けいおん!大切なモノを見つける方法 第15話 ムギ先輩と秘密特訓する方法
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 第15話 ムギ先輩と秘密特訓する方法

 

 

 

 

 

TO:フユ

SUB:(^O^)/

TEXT:よっすフユ、久しぶり!こっちは相変わらず先輩たちにしごかれまくってる毎日です、先輩と監督マジ鬼畜(笑) でもおかげで何とかユニフォーム貰えたぜ、当然ベンチだけど。松高行ったわっさんとタカはいきなりスタメンだってさ、スゲーよな!城山先輩ンとこの経西大付属にはヨッシーとか根岸たちが入って層厚くなったし、今年の予選はマジ激熱だぜ!そんで、だ。フユの学校も夏休み入ってんだろ?1回こっち帰ってこいよ、来づらいのはわかるけどさ、みんなの試合応援しに来てくれ!俺やユウあたりとは今みたいにちょくちょくメールしたり電話してるからいいけど、他のみんなお前がどんな感じなんか心配してる。

 

みんな、フユに会いたがってるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が朝の6時を回った頃、カーテンの隙間からこぼれる朝日によって、俺は目を覚ました。

 他人に見せられないような不細工な欠伸を一発かまして、体を伸ばす。

 寝ぼけ眼で部屋を出てふらつきながら杖をガコガコいわせてリビングへ行くと、台所にムギ先輩が立っていた。

 

「おぁようございまーす……」

 

「おはよう、フユくん。まだ眠たそうだね」

 

 ムギ先輩は眠たそうな俺とは違い、テキパキと朝食をつくっていた。エプロンをつけていつものように温かい笑顔のムギ先輩は、なんだか家庭的だ。安い言い方をすると、男としてグッとくるぜ。

 

「すげぇ良い匂い。ナニ作ってるか訊いてもいいですか、ムギ先輩」

 

「どれも手抜きでごめんね。炊き込みご飯とお味噌汁と煮物と、あと鮭も焼くよ」

 

「うわぁ、俺焼き鮭大好き……っ」

 

 早くに目が覚めちゃったから勝手に作っちゃった、と照れながら自分の料理を手抜きだと謙遜するムギ先輩。どれも激しく食欲をそそられる香りを遺憾なく放出している。

 さて、何故に朝から俺とムギ先輩がこのような新婚夫婦のごとくハートフルなやり取りをしているのか、疑問に思った人もいるだろう。

 高校1年生の夏から数年が経ち、俺とムギ先輩は様々な紆余曲折を経て、結婚したのだ。彼女は毎朝俺の為に今朝のように美味しい朝食を甲斐甲斐しくつくってくれる。慎ましくも幸せな新婚ライフを2人で送っているのだ!

 

 …………。

 

 なんてのは、お察しの通り真っ赤な嘘である。そうなったらいいなぁ、という俺の身勝手な憧れは置いておくとして。

 ザ・合宿!

 ぶっちゃけて言えば――いやぶっちゃけなくてもそうなのだが、今現在軽音部の合宿中なのである。今日はその合宿の2日目。初日からペース配分無視で騒ぎまくった結果、いきなり体に疲れが残ってしまった合宿2日目である。

 

「みんなが起きてきたら、朝ご飯にしましょう」

 

「つっても残りの連中は澪先輩あたり以外は起きてくる感じしませんけどねー」

 

 エプロンを外して、手際よくお茶を淹れてくれるムギ先輩。いつもの部室と同じように俺たちは向き合って紅茶を飲む。まだ覚醒しきっていない体に、じんわりと熱が流れてくる。

 

「昨日はいっぱい遊んで、みんな疲れてるんだと思うよ」

 

「ムギ先輩、コレは一応合宿なんスよね……?」

 

 苦笑いするムギ先輩の言う通り、合宿初日の昨日は遊びに遊び倒してしまい、実質の練習時間は正味1時間くらいだった。いかにもウチの軽音部らしい、去年もこんな感じで滅茶苦茶楽しかったとムギ先輩は記憶を探りながら機嫌よく去年の合宿のコトを話してくれる。

