仮面ライダーディージェント |
駆が一通り泣いた後、ヴァンを救急車で病院に連れて行く事になった。
距離が大分離れている上に、歩の体力も限界で重力を皆無にして連れて行く事もままならなかった為だ。
まあ歩はその事を誰にも言っていないので、その事実を知っているのは歩本人だけな訳だが……。
やがてヴァンの治療が一通り終わり、ベッドに寝かされてからしばらくすると、駆が急用を思い出したと言い出して病室から出て行った。
それに続く様に楓も出ようとするが、彼女はある事を思い出して麗奈の前に出て今回の事件の一因となる物を取り出した。
麗奈の持っていたDシリーズ・ディボルグドライバーだ。
「これ、貴女のなんでしょ?」
「あ、はい。そうらしい…です」
「らしい?あぁ、そういえば記憶喪失なんだっけ?」
麗奈は曖昧に答えながらディボルグドライバーを受け取り、楓は彼女が記憶喪失だったのを今思い出したのかそう聞き返した。
「はい。一応これの事については思い出したんですけどそれ以外の事は……」
「ふ〜ん、っていうかそれ、ホントに扱えるの?克也の時みたいに暴走とかしない?」
「その事なんですけど…歩さん」
楓に危惧する点はそこだ。
あの時のディボルグは何もかもを破壊する為だけに動くただの兵器だった。とても目の前の大人しそうな女性が上手く使いこなすとは思えない。
そんな意味合いを込めた疑問を尋ねると彼女は、後ろの立っている歩に声を掛けながら振り返り近寄ると、ディボルグドライバーを彼の前に差し出した。
「なんだい?」
「それが、ディボルグに備え付けられてるバーサーカーシステムの事なんですけど、これは元から付いていた機能ではなくて、私の所属していた機関が無理矢理備え付けた物なんです。何とか解除できますか?」
「………」
それを聞いた歩は、黙ったままディボルグドライバーに軽く触れた。
すると歩の頭の中にディボルグドライバーのより詳細な情報が送り込まれて来た。
その中の情報によれば、これは確かに成長記録機能による性能の追加ではなく、それを疑似的に再現しているだけだ。
例えるならガラス玉にペンキで色を塗った様な物とでも言えるだろう。
(サイガギアの時の様な完璧な補正じゃない…これなら僕でも修正できる)
歩は早速作業に取り掛かる為にまずはディージェントドライバーをクラインの壺から取り出す。
続いてディージェントドライバーを装着すると、今の状況…つまりディボルグドライバーのバーサーカーシステムの除外に応じたカードを、自身のドライバーを介して作成させる。
するとディージェントドライバーの成長記録機能が新たにカードを作成し、それを早速クラインの壺から取り出す。
そのカードには何の絵柄も描かれておらず、ただその下に「パージ」とだけ書かれている。
[ツールライド…パージ!]
