黒猫さん家でその4 |
……うぐぐっ、どうしてこんなことになったのかしら? こんな予定ではなかったのに。
「ルリ姉? 叫びながらお風呂から出てきたと思ったら、急に布団の中に入ってどうしたの?」
「……なんでもないわよ」
こんな恥ずかしいこと日向に言えるわけないわ。京介に裸を見られて恥ずかしさのあまり逃げてきただなんて。
べ、別に京介に裸を見せるのが嫌ってわけじゃないのよ? も、物事には順序ってものがあるでしょ?
わ、私の魅力的な身体を見てしまったら京介なんて理性が崩壊して、すぐにでも襲ってきちゃうのよ?
私だって初めては雰囲気というかムードを大切にしたいわよ。
完璧で美しすぎる私の裸を見て興奮したからいきなり襲われるっていうのはちょっと……
だからこれは逃げなんかじゃないの。戦略的撤退というやつなのよ。
「そんなに高坂くんに裸を見られたのが恥ずかしかったの?」
「――――っ!? 日向、あなた――っ!」
「……てへっ☆ 実は最初から見てました♪」
「…………」
なにかしら、この反応。物凄くムカつくのだけれど……
「たまちゃんだって高坂くんに裸を見せてるんだから、ルリ姉もきちんと裸を見せないと意味がないよ?」
「で、でも……裸を見せるのはちょっと……」
珠希はまだ幼いからいいのよ。よくないけど、私よりはマシでしょ。
京介のことだから珠希相手でもエッチな目で見てたのでしょうけど、だからこそ私の裸を見せるのは恥ずかしい。
「ルリ姉……そんなことで高坂くんを満足させられると思ってるの? ルリ姉がそんなんだと他の人に取られちゃうよ?」
「うぐ……っ」
「だから、布団なんかに包まってないで、もう一度高坂くんに裸を見せに行こう♪」
何故か妙にノリノリの日向。あなたは、何でそんなにもテンションが高いのよ!?
「ほらほら、ルリ姉! 早くしないと高坂くんがお風呂から上がっちゃうよ!」
「ちょっ、日向! 布団を引っ張らないでちょうだい!」
「もうっ! ルリ姉は高坂くんのことが好きなんでしょ? だったら裸を見せてあげないと!」
「好きだけど! 好きだけど、何で裸を見せないといけないのよ!?」
グイグイと布団を引っ張って布団から私を出そうとしてくる。
せめて私の気持ちがもう少し落ち着いてからにしてよ……こんな気持ちの状態で京介に裸を見せるなんて出来ないわ。
「――だってよ? 高坂くん」
「……お、おう」
え……? こ、この声は……い、いや気のせいよ。京介はまだお風呂に入っているはずだし、この場に居るはずは……
あり得ない。そう思いながら恐る恐る後ろを振り向く。
するとそこには驚いた顔をしている京介と――
「にひひっ♪」
本当にムカつくくらいの笑みを浮かべている日向がいた。
「ルリ姉。さっきの言葉、もう一度言ってやんなよ。高坂くんを前にしてさっきの言葉をさ♪」
「な、なな、何を言ってるのよ!?」
そんなこと言えるわけないでしょ! 京介にもう一度『好き』だなんて言えるわけ……
凄く言いたいけど、まだ言うわけにはいかない。まだ……
「はぁ……ルリ姉ったら、なにをそこまでビビってるの?」
「誰がビビってなんか――」
「だったら言いなよ。高坂くんだってルリ姉の言葉を待っているんだよ? そうだよね、高坂くん?」
「ま、まぁ……」
「で、でも――」
「ほんと、この人は……たまちゃんからもルリ姉に言ってやってよ」
「姉さまはお兄ちゃんが好きなんですよね?」
日向だけじゃなくて、珠希までもが私にプレッシャーをかけてくる。
なによ、この『好き』って言わないといけないみたいな空気は。みんな分かっているんだからサッサと言えよみたいな空気は。
「く、黒猫……? 今言った言葉って……」
しかも京介まで私の言葉を待っているっていうの? 本当に言わないといけないの……?
「ほらルリ姉。高坂くんにバシッと言ってやりなよ」
「っ!?」
日向がバシンと私の背中を叩いて気合いを入れてくる。この子なりに私を応援している
っていうのは伝わってきてるけど、こんなにも強く叩く必要はないでしょ。かなり痛いわよ。
「姉さま。がんばってください♪」
でも、こうやって日向に……更には珠希にまで応援されて黙っているわけにはいかないのよね?
「……えっと、その京介?」
「お、おう。何だ黒猫」
「うぅ……その……だから――」
「ルリ姉、頑張れ」
「姉さまふぁいとです」
「……好き、よ?」
カッコイイ姉。その姿を見せたかったのだけれど今の私にはこれが精一杯だわ。
これ以上のことは出来ない。これ以上のことをしてしまったら死んでしまうわ。
「ルリ姉……さすがにヘタレすぎだよ」
「姉さま、顔が真っ赤です……」
うるさいわね。そんなこと分かってるわよ。自分で言うのも悲しいくらいにヘタレなのよ私は。
それでも京介、あなたには私の気持ちが伝わっているのでしょう? そうでなくては困るのだけれど。
「…………」
「何だか高坂くんが固まっているような気がするけど、せっかくルリ姉が勇気を振り絞って
――なけなしの勇気を出して高坂くんに告白をしたんだから、返事をしてあげるのが男の務めでしょ」
妙に日向が男を語っているわね。てか、微妙に私をバカにしてなかったかしら?