 合宿の舞台は海である。目的地に着いた途端に俺たちはハイなテンションに突き動かされるままに海に突撃してしまった。遊ぶだけ遊んで、アリバイ作りのようにちょこっと練習して、その後はBBQパーティ。花火に肝試し、と遊ぶコトに命を賭けるバーサーカーと化した軽音部一同。それらはすべて楽しかったなんて言うまでもないが、もういっそのコト合宿じゃなくてお遊び旅行に変更したらいかがだろうか。

 

「昨日は俺たち、何時くらいまでダベってました?2時くらいには先輩たちの大部屋抜けて自分の部屋のベッドまで突っ込んだ気はするんですけど、記憶あやふやで」

 

「それくらいじゃないかな、フユくんが部屋に帰ってからみんなスグに寝ちゃったし。私は興奮して中々寝付けなくて寂しかったよ」

 

「うはは、ソレなのに誰よりも早く起きてるって」

 

「今日も楽しみでしょうがなくて、目が覚めちゃった」

 

 えへへ、と照れ臭そうに笑うムギ先輩。合宿をイチバン楽しみにしていたのは間違いなく彼女だろう。部室のカレンダーに合宿までのカウントダウンを毎日待ち遠しそうに書き込んでいたムギ先輩は、なんだか可愛らしかった。遠足前日のチビッコみたいでさ、こっちまで楽しくなってくるよな。

 

「さてと……せっかくお互い早起きしたんですから、早起きの得が三文どころじゃねえってコト証明したいな」

 

 また湯を張ってもらって朝風呂するのも悪くないけど、やっぱりここは練習だろ。

 

「ムギ先輩、秘密特訓しましょうよ、秘密特訓」

 

「秘密特訓?……ナニその面白そうな響き、やろうっやりましょうっ」

 

 当然、秘密特訓だなんて言ってもドコも秘密でも特訓でもなく、フツーに楽器いじって遊ぶだけのモノだ。だけど、ムギ先輩はこの手の安っぽい表現が結構好きなのだ。

 

「シュート2万本とかするんでしょう?」

 

「それは違う」

 

「じゃあじゃあ、10倍の重力下で修業したりとかは?」

 

「いや、できないっす」

 

 ……そういや、こないだ律先輩から有名少年漫画借りて読んでたっけか。意外に面白いって言ってたなぁ、ムギ先輩。

 冗談は置いておいて。とにかく、俺の練習に嬉しそうに付き合ってくれるコトになった。

 ヒミツ特訓♪ヒミツ特訓♪と楽しそうに呟きながらムギ先輩は意気揚々と立ち上がってティーカップを流しにカチャリと滑らせる。

 俺たちはスタジオへ向かうコトにした。

 

「にしてもホントにでっかい別荘ですよねぇ」

 

 軽い足取りのムギ先輩についていきながら、俺は改めて感嘆の声をあげる。

 ここらで疑問に思ったハズだ。スタジオ?別荘?おいおいアンタら一体ドコで合宿してるんだよ?音響設備の整った合宿所なんてあるのか?漫画やドラマみたいな別荘じゃあるまいし。と。

 トコロがどっこいその通り、漫画やドラマのような別荘でこの合宿は行われているのだ。今だに俺も信じられないが、ムギ先輩の家はガチで別荘を持っていたりする。彼女の家が裕福なモノだというのはなんとなく察していたのだが、これほどまで巨大な別荘を有している琴吹家の財力はあまりに規格外。この別荘よりはるかに小さな家に住んでいる俺みたいな小市民は正直ビビっちまうね。

 

「そんでスタジオまで設備されてるってんだから、驚きだ」

 

 部室よりも広いスタジオに入室する。新しいのかよく掃除されているのか、とても綺麗だ。機材も充実している。昨日みんなで来たとき、澪先輩や梓が機材のグレードに狂喜乱舞してたもんな。

