仮面ライダーディージェント
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歩はマシンディージェンターに麗奈を乗せ、アラタの跨るフロントにクワガタを模した二本角が取り付けられている青いバイクの後を気付かれない様に追跡していた。

彼の駆るバイクは既存の物ではありえない速度ではあったが、こちらのマシンディージェンターもそんじょそこらのバイクとはわけが違うオーバースペックのマシンだ。追い付けないわけがない。

更に空間演算を応用してこちらの気配が感知されないように、擬似的な「インビジブル」と同様の措置を施している為、気付かれずに後を追うのもそれほど苦ではなかった。

 

「これって…普通にスピード違反になりませんか?」

「それは向こうも同じだよ」

 

後ろから麗奈の呟きが聞こえて来たのでとりあえずそれだけ返しておく。

しかしそのまま会話が途切れる事はなく、麗奈が会話のキャッチボールをリリースして問い掛けて来た。

 

「それにしても歩さん、何故アラタさんを追うんですか?」

「……彼の行く先には、多分ワーム…つまりこの世界の脅威がいる。それを確認する為だよ」

 

大まかな説明だけすると、麗奈はそれで納得したのか黙りこくった。

麗奈はこれから歩がワームを倒す手助けをするつもりなのだろうと解釈したのだろうが、歩の本来の目的は違う。

アラタの後を追っているのは、恐らく彼がこれから遭遇するであろうワームを確認しておく必要があるからだ。

 

歩はこの世界に来てから、亜由美やDシリーズである麗奈の気配を始めとした感知できる筈の気配が、この世界に充満するタキオン粒子によるジャミングの所為で酷く曖昧になってしまってるのだ。

亜由美を攫ったワームが何処から出て来るか分からない為、こうして虱潰(しらみつぶ)しに見つけていくしかないのである。

 

しばらくアラタを追って行くと、女性らしいシルエットの蠍を模した紫色のライダーが二体のワームの成体と対峙している光景を目の当たりにした。

亜由美を連れ去ったグラスホッパーワームと違っていた為に歩としてはハズレではあったが、ワームを見たアラタはその切迫する空間へとバイクから降りて歩みを進める。

それに応じてガタックゼクターがワームに対に突進をかまして蠍のライダーから注意を逸らせ、アラタはゼクターに向かって言い放つ。

 

「行くぞ、ガタックゼクター!変身!」

 

[ヘン・シン]

 

そういって右手を掲げてガタックゼクターを掴み取ると、腹部に装着されたゼクトバックルへ右から左へとスライドしてセットすると、その身体全身が重厚な装甲に包まれ、仮面ライダーガタック・マスクドフォームへと変身を果たした。

 

その姿は全体的に重厚な印象を纏わせており、スピードを捨てて防御力と火力を重視した構造をしている事が一目で分かる。

 

「サソード、俺も手を貸すぞ」

 

ガタックは蠍のライダーに近寄りながら共闘宣言を告げるが、そのライダーは沈黙した状態でガタックを見るだけで、何も答えようとしない。

 

「……ガタック……抹殺対象」

「え…?うおぉっ!?」

 

しかし数秒ほどして漸く口を開いたかと思うと、 蠍のライダーはいきなり峰に蠍型のガジェットを取り付けた機械剣でガタックに斬り掛かって来た。

 

ガタックは辛うじて後ろへ下がってその剣戟から離れるが、蠍のライダーは斬り掛かった姿勢から一歩踏み込んで低く構えると、そこからガタックの装甲を遠慮なく斬り上げる。

 

「ぐあぁぁぁっ!!」

 

「まさか、アレがこの世界のライダー…?」

「そうだよ。アラタさんが変身した青いライダーが仮面ライダーガタック。紫色のライダーの方は接触してみないと分からないけど、十中八九この世界のライダーで間違いなさそうだね」

 

『おい貴様等!無視するな!』

 

二人もバイクから降りてその状況を戦況を窺っていると、突然のガタック乱入に思考を止められていた二体のワームの内の銅色の方がそんな事を叫びながら二人のライダーの間に割って入る。

 

「……邪魔」

「おぉっと!?」

『グゲァッ!?』

 

しかし蠍のライダーがそう呟いてガタックを押し退け、ワームを横薙ぎに切り裂いて動きを怯ませる。

 

『アエネウスにばっか気を取られてるんじゃねぇよ』

「……!」

 

そこに蠍のライダーの背後に黒金色のワームがクロックアップして現れ、鉤爪の付いた腕で引き裂こうと振るう。

 

「させない!!」

 

