高みを目指して 第13話
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飛翔、別れ、地獄

 

side 零樹

 

 

いつもの夢の中でオレは座り込んでいた。どれだけの時間が経過したのか分からないが中々決心がつかずに考え込んでいた。ようやく決心がついたのか鎖が守っている中心を向く。

 

「シン、封印を解いてくれ」

 

その言葉と共に鎖が次々に砕けていき、オレが生涯で一番愛した女性が現れる。

 

「アリス」

 

「零樹」

 

どちらからとも分からないがただ抱きしめあう。

 

「今まで、無様な姿を見せ続けてしまったな」

 

アリスの前ではオレは戻れる。あの頃のオレに。

 

「ええ、存分に見せてもらいました」

 

「失望したか」

 

「そんな訳ないでしょう。それらも含めて零樹なんですから」

 

苦笑しながら互いに離れる。そこから真面目な顔になる。

 

「さて、ようやくこの封印を解いたということはレイトさんが施した封印も解けたのでしょう」

 

「ああ、オレだけに記憶の封印が施されていたこと。この夢は実際にアリスに繋がっていること。そして、アリスは未だにあの世界の輪廻に囚われていること。シンはこの夢を繋ぐ為に本来の姿に戻れないこと。そして、この封印を解いた以上、もうこの夢を見ることが無いことを全て思い出した。アリス、オレは君との約束を守ることも出来なかった」

 

「それはいつでも傍にいるという約束ですか?それともあの子を私達の娘だと思って育てることですか」

 

「両方だ。あの時、オレが傍にいれば守りきれたかもしれない。そうすれば今も一緒に居られたかもしれない。メイサもオレたちの娘であったと自信を持つことが出来ない」

 

もしあの時こうしていれば、なんてことはいくらでもあり、それが無駄であることは十分に理解している。でも、そのもしを200年程世捨て人になって考えるぐらいにオレには重要なことだった。

それに対するアリスの答えは

 

「バカですね〜」

 

「バ、バカって、オレは」

 

「バカですよ。私はあの子を守れて満足しました。零樹と離れるのは嫌でしたが、それでも何かを残せた結果に満足出来ました。零樹に取っては辛かったでしょうが。そして、あの子と一緒に笑っていられましたか」

 

「…………半年だけだったかもしれないが、確かに心から一緒に笑ってたよ」

 

「ならその半年分だけでも自信を持ってあの子の親であったと思っても良いでしょう」

 

「……やっぱアリスには敵いそうにないな」

 

涙と笑いが同時に込み上げてくる。それを隠そうと右手で顔を覆うも膝から崩れてしまう。それを見てアリスは優しく抱きしめてくれた。心を覆っていた氷が完全に溶けきる。

 

 

 

しばらく泣いた後、立ち上がり向き合う。

 

「すまない、もう大丈夫だ」

 

「それなら良かった」

 

「アリス、少しだけ待っていて貰えるか。オレがやるべきことがまだ残っている」

 

「ヴィヴィオちゃんのことね。分かってる、あの子を守ってくれる人が現れるまで守ってあげて。私はいつまでも待ってるから。でもできるだけ早く、私を攫いに来てね」

 

「ああ、約束するさ」

 

再びキスをかわし、ずっと大事に持っていたパクティオーカードが蘇る。

ここに再び世界を秘めし神殺しが飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 

夢から覚めて一番に眼に入ったのは白い天井だった。すぐに起き上がり周囲を見ると今にも消滅しそうな咲夜が眼に入る。

 

「状況は」

 

「ヴィヴィオ様は連れて行かれました。現在あそこに浮かぶ船、聖王のゆりかごに居ると思われます。また六課は壊滅、その機能を次元航行艦アースラに移して活動しています。現在、聖王のゆりかごの迎撃任務に就いています。それから前回の戦闘でギンガ様が拉致され、おそらく洗脳を施され前線に出ています。こちらはスバル様が、残りのナンバーズをエリオ様が抑えています」

 

「ご苦労だった。ゆっくり休め」

 

「はい、失礼します」

 

咲夜が消滅したのを見送り窓を開ける。

遠くに見えるひと際大きな船、そこにヴィヴィオがいる。その手前にはガジェットの群れとそれと交戦する管理局員。ビルの屋上で電撃を放っているのはエリオだろう。

そこで一度自分の内面に意識を潜り込ませる。一番奥底にいるシンを確認する為に。一番底には白い服を着て胡座をかいて座っているオレが居た。

 

