仮面ライダーサカビト その三 《V3D編》
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前回までの仮面ライダーサカビト。

代々木悠貴は悪の科学者に洗脳・改造され、“仮面ライダー”を殺害してしまう。

その後、謎の少女を追い回す九人組に喧嘩を売るが、その一団は量産型変身ベルト、レプリジン・ディケイドライバーを持つレプリディケイドだった。

九人はレプリクウガやレプリ電王に変身するが、姿と力だけを模写した擬似ライダーは、変身した代々木の敵ではなかった。

擬似ライダーたちを撃破したところで、レプリファイズの男、犬神歌守輝が仲間たちを守るため、真の姿:コヨーテオルフェノクへとその姿を変えた…。

 

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 割れたショーウィンドーは戦いの熱で溶け、ガラスの水溜りに変わっている。

 水溜りの中をさっきまで仮面ライダーを名乗っていた連中が這いずるように逃げ回っている。

 ベルトの残骸も置いていき、仲間たちに手を貸すこともない…負け犬を追う気はない、逃げるなら逃がす。勝手にしろ。

 今はそれより、目の前の犬顔の男を歓迎するのが礼儀ってもんだ。

 「…カズキ、もういいだろ? やろうぜ」

 《あいつらが逃げるまで待っていたとでも云いたいのか?》

 「そのつもりだったんだが、説得力なくなっちまったなァ。“コレ”については俺も知らなかったんだよ」

 本当に知らなかったんだ。あいつが云いたいことも分かる。

 クウガやアギトたちを見送っている間に、俺のマスクの穴は塞がっていた。

 痛みも治まり、違和感こそあるが、どこに攻撃を受けたのかが分からない程度になってしまっている。

 《そちらは回復、こちらは仲間の撤収…フェアな取引だな》

 “仲間”…ね。

 それにしても、灰色の犬顔怪人ことカズキは人間のように悠長に喋っているが、腹話術のようにどうにも口で喋っている気がしない。音の方向に違和感がある。

 「…まあ、どっちでもいいな。やるか、やらないか、それだけでいい」

 怪物になったカズキへと注意を向ければ、左腕の爪が尋常じゃなく伸びている。

 しかも、ただ伸びるのではなく親指から小指までの五本が朝顔のツルのように互いに絡み合い、一本の棒を形成している。

 《…これが俺のオルフェノクとしての能力…左側の爪をどこまでも伸ばせる。そのまま使えば鉄でも切れるし、纏めればこんな塩梅だ》

 そう云って絡み合った左手の爪を叩き折り、孫悟空の如意棒のように軽やかに振り回している。

 中国雑技団の演技を見たことがあるが、それと同じように華やかで、それ以上に速く力強い。見世物としても充分に通用するような如意棒っぷりだ。

 にしても、さっきから仮面ライダーだのオルフェノクだの、わけのわからない単語が出てくる。

 ちょっと学歴にコンプレックスを感じる。普通に授業に出て居れば中学辺りで習う言葉なのか? まずは殴り合える距離まで近づかなくちゃ…。

 《近づかせはしない》

 それは、本当に如意棒だった。

 伸びている。長すぎる。

 前にバイク代を稼ぐために建設現場でバイトしたことがあるが、そのときに見た大黒柱を二本重ねたくらい…逆に分かりにくいか。とにかく長い。

 《ロングポォールッ!》

 カズキの動きは見える。手の動きから如意棒の動きも分かる。

 だが避けられない。カズキが手首を返すたびにスーツの中に鈍い痛みが濁く滞るように溜まっていく。

 痛くも痒くも有るが、泣き叫ぶほどじゃない…が、やっぱり痛いし痒い。

 《悪いな。俺は非力だからな。一気に殺せるほどのパワーはない》

 カズキの変身していたファイズとは殴り合わなかったが、おそらくそれよりパワーは落ちているのだろうし、先ほど戦っていた自称仮面ライダー軍団の響鬼と比べれば、撫でられているようなもの。

 だが、それでも長柄は苦手だ。俺のダメージを勝手に治す能力が追いつかない程度には効いている。

 「中々…やるじゃねえか。これなら…最初からファイズなんて使わずにこっちで…他の連中と一緒にやればよかったんじゃないか…?」

 《できるわけがないだろう。俺のような((怪物|イレギュラー))と誰が一緒に戦う》

 

 ――なんだ? こいつ?――

 

 

 「そのまま、そこで死んでもらう…ッ」

 

 

 ――なんで、殴られてる俺より…こいつの方が辛そうなんだよ? ――

 

 

 「…お前、泣きたいなら泣けよ。殴りにくいだろ」

 

 

 《なにを…云っているッ!》

 

 

 

 動きを読もうと足元を見たとき、やっとカズキがどこで喋っているかを知った。ヤツの影が歪んで…というか、本来の形になっていた。

 怪人ではなく、投影されている映像のように、半裸のカズキが見覚えのある表情を浮かべていた。

 どうやったらそうなるのかはわからないが、後輩やダチ、それどころか教師や他校の番長の中にも居やがった。

 泣きたいくせにそれに気付かないフリして、強がって粋がって、忘れるために喧嘩する。ナイフやらをやたらに振り回して、曲がりきれないくせにアクセルを吹かすヤツのツラだ。

 「仲間を助けるためにシンガリをするような男がメソメソすんな」

 《泣きたいわけなんか…ないだろうッ! あいつらが逃げたのは当たり前だ、変身ベルトもなくオルフェノクが暴れている。俺を倒すために他のレプリディケイドを呼びに行くなんてのはなッ》

 カズキの棒を振るスピードが、まるで自分自身を振り切るようにまた一段と速くなった。

 「…俺のアタマが悪いのか? それだとお前も一緒に殺されるみたいな言い方じゃないか?」

 《それ以外にあるかっ? 俺のような…戦闘力と危険性の高いオルフェノクへの対応がッ!》

 「それ以外しかねえだろうっ!」

 イライラする。

 命懸けで自分たちを護ろうとするカズキを殺そうとするというあのクズども。

 そんなクズのために涙を堪えながら俺と戦っているカズキ自身も。こんな酷い世界でずっとグースカ眠っていた俺自身にも。

 「色々と云いたいことはあるが…まずはァ…ッ!」

 如意棒が振られる。俺は腕を出してガードするのではなく右足を前に出す。 防御じゃない、俺の学力でもなんと云うかわかる。前進だ。

 このまま防御していれば、如意棒が折れるまで耐えることもできるかもしれないが、そんなに待っていたら、きっと自称仮面ライダー連中が戻ってくる。

 俺は逃げ切れる自信はあるが、カズキみたいなヤツは逃げることもなく殺される、そんな気がする。

 《…止まれぇっ》

 「止まるかァッ!」

 一歩近づくたびにカズキの攻撃が早くなっていく。好都合だ。

 痛みが俺の歩くペースも上げてくれる。その痛みが迷わず前へと進ませてくれる。

 《痛くないのかッ?》

 「痛いに決まってんだろうがッ!」

 俺のスーツの中はぐっしょりと血まみれ。密閉してるんだから乾くわけもない。

 だが、そんなことはどうだっていい。怪我やら後遺症はあとで考えること。

 ――気がつけば、俺は距離を食いつくした。カズキが如意棒を振るには近い距離、俺が腕を伸ばせばちょうど当る距離。

 「痛くても…それだけだ」

 「…ち、っくしょぉッ!」

 とっさにカズキが如意棒を右手に預け、新たに左の爪を伸ばす。

 左右の爪の塊を重ねるように構えるが、もう俺は腕を振りかぶっている。しかも俺の拳はフェイタルキックのように光っている。

 無意識での必殺技は、爪ガードを容易く蒸発させ、カズキの顔面を容易く打ち据えていた。

 「…オルフェだかエノクだか知らん、お前の勝手だが、泣きたければ泣け。ウジウジするくらいなら泣けよ」

 何の動物なのかも分からなくなった頭部からカズキは人の姿に戻り、そのまま力が抜けたように崩れ、俺はとっさに抱きかかえるように支えた。

 「放せ。お前は…敵だろう」

 「ンなことをお前が決めんな。事情は分からねえが…泣くときは胸でもなんでも貸してやる、だから…もうそんな顔するな」

 腕の中のカズキがさらになにかを云った気がするが、俺にわかるのはスーツのヒビを水滴が伝っていくことと、これは受け止めなければならない。

 その水滴があらかた流れきったところでカズキは膝を折った。

 「…男の友情してるとこ悪いけど、もう話しかけていい?」

 静かすぎた街中、その声の主を俺はずっとマスクの複眼ごしに見ていた。さっきの仮面ライダー軍団に追われていた女の子。

 甲羅から頭を出すカタツムリのようにマンホールを持ち上げて頭や両腕だけを覗かせている。

 「ひょっとして気付いてた? あたしのこと?」

 「カズキとの戦いの途中からだな。 なあ、コイツを預けていいか」

 「…自分で運べば?」

 「他の自称仮面ライダーが来ることになってるからな。誰かを守りながら戦うのは得意じゃないんだ」

 俺は担いでいるカズキをマンホールに運ぼうとするが、女の子は蓋を少し狭める。拒否のアピールだろう。

 「あんた、それワガママって云うのよ。自分は戦いたい、だけどその人は助けたい、ってさ」

 「ダメか?」

 「あんたの自殺に付き合う義理はないと思うけど?」

 女の子の視線に俺はやっと気がついた。なるほど。俺の腕はツービートで痙攣して、それを知ったヒザが爆笑している。

 強化スーツに支えられているが、生身だったらとっくに倒れているだろう。気にしないようにしていたが、確かに全身がマンションの四階から突き落とされたときより痛い。

 アイツらに殴られ続けて色々とおかしくなっているらしい…どれだけ寝てたか分からないが、鈍ったかな。

 「他のレプリ・ディケイド…って云っても判らないでしょうけど、仮面ライダー、何体居ると思ってるの? 勝てる気?」

 「わからんが、一億人ぐらいか?」

 「そんなに居るわけないでしょ…」

 彼女は心底嫌そうな顔をしながら、一枚の写真を俺に見えるように差し出した。

 「たったの…二十万人よ」

 その写真には、さっき戦った連中が付けていたベルトが写っていた。

 見たこともないような機械の中から、出来立てホヤホヤ、イキの良いベルトが工場で大量生産されている写真だった。

 「逃げるのは嫌いだ」

 「…戦うの?」

 「いいや? 逃げるのはイヤだが、敵が来る前にこの場を移動するのは…ただの移動だ。逃げるわけじゃない」

 俺の意見に、その女の子はなぜかクスクスと笑った。まあ泣いているより良いだろう。彼女は笑顔のままでマンホールのフタをどかし、手招きをした。

 ノックアウトしたカズキは俺が担いだままで降りていくのを、彼女は先にハシゴを下りながら…って、それにしても面倒だな、この呼び方。

 「よオ、俺は城南大学付属高校工業課三年の代々木 悠貴。 後ろのヤツは学校は知らないが犬神 歌守輝…お前は?」

 ハシゴをスイスイと降りていく彼女は、名乗ってなかったっけ? と前置きをしてから口を開いた。

 「あたしはマリナ。((風祭|かざまつり))((真理奈|まりな))。 学校は行ったことないけど、とにかくパパの娘で、会ったことないけどママの娘ね」

 「…カザマツリ…?」

 どこか聞き覚えのある苗字だ。なにかが始まる…というか、プロローグのような気がする苗字だ。

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 それを弾いているヤツがどこにいるかが分からない、曲名も分からない。ただピアノだということしか分からない。

