仮面ライダーディージェント |
克也は先程まで駆が縛られていた拘束椅子にドカリと座ると、両手を組んで麗奈を見据えた。
麗奈としては早くこの場から立ち去りたいところなのだが、縛られている今の状態では逃げる事もままならない。
「そんなに怖がるな。ちょっとした暇潰しに、これからお前と話したいだけだ。何か聞きたい事とかあるんじゃないか?」
聞きたい事と言っても山ほどある。どうして自分を捕まえたのかとか、この人達は一体何なのかとか例を上げれば限(きり)がない。
しかしこの男はどこか狂気じみていて、下手な質問をすると逆上してきそうだ。
「何も遠慮する事はないぞ。奴等がこっちに来るまで暇だからな」
その言葉を聞いた時、麗奈はいくつもある疑問の中からある一つを持ち出した。
「あの、その“奴等”って言うのは、ひょっとしてさっきの駆さんと言う人と、ヴァンさん達の事でしょうか?」
「ヴァン?ああ、“特別なドライバー”を持ってる奴の一人か。そうだな、確かにそいつ等の事だ」
「では、ひょっとして貴方は、彼等が来ると信じてると言う事ですか?」
その続いた質問に克也は口をへの字に曲げるが、特にそれと言って怒った様子ではなく、図星を突かれて戸惑ってる感じだった。
やがて「そうだな」とぼやいて苦笑を滲ませると、言葉を紡いだ。
「信じてるって言い方はどうかと思うが、大方合ってるな。俺はアイツがこれで終わると思っちゃいない」
「それに」と言ってそこで一旦言葉を区切ると、椅子から立ち上がってこちらに歩み寄って来て狂気に満ちた顔を近づけて来た。
「アイツはこういう人質とかを取られると、何が何でも助け出そうとする馬鹿だ。もし十年前から変わっていなければ、もう一度俺を殺しに来るだろうしな」
「殺しに…?」
麗奈の呟きを聞いた克也は「あぁそうさ!」と言いながら大袈裟に手を広げながら天を仰いだ。
そして事の顛末を話し始めた。
「俺がこうなってしまったのは十年前!ある依頼解決で死んだ時に始まった!
その時、元相棒のアイツは相当悲しんださ!そしてアイツは、あろう事か俺を蘇生実験のサンプルにしたんだよ!
だがそのおかげで俺はこうして生き返った!……いや、動けるようになったと言った方が正しいな」
そう高らかに謳いながら、腰に下げていたサバイバルナイフを引き抜いて自身の手首に当てる。
「あ、ダメ!」と叫ぶがその悲鳴は届く事なくナイフは克也の手首を切り裂いた。
その後に起きるであろう血飛沫を見ない様に目を閉じて顔を伏せたが、「こっちを見ろ」とありえないくらい冷静な声色の克也の声が聞こえ、恐る恐る顔を上げて克也の斬られた手首を見ると、その斬り傷からは一滴の血も流れて行く事はなかった。
「え…!?」
更に、そこからもっとありえない事が起き、麗奈は驚愕の声を漏らした。
傷口がみるみる内に塞がって行くのだ。
その様子はまるでビデオの逆再生を三次元で見ているようであり、やがて完全に傷口が塞がると克也は手首を軽く捻ると再び謳い始める。
「生き返ったと言っても死ぬ前と同じ身体に戻ったわけじゃない。細胞を無理矢理動かして生きてるように見せてるだけだ。
だがな、俺の頭の中からどんどん人としての感情が薄れて行くんだよ!そんな中、俺はアイツにこう訊いたんだ。『駆、教えてくれ。俺は生きてるのか?それとも死んでるのか?』ってなぁ!
今思うと随分と陳腐な事を尋ねたもんだぜ!!」
「ハハハハハッ!!」と高笑いを上げながら手で目を覆い隠す。すると今度は手を払いのけて怒りの形相を浮かべながら駆への恨みを打ち明ける。
「だからアイツは許さねぇ!!俺をこんな身体にしたアイツをなぁ!!
アイツが俺を生き返らせる事がなければ、俺はここまで変わる事はなかったんだよぉ!!」
思いっきり壁を殴りながら息を荒げる。やはり相当精神不安定なのだろうか、感情の起伏が激しい。
「そして奴はとうとう俺を殺す事を決意した!生き返らせた事は間違いだったってなぁ!!
