第三十話 鬱と心の傷とはやて病 |
翠屋
アニスサイド
いやぁ疲れた……。
あの後試合が終わってさ、士郎さんが詰め寄って来てよぉ。
「アニス君サッカー出来るじゃないか!どうだい?うちのチームに入る気はないかい?」
って言われたけど、丁重にお断りした。
あんな超次元サッカーに巻き込まれたくない、つかめんどくさい。
だって何かあいつに付き合ってたら、エクスカリバー位なら素で出来そうになりそうで怖いねんもん。
おぉ、怖い怖い。
「……あんた、やっぱり男子なの?」
「ん?やっと信じてくれやがりますか?」
そんで今試合が終わったので、試合に出た選手……っつっても、士郎さんのチームが翠屋に来て飯とか食ってるだけなんだけどな。
「だって、どう見てもあの動きは女子には無理だもんね」
すずかが少しおっとりした口調で言ってくる。
うむ、可愛いなお前。だがはやてには適わない!
「でもサッカー何てやった事ないから適当にやってただけなんだけどね」
「それも嘘っぽいのよね。何で初めてなのにあんな動きが出来るのか……ホントあんたは不思議よねぇ」
「でもウェヒヒヒ、これホント。おっとそのクッキーはもらったぁ!」
ヒョイッ、パクッ!
「あー!それなのはが取ろうとした奴―!」
「んー、うまうまなのですー。にぱー☆」
俺はなのはが取ろうとしたクッキーを横から奪い、そのまま口に入れ恍惚の笑みならぬ恍惚のにぱー☆を繰り出す。
うむ、流石桃子さんだ。うまいクッキーだのぅ。
「ん?どったの三人とも?顔を赤くしてさ。風邪でも引いた?」
「あ、アニス君……それ反則なの……」
なのはは顔を赤らめながらそう言い、後の二人が賛同する。
そしてそこのフェレットモドキ、てめぇも顔を赤くしてんじゃねぇよ。風邪か?
生憎と、淫獣に付ける薬はねぇんだ。
「むぅ、反則と言われてもねぇ……俺は別に何もしてないんだけど……」
反則と言われる筋合いわないよ!
全く、しつれいしちゃうねぇ。
その時、なのはが急に視線を外す。
俺はそれに気づき、なのはと同じ方向を見る……。
ぬー、ジュエルシードですかねー……?どうしようかなー。
町に被害が及ぶのは嫌だけど、今の俺じゃ魔法は愚か、バリアジャケットすら使えない状態なわけでして、それに、俺の、魔眼は果たしてジュエルシードに通用するのかどうか。
曲がりなりにもロストロギア、しかも暴走した状態なんだし……うむ、どうしたものか……。
つか、いつの間にかサッカー小僧たち解散してるやん。
「それじゃあ、私達も解散」
「うん、そうだね」
「そっかー、今日は二人とも午後から用事があるんだもんね」
「うん、お姉ちゃんとお買いもの」
「パパとお出かけ!」
「いいなー、月曜日にお話し聞かせてね?」
うむ、お姉ちゃんにパパか……。
……まぁ、お姉ちゃんは良いんだけどさ……お父さん、元気かな〜。お母さんも……まぁあの二人なら大丈夫だろう。
お父さんは卍解も使えるし、お母さんは補助魔法の天才だしね。
「おっ、皆ももう解散かい?」
「あ、お父さん」
いつの間にか士郎さんがこちらに来ていた。
うむ、背高けぇな……。
「今日はお誘いいただいてありがとうございました」
「試合、カッコ良かったです」
「ははは、すずかちゃんもアリサちゃんも、応援ありがとうなー応援してくれて。変えるなら送って行こうか?」
「あ、いえ。迎えに来てもらいますので」
「同じくですー!」
「そっか。なのははどうするんだ?」
「んー、アニス君、この後用事とかある?」
「俺?今日は特にないよ」
「それじゃあ一緒に遊ぶの!」
う〜ん……まぁ、良いんだけどさ……。
何をして遊ぶんだろうか?俺男ですし、なのはの遊びとかたぶん合わないし。
「別に良いけど、何して遊ぶの?」
「んー、それは家に行ってから考えよう!ねぇお父さん、良いでしょ?」
「ははは!良いよ、二人で遊んだら良い。お父さんも一っ風呂浴びて、お仕事再開だ。三人で一緒に変えるか」
「うん!ありがとうお父さん!」
むぅ……えぇのう……お父さんか……。
(ほらっ!アニス!)