 ふと、ムギ先輩を見た。いつものような温かい笑顔。だけど、なんか違和感を感じる。そして、俺はその違和感の正体を微妙にわかっていたりするのだ。ムギ先輩から愚痴ってくれるのを待っていたんだけど、もうこっちから言っちまおう。

 

「ムギ先輩さ、本当はココで合宿やりたくなかったでしょ?」

 

「…………」

 

 ムギ先輩はキーボードをセッティングする手を止めて、うーん、と困ったように苦笑いをする。

 

「勘違いだったら余計な気回してゴメンナサイだけどさ、なんかそんな気ぃするから」

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

「別荘のコト褒められてるときのムギ先輩っていつもみたく笑顔だけどどっか気落ちしてるような気がして……、で俺がムギ先輩の立場だったらあんまりいい気分じゃねえなって思ったダケ」

 

 合宿が始まっている以上こんなコト言っても意味はない。むしろこんなコト言えば逆にムギ先輩は気を悪くするかもしれないけれど、ひょっとしたら力になれるかもなんて甘っちょろいコトを思ってしまったのだ。

 

「……やっぱいらん世話でした?」

 

「ううん、違う違う。ただ……フユくんってよく見てるなぁって」

 

「そりゃ視野狭いガードなんて意味ないですから」

 

「がーど?」

 

「あわわわ……っ。なんでもないっす」

 

 いかんいかん、調子乗って口を滑らせてしまった。話を戻そう。

 

「俺が言いたいのは『そんなに気にするコトじゃない』とかそーいうんじゃないよ?」

 

 極端なコトを言ってしまうと、ムギ先輩の気持ちはムギ先輩にしかわからない。ムギ先輩は裕福で、恐らく彼女は自分の環境と周りの人の環境が大きく異なるコトを知っている。俺が勝手にムギ先輩の気持ちになって、その相違点をムギ先輩が嫌っているかどうか勝手に予想しているに過ぎない。本人しかきっとわからない。

 だから、俺が言いたいのはそういうコトじゃなくて。

 

「ムギ先輩ってさ、ウチの面々の中じゃイチバン大人ですよね。だからっつうワケでもないんでしょうけど、周りに気を遣って言いたいコト言わないときありません?いっつもニコニコ笑って、我慢してさぁ」

 

 なんで後輩にそんな偉そうなコト言われなきゃならないんだ、とムギ先輩は思っているかもしれないけれど、彼女はニコニコしながら俺の話を聞いてくれる。

 

「もっとワガママになった方が楽だよ、きっと。うはは、ワガママなムギ先輩ってのも想像しづらいけど。家が裕福だろうが貧乏だろうが、優しかろうがワガママだろうが、みんなムギ先輩が好きだから先輩の周りにみんな集まってくるんですよ」

 

「嬉しいコト言ってくれるなぁ、フユくんは」

 

 そうやってニコニコと笑っているムギ先輩は、やっぱり大人だ。

 心の中で、俺は舌打ちをした。正直、ムギ先輩には感情丸出しにして内心を話して欲しかったけれども、やっぱり彼女はニコニコ笑っているだけだ。

 ムダなコト言っちまったなぁ、と反省しながらギターのチューニングを始める。さっさと練習して俺が作ってしまったこのヘンな雰囲気を払拭させよう。

 そう思ったのだが。

 

「フユくんって苦手な食べ物ってある?」

 

「……へ?」

 

 いきなりムギ先輩は突拍子もないコトを言いだした。おまけに俺のすぐ後ろにまで近づいていた、チカイチカイ。

 

「私ね、昔から椎茸がどうしても食べられなくてね」

 

「えっと……ムギ先輩?なんの話ですか?」

 

 ど、どうしたんだ?いつもに増して天然ってるぞ、ムギ先輩。

 ちなみに俺はレバー系がNG。感触がなんかムリなんだよなぁ。

 

「一緒なんだと思うの」

 

「一緒?ナニがです?」

 

