仮面ライダークウガ New Hero Unknown Legend[EPIISODE03 驚愕] |
PM01:46 東京都葛飾区
駅前の大きな交差点を多くの車が行き交う。その交差点の歩道には信号機に足留めをくらう大きな人混みがあった。
やがて信号が足留めの対象を変えると、人混みは一斉に車道に溢れ出す。その中で立ち止まることができない程の流れは、歩道から出てくる人が絶えないことにより長く続いていく。
その中で、一人の女性が立ち止まっていた。
10代後半から20代前半に見える容姿は、同世代からは好評を得るであろう。背中まで届く髪は少しウェーブがかかっており、裾が膝上まである白に近い青色のワンピースに、彼女の体にフィットした黒い上着を羽織っている。
彼女の周りを歩く人々は彼女を避け、人混みに消えていくため、彼女に文句を言う者は誰もいなかった。
「……」
少女は無言で、無表情だった。しかし、彼女の脳は悲鳴をあげ、既に限界に到達しようとしていた。その表情からは読み取れないほどの痛みに、だ。
「……」
あれは何?
ここは何処?
みんなは何処?
変わり果てた光景を目の前にして、少女は混乱していた。
「……」
少女はこれ以上脳に情報を送り込まないように、両目を閉じる。
自身が育ってきた家、大切な家族、友人。そして、想い人。
瞳を閉じれば蘇る、昨日-否、はるか昔の光景。大切な人々と作った掛け替えのない思い出が、何よりも愛おしかった。
ずっと瞳を閉じていたい……そのように感じるほどに。
「リク……」
想い人の名前を呟く。
宛てのない少女は表情を変えることなく、ふらふらと歩き出した。どこにいるか判らない想い人を求めて。
PM14:37 文京区内 ポレポレ
「ありがとう、またよろしくね」
店内にいた最後の客が会計を済ませ出て行く。客の流れがピークとなる時間が過ぎた店内には店独特の静けさが戻った。
「……おい、奈々。いい加減、店を手伝え」
玉三郎は、会計の際に受け取った千円札をレジにしまうと、窓際のテーブルに−店の手伝いもせず、客の流れがピークの際にも堂々とうなだれていた奈々に話しかけた。
「五代さん、なんでこんなに遅いんやろ……」
ため息を吐き、憂鬱な表情を浮かべる奈々。そこだけを見れば、ヒロインが想い人を待ち焦がれるドラマの悲しげなワンシーンだが、仕事もせず、大切な客達の穏やかな一時を大きなため息で台無しにした元凶に対して、玉三郎は呆れ果てて言葉はおろか、なんの感情も浮かばない。
玉三郎は奈々の向かいに座り、奈々と同様にテーブルにうなだれた。
「……はぁ」
「……なんでおっちゃんも溜め息つくん」
「いやぁ……雲が流れていくのを見ると、遠くにいるあの人のことを思い出すなぁって……」
「似合わへん」
前言撤回。怒りがふつふつとこみ上げてきた。
頬をひきつらせながらも、少しずつ体を起こす玉三郎のもとに……
『ジリリリン』
否、ポレポレに電話が入ってきた。玉三郎は、怒りの表情を奈々へ向けながらも電話の下に向かう。
「はい、オリエンタルな味と香りの……おや、桜子ちゃんかい?」
『あの、そちらに五代くんいますか?』
電話の主、桜子に対して営業用の口調を止める玉三郎。
「雄介?なんか関東医大病院に行くって言って、まだ戻ってないけど」
同時刻 長野県警内
「そうですか……いつ頃戻るか聞いていませんか?」
『い〜や、なんも聞いてないよ。あいつ、基本何時に戻るか言わない質だからね』
それを聞き、桜子は少々表情を曇らせる。
長野県の九郎ヶ岳遺跡の近くで発生した大量惨殺事件。桜子はその調査の助っ人を長野県にいる一条の後輩刑事-亀山(かめやま)から依頼されていた。
依頼内容は事件現場に残された、惨殺された未確認生命体の体内から流れ出たとされる血液で書かれた巨大な文字の情報提供だ。その文字の形が九郎ヶ岳遺跡から出土された古代の碑文や数々の物体に記述されていたものと酷似していたため、文字の調査をしていた桜子に話が舞い込んだのだ。
