その人は何処へいった? 14.ウィル・キャリー・オン
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いきなり目が覚めると、見知らない場所で。

そこには副担任と二人のクラスメイトが居た。

 

そこでフェルナンド先生があちらが死んだと言って来た。

 

―――あちらが死んだ?

 

なんでもあたし達二人は魔法使い同士の戦闘に巻き込まれて、フェルナンド先生が助けに来た時にはあちらはわたしを庇って死んだんだとか。

 

 

てめぇは一体何を言ってるんだ?

 

目が覚める直前の記憶は無いが、あんたに職員室に呼び出されるまでは憶えてる。

 

それで?

恋人でもないあたしとあちらは?

こんな学園の端っこの橋で?停電真っ最中に真っ暗な橋でデートして?

 

"たまたま"魔法使いの戦闘に巻き込まれて?

 

"たまたま"駆けつけたあんたがあたしを保護した?

 

馬鹿にしてんのか。

前にあちらにフェルナンドには関るなとは言われてたが、それがなくても誰が信じるか。

 

 

だが、目の前の惨状を見せられて心が揺れた。

 

こっちは日々を平穏に過すただの普通の女子中学生だ。

いきなりこんな光景を見せられて心中穏やかに居られるわけがない。

口にこみ上げる物を乙女の矜持から無理やり嚥下する。

 

本当にあちらは死んだのか?

フェルナンドの話はほとんど出鱈目としても、いくつか本当の話があるんじゃないか?

死んだかなんて、嘘ならば直ぐに露見する。

 

 

まさか、ほんとに?

正体不明のあの男が?

 

 

馬鹿(フェルナンド)がなにやら喋っている。うるせぇ、黙ってろ。考えが纏らないだろうが。

テンプレ吐きやがって。てめぇは漫画の読み過ぎだ。

 

 

―――気をしっかり持て長谷川千雨。

 

 

あの男は言っていた。

なにかあればすぐに助けに来てくれると。

 

確かにあの男、迷子あちらは胡散臭い。

戸籍不明。経歴不明。出身不明。年齢不明。不明、不明分からないことだらけ。

 

だが、した約束は必ず守る奴だ。嘘はつかない。

 

それに"あの時"、あちらは言っていた。

 

 

―――例え、世界を飛び越えてでも助けに行きましょう。

 

 

ならば信じよう。その((戯言|やくそく))を。迷子あちらを。

 

自分が今ブッ飛んだ、まともじゃない思考をしているのは自覚している。

心の何処かではあちらは死んだのだろうと諦観している。

だけれどもあの友達が死んだなど、それこそ死んでも認められない。

 

らしくない。とてもあたしらしくない。

いつもの理知的なちうちゃんはどこへ行った?

 

 

だが、

だが、この馬鹿(フェルナンド)の言う本当を信じる位ならば

 

―――友達(あちら)の戯言をあたしは信仰する!!

 

 

「だから千雨、辛い時は俺を頼ってくれ。

俺が千雨を支えよう。俺が千雨を守り抜こう。

だから千「なぁ先生。」・・・どうした?」

 

「どうやってあちらは死んだんだ?」

 

 

今日は御伽噺の様な夜なんだ。

常識非常識云々を語るのは無粋だろ?なら友達を信じて奇跡を願うのも悪くない。

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千雨さん」

 

 

遅いんだよこの馬鹿が。本当にもうくたばっちまったのかと思ったぞ。

 

心配掛けやがって。

 

本当に怖かったんだぞ。

こっちはただの女子中学生なんだ。剣を向けられて平気でいられるか。

 

いろいろ思うこともあるが

 

 

「最中はどこ?」

 

 

―――こっちの気も知らないで。

 

 

「うるせーバーカ。」

 

 

しね。ばか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「ウィル・キャリー・オン」

 

 

 

 

「しかし、失敗しました。つい氷を切ってしまいましたが、体の上にある氷を切ったら下に居る私が濡れるのは当然でしたね。」

 

 

失敗失敗とぼやく男に周りは誰も着いていけない。

いや、一人だけ。

 

 

「ちッ!来んのがおせーんだよ!あたしがピンチなら世界超えて来んじゃなかったのか。」

 

「いや、そこにぺしゃんこになって初めからいたんですけどね。

なかなか死に切れなくて、肉体の時間回帰するのにちょっと手間取っちゃったんですよ。」

 

 

下手に回復するよりも一回死んだほうが早いですし。

しかしさすが燈子さん謹製のコート、あんなにボロボロに成ってもちゃんと魔術遮断するんだから困ったモンですね。ははは。

 

あちらは朗らかに事情を説明するが、千雨はさっぱり何のことかわからない。

 

だがここに今の会話を理解できる人間が一人だけ居た。

 

 

「とーこ・・・燈子ッ!伽藍の堂の青崎燈子の事か!?

・・・そういえば、そのコート・・・小川マンションの時に着ていた!?」

 

「?小川マンションの事は良く知りませんが、その青崎燈子さんで合ってますよ。」

 

「何故お前がそれを!!