「私の家が他の人とちょっとばかし違ってるのって、食べ物のスキキライが人それぞれっていう程度のコトと一緒なんだよ?」

 

 極論、だよな。

 

「みんな、自分が周りの人と違っていたらイヤだよね。フユくんが気付いてくれた通り私なんて言うまでもないし、フユくんだってそうでしょ?」

 

 ムギ先輩のそんな言葉に、俺は思わず自分のポンコツな右脚に視線が移ってしまう。みんなと違う、決定的な欠陥点。

 

「ま、そりゃそーですけど、人とは違う個性が欲しいってのも誰にだってある心理ですよ」

 

 自分の脚のことを見抜かれたみたいな気持ちになって、俺は反抗したいだけのガキっぽい思考で反論をする。

 本当は俺だって、みんなと同じ脚が欲しい。

 

「うん、そうだね。だけど私は個性よりも、みんなとの共通点が欲しかったんだ。高校入って軽音部のみんなと出会って、ひとつナニか共通点あったら嬉しくて、ひとつナニか相違点あったら焦ってね……」

 

 ムギ先輩は表情変えずに続ける。

 

「でもいいんだよ。ありきたりで普通のコトなのかもしれないけれど、みんなと一緒にいるとね、そういうの気にならなくなるの。いや、気にしなくてもいいんだって気持ちになれる……かな」

 

「まぁ、わからなくもないですけど」

 

「だから、大丈夫っ。心配してくれてありがとね、フユくん」

 

 別に心配なんてしてねぇよ、と否定しようとしたけど、冷静になって考えてみればどうやら俺はムギ先輩のコトが心配だったらしい。ムギ先輩は大人だし、今みたいに強い考え方ができる強い心の持ち主だ。だけどなんで俺はムギ先輩に対して、こんな風に思ったのかよくわからなかった。

 

「すーーーってね」

 

「……?」

 

 ムギ先輩は自分の胸に手を当てて、すー、と息を吐きながら微笑む。

 

「フユくんと話してると、胸がすーーってなって物凄く気分が楽になるの」

 

 なんだそりゃ?

 

「今みたいに、フユくん心配してくれてるんだぁってわかったとき、すーーってなるの。とってもとっても嬉しいんだよ。だからそのお礼。ありがとうっ」

 

「……どういたしマシテ」

 

 ちぇ、結局ムギ先輩にはぐらかされた感じするなぁ、なんて思ったけど、褒められ慣れていない俺は簡単に機嫌がよくなって、実際はぐらかされてしまう。

 ムギ先輩みたいに、強くなりたいって思った。

 

「あーあーあー、まぁムギ先輩がソレでいいなら、俺もソレでいいや」

 

 ちょっとばかり熱を持ってしまった自分の頬を誤魔化すために、いつもの軽口を叩く。

 

「でも、言いたいコトはちゃんと言ってくださいよ?『てめぇ後輩の癖にチョーシ乗って説教垂れてんじゃねえぞ』とかさっ。うはは、ムギ先輩が逆立ちしても言わなさそうな――――」

 

「てめぇ後輩の癖にチョーシ乗って説教垂れてんじゃねえぞっ!?」

 

「…………」

 

「……で、いいの?こ、コレでよかった?」

 

 逆立ちしても言わなさそうなセリフをかますムギ先輩。

 

「ま、マジで言いおったで、この先輩……!」

 

「え?え?ダメなの!?言っちゃダメってコトだったのっ?ちょ、ちょっと待ってごめんなさいフユくん!……もう1回、もっかい最初からお願いっ」

 

「なんスか、もっかい最初からって!?イイ感じの話の流れじゃなかったんかいっ」

 

「もう1回、もっかいチャンス頂戴フユくんっ!?テイクツー!」

 

 と、そんなこんなで楽しくも阿呆なやり取りを繰り広げながら、俺とムギ先輩は他のみんなが起きてくるまで秘密特訓をして遊んだ。

 ジブリやディズニーのピアノロックとか、ムギ先輩の語り弾きとか、相当レアだったんじゃないか?早起きの得は、やっぱり三文程度じゃ釣り合わないってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やたらみんな午前中の練習のとき気合入ってんなーと思ってたら、コレかい……」

