仮面ライダーディージェント |
式原祐司が天堂ソウジと名乗る男と出会ってから、約三時間が過ぎた。
三時間と言ってもこのクロックアップ空間に於いてはとてつもなく長い時間であり、自分たちがいる空間からすれば何日何カ月と長い時を一緒に居たような感覚に陥りそうになるほどに長い時間だ。
彼としばらく共に居てみたが、どうも彼は意外と気さくな人物であるようで、そのおかげで色々な事が知る事が出来た。
まず彼が着けているパワードスーツは「マスクドライダーシステム」と呼ばれており、謎の地球外生命体・ワームに対抗するために開発されたシステムだそうだ。
そして、彼の今の姿はカブトと言うらしい。
カブトはかれこれ二年間もの間、クロックアップシステムの暴走によってこの高速空間・クロックアップ空間に閉じ込められたままなのだそうだ。
一時は自分に擬態していたワームがクロックダウンシステムと呼ばれるシステムを開発し、僅かの間ながらも通常の時間軸に戻れたらしいが、そのシステムが発動している間、ワーム以外はクロックアップ出来ないと言う欠点があった為に、彼はやむを得ずクロックダウンシステムを破壊し、またこの空間に閉じ込められる事を選んだ。
その際に今の自分によく似たライダーが手伝ってくれたそうなのだが、この話をする時の彼の仮面越しの顔が何となく失笑しているように思えたのは何故だろうか?
詳しく知りたかったがそれ以上教えてくれる事はなく、それで彼に関する話題はお開きになってしまった。
「さて、次は君の事について教えてくれないかな?」
そうカブトに言われ、祐司は今の自分の姿…ディシードと合わせて今までの経緯をカブトに語った。
自分が変身しているこの姿……。これは祖父がある日見つけた装置を元にして造られた物であり、名を“仮面ライダーディシード”と言う。
なんでも祖父が見つけた装置…ディボルグドライバーがパワー重視な上に活動時間も限られていた為に、その真逆の性能を持つシステムを開発しのだ。
その名も“ドライブエクシードシステム”。
敵対対象に合わせて装着者もそれ以上の速度で移動する事を可能とさせ、装着者にもその速度に適応した動体視力と反射神経を与えるのだ。
今自分がこのクロックアップ空間にいるのもそれの故障が原因で、恐らくカブトのクロックアップに適応してしまったのだろう。
これらの装置は自分の世界の軍事力を飛躍的に上昇させ、紛争を即座に抑制する事を目的とさせているのだ。
この話をソウジにした時、彼は「おでんの具が多ければ多いほど味が増えるが、作る人の思いがなければ美味しいとは言えない」とまたも右手で上を差し示しながらそんな意味深な格言を言ってきた。
どうもこの人は何かの格言を言う時は必ず右手で上を差す癖があるらしい。
それは一体どういう意味なのかと何度か訊ねたが、結局答えてはくれなかった。自分で考えろと言う事なのだろうか?
「夜が明けたか…君と出会ってからもう三時間は経っただろうな……。どうだ?この空間にはもう慣れたか?」
「ええ。それにしても、貴方とはもう何日も一緒に居るような気がしますよ。本当にこんな空間に二年間も?」
カブトがぼやきながら空を見上げると、何時の間にか雨は止み、ようやく日の出が見えて来ていた。
きっと彼がいなければ、自分はこの空間で独り気が狂っていた事だろう。それを思うと彼の常人を逸した精神力の高さには感服する。
「ああ…しかし、ここまで人と長く話したのは久しぶりだ。偶にZECTのお嬢さん達が来たりはするが、どうも血気盛んでね。話をする暇もない」
「ZECT?あぁ、そう言えば言ってましたね。確かワームの殲滅を目的とした組織だって……」
「そうだ。そして俺はZECTにカブトの資格者として選ばれ、今もこうしてこの高速の世界で人々をワームから守り続けている。これからもな……」
“これからも”……。それはつまり、自分が生きている限り永久にと言う事。
本当にそれでいいのだろうか?この空間に居る所為で、彼は人々から“高速の世界に潜む怪物”とされ、恐怖の対象にされてしまっていると聞いた。
彼を何とか元の場所に返す事は出来ないのだろうか?もしそんな事が出来たのなら、自分が代わりにこの空間に取り残されたって構わない。彼には待ってくれる人達がいるのだ。待ってくれる家族が……。
