謝って済まない事 2 |
爆ぜた。
喉が渇いていく―――脳裏を焼いていく感覚を覚える故に。
目の奥がざわつく―――脳裏を焼いていく感覚を覚える故に。
耳が遠のく―――脳裏を焼いていく感覚を覚える故に。
その瞬間、確実に己の中の感情が、想いが爆ぜた。
揺られる車の中で確かに―――"少年"は祝詞を、呪詛を唱える。
「―――ティ―――グラ―――」
か細き声音は割れる音に遮られる。後部座席のリアガラス。蜘蛛目状などという甘いものではない。
振るった一撃。手に持つ鎌。名を知る術をこの場に居る者達は持たないも―――"Z・Oサイス"と呼ばれた
"悪魔王の名を冠した銃神"の兵装。ソレを己の身の丈に合った代物と化して現せて振る。
「ちょっ?!?!祐樹!!」
「一体、なんだってんだい?!」
助手席に座る咲が最初に反応し、続いて運転席に座る慧子が悪態のような叫びを上げる。
振り向いた咲の視界。バックミラー越しに後部座席へと横目を送る慧子の視界。
二人の視界の中に居たのは―――"最初の会合"と同じ姿。四肢は伸び、髪すらも伸びた……"青年"の姿。
その眼差しに暗い炎が宿っており、その険相は今まで見た事無いぐらいに怒りに歪んでおり。
纏う服装。子供の姿の時に着ていた物とは全く違う代物―――"冠位十二階色の最高と最低の二色"…紫紺と黒が織り成す斯衛(・・)服。
吹き込んでくる風がはためかせる。体温などの自動調節が施された黒く長い全身インナーで留められた紫のジャケット部分に当たる布達をはためかせる。
スリット部分に当たるインナー横から風が進入して、足元が風に靡く。
そんな事に意識はいかない。ただ、一つ―――脳裏に焼きついてく感覚。
「や、やめろ!!祐樹ぃぃ!!」
「………ガラス割ったときには分ってたけど、実際にやられると肝が冷えるよ…!」
齎す焦燥感。早く、早くと急かす心。急がなければ……確実に"失う"という絶対的な予感が。
青年を" "祐樹を飛び出させる。
向かうは―――小雪の家へと、後ろ髪引かれる思いのままに残すしかなかった白子の少女の下へと。
―川神市 高村家
―――ぼくがわるいこだから…おかあさんは…。
擦れる視界。血の巡りと呼吸を抑えられている為に。
白子の少女。高村小雪は朦朧とする頭の中でそんな事を考え始める。
いや……そんな事しか考えられなくなってきていた。
―――おかあさん…。
涙は零れない。目前で己の首を締め上げる母親を前にしても彼女は泣けなかった。
泣く事が出来なかった。どうしても…。
―――ごめんなさい…。
|笑ってしまう(・・・・・・)。笑ってなければ耐えられないと
好かれた。愛されたい。ただ、一途にそれだけを願い。
どんな罵倒もどんな暴力を振るわれても耐えてきた。されど……。
―――もっと、もっと…ぼく、わらってないと…
悲しいかな。目前であらん限りの力を持って自身の首を締め付ける女。母親。
―――わらって…。
窪んだ眼。浮き出る血管。青白いを通り越して蒼白。力一杯込める指先の血管すら浮き出てくる姿は、夜叉と言っても過言ではない。
―――わら…。
常軌を逸している。確実に、ただ、目前の……自らの娘に終焉を穿たんとする姿は。
―――もう……いいかな…。
ふとそんな事を思わせる。必死に必死過ぎる位に締め付ける姿が、哀れすぎて。
幼心でも悲しくて、哀れと思ってしまうぐらいに。
―――ともだち…たくさん…できたし。
思い起こす。走馬灯のように、つい先ほどまで共に過ごした人々。
キャップ、一子、ガクト、モロ、京、咲。そして―――。
―――おなかいっぱい…ごはんたべれたし。
給食が御馳走だった。味気ないコッペパン、紙臭い牛乳、個別包装された酸っぱいだけのマーマーレード、寸胴鍋で大量に作られたスープ。
不特定多数の為の食事。其処に愛は無い、ある筈が無い。ただ栄養を、育ち盛りの子供達に配慮した献立が毎日毎日機械的に作られるだけ。
愛のある食事など、食べた事が無かった。与えられたものなんて……湯すらないカップ麺。ただソレを齧っていただけであった小雪に。