 

・・・そうか、貴様。やはり貴様もトリッパーか!!

その回復力もコートも神様にもらった物だな。」

 

「残念ながら。これはご本人に頂いた物です。偉そうな本から貰った設定じゃありません。」

 

「嘘をいうな!訳の解らない事を言って誤魔化すな!!」

 

「そんな事は今どうでも良い事です。・・・お嬢さん方、ちょっと失礼。」

 

 

喚きたてるフェルナンドを無視し、あちらはエヴァンジェリン達に近づいた。

エヴァンジェリンや茶々丸は憶えていないが、自分達が一度死に追いやろうとした彼を見て身を強張らせる。茶々丸などは真っ赤に染まった自分の手を思い出したのかガタガタ震えている。

 

千雨はあちらの事をよく理解している。

ただあちらのする事を見守った。

 

あちらは二人からあと1歩という所から立ち止まり、ポケットに手を突っ込んだ。

目当ての物が見つかったのかそれを取り出す。

 

 

出したのは、はさみ。

 

本当に事務仕事で使うようなはさみだった。

 

しかし、何の変哲も無いはさみをこの場で取り出す事自体が得体が知れない。

この場にそぐわないはさみは異様な不気味さを醸し出していた。

 

あちらはすっとはさみを茶々丸に向けた。

向けられた茶々丸は各種センサーには普通のはさみと認識されているソレが怖くて堪らない。

 

 

「ヒィッ!?」

 

「茶々丸!!」

 

 

異様な雰囲気を感じ取ったエヴァンジェリンが、茶々丸の前に身を挺そうとしたが刹那間に合わない。

あちらはソレを行使した。

 

 

「ちょっきんちょ。」

 

 

 

 

 

しゃきん

 

 

 

 

 

・・・・・・何も起こらない。

 

茶々丸の前に飛び出したエヴァンジェリンは恐る恐る目を開けるが何も変化が無い。

自分の体の何処にも怪我は無い。

異常はすぐには解らなかった。

 

ふ、不発?

 

もちろんそんな訳は無く、効果はすぐに現れた。

 

 

「マ、マスター。」

 

 

普段は感情を表に出さない従者の、珍しく困惑した声にエヴァンジェリンは後ろを振り返った。

そこにはどこにも異常は無く立っている己の従者が。

 

 

そう。

 

 

 

―――((どこにも|・・・・))異常が無い。

 

 

 

馬鹿な。再封印の影響で私もついに狂ったか。

エヴァンジェリンは自分の目を本気で疑った。

 

そこには"傷一つ無い"己の従者がオロオロしながら立っていた。

ボロボロだった両腕はおろか、あちらの鮮血に染まったエプロンドレスも新品のように白く輝いている。

 

 

「そちらのお嬢さんも肋骨に皹が入っているみたいですね。」

 

 

 

 

しゃきん

 

 

 

 

先程まで感じていた鈍痛が感じなくなった。

この言動を察するに、今のはさみを鳴らした動作で治療したみたいだ。

 

 

 

 

 

意・味・が・解・ら・な・い。

 

 

 

 

 

回復魔法やアーティファクトみたいなちゃちな物じゃない。

もっと恐ろしいモノの片鱗を感じた。

 

 

「おいおい良いのか?

なんかよく分からないがそいつ等お前を殺しかけたんだろ?仕返ししなくて良いのか?」

 

 

呆けているエヴァンジェリンが面白いのかニヤニヤしながら千雨があちらに訊ねた。

 

 

「いいんですよ。彼女達もどうやらギアスを掛けられて操られてたみたいですし。

 

・・・千雨さんを助けてもらいましたからね。これでも感謝しているくらいです。」

 

 

何かと理由を付けたがるお人よしめ。

どうせ絡繰の罪悪感に押し潰されそうな顔を見て放っておけなくなったんだろうが。

 

千雨はそれを口に出すような無粋はせずに、ただあちらをニヤつきながら見る。

あちらはその視線を居心地悪そうに避けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺をシカトブッこいてラブコメってんじゃねぇぞォォオオ!!!!!」

 

 

フェルナンドは装備したバルディッシュに命じて魔方陣を展開。周囲に多数フォトンスフィア生成。

 

 

「主人公(トリッパー)は俺だけでいい!!その立場(ポジション)は俺の物だァァ!!!」

 

「Fire.Photon Lancer Multishot.」

 

 

直射型魔力弾を発射。

解き放たれた無数の雷の槍は、一瞬で夜の大橋を駆け抜けあちら達に殺到する。

もちろんミッド式特徴の非殺傷設定はオフにされている。

 

エヴァは封印状態だ。障壁は使えない。

茶々丸は多少迎撃出来るかもしれないが全部は無理だ。

後の二人は問題外だ。魔力さえない。

あのトリッパーは妙な回復型の宝具を持っているらしいが、それだけだ。

今度死んでいなかったら直々に直死の魔眼で殺せばいい。宝具は俺が有効に使ってやる。

千雨はお仕置きだ。生けていれば宝物庫の霊酒と媚薬を使ってやろう。

 

 

 

殺った!!