そして俺の二度目の生涯は奴にマキシマムドライブで海に突き落とされる形で幕を閉じたかと思っていたがそんな事はなかった!
あの時、俺は確かに奴のマキシマムドライブを受けたにも関わらず、まだ意識だけは残ってたんだよぉ!
そしてその理由もすぐに分かった!アイツへの復讐心が、俺が完全に消えることを拒んだんだ!」
まるで舞台劇でもしているかの様な大仰な仕草で自身の胸を掴み、苦しそうな表情を作りながら語った。
「それから十年間!俺は深い海の底で奴にどうやって復讐をしようか考え続けていた時、転機が訪れた!」
そして今度は歓喜に見た表情で天を仰いで続ける。
「ある男が俺を拾い上げ、そして動かせる身体に戻してくれたんだ!そして“特別なドライバー”の事も教えてくれたさ!
それさえあれば、駆どころかこの世界全てを地獄に変える事が出来るってなぁ!アッハハハハハ!!」
狂気を孕んだ笑い声を一頻(ひとしき)り上げると、ある程度落ち着いてポーチから自分のものと思われる黒とダークブルーの放射線状のラインで彩られたバックルを取り出した。
「だが、その時はまだこの世界に来ていないとかで手に入れる事が出来なくてなぁ……。そこで以前から考えてた計画の一つとして、俺と同じようにNEVERにされた奴等を集めて次世代型ガイアメモリ・T2メモリ26本を集めさせてたんだ。
そのエネルギーを応用すれば、アイツを俺と同じNEVERにする事だって出来る。アイツに俺と同じ苦しみを味合わせてやるんだよぉ!」
「貴方は…それで満足なんですか…?」
麗奈はつい口を挟んでしまった。麗奈のその言葉には克也も眉を顰めてこちらを睨みつけて来たが、麗奈は更に続けた。
「何ぃ…?」
「貴方は駆さんに復讐したいと思ってるみたいですけど、本当はただ、駆さんに自分の気持ちを伝えたいだけなのでは?その為にこうして彼が来て、自分の間違いを正そうとしてくれるのを待ってる。違いますか?」
きっとこの男は自分の中に潜む悪意を制御できないのだ。そしてその悪意を駆が消してくれるのを信じてこうして待ってる。
その事を言うと克也は顔を伏せて小刻みに震えると、次の瞬間には激昂の叫び声を上げて麗奈を殴った。
「……知った様な口を…聞くなぁっ!!」
「あうっ!」
「もう俺は誰にも止められない!俺はただ自分の破壊衝動に従って動くだけさぁ!そして、俺をこうしてしまったこの世界全てに復讐する!ハハハハハハ!!」
「………」
麗奈は狂ったように笑い出した克也を見据えてこう思った。
彼を止められるのはきっと、彼の元相棒であった駆ただ一人なのだと……。
風都タワー第二展望台広場では、サイクロンとジョーカードーパントの攻防戦が繰り広げられていた。
ジョーカードーパントが迫ればサイクロンが突風を起こして牽制し、サイクロンがその隙を突いて飛び蹴りを放てばジョーカードーパントが受け流し、肘打ちをサイクロンの脇腹に決めた。
『ヌンッ!』
「カ…ハッ……!(やっぱりコイツ、駆と同じ動きだ…!でもジョーカーでいる時よりも少しだけ動きが鈍い!上手く行けば勝てる…!)」
サイクロンは息を吐き散らしながらも相手が仮面ライダーでいる時よりも少しだけ弱くなってると感じた。
本来ならばメモリを直挿ししている状態であるドーパント体の方が強いのだが、少し前にディバイドがジョーカードーパントの能力である肉弾戦能力を半分奪ってる為に、動きが鈍っているのだ。
当然その事実をサイクロンが知る由もないのだが、チャンスには変わりない。
(相手は肉弾戦しかできない…だったらコレね!)
[ルナ!]
サイクロンは追撃をされる前に勢いよくバックステップをして距離を取ると、ルナメモリを起動させてスロットルを立ててからサイクロンメモリを取り出すと、勢いよくルナメモリを差し込んで斜めに傾けた。
[ルナ!]
