その人は何処へいった? 13.ディグ・ミー・ノー・グレイブ
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「逃げてくださいあちらさん!!」

 

 

ネギの悲痛な悲鳴が辺りに響き渡り、

 

 

「イいかゲンニしネ。『氷神の戦鎚』。」

 

 

 

 

 

ぺちゃぐちゃりと神の戦鎚の名に相応しい巨大な氷塊が彼を押し潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャン。バシャン。バシャン。

 

あちらが巨大な氷塊の下に消えるのを、待っていたかのように学園都市の電力が復旧する。

 

 

「がァ!?」

 

 

当然それに付随するエヴァンジェリンへの学園結界の呪も復活し、さっきまで膨大な魔力を纏っていた偉大な吸血鬼をただの少女へと再び堕とした。

 

封印に伴う突然の激痛と脱力感からエヴァンジェリンはたまらず蹲った。

 

 

「・・・くッ!いったい何が!?」

 

 

さっきまではこの忌々しい呪いを解く後一歩まで来ていたはずだ。

なにやら胡散臭い男が急に現れたのも覚えている。

 

 

―――だがそこからの記憶が無い。

 

 

 

どの様な手を使ったのかは知れないが、誰かがこの決闘の決着に水を差した!!

 

凄まじい程の憤怒が自分の身を焼くのを感じる。

 

ここまでコケにされたのは、久方ぶりだ。

サウザンド・マスターとの時でもこうは感じなかった。

良いだろう。生まれてきた事を後悔させてやる!

 

 

記憶が無くなる直前に見たあの男。

あいつが犯人か。

 

ぼーやの知り合いみたいだったが知った事か。

誰に喧嘩を売ったのかをその体に刻み込んでやる。

 

 

「おい!ぼーや!!あの男はど…こ・・・・・、・・・・な。に?」

 

 

未だ体に残る痛みに耐えつつ、体を起こすとネギは涙に濡れた頬を拭おうともせず呆然としていた。

幾ら呼びかけても反応せず、まるで初めから聞こえていない様子だ。

ただ一点を見つめている。

何をそんなに見つめているのだろうとエヴァンジェリンはそちらに視線を移した。

 

 

 

―――そこには惨状が広がっていた。

 

 

あたり一面の道路は真っ赤に染まり、アスファルトは何かを叩き付けたかのように砕けていた。

叩き付けたモノは柔からかったのだろう、あたりには綺麗な真っ赤な飛沫が描かれていた。

引き摺った様な跡もある。

それが乾きかけた絵の具で道路に無理やり絵を描いたようでおかしかった。

 

なぜペンキがこんな所に?

 

やめろ。

 

自分を騙せない様な嘘は吐くな。

 

吸血鬼の私がその匂いを間違えるものか。

 

 

あれは血だ。

 

道路の所々に衣服の切れ端と肉片らしきモノがこびり付いている。

ではあの白いのは歯か。

 

 

そして―――

 

 

 

―――橋の真ん中に鎮座する巨大な氷塊と、その傍らに立つ血塗れの己が従者。

 

 

エプロンドレスを初めからそうであったかの様に真っ赤な水玉と飛沫模様に染め上げて、呆然と赤い自分の手を見下ろしている。

 

 

 

まずいッ!!

 

 

「茶々丸!!!」

 

「あ、ますたー。」

 

 

とてとてと走り寄ってきた茶々丸をエヴァンジェリンは胸元に抱き寄せた。

このままではこの従者はコワレテしまう。

葉加瀬は魂などないというが、この子は優しい娘だ。人や動物が傷つくのを嫌がる。

その彼女が自分の手が血で染まっていたらショックは一体如何ほどか。

 

ぎゅっと茶々丸を抱きしめながらエヴァンジェリンは考える。

 

恐らくこの惨状を作り上げたのは茶々丸だ。

そして止めの魔法を放ったのは私だ。大方、氷神の戦鎚だろう。

あの氷塊の下から一番濃い血臭がする。なぜか段々薄れてきているが、それまでに血を失い過ぎたのだろう。

 