―――はんばーぐって……あったかくて、おいしいんだね…
香ばしい匂い。先に向かったキャップ達と一緒にハンバーグの種を作っていた咲が出迎えてくれて、ボロボロな小雪に酷く悲しげで憤慨し。
牛肉の旨味が詰まったかのような嗅ぐ者の腹の音を引き出すような匂いに。
思わず、大きく腹が鳴った小雪に豪快に笑いながらも屈託の無い笑みにて咲にリビングへと促され。
―――つためくって、かたくて、たべものじゃないって…おもってた。
皆で囲む。子供の体格からして一人一人に食べきれるのかと?問いかけたくなるような大きさのハンバーグ
夢中で食べた。今まで食べてきたどんな物よりもおいしいと断言できるソレを夢中で食べる。箸の使い方なんて分らない。
手渡されたフォークもちゃんと使えない。順手持ち。幼児のような持ち方でも誰も哂わなかった。
ただ、笑顔。皆が皆、この暖かな一時を笑っていて
―――おふろって…あったかいだね。
食事が終われば咲に抱え上げられて、風呂へと入る。全身いたるところに痣や怪我などで埋め尽くされた小雪の身体を優しく洗って。痛みに呻けば優しく声を掛けて。
くすんだ髪の毛もボロボロな肌も、丁寧に丁寧に洗ってくれた咲に止めどない涙を零しながらに小雪は身を任せ。
―――ぼく…つめたいのが、ふつうなんだっておもってた…。
風呂から上がれば、皆がトランプで遊んでおり呼ばれて混ざる。
人生で初めて―――楽しいと思えた一時。真正面にキャップ、その右隣に一子、左隣がガクト続いてモロ。
左隣を見れば京。トランプが終わり、思い思いに話を進める中、京はずっと小雪と話し続ける。交わされる言葉数は少ないながらも。
お互いがお互いに認識しあう。鏡合わせだと。時間も忘れて只管に話、遊び、疲れ果てて。
―――ぼく、うれしかったよ………
疲れ果てて……白子の少女は諦めた。
フッと途切れた意識。本来なれば―――無意識の内にその身に流れる血に秘められた才が母親を血濡れにする結末を辿る筈であったが。
割れた音。澄んだ音。夜闇に浸る透明な色。飛び散る破片。
―――ゆうき……
途切れいく意識の中、見えた"暖かな闇"。怒り満ちるその姿を前に……小雪の灯火は尽き果てんとしていた。
「あーあー……こりゃ、また間の悪い時に出くわしましたかね」
飛び出した時の気持ちは最早、遠くへと消え失せた。
民家の屋根を飛び跳ねて辿り着いたこの場所―――眼下に見える光景は民家の一つ。リビングだろうと推察できる一階部分の窓ガラスが盛大に割られ。
中から悲痛な叫びが住宅街に響く。
騒ぎを聞きつけた隣近所の者達がおっかなびっくりで辺りを見回しており。
「……中から三つ。二つは成人(・・)男女。女の方は酷くか細いとこ見ると…薬食ってたか、何かか…」
無精ひげを撫で付けながらに屋根から塀へと飛び降り、次いで地面へと着地。
「残り一つは子供。けど―――」
―――こりゃ、駄目だ。死んだな。
把握できる気脈。大なり小なり人の身体の中を廻る命の脈。武道家達は度々呼称するは"氣"
―――手の施し様がねぇ。……となると必然的に。
ゆったりと歩み。隣近所の者達は高村の家から騒動という事で殆どの者達が知らぬ存ぜぬを決め込み。
部屋へと引っ込む。人間誰しも厄介事に巻きこれたくはない。ソレが家庭を持っている者達なら尚更。
中には流石に見て見ぬ振りは最早出来ないと高村家へと近ずく者も居たが……釈迦堂の眼差しと振りまく不機嫌なオーラ。
苛立ちに塗れた氣の前に一般人など固まるしかなく、釈迦堂が家へと入っていた姿を最後に全員が回れ右して家へと逃げ帰る。
―――けっ…期待外れかよ。
苛立ちは振る舞いに現れる。踏み抜くように割れた窓ガラスを踏み歩く。パキリと小さくも響く音が鳴るも―――。
「小雪!!!死ぬな小雪ぃっぃぃぃぃぃ!!!!」
青年の叫び。悲痛なまでな叫び。
幾度目にした?記憶を失ってしまっても魂に刻み込まれている。
その悲しみを、命が砕ける様を、幾多の命が散っていく様を、"明日を残す為に躊躇なく死地(ハイヴ)へと飛び込んでいく"戦士達を見送った?
