仮面ライダーディージェント
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亜由美は楓の名刺に書かれていた場所まで辿り着くと、その目の前にある建造物を見た。

 

(何か、どっかの酒場みたいな場所なんだけど、ここでいいんだよね…?)

 

亜由美の目の前にあったのは、何処かの西部劇に出て来そうな面持ちの木材のみで建てられた年季の入った建物だった。

一応看板に「西方探偵事務所」と書いてあるわけだし、ここで合っている筈だ。

 

とりあえずノックをしてから中に入ってみると、内装は意外と普通の事務所の待合室で、ソファやコーヒーセット、灰皿と言った来客用に置いてある物もあれば、果てはクマのぬいぐるみなんかもある。何でぬいぐるみ?

 

「楓さんの…じゃないよね?加奈もそんな趣味なかったし」

 

楓の趣味ではない事を祈りつつ、何となくそのぬいぐるみを取ってみると、首に着けたリボンに一枚の紙が張り付けられており、そこには子供の字で「ありがとう、たんていさん」と書かれていた。どうやら子供からのお礼の品のようだ。

こう言うのを見ると、何処か微笑ましい物もある。

 

「やっぱり頼りにされてるんだなぁ〜……。ん?でも私って、歩に頼りにされてるのかな?」

 

以前歩の潜在意識の中に入った時に門矢士に「お前は必要だ」とは言われたが、何がどう必要なのかがイマイチ分からない。

それに今だって、歩の戦いの邪魔にならない様に、こうして安全な所に来ることくらいしかできていない。

正直これで良いのだろうかと思ってしまう。

確かに自分には空間移動以外にはまったく取り柄がないし、戦闘なんて天地がひっくり返ろうと絶対に無理な話だ。

 

(何で一緒に居るんだろうな、私……)

 

歩と初めて会った頃、彼は亜由美の事を“保険”と言っていた。今は流石にそうではないと何となく分かるが、それでも足を引っ張ってる感があるのがまた辛い。

 

自分にできる事とは一体何なのだろうか?などとそんな事を悶々と考えている内に、外の景色は夕日に包まれつつあった。どうやら相当考え込んでいたらしい。

 

そして今自分はソファに座ってのんびりとしているわけだが、そんな自分がどこか気に喰わない。

きっと彼等は今でも戦っていると言うのに……。

 

「ハァ…私にできる事って、あるのかなぁ?」

 

―――コンコンコンッ―――

 

亜由美が嘆息をついていると、不意に事務所の玄関からノックの音が聞こえてきた。

誰かが依頼をしに来たのだろうか?しかし今はここの事務員である楓やその相棒である駆と言う人物は留守にしている。

とりあえず用件だけ聞いて今日の所は帰ってもらい、また後日来てもらおうかと考えを巡らせると、その事務所のドアを開いて目の前に立っていた紳士然とした男を見た。

 

その男は黒いタキシードを身に付けた二枚目顔の優男で、常にビジネススマイルを振りまいている印象を与えている。

その男はスマイルにワンランク爽やかさを際立たせると、紳士的な口調で話し掛けてきた。

 

「初めまして。貴女が亜由美と言うお嬢さんでよろしいですか?」

「え?あ、ハイ、そうですけど……」

 

突然見も知らぬ男に名前を当てられて驚くも、正直に肯定した。

すると目の前の男はその笑顔に何か別の感情を混ぜ込んだ笑顔になり、唇を軽く舐めて湿らせてから自己紹介を始めた。

 

「私の名は井上運河と申します。貴女をパーティ会場へご招待する為に来ました。私の住む世界と言う名の、ね……」

「ッ!!」

 

そこまで言い切った所でこの男の異常性にようやく気付いた。

“私の住む世界”…それはつまりこの男がこの世界の人間ではない事を示している。

そして彼の笑顔に混ざった感情とは…狂気その物だ。

 

すぐに踵を返して逃げようとするが、即座に腕をガッシリと掴まれて逃げる事が出来ない境地に立たされてしまった。

 

「は、放してっ!」

「ご安心を、私は女性に手荒な真似は致しません。貴女はただ私と付いて来ればいいのですよ。貴女さえいれば、私も彼にもう一度挑戦できるわけですしね。アッハッハッハッハッハ」

 

亜由美の悲鳴に近い叫びも無視し、運河は次元断裂を展開させるとその中へ亜由美をも巻き込んでこの世界から完全に消えた。

 

 

 

 

 