 だが、とても似合っている気がしていた。 神にケンカを売るには優しすぎるかもしれないが、それがまた良い。

 空には奇妙な満月。

 大きい赤い月を真ん中にすえて、時計の文字盤のように十二個の月が環状に並ぶ。理由や原因は分からない、とにかく浮かんでいる。

 どれも満ち欠けが違っていて、その月光をスポットライトのように使って十二人の男が立ち、中心にはひとりの女が視線を集めている。

 女というには若いが、ガキというには場慣れしすぎている。

 「((ギブジョ・リンバ|いくよ、みんな))」

 その女の唱えたのが何語なのかは分からないが、意味は不思議と理解できた。

 その号令に、十二人の男達が何かのキーワード――ひとりもダブらずに――口々に唱え、二十四本の腕が舞い、変身していく。

 変身を遂げたとき、彼らの姿は人間ではなくなり、獣の声で世界を埋め尽くすような咆哮を上げる。

 それらは仮面ライダーというよりも、どちらかといえばカズキが変貌したオルフェノク寄りのモンスターっぽいが、その中でひとりだけ、号令を掛けた女の細い腰にだけ、それは巻きついていた。

 俺のベルトと同じように回転する部品を中央に据えた変身ベルトだ。

 「変ンン・身ッ!」

 ――最初は、さっき会った自称仮面ライダーの中に居たクウガってヤツかと思った。

 色も黒だし、全体的なフォルムがそのあとのディケイドってヤツと一緒にいたほうのクウガにも似ている。

 だが、違う。コイツはアギトの方だ。真っ黒で襟元にひらがなの“ら”をひっくり返したようなマーキングがあるが、アギトかその系統のライダーだ。

 

 

 群月を見上げれば、空から何かが落ちてきている。

 それはこの十三体の敵であるらしい。なぜなら変身して待っているだけなら仮面ライダーや怪人たちの流儀ってことでもいいだろうが、いくらなんでも敵でもない連中に電撃やらビームやら自然発火やらを叩き込んで炎上させたりしないだろう。

 ただ全員が攻撃に参加しているわけでもなく、射程距離の長いヤツが先に仕掛けているらしい。

 「ギブサダ・ゴギ・デロビシ・グ・バギガセ・ヅバゲ・アマゾン」

 「グセパガガ…ヂバサゾグセ・グセパギギ」

 …なぜ俺はこの言葉が分かる? なぜこの言葉が…こんなに懐かしい?

 俺は黒いアギトをどこかで見たことがある。さっきの黒いクウガや自称仮面ライダーの連中じゃない、もっと前からコイツを知っている。

 そんな黒いアギトは、おもむろに拳を解き、ため息をひとつ。

 「…ゾグギデ…どうして来たの? 悠貴?」

 その言葉は、間違いなく日本語だった。

 マスク越しに喋っているとは思えないほどにハッキリとした声、耳や頭じゃなく、心に直に来る。

 この声は、この暖かさは…まさかッ!

 「アンタは…本当にそうなのか、アンタがそうなのかっ?」

 この人が居なくて辛かったわけじゃない。寂しかったわけじゃない。だが、それでも会いたかった。ずっとこの人に会いたかった。

 「…今度はちゃんと身体ごと会いに来なさい、抱き締めてあげるから」

 「…っか…ッ!」

 

 

母さんッ!

 

 

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 「…あれ?」

 目を開けたのかも分からない薄暗い部屋の中で、俺は目覚めた。

 バイクのイグニッションプラグを捻るように、急激かつ確実に俺のノウミソも覚醒していくのがわかる。

 ここはどこなのか、何が起きているのか、薄汚れた空間には釣り合わない香りのせいで分からなかった。

 「おはよう、良い夢か?」

 「まァまァの夢だ…なんだ、そのコーヒーは?」

 犬神カズキは自分の持っているビーカーに目を向けてから、飲むか? とジェスチャーする。

 もちろん俺はうなずく。コーヒーには…というか、バイク以外には大概疎い俺だが、カズキの持っているそれがインスタントコーヒーとは全く別物であることぐらいは分かる。

 「カズキくんが来てくれて助かったわ〜。入れ方が分からなくてずっと角砂糖だけガリガリやってたから…豆だけ余って余って」

 彼女は飲み終えたカップに新しいコーヒーを注ぎ、嬉しそうに角砂糖を山盛りにする。

 牛丼屋に行くと備え付けてある紅しょうがを一瓶全部肉の上に盛って、牛丼を食べに来たのか紅しょうがを食べに来たのか分からないヤツが居るが、大体そんな感じだ。

 「…どうなったんだ? あの後…?」

 「どの後かは知らないけど、とにかくあなたはベッドまでカズキくんを運んだら、そのままあなたもベッドに倒れこんで寝ちゃってたのよ。で、先に起きたカズキくんがこうやってコーヒーを作ってくれたってわけ」

 思い出してきた。

 この子にこの基地には今俺が寝てるベッドしかないと云われて、カズキを運んだところでそのまま押しつぶすように寝ちまったんだ。

 「改めて…あたしは風祭 真理奈。尊敬する人はパパ。将来の夢はパパのお嫁さん。職業はパパの愛娘。よろしくね」

 「犬神 歌守輝。尊敬する人は…親父」

 次々と名乗るふたりに、俺も名乗らないわけにもいかない。

 「城南大学付属高校工業課三年、代々木悠貴だ」

 「…」

 「…」

 「…」

 「いや、どっちか何か云いなさいよ? 色々と訊きたいこととかあるんじゃないの?」

 「特にはないな。おおよそ予想が付く」

 面倒くさそうにしているカズキのリアクションに、真理奈が俺の方に視線を向ける。

 もちろん疑問はいくつもある。今がいつで、ここがどこで、どんな状況なのか。俺は頭の中でザっと質問に優先順位を付けた。

 「まずは…牛乳ないか?」

 頭を起こすにはまずはコーヒー、コーヒーを飲むには牛乳、そんな当然の理論に、なぜか真理奈は暴れだした。

 

 

 

 

 五分後

 

 

 

 

 「まず! ここは下水道にどっかの組織が作って、廃棄した秘密基地!」

 暴れ終わって落ち着いたのか、真里奈は俺たちをベッドの上に正座させ、コーヒー片手に突っ立って怒鳴り散らしている。

 ちなみに基地の倉庫の中に有った“ミルク姫”という銘柄の冷凍保存牛乳をカズキが見つけてくれて、無事にカフェオレを飲んでいる。

 「で! あたしの目的はパパを探すことっ! そのためにあんたたちには手を貸して欲しいのよ、分かった?」

 「…お前の父親というのも、イレギュラーなのか?」

 「あなたたちの区別だとそうかもしれないけど…仮面ライダーよ。レプリディケイドよりも強くて…グレートなんだから!」

 その言葉はレプリディケイドを貶すニュアンスはなく、ただ父親を強調したいだけだったんだろうが、そう受け取れないヤツも居る。

 「…聞き捨てならんな。俺たちレプリジン・ディケイドライバーの装着者…レプリディケイドは確かにオリジナルではない。だがその能力は決してオリジナルに劣るものではないッ!」

 「まあ、悪くはないでしょうけど…((SOLU|ソル))を使ってオリジナルを複製しただけで威張られてもねえ」

 カタカナが多すぎて、カズキや真里奈が何に怒っているのかもよくわからんが、やっと一番に訊かなければならないことが判った。

 カズキがどういう気持ちでコーヒーを入れていたか、それを確かめなきゃいけねえ。

 「カズキ。お前、殺されかけてもさっきのレプリ…なんとかの味方なのか?」

 「云っただろう。俺が戦闘力の高いオルフェノクである以上、駆除するのは至極当然。レプリディケイドには戻れないことは分かっているが、敵対する道理もない」

 「それなら黙ってアイツらに好きにされるのか? ただオルフェノクだ、ってだけで?」

 「…グロンギや宇宙外生命体よりも人類に近いが故に、世界の均衡を脅かす悪辣な存在、それがオルフェノクだ」

 なんでこう、わざわざ自分を傷つけたり、疲れるような発言をしたがるのか。カズキは。

 「…俺は、生まれつきのオルフェノクってヤツじゃないから気持ちなんて分からねぇ…けどな」

 「オルフェノクが生まれつきなわけがないだろうが、バカか、お前はッ!」

 言葉を選んだつもりだったが、どうも何か違うらしい。

 さらに少し考えてから、そもそも俺はオルフェノクがなんなのかもわかっていないことを思い出した。

 それにしても、どうやらカズキは風船のような男であるらしい。

 普段は感情を表には出さず中に冷静に努めて、心と体の中に溜めていき、溜めて溜めて、それでいつかは破裂して感情を吐き出す。

 溜めている間はずっと疲れるし、吐き出した後も疲れる。だから年中疲れてイライラしている。

 「…違うのか?」

 苛立ちを押さえもせず、カズキは腰に付いていたカードバインダーを取り出した。

 他の九人も使っていた例のナントカライドとか鳴るカードの入っていたバインダーで、そこからカードではないものを取り出した。

 折りたたみ式の…携帯電話でもないし、ゲームでもないし、パソコンでもない。表面にはなにやらZECT、と妙な書体で刻印してある。

 「電子辞書?」

 「レプリディケイドの電子教本だ。各種イレギュラーの情報やライダーのスペックが書いてある…どうした、受け取れ」

 「なんつーか、昔、ダチのゲームを借りたら十五分も遊ばないうちに壊したことが有ってよ…そういうバイクより小さい機械は苦手なんだ」

 何かを云おうとするカズキを制し、真理奈が辞書を横から奪い取り、俺に見せてくれた。

 