しかし振り下ろす直前にガタックの両肩に装着されたガタックバルカンからタキオン粒子を変換して生成されたイオンビーム光弾を連射して放ち、その圧倒的な火力で黒金色のワームを吹き飛ばす。

どうやらガタックはあくまでワームを倒すためだけに戦うようで、例え蠍のライダーに邪険にされても共闘を図ろうとしているようだ。

 

「……余計」

「それでもいいさ。まずはコイツ等をどうにかするのが先…だろ?」

「………」

 

だが蠍のライダーにとってそんなガタックの事情など知った事ではない様で、またも邪険に扱う。それでもガタックは目の前の事に専念し、再び黒金色のワームへ光弾を連射して蠍のライダーから引き離す。

 

『てめぇ!そんな反則技ばっか使ってアージェンタム虐めてんじゃねぇよ!』

 

ガタックの戦法にアエネウスと呼ばれた銅色のワームがそう不満をぶち撒けると、そのワームはクロックアップを発動させて目視できないほどの速度での行動を開始する。ガタックを先に倒すつもりらしい。しかし……

 

「……クロックアップ」

 

[クロック・アップ]

 

蠍のライダーもそれを予測出来ていたようで、アエネウスとほぼ同時にクロックアップを発動させる。

数瞬ほど何かがぶつかり合う音が連続して聞こえたかと思うと、次の瞬間には「クロック・オーバー」と言う電子音声が聞こえ、蠍のライダーとその後ろから緑色の爆炎が現れた。

緑色の爆炎の方は、恐らくアエネウスが体力の限界を超えて爆散してしまったのだろう。

 

「い、今のは一体……」

「アレがこの世界だけの特別な力、クロックアップだよ」

 

クロックアップ現象を始めて見て目を丸くする麗奈に淡々と説明している間にも戦況は大きく変わっていく。

 

アエネウスが撃破された事で、次なる獲物を仕留めようと今度はアージェンタムと呼ばれた黒金色のワームへと照準を移し、ガタックの弾幕を一切無視して斬り掛かる。

その暴挙にガタックも思わず「おっと」と声を漏らしながら連射を中断させる。そして中断している間に次々と鋭い太刀筋で斬撃をアージェンタムにお見舞いして行く。

 

やがてアージェンタムがダメージ超過の所為でフラついている隙に、蠍のライダーが剣に備え付けられた蠍のガジェットの尾部を一度持ち上げ、すぐに元の位置へと押し込む。

すると尾部から大量のタキオン粒子が発生し、刀身へと充填されて行く。

 

「……ライダースラッシュ」

 

[ライダー・スラッシュ]

 

小さく必殺技を宣言して音声コードを蠍のガジェットへ入力すると、ガジェットも同じく単語を反芻し、刀身へと完全にタキオン粒子がチャージされた事を宣言され、それと同時にアージェンタムの胴体を文字通り真っ二つに切り裂いた。

 

『グッ…ガアァァァァァァ!!』

「……滅殺」

 

断末魔の叫びを上げてアージェンタムが爆散すると、蠍のライダーが静かにそう宣言した。

しかしそれで変身を解く事はなく、今度はガタックを見据え、剣を構える。

 

「……覚悟」

「本当にやるつもりか?俺としては何事もなく平和的に解決したいんだけどな」

「……指令」

「指令?……と言う事は、やっぱり上層部には何か裏があるな」

 

蠍のライダーから出た発言にガタックは何か考える素振りを見せるが、蠍のライダーはその隙を突こうと一瞬で間合いを詰めて斬り掛かって来た。しかし……

 

「キャストオフ」

 

[キャスト・オフ…チェンジ・スタッグビートル]

 

既にガタックゼクターの角を反対側へ折り畳んでキャストオフの準備を備えていた為に、然程(さほど)のタイムラグもなしに一瞬でキャストオフを発動させ、自身の装甲をパージして弾き飛ばした。

 

「……ッ!?」

 

蠍のライダーもその吹き飛んできた装甲には堪らず足を止め、迫り来る装甲を剣で薙ぎ払って事なきを得る。

そして、ガタックの鈍重な装甲の内側に隠されていたスマートなプロテクターが現れ、更に頭部にはクワガタを模した二本角が聳(そび)え立つ。

 

仮面ライダーガタック・ライダーフォーム。ガタックバルカンによる砲撃機能が無くなる代わりに、接近戦に特化させた形態である。

 

「俺だって元シャドウナンバー2だったんだ。そう簡単にはやられねぇよ」

 

そう言い放ちながらガタックは両肩に装備された二本の曲剣武器・ガタックダブルカリバーを手に取り、ギャリンギャリンとけたたましい音を立たせながら二本を打ち合わせる。

対する蠍のライダーも再度改めて剣を構え、臨戦体制を整える。まさに一触即発といった状況だ。

 

