異能者達の転生劇 Inネギま
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ある日の昼下がり。

 休日で課題も出てないし折角だから外へ出てみるかー、と意気揚々と出かけるが、考えてみれば特に必要な事も無く思い付かなかったため、結局何もせずブラブラと西洋風の街をホッツキ歩いて、あれ、学生さんってこういう日には大抵友達とカラオケ行ったりするもんじゃないか? と気付いた時には夕方になっていた。という一日を過ごした上条はただ打ちひしがれるしかなかった。

 

「……ま、不幸が起きてない分、良かったと思いますかなぁっ!?」

 

 お約束というか。

 突如吹っ飛んできた人を避けようと数歩後ろへ下がる。が、何故か足元に落ちていた空き缶をふんづけ、すっころんで尻もちを突き、その上に飛んできた人が上条にボディプレス。カエルが潰れたような声を出し悶絶した。トンデモない偶然で助けられた汗と日焼けで黒光りした筋肉マッチョメンはあんちゃんありがとよ! とやたら形の良い手をビシッ!! と上げて礼を言い、上条の上から立ち退いて、また褐色の中国系少女に立ち向かっていった。こういうストリートファイトは魔帆良ではよくある事で、さすがに十数年間過ごしている上条は見慣れていた。ただし飛んでくる人を避けるのは苦手だ。

 ごろごろごろと路上をみっともなくのた打ち回り、周囲から冷やかな視線を集めた頃、このウニ頭に近づく人間が一人。

 

「あの、少しよろしいでしょうか」

 

 ぅう? と呻きながら声の主を探すと、上条から数歩離れた位置に佇んでいた。

 まず目に入ったのは女子中等部の制服。そこで声の主は女だとわかった。ピシッとした目付き、サイドテールにした黒髪など可愛いと言うよりカッコいいと言った言葉が似合う女の子だが、イマドキの女子っぽい雰囲気は無く、時代劇の女武士のような凛とした雰囲気が彼女をさらに引き立たせている。

 さらに観察すると、剣道で竹刀をしまう袋を背負っていた。

 

「……まだキツイからこのままで聞いて良い?」

 

 失礼と思いながら体を抱えてそう聞くと、何とも言えない表情を作ってどうぞ……と言ってくれた。

「では改めて。私は((桜咲刹那|さくらざきせつな))と申します。貴方が上条当麻さんで間違いありませんか?」

 

 丁寧な自己紹介の後、自分の名を知っていた事に少し驚きはしたが、黙って頷いた。

 

「剣道の勧誘とかはお断りだけどそうゆうのじゃないんだろ?」

「まぁ、その通りですが……。本題に入ります。貴方の周りに居る土御門元春という人の事についてお話があります」

 

 つちみかど? と首をひねる。

 知り合いか何かかと思ったが、親しいように見えないしそういった話も聞いた事が無いし決して無さそうだ。

「なんか((嫌|や))な事されたのか? 少し待ってくれ((青髪|しっこうにん))連れてくるから」

「は? いえ、そういう事では」

 

 痛む腹部を押さえながら体を起してケータイを取り出した上条を止める桜咲。

 

「土御門元春はどういった人間なのかお教えくれれば良いのですが……」

「どうって―――」

 

 言葉が詰まる上条。

 上条から見る普段の土御門を考えてみよう。

 ネコ語とどっかの方言が混ざったあやしさ満点のしゃべり方をし、義妹とメイドをこよなく愛し、妙に身体を鍛えてたり、詳しく説明できないバイトをしてるとか実家が凄いだとかのウワサが絶えなかったり。

 

 ……何も言えないほどあやしい奴が傍に居た。

 思い付いた言葉をそのまま桜咲に伝えようと思ったが、まず何故桜咲が土御門の事を探っているのか尋ねてみた。

 桜咲は困ったような顔をして、

 

「……土御門元春は私の直接の知り合いというわけではないのですが、実は同じ職場に就いている身でして」

「あぁ、バイト仲間なんだ」

「……そう捕らえてもらって結構です。ですが、彼とは……しふとが重ならないので一度も会った事が無くて、どんな人なのか存じないのです」

 

 不慣れなバイト単語を言いながら、

 

「そこで私が師事してる人から大まかな話を聞いたのです」

「師事? ああ、バイトの先輩」

「(……何故この人の意見は的を得ているようで外れてるのだろうか……)土御門元春は人の信頼を簡単に裏切る奴だから気をつけろと。ですから、今後の仕事に支障がきたすのは避けたくて」

 

 桜坂はそう言い払ったが、上条は釈然としない気分だった。

 

「私の言い分はこれで良いでしょうか」

「まぁ、桜咲の言う事は理解した気でいる。けどな、俺の知ってる土御門はただのシスコン軍曹だぜ?」

「し、シスコン……。ですが、私はどうしても見極めなければなりません。もし土御門元春が障害になり((得|う))るのなら、私は斬り捨ててでも排除します」

 

 桜咲の目に強い意志が灯る。

 そんな目を見た上条は、斬り捨てるとか物騒だなぁー剣道部ジョークか?と思いつつどう答えてやるか考える。

 う〜ん、と唸った後、

 

「桜咲はどう思う?」

「私は――――聞き伝ですが、聞いている以上警戒するに値する人柄かと」

「そうだよな。けど、俺はそう思えねぇよ」

「それは……」

 

 単に買いかぶりすぎなのでは? と桜咲の目が語っている。

 ようやく痛みが落ち着いてきたのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

「もし土御門が平気に裏切るような奴だったら、俺やつるんでる奴らはとっくの昔に部屋に閉じこもって不貞寝してるだろうよ。でもこうして普通に居られてるって事は」

 