桜子の解析が正しければ、その文字が示すものは、五代雄介が変身するクウガを指し示す『戦士』。文字の形状からしても間違いないはずだが、なぜその文字が残されていたのかという理由が判らない。
それに加え、桜子はこの文字を見た瞬間から疑問を抱いていた。雄介の腹部にあるアークルやそれに組み込まれたアマダムと同じ時代に生きていた、平和を愛した民族-リントが戦いの意味を含めた言葉『戦士』の文字を作ることが、桜子はどうしても判らなかったのだ。
そのような中で最近になって九郎ヶ岳遺跡内部の再現に成功したとの連絡を受けた。
これまでの解析はデジタルカメラの撮影画像を基に行わなければいけなかったため、どうしても細かい箇所までの解析は行えなかった。
故に桜子は長野県にしばらく残り、出土品に記されている文字を直接視て隠されている古代の真実を確認した上で、文字が残された理由について調査することにしたのだ。
そのことを桜子は雄介に簡潔に伝えようとした。あの文字がどういう意味を示しているのかは不明だが、未確認生命体の中で何か動き始めていること、雄介に対しても良からぬことが起こる前触れであることは無意識のうちに理解できたからだ。
『雄介に用事なら、伝えとこうか?』
伝言するかどうかを訊ねる玉三郎。しかし、このようなことを玉三郎に伝えても玉三郎は理解できないと思うので、桜子は伝言を控えようと考える。
「あ、いえ。大した用事ではないので……五代くんが帰ってくる頃にまたかけ直します」
『ただいま帰ってきました!!』
耳元で聴こえた大きな声に、耳から受話器を離す。
「……五代くん?」
『そう、俺です!!』
「ごめんね、すぐに出られなくて」
『ううん、気にしないで。それより体大丈夫だったの?』
「うん、バッチリ!椿先生のお墨付き」
『そっか、それならいいんだけど』
受話器越しに桜子の安堵感が伝わってくる。なんだかんだで彼女を心配させてしまっていることに雄介は申し訳なく思ってしまう。
『それで、用事って?』
雄介が話を切り出したことで、桜子はそれを伝えることを思い出す。『五代さん、無事やったんですね!!信じてました!!』『おい、電話中は静かに……』と受話器越しに聴こえる会話が微妙に気になったが。
「今、未確認関連のことで長野県にいるんだけど、ちょっと長引きそうなの。大学の研究室には入れないってことを伝えておこうと思って」
『そっか。それで、何か分かった?』
「遺跡の再現が完了したらしいからそっちに行って原文を直接見るつもり。ひょっとしたら、今までの解析で判らなかったことのヒントが見つかるかも」
「分かった。気をつけてね」
『うん。あ、そうだ』
桜子の声に、雄介の頭の中に疑問符が浮かぶ。
「ん?」
『もしも碑文の解析結果が見たかったらジャンに連絡してみて。詳しい意味までは載せてないけど、きっと何かの役に立つと思うから』
「うん、分かった。じゃあ、頑張ってね」
『うん、じゃあね』
その言葉を最後に電話が切れる。雄介も受話器を元の場所に置くと玉三郎が抑えていた奈々が身を乗り出してきた。
「五代さん!!」
「ん?」
「何か悪い病気にかかってて、病院に行ってて、状態悪くなって倒れてたんですか!?」
意味不明な言葉に、雄介の頭の中に疑問符の大量の疑問符が浮かぶ。翻訳を求めるように玉三郎の方を向くが、目が合った瞬間に『話をふらないでくれ』と言っているかのように、物凄い勢いで明後日の方向を向いた。
「……え?」
行く宛を失った言葉がポレポレの店内を彷徨っていた。
PM15:43 群馬県山間部
椿に事件の被害者の解剖データを見るように依頼した後、一条は行方不明者である青年の捜索に加わっていた。未確認生命体との戦闘を考慮し、彼の右手には幾度となく雄介の窮地を救ってきた高性能ライフルが握られている。
「一条さん!」
別の隊と共に捜索していた桜井が一条と合流する。
「どうしました?」