「こうして会うのは久しぶりだなシン」

 

「まったくだね。なんせずっとあの夢の構築をしていたんだ。それ以外する余裕が無い位にね」

 

「それはすまなかった。お詫びといってはなんだが空を飛びたくはないか」

 

「へえ〜、良いのかい」

 

「ああ、その代わりちょっと羽虫を撃ち落とすのを手伝ってくれないか」

 

「それ位なら構わないさ。で、どれ位自由にしていて良いんだい」

 

「本来なら飽きるまでと言ってやりたいがこの世界を離れるまでとしか言ってやれないな」

 

「それは自由に出入りして良いってことだよね」

 

「ああ」

 

「なら今すぐ行こう」

 

内面世界から戻り空に飛び出し詠唱を始める。

 

「我が身に宿る大いなる意思よ。我が身を喰らいて汝が過去を映し出せ」

 

次の瞬間、背後に巨大な魔法陣が描かれ、陣の向こう側からあまりにも巨大な白い竜が姿を現す。その大きさは聖王のゆりかごすら越える。

 

「ちっ、やっぱりこの世界じゃあこのサイズが限界か」

 

『飛び回る分には問題ないさ』

 

そういうシンの頭に飛び乗りアースラに通信を繋ぐ。それと同時にシンが口内に魔力を集中させ始める。

 

「見えているだろう。とっとと射線上から管理局員を撤退させろ。障壁なんか紙同然に突き破るぞ」

 

『紙同然?そんな物なんて無いさ』

 

「訂正。防御不可だ。カウント10、9」

 

カウントとシンの魔力に気付いたのだろう。慌てて管理局員が逃げていくのが見える。

 

「2、1、撃て」

 

合図と共にシンの口から魔力弾が放たれ、

 

 

 

 

 

 

射線上にいた全てのガジェットとゆりかごの後部部分が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「おい、あそこにヴィヴィオや姉さん達が居たらどうするつもりだ!!」

 

『久しぶりで加減が分からなかった』

 

「ええい、もういい。オレはこのままゆりかご内に突入する。お前は好きにしていていいぞ」

 

咸卦法と超長距離瞬動を用いて誰よりも速くゆりかご内に突入する。

 

『こらぁーーー、零樹。危うく死ぬ所だったじゃない』

 

突入すると同時にリーネ姉さんから念話が入る。

 

『文句はシンに言ってくれ』

 

『シン?シンって、なんでシンが』

 

『父さんが色々と細工を施してたみたいだ』

 

『そうお父様が』

 

『今度会ったら一発殴る』

 

『当てられると良いわね。それよりヴィヴィオちゃんの所までの案内は居るかしら?』

 

『いる。最短コースをお願い』

 

『最短コースだと、ディエチと屑の転生者が2名いるわね』

 

『屑?』

 

『ヴィヴィオちゃんをいやら『この世から消し去ってくれるわ』……はいはい、そいつらは見ればすぐに分かるわ』

 

姉さんの案内の元、通路を突き進んでいると大きな魔力反応が二つ接近してきた。そして、銀髪オッドアイと最終幻想の8に出てくる主人公っぽいのが現れる。

 

「あい「アデアット。ヴァサヴィ・シャクティ」

 

視界に入ると同時にアーティファクト、直死の片眼鏡を展開。投影出来る中で最強のヴァサヴィ・シャクティを構え、魂の死の点を貫き消滅させる。

 

「よし、ゴミは片付いた。待ってろよヴィヴィオ」

 

全力で走っていると前方から更にガジェットの群れがやってくるが咸卦法によって強化された肉体の体当たりで粉々に吹き飛んでいく。更にはディエチの砲撃も物ともせずに突き破り、跳ね飛ばす。後に管理局員がこの戦闘記録を偶々見た際に理不尽すぎる結果に嘆いていた。

 

『そのまま正面の障壁付きの扉を壊せば到着よ』

 

「十七分割にしてくれるわ」

 

ナイフを16本投擲して宣言通り十七分割にして部屋に突入する。

 

「助けに来たぞヴィヴィオ」

 

「パパ」

 

そこそこの広さのある部屋の奥の一段高くなっている場所に椅子が置かれ、そこにヴィヴィオが固定されている。

 

「ああああああああああああああ」

 