 上条の言葉が止まる。

 桜咲は突然会話が途切れた事に不審に思い、上条の目線を追っていく。

 視線の先には桜咲と同じぐらいの歳の女子生徒がジャージやらバンダナやら装備しているチンピラっぽい人達に絡まれてる光景が。

 

「……ちょっと待っててくれないか」

 

 上条はそう言うと、ナンパ現場に向かっていく。

 何を吹き込んだのか、男たちは赤い顔になって行く。

 

「……」

 

 桜咲は先に起こる事を予想した。

 話し合いが膠着したのか上条は女子生徒の腕を掴んで連れて行こうとすると、女子生徒は腕を思いっきり振り払いさらに武道を心得る桜咲をも唸らせるほどの一撃を上条に与えて走り去って行く。

 残されたのはポカンと口を開けたナンパ男達と苦しそうな呻き声を出して殴られた部分を押さえる上条だけだった。

 

 この時桜咲は思った。今日はもう彼から話を聞き出せないな、と。

 案の定、ナンパが失敗した男達の怒りの矛先は原因の上条に向く。何やら口論になって、間もなく上条が逃走を謀り人ごみに消えていく。

 

「すまん桜咲! 話はまた今度な!」

 

 何処からともなく聞こえてきた上条の慌ただしい声を聞いた桜咲は、声の主が必死に逃げている姿を想像してため息を吐き、自分の寮へ歩を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 高等部には、当然だが上条当麻、月海美月、月海海人ら以外にも色んな人が通ってる。

 そのほとんどは個性の塊のような奴らばかりだ。

 

 上条と海人のクラスに在席しているクェイティア=フラッグマンは、そのカテゴリーに入ってないと思っている。

 見た目は眼鏡を掛けた普通な感じだし、勉学も運動も中のちょい上、トンデモなく忘れっぽくて要領が悪過ぎて他人の会話に乗って行けない事が悩み以外普通の平平凡凡な高校生だ。と本人は思っている。

 

 学校が終わり、部活も入ってない彼は寮に閉じ籠もっているのも自堕落しそうで嫌だなぁ、と鞄を手にフラフラ廊下を歩いていた時、不意に同じクラス……いや、隣のクラス……? の男子が声を掛けてきた。

 

「お前1−Bの奴だよナ? 俺んとこに来た転入生がお前んとこの黒髪に用があるんだってヨ。それってお前の事だロ?」

 

 残念。先輩だった。

 似非っぽいヒップホップ口調を聞き逃さず詳しく聞くと、なんか知らんけど自分を呼ぶようにと言われたそうだ。その適当ぶりに深い溜息を吐きながら待ち合わせ場所を聞き終えると似非ヒップホップな先輩はすぐに去って行った。

 一方取り残された方はアメリカ感ゼロな黒髪をボリボリ掻きながら言われた通り指定された場所へ向かう事にした。

 

 こういう事はこの学園に来てから幾度もあった。初めの頃はジャパンヤンキーのカツアゲかと思って全力で空の財布を投げて、気に取られている内に逃げたのは良い思い出である。

 しかし、回数を重ねる度にカツアゲ目的ではないとわかってきた。だが、呼びだされる理由が全く見当もつかず、理由を聞こうにも余計な口聞いたら殺すぞ的なオーラを帯びて聞けず、結局わからないまま。

 まぁ、愚痴を聞いてる気分でいればお互いギスギスしないで事を済ませれる、と本人は思っている。

 色々考えながらそんなこんなで指定場所の((人気|ひとけ))の無い校舎裏。部活生が居るグラウンドからかなり離れた場所だ。どんな人が待ってるか知りたくて、校舎のコンクリで造られた壁からこっそり覗くが、誰も居なかった。

 誰も居ないのかな? と思って校舎裏に入ると、後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、男から見てもイケメンな学ランの男子が腕を組んで立っていた。

 鋭く光る蒼い目が足から腰へ。腰から頭の天辺まで来て、若干緊張する。

 

「ふん、お前がウワサの旗男か?」

 不意に学ランの男子に尋ねられ、((旗男|フラッグマン))はガクッと気が滅入った。

 旗男って何だ! 第一級フラグ建設士ならウチのクラスに居るけど、僕じゃない! と叫びたいが、今まで呼び出された時も同じようにそう尋ねられたので、もうそろそろ慣れてきた。

 けど、そのあだ名で呼ばれるのは嫌いなのでぶすっ、とした雰囲気を醸し出して頷いた。

 …………それが今後起きる出来事の引き金と知らずに。

 

 不機嫌そうなフラッグマンの様子に、学ランの男子は眉を顰め、次に納得がいった顔をした。

 

「なるほど……。言葉を交えずとも、自分と同じ気配に気づいているのか」

 

 なんか、おかしな電波を、受信したようです。

 学ランの男子の発言にドン引きするフラッグマンだったが、何だか様子がおかしい事に気付いた。

 無造作に放射されていた突き刺すような鋭さが全て自分に向かって来てるような……。

 野生動物に出会ったように刺激しないようジリジリと後ろに下がる。

 

「―――待てよ」

 

 気付かれた!