歩は何の躊躇いもなくそのカードをディボルグドライバーに装填させると、ドライバーがカードを認証し、その効果を発揮した。
ただし、発揮したと言っても見た目は何も変わっておらず、ただドライバーに備え付けられれていた不純物であるバーサーカーシステムを取り除いただけだ。
だがこれで少なくとも、もう暴走する事はないし、装着者の限界を超えれば自動的に変身が解除されると言う、ディボルグドライバー本来の機能が発動するだろう。
「これで大丈夫だよ。バーサーカーシステムは除外した」
「え?これだけ、ですか……?」
そう言いながら麗奈にディボルグドライバーを返すと、自分もディージェントドライバーを取り外し、クラインの壺に収納したが、麗奈は若干半信半疑と言った感じだ。
「本来Dシリーズはトリックスターのエネルギーを介してのみ、独自に性能を発揮する。麗奈さんの機関が加えたのは、あくまで外部からの装置の取り付け。
だから今使ったカードでディボルグドライバーに無理矢理付けられた機能だけを取り除いたんだよ」
そう説明すると麗奈も思い当たる節があるのか、妙に納得していた。
しかし、この話を後ろから聞いていた楓は何の事だか分かってなさそうであったが、まぁアレが普通の反応だろう。
「まぁこれで一つ問題は解決したわね……。それで、この後一体どうするの?やっぱり自分のいた世界に帰っちゃうの?」
「いえ、その事なんですけど…一体どうやって世界を渡ったのか分からないままなので、ヴァンさんの付き添いをしてからその後に一緒に付いて行こうかと思ってるんです。歩さんはどうするんですか?」
「ヴァン君が目を覚ましたらすぐにでもこの世界を出るつもりだよ。早く亜由美を迎えに行ってあげないと……」
「向こうの世界?亜由美ちゃんもう先に行っちゃったの?」
歩が麗奈の問い掛けにすぐにでも次の世界に行く事を答えると、後半辺りで何やら亜由美が既に別の世界に行ってしまってる事を呟いたので、楓は何気なく詳しく訊ねてみた。
「例のワームに連れ去られました。まだ殺されてはいませんが早く行くに越した事はないです」
「ってそれ危ないじゃん!」
思っていたよりも緊迫した状況であるにも関わらず、目の前の無感情男はそれほど危機感を持っていなさそうな口調で淡々と述べて来た。何故そうも冷静でいられる……。
「これでも十分焦ってるつもりです。少なくとも、ワームと一緒に居てもまだ大丈夫と言う事は、逆に言えば行かない限り状況は変わらないと言う事です。それから、病室では静かにしてください」
「これが落ち着いていられるか!?アンタはもう少し危機感を表に出しなさい!!」
冷静に現状を把握する歩に、人差し指を口元に当てて静かにするようジェスチャーで注意されるが、それが何故だか微妙に腹が立つ。
だが確かに、彼がここまで言うのなら、大丈夫なのは間違いないだろう。
寧ろ別の世界の住人達に、こちらの常識が通じない事くらい彼等の戦いを見れば明らかだ。
巨体の攻撃を軽々と受け止めたり、目に見えぬほどの速さで戦ったり、果ては地面から槍を生やしたりなど様々だ。
そんな事が可能なガイアメモリもひょっとしたらあるのかもしれないが、彼等は特別な存在だ。きっと彼がこの先渡り歩く世界でも、どんな常識も通じない。
そう考えると、自分だけが慌ててる事が急に馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「まぁ良いわ。何だかアンタ達なら、どんな事があっても絶対に大丈夫みたいだし。そんなアンタ達に私から一つ助言をしとくわ」
楓は苦笑を滲ませると指を前に一本立て、歩と麗奈に先輩仮面ライダーとしてのアドバイスを送った。
「これから先、アンタ達にはいろんな出会いや別れが待ってる。その中には嬉しい事も悲しい事もあるけど、絶対に挫けないで。
私達仮面ライダーは、何かを守る為だけに戦う正義のヒーローなんだから」