「貴方は、それでいいんですか…?元の空間に戻る方法ってないんですか?」
「ない。クロックダウンシステムもその欠点が発覚した今、もう二度と造られる事はないだろうからな」
「そう、ですか……」
マスクドライダーシステムは、ワームに対抗するための唯一の手段だ。その主力であるクロックアップが発動できないとなれば、人類はワームに屈服するしかないのだ。
ZECTがそんな危険を冒してまで、カブトを元の空間に戻すわけがない。
「だが、君が元の空間に戻れる方法ならある」
「えっ!?」
しかしカブトから出た思わぬ発言に、ディシードは驚きの声を漏らしてしまった。
この空間から出れる…それは願ってもない事だが、この人をまた独りにしてしまって良いものだろうか?そんな二つの考えを持つ自分がいた。
カブトはそんな事を考えているとは知らず、更に言葉を紡ぐ。
「君のそのシステム…“ドライブエクシードシステム”と言ったな?その特性は対象となる物体と同等の速度で動く事が可能となるらしいが、その対象となっているのが俺なんだろう?」
「ええ、恐らくは……」
「なら、対象である俺がいなくなれば、君は元の空間に戻れるんじゃないのか?」
「ッ!?」
カブトの言いたい事はすぐに分かった。いなくなればと言う事はつまり、彼が死ねば自分はこの空間から出られると言いたいのだ。
しかし、彼は何の罪もない善人だ。そんな人を犠牲にしてまでして、自分だけのうのうと助かるわけにはいかない。
「そ、そんな事絶対にさせません!出るときは絶対に貴方も一緒です!!」
「ははは、冗談だ。俺もまだ死ぬわけにはいかないからな…っと、どうやら近くにワームがいるみたいだな……。じゃあこの話しはこれでお開きだ」
カブトが軽くディシードを宥めていると、ワームの気配を感知したのかそんな事を言ってその方向へと歩き出した。
カブトにはOシグナルと呼ばれるクロックアップによる時間軸の乱れを感知する装置が付いているらしく、それがワーム探知機の役割を果たしているらしい。
ディシードもこの三時間の間で何度かカブトと共にワーム撃退を果たしている為にこんな事はザラだが、どうも腑に落ちない。
冗談とは言っていたが、ディシードにはどうしても本気に聞こえてしまう。彼もまた、自分と同じように自己犠牲の強い人間なのだろう。自分もあんな感じなのだろうかと思うと、麗奈や祖父の苦労も良く分かる。
(ま、俺が言えた事でもないか……)
そう思い立つと、ディシードはカブトの後に付いて行った。
紫は黒塗りのワゴンに乗ってワームが出現したと思われる目黒区まで移動していた。
移動中の最中、紫は同乗している隊員達とは一切口を利かずに、ただ自分の膝の上に乗っかっている蠍型のライダーゼクター・サソードゼクターをじっと見つめている。
隊員達はその様子に大して気にする様子もなく、各々(おのおの)に戦闘準備を進めて行く。
今このワゴンに乗っている隊員はすべて紫の管轄に属する部下で、白塗りのゼクトルーパーの第二小隊だ。
サツキから第一小隊の出動許可は貰ってはいたが、そこまで多くの人員を送る必要はないと考慮しての行動であり、寧ろ自分一人でも良い位だと思っている。
確かに彼等の戦闘力はそれなりに高いが、それも常識の範疇。ワームの成体には対処しきれない。
そんなお荷物を抱えた状態で戦えば、少なからずこちらの分が悪くなる。それなのに態々こうして小隊を連れて行く理由はサツキにある。
彼女はどうも心配性で、何かと自分に世話を掛けたがる。夕食に誘われたり、気に入った服を買ってもらったりなどがその一例だ。今着ているドレスもそれだ。
一年ほど前にZECTにサソードの資格者として選ばれ、消失したガタックの後釜として所属してからずっとあの調子だ。
ガタックの資格者は二年前のクロックダウンシステムの件に携わった人物らしいが、どう言う風の吹き回しかクロックダウンシステム倒壊後にZECTを離反してしまったのだ。
詳細は不明だが、そのガタックの資格者は今もゼクターを所持しており、見つけ次第ゼクターを奪回せよとの指令が上から来ている。