 そう考えるより先に身体を反転させて走り出す。

 後ろで何か聞こえるが気にすれば自分の身が危ない。だから振り向かない。

 

「鬱屈」

 

 ジャッ! と削れる音が足元からして、後ろから風が吹いてきた。

 学ランの男子が呪文のような事を言ったが理解できない。きっとこれから何かが起きると思い、それから逃れるために後ろを振り向く。

 ザッ! と。

 手首と右胸から腹部にかけて突き刺すような痛みを感じ、それが皮膚が斬られたのだとわかった時には破れた手首の血管から血液がはじけた。

 

「っ―――っ!?」

 

 痛みのあまり声にならない悲鳴をあげるフラッグマン。

 彼の思い違いは、((言った時にはもう終えていた事|・・・・・・・・・・・・・・))だろう。

 斬られた箇所を押さえるが、身体の中に釘が仕込まれてるような痛みを感じて膝をついた。

 学ランの男子は何処から取り出したのか、バカでかい刀とそれを納めるのにふさわしいサイズの鞘を木の枝を振るように((玩|もてあそ))んで軽い足取りで向かってくる。

 

 まず頭に浮かんだ事は、現状を理解する事ではなく、直ちにここから離脱する事だった。

 だが、身体が思うように動かない。左手で地面を引っ掻くだけだ。

 

「助けを呼んでも誰も来ない。結界張ったからな」

 

 学ランの男子は髪を掴んで無理やり立たせた。

 フラッグマンの肘に刀の腹を添え、ゆっくりと刀を下ろす。

 ずずず……、と肘関節から二の腕が((ずれる|・・・))。

 ずれた腕は重力に従ってボトリと落ちた。不思議と痛みが無いのがかえって不気味だった。突然起こった現象に頭が追い付かず青い顔をするフラッグマンに、学ランの男子は耳元で囁く。

「安心しろ。―――痛み無く((解体|バラ))してやる」

 

 学ランの男子は手を離して落とし、ボールを蹴る様にフラッグマンを蹴飛ばした。

 肺の空気を全て吐き出し、何度か大きくバウンドしたフラッグマンが見たのは、鞘に納められた刀の柄を握って中腰に構えた学ランの男子。まるでサムライだ、なんてのんきに思っていた時にはもう、技が放たれていた。

 

「斬悔!」

 

 無数の剣閃が彼の目の前に走り、自分をも巻き込む。

 切り刻まれる感覚。ズレる感覚。殺された感覚。

 様々な触感が入り混じる激痛を受けながら、彼はずっと当惑するだけだった。

 

 

 

 

 

 

「……完全に『線』を捉えてなかったか……。修行が足りないか」

 

 学ランの男子は刀をブォン、と振り、付着した血を払い飛ばした。振り払った血はすでに汚れている壁や地面に落ちて判別できなくなった。

 血の池の中心に倒れた、右手足が斬り落とされた人間は小さい呼吸をするだけで動かない。時期に大量出血で死を迎えるだろう。

 殺人現場のような場所に居るのに、学ランの男子は随分と落ち着いた様子だ。

 ここには人が誰も来ないから安心しきってるから。

 人払いと違い、内部と外部は切り離されていて時間も距離も異なる陸の孤島と化している。

 結界に気付いたとしても侵入するすべが無ければ意味が無い。

 半径500mの空間の中では、何をやっても許される。

 

 ピシリ……ッ、と音が鳴るまでは。

 学ランの男子は校舎が壊れたのかと校舎を見るが、音は別の場所から聞こえる。

 

 たとえば、彼の張った結界の限界距離から。

 

「!?」

 

 ありえない。

 それこそ不可視な結界の基点を破壊するか、空間に干渉するかじゃないと不可能なのに―――!

 武器を確認する。いつ敵が来ても良いように。

 ガラスが割れた音に似た高音が辺りに響く。

 学ランの男子はすぐさま気配する場所へ走り出した。校舎の壁を蹴り、小屋の屋根に飛び移り、球技の球避け用のフェンスの上に飛び乗る。

 フェンスが軋む音がする。

 そのしばらく後に、金属同士がぶつかる音がした。

 チャキッ、と一瞬にして刀が鞘に納められ、彼に飛びかかってきた影はグラウンドに転がった。

 

「何の確認もせずに襲いかかるだと……? ゲリラには向いているが警察には向いてないぞ」

「真新しい血の匂いを放ってる奴に、そんな遠慮はいらないだろ!」

 

 赤い外套を纏った少年が叫んだ。

 学ランの男子は少年の恰好を見て怪訝な顔をする。少年の背後から4人の少女達が現れる。

 

「私は辺りを探るから、攻撃型の((高音|たかね))さんとサポート型の佐倉ちゃんは海人と一緒に。夏目ちゃんは私と一緒に来て」

「は、はい!」

「貴方達に指図されるのは癪ですが……今は置いておく事にします」

「((来たれ|アデアット))!」

 

 高音と呼ばれた少女は不服そうな顔をしながらも、夕焼けに充てられた自身の影から巨大な使い魔を呼び出し、佐倉と呼ばれた少女は、何となく合わない二人にしょうがないなと諦めた顔をしてアーティファクトを呼び、夏目は何処となく緊張した面持ちで返事をした。

 

「ふん。メガロメセンブリアの信者共が……!」

 

 学ランの男子は苛立った様子で刀に手をかけ、瞬間移動『刹那』で一気に間合いを詰めた。

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 俺/私は地獄から産まれた。

 かつて、ある平行世界で((魔術師|りょうしハッカー))による無限の願望機を巡る((戦争|ころしあい))があった。

 俺/私は戦う意義を見いだせなかった。

 周りの人間は全て敵。記憶の無い事は彼/彼女には全てが重荷でしかない。

 ある日、俺/私と共に戦ってくれた((人|パートナー))が傷ついた。

 道に迷っている彼/彼女を終始導いてくれた((彼/彼女|パートナー))は敵の奇襲によって倒れた。彼/彼女はただ呆然と己の無力さを噛み締めながら見ている事しか出来なかった。