正義のヒーロー…それは誰もが一度は憧れる言葉であり、それと同時に重い言葉でもあった。
ヒーローは自分の利益の為だけに戦ってはいけない。そうなってしまえば、自分の都合の良いだけの正義を名乗るだけの個人的正義でしかないからだ。
あくまで他者の為だけに戦い、どんなに傷付こうが戦い続ける。それほどまでの重責を負わなければならないのだ。これらを理解できる人間は意外と少ない。
しかし、この二人なら大丈夫だろう。これは楓の勘でしかないが、この二人は優しい。ならばその正義の道を行き違える事はまずないだろう。仮面ライダーとしての生き方を……。
「ま、私から言える事はこれだけね。次に行った世界でも頑張って来なさい。私や駆は、何時でもアンタ達の味方よ」
「それじゃ」と言って楓は駆の後を追う為に病室から出て行った。
するとすぐに、ベットで寝ていたヴァンが「うぅ〜ん」と唸りながら目を覚ましたのに気付いて麗奈はヴァンの傍に近づいた。
ヴァンが目を覚ますと、目の前に真っ白な天井が映し出された。
ここはどこだろうと思い、倦怠感に苛まされる身体を無理に捻って何とか右に首を動かすと、またも白いベッドや壁、引き戸と言った白一色の部屋である事が分かった。
更に、鼻に付く薬品独特の臭いがした事から、ここはどうやら病院の様だ。
「よかった、気が付いたんですね!?」
ふと左側から聞き覚えのあるあの美人の声が聞こえ、ヴァンはまたもゆったりとした所作で首を動かしてその人物の顔と、その後ろに立っている歩を捉えた。
彼女の表情は安心しきった時の表情そのもので、どうやらかなり心配を掛けていたようだ。
「あぁ〜…俺、どれくらい寝てたんだぁ?」
「6時頃にここまで運んで、今12時だからかれこれ6時間経ってるよ」
決して眠くないにも関わらず、何時ものように語尾を間延びさせながら訊ねると、麗奈の後ろにいた歩が何時もの淡々とした口調で簡潔に答えた。
「6時間か〜…俺としちゃあ短い方な筈なんだけど、今は全然眠くねぇな〜」
そう言って勢い付けて上半身を上げるが、その途端に背中に激痛が走る。まだ傷が塞がっていないのだから当然と言えば当然か……。
「イテテ!あぁ〜やっぱまだ動くには無理そうだな」
「医者の話だと、動けるようになるのに三日は掛かるそうだよ」
「マジかよぉ〜」
歩から伝えられた謹慎期間を聞いてウンザリした。三日もこの状態でジッとしてろと言われれば、退屈でしょうがい。
以前の自分ならそんな事はなかっただろうが、“声”が聞こえなくなった今は違う。もうあの過去とは決別したつもりだ。
例えまた“声”が聞こえて来たとしても、自分はもう逃げない。何度だって足掻いてやる。
そして、どんな境地に立っても必ず生き抜く。
「それから、亜由美の連れ去られた世界に今すぐにでも行くつもりだから、君とはここまでだね」
「……あぁそうかい。アンタ、結構世話掛かる性格してっから、もう少し一緒にいてみたかったんだけどなぁ〜」
歩がこの世界からすぐに出て行く事を伝えると、ヴァンは何時もの間延びした口調ではあるものの、少し寂しそうな声でそう返した。
まぁ自分にはどちらかと言うと一人旅の方が合ってるし、歩の言っていた計画の邪魔をする気は毛頭ない。ならば付いて行かない方が正解だろう。
しかし、彼を一人で行動させるのは些か不安だ。この男には、亜由美と言う少女が必要不可欠だ。
彼女がいなければ、この男は人形から上の存在になる事が出来ない。そう直感で感じた。
「所で、麗奈はどうするつもりなんだぁ〜?」
「私はヴァンさんが治るまでしばらくこの世界にいるつもりなんですが…迷惑でしょうか?」
そんな歩に対して麗奈はどうするのか話題を振ってみると、彼女は自分が完治するまでの間一緒にいてくれる様だが、一緒にいて迷惑でないかと言った気持ちを全面的に出した目で逆に聞いて来た。