(ちょっ、お父さん!?もう俺もいい年なんですから、そのっ……高い高いは止めていただけないでしょうか……)
(ははは!子供が遠慮とは、世も末だな。なぁ、アリス)
(それだけアニスが大きくなった証拠ですよ、貴方)
蘇るのは、あの楽しかった俺の毎日の日常。
隣にいつもお母さんが居て。仕事で忙しくて、たまにしか俺と遊んではくれないけど、それでも遊んでくれる時は俺よりも楽しんでいるお父さん。
そして、それを見ながら微笑んでいるアンク……。
平凡で、何処となくファンタジーで。
それでも、前世の記憶を払しょくされる毎日の日々。
その中で、毎日俺は笑い、少しむくれたり、泣いたり。でも、すぐにまた笑って、お母さんやお父さんもつられて笑ってくれた。
ありふれた家族だったけど。
何処にも負けない、幸せな家族だったと、俺は自負している。
訓練の時は厳しかったけど、成功したら自分の様に喜んでくれた二人。
例え俺が、前世の記憶を持ち合わせていた子供でも、前世の親を覚えていた、二人を受け入れられなかった俺が居たとしても。
それを知らなかったとしても、きっと何処かで気づいては居たのだろうが……それでも態度も、接し方も変えなかった二人。
失って初めて気づく、隣にぽっかりと空いた穴。
それを埋める様に、今度はアンクが俺の隣で……そして、もう片方の穴にはやてが居て。
それから、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが居て……。
それでも……やっぱり何かが足りなくて……。
あの日の事をいつも悔み、嘆き、後悔してきた。
その為に、もっと力を付けようとも誓った……。
俺が欲しかったものが、今目の前に映っている。
平凡が……日常が……ただ親と笑い合っているだけでも良かった……。
原作介入とか、崩壊とか……ホントはどうだって良かったのかもしれない。
それはただの建前で、ホントはその……前世でほしかったものが、手に入った事に酔いしれたかっただけなんだろう。
「よしっ、それじゃあ行こうか」
「うん!ばいばい、アリサちゃん、すずかちゃん!」
「またね、なのは!」
「ばいばい、なのはちゃん」
二人はなのはに別れを告げて、そのまま帰って行く。
……ふぅ、鬱になりそう……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……はぁ……」
結果的に、夕方辺りまでなのはと雑談しただけであったのだ。
何か……もう……あぅ……。
「……うぅ……」
もう、泣きたくなってきた……。
まぁ、なのはが悪い訳じゃないし……なぁ……うむ、もうどうしたら良いんだろうね……。
つうか、何で魔力反応無かったんだろう?
今日はジュエルシードの暴走日じゃなかったっけ?
まぁ、無いに越したことはないんだけどさ、やっぱイレギュラーが働いてんのかな?
うむ……どうしたものか……まぁ、俺が闇の書を起動させちまった辺りでもう原作は崩壊してるしね。
「もう良いや、帰ろう……」
何か今日はどっと疲れた……。
肉体的にも精神的にも……あぁ、これが病み期なのかな?
あぁ、明日辺り何か死にたがりになりそうですねコレ……。
はぁ……。
まぁ、そんなこんなで家に着いたわけなんですけども……ここで一つ違和感が……。
何故か魔力の残り香が感じられるのは何故?