 

だが、その記憶が無い。

 

 

「ぼーや、なぁぼーや。一体何があった?」

 

 

ネギは涙を流しながら視線を氷塊から一切外す事無く、エヴァンジェリンの質問に答えた。

虚脱状態から抜け出せていないのか、言葉はたどたどしい。

 

 

「・・・あちらさんが・・・・・・聞いてきたら・・・エヴァンジェリンさんが侵入者だって・・・・違うって言ったのに・・・・・・魔力無いから・・・普通の人だって・・・・けど・・・・・・・・茶々丸さんが殴って血が出て・・・・・・」

 

 

ネギはガクガク震えながら

 

 

「止めてっていったのに・・・・・・ボロボロのあちらさんが・・・・・・・氷のに・・・・・・・・・ッ!」

 

 

感情がオーバーフローしたのか、心を吐き出すようにして話しながら、ネギは意識を失った。

 

 

「・・・そうか。」

 

 

エヴァンジェリンは自嘲した。

まさか暗示とはな。魅了の魔眼を持つ吸血鬼が暗示をかけられるとは笑い話にもならない。

 

いつ掛けたかは知らないがやってくれる。

私にあの男を始末させるために仕組んだのだろう。

私も表の人間を殺したんだ。只では済むまい。おそらく処断されるだろう。

 

くッ!?、そんなに己の手を汚すのが嫌か。忌々しい小物め!

 

 

「―――スザク・神薙・フォン・フェルナンドッ!!」

 

 

「ご明察。」

 

 

ぐにゃりと辺りの空間が歪んだ。大橋周辺の位相はずらされ、一種の異界と化す。

 

突然ぐぱりと目の前の空間が裂けた。

 

裂けた空間の向こうは星が瞬く闇黒が広がっており、まるで奈落を覗き込んだときのような怖気が走る。

深淵を覗き込んだ時、深淵もまたこちらを覗き込んでいるのである。

 

いや、本当にこちらを覗き込んでいる。

星だと思っていたものは目だ。目蓋の無い眼球がぎょろぎょろと忙しなく動きながら、こちらの((境界線|セカイ))を暴こうとジロジロ視姦してくる。

 

その向こう側から人影が現れた。脇に誰かを抱えている。

ずるりとその人影がこちらの世界に降り立つと、空間の亀裂は何事も無かったかの様に閉じていく。

 

 

「・・・やはり貴様か―――ッ!」

 

「やぁ、よい夜だな。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル?」

 

 

銀髪白貌、金銀妖瞳の美貌を持つ3-A の副担任がいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「ディグ・ミー・ノー・グレイブ」

 

 

 

 

「ふむ。どうして俺だと分かった?」

 

「ふん!手口が小物臭かったからな。お前だろうと思っただけだ。」

 

「ほう?俺が小物だと・・・」

 

「―――ああ、すまん。気に障ったか?なら訂正しよう。

たかが表の人間一人殺すのに、ここまで姑息な事をするんだ。

 

大物気取りの臆病な小悪党だガァ!?」

 

「マスター!?」

 

 

エヴァンジェリンはフェルナンドに無造作に蹴り飛ばされ、正気に戻った茶々丸は悲痛な声を上げた。

学園都市で魔力を封印されたエヴァンジェリンはもう見た目通りの幼子でしかない。

咳き込んで胃液を吐き出した。

 

 

「口の利き方に気をつけろよ、エヴァ。

 

寛大な俺でも言って良い事と悪い事がある。それは子供でも知っているぞ。」

 

「げふ、フフ。馬鹿か、そういう所が小物だというのだ。」

 

「・・・少し指導が必要か。」

 

 

フェルナンドが指を鳴らすと、ガチャンと鍵の外れる音がした。

背後の空間が波うって顔を出した剣群が次々と射出され、エヴァンジェリン目掛けて飛翔する。

 

 

「く!?」

 

「マスター!」

 

 