駆け寄ろうとするとヴィヴィオが急に悲鳴をあげる。それと同時に莫大な魔力が放出される。それに対してオレは落ち着いて状況を見極める。こんな状態こそ冷静に慌てずに行動する必要がある。逸る気持ちを抑えてじっとヴィヴィオを視る。

 

『あらあら、娘さんが心配じゃないんですか〜?薄情な親ですね〜』

 

空間ウィンドウが目の前に展開されクアットロが映し出される。それには眼もくれずに直死の片眼鏡を付けている右目に集中する。

 

「ヴィヴィオに何をした」

 

『本来の力を取り戻しているだけですよ。古代ベルカ王族が自らその身を作り替えた究極の生態兵器、レリックウェポンの力を』

 

「パパー、やだ、パパーーー」

 

「ヴィヴィオ、少しだけ我慢してくれ」

 

『すぐに完成しますよ。私達の王が。ゆりかごの力を、無限の力を振るう究極の戦士』

 

「パパーー」

 

「……そこだ」

 

直死の片眼鏡を通して見えたある死の点を貫く様に投影した剣をヴィヴィオに向かって投擲する。

 

『なっ!?』

 

投影した剣がヴィヴィオに突き刺さると放出されていた莫大な魔力が一瞬にして消え去ってしまう。魔力が一気に無くなったショックでヴィヴィオが気絶したのを確認する。

オレはすぐにヴィヴィオに駆け寄り剣を引き抜いて破棄する。それからヴィヴィオを拘束している金具を引きちぎりおかしな所が無いかを確認する。クアットロが唖然としているが今重要なのはヴィヴィオが他に何かされていないかを確認する方だったので放置しておく。

 

「よし、どこも問題ない。良かったなヴィヴィオ。それから遅くなってすまなかった。さあ、帰ろう」

 

『ちょっ、ちょっと待ちなさい。一体何を、というよりさっきの剣は』

 

「どんな物や事象にも“死”というものが存在する。オレはその“死”を引き起こす部位を視覚的に視ることができる。そしてヴィヴィオの中にあったヴィヴィオとレリックのパスを殺させて貰った。そしてあの剣、ルーン・セイブは実体を切ることが出来ない剣だ。だが魔力を切り払ったり封印なども施せる便利な剣だ。その力を持ってヴィヴィオから溢れ出していた魔力を全て取り除かせてもらったまでだ」

 

ああ、忘れる所だった。

 

「よくもヴィヴィオに変なことをしてくれたな〜。今からお礼を送ってやる。たっぷりと味わうと良い」

 

右手に魔力を集中させ前方やや下ら辺に向ける。

 

『何を』

 

「オレとあの竜ってさあ、同一の存在なんだよ。つまりあの竜の魔力砲とオレの魔力砲は完全に同質なんだ。それとこの場に空間ウィンドウを開いたのも失敗だったな。おかげで貴様の位置が判明した」

 

『まさか』

 

「あばよ」

 

容赦なく放たれた魔力砲は壁を全て貫通し、クアットロを飲み込み、地殻すらも突き破り宇宙にまで伸びていった。

 

「収束させればここまでいけるか。ああ、それにしてもこの世界での魔法は疲れる」

 

影に飛び込み、自宅兼工房に戻る。そのままヴィヴィオと一緒にベットに潜り込み、寝ようと思った所でギンガが洗脳されていたのを思い出し、エリオも他のナンバーズを一人で抑えていた気がしたので気になり始めてしまった。どうしようか悩んでいるとヴィヴィオが眼を覚ました。

 

「パパ?」

 

「安心しろ、もう大丈夫だ。ここは安全だからな」

 

ヴィヴィオが辺りを見回して自分たちの部屋だと分かると安心したようでした。

 

「ヴィヴィオ、ちょっとだけ寝ていてくれるか。パパはこれからギンガやエリオを助けてやらないといけないから」

 

「うん、良い子で待ってる」

 

再び眠ってしまったヴィヴィオを優しく撫でてから新しく護衛として永琳、衣玖、慧音、さとりを召還してから外にでる。

ギンガの魔力の近くに転移するとスバルがギンガに撃墜されているのを見かけた。

 

「少しはやると思ったのだが見当違いだったか」

 

符を取り出しそれをスバルに向かって投げる。符はそのまま空気に溶け込み風となってスバルを包み込み地面に降ろす。

 