それにこの感じ、翠屋で感じたのと同じ魔力なんですけど……。
だれかがジュエルシード持って帰ってきやがったな……これ。
まぁ、大概検討は着いてるからいいや。
俺はそう思いながら玄関のドアを開けて、無言で家の中に入る。
もうただいまを言う気力も無いよ……。
そして俺は終始無言のまま、リビングのドアを開ける。
「ありゃ、いつの間に帰って来たんアニス君?全然気づかんかったで?」
「……うん……そうだね……アンク、何処かな?」
「ん?アンクさんなら今お風呂やで?」
「……そう……」
じゃあ、少し待ってよう……。
あぁ、頭が痛い……。
「アニス君、どないしたん?何か元気あらへんけど……」
「あ、ううん。大丈夫だよ?あはは」
もう無理してる感満載の笑い声だね。
乾いた笑い声しか出ないよ……あぁ、鬱だ、死のう。
その時、アンクが風呂から上がり、リビングに戻ってきた。
「おっ、帰ってたのか」
「……うん、まぁね……」
「何か元気ないが、どうした?」
「……アンク……ジュエルシード、取って来たんでしょ?」
「!?……な、何の事だ?俺は知らんが」
あくまで白を切るかこいつ……。
つか、魔力の残り香で一発なのに、分から無いのかねこいつは……。
「まぁ、それをどう使おうが、アンク次第だしね。とやかく言う事や、余計な詮索はしない。でも……俺は望んじゃいないからね?」
俺はアンクにはっきりと告げる。
ジュエルシードに、ロストロギアに頼るなんて事はしない。
例え、それしか手が無かったとしても、だ。
「それじゃ、俺ちょっと部屋で休むは……」
「……あぁ、分かった……」
アンクはそれだけ言って、ソファーに腰かける。
俺はその場を去り、自分の部屋に戻ろうとする……。
その時ちょうど、道場からシグナムが帰ってきた。
俺は玄関でシグナムと鉢合わせしてしまった。
「あ、主。ただいまです」
「……うん、お帰り、シグナムさん」
「どうしました?主、顔色が優れませんが……」
「あはは、大丈夫。何とも無いさ……ただ……ちょっと疲れちゃっただけだから……心配しないで……」
俺はそれだけ言って、自分の部屋に入ろうとするが、シグナムがそれを許さない。
シグナムは俺の腕を掴み、こちらに引き寄せられる。
「な、何すんのさ!?」
「主。どうやら貴方は、何か勘違いをされている」
「な、何をですか……?」
「私は貴方の騎士です。心配するなと言われて、はいそうですかと言われて引き下がるほど、私は落ちぶれていません。何があったのですか?もし出来るなら、私が話を聞きます」
「シグナムさん……」
俺はシグナムのを見上げる。
……話すことはしない……こんな話なんてしたって、スッキリ何てしないし……。
でも……出来る事なら……。
「……あの……さ、シグナムさん……」
「何でしょうか?」
「……あぅ……その……俺を……抱きしめてくれませんか……?」
「…………主がそれで、笑顔に戻るのならいつでも」
そう言って、シグナムはそのまま俺を抱き上げ、抱きしめてくれる。
……暖かい、そして、優しい……。
女性特有の甘い香りに混じり、汗の匂いも感じられたが……気にはしなかった……。
ただ、ひたすらに湧いてくる感情を抑えるので、精一杯だった。
泣いてしまいたい……そんな衝動に駆られている……。
「……どうです主、落ち着きましたか?」
「あうあう……ありがとございますシグナムさん。お蔭で何とか元気が出ましたのです、にぱー☆」
まぁ、何と単純な俺だ事。
でも……こう言うのも悪くないのかもね。
だけど……流石に恥ずかしいとは思う……けどね。
「主、私の事はどうかシグナムとお呼びください。それに、敬語も不要です」
「……シグナム、その……さ……それは良いんだけどね?……何で手が少しヤラシイ動き方をしてるのか気になるんだけど?」
さっきからまさぐられてる感が否めないんだけどさ。
何?貴女も今巷で流行っている流行り病、はやて病にかかったんですか?
そして、無意識だったんだろね、何故かいきなりハッとなり、俺を急いで床に降ろしたよ。
そして光速の速さでリビングに走って行った。
……うむ、部屋で休もう。
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