次の瞬間にはそのライトグリーンの装甲を黄色に染め上げ、仮面ライダールナへとフォームチェンジを果たした。
そしてルナはその特性である伸縮能力を使って右腕をゴムの様に伸ばして遠距離からの右ストレートを放った。
『…ッ!?フッ!ヌンッ!』
ジョーカードーパントは一瞬驚くも、すぐに対応してサイドステップでかわし、ルナへと殴り掛かる為に迫る。
「させないわよ!」
『ムゥッ!?』
だがそれを阻止するためにルナは伸ばした右腕を蛇のようにくねらせてジョーカードーパントの周囲を取り囲むと、ロープの様にジョーカードーパントを縛り上げた。
ジョーカードーパントも流石にパワーはそれほど高くない為に振り解く事が出来ず、ただ?(もが)くだけだ。
更にその状態からルナメモリを引き抜いて右腰に位置するマキシマムスロットへ挿入してその横に設けられているスイッチを左手で器用に叩いた。
[ルナ!マキシマムドライブ!]
電子音声が響くとルナの身体が眩く発光し、ジョーカードーパントを囲むようにルナの分身体五体が出現してそれぞれがパンチやキック、四肢を鞭のように撓(しな)らせてのラッシュと言った様々な攻撃を仕掛ける。
「いい加減に目を覚ましなさい駆!」
やがてある程度ダメージを与えたところで分身体が消えてそう叫ぶと、右腕を元に戻して右足を強く光り輝かせると、その足で飛び蹴りを放った。
「ルナイリュージョン!」
『グァァァァァ!!』
ルナの蹴りが直撃すると共に、ジョーカードーパントは爆散してその爆炎の中から一つの影が吹き飛んで倒れ込んだ。
それは先程までジョーカードーパントにされていた西方駆その人だった。
「駆、大丈夫!?」
ルナはすぐさま変身を解除して駆に近寄って抱き起こすと、「ウゥ……」苦しそうに呻いて目を開いた。
「か、楓か…?悪いな、心配掛けちまって……」
「全くよ。どれだけ捜したと思ってんの?」
「ハハッ、こりゃ手厳しい事で……」
駆は楓の思ったよりもスパルタな発言に苦笑しながら、右手で自分の前髪をクシャッと掻いた。
しばらくそうして深く呼吸をして疲れた身体に酸素を供給していたが、やがて駆はこの事件の真相をポツポツと語り始めた。
「……今回の事件の騒動は俺が原因だな。そして、俺を拉致ったのは俺の前の相棒だ」
「駆の前の相棒?」
「ああ。お前と会う少し前にアイツは依頼中に敵に撃たれて死んだ。そして俺は、お前の両親に頼んでアイツを生き返らせたんだ」
楓はこの時、言いたい事が山ほどあったが、黙ってその駆の罪を聴いた。
駆は当時の相棒だった小野塚克也を自分の両親に頼んで生き返らせた。
実はそれより以前から両親とは面識があり、ガイアメモリやドライバー、そしてNEVERの研究をしていた。
両親を殺したあのアイスエイジドーパントも、その実験材料にされた一人だったそうだ。
しかし生き返った克也は徐々に人間としての心を失っていき、遂には彼が罪を犯す前に駆が殺した。
だが実際にはまだ止めをさせていなかったようで、こうして十年越しの復讐をするために這い上がって来たのだ。
「アイツの執念深さには恐れ入るよ全く……そこは十年経った今でも、まったく変わっちゃいない。だがアイツをこのままにしておくわけにもいかないしなっ…ととと……」
駆はそこまで言って起き上がろうとするも、体力的に限界が来ているのかフラついてしまい倒れそうになるが、楓が駆の肩を担ぐ事で何とか防ぐ。
しかし駆と楓にはかなり身長差がある為に担ぐと言うより持ち上げる感じになってしまい、成人男性の体重の殆どが小柄な体躯の楓に圧し掛かって来た。
「お、重い…!」
「悪いな。今身体が上手く動かせねぇみてぇだ。でも、ここで動かきゃ男が廃る…!」
駆が根性で足に力を入れて何とか自力で立ち上がった事で、楓に圧し掛かった負担がようやく抜けた。
「アンタ重いわよ。今度ダイエットでもしたらどうなの?」
「成人男性は大体これぐらいの重さだって。寧ろ今まで監禁されてた上に、点滴くらいでしか栄養摂れてなかったんだから、結構軽くなってる方なんだぜ?」