「……特に何もないみたいだし、このまま帰るよ」

「え…アレは放っておいて良いんですか…?」

 

一緒に二人のライダーを見ていた歩が麗奈にそう告げると、彼女は疑問に思った事を口にしながら引き止めて来た。

 

確かに蠍のライダーならガタックが加減してくれているため大丈夫だろうが、向こうはそんな事などお構いなく殺しそうな勢い。ガタックの方は死ぬ可能性だってあるのだ。

 

「……隙あり」

「おっと!はっ!!」

 

現に今ガタックは本気で戦っている様な気迫がなく、サソードは鋭い剣戟を浴びせようと容赦なく剣を振るっている。

それを放っておく事など普通はしない。しかし、歩は別だ。

 

「あの状況にイレギュラーが関わってる様子はないし、本来起き得る事象みたいだからね。アレに僕達別の世界の人間が干渉する必要はない」

 

もし介入してしまえば、その瞬間に歴史線に亀裂が生じる。自分達が関与して良いのはイレギュラーが関わっていた時のみだ。

その事を麗奈に説明すると、彼女は少し驚いた顔をするも、すぐにその表情を若干怒りに染めて自身の主張を言い放つ。

 

「それでも、目の前で困ってる人がいたら助けるのは当然の事ではないんですか!?後先考えずに行動する彼(・)の方がまだ何倍もマシですよ!?」

 

「……クロックアップ」

 

[クロック・アップ]

 

「ッ!クロックアップ!!」

 

[クロック・アップ]

 

麗奈が歩を説得している間に、蠍のライダーはクロックアップを発動させ、それに合わせてガタックも同じくクロックアップを発動させる。

 

麗奈が言う彼と言うのが良く分からないが、彼女の言い分は歩にも十分に分かる。

自分だって本来ならばそうしたい。しかし、それでもダメなのだ。

 

まだディージェントドライバーを手に取って間もない頃に一度だけ本格的な介入をした事があったのだが、その結果その世界は自分が来る時よりもかなり状況が悪化してしまったのだ。

その世界は紛争が日常茶飯事で、その中にライダーサークルの脅威が侵略していた。

歩はディージェントに変身してその脅威を消し去りはしたのだが、それでも元からその世界で起きている紛争問題が解決する事はなかった。

 

当時の歩は脅威を消し去った後も紛争問題を解決しようと武力介入を続け、武器を奪い取っては壊して戦力を無力化させていったが、それが間違いだった。

 

武力を無力化された事でそれを察した敵軍が、その軍に攻めて来たのだ。

無論ディージェントの介入によって武器は皆無。当然何の抵抗も出来ずに壊滅してしまったのだ。

壊滅した軍の中には、未来を築き上げて行く筈だった子供達や、後に平和的解決を導き出す筈だった人間達も居ただろう。

そしてそれらの希望を潰してしまったのは、他でもない自分だ。

その時から歩は知ってしまったのだ。無駄に介入すればその世界その物を壊してしまうのだと。

 

そんな経緯もあってか、歩はそれ以降イレギュラー以外に一切干渉しなくなった。

もし関与してしまえば、その時点で自分自身がイレギュラーになってしまうから……。

 

[クロック・オーバー]

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」

 

[クロック・オーバー]

 

そんな口論を続けている間に、クロックアップを発動させて間もない頃にクロックアップ終了音声が鳴り、ガタックが倒れ伏した状態で現れ、変身が解けてしまっていた。

蠍のライダーはそんな事などお構いなしに変身が解けたアラタの首元に剣を突き付ける。

 

流石にあのままだと不味いと判断したのか、麗奈はディボルグドライバーを取り出して物陰から出ようと駆け出す。

しかし、歩は彼女の手を掴んでそれを阻止し、抑揚のない口調で言い放った。

 

「行ったら駄目だよ。行けば余計に歴史線がややこしくなってそこに“歪み”が……」

「そんな事言ってる場合ですか!?貴方は彼がどうなっても良いんですか!?」

「……どうでも良いなんて事はない。それでも、これはこの世界で本来起き得る事象。ワールドウォーカーが干渉する事は許されない」

「クッ…!こうなったら仕方ありませんね…テイッ!」

「ウグッ!?」

 

意見を曲げようとしない歩に麗奈が毒吐くと、彼女は歩の鳩尾を思いっきり殴りつけて蹲らせ、その隙に戦場へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

グラスホッパーワームが人間態になったかと思うと、懐から通常より二回り大きい金色のUSBメモリを取り出し、それに設けられていたスイッチを押した。

 

[ナスカ!]