 

『オルフェノク

 ●発生の経緯、時期などは不明。動植物を象った灰色の彫像のような姿を持ち、腹部に共通のシンボルマークを持つ。

 ●人間から変化するタイプのイレギュラーであり、生命の停止した肉体が変貌し、オルフェノクとなる。

 ●オルフェノクに殺害された人間はオルフェノクとして覚醒する確率が他の死因に比べて格段に高く、加速度的な増加が懸念され、緊急の駆除が求められる。

 ●人間に擬態する能力が高く、駆除・捕獲の際は他のイレギュラーと同様に注意しなければならない。

 ●複数の形態に変化する固体、極度の興奮状態から激情態と呼ばれる攻撃的な状態に変貌することになる』

 

 

 「…」

 「…」

 「…お前、死んでたのか?」

 「親父と一緒に殺された。分かっただろう? オルフェノクの邪悪さが」

 気持ちの風船が割れて少し落ち着いたらしく、口調は静かになったが眼はまだ燃えていた。

 一度割れたら、そのあとの心を風船に詰め込む。それを無意識でやっているようだ。

 「俺に分かるのは、この辞書を書いたヤツが他人を悪く書くクソ野郎ってことだよ…つーか、じゃあ、アレか。お前は親父さんの仇が討ちたいのか?」

 「そうだッ! そのために生き、そのために仲間を欺き、人間としてレプリディケイドになったッ!」

 仲間、って命懸けで戦うカズキを見捨てて逃げるアイツらのことを云ってるのか、コイツ。

 …ん? アレ?

 「それじゃあ、お前、まだ殺されるわけにはいかないじゃん。親父さんの仇、まだ倒してないんだろ?」

 俺の言葉に今まで気が付いていなかったらしく、泣き出しそうな顔から一気に間が抜けた。

 「…あ」

 爆笑する真里奈に、子供っぽく『うるさい! うるさい!』と止めに掛かるカズキ。

 俺はといえば…飲み終えたコーヒーのお代わりを取りに行っていた。 これ美味い。

 

 

 

 五分後

 

 

 

 「で、お前は父親をどうした?」

 「うちの親父は死んでないし、行方不明でもねえよ」

 仕切り直し後、コーヒー片手に俺たちは床にベタっと座っていた。

 椅子は逃げ回る真理奈にカズキが投げつけて完全に粉砕。他にもベッドやら本棚も被害を受け、無事なのは俺が守ったコーヒーぐらい。

 一瞬、俺も母親は行方不明だと付け加えようとしたが、さっき見た夢を説明できる気がせず、やめた。

 父親にしても、もし消息が知れなくても探しはしないだろう。カズキや真理奈の父親というのは、おそらく俺の父親と違ってずっと一緒にいたい父親なのだろう。

 「ふーん…? っていうか、じゃあ、お父さんを探してたわけでもないのにどうしてマンホールなんかに埋まってたの?」

 その言い方だと真理奈の中では、父親を探すならばマンホールに埋まってもいいことになる…が、まあ、いいか。

 「知らねえ。仮面ライダーを殺したら埋まってた」

 「…単刀直入すぎてシチュエーションが全く理解できんな」

 じゃあ長いぞ、と前置きをしてから俺は経緯を話した。

 俺が仮面ライダーと怪人を目撃し、その直後に拉致されて改造されたこと。そして仮面ライダーと戦わせられて――偉大な仮面ライダーの命を奪ったことを。

 思えば、こんなに長い話を人にしたのは初めてだ。ふたりは途中で区切ることも無く、最後まで静かに聞いてくれて、聞き終わると真理奈が息を吐き、喋りだした。

 「それじゃあ、そんな凄い体験のあとに意識を失って、気付いたらマンホールの中?」

 「そうだ」

 「そうか」

 

 

 「…」

 「…」

 「…」

 

 

 「ところで真理奈。お前、仲間居るのか?」

 唐突にカズキが切り出した。

 どうやら俺と同じく、“気が付いている”らしい。

 「…いいえ、ひとりよ」

 「この気配には覚えが有る。レプリディケイドの中でも最強と呼ばれている男達だ」

 コーヒーの香りが強くなったような気がしたが、それは逆だった。

 充満して慣れきっていたコーヒーの匂いが開け放たれた扉から抜けるときに、存在に気付かされただけ。

 扉の向こう側には、腰にディケイドライバーを巻きつた男が三人。その手には俺たちの写真。

 中央に居る男は、写真を俺たちの方に向けて、機械的に口を動かす。

 「レプリディケイド部隊員の犬神歌守輝、次世代サイボーグソルジャーの風祭真理奈、それと…((正体不明の戦士|アンノウン・ライダー))のヨヨギユウキ、だな」

 「…よくここがわかったわね」

 「質問に答えろ。犬神、風祭、ヨヨギの三人だな」

 ――こいつら、強ェな。

 最初は変身して入ってこない辺り、喧嘩慣れしてないヤツらだと思ったが、逆だ。

 生身でも対処できる自信があり、それを俺たちに分からせるために変身してねえ。

 カズキと一緒に居た八人とは格が違う。あいつらはスーツの力を振り回すだけだったが、この三人組は変身されたらヤバイってことが肌で理解できる。

 「…ああ。俺が城南大学付属高校工業課三年、代々木悠貴だ。何の用だ?」

 「そっちのふたりは?」

 無視かよ。

 「第五十五分隊副隊長、犬神です」

 「あたしは違うわ。あたしは金剛地!」

 …真理奈よ、どっから出てきた名前だ。金剛地って。

 なんか記憶喪失のヤツが他人に適当に付けるとこんな感じじゃないか、って具合の偽名だ。

 「そうか。だったら本物の居場所はどこだ?」

 「さあ、どこでしょー?」

 別に苛立った様子も見せず、俺たちを見比べてから写真をカードバインダーの中にしまい、カードを取り出した。

 他のふたりもそれに習ってカードを取り出し、ベルトに差し込む。

 「ちょっと! あたしは違うって!」

 「どう答えても関係ない。違うかどうかは検死をする連中が判断すれば良い」

 

 【((KAMEN RIDE|カメンライドゥッ))! ((BLACK|ブラック)) ((RX|アールエックス))】

 【((KAMEN RIDE|カメンライドゥッ))! ((SUPER1|スーパーワン))】

 

 先の九人のレプリディケイドと違ってシンプルなデザインをした黒と銀の怪人へと変身する。

 喋っていた男もベルトにカードを投入し、ガチャリと一回転させてベルトからはお約束の音声。

 

 【((KAMEN RIDE|カメンライドゥッ))! ((OOO|オーズ))】

 

 現れたのは赤と黄色と緑のなんだかよくわからない戦士。

 俺もてこずりながらもなんとかベルトを起動させ、次の瞬間には例の『人』という字をひっくり返したような姿に変わった。

 「いいぜ。三人だろうが百人だろうが戦ってやる。来いよ」

 「…ん? ああ、勘違いしてるよ、お前。俺たちは戦いに来たんじゃない」

 赤・黄・緑の三色ライダーが云う。

 「検死がどうの、って云ってたじゃねえか」

 「私たちは…お前たちが逃げられないようにするリングロープさ。“あの人”の、な」

 銀色のライダーから出た言葉に俺の心臓は早く鳴った。

 ちょっと待て? こいつらより上が居るのか? カズキの話でもこいつらが最強の連中じゃないのか?

 俺は変身するとやたらに視野が広くなり、首を動かさなくても真横を見ることができる。

 その視界に入ったカズキも俺と同じように意味が分からない、という様子だ。

 「…誰のことだ、それは?」

 「聞こえないか? お前たちには? この音が」

 耳を澄ませば、下水道から靴音。

 磨き上げられたブーツ、そして鍛えぬいた男の歩幅、ゆったりとそれでいて確実に近づいている。

 三人組レプリディケイドせいで逃げ出すこともできないまま、その足音が近づくのを待ち、そして来た。

 《…なん…で?》

 オルフェノクになったカズキが例の口を動かさずに影を動かす方法で洩らした呟き。

 それがどれほどおかしいのかは判らない、判らないがカズキが何に驚いているかは理解できるし、そして俺が何で最初の三人組にビビってないのかという疑問も氷解した。

 俺の強さの基準には、常に俺が殺した“仮面ライダー”が存在していて、それより弱そうな相手ならば気合次第でなんとかなりそうな気がしていた。

 だが、コイツは…ッ!