先ほどのダメージから回復できていないエヴァンジェリンは回避する事が出来ない。

エヴァンジェリンの前に飛び出した茶々丸が直撃する剣群を次々と弾き飛ばすが、どの剣も異常に切味が良く、凌ぎ切った時には茶々丸の両腕はボロボロになっていた。

 

 

「大丈夫か茶々丸!」

 

「大丈夫ですマスター。しかし両腕の損傷率が耐久限界を超えました。次は凌ぎ切れません。」

 

「凌いだか。エヴァ、いい従者を持ったな。」

 

「・・・ッ!貴様一体何が目的だ。」

 

「なに。俺は善良な一魔法使いとして行動しているだけだ。」

 

 

フェルナンドは舞台俳優の様に大仰に腕を広げて、朗々と脚本を話し始めた。

 

 

「学園長に言われた通りに手を出さずネギ先生達の戦闘を監視していました。

しかし場所を麻帆良大橋に移した時に悲劇が起こります。

 

たまたま大橋に来ていた市民が巻き込まれてしまったのです!

 

エヴァンジェリンは男を侵入者と((早とちり|・・・・))して殺害。戦闘記録は絡繰茶々丸のレコーダーにも残っています。

血に酔い、反転して堕ちてしまったエヴァンジェリンは、錯乱して私に攻撃をしかけて来てきました。

彼は泣く泣くエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを討伐。彼は生徒の死に悲しみにくれました。

 

しかし悲しむ必要はありません!なぜなら彼女はみんなの心の中で生きているのですから!!

 

 

―――くくく、ひひひひははははははああははははははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「ちッ、狂人が。」

 

「ひひ、・・・ふぅ。さてエヴァ。お前には二つの選択肢がある。

 

一つ目は先程述べた未来。この場合は((脳|ドライブ))を抉り出して茶々丸も破壊される。

 

二つ目は俺に忠誠を誓う事。俺を唯一の主人として契約し、永劫を共に歩む。

この場合は誰も死なない。あの男の事は只の事故として処理してやる。

 

さ、選べ。考えるまでも無いよな?」

 

「ああ、考えるまでも無いな。」

 

「マスター・・・。」

 

 

フェルナンドはその答えに満足気に喜悦の表情を浮かべた。

自分の思い通りに事が運ぶのが楽しくて仕方ないらしい。

フェルナンドはじろじろと情欲の灯った瞳で私の体を嘗め回している。

もう俺の女とでも言うつもりか。

 

早漏め。

 

あまりこの((闇の福音|ダーク・エヴァンジェル))を舐めるな!!!

 

 

「だが断る。」

 

「・・・・・・何?どういう意味だ。」

 

「貴様にくれてやるほど、この((闇の福音|ダーク・エヴァンジェル))の身は安くないと言ったのだ痴れ者め!!」

 

「ハイ、マスター。何処までも。」

 

 

まさか断られるとは欠片も思っていなかったのか、しばらく呆然としていたが、段々怒りに身を振るわせていく。

 

 

「・・・愚か者が。くそッ!馬鹿にしやがって!!!もういい!お前達は要らない!!

 

まだまだここにも魔法世界にもヒロインは腐るほど居る!!てめぇらはここで死ね!!」

 

 

再び指を打ち鳴らすとガチャンと鍵が開く音。

背後の空間が波うって豪華絢爛装飾過多な数多の宝具達が姿を見せる。

 

その威力は力を縛られた吸血鬼や壊れかけたガイノイドの体は愚か、輪廻の輪に帰れぬよう魂を消し飛ばしても余りある威力。大橋は中ほどから消失するだろう。

 

 

「死ね、マンガの作りモンがァァ!!」

 

 

宝具群を射出して慈悲を無碍にした愚か者を、この地上から抹消しようとした、まさにその時。

フェルナンドの脇に抱えていた人影が身じろぎをした。

 

……まさか目を覚ましたのか?