銀色の装甲を纏った仮面ライダーメタルは、メタルシャフトを本場中国の武術家も顔負けな棒術で巧みに操りながら、ディボルグの振るうディボルグブッカー・スピアモードを弾きながら次々に打撃を叩き込んでいた。

 

「らあぁぁぁぁぁ!!」

「………」

 

対するディボルグもメタル同様に相手に攻撃を加えて行くが、克也の時とは違ってどこか覚束無い動作だ。やはり機械による自動操縦の為か、そこまで機敏な動きは出来ないようだ。

 

しかし、それもある意味では長所にもなり得る。機械による操縦と言う事は、いくらダメージが入ろうが決して怯まないと言う事だ。

 

「だぁ〜クソッ!弱る気配が全くねぇ!」

 

[『スラッシュ』ノ効果、喪失シマシタ。スベテノカードノ使用完了ヲ確認。ライドカードシステム、リロードシマス]

 

再びディボルグドライバーから電子音声が流れ、リロードが宣言されると、ディボルグは槍を大きく振るってメタルを後退させ、ディボルグブッカーからカードを一枚引き抜いてバックルに装填した。

 

ディボルグは一度バーサーカーシステムが作動すると、滞在世界が破壊されるまで変身が解除されないようにプログラムされている。

そのためライドカードを全部使ってしまえば、もう一度使用出来るようにバーサーカーシステムがライドカードシステムを復元して来るのだ。

 

[アタックライド…ディメンション!]

 

「ッ!下がってください!!」

「言われなくとも!」

 

メタルは一度あのカードの効果で何が起こるのか見ていた為に、麗奈の警告よりも一足先にバックステップで距離を取ると、その瞬間に先程までメタルがいた場所から槍が何本も突き出してくる。

しかしそれだけに止まらず、まるで波の奔流の如く槍が地面から突き出しながらこちらへと迫って来た。

 

「うおっ!?こっち来やがった!!」

 

その迫力に驚くも何とかサイドステップでかわすと、槍の奔流はそのまま一直線に駆け抜けていき、風都タワーの巨大風車の土台部分に激しい衝撃音と共に直撃する形でようやく収まるが、その衝撃で風車が大きく揺らぎながら「ギギギギ」と言う嫌な音を立て始めた。

 

「拙いわね…このままだとそう時間が経たない内に崩れるわよ」

「ったく克也の野郎…死んでも面倒掛けさせやがって……」

「いえ、克也さんはまだ消えてはいない筈です」

「何…?」

 

楓が巨大風車を見上げながらぼやくのを余所にメタルが愚痴を零していると、麗奈から思わぬ一言が飛び出した。

 

「確かにバーサーカーシステムは装着者の人格を消しはしますが、完全に消すには時間が掛かる筈です。今はどうかは分かりませんけど、上手く行けばきっと……」

「克也は助かるってわけか…こりゃあ更に気合入れてかないとな!」

 

[メタル!マキシマムドライブ!]

 

麗奈の助言を聞いたメタルは、元から入っていたやる気を更に二割増しさせながらメタルメモリをメタルシャフトに設けられたマキシマムスロットへ装填させると、メタルシャフトの両端が銀色のエネルギーを纏い始める。

 

「ライダーストライク!」

[アタックライド…スラッシュ!]

 

技名を掛け声代わりに叫びながら、「ディメンション」のモーションから立て直している最中のディボルグへと迫るが、当然ディボルグもその接近に反応し、敵を迎え撃たんとする為に即座に「スラッシュ」のカードを発動させてディボルグブッカーを構える。

 

「………」

「ふっ!おらあぁぁぁ!!」

 

しかしメタルはディボルグの高速の突きを左肩を掠めるほどのギリギリの距離で避けると、渾身の力でメタルシャフトをその胸部へと思いっきり叩き付けた。

それと同時に先端に纏わりついた銀色のエネルギーが、ディボルグのボディに流し込まれてダメージを増大させる。

 

「もう一丁ぉぉぉ!!」

 

更に追撃としてもう片方の先端にも纏わりついた銀色のエネルギーも、身体を捻って強引に叩き付ける。

マキシマムドライブが完全には行った所で一旦後退して相手の様子を窺うと、ディボルグのバックルからあの無機質な女性の電子音声が流れてきた。

 

[ディボルグノ損傷率、50%ヲ突破。危険レベルツーニ達シマシタ。ライドカードシステムノ併用ヲ許可シマス]

 

「うしっ!ようやく半分か!」

「でも気を付けて下さい!ここから先はカードを組み合わせて使ってきます!」

「合点承知!」

 