 「カズキ…真里奈…」

 新たに現れた風を感じさせる白いマフラーと緑のスーツ、そして赤い、((真紅|あか))い仮面の戦士…コイツだけはどうしようもない。

 断言できる。コイツは俺が殺してしまった“仮面ライダー”よりも強く、そして会ったことのない無数の仮面ライダーの中でも間違いなくコイツは最強の仮面ライダー。

 「俺がなんとか時間を稼ぐ。お前たちは…後ろの三人から逃げ切れ」

 そのベルトはレプリジン・ディケイドライバーではなかった。3とVの字の刻印にふたつの風車。

 すなわちそれは、カメンライドしたコピー体ではなく、オリジナルの仮面ライダーであるということだろう。

 

 

 「仮面ライダー…V3…ッ!?」

 真理奈の狼狽した言葉によって、俺はその最強の戦士の名前を知った。

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 周囲を三人の仮面ライダーもどきが囲む薄暗い下水道、真紅のオッサンに蹴飛ばされて汚水の中を俺は転がっていた。

 ケンカの回数なんて数えてもいないが、数えようとも思わない数なのは間違いない。

 その中で誰かを殴ると殴った相手のことが少しだけわかるようになるし、逆も同じ。なんでかは知らないがダチも似たようなことを云っていたし、喧嘩小僧だけの超能力。

 それができる程度の場数は踏んでるし、これも初めてじゃない。殴られながら少しずつわかってきた。

 「あぁー…ありがとよ、ヴイさん…っつったっけ? 殴られて寝ぼけた頭が冴えてきたぜ」

 「((V3|ブイスリー))。俺のことを呼びたければ、そう呼べばいい」

 かなり渋い声だ。一度聞いたら忘れられないような深みがある。

 地球を守る国際組織の長官とか、友の仇を討つためにズバっと参上していてもサマになりそうな粋な声だ。

 「ぶいすりぃね。覚えた」

 俺は水しぶきをあげ、ふたたび殴りかかる。

 殴られれば相手のことが少しわかる。だったら次は俺のことをわかってもらう。

 カッコつけた真っ赤な顔面から鼻血吹かせてやる。

 もちろん、V3もただでは殴らせてはくれないが、スピードもパワーも大したことはねえ。俺も変身分強化されているんだからな。

 

 

 そう、V3はそこまで速いわけではない。

 さっき戦った九人のライダーもどきのカブトよりは全然遅いが、俺は攻撃を避けられない。

 

 そう、V3はそこまで腕力が強いわけじゃない。

 さっき戦った九人のライダーもどきの響鬼よりは幾分劣るが、俺にはやたらに効く。

 

 

 不甲斐ないことに、またもや俺はカウンターを貰って俺の方が仮面の中で鼻血まみれ。

 今度は汚水の中ではなく、観戦していた真理奈の足元を転がることになった。

 「大丈夫? 代々木くんッ」

 心配そうに寄り添う真理奈を手で制し、俺はV3から眼を離さない。一瞬でも油断するとマジに殺される。

 「…本当に仮面ライダーではないのか? 弱すぎる」

 「さっきも云っただろ。 俺は仮面ライダーじゃねえ…ただ仮面ライダーを殺しちまったクズだよ」

 振り払っても真理奈が駆け寄ってくる。危ねえ、っつってんのに。

 それでも俺の手を握って、がんばって、と健気に応援してくれている…こういうキャラだったか? こいつ。

 「ホオ…キサマのような小僧に倒されるようでは…その仮面ライダーも大したことはない…な」

 「…あ?」

 今、なんて云った? このオヤジ、なんつった?

 俺の血の巡りの悪い頭は言葉の意味を理解するのに他のヤツの倍は掛かる。だが、一回わかれば倍はどころじゃなく、百倍は血が熱くなるようにできている。

 「今、なんつったァッ! アアッ!」

 「聞き返したいなら力づくで云わせてみせろ。できるならばな」

 もう、自分で何を考えているのかわからない。

 確かにあの仮面ライダーはV3より弱かっただろうし、俺のキックで死んでしまった。

 だが、そういう言い方は許さねえ。理屈じゃなく、気に入らねえ。マジな殺意だ。

 十六歳のとき、初めて買った単車を金属バットでボコボコ潰されたとき以来…いや、それ以上の怒りだ。

 そのときはまだ、相手の前歯とキンタマひとつ、あとは両手で数えられるくらいの骨折で済ませてやったが…。

 手の中に有る紙切れもグシャっと握り潰して…って、あ? なんだこの紙切れ。

 「アタックライ…ド? なんだ?」

 「それ使って。代々木くんっ!」

 いつの間にか、ちゃっかりと攻撃の余波が届かないところまで避難している真理奈。

 さっき駆け寄ったときに、俺自身にも他のライダー連中も気付かない内に俺の手の中にカードを滑り込ませてたのか、アイツ。

 「…いつの時代も子供たちは、俺の予想の上を行くな」

 …頭の中が一気に纏まった。

 冷えたわけじゃない。熱いままだが体の中にその熱意を使いこなせる火が入った実感がある。

 ヤル気の炎、根拠はなくても確信できる炎。

 三歳のときにバイクを始めて見たときに“大きくなったらこれに乗る”と思ったときと同じ感覚だ。

 今は真理奈やカズキが一緒にいる。コイツらは守る。俺が守りたいと思った。あの仮面ライダーの分も守るんだ。

 「余計な手出しはするなよ、お前たち」

 V3の掛け声に、三人のライダーもどきは付かず離れず、間合いを保つ。

 あいつら自身が云ったとおり、あいつらはリングロープだ。俺が逃げないようにしているだけ。

 「…使わせてもらうぜ、真理奈」

 

 

 【((ATTACK|アタック)) ((RIDE|ライドゥッ))! ((CLOCK UP|クロックアップ))】

 

 

 使った瞬間、見張っていた三人の自称仮面ライダー、V3、カズキに真理奈、全員の動きが遅くなり、流れる下水道まで凍ったみたいに動きがほとんど無くなった。

 世界がゆっくりになった…これは自称ライダーのカブトが使っていたヤツだ。俺が倒してブッ壊したベルトのバインダーに入っていたカードを拾っていたのか。真理奈のヤツ。

 これなら、なんとかなるか…ッ!

 「それが…報告にあった他人のライダーカードを使える能力、というわけか」

 「…え?」

 カードの効果を俺が実感する中、その声は聞こえた。

 ゆっくりな世界の中でV3だけが確かに動き、俺とマスク越しに目が合った。

 

 

 【((CLOCK UP|クロックアップ))】

 

 

 カード使用とは違う音声がV3のベルトから聞こえたのと同じタイミングで、V3だけがさっきまでと同じようなスピードになった。

 「…お前も使えるなら、意味ねーじゃん」

 「だったら他のカードを使え。受け取っているんだろう?」

 俺の手元にはライジングだのアギトトリニティ、ストライクベント、ファイズアクセルにサンダー、オニビ、デンガッシャー、キバドガバキ…真理奈選抜の強力カードセットがある。

 殴りあいながらタイミングを見て使えたら一番良いのだろうが…。コイツ相手に殴りあいながらカードを入れるなんて真似はできないだろう。

 「…最初から飛ばしていくぜ」

 

 【((FORM RIDE|フォームライドゥッ))! ((555AXEL|ファイズアクセル))】

 【((FORM RIDE|フォームライドゥッ))! ((AGITΩ|アギト))((TRINITY|トリニティ))】

 【((FORM RIDE|フォームライドゥッ))! ((KIVA|キバ))((DOGABAKI|ドガバキ))】

 

 ベルトにカードを読み込ませた瞬間、腰や背中に刀、剣、変な形の銃、バカデカイハンマー、槍がゴチャゴチャと現れ、クロックアップに加えて更なる加速状態に入る。

 「盛りすぎだ。多ければ強いってわけじゃないぞ」

 「…どれか使うか? 全部俺が使ったら悪いだろ」

 云いながら、俺は片刃の刀と両刃のグネグネした剣を構えてみせる。ナントカセイバーとカントカセイバーだ。

 「必要ない。それよりも小僧、早く来ないとアクセルの加速状態が切れるぞ」

 野郎は相も変わらず余裕を見せ付ける。

 今まで金属バットを持っていたり安全靴を履いていたり、中にはギャグみたいだがパイプ椅子を持参するヤツとも殴りあったことはある。

 だが、俺が武器を持って相手が徒手空拳ってのは人生初。どうにもスカっとしねえが、それでも来いとV3は誘っている。 いいね、すげえ殴りやすい。

-6ページ-

 代々木悠貴と仮面ライダーV3が加速状態に入ったあとの話になる。

 ((加速|クロックアップ))状態の仮面ライダーをそうではない存在が観測することは困難、同様に加速状態のライダーも音速を超えてしまうため、他の人間が何を喋っているのかは聞き取れない。

 したがって、以下の事象は代々木悠貴ではなく、((この私|・・・))がお知らせしよう。 

 《…バカな。V3にそんな能力はないはずだ!》

 犬神歌守輝はオルフェノクの姿のままで狼狽していた。コヨーテでありながら狼狽。我ながら面白いかもしれない。

 彼はレプリジンディケイドライバーのマニュアルを読み込み、全仮面ライダーの能力を必殺技から身長・体重、変身者の血液型まで丸暗記している。

 その彼が知らないのも当然。V3がクロックアップできるなんて資料は、どの世界にも存在していない。かくいう私も所有していない。

 「((風見|かざみ))((志郎|しろう))が何十年、悪と戦ってきたと思っている?

  クライシス帝国との決戦の後もその残党、イマジン、魔化魍…多くの敵と戦い続けてきた。もちろんクロックアップを駆使するワームとも…あれぐらいできて当然だぜ!」

 敢然と言い放ったのはレプリ・ディケイドライバーで変身した内のひとり、レプリブラックRXの男。

 オリジナルのブラックRXよりも格段に軽い調子で、随分とV3のことを心酔しているらしい。

 《そんなバカな! ちょっと特訓したぐらいでクロックアップできるなんて、そんなバカな理屈…!》

 「本当にそう思うか?」

 犬神歌守輝の至極真っ当な指摘に、レプリブラックRXの男は怯みもしない。

 

 

 「あれは他の二流の仮面ライダーじゃない。V3、風見志郎だぞ?