 

フェルナンドは一時攻撃を中止して脇に抱えた人の様子を見る。

エヴァンジェリン達は未だに宝具群に狙われながらも九死に一生を得、誰が脇に抱えられているのかとその人影を注視した。

 

人影は意識が覚醒寸前なのか、抱えられながらもぞもぞしている。

 

 

「あれは長谷川、千雨?」

 

「輪郭、骨格一致。間違いなく本人です。」

 

「くくッ。ちょうどいい。」

 

 

フェルナンドは抱えていた千雨を道路に下ろした。

下ろした衝撃で千雨の意識が完全に覚醒する。

尻餅をついた状態の千雨はなぜ自分がこんな所に居るのかがわからずに回りをきょろきょろ見渡している。惨状はフェルナンドが傍に立っている為、壁になって見えていない。

 

 

「千雨、起きたか。」

 

「あ?フェルナンド先生?どうしてここに?っていうかここは?」

 

「前から言っているがスザクでいいぞ。ここは麻帆良大橋だ。」

 

 

なぜかぼーとする頭を押さえながら、千雨はそこが学園都市の端っこに位置する麻帆良大橋である事を確認した。

 

―――チッ、まだ頭がぐらぐらしやがる。

寝起きにフェルナンド先生のプラスチックみたいな薄気味悪い笑顔はいい気付になるな。

 

 

「なんだってそんなトコに・・・マクダウェルに絡繰?何して・・・、っておい!血が出てんぞ!?」

 

 

千雨は二人に駆け寄ろうとしたが、フェルナンドに肩を押さえられて進めない。

 

 

「おい!先生放せ!生徒が怪我してんのが見えないのか!?」

 

「その傷は俺がやったもんだし、その二人に近寄ると危険だからだ。」

 

「なぁあ!?」

 

「千雨、事情を説明してやるから落ち着いて聞け。」

 

 

そしてフェルナンドは千雨に事情を説明し始めた。

 

 

この世界には魔法があること。

この街は魔法使いが運営していること。

今夜、ここで魔法使い同士の戦闘があったこと。

それに偶然ここに来ていた二人が巻き込まれたこと。

自分が助けに来たときには間に合わず、男はすでにエヴァンジェリンと茶々丸に殺されたこと。

そして自分が気絶した千雨を保護して、殺人を犯した二人を討伐すること。

 

 

フェルナンドは虚実混ぜ合わせて千雨に説明した。

理由はどうあれ事実男を殺した二人は千雨に恋人が居た事を思い出し、殺した男がそうだったのかと愕然として言い訳の一つもしようとしない。

 

じっと話を聞いている千雨はいきなりの突拍子も無い話と恋人の訃報に精神が追いつけないようだった。

あまりに((平然|・・))としている。

 

 

―――これは行けるッ

 

 

歓喜にはやる気持ちを抑え、極力穏やかな笑顔を心掛けて千雨に微笑みかける。

 

 

「ここに来たときには、もうこんな惨状だった。」

 

 

フェルナンドは今まで隠していた光景を見せた。

その光景に呆然として千雨が顔を青くしていると、フェルナンドは混乱している千雨にまるで叩き込む様に、刷り込む様に話しかける。

 

 

「彼の事は本当に残念だった。しかし、彼は本当に勇敢だった。巻き込まれながらも千雨を必死に庇っていた。麻帆良に住む一人の魔法使いとして彼の勇気には心から敬意を表する。

 

・・・泣きたければ泣けばいい。しかし千雨は泣いた後には、先へ向かって進まねばならない。

千雨を庇って死んだ彼に胸を張って生きて行ける様に。」

 

 

フェルナンドの狙いがわかったのか、エヴァンジェリンは千雨に注意を発しようとすると何故か声が出ない。

声は出てるのに、その声がどこかに吸い込まれていくようで。

 

それに気を取られている内に、今度は金色の鎖で雁字搦めにされてしまった。普段の茶々丸ならすぐに鎖を砕くのはわけないが、先程の剣戟で腕を損傷している。破砕には数分かかる。

 

だがフェルナンドにとって数分で充分だった。

目の前のショッキングな光景と話に動揺して乱れた千雨の精神に、魔力を声に乗せて暗示を掛けていく。

 