「いんや。迷惑じゃねぇけど、どうせだったら代行者に付いてやってくんね?そいつの事、頼んだぜぇ〜」
こんな美人が一緒にいてくれると言うのは一人の男としてとても嬉しい限りなのだが、ここはやはり、歩に付いてい貰った方が良いだろう。
亜由美と言う存在ほどではないにしろ、少なくとも支えに放ってくれる筈だ。
麗奈は一度歩の方を向いてどう言う意味か一瞬推察すると、やがて察しが付いたのか、「はい、任せてください」と言って快く了承してくれた。
「と言うわけだ代行者ぁ。しばらくコイツと一緒にいてやってくれぇ」
「……分かったよ」
「あの、ヴァンさん…歩さん嫌そうなんですが……」
歩は頷きながら静かにそう返したのだが、感情の起伏を読み取り辛い為か面倒事を押し付けられた時のような反応に見えてしまい、麗奈が不安そうにヴァンに話し掛けて来た。
「そんな嫌そうにすんなってぇ。記憶が戻るまでの間で良いからよぉ〜」
「別に嫌とかは思ってないよ。ただ感情表現が苦手なだけだから」
どうやらそれほど嫌ってるわけではないらしい。その事が分かると麗奈は一安心したのかホッと息を撫で降ろした。
しかし歩はその反応に大して気にした様子もなく、ヴァンに近寄って右手を差し出した。その仕草は、龍騎の世界で真司と交わした物と同じ握手だった。
「それじゃあ、君とはここまでだね。また次の世界で会ったらよろしくね」
「あぁ、また会えればなぁ」
思ったよりも人間臭い事を知っている歩に思わず苦笑しながらも、歩の差し出された右手をガシッと掴んだ。まるで昔からの友人とやり合うような握手の仕方に若干温かく感じる。
考えてみれば、ここ二年間こんな事はしていなかったのだ。それだけこの握手は新鮮に感じるのだろう。
やがてどちらともなく手を離すと、歩は病室の扉に近づいて扉を開けた。
その奥には次元断裂の空間が広がっており、何処か禍々しい。まさに異世界への入り口と言った感じだ。
「それじゃあ、またね」
「ヴァンさん、今日一日ありがとうございました」
「おう、じゃあなぁ〜」
そんな最後のあいさつを互いに交わし合い、歩と麗奈は“サイクロンの世界”からその存在を消した。
駆は白い一本の花を持って、高層ビルの屋上から見える風都タワーをじっと見据えていた。
あの克也との最後の戦いの中で、風都のシンボルともいえる巨大な風車は見事に大破してしまった。直るのに一年以上は掛かるだろう。
しばらくその一生記憶に残るであろう風都タワーを見ていたが、やがて駆は徐に手摺りに手を掛け、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「克也…ホトトギスって花を知ってるか?」
そう呟いて駆は手に持った白い花・ホトトギスを風都タワーに差し出す様に向けながら更に続けた。
「花にはすべて何らかの意味があるんだ。そしてその花の花言葉は“永遠”って意味らしい。
“永遠”…この街を今まで守って来た仮面ライダー…エターナルのお前にピッタリの言葉じゃねぇか。
あの時はそんなこと全然気にしてなかったんだが、今回ばかりはちゃんと弔いの花を送ろうと思う。
克也…どうか安らかに、永遠にこの街、風都で眠っててくれ……」
克也への手向けの言葉を言い終えると、駆は手の持ったホトトギスを風都タワーに向かってピッと投げた。
花は風に揺られてあらぬ方向へ飛んでいってしまいそうではあるが、それでもまっすぐに風都タワーへ向かって流されて行く。
「まったく、それって墓参りのつもり?あの風都タワーがアイツの墓石とかちょっと嫌なんだけど」
ふと風に流されて行く花を見ていると、頼りになる今の相棒の声が後ろから聞こえて来た。しかし開口早々、随分と辛口な評価だ。
「別にいいだろ?アイツの亡骸はもう風に流されちまったんだ。だったらこの街自体が奴の墓標みたいなモンだ」
「まぁ、それもそうだけどさ……」
「それから、俺にはもう一つケジメを着けなきゃならない事がある」
