこからわずかに外の光景が見えるのだが、澄み渡った青空と小さな街並みが見える事からここはどこかの高い所と言う事が分かる。

 

「あ、貴方達は一体……」

「お前にドーパントを差し向けた張本人だ。ついでに、コレも貰ったぞ」

 

そう言ってこちらに向けて見せた物は、何処かで見た事のある長方形の青と黒で放射線状のストライプを描いたバックル。

恐らく歩と言う青年が言っていた自分のDシリーズと言う変身ツールなのだろう。記憶はないがそんな事が何となく分かる。

 

「中々良い物だな…俺のガイアメモリよりもよっぽど特別な代物だ。コレ一つあれば、この街を消す事など造作もない」

「克也…もういいだろ、やめてくれよ……」

 

克也と呼ばれた凶器に奔(はし)った言葉を放つ男に、拘束具に縛り付けられた男は弱々しく呟いた。

それを聞いた克也は皮肉げな笑みを形作ると、拘束具の男に近づいて彼のボサボサの髪を乱雑に掴んで顔を合わせた。

その際強く髪を引っ張られたせいか、拘束具の男は痛そうに小さく呻き、麗奈がその様子を見て小さく声を上げるも、克也はそんな事など気にした様子もなく、憎しみの籠った言葉を吐き捨てた。

 

「何言ってんだ?お前への復讐はまだ終わってないんだよ……。もっと絶望に満ちた顔を見せてくれよ。なぁ、駆……」

 

「そうか、少し待ってろ……。ボス、ちょっといいか?」

 

克也の隣に居た無表情な鉄面皮の男が、何時の間にやら取り出していたトランシーバーを手に持って克也に話し掛けて来た。

その時一瞬だけ克也の顔が面白い物を取られて怒りを露わにしている物に変わったがすぐになりを潜め、鉄面皮の男に「何だ?」と聞き返した。

 

「下で見張りをしていた奴からの連絡だ。仮面ライダーと“特別なドライバー”を持った二人がこちらへ向かってるそうだ。どうする?」

「仮面ライダーかぁ…そう言えばお前の今の相棒も仮面ライダーなんだよなぁ……」

 

それを聞いた克也は何か考えるように手を添え、もう一度拘束具の男・駆に振り向くと、何か面白そうな事を閃いたのか、「そうだ、イイ事を思い付いた」とぼやき、凶悪な笑みを浮かべながら鉄面皮の男に指示を出した。

 

「コイツを下へ連れてけ。そして目の前でジョーカーに変えて仮面ライダーと戦わせろ」

「了解だ、ボス」

「ッ!?オイ待て!俺はアイツとは絶対に戦わない!!」

 

駆は狼狽しながら鉄面皮の男へ必死に声を掛けるが全く受け答える事はなく、黙々と彼を拘束具から外して行く。

やがて椅子から完全に外すと今度は無理矢理両手を後ろへ回して腰に提(さ)げていたポーチから手錠を取り出してその手へ付け、外へ連れ出そうとしたところで克也が何か思い出し、部屋から出て行こうとする鉄面皮の男を呼び止めた。

 

「あぁそうだ健、これも持ってけ。お前もこれとは適合出来た筈だし、俺にはもう必要ない物だからな」

 

そう言って克也は健と言う名の鉄面皮の男に、無骨な赤い機械と白いUSBメモリを投げ渡した。

健はそれを片手で難なくキャッチすると「分かった」とだけ返事を返して、今度こそ部屋から出て行った。

 

克也は彼等を見送ると、邪悪な笑みを浮かべながらこちらに振り向いた。

 

「さて、こっちはしばらく暇だから何か話しでもしてみるか」

(誰か、助けて……!)

 

麗奈は誰にでも無く助けを求めた。この男は普通じゃない。早くここから逃げ出さないと自分の身が危ない。

こんな時、何時でも助けに来てくれる正義のヒーローみたいな存在が自分にはいた様な気がするも、そんな考えはすぐに失われた記憶と共に消えて行った。

説明
第36話:D無双!/耳に張り付く断末魔
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