 だから、俺/私は君/貴方の為に―――――

 

 

 

 

 少し時間を遡る。

 

「なあ」

「何?」

「もう上条の事調査するの止めない?」

「……」

「正直めんどくなった」

「……」

「よくよく考えたら俺達のやってる事ってストー、すいません生意気なクチ聞いてごめんなさいだから手を放してくれぇ!」

 

 弟の必死の懇願も、無言の返事を返す姉。

 美月が海人の頭を細腕でワシヅカミしているという構図なのだが、頭一つ分ほど差があるのにどうやって持ち上げてるのか謎だ。

 しかも、公衆の面前である事を忘れているようで、彼らの行動は周囲からかなりの注目を集めていた。

 指が食い込んだ部分が赤から飛び越えて紫へ変わった時、美月はパッと手を放し、海人を落とす。尻もちを突く海人は尻をさすりながら立ち上がった。

 

「まぁ、私も辞め時かと思ってたけど」

「さっきの謝罪の言葉を返せ」

「やだ」

 

 ……相変わらずの二人のようで。

 

「結局コレも使わずお蔵入りか……」

 

 と言いながらポケットから金の装飾が施された片眼鏡を海人に見せる。

 

「聖者のモノクル? エヴァンジェリンに貸してたんじゃなかったっけ?」

 

 エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルは、二人が師事する人とちょっとした知り合いだ。エヴァンジェリン自身は否定して迷惑そうな顔をするが。

 美月、海人とは仲が悪いというわけではないが、特別良いという訳ではない。本当に知り合い程度の関係だ。

 

「良く返してもらったな。リアルジャイアンみたいな奴なのに」

「あんたの名前出したら何故か簡単に返してもらったわ」

「? 何で?」

 

 海人は疑問符を頭に浮かべて聞き返した。

 対して美月も肩をすくめる。

 

「……前から気になってたけど、何で私とあんたとじゃ態度違うのかしら?」

「………………人柄?」

 

 美月は無言で襟を掴んでガクガク揺らす度に海人は顔色を変える。

 そんなやり取りをしている二人を遠巻きに見ていたギャラリーの中から三人、二人に近づいてきた。

 

「お二人とも? ここが公衆の面前だという事をお忘れではありませんか?」

 

 少しイラだった声色が耳に入る。

 美月が声を震わせて彼女達の名前を呟いた。

 

「げっ、脱げ女とその取り巻き達……!」

 

 コミカルにずっこける脱げ女(仮)達三人。

 

 脱げ女事、高音と呼ばれた少女は修道服に似た服を着て、頭にちょこんとナースキャップのような帽子を乗っけている。これでも一応聖ウルスラ女子高等学校の制服だ。この制服を見る度にコスプレっぽいな、と思っているのは美月と海人の秘密だ。

 

「誰が脱げ女ですか!?」

「高音とその取り巻き達?」

「だから取り巻きはやめてください……」

 眉を八の字にする取り巻きその一……いや、((佐倉愛衣|さくらめい))。

 海人は詫びるように手を振った。

 

 佐倉はピンクに近い赤色の髪をツインテールに束ねた女子中学生。それ以外に特筆する事は無い。

 高音、佐倉、そして話に加わって無い眼鏡の少女、((夏目萌|なつめめぐみ))ら三人はこの学園に所属する魔法生徒である。

 彼女達も生粋の魔法使いであり、立派な魔法使いを目指す夢多き若者たちだ。

 

「全く……。ただでさえ会合にも来ない貴方達をパトロールに誘おうと思っていたのに……、遊びまわってるなんて信じられません」

 

 したがって、全く逆の方向性を行く二人にとって、かなり面倒くさい輩のカテゴリーに入る。

 別に立派な魔法使いを否定する気は無い。むしろ、彼らの在り方は眩しくて、自分達が否定するなんてトンデモない事だと思っている。

 

「魔法使いにも色んな職業があるんでしょ? だったら無理に人助けとか良いんじゃない?」

「それでも社会の為に何かをする。小さな事でもいつかは社会を動かす何かになり得るんです。そこは現代社会でも魔法社会でも変わりません」

 

 高音は拳を握りながら熱く、美月は眼をさまよわせながら適当に語り合う。

 そんないつものやり取りを見て、平和だなー、としみじみ感じていた。

 

 この時、魔法関係者のほとんどが身体に電流が流れる感触を感じた。

 

「ッ、結界!?」

 

 高等部の一角に、魔法使いではないと視認できない結界が展開されていた。

 場所が近かった美月らは、人目の付かないように裏道を使って結界の傍まで近寄る。

 美月は早速聖者のモノクルを掛けて結界の解析に取り掛かる。

 

「規模が大きい……、巻き込まれていなければ良いのですが……」

「でもそれ以前に―――」

 

 高音は一般人を心配するような声を出し、それを聞き取った夏目は結界を見渡す。

 夏目の言葉は海人が繋げた。

 

「それ以前に何でこんな大掛かりな結界広げたんだ?」

「わからない。けど、一朝一夕じゃ行かないみたい」

 

 解析を終えた美月によると、どういうわけか中と外は完全に切り離されていて、こちら側では干渉が難しいとの事。試しに高音の((黒衣の夜想曲|ノクトゥルナ・ニグレーディニス))をぶつけてみても空を切るだけだった

 こうなると話は限られる。

 術者が外に居る場合、術者を叩いて結界を消す。

 中に居る場合、結界の基点を破壊するか、空間に干渉する他ない。

 

