ISジャーナリスト戦記 CHAPTER09 不動信念
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サイレント・ゼフィルス強奪事件から数日後。依頼を守れなかった俺はわざと悔しがる表情で帰還してミシェルさんに頭を下げ、事情を説明済みのレミリアと共に日本へと帰国し永遠亭にすぐさま直行して永琳に会いに行っていた。

確かにISは奪われはしたが何も得られなかったわけではない。亡国機業との重要な繋がりを持つことが出来た事を事細かく包み隠さずに報告すると俺は、織斑一族の秘密について再度調査すると同時に現在の状況を整理する事を決める。そして、自分用に設けられた部屋に篭もり作業を続けること二日と数時間・・・大体の相関図と織斑春一についての調査を終え、うっすらと隈が出来た顔のまま珈琲を啜り投影ディスプレイに映し出されたレポートを静かに見つめていた。溜息が自然と口から漏れる。

「・・・マドカが言っていた通りだな。織斑春一は19XX年に学会を追放され、ほぼ同時期に同じく遺伝子に関して研究していた女性と入籍している」

式は挙げていないという書類だけが唯一示す関係。結婚式をするのに時間を取られるぐらいだったら研究をしていた方が良い、とでも思っていそうだ。歪で愛の感じられないこの奇妙な関係に吐き気を覚えるもまだまだ序盤なのでグッと心を保って堪え考察を続ける。額の汗を拭いレポートを読んでいくと今度は織斑千冬に関する記述が目に留まった。

篠ノ之束の両親が束を出産する少し前に千冬は戸籍上生まれたことになっているが、マドカの証言から察するに彼女は普通に『行為』に及ばれて普通に『出産』されたのではない。生みの親が自身らの遺伝子を糧に研究を重ね調節を施した末に母親が普通の子供と同じような『出産』を装ったのだ。その後の成長と経歴から察するに本人にはその事実に気づいていない可能性が高い。もし、気づいていたのなら己の身体能力の高さを恐れて武術や公に披露されることになるISに手を染めようとは思わないはずだ。

となると、考えられるのは彼女は『弟の秘密を知っているが、自身の秘密を知らない』という状態。これならば、ドイツ軍への恩返し後に現役を退いて彼の身の危険を軽減しようとしたと後の行動にも説明がつく。ついでに言えば、一夏の秘密を知っているということはマドカの事も当然知っていることだろう。

「マドカを守れなかったのはそのままの・・・瓜二つの自分がそこにいるのが受け入れられなかったというのもあるのかもしれないな」

一夏ならまだ性別が違う為、『弟』と自身に言い聞かせることで受け入れることは可能だったと俺は推理する。彼が失敗作として必要なくなったから守らざるを得ないこともあって彼女は生みの親に代わって彼を育てることを決意したのだろう。

「織斑春一の唯一の失敗、それは『最高傑作の反逆』・・・・・・結局、それが後にマドカを縛る枷に繋がったか」

過ちを繰り返さないために織斑春一は手元に残った個体、織斑マドカに織斑千冬と同じことをさせないようナノマシンを投与し従順な人形へと仕立て上げた。そうだとすれば一夏にマドカが嫉妬するのも納得がいく。千冬はマドカにとって守ってくれなかった裏切り者にして抵抗を不可能とする枷を与えた怨敵であり、一夏は自身のありえたかもしれない可能性で立場の憧れる存在なのだ。殺したいほど妬ましいと思わずにいるというのは過酷な話か。何とか説き伏せたもののそれさえ失敗していたらどうなっていた事やら。

まあ、この件に関しての残る問題は今のところ一つだけだ。・・・そう、ドイツ軍高官の依頼による一夏誘拐が何を結局意味するのかである。予想が確かならば同じくクローン型強化人間を彼らは研究していることにはなるが一体それが亡国機業にとって何のメリットになるのだろうか。考えられる説として研究データの提供という有力な可能性があるが果たして・・・・・・。

