IS かけがえのない絆 |
「なんで春休み真っ最中に入寮しなきゃいけないんだ...」
あの試験日から約1ヶ月が過ぎた。あの日、俺の苦行は始まった。
まず最初に千冬姉からご丁寧にも新品のIS教材が渡された。
「入寮日までに一通り覚えろ、いいな。ただでさえ遅れているのだからな」
以上、千冬姉からの有り難いお言葉...
実際にやってみると...
「なんなんだこの量は?他の皆はもう覚えているのか!?」
もうなんというか普通の教科書の厚さじゃない。『タウ○ページ』の厚さだ、あれは。
あれから毎日ISの勉強、なんとか一通り覚えることは出来た。...ごちゃごちゃしてないか心配だ。
そうして地獄のような1ヶ月を終えた俺はIS学園の前にいる訳だ。
「来たのはいいんだが...ここからどうするんだ?」
「...すまない、ちょっといいか?」
「え?」
振り向くとボストンバッグを肩にかけた同年代の女の子がいた。長い赤の髪が特徴的だった。
「ここはIS学園で合ってるか?」
「おう。君もここに入学するのか?」
「ああ、そうだ」
「俺も初めて来たんだ。だけど何処に行けばいいか分からないんだよなあ」
「そうか。...もしかして君は織斑一夏か?」
「ああ、そうか...。ってなんで知ってるんだよ!?」
「あれは世界中で大ニュースだったからな。『世界初の男性IS操縦者』。...いや、正確には世界で2番目か」
「はぁーっ、やっぱりそれか。そういえば名前聞いてなかったな、なんて言うんだ?」
「私か?私は((紅夕日|くれないゆうひ))だ。夕日と呼んでくれ」
「分かった。そーいや千冬姉も『2番目』って言ってたけど、夕日知ってるのか?最初の人」
「ああ、知っているぞ。名は...」
言いかけた瞬間、ちょうど良く向こうから走ってきた。
「あ、いたいた!えーと、織斑くんと紅さんですね?」
「はい、こんにちは」
「そうですが...あなたは?」
「ここの教員の山田真耶です!織斑くんは2回目ですね。今から案内しますのでついてきて下さい」
そう言って山田先生はIS学園内を誘導してくれた。
数分後、ついた場所は管制室のような部屋だった。そこには千冬姉がいた。
「来たか一夏、それと...」
「初めまして、紅夕日です」
「ああ、分かっている。私は((織斑千冬|おりむらちふゆ))だ。以後、言動は慎むように」
「は、はい千ふy...えっと、織斑先生」
「分かりました、織斑教諭」
「それでいい、それでは今から再実技試験を始める。紅はアイツ同様、最初の試験だな」
アイツって世界初の男性IS操縦者のことか?一体どんな奴なんだ...?
「山田君、説明を頼む」
「はい。それでは説明を始めます。全部で3試合行います。まず織斑くんが1・2試合目になります。織斑くんは専用機はまだ無いので訓練機ですね。それで紅さんは2・3試合目になります。えっと、紅さんは専用機の方はあるんですよね?」
「はい、あります」
「では早速行なってもらう。織斑、移動して準備しろ。迅速に行え、分かったな」
「は、はい!」
「そして紅、1試合目開始直前までにこの管制室から織斑側のロッカーへ移動しろ」
「公平性を保つために...ですか」
「そうだ」
「それでは織斑くん、案内するので付いてきて下さい」
足早々と管制室から一夏と山田先生が去っていった。
「...ちょっといいか?((篠ノ之束|しのののたばね))とは会ったか?」
「はい、あの3つの正体不明物質が落ちて2・3ヶ月後に」
「やはりか。アイツから聞いたがそのうちの2つは搭載されているのだろう?」
「はい。私のと、そして...」
「全く、どれだけ待てばいいんだっつーの...」
ものすごく広いロッカー室に俺はいた。ロッカー室は何十人、いや下手したら百人規模の人が使えるくらい広かった。
既に男性用ISスーツには着替えている。あとは相手を待つだけなんだが...長すぎだ!
その瞬間、放送が流れた。
『それでは試験を開始する。待機者はアリーナへ移動を開始しろ』
織斑先生の声がロッカー内に響きわたった。
「よし!やっと出番か...燃えてきたぞ!」
俺は早速ピットへ移動した。カタパルトと思われる場所から少し離れた場所で展開することにした。
「行くぞ!『((エンシェントドラゴン|太古の竜))、モード((サラマンダー|火竜))』!」
背には竜の翼を思わせるような((非固定浮遊部位|アンロック・ユニット))があり、両手にはガントレットが装着される。それらを含む全ての装甲が真紅で構成されている。
全てが構成されカタパルトへと移動した。
『いいか、全力をぶつけろ』
「いいんですか、実の弟を殴っても?」
『ああ、構わん。あいつも知らないといけないからな。お前も手を抜いていることが分かったら特別メニューを組んでやろう。どうだ、嬉しいか」
「はい、全力で行かせてもらいます」
『ならいい、発進しろ』
どんだけ恐ろしいんだ、あの先生は!