「海人」

 

 美月は内ポケットに手を入れて相方の名を呼ぶ。

 海人は答えるように同じく内ポケットからカードを取り出した。

 ((合理主義|めんどうな事はごめん))な((魔術師|メイガス))達は、術者を探すのも、結界の基点を探すのも面倒だった。

「「((来たれ|アデアット))!」」

 

 それは、契約行使の言葉。

 もしくは、所謂魔法少女モノの変身の呪文。

 言葉を紡いだ二人の周りに光が集約し、登録された服装に着替えた姿に変わる。

 

 美月はコゲ茶色の学校指定の制服を着て、青い蝶リボンがアクセントになっている。だが、明らかに魔帆良学園内にある制服じゃない服。

 一方、海人は何処かの武人が着た紅い外套を装着し、そこに佇んでいた。彼の顔つきはいつもより鋭く、まるで、この外套の((武人|もちぬし))を((投影|トレース))したような雰囲気を醸し出していた。

 

「……私、その服あまり好きじゃない」

「仕方ないだろ。これがアーティファクトだから」

 

 適当に言い合う二人はとても楽しそうで、

 

「早く始めませんか? 何だか、とても危険な気配がします」

「そうね」

「了解。トレース・オン!」

 

 とても真剣だった。

 

 

 

 

 

 

 時間は戻って、

 

 球技場に鳴る金属の響き。辺りに散る斬激の残痕。固められた地面を貫く影の槍。

 学ランの男子を捕らえようと、影の槍が彼の足もとに刺さるが、遅い。

 影はマッチ棒を折る様にあっという間に切れて、足止めにすらならないのだ。

 腰に携えた刀に手をそえたまま、学ランの男子は『間合い』に入り込み、一気に鞘から引き抜いた。

 しかし、それは海人の小太刀に火花と金属音を立てて防がれる。

 鍔迫り合いの果てに双方は後ろに力を流すようにバックステップした。

 

「剣に殺気は無い……あくまで殺さず、か」

 

 学ラン男子は棒立ちになって、ふらりと力無く身体が傾く。傍から見れば、単なる立ち眩みを起したと見えるだろう。

 

「離れろ! 無理だったら全力でガードだ!!」

 

 海人が言い終わる寸前。

 学ラン男子の姿が消え、彼らの間に風が吹く。

 その直後、高音と佐倉の服がが紅く染まって吹き飛ばされ、海人の持つ小太刀は粉々に砕け散る。

 たった一撃。

 その事実に驚きながらも、海人はさも無い所から出現させたように『貯蓄された礼装』を取り出した。

 

「……『投影』……か」

 

 学ラン男子が呟く。海人は上手く思いこんでくれてよかったと口端をわずかに上げた。それが余裕の笑みだと思った学ラン男子は、今までの戦闘スタイルと違い刀を鞘から半分出した状態で海人に突っ込んでくる。

 海人はバックステップで距離を取り、迫り来る刀を小太刀で防ぐ。

 が、完璧に防ぎきれなかった。

 小太刀がバターのようにあっさりと斬り落とされたから。

 ザグッ! と斬られた刃がグラウンドに突き刺ささった時、刀を抜き、振り切られた凶刃が海人の腕をかすめる。

 

「(なんの抵抗も無く斬られた……!? ―――美月!)」

「(何ようるさい耳痛い)」

 

 いつもの、何かに対して不満があるような声が頭の中で響く。

 

「(ちょっとこっちで斬られかけてんだけど、学ランの奴の魔法なんだけど)」

「(斬られかけてる最中に念話送る事にツッコんでいい?)」

「(後でじっくり聞いてやる。学ランの刀が礼装に当たった瞬間ばっさり斬られたんだよ。お前、なんか知らないか?)」

「(……)」

 

 美月の言葉が止まった。こうゆう時は決まって何か心当たりがある時だ。

 

 

 

 

「(……直死の魔眼、だね)」

 

 そう足元に横たわる黒髪の男子生徒に目を向け、海人に念話を飛ばす。

 

 何処かで見たような生徒だが、たまに会う魔法生徒には居なかったので一般人だろう。腕と足を片方ずつぶった切られて、呼吸も荒い。というか生きてるのが奇跡と言えるほどだ。恐らく、世界樹こと蟠桃という大樹の加護で生命力を底上げされてるのも要因だろう。

 たった今も夏目萌が水系統の回復魔法を掛けているが、やはり容体は芳しくない。

 

「先生を待ってたら間に合わないだろうし、片割れはソイツを病院に連れてってくれない?」

「わかりました―――って、片割れ言わないでください! どうしてそんなひねくれた言い方ばかりなんですか!? ご飯を一緒に食べる友人とか出来なくなりますよ?」

「……そんなこと、無い……」

「(あるんだ)」

 

 教室でポツンと一人で黙々と昼食を食べる美月。が容易に頭に浮かぶ夏目だった。

 夏目は呪文を唱え、水でできたカプセルに男子生徒を入れて(切れた腕と足も忘れずに)美月に尋ねた。

 

「貴方はどうするんですか?」

「決まってる」

 

 そう言うと美月は戦地へと踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

「がっ!?」

 

 鞘が顎を砕く音が響く。

 身体が数十センチ浮かび上がり、顎を強打した事で意識が不安定になる。学ランは憮然とした態度で再度鞘に刀を納めて居合いの型に構える。

 

「斬げっ――――!」

 