  あ・の・カ・ザ・ミ・シ・ロ・ウ・だ・ぞ・? 本当にできないと思っているか? 本当にか?」

 

 

 どこにどういう根拠が有るのかは知らないが、やたらに自信にあふれるその態度には、犬神歌守輝も黙ってしまった。

 「それより、そこの…金剛地、お前が持っているカードを全て出せ」

 レプリ・オーズの男が風祭真理奈を彼女自身が口から出任せに云った偽名で呼ぶ。律儀というか天然というか。

 言葉に感情の起伏も見られず、この男もオリジナルの仮面ライダーオーズとは全く性質の異なる人種であるらしい。

 「なんのこと?」

 「さっきの仮面ライダーにカードを渡しただろう。他のカードだ。」

 そんなことを云いながらも、レプリオーズはふいに身を避ける。

 さっきまでレプリオーズの顔面があった場所を通過し、壁に突き刺さる武器。

 他にも何本か飛んでくるが、ことごとくレプリ・オーズは避け切ってみせる。

 フレイムセイバー、ガルルセイバー、ストームハルバート、バッシャーマグナムと立て続けであるにも関わらず。

 ((加速|クロックアップ))状態のライダーの手元から離れれば、その瞬間から時の流れは正常になる。V3が代々木悠貴の武器を弾き飛ばしているらしい。

 「…あの武器からすると、渡したカードはドガバキやトリニティ…か。他にも持ち去ったカードがあるはずだ。出せ」

 「えぇ、持ち去っただなんて…。そ、そんなの知らないわ。ひどい、あんまりよ、泥棒みたいに…」

 「ほら、いいから出せば良いんだよ。カードさえ有れば別のレプリ・ディケイドライバーが使えるからよ、必要なんだ」

 レプリ・ディケイドライバーは、((門矢|かどや))((士|つかさ))の所有するオリジン・ディケイドライバーに用いられている謎の物質“トリックスター”に相当する素材を用いず、シックスエレメントやケータッチとの合体機構といった複雑な機構を((簡易化|オミット))することで量産性を向上している。

 だが、カードは別。ライダーカードは仮面ライダーの分身・化身ともいえる存在であり、量産はできない。

 そのため、彼らの使っているカードは((模造品|レプリジン))ではなく、様々な方法で収集された((現物|オリジン))であり、V3たちもレプリディケイドライバーを二十万台所持していても、実際のレプリ・ディケイド(代々木悠貴の表現を借りれば仮面ライダーもどき)は百人に満たない。

 「いや、変態! あたしをどうしようっていうの?」

 「どうしよう、って、だから、カード…」

 「嫌らしい変態垂れ目でこっち見ないでよッ!」

 一瞬、レプリRXがそれの意味を理解できず、理解したあと自分が云われたということを把握するのにまた二秒くらいかかった。

 「い、嫌らしいぃ? タレメぇっ?」

 「垂れ目のクセにスライムになったり、顔が変わっても垂れ目でしかも銃振り回したり、どう考えたって怪しいじゃないの! この悪役顔! 変態!」

 糸が切れた人形のようにというか、電池が切れたロボのようにというか、レプリRXはグッタリと膝を着いた。

 アルファベット三文字で表すなら、OTZ。

 「垂れ目…嫌らしい…垂れ目…? 悪役顔…?」

 「落ち着けRXッ! 大抵の仮面ライダーは垂れ目だし、怪人だと云われる! そういう悲しい宿命を背負っているのが俺たちじゃないか! 落ち着け!」

 「す、すぅぱぁわ…ん」

 号泣していると判る悲しみの王子、レプリRXは、やっとやっとで頭を上げ、励ましてくれた同僚のレプリ・スーパー1を見た。

 だが悲しいかな、彼は数少ない“釣り目”の、しかも“俺がヒーローだ”と云わんばかりのデザインをした仮面ライダーだった。

 「ち、ちくしょおおおおおおッッ! どうせ、どうせ俺なんかァアアアアアッッ!」

 人並みはずれたパワーで下水道を砕きまわるレプリRXに、おろおろとどうしていいのかわからないスーパー1。

 流石に“そういうことを云うなよ”と憐憫の視線を送る犬神歌守輝。だがそんな連中を無視して、レプリ・オーズは目を凝らすようにジィッと真理奈を見つめた。

 「…ん? おお、タカの目の透視か?」

 「って、え、透視っ!? ヤだ、変質者ッ! 見るな、コラ! 見るな! パパ以外の男が見るのは許さん!」

 タトバコンボ(タカ・トラ・バッタ)は、バランスとスピードに優れる汎用形態。

 その頭部であるタカヘッドは他のメダルのような電撃や水圧攻撃ができない代わりに、超視力を持つ。

 これで風祭真理奈の手持ちのカードを調査をしている――だが。

 「…無いぞ、本当に持っていない」

 「ああァ? そんなわけないだろ。オーズ、ちゃんと見てるのか?」

 「見えん」

 感情の揺れも表さず、無感動にレプリ・オーズは視線を切る。

 今度はタカの目を何も無い下水道の彼方へと…いや、超高速で戦い続けているはずのV3と代々木悠貴へと向ける。

 「お、おおお! そうか、それが有ったか! どうだ、見えるか!」 

 タカヘッドの超視力、その能力のひとつが超動体視力。

 もちろんふたりとも加速中は亜光速となり、完全に捉える事はできないが、影程度ならば見ることも叶う。

 「…やはり、ドガバキとトリニティーだな。ドッガハンマーが見える」

 「って、オイ! 負けてるのかよ、V3がよォ、風見さんが!」

 「…少し下がるぞ。あと…二メートルほど」

 「そんなことよりよぉーッ! 風見さんはどうなんだよ、勝ってるんだろッ? まさかあんなガキによォー〜〜ッッ!」

 「だから下がれ」

 「そうじゃなくて、だから、風見さんはッ!」

 無言でバッタレッグを変形させるレプリ・オーズ。

 邪魔が入らず当りさえすれば、必殺の威力を持つ形態。その足でレプリRXの腹部に前蹴り叩き込み、二メートルどころではなく、タカの目じゃないと見えないぐらいまで吹っ飛ばしてしまった。

 「下・が・れ」

 残るレプリスーパー1と犬神歌守輝も、もちろん二メートルだけではなく、倍以上は下がる。

 …云うまでも無いかもしれないが、風祭真理奈はとっくの昔に退避している。

 

 

 【((CLOCK|クロック))((OVER|オーヴァー))】

 

 

 その独特の言い回しが下水道に響き渡ると同時に天井が崩れ落ちた。

 ちょうどさっきまでレプリ・ディケイドたちや、真理奈、犬神歌守輝が居た辺りだ。

 《…どうやったらこんな威力が…ッ!》

 犬神歌守輝の疑問に答えたのは、レプリスーパー1。腕のセンサーを眺めている。

 どうやらいつの間にやら情報収集能力に長けるレーダーハンドにチェンジしていたらしい。

 「ブレイドのサンダーとクウガのライジングの重ね掛けだね。

  電撃によるキック力の増強コンボ…ふたりは地上に出たらしい、行くよ? カズキくん?」

 大丈夫? そう云わんばかりにレプリ・スーパー1は風祭真理奈と犬神歌守輝を交互に見る。

 地上までは縦に開いた大洞窟というべきか、一直線に日の光が下水道まで差し込んでおり、上まで跳べるか、そう聞いているらしい。

 《…あなたたちの手は借りません》

 犬神歌守輝は風祭真理奈を抱え、飛び石を渡る山犬のように俊敏に僅かな((凹凸|おうとつ))を足場にして駆け登っていく。

 もちろん、他のレプリライダーたちも苦も無く登り、追いすがる。

 五人が地上に着いた頃、既にV3と代々木悠貴の戦いは通常の速度で展開していた。

 「…こうでなくっちゃぁなぁ! 風見さん!」

 ドガバキとトリニティで形成されるはずの武器の内、ドッガハンマーだけは地下で見ることができなかった。

 それはつまり、加速状態の仮面ライダーが手に持っているため、通常の視力では見る事ができないから。

 そのため、無意識に風祭真理奈と犬神歌守輝は、代々木悠貴がドッガハンマーでV3と渡り合っていると思っていた、しかし。

 「って、代々木くん! なんで勝手に奪われてんの! ドッガハンマー!」

 夕日をバックに、ドッガハンマーを振り回しているのはV3。

 初めての武器だろうに、苦も無く重量級の武器を使いこなす。代々木悠貴は新たに使ったデンガッシャーのソードモードを盾代わりにし、なんとか受け切っている状態だった。

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 まったく嫌になる。((この俺|・・・))がここまで苦戦するたぁ…一発受けるたびに、身体がブッ飛びそうになりやがる。

 俺もハンマーなんて使ったことはねえし、ないよりマシかな、ってくらいのノリで使ってたが、甘かった。

 このV3ってヤツは慣れてやがる。敵から奪った武器は敵以上に上手く使う。俺もケンカのときはその主義だが、釘バットくらいしか使ったことはない。

 「ヌゥぅうんンッ!」

 振り下ろされるハンマーに、俺は反射的に剣を頭上に水平に構えて、受け止めた。

 この剣は頑丈で大丈夫。レゴブロックみたいにバラバラに組み換えられる武器だというのに壊れたり外れたりはしない。

 だが、俺の身体がヤバイ。武器が硬くて壊れないってことは、クッションにならずに衝撃が全部俺の身体を直撃するってことだった。

 スーツの中でシェイクされるような感覚。俺のノウミソが足元まで落ちたんじゃないか、って衝撃。

 「すっげええ…痛ぇ…くねえぇええーッ!」

 ただの意地だが、誰にも敗けたことのない頑丈な意地だ。

 反撃だ。そのスカした顔面をハイキックでぶっ飛ばして…って、お? 足が動かねえ?

 「代々木くん! 足! 足! 速く抜いて!」

 足…? 俺は足元に意識を向ける。常に三百六十度、上も下も右も左も南も北も西も東も…どっちがどっちかは判らないが見えているのが俺なので、意識を向けるだけで足元が見られる。

 見てみると、俺の脚はスネの辺りまでバッチリ アスファルトに埋まっている。

 ヤベぇ、さっきのハンマーで叩かれたときに、ちょうど釘をトンカチでそうするように打ち付けられた。

 「トゥッ!」

 クギ打ちの次は、ゴルフの打ちっぱなし。

 V3がゴルファーで、ハンマーがクラブで、俺がボール。

 胸部をハンマーが打ち抜き、俺の身体はロケットのように真っ直ぐに上空に。

 「ファーッ! ッてヤツっすね」

 ブラックっぽいライダーもどきにもゴルフに見えたらしい。飛ばしすぎたボールに注意する掛け声を出してやがる。

 …って、あ、カズキや真理奈だ。下から上がってきてたのか。そうか、さっき声を掛けてくれたよなー。

 そんなことを考えながら、俺は顔面から着地した。

 「ぶっふぁああああ! 全然痛くねええええーッ!」

 右足の感覚がない。例の勝手に傷が治る機能も効いているが、着地のときに本格的に壊したらしい。

 「…さて、切り札を切るなら今しかないぞ。うちのレプリ・ディケイド四人の合体技を破った技だ」

 そう云い、V3は人差し指で俺のほうを指差し、ハンマーを無造作に投げ捨てる。

 ライジングとサンダーを合わせた電撃パンチはあいつの角から出たV3サンダーとか云う技で撃墜され、オニビとストライクベントの火炎放射もなんかバリアみたいなバリア…他に云いようがないヤツで防がれた。