「さて、次はオレの相手をしてもらおうか」

 

ギンガが展開しているウイングロードに飛び乗り、親友に誕生日プレゼントで貰ったローラーブレードを履く。ついでに遊びで作った小手も装着する。そんなことをしているうちにギンガがこちらに突っ込んでくる。

 

「だが、甘い。喰らえブロウクンマグナム」

 

起動キーと同時に右手に装着していた小手が勢いよく飛び出す。ギンガはそれを障壁で受け止めようとするが普通に貫通してリボルバーナックルを大破させる。もちろんオレが放った小手、ブロウクンマグナムもだが、必要なら投影すれば良いだけなので問題が無い。リボルバーナックルが壊れてもギンガはそのまま襲いかかってくる。それに合わせてオレも見よう見まねのシューティングアーツで対抗する。

 

「スカリエッティは何も分かっていないみたいだな」

 

目の前にいるギンガは確かに以前よりもスペックが高くなっている。だが、オレに取っては弱いとすら感じる。今のギンガには心が、意思が感じられない。意思なき拳に重さは宿らない。重さ無き拳に脅威を感じない。脅威を感じない相手に負けるオレではない。

 

「今助けてやる。少しだけ痛いぞ」

 

クロスカウンター気味に顎を殴り脳を揺らす。ふらついた所で足を払いウィングロードから落とす。オレも飛び降りエリオからくすねておいたカートリッジを握りしめて砕き、魔力を拳に乗せる。オレが非殺傷設定の攻撃が出来ない理由は魔力が異なるせいなので、後は自分で術式を組み立てるだけだ。

 

「一撃必倒、メイルバスター」

 

名前も適当に始動キーから持ってきて収束砲をギンガに叩き込む。若干、オレの魔力が混じったのか多少怪我が目立つがたいしたことは無いだろう。一応治癒符を使用して怪我を癒しておく。

 

「ギン姉〜」

 

「スバルか」

 

「零樹さん、ギン姉は」

 

「魔力ダメージで気絶させた。とりあえず洗脳が解けたか分からない以上は拘束した上で後方に送るぞ。案内してくれ」

 

「はい」

 

スバルの先導で後方に向かいながら状況を確認してもらう。

ゆりかごは既に落ち、ナンバーズもエリオが大半を単独で撃破、現在は残党狩りの様な状況らしい。スカリエッティのアジトには高町一尉とハラオウン執務官が向かい逆に拘束されているらしい。

 

「オレとエリオで救出に向かう。八神二佐、何か問題はあるか」

 

『ホンマやったらウチがなんとかしたいんやけどお願いするわ』

 

「了解だ。スバルはこのままギンガの傍に居てやれ」

 

「うん、なのはさん達をお願いします」

 

「ティアナとキャロも一旦下がれ。これ以上の戦闘は休息を挟んでからにしろ。エリオ、ポイントB53で合流するぞ。そこからはシン、あのデカイ竜でアジトまで強行する」

 

『了解』

 

『シン、足代わりを頼む』

 

『いいよ、場所も大体は把握している』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこで右に切り払ってから蹴り、反動を利用して周囲を切り払う」

 

アジトに突入すると結構な数のガジェットが襲いかかってきたのでエリオの踏み台にするべく課外授業を行っている。主に一対多数の時の効率的な動き方の指導だ。

 

「大体は掴めてきたみたいだからスピードを上げるぞ」

 

「はい」

 

進行の邪魔になるガジェットだけを破壊しながら一気に最新部まで突き進む。そして、あからさまに誘導されているのに気付いたがそれに乗ってやることにした。

 

「時空管理局です。おとなしく武装を解除して投降してください」

 

先に突入したエリオが名乗りを上げる。

 

「隊長陣がそんなんで大丈夫なのか?」

 

「「エリオ、零樹!?」」

 

「ほう、まさか君まで来るとは少し予想外だったよ」

 

「まあ、オレも最初は来るつもりは無かったんだが弟子の修行(お遊び)と一つ確認したいことがあってな」

 

「確認?なんだい」

 

「ヴィヴィオにレリックを埋め込んだのはお前の指示か」

 

笑顔で全力の殺気をスカリエッティにぶつける。その余波だけでスカリエッティの後ろに居たトーレとセッテが一歩退く。高町一尉とハラオウン執務官ですら震えている。それを直接受けているスカリエッティは何ともない様にしている。なぜなら自分がオレと敵対することは無いと知っているから。