「ほら、高坂くん。男ならシャキッとするっ!」
「うおっ!?」
さっきの私みたいに背中をバシンと叩く日向。何故かしら、今の日向がとても頼もしく見えるわ。
可愛いけど、残念な妹だと思っていた認識を変える必要がありそうね。
日向に押される形で京介が私の前に立つ。
「きょ、京介……?」
「あーその、なんだ。えっとつまり……」
もごもごとしている京介。煮え切らない男ね、ハッキリと気持ちをぶつけてくれたらいいのに。
私はもう覚悟を決めたし、どんな返事でも笑って受け入れるわよ……そう、例え拒否をされても……恐らく。
「……分かるだろ?」
「分かる訳ないわ。気持ちは言葉にしないと相手に伝わらないのよ」
ヘタレてなかなか言わなかった私が言えた義理じゃないけど、それでも今は言っていいわよね?
今だけは言ってもいい場面のはずだから……
「京介。私はあなたが好きよ。あなたはどうなのかしら?」
「おー、ルリ姉が開き直った!?」
「姉さま、かっこいいです……♪」
「俺は……うん、俺も黒猫お前が好きだよ」
「「わぁー♪」」
「――――っ」
ずっと望んでいた言葉を言われるのはやっぱり嬉しいわね。そして、それと同時に凄く恥ずかしいわ。
「ねーねー、これで高坂くんはまたルリ姉の恋人になったんだよね!? あたし達の家族になったんだよね!?」
ガクガクと京介の身体を揺すりながら問いかける日向。恋人なのは間違いないけど、家族は行き過ぎよ。
ま、まぁ……その内、京介と家族になれたら嬉しいけどそれはまだ後の話よ。
「日向、騒ぎ過ぎよ。そろそろお風呂に入って寝る準備をしなさい」
「むむっ、それってつまりあたし達が寝た後二人は――きゃっ♪」
「な、ななな、何を言っているのよ! そういうのはまだ早いわよ!」
二人が寝ている中でスルだなんて緊張しちゃうじゃない。いつ起きるのかってハラハラしながらするのは嫌よ。
た、確かに緊張感はあるかもしれないけど、もう少しゆっくりと落ち着いてしたいわよ……
「ルリ姉。妄想が口から出てるよ」
「んな――っ!?」
「にひひっ、嘘だよん♪ それじゃお風呂に入ってきまーす!」
「日向っ!」
私に怒られる前にお風呂場へと逃げる。まったく、あの子ときたら……
「……京介、あなたも何顔を真っ赤にしてるのよ?」
「わ、悪い! えっとまぁ……俺も健全な男の子なわけで、変な妄想をしてまして……はい」
「バカ♪」
本当にこの人は何も変わらないわね。
バカでエッチで優しくてエッチで真面目でエッチで……ズルいわよ。
「何だか失礼なことを言われた気がするぞ」
「気のせいよ。それよりも珠希と一緒に先に布団の中に入ってなさい」
「黒猫はどうするんだ?」
「私はもう一回お風呂に入るわ」
なにせ基本的に何も出来ずに出ていってしまったから。きちんと身体とかを洗わないとダメでしょ?
だって京介の隣で眠るのよ。色々と気を遣うに決まってるじゃない。だからもう一度お風呂に入るの。
「そ、そっか……」
だらしない顔を浮かべている京介。変なことを考えていなければいいんだけど。
「じゃあお風呂に行ってくるわ」
「おう、ゆっくり入ってけよな」
何で自分の家のお風呂みたいな感じで言ってるのよ。ほんと、この男は……
まぁ、今の私は寛大だから許してあげるわ。だけどあまり変なことは言わないでよ?
少しは私の恋人だという自覚を持って生きていきなさい。分かったわね?
私はトテトテとお風呂場へと足を運ぶ。自身の身体を綺麗にするためと日向に若干のお仕置きをするために。
それからは実にうるさい感じだったわ。日向だけじゃなくて珠希まで一緒に騒ぎだしたのだから。
京介と一緒に寝るのが嬉しいとはいえ、ハシャギすぎよ。
散々、騒いで後はぐっすりと眠りにつく。ゆっくりとすることは出来なかったけどそれなりに楽しかったわ。
最後は京介と手を繋ぎながら眠ったというのも大きいのかもしれないわね。朝になって日向に茶化されたけど。
――こうして京介のお泊りは幕を閉じたのだけれど、これで全てが終わったわけではない。
再び京介と恋人になったということは、まだ何度も家に泊まることがあるでしょう。だからこれはほんのプロローグに過ぎないわ。
私と京介……そして周りの皆と一緒に幸せになるためのプロローグ。
説明 | ||
プロローグ兼最終話だったりします。 最新刊が出たらまた何か書くかもです。 |
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コメント | ||
まったく・・・やっぱり黒猫はサイコーだぜ!! w(天使 響) | ||
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 日向 珠希 高坂京介 | ||
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