 今は奪われた武器でボコボコ。なんつーか、こう…。

 「最初から…これを使っておけば…良かったな、って気持ちで一杯だよ」

 なんとか立ち上がった俺は、腰を下ろして重心を動かして片足に力を込める――フェイタルキック。

 相手のエネルギーを吸収し、自分の攻撃エネルギーに加える。

 変身してからの俺が唯一、自前で持っている必殺技らしい必殺技。どれだけアイツの蹴りが強力だとしても、そのエネルギーを吸収すれば負けねえはずだ。

 

 

 「…行くぜ?」

 

 

 同時だった。全く同時に、俺とV3は地面を蹴り、空中に居た。

 避けようと思えば避けられたかもしれない。V3が跳んだ瞬間に横に身を躱すだけでいい。

 だが、それじゃあV3は倒せないし、それは逃げたってことで、逃げってのは勝てないと諦めるってことだ。

 敗けることよりも性質が悪い、ずっと振り払えずに心の中に沈殿していく。それが逃げ。

 「フェイタルゥ…ッ」

 「V3ィ…」

 俺の足とV3の足が空中で激突する直前。

 俺のベルトの風車が猛烈に回転し、V3のベルトは力を失っていく。

 それに比例するように俺の身体に力が漲り、V3のキックから恐ろしさが減る。

 V3の身体からエネルギーを吸収し、俺の攻撃力に加算していく。俺はそのエネルギーを込めて、V3を弾き飛ばすべく気合を限界まで足に送り込んだ…そのときだった。

 

 「キィイイ…ッ!?」

 

 居ない。V3が消えた。俺とぶつかっていたはずのヤツが居ない。

 一瞬だけ足のエネルギーに気をとられただけなのに、目の前に居ない。

 そして、夕日の中に光と影が差した。赤い光。夕日よりも強い光源が空中にあり、夕日を遮っている…この間、ゼロコンマの下にゼロがもうひとつ付くぐらいの時間。

 俺が振り向くより速く、俺の腹部、ちょうどベルトの真上のヘソあたりに鋭い痛みが走った。

 「((反転|はんてぇーん))、キィイイーック!」

 息ができない。何が起こったかわからない。だが俺は叫んでいた。絶叫していた。痛みよりも本能的な恐怖からくる叫びだった。

 

 

 「うッ、ゥわあぁああぁっッ!」

 

 

 ――気が付けば、俺の変身は解けていた。呼吸するのもキツイ。

 視線をV3が居るべき場所へと向けると、そこには夕日を背に立つ始めて見る顔が有った。

 俺より年上なのは判るが決して老人ではない。少なくとも俺はこれだけ生気溢れる老人を知らない。

 その端正な顔には、厳然とした正義と闘争心が宿っている。間違いなくあのV3の中身はこの男だ。

 「敵のエネルギーを吸収して反撃に転用する技…悪くないが、対策は山ほどある。

  俺がやったように一発目に囮のキックを放ち、お前が吸収したところで身体を反転、二発目を放てばいい」

 なるほど。俺の呼吸を読みきって反撃…って、え?

 口であっさりと云っているが、そう簡単にできるものなのか?

 始めて受ける技のタイミングを完全に読み取る技術、二発目のキックだけでもこれだけのダメージを与える力。この男の力と技は、果てが見えない。

 「代々木、お前、俺たちと一緒に戦う気はないか?」

 「なに云ってんだ、オッサン」

 本当は判っている。

 殴り合っている間…っつってもほとんど俺が一方的に殴られていただけだが。

 V3は俺を倒そうと思えばいつでも倒せたし、俺がそのことに気付いていることにも気付いている。

 この野郎は俺を試していた。何を試しているかまでは判らなかった。流石に殴られてるだけじゃ足りない。

 「俺たちはかつてないほど大きな“敵”と戦っている。その敵と戦うために…力を貸せ」

 俺を挑発していたのも俺が本気を出せるように嫌われ役をやっていただけだ。

 コイツには、俺の頭じゃ思いつかないくらいの深い考えがあって、そのためにはなんだってできる、そういう男…だが、気に食わない。

 「…それ、他の((人間をやめた|おれたちみたいな))ヤツの全部に云ってるわけじゃないだろ? なんで全員に云ってやらねえ? ((友達|ダチ))になろうぜ、ってよ」

 最初に出会った九人の仮面ライダーもどきたちの態度は、俺を見るなりいきなり襲い掛かってきた。

 カズキが自分がオルフェノクだと云い出せず、真理奈も逃げ回っていた状況を考えると、そういうことになる。

 「子供の理屈だな。全ての敵と判りあう、それができないほど、人類は敵を生み出してしまっている。自ら、な」

 殴り合ってからだと直感的に判ることが有る…コイツ、もしかして…。

 「憎しみは何も生み出さない、なんて判ったようなことを云うヤツが居るが…。

  俺に云わせれば憎しみほど多くのものを産み、奪うものはない。

  戦争も。ミサイルも。ナチスも。デストロンも。改造人間も…仮面ライダーも、な」

 この男は恐らく、家族みたいに大事な友達や家族そのものをデストロンってヤツらに殺されている。そしてV3はV3になった。

 血反吐を吐いて戦ってきた。憎しみを振り切って戦ってきた。憎しみそのものを憎みながら、それでも誰かを護ってきた。

 「憎しみは生まれる前に断たなければならない。全ての怪人は――俺たち、仮面ライダーが倒す、倒さねばならない」

 少しだけ、コイツの強さの根っこが見えた気がした。

 コイツはこんなに強くならないで欲しかった。もっと幸せな好きなヤツだけを守れるだけの強さを持っていて欲しかった。

 世界を守れる力を持ったから、世界を守らなきゃいけなかったから。コイツは…仮面ライダーたちは弱くなることを許されなかったから。

 「…お前、カズキとそっくりだぜ。ずっと強がってどんどん自分で自分を嫌いになる。だがな、俺は嫌いじゃないぜ」

 「自分のことが、か?」

 「自分を好きなのは当たり前だろ。どれだけクズでもよ。自分を嫌いにはならねえ。

  今云ってるのはお前らだよ。カズキも真理奈も。V3も憎しみから生まれたんだとしても、俺は仮面ライダーは大好きだ。だからお前たちとは手を組まない」

 そのとき、代々木ィッ、と呼ぶ声が聞こえた。仮面ライダーもどきのひとりが云っている。

 あいつらのことも別に嫌いじゃねえし、多分、((殴|かた))り合えば、分かり合える。そんな気はする。

 「判るように云え」

 「なんで、カズキは一緒に戦うお前たちに“自分がオルフェノクだ”って云えなくて、泣けなかったんだ?

  どうして、親父さんを探してるだけなのに、真理奈は下水道を這いずり回ってなきゃいけなかった…気にいらねえんだよ」

 なるほどな、とV3は頷いた。

 俺は直観だけで喋ってる。だがその直観を動かせないことをV3も判っているはずだ。

 「…ところで代々木。お前の名前は“フェイタル”なのか?」

 「? 代々木だっつっただろ?」

 「そうじゃない。変身後のコードネームだ。仮面ライダーじゃなくても何かあるだろう? ハサミジャガーとかカメバズーカとか」

 「なんだそのネーミング。イカス」

 多分、背中にハサミがついたジャガーとか、腕にバズーカが付いたカメとかなんかなんだろうな。

 俺の顔面は…なんかの虫。アブか何かか? かといってここで『キックアブ』とかじゃ、ハサミジャガーほどのインパクトがない。

 だったらあとは…俺の顔面といえば、何か“人”って字をひっくり返したような顔面のデザインだから…。

 「逆人。サカビト。俺はサカビトバイクグルイフェイタルキックアブ男だ」

 「…サカビトとしか呼ばんぞ。ならば…ッ…っぐ、ヌウウウ…」

 いきなりだった。V3の男の様子がおかしい。

 胸を押さえ、さっきまでとは変わって冷や汗が浮かんでいる。

 「まずい…っ」

 「風見さん! アレですか!」

 例の仮面ライダーもどき三人組の中から、赤・黄・緑の三色のヤツと黒いヤツがそれぞれカードをベルトに装填する。

 

 

 【((FORM RIDE|フォームライドゥッ))! ((SYAUTA|シャウタ))!】

 【((FORM RIDE|フォームライドゥッ))! ((RX BIO|アールエックス・バイオ))!】

 

 ジュバッ。

 ふたりとも全身が青くなったかと思ったら、そのままスライム状になってV3の男に巻き、押さえ込んだ。

 

 「う、がぁ、アアアアアアアアアッッ!」

 

 変身した。

 仮面ライダーV3に、じゃない。それ以外の見たこともないような動物だ。

 トンボだろうか。羽根に夕日が透けている。

 

 

 《ワームッ?》

 驚いたようなカズキの言葉に、俺はその姿の名前を知った。

 なんだ、改造人間ってこういう姿にもなれるのか…って、オイ! なにしてんだ、カズキ!

 「…何の真似だい?」

 俺が聞きたいことをギンピカライダーもどきが訊いてくれた。カズキは例の爪で作った如意棒でギンピカに殴りかかり、それをギンピカは振り向きもせずに受けた。

 《スイマセン、ナガレさん、でしたよね。今、あなたを倒せばこの子を逃がせる…そう思ったら、手が出ました》

 ふたりがV3を取り押さえに掛かってるんだから、今、カズキや真理奈の近くに居るのはギンピカ野郎ただひとり…俺と同じことを考えるとか、お前どういう頭してるんだよッ! 早死にするぞ!

 「やめなさい、カズキくんッ! あなたじゃそいつは倒せないわ!」

 さっきまでの金剛地とか名乗ってたノリとは変わって、真剣そのものの真理奈。だがカズキも真剣だ。

 「…わかってると思うけど訊くよ? レプリ・ディケイドライバーもなく俺と戦えばどうなるか、判ってる?」

 《ええ。判ってます。でもね、代々木みたいに他人のために命を捨ててくれるヤツを見てたら…身体が止まらないんです》

 「バカ野郎ッ! 俺は命捨ててるんじゃねーよ! ただ俺は無敵だからやってるだけだよ!」

 っつーか他人じゃねえよ、俺が気に入ったんだから俺が命を懸けるのは…だあぁあああああッッ!