 

「いいや、あれはクアットロの独断さ。私は既にレリックに興味は無いのでね。全てクアットロに譲っているのさ」

 

「そうか」

 

殺気を抑えて後ろに下がる。

 

「エリオ、一人で出来るだろう」

 

“千の雷”を込めた弾丸をエリオに投げ渡す。

 

「はい」

 

それを受け取ったエリオはストラーダに装填する。装填すると同時にストラーダが闇の魔法の術式を展開させ、いつでも発動出来る体勢を取る。

 

「トーレ、セッテ、油断してはいけないよ。彼は既にそこの二人を超えているよ」

 

「「はっ」」

 

「行くよ、ストラーダ」

 

『Method fixation,grasp』

 

カートリッジが炸裂すると同時にストラーダを通してエリオが変化する。一番の特徴は綺麗な赤色だった髪が青白くなり逆立ち、全身から放電現象が視られる。

 

「ほう、実に興味深い。時間があればじっくりと観察したい所だが、駄目だね」

 

スカリエッティがそう言った時には既に決着が付いていた。トーレとセッテは壁に叩き付けられ、スカリエッティは両腕のデバイスを破壊され、ストラーダの穂先が首に突きつけられている。

 

「降参だよ」

 

両腕を上げるスカリエッティをバインドで拘束してからエリオは闇の魔法を解除する。それを確認してから高町一尉達を拘束しているケージとバリアとバインドを引き千切る。

 

「あとはオレが居なくても問題ないだろう。帰ってゆっくりさせて貰うぞ」

 

影のゲートを開き、再び自宅に戻りシャワーを浴びてから眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブルを挟んだ向かい側に座っているリーネ姉さんにシンのことやアリスのことを説明する。フェイトと刹那姉さんは次の世界に渡る準備をしているためここには居ない。

 

「そう、そんなことがあったの」

 

「ああ、だからオレはヴィヴィオが嫁に行くまではこの世界に残って、その後はあの世界の平行世界を虱潰しに渡って、アリスを探し出す。だから、ここで一度お別れだ」

 

「寂しくなるわね」

 

「アリスを見つけたら追いかけるさ。ここ数回の世界渡りで渡った後が残っているのが分かっているんだ。いつかは追い付くさ」

 

「そうね。絶対に追い付きなさいよ。もう、家族と離ればなれになるのは嫌よ」

 

「オレもさ」

 

イスから立ち上がり抱きしめあう。

この世で唯一の血の繋がりがある姉弟。オレはアリスしか抱いたことは無いし、姉さんは未だに処女、父さんと母さんは一段高い世界へ行き、異母兄弟は既に全員がこの世を去っている。刹那姉さんとフェイトは家族ではあるが血の繋がりは無い。

そもそもオレと姉さんは種族的には酷く曖昧すぎる立場だ。そもそもが何なのかすら分からない。どちらか片方が居なくなれば完全に孤独になる。だからこそ失うことが恐ろしい。

居場所がある程度分かるなら、連絡を取ることが出来るならそれだけでも安心は出来た。

だが、これからは違う。世界が違えば互いを確認することは出来ない。今までにない恐怖がオレたちを待ち受けるのは眼に見えている

。そして、世界ごとに時間の流れが違うことも既に判明している。本当にいつ再会出来るかは分からない。

だからこそ互いを忘れない様に強く強く抱きしめあう。

10分程抱きしめあってから離れる。

 

「じゃあね、零樹」

 

「またね、姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉さん達と別れてから早くも十数年の時が流れた。

JS事件と呼ばれるあの事件が終わってからオレとヴィヴィオ、そしてエリオは管理外世界に逃げた。管理局の奴らがオレやオレの技術を奪おうとヴィヴィオとエリオに対して強硬な手段に出てきた為正当防衛で一課から三課まで文字通り壊滅させ本局も襲撃、管理局のトップ陣の大半を失った管理局はその後も数々の不祥事や違法行為が明るみに出たことにより解体され、民間の有志の手によって再生、その方向性も変化した。

大きく変わった所は質量兵器の保有だろう。これによって少なくともあの頃のエリオやキャロの様な幼い少年少女が戦場に出ることは無くなった。そして管理外世界探索、及びロストロギア捜索と回収も一時凍結となった。これは戦力の低下による人手不足も理由の一つにあげられるが、それ以上にロストロギア回収の際の強引さが自分たちの傲慢な行為なのではないか?という市民の声から凍結となった。また司法とも分離し、警察と軍隊が合わさった様な組織となった。