その瞬間、背筋に恐ろしく冷たい感触がしたような気がした。
じゃあ、行くか!
ピットから真紅の竜が飛ぶように勢い良く出ていった。
アリーナの中央に2機のISが居合わせた。
「うわっ、専用機かよ!俺は織斑一夏だ、よろしくな!」
「お前は日本製第2世代機((打鉄|うちがね))か!俺は((竜崎蒼|りゅうざきあおい))だ!」
「いい試合しようぜ!竜崎!」
「お互いにな!織斑!」
『それでは試合を開始する。...始めっ!』
試合開始のブザーが直後に鳴った。
「先手はもらうぜ、竜崎!」
一夏は刀を展開し、蒼に接近した。
しかし蒼は少しも動かなかった。
――なぜ動かないんだ?いや、そんなことを考えるな、まずは先手必勝だ!
上段の構えからそのまま刀を鋭く降り下ろす。
あの日からISの勉強と共に剣道の練習を重ねた。
千冬姉から『剣道の感覚を戻しておけ』、と言われたからだ。
――千冬姉がああいったのはこのことだったのか...。よし、もらった!
刀はそのまま蒼に直撃する...はずだった。
『ガキィィィン!』
そのまま直撃するはずだった刀は蒼天の『左手』によって止められた。
...つまり、刀を片手で止めた。
「...嘘だろ、ありえねえって!?」
「ざーんねん、じゃあ今度は...俺の番だ!」
その瞬間、エンシェントドラゴンが赤いエネルギーによるオーラに包まれた。
「このエンシェントドラゴンには秘密があるんだ...」
「秘密?」
「ああ、こいつには『武装』が一切無い!」
「は?......な、なんだってぇっ!?」
「おう、そのかわり武装に使われる拡張領域分の処理はどうなると思うか?」
「えっ...?そりゃあフリーになるよな、普通」
「じゃあそのフリーになった処理を全て攻撃に転化できるとしたら...どーなるんだろーなっ!」
「おい、ま、まさか...!」
「そのまさかだ!行くぞぉ...!」
エンシェントドラゴンの右腕が赤いエネルギーによって更に赤くなる。
「火竜の......鉄拳っ!」
ドォォォォォォン!!
直撃した瞬間一夏はアリーナの壁まで吹っ飛び、直撃した。
つまり、中央からアリーナの端まで右腕一本で吹っ飛ばされたことになる。
「グハッ...!な、なんだよこの威力は!一気に3分の2まで持ってかれたのかよっ!?」
「おーっ、良く吹っ飛んだなぁ!」
「くっ...。まだだっ!勝機はまだあるはずだ!」
体制を立て直し、向かってくる蒼に突っ込んだ。
――接近したらまたアレで終わりだ!
一夏は刀を構えながら突っ込み、直撃する寸前に...下方に避けた。
「なにっ!?」
「隙ありっ!」
今度こそ当たる...はずだった。
その一瞬に蒼は全てのスラスターを全開にして急上昇・緊急回避を行なった。
それにより刀はまたもや空を斬った。
「まさか、あの状況下で瞬時に判断するかよ...」
「お前強くなるぞ、きっと!今回は俺の勝ちだ!」
「くっ...。でも武器ないんだよな?無理だろ、近接攻撃でその距離は...」
「だったら『近接攻撃じゃなければいいんだよなっ!』」
「は!?」
「いくぜっ!今日最大の威力だ!全エネルギー解放!」
「嘘だろ...その距離で!?」
「火竜の...」
蒼は息を大きく吸い込む動作を始めた。
同時に口の前に赤い球体ができ、次第に大きくなる。
「咆哮ォォォォッ!」
そして巨大化した球体から他とは比べ物にならない規模の赤い荷電粒子砲が放たれた。
ズドォォォォォォン!!
「くっ.........!」
直撃した瞬間、一夏のシールドエネルギーは0となりISが解除された。
『試合終了。勝者、――竜崎蒼』
「よっしゃぁぁぁっ!」
しかし一夏は倒れたままだったので、蒼は不審に思い近づいた。
「.........」
「おーい、織斑......!?やべっ、力出しすぎたか!織斑先生!」
蒼はすぐさまプライベート・チャネルを開き、コンタクトをとった。
『どうした、竜崎』
「やばいっ、織斑がっ...!今から医療室へ連れていく!」
『待て!お前はこのあともう一試合あるから行っては駄目だ!医療班に任せる』
「......仲間を放って試験なんて出来るかよ!!」
『...!そこまで言うならば分かった、織斑を頼むぞ』
「了解!」
『...全く、仕方ない』
千冬はそのまま館内放送に切り替えた。
『現在アリーナでの試験関係者に連絡する。今日の試験は中止。繰り返す...』
中止の放送は夕日がいるロッカーにも伝わっていた。
そこには私と山田先生がいた。
「残念でしたね、紅さん。今日行えなくて」
「大丈夫です。まだ始まったばかりですから...」
そう言いながら夕日は右手首の赤いブレスレッドを握り締めた。
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3話「エンシェントドラゴン」 | ||
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