 

「なあ、アレは何だ?」

「分かりませんわ。今までに見た事のない装置ですし……」

 

後ろで何とか平衡感覚が戻ってようやく立ち上がったザビーに問い掛けるも、彼女もアレが一体何のツールなのか分からない様で、首を傾げた。

ZECTの一員である彼女が分からないと言う事は、少なくともZECTの開発した物ではないと言う事は明らかだ。

 

「まぁ、これはこの世界で造られたものではありませんから知らなくて当然ですね。これはこう使うんですよ」

 

そんな不思議がる二人の様子が可笑しかったのか、グラスホッパーワームはクスリと笑いながらそう言い放つと、こちらへ向かって手に持ったUSBメモリを投げつけてきた。

 

「ッ!」

 

ディシードは思わず反射的に投げ出されたそれを叩き切ろうとディシードライバーを振るうが、途中でまるで意志を持っているかのように空中を旋回し始め、ディシードの一撃は空振りしてしまう。

 

「な…ッ!?」

「フフフ、ではせめて、貴方達に倣って私もこう宣言させて頂きますかね…変身」

 

軽く驚きを露わにするディシードにほくそ笑みながら、グラスホッパーワームはそう宣言すると、その人の形をした顎に宙を縦横無尽に舞っていたUSBメモリが突き刺さっていった。

 

するとその身体を幾何学模様のノイズで包み込みながら、騎士甲冑に似た青い外皮を持ち、背中から発せられるエネルギーによって形成されたナスカの地上絵を彷彿とさせる形状をした大きな両翼を持った怪人へと姿を変えた。

 

『おおぉぉぉぉぉ!!』

 

そして、騎士怪人へと変わったワームが雄叫びを上げると更に変化が続く。

体表が徐々に赤みを帯び、やがて鮮やかな朱色に変色し始めたのだ。

それに呼応するようには背中から出ていた両翼は大きくなり、やがて完全に変色が完了すると同時に両翼の形状をしたエネルギーが体内へと吸い込まれて消えて行った。

 

『素晴らしい…コレがレベル3の力!』

 

ナスカドーパント・レベル3。

ナスカ文明…謂わば「未知・謎の記憶」を内包したナスカメモリにより適合した際に変身する事が可能となる上級ドーパントである。

ありとあらゆる能力が格段に上昇され、以前の青いナスカの時よりも圧倒的な力を得た形態でもある。

 

“サイクロンの世界”でのDシリーズという名の“未知の力”との戦闘による接触を繰り返した為に、今の形態に至るほどにまでナスカメモリとの適合率が上昇した結果進化した、運河の新たな力である。

 

『さて、これで私と貴方は同格と言ったところですね、楽しいパーティーの始まりです!』

「何ですのアレは!?」

「そんなの、俺だって分かるか!」

 

突然のワーム以外の人外の登場に驚くザビーとディシードであったが、相手はそんな事など待ってはくれない。

 

『まずはそこの女王蜂さん、貴女からお引き取り願いましょう』

「な…きゃあっ!!」

 

一瞬で二人の背後に回ったかと思うと、ザビーに向かって手を翳し、その手から朱色のエネルギー弾をゼロ距離で射出して吹き飛ばした。

 

[クロック・オーバー]

 

吹き飛ばされると同時にクロックアップ終了音声が響き、ザビーの身体が空中で完全停止してしまう。クロックアップ空間から追い出されてしまったようだ。

 

「クッ…!貴様!!」

『ご心配なく。ある程度加減は致しましたし、死んではいないでしょう。彼女とはまた日を改めてもう一度踊りに誘わせて頂きますよ』

 

激昂するディシードを余所に、騎士怪人となったワームはそんな事をのたまいながら今度は右手を前に翳す。

すると先程持っていた剣とはまた違ったシンプルな装飾を施された片刃の西洋剣が生成され、それを構える。

 

『始める前に名乗っておきましょうか…私の名は井上運河、またの名をナスカ……。さぁ、楽しみましょう!』

 

自身の名を名乗ると、宣戦布告しながらこちらへと間合いを詰め、斬り掛かる。

それを何とかディシードライバーを盾代わりにして防ぐと、カウンターの蹴りをお見舞いして距離を取らせる。

 

「グッ…ドリャア!!」

『ぬおっ!?やりますねぇ!ハッ!!』

 

ナスカは吹き飛ばされた拍子に余分にバックステップを取って更に間合いを取ると、今度は左手から朱色のエネルギー弾を出して遠距離攻撃を始める。

 

[アタックライド…エクスプロード!]