「この付近は夜になるとほとんど周りが見えなくなり、危険なようです。少々早いですが、本日の捜索はこれで終了との指示がありました」
「そうですか、分かりました」
現在捜索している範囲は太陽の光がある現在でさえ視界の状況が悪い場所だ。太陽が完全に沈めば逆にこちらが遭難してしまうだろう。
「それにしても」
事件現場に駐車したパトカーに戻る最中、桜井が一条に話しかけた。
「今回の未確認はいつも以上にややこしい動きをしてますよね?」
その点は一条も同じ感想を抱いていた。
これまで未確認生命体はその場にいる人間を基本全滅させてきた。特別なルールを設けられたゲームで、その青年が条件にあてはまらなかった、との見方もあるが未確認と関わった者が行方不明となった報告はなかった。
また、被害者を殺害した場所に関してもそうだ。こんな人気がない場所よりも、人が多い都心部にて条件に合った人間を探す方が効率が良いはずだ。
挙げ句の果てには、複数の未確認が活動している可能性もある。いずれの現象も過去の彼らの行動には全くあてはまらないのである。
もしくは今まで警察が捉えていた活動は彼らがわざとそうしていたもので、実際の目的はもっと別のところにある可能性もあり得る。
思いつく可能性が、また別の可能性を呼ぶ未確認生命体の行動。考えれば考えるほど、泥沼にはまっていく感覚を一条は覚えていた。
「……?」
その時、胸ポケットに入れていた携帯が振動した。ディスプレイには、『椿 秀一』という名前が表示されていた。
「椿か?」
『一条、たった今、被害者の写真と死因のデータが見終わった……とんでもない可能性が出てきたぞ』
緊張感の張り詰めた声が、一条の耳を刺激する。その緊張感がすぐに一条にも伝わり、自然に一条の表情も険しいそれへと変わった。
「一体、何が分かった?」
『直接見た訳ではないから、確実な証明は出来ないんだが……』
前置きと思われる言葉を並べる椿。そして彼は自身が出した可能性についてを一条に語り始めた。
「なんだと…!」
それを聞き終えた一条は、驚いていた。その一言に一瞬携帯電話を落としそうになるが、なんとか意識を取り戻す。その様子から電話の会話を把握していない桜井にも緊張の表情が浮かぶ。
『だから、俺は時間を見つけて被害者の体を直接見に行く予定だ。そこで何か分かったら連絡する』
「あぁ、分かった……頼む」
『一条、くれぐれも気をつけてくれ。何かとんでもないことが起きているかもしれない』
「あぁ……また何か分かったら連絡を頼む」
『分かった』
その一言を最後に椿との連絡が途切れる。電話が終わった後も一条は先程の電話の内容が信じられないといった様子だった。
「一条さん、さっきの電話は……」
桜井が問いかけようとした時、再び一条の携帯が着信を告げた。
「はい」
『一条、杉田だ。そこに桜井もいるか?』
いつも落ち着いている彼の声は、ひどく驚いたようだった。
「はい、どうかしましたか?」
『大至急、戻ってこい。詳しくはそこで話す』
通話はそこで途切れた。椿からの連絡で告げられた仮説が関係しているかもしれないという焦りが自身の中からせり上がってくるのを一条は感じた。
こみ上げてくる焦りに支配されそうな思考の中で。
予想が外れて欲しいという僅かな願いを抱きながら。
一条は衝動のままに、走り出していた。
PM15:27 城南大学
「……さすがに、閉まってるよなぁ」
桜子からの連絡の後、雄介は考古学研究室に訪れようとしていた。しかし、桜子は勿論のこと同じ研究室に出入りしている外国人-ジャン・ミッシェル・ソレルも在室中でなかったため、研究室に入ることは出来なかった。
そして、現在に至るわけなのだが……
「登ってみるか……?」
彼は得意のビルクライミングを実行するべきか悩んでいた。壁を登った後窓から入り桜子を驚かせるのが彼らの再開時の挨拶となっている(一度も驚かせたことはない)のだが、それは部屋の主がいる時にのみ行えること。主がいなければ窓の鍵は閉まっているのが普通なのだ。