どれだけの命を糧として……己は立っている?
只管に蘇生を試みる。その小さな胸元へと両手を突き立てて動かす、気道を確保し止ってしまった心の臓を無理やり動かす。
視線は求める。少女を救える方法を。
「其処のアンタ!!!救急車を頼む!!AEDも一緒に!!!」
視界に映る光景。手にしていた"Z・Oサイス"は小雪の母親の近くに放り出されている。彼女が小雪を絞め殺そうとしている最中に割って入り
刃を形成しないままに棒状でその腕を叩き折り……今、現在も痛みに呻いているも"そんな事"は如何でもいいと捨て置き
自身が突入した窓にて悠然と立っている男へと助力を求める。釈迦堂へと―――。
「は?」
「は?じゃない!!死にかけているんだ!!手を貸してくれ!!」
「なんで、俺が手伝ってやらなきゃならん?」
心底如何でもいい。後ろで呻いている女も目前で釈迦堂の吐き捨てた言葉に愕然としている祐樹の事も。
………死にかけている小雪も、委細合切どうでもいいという面持ち。片手をズボンに突っ込んだ何時ものスタイルにて答える。
「ま、如何足掻いても其処の嬢ちゃんは死ぬな。"氣"がもうどうしようならねぇ域に到達してるしよ」
手を止める事は出来ない。助けを呼ぶ術はある。"PAK"で119を押して場所を教えて―――もう、この時点でアウトだ。
心臓が止まっている状態を一分も放置すれば…それだけで死亡確率は格段と上がってしまう。
AEDにしてもそう。この場面において最も欲しいと思える道具であるも、此処は住宅街。一機30万程する緊急時以外に全く役に立たない代物を置いている民間などありはしない。
あったとしても……この中からどうやって持っている家を探し出せと?一軒一軒虱潰しにしている時点で小雪が死ぬ。
だから―――一心不乱に手を動かし続ける。
「あー…。人が無駄だって言ってんのにお前、まだやるのかよ?」
釈迦堂の呆れ果てたという声音。懸命に蘇生を図る祐樹の隣で中腰になって。
「おい。お前さ、さっきの"負"の波動。お前が出してたんだろう?」
問いかける。目前で必死に命を繋ぎ留めようとしている祐樹を嘲笑うかの如くに。
「…おーい。目上の話をすっぽかしていいって誰に教えてもらったよ。え?」
無視。
「おいおい…。おにいさんさ、我慢強くねぇんだよ。」
無視。
「おいこら。無視してんじゃ……ねぇぞっと!」
無視。衝撃。横っ面に痛みが走るが無視。
「おっ!"氣"は込めてねぇが…結構、本気で殴ったてぇのに」
薄ら笑いを貼り付けて釈迦堂の口元が歪む。格好のおもちゃを見つけたと。
「おら。今度は…込めてやんぞっと!」
衝撃。身体がくの字に折れる。思わず息を吐き出す咽る。されど……無視。
「おー!やっぱ、さっきの出元はお前だったかよ!!」
禍々しい闘氣を帯びた一撃にも屈さないその姿。先ほどまでの状況を鑑みて該当者はコイツだという事を直感した釈迦堂は
「お前、俺と死合えよ。」
無視。
「……かぁ!…仕方なねぇな、おい。119番して欲しいか?」
言葉のニュアンスから読み取る。…暗い焔のような憎悪を満たしながらに答える。祐樹は。
「……言う通りにしてやる…!!とっとと、連絡しろ!!」