「副隊長、現場に到着しました」
「……出撃」
『はっ!』
やがて車が止まり、隊員の一人の報告に短く言葉を返すと、ゼクトルーパー達は号令の後、ワゴン車から一斉に降りて行った。
その様子はさながら軍隊蟻だ。リーダーの指示に従ってそれだけの為に動く。
隊員達に待機させるよう命令を出して自分だけで戦う事も可能だが、サツキに「隊員達にもちゃんと仕事を分けてあげなくちゃダメでしょ」と叱られてしまった為、こうして渋々指示を出しているのだ。
何でも第二小隊の人達から「俺達にちゃんとした仕事をください!」などと泣き付かれてしまったとかどうとか……。
「………」
膝の上に乗せていたサソードゼクターが「キュイィィン」と機械音を発しながら紫の肩の上に跳び乗ると、紫はゆっくりと腰を上げ、傍に置いてあったサソードの刀型変身ツール・サソードヤイバーを手に持ってワゴン車から降りて行った。
外では隊員達が右手の装備したマシンガンブレードから銃弾を連射しながら四体のワームに応戦している。
ワームはすべてズングリとした体型のサナギ態で、その身体から幾度も弾丸が当たって火花を撒き散らしながら怯んでいる。これなら彼等ゼクトルーパーだけでも対処は出来るだろうが、彼等にすべて任せるわけにはいかない。何故ならこれは紫の復讐でもあるからだ。すべてのワームに対しての……。
「いかん!脱皮するぞ!!」
やがて一人の隊員が今自分が攻撃しているワームの異変を察知してそう叫んだ。ワームの身体が熱を帯びて赤くなり始めたのだ。
これはワームがサナギ態から成体へ変わる兆候であり、脱皮されてしまえばクロックアップを発動されて彼らでは対抗できなくなる。ここらが頃合いだろう。
「……サソードゼクター……戦闘開始」
自分もあの中に加わるべくサソードゼクターに話し掛けながら手に取ると、ゼクターは任せとけと言わんばかりに「キュインキュイン」とまた機械音を鳴らす。
それに一瞬だけ口元に笑みを見せるがすぐに無機質な表情に戻り、音声コードと共にサソードゼクターをサソードヤイバーの鍔部分に取り付けた。
「……変身」
[ヘン・シン]
電子音声が鳴ると、アポーツグリップと呼ばれる柄を握っている右手から装甲が覆い始め、小柄な紫の身体を不釣り合いな紫色のぶ厚い装甲に包み込まれた。
額からは後ろに流れる様に伸びた蠍のような尻尾が付いており、その下には緑色のバイザーが取り付けられ、両肩には500mlのペットボトルサイズのブラッドタンクが備えられている。
そのタキオン粒子を変質させて精製した猛毒・ポイズンブラッドを貯蓄されたブラッドタンクからは、無数のオレンジ色のチューブ・ブラッドべセルが両腕や右胸部などに繋がっている為に、特異なシルエットを作り出しており、全体的に重厚なイメージがある。
仮面ライダーサソード・マスクドフォーム。
これが紫の変身するライダーの名前であり、ワームに対抗するために開発されたマスクドライダーシステムの一つだ。
「……総員撤退」
静かに隊員達に命令を下すと、サソードはガシャンガシャンと音を立てながら戦闘の渦中へと歩き出す。
隊員達はその姿を確認したからか、それともサソードの小さな指示が聞こえたからかは分からないが、一旦銃撃を止め、後退し始めた。
『ギュアァァァァ!』
それと同時に脱皮を始めていたワームの一体が奇怪な鳴き声を上げながら完全にそのズングリとした身体を脱ぎ捨て、全く別の身体を手に入れた。
青い外骨格に黒い斑点を無数に浮かび上がらせ、頭頂部にテントウムシを彷彿とさせる平たい傘の様な甲殻を被った異形の姿だ。
エラクピナワーム…テントウムシの生態系を持つワームである。
『キュロロロロ……』
エラクピナワームはグロテクスな口腔(こうくう)からそんな音を鳴らしながら、歩み寄って来るサソードを興味深そうに見ている。
「………」
『ッ!キュアァァ!!』
無言で剣を構え始めると、そこでようやくサソードを敵と判断したのか、奇声を上げて襲い掛かって来た。
「……拘束」
『キュロァッ!?ギュイィィ!ギュロォッ!!』
そう呟くと背部に設けられたブラッドべセルを触手の様に伸ばし、エラクピナワームに撒き付いて拘束し始める。