「へ…?」
駆は屁理屈染みた言い訳で返すと、楓に向き直りもう一つやっておくべき事をこれから遂行する事にした。
それに対し彼女は、一体何なのかまるでわかっていない様な呆けた声を漏らすが、それでも楓に近寄る。
やがて距離が数センチしか開いていないくらいにまで近づくと、楓の顎に手を添え、自分の顔を近づけた。
「え!?ちょ、ちょっと待って!?こ、こっちにもその、心の準備ってものが…ムゥッ!?」
真っ赤な顔でテンパる楓を無視し、彼女の唇に自分の唇を押し当てた。
押し当てると同時に、楓はまったく微動だにしなくなり、しばらくその状態が続く。
十秒か一分かそれとも三十分か、とにかくどれくらい間そのままだったのか分からないが、やがてお互いの口が距離を開け、両者の顔を見やる。
楓は先程よりも幾分か顔の赤みが薄れてはいるものの、まだ十分に赤い。
対する自分も正直顔が熱い。恐らく自分の今の顔も楓とドッコイドッコイだろう。
「……で、キスした理由は?」
まず初めに楓が口を開いて中々刺のある言葉を吐いて来た。しかし楓とは長い付き合いだ。それが照れ隠しなのは熟知している。
「いやな?お前があそこで“最愛のパートナー”何て言ったから、俺もこれくらいのケジメは着けなきゃなと思ってな」
「だからって、急に何のプロポーズもなしにキスなんてする!?」
「お?何だ?結構シチュエーションとか気にするタイプなのか?」
再び顔を真っ赤に、それも先ほどの比ではない程に赤くさせながら捲し立てる楓に、駆はイタズラっぽく問い掛けると、彼女は「うぐぐ……」と呻りながら顔を伏せてしまった。
少しやり過ぎたかと不安になって来た途端、楓の両手ががっちりと自分の頭の両サイドをホールドしてきた。
それに「うおっ!?」と驚きの声を上げると、彼女はまた口が当たるか当たらないかの距離まで顔を近づけて睨み付けながら言い放った。
「ええそうよ。悪い?」
「いや、そこまで悪くは……」
「ならもう一回、やり直し!」
もう一度となると何だかとても気恥しくなってくる。
しかしそれは楓も同じなようで、未だに顔が真っ赤だ。
もう腹は括った。俺は男だ。
向こうも頑張ってるんだから、こちらもそれ相応の頑張りを見せないとな。
「分かった。じゃあもう一回やり直すぞ……」
そう確認を取ると楓は無言でコクリと頷いた。あちらは既に覚悟は決まってる。なら今度はこちらの番だ。
「楓、俺と結婚してくれ」
「うん、良いわよ」
楓がプロポーズを受け取ると同時に、どちらともなく再び唇を重ねた。
それと同時に風が二人を包み込むように強く吹いた。まるでこの街、風都も二人を祝福するかの如く……。
亜由美が連れ去られた世界である“カブトの世界”……。
この世界の時刻は現在午前四時、もうすぐ夜が明けても良い頃なのだが、雨が強く降り続けている為に、街全体の景色は暗い。
そしてその時間のほんの数瞬の世界とも言えるクロックアップ空間の中に、一つの赤黒い影と、バスターソード型の巨大な機械剣が横たわっていた。
深紅のスーツの上に各部位を守る様に備え付けられた黒いやや鋭角的な装甲。
その背中の装甲には、両肩から背部中央にかけて大きめの赤いライドプレートが鳥の両翼の様に刺さっている。
他にも踵や足先にもそれらしき物が突き刺さっているのが分かる。
間違いなく、Dシリーズのライダーだ。
うつ伏せの為それ以上の容姿は不明だが、その疑問もすぐに解ける事となった。
「う…うぅ……」
男性特有の低い呻き声を漏らしながらそのライダーの指先が動き、更にそのマスクを上げる。
人間で言うコメカミから上顎にかけて覆い尽くす鮮やかなライトグリーンのやや大きめの複眼に、その顔面にはDシリーズ特有のライドプレートが四枚顔の上半分に突き刺さり、頭頂部へと真っ直ぐ並び立つように突き出ている。
「い、一体何が…ッ!?な、何だよ…これ!?」