 しかし、彼は刀を引き抜かなかった。

 いや、抜けなかった。

 影で出来た使い魔二体が左右から挟むように学ランを捕まえようとしたから。

 学ランは右から来た使い魔を踏みつけて上空に逃げる。残った使い魔が凶刃から逃れた海人と地面の間に割り込んで、クッションになる事で大事を逃れた。

 一方、上空に逃れた学ランは高音らが伏していた場所に目を向ける。

 

「ていっ!」

 

 戦いの場に似合わない可愛らしい掛け声と箒を掃く動作と共に、武装を解く効果を持つ強風が、まさに戦場を『掃いた』

 

「っ、刹那!」

 

 ふっ、と学ランの姿がブレて一瞬消えたように見えた。

 次に姿が見えたのは海人らから十数m離れた所。

 

「――――ナメないでくださいません? こちらも、ただで傷つく気はありませんので」

 

 息がきれぎれな状態でもハッキリと聞こえる声だった。

 高音と佐倉の傷はすでに塞がっていた。恐らく斬られた後、すぐに回復魔法を使って時期を窺ってたのだろう。

 

「お一人で戦わせて申し訳ありません。少し休んでいてください」

 

 だんだんと意識がハッキリしてきた海人は使い魔から降りて顎をゴギンっ! と元の位置に戻した。

 

「―――……っ!! 冗談。血ィ抜けたから冷静になったか?」

「それこそ冗談です。わたくしは元から冷静です」

 

 佐倉が箒を杖代わりにして海人近づいた。

 

「お姉さまも月海先輩も、無理しないでください」

 

 彼女の言うとおり、高音は最初に着ていた制服は最初の一撃で大きく破れたため、影で編んだ衣服を見に包んでいる。しかし顔色は青白いまま。服の下はきっと血で((滲|にじ))んでいるだろう。海人も長時間の戦闘で疲労も溜まっているだろうし斬った生傷が絶えない。辺りに武具の欠片が散乱している為、彼の武装も残り少ない事が伺える。

 かくゆう佐倉に至っては、海人を治癒する手も震えている。

 治癒魔法が使える分足手まといとは言えないが、この中で一番弱いのだ。

 

「……話し合いは終わりか?」

 

 学ランは苛立った声を上げる。

 そして、彼の刀はスコップのように地面に突き刺さっている。刀は禍々しい容器を放っていて、遠距離系の攻撃だと直感でわかった。

 

「斬め―――」

 

 

「後頭部へ向けてスクリューを掛けたドロップキ〜ック」

「へぽっ!?」

 

 綺麗に蹴り飛ばされた学ラン以外の全員が思った事。

 『月海(美月)さん。その登場はあんまりだ』と。

 ザシャー!! と華麗に地面を滑り、ピシッ、と荒ぶる鷹のポーズらしきポーズを決める((空気が読めない女|シリアスクラッシャー))。

 

「おまたせ」

「おまたせ、じゃねぇよ。今から俺達の大逆転劇するとこだったんだぞ」

「そうですわ。敵もシリアスな空気を放っていたのに」

「……この空気をどうする気なんですか?」

 

 三人から非難を受ける美月だが、気にしないように(無い)胸を張る。

 

「キ、サマら……!!」

 

「……すっごい剣幕」

「美月は馬鹿だけど人の感情を逆なでする事に関しては天才的だと認めるよ」

 

 美月は不服そうな顔でだんまりと付与魔術を海人と高音に掛ける。

 

 互いに戦闘準備は万端。

 開始のゴングは、学ランが消えた瞬間に鳴った。

 

 ただ直線に移動しただけ。だが、目に映らなければ見切ったとは言えない。

 海人が咄嗟に二本の小太刀を交差して凶刃を受け止める。鍔迫り合いかと思ったが、学ランは一瞬で鞘に戻して、瞬時に横に一閃。さらに同じようにして逆袈裟に一閃。さらに無数の剣筋が海人を襲う。金属が擦れる音響が凄まじく、一番傍に居る海人は顔を顰めた。

 再び高音の影使い魔が影の槍を伴って襲いかかるが、学ランが手を振るだけで一瞬で全て切り刻まれた。佐倉の焔を交えた突風も意味が無い。

 激しく交戦していた中でただ一人、攻撃手段を持たない美月は、現場を冷静に分析するしか無かった。

 ステータス的に見た所、ほとんど大差は無いハズだが俊敏性は美月達より飛びぬけて上。動きを先読みして防いでる海人が崩されるのは時間の問題だ。

 海人達にスピードを加えるだけじゃ魔力の無駄。

 ならば相手の足止めをすればいい。

 

 美月のアーティファクトの特性は空間情報の操作。

 空間情報を読み取るのはもちろん、保有しているトラップを指定した座標に設置したりできる万能なアーティファクトだ。

 

 バチリ、と小さな火花が学ランの足元を奔る。

 疑問に思った学ランはとにかくその場から飛び退く。が、何も起きなかった。

 

「っ?」

 

 直感的に、今のはフェイクだと悟った学ランは空中で方向を変えようと身体を捩じった。迫り来る影の槍は学ランの服をわずかに掠めて通り過ぎる。ギロリと蒼い瞳が高音を貫き、スタッと地面に着地した。

 

 

 

 バチリ、と小さな火花が学ランの足元に奔る。

 瞬時に火花は学ランの身体を覆い包むほど大きくなった。

 

「ぐ、あああぁぁぁああああああああああああああ!!!?」

「はずれ。高音もフェイク」

 

 その挑発は学ランに向けてのものだったが、ついでに高音もイラッと来たのは余談だ。

 ともかく、学ランの足止めは完了した。後は海人、高音、付き添いで佐倉の時間。

 