それに驚いたエラクピナワームは奇声を上げるが、すぐに纏わりつく触手を無理矢理に引き千切って身体の自由を取り戻すと刹那にして消えた。
そしてその瞬間、周囲に異変が起き始める。
「ぐあぁっ!!」
「何っ!?まさか…がはぁっ!!」
別の個体を相手にし始めたゼクトルーパー達が次々と目に見えない何かに吹き飛ばされ始めたのだ。恐らくクロックアップをしたのだろう。ならばこちらもクロックアップで対抗するしかあるまい。
サソードは剣に取り付けたサソードゼクターの尾部を奥へ倒しながら小さく呟いた。
「……キャストオフ」
[キャスト・オフ…チェンジ・スコーピオン]
サソードヤイバーからそんな電子音声が鳴ると同時に、サソードの頑強な装甲が周囲に弾け飛び、その奥に隠されていた軽量な装甲が露わになり、その姿をより洗練され、尚且つ女性的なフォルムへと変えた。
下半身には黒地のサインスーツの上に最小限の装甲を取り付け、防御よりスピードを重視した印象を与える。
上半身には紫色の蠍が張り付いたようなデザインの胸部装甲が装着されており、両腕の鋏に当たる部分は両肩へと装備され、鋭利な印象を与えるショルダーアーマーの役割を果たしている。
そして頭部に装着されていたバイザーまでもが弾け飛び、その奥にあったライダー特有の巨大な複眼が緑色に妖しく輝き、仮面ライダーサソード・ライダーフォームへとフォームチェンジを果たした。
この形態は先程の形態と比べてパワーや防御力が落ちるがその分スピードに特化しており、この形態ならではのマスクドライダーシステム特有の機能が使える。
「……クロックアップ」
[クロック・アップ]
そう宣言しながら右腰に設けられたスライド式トレーススイッチを手前にスライドすると、サソードの視界に映る物全ての動きが止まった。クロックアップ空間に突入したのだ。
その空間の中で、サソードを除いて動く存在が一つ。先程姿を消したエラクピナワームだ。
『キュロロロォ……』
サソードがクロックアップ空間に介入した事を察知したのか、こちらを振り向きながら奇怪な鳴き声を漏らして迫って来た。
「……斬(ざん)」
『ギュロァッ!?』
しかしサソードは漢字一文字だけを呟きながら、エラクピナワームの胸部へカウンター気味の斬撃を放ち、その攻撃を喰らった相手は悲痛な呻き声を上げながら身体から火花を散らして仰け反った。
「……殺(さつ)」
『ギュギィッ!ギュロォォッ!!』
その後も何度も何度も持ち前の剣技で舞う様に斬り付けながら翻弄し、やがてある程度弱った所を確認すると、サソードゼクターの一度持ち上げ、すぐに元の位置に押し込む。
尾部に蓄えられた膨大なタキオン粒子が刀身へと流し込まれ、その刃が薄いライトグリーンの稲妻に酷似したエネルギー…タキオン粒子が纏わり付いてバチバチと音を鳴らす。
「……ライダースラッシュ」
[ライダー・スラッシュ]
死刑宣告の如く低く呟き、サソードヤイバーからもタキオン粒子のチャージが完了したサインが出されると、サソードはクロックアップ空間に於いても目にも止まらぬ速さで連続でエラクピナワームを斬り付けた。
『ギュロロアァァァァッ!!』
エラクピナワームは断末魔の叫びを上げながら緑色の炎を上げながら爆散し、サソードは剣をヒュンと振り下ろして「……滅殺」とこの世からワームの一体を葬った事を宣言した。
[クロック・オーバー]
「副隊長!残り二体のワームも脱皮を始めました!」
しかし彼女に休まる時間はなく、クロックアップが解除されると同時に別の個体のワームを見た。
三体残っていたワームの内一体はゼクトルーパー達が討伐に成功したみたいだが、後二体と言う所でまたも脱皮を始めたのだ。
脱皮をされる前にクロックアップを発動して殲滅しようかとトレーススイッチに手を掛けた途端、それは起こった。
『ギュアァァオッ!!』
『ギュギイィィィィッ!!』
何かが通り過ぎたかと思うと脱皮を始めていた二体のワームが爆散してしまったのだ。
サソードにはその原因はすぐに分かった。カブトだ。
サソードの持つ“クロウアイ”と呼ばれるタキオン粒子が流れる複眼であれば、通常の時間空間に於いてもクロックアップの視認が可能だ。