強力な絶対尊守のギアスはすでに千雨に掛けてしまっているし、それだと面白くない。

あくまで軽く自分に好意を持つ程度でいい。

 

あとはこの美貌で微笑みかけてやれば、それは雪だるま式に大きくなるだろう。

エヴァンジェリン達にはギアスはすでに使ってしまったし、耐魔力が強くて暗示は聞かないだろう。

もったいないが殺してしまおう。

 

 

「だから千雨、辛い時は俺を頼ってくれ。

俺が千雨を支えよう。俺が千雨を守り抜こう。

だから千「なぁ先生。」・・・どうした?」

 

「どうやってあちらは死んだんだ?」

 

 

一点を見つめている千雨はフェルナンドに問い掛ける。

 

あまりのショックに精神がフラットになったのか・・・?

 

なにか想像していた様子と異なる千雨にフェルナンドは戸惑いながらも答えた。

 

 

「遠目でしか分からなかったが、茶々丸に散々嬲られた後あの氷塊に押し潰された様だった。

 

あれでは即死だろう。」

 

 

フェルナンドは沈痛な面持ちを作りながら質問に答えた。

そして次の言葉が理解できなかった。

 

 

「((たったそれだけか|・・・・・・・・))?」

 

「……千雨、一体なにを言っている?余りのショックに気が触れたか?」

 

 

くっくっくと千雨は笑いながら、胡乱気にフェルナンドを見遣る。

 

 

「くっくっく。そんな事を言うから無神経だと思われるんだよ。

先生、そんなツラして今まで女の子と付き合った事無いだろう?」

 

 

密かなコンプレックスを突かれ、フェルナンドは激昂した。

 

 

「うるさい!黙れ!小娘が賢しげに囀るなァ!!

第一あの男は死んだんだ!現実が見れてないのは貴様のほうだ!!」

 

「うるさい。黙れ。」

 

 

千雨はフェルナンドをばっさり切って、言い切った。

 

 

「あちらがその程度で死ぬものか。」

 

「気も魔力も持たない人間が?ハッ!馬鹿馬鹿しい!

 

・・・もういい。穏便な手は諦める。宝物庫にいくらか恋の妙薬か媚薬があったはずだ。それを試そう。」

 

「安い化けの皮が剥がれてんぜ、センセイ。」

 

 

フェルナンドが千雨に手を伸ばそうとすると、鎖を破壊したエヴァンジェリン達が千雨を守るように飛び出して来た。

 

 

「よく吼えた。」

 

 

エヴァンジェリンは痛む体を無視して、糸と鉄扇を構え。

 

 

「行かせません。」

 

 

茶々丸はレッドアラートのステータスを無視して、ボロボロの拳を構える。

 

 

「貴様らは要らん。さっさと消えろ。

千雨も腕の一本や二本は落ちるかもしれないが、反省すれば後で生やしてやるさ。」

 

 

さっと手を上げ、展開してあった宝具群の照準を再度合わせる。

エヴァンジェリンと茶々丸に絶望的な緊張感が走る中、千雨は氷塊に向かって

 

 

「あちらァアア!!いい加減にィ起きやがれ!!!

てめぇ何時まで寝てんだ!!!

 

―――てめぇの最中全部食っちまったぞ!!!!!!!」

 

 

「あはは!千雨、緊張で気でもくr

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しゃきん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ??」

 

 

先程まで橋の中央に鎮座していた巨大な氷塊は無く、何故か代わりに水溜りが。

 

しかしそんな事はどうでも良い。

 

 

問題なのは

 

 

 

問題なのは、傷一つ無い茶色いコートを着た、傷一つ無い男がそこに立っているということだ。

 

 

代わりにびしょ濡れではあるが。

 

エヴァンジェリンや茶々丸、フェルナンドが唖然としている中

 

 

「千雨さん」

 

 

やっと司書見習いは舞台上に登った。

 

 

 

「最中はどこ?」

 

 

「うるせーバーカ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※本作は小説投稿サイト『ハーメルン』様でも投稿しています。
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