そしてオレ達だが、管理外世界の地球の海鳴市に住居を建て、レストランを営んでいる。何故かと問われると何となくとしか言えないが、たまたまこっちに帰ってきていた高町中尉(管理局再編成に伴い階級も変化)、ハラオウン上級大尉、八神大佐達が店にやって来た時の唖然とした顔はおもしろかった。

ヴィヴィオとエリオは私立聖祥大学付属小学校に通い子供らしく育っていった。ハラオウン達とこっちであった時に向こうの保護下に戻るかどうか尋ねたがオレを選んだのは少し予想外だったが、たまに顔を見せには行っているみたいだ。

そして、今日海鳴市の一角に仲が良い連中が集まっている。

その場所は教会。今日は、ヴィヴィオとエリオの結婚式だ。余談だがハラオウン達は誰も結婚していない完全に行き遅れ状態だったりする。男共がヘタレ過ぎたのが原因だ。まあ、見た目はまだ20代だし何とかなるだろう。

 

「早いものだな。お前達と出会ってから、今日まで」

 

だが、オレはその式に出ることはなく遠くから見ているだけだ。エリオとヴィヴィオには結婚すると報告に来た時に全て話してある。そして昨日の内に別れを済ませた。

今日一日は他の人の為に使う。二人にはそうさせて貰った。

言い忘れていたが実はオレも結婚したんだ。相手はギンガ。

ギンガには告白された時に全て話した上でそれでも良いのかと聞いた上で受け入れた。結局オレ達の間には子供は出来なかったが、それでも夫婦円満だった。

 

「すまんなギンガ。捨てていくみたいな形になって」

 

「最初から納得した上です。それでも私は貴方のそばに居たかったから。それに最後の最後で間に合ったみたいです」

 

下腹部を抑えながらギンガがそう言う。その言葉にオレは複雑な顔をする。

 

「そうか、嬉しいことなんだが、オレ自身がその子を育ててやれないのが残念だ。まあ、例のスクロールを残して行くから寂しい思いをさせなくては済むだろう」

 

スクロールにオレの人格を完全にコピーした人工精霊を宿したものを1週間程前にギンガに渡してある。それがオレが去った後のギンガや産まれてくる子供を、そしてその子孫を守ってくれるだろう。

 

「それ以上にこの子に名前をあげて欲しいの」

 

名前か。オレの名前も残してやりたいな。そして残すならこっちの一文字だろう

 

「男なら零河、女なら零菜」

 

父さんから受け継いでいる零を付ける。

それから二人で海鳴の街を歩く。腕を組んでいるだけで会話も何も無い。だけどそれだけでいいんだと納得もしている。食事を楽しみ、思い出深い場所を訪れ、最後にこの街の霊地になっている公園にたどり着く。これでギンガともお別れだ。

 

「ギンガ、今まで楽しかった」

 

「私もです」

 

最後にキスをしてから離れる。背後に銀色のオーロラが現れる。鳴滝が使っていた転移だが、これが一番確実に好きな世界に渡れる。

 

「さようならギンガ」

 

「さようなら零樹」

 

後ろを向き銀色のオーロラを潜る。それと同時にシンが同じ様にオーロラを潜り、オレの中に戻る。

 

「行くぞ、シン」

 

『いつでも』

 

「我が身に宿る大いなる意思よ、我が身を喰らいてその身を示せ」

 

詠唱と同時にオレがあるべき本来の姿に戻る。その姿は一言で表すなら竜人。その翼を広げ目的の世界へと飛翔する。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

side リーネ

 

 

零樹と別れて私達が辿り着いた世界は人類にとって地獄だった。

 

「刹那、フェイト、アレについて何か知っているかしら?」

 

「いえ、私は」

 

「僕は知っているよ」

 

「じゃあ聞くわ。アレは何」

 

「Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race。(人類に敵対的な地球外起源種)通称BETA。人類の敵さ」

 

どうやら寂しいなんて感じる暇はなさそうね。

 

 

side out

 

説明
再び空を駆けれる日が来ようとは
あの頃の強さを取り戻せようとは
同じ失敗は二度と繰り返さん。
待っていてくれ、アリス。
by零樹
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