「そこまでは知らないって、言うしな・・・・・・一応調べてくれるらしいが過度な期待はよそう」

一番いいのは実物を見ることだが研究施設が何処にあるのか不明な以上どうしようもない。高いセキュリティレベルを突破できる将官でさえも把握していないのだからハッキングや潜入をかましたところで無駄骨だろう。気長に待つのが今は妥当だ。

程よい暖かさになった珈琲をまた口に含み、画面上に簡易的な人物相関図めいたモノを表示し自分の立場を再確認する。取り敢えず、篠ノ之束と亡国機業とは敵対という形なのは揺るがないとして気になるのは両者だけの関係だ。これまでの事件などから察するに敵対しているとは思うがカモフラージュである可能性もなくはない。実は篠ノ之束が真の黒幕で情報を亡国機業にリークしているなんて場合もある・・・確証はないがな。現状は敵対していると判断し俺は落ち着いている。

 

 

 

 

 

 

「後は・・・物語の根本的問題である『何故、織斑一夏はISに乗れるのか』だな」

こればっかりは真実が明らかになっていない今、結論を出すのは早すぎる。幾つか推論を立てる事は可能だが『これが真実だ』と明言することは難しい。だから俺は現状で考えついた有力な可能性について纏めることにしてみた。

 

まず、最初に思いついたのがISが一夏を女性だと勘違いしている『女性誤認説』。これは一夏が千冬の性別違いのクローンであることから一夏=千冬とISが勘違いしていると考えた故の推論だ。これだけでも単純な可能性として成り立つが俺は更に別の可能性も含めて考察を行う。

・・・別の可能性、それは一夏が本当の意味で『男性』ではないという可能性だ。何故、失敗作とされ彼が親に『捨てられた』かもこの可能性ならば解き明かすことができる。つまり、織斑春一は完全な『男性』としての千冬だけを必要としており、不完全な『男性』な一夏は必要ないと考え彼を捨てたのだ。

「失敗は邪魔な存在でしかない、成功のみがただ一つの結果・・・という事なのかね、まったく」

そんな考えには至りたくないね、と呆れつつ脱線した話を元に戻し考えを進める。

まあ結局の所、ISに初めて乗ったが女性である『織斑千冬』だったから『女性しか乗れない』ようにISが決めてしまった。一夏はある意味最初にISに乗った本人であり完全な男性じゃないから女性と勘違いされて実は乗っている・・・というのが大まかなこの『女性誤認説』の流れである。信じるも信じないも貴方次第ってことで。

 

続いて『束細工説』だ。これは文字通りに篠ノ之束が己の目的の為に一夏を巻き込んで細工したISに乗らせたという可能性である。まだ情報不足の頃はこの説が俺の中では強かった。ちなみにこの可能性は一夏が別にクローンじゃなくとも成り立つ意外な万能性を秘めていたりする。・・・ただし若干の問題あり。本人がブラックボックス部分を解明しているか否かでこの可能性は崩れ去るかもしれないのだ。『実は解明済み♪』ならゴリ押し細工説として行けるが、『本当にわかっていないよぉ・・・(´・ω・`)』なら可能性大崩壊だ。

「・・・やっぱり一番の可能性候補は、『女性誤認説』を把握した篠ノ之束の陰謀説か」

確か原作の冒頭では受験の際に会場で迷った、とあった気がする。しかし、疑問に思うのは『本当に会場は合っていた』のかだ。就職率が良い高校ならば対応もしっかりしているはずだし受験の際の誘導も徹底するはずである。だから、早く来すぎるか大幅に遅刻でもしない限り一人で案内もなしにポツンといるのはおかしい。考えられるのは会場の案内に関する書類に細工がされていたという事。この件は妖夢に頼んで事が終わってから地図が本物であったか確かめてもらおうか。