 身体が動かねえ、なんでだよ、動いてくれ! 俺の身体、どこでもいい、頼むよ!

 《その重心…空手ですよね。赤心少林拳じゃない》

 「うん。変身してるから((スーパー1|ホンモノ))の技もそこそこ使えるけどね。琉球唐手とフルコンをチャンポンした我流、こっちの方が性に合うんだ」

 ぐおおおお! 動け、動け、俺の身体。さっさと治れ! カズキが死んじまう!

 踏み潰されたカエルみたいに身体が地面から離れない。…ん? なんだ?

 地面に耳をつけていた。だから最初に気付いた。音がする。下から。下の下水道を何かが走っている。

-8ページ-

 突然だった。さっき俺とV3が開けた地面の大穴から飛び出してきた。

 聞こえていた音は、八気筒のバケモノ染みた排気音、路面と愛し合う最高のタイヤの音、カウルの風切り音。

 音の主のバケモノバイクはギンピカ野郎に直撃し、そのまま吹っ飛ばしたが、シートには誰も乗っていない。

 磨き上げられた真っ白なフルカウル、側面には((GUST|ガスト))の文字。俺と同じで人という字を引っくり返した装飾。

 俺のバイクだ。原型を留めていないが判る。俺が狂科学者に誘拐されたときに乗っていた単車だ。

 

 「ぐ、ぬ、うう」

 弾き飛ばされ、足に来ているギンピカ。ちょうど酔拳のような足取りだ。

 「…逃げるわよ、カズキくん! あたしとキミでッ!」

 《代々木を置いていく気かッ?》

 「この位置からじゃ無理、わかってるでしょ」

 よしっ。それでいい。V3の暴走もそう長くないはずだ。それなのに一歩も動けない俺を抱えて逃げるんじゃ間に合わない。

 …そんなに申し訳無さそうな顔をするな、カズキ。お前だって前に仮面ライダーもどきを逃がすために俺と戦っただろ?

 《必ず助けに来るからなッ! 死ぬなッ、代々木!》

 あー、もう、なんか嬉しいな。お前、全然泣きそうじゃねーもん。カズキは真理奈を後ろに乗せてバイクに跨り、例の大穴に入っていった。

 「…く、待てェッ!」

 「追うな、スーパー1。あのスピードだ、追いつく頃にはお前の体力が持たん」」

 数秒遅れて、バイクを蹴飛ばして追って行こうとするギンピカを止めたのは、人間の姿に戻ったV3だった。

 他のふたりも追いかけるそぶりもなく、V3の指示待ちで待機している。

 「…勝負に負けて試合に勝った、といった具合か? 代々木」

 「勝負に敗けたならそこでもう勝ちとかないだろ。

  大体、さっきのはお前の自爆。知らなかったぜ。改造人間はああいうのにも変身できるとはな」

 「…厳密に云えば、俺は改造人間ではない。風見志郎ですらない…風見志郎の記憶を受け継いだ宇宙から来た((虫けら|ワーム))だ」

 「ワーム…?」

 「お前、ワームを知らないのか? 何年か前にゼクトがテレビで存在を公表しただろう?」

 そんなものを見た覚えもないんだが。

 とにかくコイツは本物の風見志郎ではなく、別に風見志郎…仮面ライダーV3が居る、ってことか?

 「ワームは人間の記憶と姿を受け継いだ人類の敵…だったんだがな。俺は風見志郎の記憶を受け継いでしまった。

  風見志郎の強靭な精神と正義の心が、ワームとして人間を傷つけることを許さなかった」

 「…よくわかんねーけど、あんたは本物と全く同じ正義の味方、仮面ライダーV3、ってわけか」

 例のライダーもどき三人組も黙って聞いている。驚いている風がないので既に知っていたらしい。

 「そうもいかん。なにせ俺の中にある正義の根源…全ての思い出は、俺のものではないのだから」

 シニカルに、なんの感情の動きも出さなかったが、代わりとばかりに後ろで黒から青になったヤツ(作者注:レプリRX)の嗚咽が聞こえてきた。

 「家族の微笑みを…それを奪ったデストロンへの憎悪も…散っていく戦友に四号の名を送った痛みも、もうひとりの父親の眼差しも、偉大な先輩たちから受け継いだ力と技、この命さえも俺の物ではない。本物の風見志郎の物だ」

 「全部のワームがそうなのか?」

 「云っただろう。俺は風見志郎の正義を受け継いだ、と。 並の感情だったらワームとしての本能が勝る。確実に」

 生物としての本能すら壊してしまう記憶、それが本物のV3が持っていた正義…。

 会ったことは無いが、その本物はその正義の心と思い出を武器に、多くの怪人たちを倒し、そして記憶だけでこのワームからワームとしての本質を奪い去ったのだ。

 「本物を倒せば手に入るだろ。その仲間全部」

 「できるわけがないだろう。あれほど愛されている男を奪えば、残された人々はどれだけ悲しむか…俺は誰の涙も見たくはない」

 後ろでは黒から青になったヤツが変身を解いた。その瞬間にドバっとすごい量の液体が溢れた。

 涙やら鼻水でマスク内がいっぱいになって呼吸ができなくなり、変身を解いて泣き崩れた…コイツらはコピーだと判っていても、人間じゃないとわかっていてもこのV3を慕っているのか。

 「…だから、俺は全ての怪人たちを倒す。優しすぎるV3には取れない方法で、真の怪物であるこの俺が、俺と同じ((複製品|レプリジン))の仮面ライダーと共に、な」

 カズキがコイツの正体を知らなかったことを考えれば、そのことをコイツは部下全員に伝えているわけじゃない。

 それは多分、カズキがオルフェノクだたと云えなかったのと同じ理由。

 強がっていても、誰よりも部下たちを気に入っている。その部下に拒絶されるのが怖いから。

 「全部の悪を倒したら、お前、どうするんだよ? 最後に残った怪人がお前だけになったら、どうするんだ?」

 「…さあ、な」

 自分が大嫌いなこの男の取りそうな行動は、判る。

 その行動は、後ろに居る三人のライダーもどきが絶対に阻止しようとするだろうし…多分、俺も止める。

 こいつは面白くない。面白くない気に入ったヤツだ。

 「だから、本当に久しぶりだった。ワームの姿に戻されたのは。フェイタルキックの効果…だろうな」

 「おそらくそうでしょうね。逆ダブルタイフーンで全エネルギーを放出したときも暴走してしまったこともありますから…ワームの本能を押さえつけるためにV3としてのエネルギーを使っているのでしょう」

 答えたのはギンピカ。

 納得したようにV3は泣きじゃくる黒かったヤツ(もう変身を解いたが)を背負うようにギンピカに指示し、俺を赤・黄・緑の三色に担がせる。

 「…というわけだ。お前のフェイタルキックの機能には興味がある。俺の特訓に付き合ってもらうぞ」

 仲間になろうとなかろうと、何かには使う気満々らしい。この野郎。

-9ページ-

 さて、またもや((この私|・・・))が語らねばならないらしい。

 真っ暗な下水道はコヨーテの眼を持つ犬神歌守輝にとっては昼間の高速道路と大して変わらず、快適なもの。最も心配だったのも高速道路と同じで、腰に手を回しているだけの小さな同乗者のことだけ。

 振り切ってからは代々木悠貴の専用マシン、ガッツガストを下水道に駐車場代わりに置いておいて、やっとふたりが遅すぎる夕食を取ったのは二十四時間営業のファミリーレストランぐらいしか営業していない時間帯だった。

 「…これからどうするっ?」

 既に変身を解いた犬神は、慣れないパワーに振り回された運転疲れは微塵も見せず、ひとつの絶対的モチベーションによって勇躍として次の戦いを求めているようだった。

 すなわち、命の恩人、代々木悠貴の救出に燃えているわけだが、道連れの少女は疲れ、そしてそれ以外の感情も覗かせていた。

 「そうね。まあ…代々木くんには命を助けられたわけだけど…あたし、その前に代々木くんとカズキくんの命、一回ずつ助けてるからね」

 「…お前…ッ…いや、そうか」

 一度助けたあとに一度助けられる。貸し借りの勘定はあっている。

 犬神歌守輝にしても、自分が無理強いできる立場ではないことは理解している。

 そうとは分かっていても、やはり仲間と思っていた人間に云われれば、さすがに疲れも出る。

 深く椅子に腰を落として息を吐いた犬神歌守輝を見て、風祭真理奈は悪戯っぽく笑ってみせる。

 「…カズキくん、わかってないでしょ?」

 「何が?」

 「あたしを助けるなんて借りを、あんたたちを一回か二回助けただけで返せるなんてバカなこと云わないわよ。

  なにせ、あたしはあんたたち百人分ぐらいの価値があるからね」

 とウインクひとつ。

 「では…これからどうする?」

 店に入ってから二回目の“これからどうする”に、風祭真理奈は少し考えて、

 「まずはあたしはミックスフライグリル、あなたは和風バーグセット…を待ちましょう」

 「…は?」

 「じゃあドリンクバー? 行くならあたしの分もよろしく。炭酸が入ってればなんでもいいから」

 「お前、いい加減に…ッ!」

 「騒がないで。こういうところにも居たりするんでしょ、((あなたのお仲間さん|レプリ・ディケイド))って」

 時間が時間だけに人も少ないが、だからこそ目立つ。小学生ぐらいの女の子とハタチそこそこの男がふたりでファミレスに居て、しかも兄妹という風でもなければ、それは目立つ。

 犬神歌守輝は、無理に余裕を浮かべようとして、ゆとりのある緊張を声に込めて喋る。

 「…少なくともこの場には居ない。フリーターをしている戦士は居るが、今は中東に居るはずだ」

 「じゃあ、まずは落ち着きましょう。今、あたしたちはレプリのG3―MILDと出会うだけで、ゴハンも食べずに走り出さなきゃいけないんだから」

 G3―MILDは、警視庁の開発した強化スーツ系の一種ではるが、量産性と簡易化を進めた結果として、戦力としては満足できる代物ではなかった。

 もちろん、犬神歌守輝がオルフェノクとして戦えば勝機はあるだろうが、後続のレプリ・ディケイドが来る前に撃破しうる攻撃力…俗に云う“必殺技”をオルフェノクとしては持っておらず、出会えば他のレプリを呼ばれる前に逃げなければならなくなる。