「こうもあっさり終わると拍子抜けだな―――?」

 

 その筈だった。

 

 轟っ!! 衝撃が空気を揺るがす。

 思わず腕で顔を庇って踏ん張る海人。

 腕の隙間から見たのは、刃の嵐だった。

 

「嘘……!? 高位の魔物ですら身動きが取れなくなるのに―――!」

 

 一瞬、学ランの動きが早送りのように素早く見えた。

 チン! と鍔と鞘がぶつかる音が響く。頑張り屋だけど報われない子の悲鳴が聞こえる。

 チン! と鍔と鞘がぶつかる音が響く。とにかく正義を信じて進む奴の悲鳴が聞こえる。

 チン! と鍔と鞘がぶつかる音が響く。聞き慣れた悲鳴が聞こえる。

 チン! と鍔と鞘がぶつかる音が響く。海人の右腕が綺麗に斬り落とされた。

 

「モブ風情にやられると思ったか?」

 

 刃の嵐が迫り来る。

 学ランの言葉が耳に入る度に、海人は血の味がする唇を噛み締めて拳を握る。

 学ランの姿が見えた時、学ランの刀は禍々しいオーラを纏った状態だった。

 

「マズっ―――」

 

 奔る激痛に耐え、海人は保有している限りの礼装を引っ張りだした。避けるのは簡単だ。だが、学ランの攻撃の直線上には斬られて気を失った三人が居る。

 とにかく壁を造らなければ、守れない!

 

「号哭!!」

 

 そして、邪悪な斬撃が海人達を襲う。

 音なんて耳に入らず、支えてる左腕の痛覚は機能しない。ピシピシと一つの防御用礼装にヒビが入り、どんどん押し返される。

 諦めてしまえ、という言葉が頭に((過|よ))ぎる。

 自分は魔術師。他人を助ける義理は無い、と本能が訴えかけてくる。

 このまま力を抜いてしまえばどんなに楽だろうか。

 自然と腕が落ちてしまう。

 

「――――ふざけないで」

 

 そっと海人の左手に軟らかい手が重なる。血に濡れてしっとりとした感触を感じ、海人はギョッとして目を剥く。

 

「あの人に着いてくって決めた時、あの人を師匠って呼んだ時、あんたは言ったよね? 大切な人を守りたいって」

 

 防御礼装の強度がわずかに上がる。

 

「私も、あの時言った。どんな時も大事に思ってる人に着いて行くって」

 

 その言葉を引き金に、海人は防御礼装にある限りの魔力を叩きこむ。

 今にも崩れそうな防壁は辛うじて形を保った。掌からは血が噴き出して、衝撃波で蒸発する。

 

 

 かつて、俺/私は自分の無力さを知った。

 俺は自分の無力さを痛感した。/私は自分の無力さをただ呪った。

 自分を庇って傷ついたなんて、嫌だって。/案山子のように立っているだけなんて、嫌だって。

 

 だから、強くなる。

 大切な人を守れるだけの強さを。/誰も寄せ付けないあの人に着いて行けるだけの強さを。

 

 

 

「――――ぅ、うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ベギッ!! と腕が後ろに弾かれる。完全に折れたと理解し、それでも海人は、取り出した礼装を不自然にブラつく片手で握りしめる。

 一番燃費が悪く、魔力に見合った火力を発揮できる((怪物|ぶき))。

 『アトラスの悪魔』

 それを杖のように地面に突き立て、立ち上がった。

 

「美月……想像以上に痛いから、鎮痛作用のある魔術掛けてくんない?」

「そう言うのは、無い……」

「あっそ……」

「……ゴメンね」

 

 美月は血が滲み破れた黒タイツをさすり、無いと言いながらも応急処置用の回復魔術や補助魔術を掛けてくれた。体力や魔力は変わりないが、少しだけ痛みが和らいだのは僥倖だった。

 

 これで、学ランと戦える、と。

 海人は礼装を引き摺って踏み出した。

 おぼつかない足取りでありながら、鬼気迫る表情で一歩一歩近づいていく。

 

「死にぞこない」

 

 学ランは蒼い瞳を見開いて斬撃を飛ばした。だが、海人の持つアトラスの悪魔が勝手に動き出し、斬撃を弾き飛ばす。

 

「……トレース・オン。コード:release_mgi(b)、複写」

 

 身体を強引に振って、動かない腕を遠心力で振った。

 ブンっ、と威力の無い振りだったが、カマイタチが学ランを襲う。学ランは半歩身体をずらすだけで回避して、刹那を使って刀の間合いまで詰め寄り横薙ぎに一閃。が、またアトラスの悪魔が海人の意思に関係なく動き出して防がれる。

 アトラスの悪魔の真の特性はハッキリとわかっていない。

 しかし、『礼装自らが所持者を守ろうと』したり、『所持者の能力の向上』だったり万能な礼装だ。

 たとえ、空間に干渉しようと思えば、出来ない事は無いのだ。

 

 ギャリリ!! と鍔競り音が響き渡り、一撃一撃の振動が海人を確実に蝕んでいく。

 ゾンビのように向かって来る海人にわずかな恐怖感を覚えながらも、学ランは攻撃の手を緩めない。むしろ、ずっと『線』を狙っている。

 それなのにアトラスの悪魔に阻まれて中々決定打を与えられない事に、ムシャクシャしていた。

 一度刀を鞘に仕舞って、ガゴン! と鞘のまま海人をぶん殴った。

 むろんアトラスの悪魔が防いだのだが、威力があって弾かれるように海人の身体が飛んで行った。2,3回バウンドし、フェンスに激突した。衝突の衝撃でフェンスが揺れ、砂埃が立ち込める。