そしてそのライダーの装着者は、複眼越しに見える景色に、思わず驚愕の声を漏らした。
今このライダーがいる空間はクロックアップ空間。当然周囲の景色はクロックアップ発動者と比例して非常にゆっくりと時間が流れる空間になっている。
何も知らない者がこの景色を見れば、時間が止まってるように見えてしまっても不思議はない。
「時間が止まってる…!?もしかして、“ドライブエクシードシステム”が壊れたのか!?」
そう仮説を立てながら叫ぶと、今度は傍に落ちているこのライダーのものであろう大剣を空中に滞在する雨粒を弾きながら拾い上げ、峰の部分にある装置を弄り回す。
しかしそれで彼の変身が解ける事はなく、未だにクロックアップ空間に置き去りにされたままだ。
「ダメだ、解除できない…!誰か、誰かいないのか!?じいちゃん!麗奈(・・)!!」
止まった雨粒を弾きながら必死に知り合いの名を呼ぶ。
いくら叫んでも、空気を切る様な音しか耳に入らない完全なる静寂しか返って来ない。
俺はここに一生閉じ込められたままなのか…?そんなの、絶対に嫌だ!誰か、誰か返事をしてくれ!!
―――カツンッ…カツンッ…―――
「誰だ?そこにいるのは」
「ッ!?」
ふと背後から、やけに落ち付き払った声色の男性の声と足音が聞こえて来た。
いきなりの事で思わず驚いてしまったが、声のしたビルの壁際を見る。
そこには誰もいなかったが、その壁の向こう側から足音が聞こえて来ており、その音が徐々に大きくなってきている。間違いなく、誰かいる。
やがてその声を発したと思われる人物が、完全に自分の前にその姿を現した。
しかし、その姿は人とは言い難く、どちらかと言えばロボットと言った方がシックリくるだろう。
黒地のスーツに洗練されたシャープなメタルレッドのプロテクターを胴体と両肩に纏い、下半身には必要最低限の銀色の装甲が備え付けられている。
そして一番の特徴はその頭部だ。
水色の大きな複眼に、カブトムシの一本角を彷彿とさせる角が備え付けられているのだ。
更に腹部にもそのカブトムシをイメージさせたのか、このロボットの基になった甲虫の形をしたガジェットがくっついている。
しばらくその姿を観察していると、途端にそのカブトムシのロボットが流暢な日本語で話しかけて来た。
「君は…もしかして、彼等の仲間か……?」
どうやら自分の声に反応して声を返したのはこのロボット…いや、恐らく自分と同じようにパワードスーツを身に着けているであろうこの男の様だった。
しかし、今の問い掛けの彼等とは何だったのだろうか?
「……フッ、いやすまない。どうやら違うようだな」
しばらく考えていると、そのカブトムシのパワードスーツの男は小さく笑うと謝罪の言葉を述べる。
しかし、右手の人差し指で天を差しながら彼の言葉はまだ続く。
「おでんの汁(つゆ)の味が見ただけでは分からないように、人を見掛けだけで判断するのは良くないな」
何故おでんで例えたのかよく分からないが、言ってる事は確かに正論だ。
その落ち着き払った雰囲気と、貫録を醸し出す立ち振る舞いから、何となく自分より年上…恐らく三十代くらいの男性だと推測する。
その結論を踏まえた上で、彼はカブトムシのパワードスーツの男に敬語で名を訊ねた。
「わ、私の名前は式原(しきはら)祐司(ゆうし)と言います。貴方は一体……?」
「俺か?俺は……」
丁度降ろした右手をもう一度天高く差し示しながら、その男はこう名乗った。
「天の堂を創り、治める男…天堂(てんどう)ソウジだ」
一度はディケイドが訪れた世界。その世界に再び、何らかの危機が訪れようとしていた。
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第46話:Eに弔いの花を/次なる世界は超加速 | ||
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