しかし、その目で見えた物に違和感を覚えた。ハッキリと見えたわけではないが、影が二つ確かにそこにあったのだ。
“被検体”の可能性が高いが、あのシルエットはどうもそれとは違う。
「……クロックアップ」
[クロック・アップ]
サソードはそのもう一つの影の正体を突き止める為、再びクロックアップを発動した。
ディシードとカブトが現場に辿り着くと、そこでは紫色の蠍を模したライダーと数体の白い装甲を纏った兵隊。そして赤く変色し始めたワームがいた。
カブトから聞いた話では、アレは脱皮の兆候であるらしく、一度脱皮をされて成体になられでもすれば、こちらと同じ空間に介入するほどの速度を有して来るらしい。早々に倒す必要があるだろう。
「祐司君は手前のワームをやってくれ。俺は奥のをやる」
「はいっ!行きます!」
短い掛け合いをすると、二人同時にワームへと駆け出す。
その際にディシードは大剣型変身ツール・ディシードライバーの鍔の部分に収納されていたカードケースを扇状に展開し、一枚のカードを取り出して剣の峰部分にある溝へスラッシュする。
[アタックライド…スラッシュ!]
電子音声が発せられると、ディシードライバーの刃にクリムゾンレッドのノイズが充填され、威力が増す。
Dシリーズを疑似的に再現した物とは言え、ディボルグドライバーに使われていた素材が分かれば、ある程度代用できる物質でここまで忠実にシックスエレメントまでも再現する事が出来るのだ。
「ドリャアァァァァッ!!」
手前のワームに向かってディシードライバーを横に大きく振りかぶり、その2m近くある大剣を威勢の良い掛け声と共にフルスイングしてワームの腹部から真っ二つに両断した。「スラッシュ」を使っていなければただ単純に吹き飛ばしていただけだろう。
両断された上半身は数秒の間空中に浮かんでいたかと思うと、切断された箇所から緑色の炎を上げて下半身と共にバラバラに弾け飛んだ。
ふとカブトの方を見てみると、あちらも既にワームを倒して目の前に上がる緑色の炎を見ているだけだった。
「終わったな。それじゃあすぐにでもここから立ち去ろう。じゃないとそこに居るお嬢さんが……」
[クロック・アップ]
「……カブト」
カブトがディシードに言い切る前に電子音声が響いたかと思うと、先程まで止まっていた筈の蠍のライダーが動き出し、少女のような可愛らしい声を小さく零した。
「遅かったみたいだな。ははっ」
「……カブト……敵……抹殺」
「あの、すっごく敵視してるんですけど……」
カブトが蠍のライダーを見て苦笑しているのを余所に、そのライダーは何やらおっかない事を呟いている。
先程カブトが「血気盛んなお嬢さん」とか言っていたが、明らかに度が過ぎている。余程の自信があるからそう言ったのか、それともただ能天気なだけなのか…恐らくどちらもだろう。
やおら蠍のライダーがこちらを向くと、しばらくジッと見て、そして小さく呟いた。
「……ディケイド」
「え…ってうわっ!?一体何を……!?」
呟いたかと思うといきなりディシードに向かって斬り掛かるが、その攻撃を間一髪でバックステップをして辛うじて避けると、彼女はまたも何やら呟く。
「……悪魔……要注意危険対象……抹殺を優先」
「どうやら、君を彼と勘違いしている様だな。まぁサソードのお嬢さんは彼と直接会った事がないから仕方がない事かも知れないが……」
「そんな事暢気に言ってる場合ですか!?襲われてるんですよ!?」
カブトの発言から彼女の名前がサソードである事は分かったが、そんな事などどうでも良くなるくらいに相手から敵対心を向けられている事に内心冷や汗を掻いている。どうにか説得できないものか……。
「……問答無用……覚悟」
「うおっ!クゥッ…やるしかないか……!」
サソードの一閃をディシードライバーで受け止めて毒吐くが、例え毒吐いた所で状況を打開できるわけでもなく、ディシードは否応なしにサソードと戦闘を繰り広げる事になってしまった。
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第48話:二つの赤と毒蠍 | ||
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