 「…確かに、な」

 「ミックスフライグリルのお客様あー?」

 「あ、こっちです。和風バーグがそっちね」

 眠いのかやる気がないのか、店員の気だるそうな声に真理奈はハキハキと応えて受け取り、すばやく口に運ぶ。

 食っただけでなんでもできるわけではないが、食べなければ何もできない。

 「…飲み物を取ってくる、お前は?」

 「炭酸入ってなければ良いから。お任せ」

 眼が覚めるようなブラックコーヒーをふたつ持ってきてからは、ふたりは早食い競争状態でエネルギーを充填していく。

 「…で、これからどうする?」

 三回目の“これからどうする”だったが、良い意味で落ち着いている。

 さっきまでの滾るような意欲を体内にとどめ、和風バーグのカロリーと一緒に全身を支えるガソリンとして活用できている。

 「とりあえず、情報共有ね。まずカズキくん、あたしに訊きたいことか、云いたいこと、ある?」

 「ん…そうだな…俺たちはレプリ・ディケイド。それぞれ適合したライダーカードを使って変身している」

 「適合?」

 「誰でもどのカードでも使えるというものじゃないらしい。俺はファイズ、さっきの三人はスーパー1・オーズ・BLACK…に適合したレプリジンだ。基準は分かってないがどのカードも百人に一人ぐらい適合する」

 「じゃあ、何人かに変身できる人とか、逆にどのカードにも適合しない人、ってのも居るの?」

 「ああ。二枚適合するヤツは結構ゴロゴロしてるし、三枚くらい使えるヤツも居る。そういうヤツは調整したドライバー三つ持ち歩いて使い分ける。全部で九十六名、半数が国内、半数が国外で怪人を倒している」

 「それってさっきの…ワームのV3も含むわけ?」

 「いいや。レプリディケイドのリーダーはレプリオーズたち、そう聞いていた…」

 犬神歌守輝は残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

 命懸けで人類を守り戦っていた集団の頭領が自分と同じ人外、しかも伝説の仮面ライダーに擬態していた…その感情は筆舌にしがたい。

 「じゃあ、給料とかは? まさか全員手弁当で戦ってるってわけにはいかないでしょ?」

 「少なくとも俺のチームは充分な収入を貰っていたな。目的と一緒に金額を申請すれば二日と経たずに現金が支給された」

 そこで犬神歌守輝が思い出した金額は、経済先進国で生きる風祭真理奈から見ても、命懸けで戦う報酬として納得できる水準にあった。

 「…それ、誰が出してるの?」

 「実際のところはわからないが、ゼクトの残した隠し予算を使っているという話はあった。V3がレプリの指導者であり、ワームだったとするならば…繋がりは見える」

 ((ZECT|ゼクト))は、仮面ライダーと呼ばれる戦力を要する組織の中では珍しく、その存在を((公|おおやけ))にしている。

 オフレコではあるが、ZECTはワームの一種族、ネイティブを組織の中心に据えていた節があり、犬神歌守輝が云っているのはそれを示唆し、もちろん風祭真理奈もそれをわかっている。

 「ってことは、おカネのために戦ってる人もいるのね。厄介だわ」

 俗な理由ではあるが、だからこそ直接的な動機にもなる。

 このふたりにそれを懐柔できるほどの資金があれば取り込むこともできるのだろうが、もちろんそんなものはない。

 「俺の手持ちの情報といえば、そんなところだ。お前は? 云いたいことや聞きたいことは?」

 「そうねぇ…じゃあ、今年って何年?」

 「…? 二〇一〇年だろ? 何を訊いているんだ?」

 「…ちょっとね、調べる前にあんたたちに追われてたから…で、じゃあ、次ね、コレ、どう思う?」

 どこからともなく…本当にどこからともなく、だ。

 そんな物は移動中にも食事中も犬神歌守輝の目に入っていなかった。にも関わらず、それはここにある。

 ――どこから出した?――と犬神歌守輝が訊けば、風祭真理奈は答えただろうが、それよりも尋ねなければならない質問がその物体にあった。

 銀色のアタッシュケース、表面には((SMART|スマート)) ((BRAIN|ブレイン))のロゴが刻印されている。

 「これは…まさかッ?」

 犬神歌守輝はアタッシュケースを引き寄せ、落ち着かない手つきで開けた。

 中には予想通り、銀色のバックルのない大きなベルト、プリペイド式の青い携帯電話とプリペイドカードとハンドサイズの望遠鏡、デジタルカメラと対になるように三脚が入っている。

 それらの側面には((Σ|シグマ))のマーキングが施されている。

 「大地のオーガ、天空のサイガに続く…三本目の帝王のベルト、シズマギア…実在していたのか…」

 「…なんだ、あたしより詳しいじゃない。カズキくん」

 「噂だと思っていた。“地”や“天”も実在不明だというのに、それよりも資料が少なく、形状や能力、設計思想さえも不明…どこでこれを?」

 「拾い物…かな。あたしが持ってても使えないし、あげるわ。それが有れば、あなたも仮面ライダーシズマ、なんでしょ?」

 そうだな、と犬神歌守輝は力強く頷いたが、風祭真理奈はそこに妙な違和感を感じ取った。

 彼女は何も知らずにベルトを渡したのだ。

 SB社の作ったベルトはオルフェノクだけが使いこなすことができる兵器、それは正しい。

 だが、帝王のベルトと呼ばれるベルトは別。SB社の社長の椅子に座ったことのあるオルフェノクの言葉を借りれば、それはオルフェノクノ中でも“上の上”と云うべき存在以外が装着する事の許されないベルト。

 地の帝王のベルト:オーガドライバーは、そのあまりの出力ゆえに並のオルフェノクでは装着すれば装着者が即死するほどのパワーが有るとされていた。

 ならば、このシズマドライバーはどうだ? 犬神歌守輝は考える。

 望遠鏡やデジカメ型の武器が付いていることから、出力を調整できる程度のパワーであると推測はできる。

 九分九厘、最強たるオーガドライバーほどのパワーはないだろう。しかし、これが残りの一厘でないと断言はできないし、もしかしたら未完成品で起動もしないかもしれない。

 「…ありがとう。貰っておく」

 犬神歌守輝は自分の命をも奪いかねないベルトの入ったケースを閉じた。

 何も知らない少女から、全てを知っている男が受け取った。

 命を捨てる覚悟はもうできている。静かな決意を連れの少女に気取られぬように彼はコーヒーを取りに行った。

 

 

To Be Continued

http://www.tinami.com/view/400135

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オマケ

 

 コヨーテ・オルフェノク

 身長:195cm

 体重:120kg

 ジャンプ力:ひと跳び 38m

 走力:100mを3,1秒

 能力:自由自在に伸びる左手の爪が武器。任意の長さで切断することで、棒手裏剣や杖のようにも使える。

 備考:

 犬神歌守輝がオルフェノクとなった姿。

 跳躍による攪乱からの爪による遠・中距離攻撃を能力上、得意技にしている。

 しかし、直情の正義漢である犬神は正面対決を好むため、その特性をあまり生かしきれず、訓練の結果得た棒術による中・近距離戦で戦闘を行う。

 

 

 シズマギア(Σ)

 種別:SB社性ライダーツール

 変身コード:『4・2・0』(シ・ズ・マ)。

 内容:

 シズマドライバー(ブランクベルト)

 シズマフォン(プリペイド式携帯電話)

 シズマイル(プリペイドカード)

 シズマショット(デジタルカメラ)

 シズマポインター(小型望遠鏡)

 カイザライドル(ショット・ポインター対応の三脚)

 概要:

 SB社が開発した天・地のベルトに続く第三の帝王のベルト。

 他の帝王のベルトは高パワー故に出力調整ができずにショット・ポインターを使用できなかった。

 (ファイズギアは低パワー故にエネルギーの調整可能だからこそ周辺機器を扱えた)

 対応する周辺機器の量・種類から、内在するパワーは他の帝王のベルトよりも格段に低く、カイザギア以下と推測される。

 

 

 マシン・ガッツガスト(根性性超突風)

 全長:2120mm

 最高時速:720キロ

 最高出力:1600馬力

 重量:285K

 真っ白のフルカウル・モンスターバイク。サカビトのベルトと同じくカードリーダーやメモリ差込口が付いている。

 恐らく、指輪の読み取り装置や錠前の取り付け口、ミニカーホルダーも付いていると思われる。

 ベースとなったのは代々木の大型バイクであり、何者かに改造され、何者かに遠隔操作されていた。

 

 

 

リメイクついでの元ネタ解説。

 

 

ミルク姫>

なんか18禁フレーバーのする名前ですが、ブレイドの虎太郎の愛飲するブランドです。

 

SOLU>

意志を持つ宇宙金属です。フォーゼ劇場版参照。

 

金剛地>

アギトを見ているとちょくちょく出て来ていた謎の名前。

 

地球を守る国際組織の長官とか、友の仇を討つためにズバっと参上していても〜〜>

V3の声と言えば宮内さん、宮内さんの他キャラですね。

他にも元祖青い人、白い鳥人、ナニィが口癖の警察などにも似ていると思います。

 

垂れ目のクセにスライムになったり、顔が変わっても垂れ目でしかも銃振り回したり〜〜>

全面的にマリナさんの私見です。RXへの評価。

この変形が有るから、『仮面ライダーは泣き目がイイ』みたいな評価基準が有ったりするんだと思う。

 

多分、背中にハサミがついたジャガーとか、腕にバズーカが付いたカメとかなんかなんだろうな。>

逆! 代々木くん! 予想が逆!

 

 

 

説明
 全仮面ライダー映像作品を同じ世界観として扱い、
 サカビトを中心に各々の謎を独自に解釈していく。


 サカビト=代々木悠貴は改造人間であるが、仮面ライダーではない。
 仮面ライダーを倒すために悪の科学者によって拉致・改造され、子供を庇った仮面ライダーを殺害してしまった一般人だ。
 人々から英雄を奪った罪を贖い、子供たちの笑顔を守るため、サカビトは今日も戦うのだ。
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