ガッツポーズを取るメタルに麗奈が警告を放つと、彼は正面を向いたまま背後に居る麗奈達に軽く右手を上げて返事を返し、すぐに目の前の相手に集中し始めた。

彼の戦いは、これからだ……。

 

 

 

 

 

「それにしても、見てるだけって言うのも何か癪なのよねぇ」

 

ふと横に居る楓がそう小さく呟いた。

それはまぁ確かに、今まで一緒に戦ってきただけに見ているのは歯痒いだろうし、自分だってそうだ。

 

「私さ、アイツと初めて会った時には、まったく戦わせてもらわなかったのよねぇ。今の気分は、そんな感じ……」

 

これは自分に言っているのか、それともただ誰にでも無く独白しているのかよく分からないが、聞いておいた方が良さそうな雰囲気だ。

それほどまでに、彼女はどこか寂しそうな雰囲気だった。

 

「その戦わせなかった理由ってのがさ、“恩人の娘さんを傷付けるわけにはいかない”って言うしょうもない理由だったのよ。まぁその頃は私もまだ高校を卒業したばかりの頃だったから、まだまだ子供だったんでしょうけどね」

 

彼女はそこまで言って言葉を区切ると、こちらを哀傷漂う表情で向いて更に続ける。

 

「今のアイツを見てると、その頃に戻っちゃったような気がする……。私だって、本当はアイツと一緒に戦いたいのに、ね……」

「………」

 

疎外感…そんな言葉が麗奈の脳裏を過ぎった。

彼女だって彼の役に立ちたいのに、今はこうして見ている事しかできない。

それが彼女にとって何よりも歯痒く、辛いもの…そう麗奈は感じた。

 

「貴女も、仮面ライダーなんですよね?だったら何故変身できないんですか?」

「アイツに私のドライバーを貸しちゃってるのよ。アイツのは壊されちゃったからしょうがない事なんだけど……」

 

戦うと言う単語から、恐らく彼女も仮面ライダーだと確信してそんな質問を問うと、仕方なさそうに息を吐きながらそう返した。

 

今の彼女にどんな言葉を掛けてやればいいのだろうか?

「心配しなくても大丈夫」?それとも「貴女だって彼の助けになってる」?

どれも上辺だけの言葉で、まったくの無関係の人間である自分が言っても何の説得力もない物ばかりだ。

そんな言葉を投げかけ、彼女を安心させられるのは、楓の相棒ただ一人だ。

そしてそんな相棒もまた、ピンチに陥ろうとしていた。

 

[アタックライド…ブラスト!]

[アタックライド…ラッシュ!]

 

ディボルグが二枚同時にカードをバックルに装填させ、ディボルグブッカーに備えられたトリックスターを掌で叩いてカードの効果を読み込ませると、メタルに向かって突きを連続して放ち、その矛先からエネルギー弾を機関銃の如く乱射してきた。

 

「ぬおっ!?マズ……ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

彼女の相棒は鈍重なメタルの状態では流石に避ける事が出来なかったようで、ディボルグの放つ弾幕に晒されて装甲から火花を散らしながら吹き飛ばされてしまった。

 

いや、正確には避けるわけにはいかなかったのだ。

メタルの後ろには変身が出来ない自分達二人がいる。ここで彼が避ければ攻撃がこちらに迫ってきてしまう為に、自分が喰らうしかなかったのだ。

 

「駆さん!」

「とりあえず攻撃の当たらない所まで行くわよ!」

 

――――ギギギギギギ……!!――――

 

楓は叫ぶ麗奈に、相棒の邪魔にならない場所まで移動する為に呼びかけるが、それは起こった。

 

ふと頭上から金属を無理矢理捻じ曲げたかのような不快感を煽る騒音が聞こえて来たのだ。

麗奈と楓は上を見上げると、予想通りと言うべきか巨大風車を支える土台が手痛いダメージを受けた事からバランスが崩れ、風車がこちらへ向かって倒れて来ていた。

 

どうやらディボルグの放った流れ弾のいくつかが風車に当たってしまったようで、その耐久力が遂に限界に達してしまったようだ。

 

「早く逃げるわよ!!」

「は、はい!」

 

逸早く現状を理解した楓が麗奈の手を引いて急いで被害のない位置まで移動しようとするが、倒れるスピードの方が早くて間に合うかどうか怪しい。

 

「ッ!マズイ、楓!!」

 

メタルも風車が倒れて来ている事に気付いて相棒の名を叫びながら、急いでそちらへ駆け出そうとしたが、今ディボルグに背を向ければ間違いなくやられる。

どうする?二人を庇おうとすればディボルグにやられて下手すればどちらも助からない。

しかしディボルグに集中していては二人は間違いなく助けに行けられず、運に任せるしかない。

 

(チッ!どうすれば……!)