 

 青い空。青い海。白い砂浜。

 オン・ザ・ビーチ!である。

 パラソルの下、俺は目の前に広がる光景を眺める。梓と唯先輩と律先輩と澪先輩が、波打ち際でビーチボールを使って楽しそうに遊んでいた。

 俺の隣では、ニコニコと笑顔のムギ先輩がレジャーシートに座っている。

 ムギ先輩との秘密特訓の後、午前中はみっちりみんなで練習メニューをこなしたワケだが、昼飯食ってから今現在まで昨日と同じように海で遊んでいるのだ、ウチは。

 あんだけ練習したんだから午後は遊ぶぞーっ、と声高らかに宣言しやがったウチの部長を、最初は止める側にいた澪先輩と梓も見ての通り、非常に良い笑顔でビーチバレーボールに興じている。唯先輩に至っては言うまでもない。

 

「まあまあまあまあ、息抜きも大切ってコトだよ、フユくん」

 

「息抜き過ぎて、カラダに空気無くなっちゃいますよ」

 

 息抜きだと言っているムギ先輩は、実際は遊びたくてしょうがなかったらしく、早々に水着に着替えていた。

 海にいる以上当然のコトだが、俺たちは全員水着を着用している。俺もムギ先輩も、砂浜で遊んでいる先輩たちも、である。女の子の水着姿、それも自分の部活の愛すべき先輩方の水着姿。ソレらについて細かく描写し、ソレに対して俺がどういう感想を抱いて、どれほどテンションが上がったなんてのを細々説明していると、本当に日が暮れてしまうのと同時に俺が変態扱いされてしまうので割愛させていただく。とりあえず、生きていてよかったと、そう思いました。

 

「フユくん、海で遊ぶの嫌い?」

 

「や、嫌いじゃないですけど……」

 

 海で遊ぶなんて滅茶苦茶楽しいコトが嫌いな人間なんているのかどうかわからないけど、今回に限り俺は嫌だった。脚の怪我の所為で満足に遊ぶコトができないのは、まだいいんだ。ただ、右脚の傷跡や手術痕をみんなに見られるのがたまらなく嫌だった。

 右足首周辺の肌は濁ったように変色し、刃物を入れた痕がはっきりと残っている。当然、優しいみんなは気を遣って見ないフリをしてくれる。俺も気付かないフリをする。女々しいってわかっているんだけれども、それがどうしても辛い。

 

「また砂のお城作らない?昨日よりおっきいの」

 

「んー……、もうちょっと休憩しときます。ムギ先輩も部長たちに混ざってきたら?」

 

「じゃあ、私ももう少し休憩っ」

 

 ムギ先輩はこうやって俺を一人にしないよう気遣ってくれる。まあ日に焼けたくないっていうのもあるんだろうけど、こういうのって嬉しいけど申し訳なくなるんだよな。

 俺はごろんとレジャーシートに寝転がった。ムギ先輩の水着姿最高だなぁ、なんて邪な眼でムギ先輩を盗み見ていると、彼女もチラリと俺の右脚を盗み見ているコトに気付く。みんなにはいつか治ると言っているポンコツの右脚。この嘘はいつまで続くんだろうか。

 

「ムギ先輩、今朝の話の続きだけどさ」

 

「うん、どうしたの?」

 

「人とナニか違うトコあっても、そんなん食い物のスキキライの違いだって言ってたスよね?」

 

 イイ話だと思った。ムギ先輩らしい強い考え方だと。

 

「例えば、例えばの話だけど。登場人物Aくんはさ、もうコレしか食べたくないってくらいに大好物があってさ、ある日突然その大好きな食べ物が食べられなくなっちゃったら……どうなんだろう?」

 

 こんなコト訊いても、意味なんて無い。

 