それとは別にあえてISに試験会場で触れさせないという手段を用いて様子を見るということも考えたがリスクが高いと考え取り止める。残された時間が約三ヶ月となった中、俺は一夏にしてやれることが何かないか大いに悩み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何か最近、誰かにストーカーされているみたいなんだがどうすればいいと思う?」

「―――えっ?」「―――みょん?」

所変わって、五反田食堂で弾や妖夢と一緒に受験勉強をしていた一夏はいきなりディープな悩み事を二人に打ち明けていた。それはもう非常にどうしていいかわからないといった感じで汗を垂らしながら。

「何だよ急に・・・てか、お前がストーカー?・・・誰に?」

「ただの勘違いってことはないんですよね・・・?」

巫山戯て言っているのではなく真剣に悩んで言っているのだとすぐに悟った心強い二人は念の為に確認を取る。すると、序盤から笑えないモノをポケットから取り出して一夏は机に置いた。それは何処からどう見ても――――

「・・・小型カメラ?」

「正確にはCCDカメラ、ですね。それも独自のカスタマイズがされているみたいです」

にとりや永琳の発明品に似たようなモノがあったのを思い出した妖夢は手に取って深く観察しそう言い当てた。一夏はその回答に満足して腕を組んだまま見つけた経緯を話す。

「洗濯物がな、木に引っかかっちまったから竹箒を伸ばして取ったんだ。そしたら、取った拍子に設置されたのが一緒になって落ちてきて・・・」

「・・・今に至ると。電源は手動でオン・オフ可能か」

「ああ。手に掴んだ瞬間何なのかわかったし急いでオフにした。・・・けどな、そこからが問題だった」

最初は千冬狙いだと思った一夏は未だにご執心なファンの悪戯かと思って外回りを調べるだけにした。確実に探し出そうと探知機を購入し調べてみると思った通りにカメラは見つかる。だが、それだけでは事は終わらなかった。・・・探知機はなんと、家の中にまで反応を示していたのである。

「千冬姉の部屋にも仕掛けられてはいたんだけど・・・数は俺の部屋の方が尋常じゃなかったんだ。怖くなった俺はプロに頼んで回収してもらって以来、周りをより一層気にするようにした」

「カメラの方はもう仕掛けられていないんですね?」

「恐らく多分な。でも、カメラがなくなった代わりに夜道じゃ視線を感じるようになった。勿論、一人でいる時にな」

 

普通は順序として逆だろうと弾はこの時思った。まあ、普通と言っていいのかはさておき・・・親友として一夏が狙われる理由について彼なりに考えてみた。

 

「恨まれるようなことはした覚えないもんな・・・・・・」

「逆恨みって場合はあるかもしれないけど、もっと別なやり方があるだろ」

ごもっともです。あと、するなら子供地味た方法なはずですね。ストーカーじゃド派手過ぎますがな。

「ヤンデレの類はこの辺じゃ見かけないしな・・・・・・」

「ツンデレも居なかったような気がするぞ。あと、文学少女がこの辺はやけに多いらしい」

・・・マジか。今度、河川敷にでも行って黄昏てでもいるかな。シュチュエーション待ちの少女がいるやもしれん。

「年下好きの痴女が出現してるって噂もないしな・・・・・・」

「隣町に出現したらしいぞ。俺が通報しておいたから襲われた奴は事無きを得たけど」

何さり気なく人助けしてんの一夏君。てか、何故隣町にいた?・・・ああ、スーパーの特売セールですねわかります。

「ガチホモがいるわけでもないしな・・・・・・」

「数年前に別の隣町にある森の奥にあった洋館に居たって噂はあったぞ。どっかの化け物退治がお得意のTさんって人が高校時代に解決して取り壊したそうだが」

ば、化け物って・・・いや、それよりもTさん何者ですか。ガチホモも平気で倒しちゃえる方なんですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数年前のTさん〜

 