それを分かっていながらも、彼は建物の3階にある研究室の窓を地上から見上げている。行き交う人々が雄介を怪しそうに見ながら通り過ぎていく中で……。
「窓の鍵なら閉まってますヨ、五代さん」
研究室の使用者の一人、かつ雄介の理解者の一人であるジャン・ミッシェル・ソレルが声をかけてきた。
「ジャン、ちょうどいいところに!!」
「桜子さんから、五代さんに検索のやり方とか基本的な解析結果の見方を教えて欲しいって言われテ」
「そっか。助かるなぁ」
「でも僕もゴウラムの資料纏めるのとか科警研の手伝いとかで忙しくて、五代さんが来たい日に来れないかモ」
どうやらジャンは研究室の戸締まりについてを述べているらしい。確かに、ジャンも多忙であるから雄介が見たいと思ってもそれを実行できるのは難しいだろう。
それに古代の碑文は今や、未確認生命体の文化や習性を見抜くことに重要な役割を果たしている。そのようなものを開けっ放しの部屋に放置することなどあってはならない行為なのだ。
「なので五代さんに、合い鍵渡しときまス。これでいつでも入れますヨ」
「ホント?サンキュー、ジャン」
サラッと軽く言うジャンに、雄介も軽く合い鍵を受け取る。もはや二人の中には碑文のデータに対する責任感は皆無に等しいのかもしれない。雄介には少なくともその意識があるかもしれないが、ジャンに至ってはあるのかないのか判らないのが、怖い。
「でも、戸締まりはしっかりしてくださいヨ。僕、桜子さんに怒られちゃうかラ」
「分かってるよ、ちゃんとすれば問題ないんだよね」
雄介が言い終わって、二人で研究室の棟に入ろうとしたとき……。
『校内の皆さん、緊急連絡です!この付近に未確認生命体が出現しました!校内の皆さんは速やかに付近の建物に避難して下さい!繰り返します!この付近に……』
「未確認……!?」
その言葉を聞いた雄介の表情は、笑顔の似合う穏やかなそれから険しいそれへと一変していた。付近にいる人も「未確認だって……」「怖いね……」と曇った表情でつぶやきながら、避難していく。
「おぉ、未確認……。この付近にも出るなんテ……」
先程まで明るい表情だったジャンまでもが、その表情を暗いものと変わる。
名前が出ただけで、聞いた者の笑顔を奪っていく未確認生命体。
理不尽な形で笑顔を奪い去るそれを、雄介は見逃せるはずがなかった。
「ジャン、ごめん!!」
「五代サン!?What's happen!?」
突然ジャンのもとから走り出す雄介。その行動に驚いたジャンは雄介に問いかけるが、雄介には聞こえない。
速やかにビートチェイサーを駐車した場所へと走り込んだ雄介の耳には、ビートチェイサーに搭載された無線機の警音が飛び込んできた。
『こちら、池波02、池波02!!西葛飾区三番通りにて未確認生命体と交戦中!!すでに警官12名が負傷しています!!すぐに応援を……!!』
ズキンと、雄介の胸に痛みを感じた。また、理不尽な形で命が奪われようとしている。胸の痛みを押し殺しながらも雄介は無線機から聞こえてきた交戦現場に向かうため、ビートチェイサーを全速力で走らせていた。
PM14:49 東京都西葛飾区三番通
人気がめっきり減った通りに、銃声がいくつも鳴り響く。
それの引き金を引くのは、通りのど真ん中に停められた十台近くのパトカーを操作している警官。
その銃の対象は、目の前にある未確認生命体と呼ばれる異形の怪物。
その怪物の足下には、怪物の手によって負わされた傷にもがき苦しんでいる人々。
そして、その怪物は警官の拳銃を喰らっても何食わぬ顔で警官達に近づき、まるでハエをはたくかのように警官達をたたきのめす。通常の人間をはるかに上回る腕力によって、警官の腕や顔面の骨を簡単に崩壊させながら、また次の警官へと手を伸ばす。