 

「そんな…ものぉっ!!」

 

しかしディシードはカードを一枚引き抜いてディシードライバーに読み込ませると、その巨剣を思いっきり振り降ろした。

振り下ろし、地面に触れると同時に、その箇所から直径約50cmほどの大きな炎の塊が燃え上がって弾け飛び、ナスカの放ったエネルギー弾を打ち消しながら前方に佇むナスカへと直進して行った。

 

「エクスプロード」のカードはディシードの持つ数少ない遠距離攻撃用のカードだ。

ディシードライバーに特定のモーションを加える事により、前方に起爆性の高い炎弾を放つ事が可能になる。

 

『むっ!?』

 

ただし火力については申し分ないのだが前方にしか飛ばない為に、動きの遅い重戦車くらいにしか使えないのが欠点であり、小回りの利く相手にはあまり効率的ではない為、ナスカに簡単に避けられてしまう。

 

『アッハッハ、今のは驚きましたが少々遅すぎますね。私に当てるなら……』

 

ナスカがそこまで告げた瞬間、刹那の内に自分の眼前に現れ、ディシードは予想外の接近に反応できずに身体がすぐに動かない。

 

「なっ…!?」

『これくらいの速さがなければ…ね!』

 

そしてその動けない隙を突いてナスカがディシードの胸部装甲が斬り付けられ、派手に火花が爆ぜる。

 

「グ…アァッ!!(な、何だ今の速さ!?もしかして、クロックアップより速く動いてるのか!?)」

 

斬り付けられながらもディシードは先程目の前で起きた現象を推測した。

 

ナスカドーパントの特性は音速レベルでの高速移動。そしてそれを使っている運河…ワームの特性はクロックアップ。

それらが相乗効果を生み出し、クロックアップをも超えるスピードと、半永久的にクロックアップと同等かそれ以上ののスピードでの活動を可能とさせているのだ。

 

(クソッ!せめて、“ドライブエクシードシステム”さえ直っていれば対抗できるのに…!!)

 

ディシードは自身の本領を発揮できない事にもどかしさを感じていた。

 

もし“ドライブエクシードシステム”が万全の状態であればナスカと同じ土俵で戦えるのだが、今はカブトのクロックアップに適応してしまっている為にスピードが上がる事も下がる事もない。

しかし、ここでないもの強請(ねだ)りをしてもしょうがない、やるしかないのだ。

危なくなればカブトが助けに入ってくれるだろうが、彼に頼りっきりになるわけにはいかない。

そう思い立ってディシードライバーの鍔部分を展開してそこから取り出したのは…「モーメント」と書かれたカード。

 

『また何かするつもりですか?させませんよ!』

 

ナスカはディシードが何をしようとしているのか察して、こちらへ向かって剣を突き立てて迫って来た。

 

今手に取ったカードは「マッハ」よりも更なる高速移動が可能になるカードなのだが、「マッハ」であれだけの反動が返って来るなら、コレを使えばどうなるかなど目に見えている。

しかし、「マッハ」のカードは先程使ってしまった為、復元されるのに時間が掛かる。

だがここで使わなければこちらが間違いなく負ける。こんな所で、死ぬわけにはいかないんだ!!

 

[アタックライド…モーメント!]

 

ディシードは決断を下すと、機械剣の峰部分に設けられたスリットにカードをスラッシュさせ、ライドカードシステムを起動した。

 

(ヅッ…!何だ、これ!?イ、イテェ…!!)

 

「モーメント」を発動させると同時に、眼前から迫る剣先が自身に触れる寸前でピタリと止まり、体中に電流でも流し込まれたかのような激痛が襲いかかる。

反動が返って来るとは分かってはいたものの、まさか発動させた瞬間に来るとは思いもしなかった。

だが、今しかチャンスはない。

 

「ド…オォォォリャアアァァァァァァ!!」

 

ディシードはナスカの死角に回り込むと、その圧倒的なスピードを上乗せしたディシードライバーによるフルスイングでナスカの脇腹へ向かって叩き付けた。

 

『なっ…ぬぉああぁぁぁぁぁ!!』

 

強烈な一撃をナスカは辛うじて剣で防ごうとするも、流石にその重量を防ぎ切る事が出来ずに刀身が真ん中からパキンと折れ、ナスカの胴体へと直撃。

そして遥か後方にある廃ビルの壁へと打ち飛ばし、派手に穴を開けさせた。

 

「や、やっ…た……」

 

ナスカが派手な音を立てながら壁をぶち抜いている光景を最後に、ディシードは身体に伝う痛みがピークに達し、その場で気を失って倒れ伏してしまった。

説明
第54話:赤きナスカ文明
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