「いいのかい?ホイホイ近づいてきちまって。俺はノンケだって構わず食っちまう男なんだぜ?」

「・・・・・・ティ○・フィナーレ(物理)!!」

「アッー!」

「というか、何でこの世界にコイツいんの?」

げしげしと足でブルーベリーみたいな色のツナギを着た、攻撃をモロに喰らって全身がビクンビクン震えている変な男♂の尻を踏みながら当時のT・・・灯夜は呟いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・気になりはしたもののいい加減話が脱線し過ぎなので、強制的に話題をストーカーの詳細について転換する。

「男か女かぐらいはお得意の気配察知でわかんなかったのか?」

「いや、それが気配はまるでなくて視線だけなんだ。だから察知しようがない」

「またカメラの類が帰り道に設置されていたりはしませんでしたか?」

「カメラなら固定した後にずっと感じるはずなんだけれど・・・感じない日と感じる日があるからどうも動いているっぽいんだ」

遠隔操作型のカメラとでも言えばいいのだろうか。そんな感じのカメラが浮いて自分を見ているとなると気味が悪くて夜も眠れない、と一夏は訴える。相手はどうやら相当執念深く科学技術に精通している存在のようだと弾と妖夢は目を合わせてお互い頷きあった。

「犯人が誰かは兎も角、そういうことなら一人でいるのは絶対に避けろ。隙を見せたらまた同じ二の舞になる」

「そうですね。ちょうど今は受験準備の最中ですし家にお姉さんが不在でしたら、今までのような『たまに』泊まる状態から『頻繁に』泊まるようにしたらいいのではないでしょうか」

「だな。必ずどちらかが付き添って帰ったり、一緒に行動していれば負担は減るだろうし受験勉強だから仕方ないって周りには通せる」

二人が提案したのは受験生であるが故の連日お泊り勉強会。既にどちらの家でも泊まった経験のある一夏にとってそれは慣れ親しんだ日常の延長にしか過ぎず負担は少なかった。だから彼は運命の受験の日まで二人の協力を仰ぐことにし頭を力強く下げた。

「・・・すまん、この恩は忘れない!!」

「いいってことよ」「気にしないでください」

そう言って彼らは柔らかな表情で笑い合うと受験勉強を再開した。

 

―――五反田食堂の店内の一角では、そんな受験生たちの日常があるがままに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははっ!流石いっくん、束さんの監視に気づくとはやるねぇ!!・・・面白い、面白いよ!!」

そして、地球上にあるのかさえ怪しいマッドサイエンティストのとあるラボでは混沌の時代を作り上げた張本人が高笑いの中、また世界を混乱の渦へと落とす為に己の欲望という名のエゴを実現させようと企んでいた。彼女の信じる“正義”も間違いなくこの時は“悪”にしか思えなかった。

 

―――――少年の日常の崩壊は、悲しい≪物語≫の始まりを告げる戦鐘ゴングとなる。

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一夏さんの白式強化プランは今のところ『蹴り』のみになりました。はい、パンチなんて無理です。強化しすぎです。

というか、バランス考えたら追加は1つでよかった。そんなわけで足りない部分は機転を効かせた戦い方になると思います。その場その場で使えるものを使ってね・・・うふふ。

 

次回からは一夏さんメインパートになるかと。灯夜:一夏=7:3だったのが逆になるって感じですかね。

 

次回、『CHAPTER10 日常終焉』

一人の少年の≪物語≫が始まる時、世界は揺れ動く。その時、それぞれの人間は何を思い行動するか。

次回もお楽しみに。

説明
前回の半分以下の文字数に泣いた。

まあ、あれは戦闘描写があったし仕方ないね。

しかも、今回は考察回&受験生たちの日常編+???です。長ったらしくする要素が何処にもなかった。いや、あったんだけど図を作ったせいでなくなったんだ!

では、いよいよ次回は原作直前ですがよろしくお願いします。
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