「ま、そう言う事にしとくわ。はいコレ」
「おう、サンキュ」
そんな軽口を叩き合いながら、楓は自分の頭に被った帽子を取って駆に手渡した。
駆は帽子を受け取ると、軽く深く被ると天井を見た。後は克也を倒すだけだ。
「やっぱコレがあった方がシックリ来るな。さて…と、後はアイツをもう一度殴り飛ばしてやらないとな」
「出来るの?ドライバーももうないのに」
「そこはアレだ。お前のドライバーを貸してくれ。終わったらすぐに返すからよ」
その軽い口調に楓は溜め息を吐くと、懐からロストドライバーと駆のガイアメモリであるメタルとトリガーを取り出してこの頼れる相棒に渡した。
「まぁアンタだったら約束は守るでしょうけど壊さないでよ?父さん達の形見なんだから」
「分かってるって。もうヘマはしないさ」
そう言いながら駆はロストドライバーとガイアメモリを受け取ると、壁の一角まで歩き出してそこを軽く二回叩く。
するとその壁に僅かに隙間が生じ、その隙間に指を挟んで引くとその奥に続いている薄暗い階段が姿を現した。どうやら隠し扉になっていたらしい。
「ここから先にヤツがいるのね」
「ああ。楓はここで待っててくれ。変身できない様じゃ危ないからな」
確かに一人しか変身できないんだったらここで待つのが妥当なのだろうが、楓はその言葉を聞くとムッと口をへの字にして、不機嫌そうな表情を作ると、隠し階段を上ろうとする駆の服の裾を掴んで引きとめた。
「待って、駆……」
「お?なん…アダッ!?」
駆が振り向いた瞬間に彼の額にデコピンを喰らわせると、彼は痛そうに額を抑えて「な、何しやがる!?」と涙目になりつつも訴え掛けて来た。
そんな相棒に対して、楓は腰に手を当てながら駆に不満をぶち当てた。
「あのねぇ、また私を突き離す気?そりゃあ一人しか変身できないんだったらアンタ一人で行くしかないでしょうけど、コッチはアンタを探すのに散々苦労したのよ?ここでまたアンタがいなくなるなんて、絶対に嫌だからね!何せ私は、アンタの相棒なんだから……」
このまま付いて行けば駆の邪魔になってしまうのは分かっている。だが、それでももう離れたくないのだ。このまま彼を行かせてしまうと、もう二度と会えなくなってしまうのではないかという不安が楓の中で蠢いていた。
そんな楓の心情を察したのかどうかは分からないが、駆はニッと快活に笑うと楓の頭を撫でながら優しく嗜(たしな)めた。
「まぁ心配してくれんのはありがたいが、これは俺の問題だからな。俺じゃないとこの事件は解決できないし、アイツは藤原夫妻の子供であるお前までも標的にしてるからなぁ……。お前をこのままヤツの前に出して変身できないと分かれば、真っ先にお前に襲い掛かって来るだろうしな。だから、お前はここで待っててくれ。これは所長命令だ」
駆は普段はいい加減だが、こう言う仕事の時だけはかなり厳しい。
一緒に仕事を始めた頃はよく失敗をして怒られたものだ。それだけこの仮面ライダーと言う名の探偵稼業に信念を持っている。
そして自分も何時しか、そんな駆の情熱に惹かれて好意を抱いていた。だが駆は仕事一筋な堅物な側面も持ち合わせている為、この想いは一生届く事はないだろう。
だからこそ、彼の相棒として傍にいる事しかできないのだ。そして、これからも自分は彼の相棒であり続ける。それが自分にできる精一杯の事だから……。
「……分かった、でも約束して。絶対に帰って来るって」
「ああ大丈夫だ、必ず戻って来る」
「それから麗奈って人が攫われてるらしいから、その人の救助もお願いね」
「おう。一度その人を見てるからな。言われずともちゃんと助け出してやるさ」
駆は「じゃ、行って来る」と付け加えて楓の頭から手を退かすと、帽子を軽く被り直しながら楓に背を向けて階段を上って行った。
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第38話:全てはPから始まった/克也・ビギンズ | ||
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