「もうAくんの人生って、終わってない?2番目3番目の好きなモンで妥協して生きていきなさいってコトなんかなぁ……」

 

 ほとんど独り言だ。ムギ先輩は俺がナニ言ってるかワケわからないだろう。俺もよくわかってない。

 ぽかんと口を開けたムギ先輩を見て、俺はアホなコトを言ってしまったコトに気付く。やっべー、構ってもらいたがりの恥ずかしいコト言っちまった。優しいムギ先輩に、そんなコトないよ、って慰めてもらいたいのか俺は。

 

「とかなんとか言っちゃったりしてっ。俺の大好物は和食だから、今朝のムギ先輩の作ったご飯チョー美味しかったッスよ!」

 

 誤魔化すように馬鹿丸出しの声をあげる。ちなみに本当に俺は和食が大好きで、朝食はストライクゾーンの真ん中であった。煮物とか大好き。

 

「焼き鮭ウマかったし、煮物も最高っ。ムギ先輩はゼッタイ将来いいお嫁さんになりますねっ」

 

「え、えっ?ふ、フユくん?急にどうしたのっ?」

 

 アホなノリでゴリ押しじゃ、ゴリ押し!どさくさに紛れて言ってやろう!

 

「ムギ先輩の作る味噌汁なら俺毎日飲みたいなぁ。あ、そーだっ。よかったら俺と結婚してくださ―――ぐぇええっ!?」

 

 いつの間にか近くまで来ていた梓のカカト落としが俺の腹に炸裂した。

 突然の衝撃に、俺悶絶。

 

「なーにーしてるのか、なぁ?フユぅ……!?」

 

 俺にネリチャギを叩き込んだ犯人は、とんでもねぇ迫力で俺を見下ろしている。ムギ先輩の優しい笑顔とはベクトルが180°異なる恐ろしい笑みを浮かべている。

 

「冗談に決まってんだろが、バカ梓っ!?」

 

「冗談に聞こえないっての、バカフユっ!」

 

 この場合、怒っていいのは俺の方だと思ったが、何故か梓まで怒っている。突発的にブチ切れる梓の性格は何とかしてほしいモンだ。原因不明ってのがタチ悪い。

 

「ビーチバレーでぎったぎたにしてやるぁ、梓……!」

 

「怪我人が調子乗らないでよね。ムギ先輩、こんなバカ放っといて、こっちで一緒に遊びましょう?」

 

「まあまあまあまあ、落ち着いて梓ちゃん」

 

 俺たちはパラソルから出て、律先輩たちの方へ向かう。容赦ない日差しが、何故か心地よい。

 

「フユーっ、ムギーっ!早くこっち来いよーっ!」

 

 大声を上げて、俺たちを誘う律先輩。唯先輩は落ち着きなくピョコピョコ跳ねていて楽しそうだ。傍で澪先輩がこっちに向かって大きく手を振っている。

 そんなみんなを見ていると、右脚の怪我のコトが、すーっと薄れていくような気がした。

 

「確かに、みんなと一緒にいると、みんなと違ってるトコあっても、気にしないでいいやって気持ちになれるなぁ……」

 

 小さくつぶやきながら、思う。今朝ムギ先輩が言っていたのは、こういうコトだったのだろうか。

 ソレは所詮、錯覚なのかもしれないけれど、悪くない錯覚だと思った。

 

「フユ、早くしなさいよ」

 

 まだ不機嫌そうだけど、俺のコトを必要としてくれる梓。

 

「フユくん、一緒に行こう?」

 

 俺の手を取って、いつものようにニコニコ笑ってくれるムギ先輩。

 

 

 

 

 

 

 大丈夫だ、みんないる。みんなと一緒なら、気にしてるヒマなんてないぐらい毎日が楽しい。だから、大丈夫だ。

 

 俺は幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、この夜、目が覚めてしまう。

 自分が泣いているコトに、気が付いたからだ。

 

 

 

 

 

 

説明
勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。
Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。

よかったらお付き合いください。
首を長くしてご感想等お待ちしております。
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