その行為が幾度となく繰り返され、遂に健全な警官が一人となってしまった。未確認生命体の背後にいる倒れた味方を見て、自分に起こり得る未来が脳を支配し、体が全く動かなくなる。ただただ恐怖の表情を浮かべるしかない警官のもとに未確認は一歩ずつ近づいていく。
そして、未確認の手が警官に触れる瞬間……。
真横から、一台のバイクが猛スピードで未確認に突進してきた。そのバイクの出現を予想していなかった未確認はまともに防ぐことが出来ずに吹き飛ばされ、近くの空き家に激突する。その衝撃で空き家は崩れ去り、未確認はその下敷きとなってしまう。
雄介は今がチャンスとばかりに腰を抜かした警官を救助する。
「大丈夫ですか!?早く逃げて下さい!!」
予想していなかった救援に驚きつつも、警官はその場を速やかに後にする。
それを見届けた雄介は再び空き家を見る。そこでは未確認が瓦礫の下から脱け出そうとしていた。
すかさず雄介は両手を自身の腹部にかざす。「力が欲しい、戦いたい」という思いを込めながら、腹部に意識を集中させる。
すると雄介の腹部に銀色をした現代では見られない、現代の言葉で表すとベルトに似た物体が浮かび上がる。
アークル。
未確認生命体を倒すために古代の民族が作り出したものである。
雄介は軽く握った左手をアークルの右端に触れるように、開かれた右手を薬指と小指を少し曲げた状態で左前方に突き出す。
そして、左手をアークルの左端のスイッチのような部分に。
右手は空を切るように右前方へと移動させる。
そして、雄介は叫ぶ。
「変身!!」
前方に突き出していた右手を左手にかぶせるように移動させ、重なった状態でスイッチのような部分を押し込む。
アークルの中央に設置された石-アマダムが赤色に力強く輝き出し、重々しい音が徐々に明るいものへと変わっていく。
そして、今再び重々しい音が鳴り響いた瞬間、雄介の姿は人間の姿ではなくなっていた。
天に向かって突き出した金色の二本角。
昆虫のような、大きく真っ赤な複眼。
筋肉の構造を彷彿とさせる、真っ赤な鎧。
そして、両の手首足首に取り付けられた金の装飾品に埋め込まれた赤い宝石。
そこにいたのは、古代において未確認生命体を倒してきた戦士クウガの姿だった。
雄介の変身が終わった瞬間、瓦礫が吹き飛び、下敷きになっていた未確認が再び地上に姿を現した。
しかし、その姿をみた瞬間……
「……っ!!そんな……!?」
雄介の中に大きな動揺が生まれた。
同時刻 群馬県山間部 事件発生場所付近
杉田からの報告を受けてから一条は走り続けていた。後ろを走る桜井にも目もくれずに、ただただ走り続けていた。
「杉田さん!!」
事件現場付近に建設された捜索本部に戻った一条は普段から考えられないほどの大声を出し、杉田を呼ぶ。
「来たか……」
そう言う杉田の表情は緊張のあまり張り詰めており、また疲れきっているようであった。そんな表情を見たことのない一条は何が起こったのだろうという思いを抱く。
「東京都西葛飾区付近の防犯カメラの映像が、とんでもないものを捉えていた。見てみろ……」
そう言って杉田は自分が見ていたパソコンを一条に見るように促す。それに従い、一条もパソコンの画面を見る。
そして、一条は言葉を失った。
「杉田さん、これって……」
後からやってきた桜井も、画像を見て驚愕していた。
「こいつは、紛れもなく本当のことだ……」
杉田も、画像の内容が信じられない様子で語っていた。発する言葉のあちこちに疲れが浮かんだ様子で。
呆然とする一条の脳内に、椿から受けた連絡がフラッシュバックする。
『過去の未確認生命体の被害者に残された傷と、今回の被害者のそれが完全に一致していた』
それを聞いた一条の脳裏に浮かんだ一つの仮説。
その仮説が正しいことを、目の前の画像が証明していた。
一条が見ている画像の中には。
そして、雄介の目の前には。
かつて倒したはずの未確認生命体第6号が立ちはだかっていた。
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