 動く気配は無かった。

 砂が髪に張り付くのを感じながら、フェンス下の海人を警戒する学ラン。

 

 

 バチリ、と小さな火花が学ランの足元を奔る。

 

「っ」

 

 また同じ手段を使って来た。

 そう嘆息して、美月へ足先を向けて((走ろうとした|・・・・・・))。

 しかし、それは半透明の壁に阻まれた。

「((ゴメンね海人|・・・・・))」

 

 地面に映ったディスプレイを展開させ、コマンドを打ち、カーソルをスライドさせ、データを引っぱり出す。同時進行で学ランの足元から巨大な魔法陣がどんどん展開していき、味方が巻き込まれないぐらいの大きさになると止まった。

 その間は1秒も経たない。

 美月は悲しそうな、申し訳なさそうな表情で、

「((アンタもフェイクにして、ゴメンね|・・・・・・・・・・・・・・・・))」

「っっっ!!??」

 

 何重もの堅固な檻が出来あがると同時に、魔法陣上に白い稲妻が降り落ちる。

 

 

 

 

「広範囲にわたって100秒間落雷が降り注ぐ……高かったんだから……」

 

 さすがに大戦期の骨董品を持ちだしたのは不味かったか、と美月は項垂れた。

 しかし、ここまでしないとダメだと思った。相手は『直死の魔眼』を持っている。

 美月はその恐ろしさを知っているから。

 そろそろ増援が送られてきても良い筈だが、空間情報を調べた所、(入る時とか色々やったためか)ここはある種の異空間と化していて、侵入が困難になっているようだ。ここの魔法使いなら1時間ぐらいで元に戻せるだろう。

 

「まさか」

 

 ゾッとした。

 学ランに落ちていたはずの落雷の轟音がいつの間にか止んで学ランの声が聞き取りやすくなっていたから。

 魔法陣があった場所にほぼ無傷で学ランが立っていたから。

 

「まさか、これで終わりじゃないよな」

「ぁ、あ……」

 

 息が詰まって呼吸が出来ない。心臓の鼓動が胸を締め付ける。睨みつけられて美月はピクリとも動けない。

 もう誰も戦えない。美月の手も尽きた。増援も見込めない。そういった言葉が美月の頭を駆け巡る。

 何処で選択を誤ったのだろう? 美月はそう思った。自分達だけで戦って勝てると初めは思った。だから今、皆傷ついて倒れてる。美月はこのパーティの司令塔役として最善の一手を模索して指示を出した。

 自分が、皆を傷つけた。

 

「……つまらないな。死ね」

 

 学ランの理不尽な物言いも聞き入れられず、美月は学ランが刀を振りおろすのをジッと待つ。

 

 

 

 

「責任から逃れる事は許さんぞ」

 

 その声が頭を覚醒させる。

 聞き覚えのある声。頭を上げ、その場から跳ね退き、ここに居ない筈の名を呼ぶ。

 

「アーチャー!!」

 

 瞬間。

 何処からともなく一本の矢が飛来してきた。

 ひゅん、と風を斬り、吸い込まれるように学ランの手の甲を貫いた。

 

「ぐっ!?」

 

 学ランが呻いたのは一瞬だけ。

 すぐに矢を引き抜いて、美月を睨みつけた。

 本来美月が居る場所には影も無くなっていた。

 ふと、海人が倒れている所に人の気配を感じる。未だに晴れない砂煙で見えないが、はっきりとシルエットが映っている。

 

「そこか!」

 

 瞬時に間合いを詰め、一気に振り切った。

 ガギッ! と金属がぶつかり、双方弾かれるように後ろに飛ぶ。

 学ランの渾身の一撃を受け止めた人物は、洋弓を携えた、((紅い外套を着た屈強な男|・・・・・・・・・・・))。この世界に居るハズの無い人物。

 紅い外套の男は美月に数枚の札を手渡した。

 

「転移符だ。なるべくここから遠くに離れてろ」

「ぅ……アーチャーは……?」

「……戦意が無い奴は足手まといでしかない。ここから離れるんだ」

「―――うん」

 

 美月は顔を俯かせ、転移符を倒れた海人らに放り、発動させた。

 

「―――よくやった」

 

 え……? と美月の声が聞こえた時にはすでに美月は消えていた。

 この様子を見ていた学ランは、ただ黙ってた。彼にとって目の前で起きた事などつまらない寸劇でしかない。ようやく終えた茶番劇をせせら笑う。

 

「暇な奴だ。折角世界から解放され自由になったのに。弟子を取っても、あの強さじゃァな」

「……俺には幾度か落第点を与えても良い所があったが?」

「……見ていたのか。ずっと」

 

 ……普通の会話に見えるが、武器を構えたままの会話は殺伐としている。

 二人の間で火花が散った。特に学ランの殺意はアーチャーのものより上回ってる。それも、前世の情報によるものだろう。

 片や『正義の味方』。

 片や『殺人鬼』。

 公式でも受け入れられないものだと。

 

「一つ聞いて良いか?」

 

 アーチャーの問いかけに動きを止める。

 

 

「―――貴様は転生者というものを知っているか?」

 

 学ランの殺気が一気に膨れ上がった。

-3ページ-

 

やっぱりバトル描写って難しいです。

Extraの主人公が仮契約したらああゆうアーティファクトがでると思います。

それと海人の詠唱は((投影開始|トレース・オン))とかではなく、トレース・オンです。

説明
今回はバトル回・・・・・かもです?
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転生 ネギま とある魔術 Fate 

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