「おわ。恐ぇぇなぁ、おい。まっ、いいだろう。電話、電話っと…」
祐樹の剣幕を笑い飛ばすかのようなおちゃらけた態度で立ち上がり、電話機を探す為に辺りへと視線を這わせようとするも。
「あっ、遅かったわ」
釈迦堂の言葉より先に分ってしまう。懸命に繋いでいた命が零れていく様を、そのか細い命の息吹が掌から零れ落ちていく様など…。
「あ、ああ…」
手に取るように分る。曲がりなりにも"負の無限力"を扱っていたのだから。
「こ、ゆ……き…」
冷たくなっていく。今だ、極微かな温もりが"芯"に残っているものの…ソレも後、数瞬後には儚く消える。
ソレが分る。分ってしまうからこそ―――。
「うぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
「くぁっ?!……は、はは。はっはっハハハァァァァ!!!いいぞ!コレだ!コレなんだよ!!」
覚醒する。その身に宿す力。"負の無限力"に連なる"火"。
輪廻転生をも飲み干す力―――DISに連なる"火"。
思い起こせ。幾たびの命を見送った?
"お前の我侭から始まった"
白銀(はくぎん)の居場所を奪って、未来望んだ少女を死なせて、幾多の戦友を死なせて、辿り着いた最奥。
死者達の無念と生きる者達の希望を借り受けて…打ち倒し。閃光の中に飲まれ。
記憶を無くし、吹き荒ぶ極寒の地にて倒れ伏し…為すがままに生き続けて、幾度命を見送った?
辿り着いた地獄の最前線。"地獄門"を護るケルベロス達の戦い。崩れいく家々。戦火に飲まれる人々。
突きつけられた現実。戦争という名の種の生き残りを掛けた戦い。脅え、竦み、恐怖で打ち震えるしかなかった己を。
"立ち上がらせた少女を亡くした時"のように……
また亡くすのか?拉げた二つのエンゲージリングを胸元で輝かせ。親兄弟の遺骨を収めたポトフ鍋一つしか持っていなかった少女がくれた命。
"あの時"のように、冷たくなった身体。間に合わなかった時のように――――" "祐樹。お前はまた、後悔するのか?
劈く。魂が明滅する。否と、断じて否と―――青年の存在そのものが否と叫ぶからこそ。
"ディーンの火"が……覚醒する。
迸る力の奔流。家屋を突き抜け聳え立つ闇。小さな煌きがアクセントのように輝く闇が夜を切り裂く。
小雪の身体を抱きしめて―――温もりが消え始めていた身体を抱きしめて。
トクン。トクン。と小さな心が波立つのを感じながらに……" "祐樹は意識を失う。
胸に強くかき抱く。命の息吹を取り戻した小雪を抱きしめながらに…。
特殊技能
《|十五番目の同胞(バルシェムシリーズ)》LV―
《ディーンの火》LV― →LV1
《強運》LV―
《IFS強化体質》LV―
《?????》
《?????》
《?????》
覚醒を確認。《ディーンの火》のLVが1へと移行します
技能
騎乗LV1→?????
剣術LV∞
居合いLV1→?????
射撃術LV1→?????
機械工学LV1→?????
潜入工作LV1→?????
指揮LV1
幼児化に伴うスペックダウンを確認。剣術と指揮以外が封印指定となります
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