「目の前に集中してください」

 

突如そんな感情の籠っていない声が聞こえてきたかと思うと、楓と麗奈に藍色の何かが覆い被さり、崩れた風車の瓦礫から二人を庇った。

 

 

 

 

 

一瞬何が起きたのか分からなかった。

いきなり何かが麗奈と楓の目の前に現れたかと思うと、風車の瓦礫から庇うかの様に両腕を広げて二人を抱き寄せると、幾つかの鉄材に直撃しながらも二人に傷を負わせまいと身動き一つしなかった。

 

やがて全ての鉄材が落ちてその目の前にいる者を漸く把握した。

ディボルグに酷似しているものの、ライドプレートの刺さり方が全く異なる未知の仮面ライダー…ディージェントだった。

 

「あ、歩…さん……?」

「………」

 

麗奈がこの仮面ライダーの本名である名を呼び掛けるが、何も喋ろうとしない。

どうしたのだろうともう一度呼びかけようとすると、その仮面ライダーは二人に凭れかかる様に倒れながら変身が強制解除され、白いスーツの青年に戻った。

 

「歩さん!?」

「ちょ、何で庇ったのよ!?アンタだったらもっと別の方法があるでしょ!?」

 

二人がかりで楽な姿勢にさせながら麗奈が驚愕に満ちた声で呼び掛け、楓が若干怒鳴り付けるかのように疑問をぶつけた。

確かに彼の能力であれば、この様な状況でも何らかのもっと安全な対処ができた筈だ。

すると歩は声を絞り出すかのように理由を何時もの淡々とした口調で答えた。

 

「身体への負担が激しくて、カードを使う気力もないんです……。それよりも、これを……」

 

麗奈と楓が声を掛けると、歩は懐から何かを取り出した。

それはこの世界のライダーが使う変身する為に使うドライバーだ。

 

「アンタまさか、これを届ける為に態々…!?」

「今の僕では戦う事ができませんし、これくらいしかできませんから……」

 

楓がドライバーを受け取りながら歩の目をまじまじと見ながらもう一度話しかけると、またも抑揚のない声が返って来た。

いくらライダーに変身していたからとはいえ、あの瓦礫を全て受けるなんて正直ふざけてる。

しかし彼は至って真面目で、こうして当たり前かの様な雰囲気だ。

それを楓も理解したのか一瞬呆れたように溜息を着いてから彼の額に右手を近づけると……

 

「ていっ」

「イタッ」

 

自分にやったのと同じデコピンをかました。

麗奈も一度喰らっているのでその痛さが半端ない事は知っているのだが、デコピンを喰らった当の本人は軽く針でも刺さったかのように極小さな反応を返すだけだ。

痛みに鈍感なのか、それともこれで本気で痛がっているのか分からないが、楓はそんな歩の様子を無視して言い放った。

 

「気持ちは嬉しいけどねぇ、そんな捨て身で助けられてもこっちは後味が悪いだけなの。もっと自分も大切にしなさいよアンタ」

「……分かりました」

 

歩が一拍置いてそう短く答えると、楓は「素直でよろしい」等と言いながら立ち上がり、目の前の戦闘を見据えた。

 

彼女の相棒は今もディボルグにメタルシャフトを使って接近戦で肉迫している。ここで楓が起こす行動と言えば一つだろう。

 

「さて、ここからは私も混ざるわよ…いいわね所長?」

 

[サイクロン!]

 

「ああ、よろしく頼むぜ?相棒」

 

楓はメタルにそう言い放ちながらドライバーを腰にセットしてサイクロンメモリを取り出すと、メタルはディボルグの槍による薙ぎ払いをかわしながら一瞬だけこちらを一見してそれだけ返すと、今度は歩に向けて言っているであろう言葉を繰り出した。

 

「そこの倒れてる奴もご苦労だったな。後は俺達年配者に任せと…けっとぉ!!」

「そい言う事。後は休んでなさい。変身!」

 

[サイクロン!]

 

言い切る前にディボルグが突きを放つがそれをメタルシャフトで流し、再びディボルグと鬩ぎ合い、楓もその戦闘の渦中へ飛び込む為にサイクロンへと変身を果たす。

 

歩はその様子を見て、一つの可能性に懸けてみる事にした。

この世界のライダーが、次元を超えるほどの力を持ったDシリーズに勝利する事を……。

説明
第44話:Aの悩み/今の自分にできる事
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