 

 

「アハハハハハハハハハ

 

 

 

 

 

しゃきん

 

 

 

 

 

 

ハハハハハ    ・・・はァ?」

 

 

あちらが再びはさみを打ち鳴らすとフォトン・ランサーは消失した。

迎撃された訳でも、打ち消された訳でも、無効化された訳でもなく。

 

 

―――ただ、世界から消えた。

 

 

「・・・え、な、何?それは回復型の宝具じゃなかったのか?」

 

「宝具?ああ、先程のやり取りを見て勘違いなさったのですね。

これはね。何の変哲も無い、100均で売っている様なはさみです。

 

・・・想像した事はありますか?世界が一冊の本だと。

 

世界を本と例えると平行世界は違う本で、その様な本が無限に存在していると。」

 

「お、お前は何の話をしているッ!」

 

「ならばその世界の観測者は本の読者という事になりますね。

読者は本を手にとって色んな本を読みます。

 

―――楽しい物語。悲しい物語。心躍る物語。」

 

「だから何を言ってッ!?」

 

「だけど、もしその本のある一場面が気に入らないとしましょう。どうします?

 

読まない?

 

飛ばして先に進む?

 

それとも新たにそこから物語を発展させる?いいですね。好みです。

 

 

・・・ですが、実はもう一つあります。」

 

 

ひどく坦々と語る黒髪の青年をフェルナンドは心底恐怖した。

なんだあれは。同じ人間(トリッパー)なのか。いやだいやだ。あれ以上聞きたくないッ!!!

 

 

「ッ!!幻巣!!『飛光虫ネスト』ォ!!!」

 

 

フェルナンドの背後の空間にいくつもの亀裂が走る。

亀裂が広がり、空間が裂けて出来たスキマから何条もの光があちらに向かって迸る。

 

―――が。

 

先頭に立つあちらが被弾しようかという瞬間に、またしてもはさみは鳴り響きスキマをズタズタに引き裂いた。

もはや唖然とあちらを見ているフェルナンドやエヴァンジェリンを横目で見ながら千雨は思った。

 

 

やべぇ。なんかあちらキレてる。

 

 

千雨も先程からの万国人間ビックリショーには驚いているが、それよりも千雨に取ってはそっちの方が問題だった。

まぁびっくりするのにもう疲れたという側面もあるが。軽く現実逃避が入っていた。

 

あちらは何でもないという風に話を続ける。

 

 

「それはね。

 

気に入らないページを切り取ってしまえば良いんです。

 

そうすれば、ほら。少なくとも気に入らない場面は無くなるでしょ?」

 

 

マナー違反ですがね。ころころとあちらは笑う。

しかし、事情を察したエヴァンジェリンの顔色は真っ青だ。

 

 

「このはさみはそれらの概念を応用して具現化した一品です。

 

『本(セカイ)のあらゆる事象を切り取る』のがこのはさみの能力です。

 

はさみの形である必要はないのですが、私は剣やナイフがうまく使えないので。」

 

「喋るな!!それ以上意味のワカラナイ事を囀るなァ!!!!」

 

「本の登場人物(じゅうにん)の設定にはさみは入れ難し、直接の干渉は内規で原則禁止されているんです。

 

―――だがあなたは別だ。別の本からこの本に堕とされて来たため、若干設定が浮いている。

比較的はさみは入れ易い。」

 

 

神様から貰った最強だと思っていた能力が一切通用しない。

すべてはさみに打ち消される。

 

ゲート・オブ・バビロンも百式観音もミッドチルダ魔法も固有結界もギアスも境界を操る程度の能力も何もかも。

感謝の正拳突きは武術に感謝もしたことも無いし、直死の魔眼にいたっては線さえ見えない。

 

唯一事態を打開する方法があるとすれば、はさみを使わせないほどの高速近接戦闘だが、今まで能力に胡坐をかいていたフェルナンドが高度の格闘戦が出来るわけも無く。

 

 

なぜなぜなぜなぜなぜ!!!

 

こんなはずじゃ、こんなはずじゃない!!

 

俺は((主人公|トリッパー))のはずだろう!!

 

最強能力も貰えた!容姿も美形になった!!金もある!!!

 

なのになぜ!!

 

一体こいつは何者だ!?

 

 

「どういう経緯があれ、すでにあなたはもうここの登場人物(じゅうにん)なんだ。

何をしようと責任は総てここに帰結します。好きな様にこの世界でやったらいい。

読み手の私には関係ない。

 

だが・・・」

 

 

ぎろりとフェルナンドを睨み付け

 

 

「貴様、私の友達に手を上げたな?剣を向けたな?ギアスを掛けたな?あまつさえ恋薬に媚薬だと?

所詮、登場人物(フィクション)だから何をやってもいいとでも思ったか?

 

貴様が何時ここに堕ちてきたかは知らんが、それまでに何も感じなかったのか?彼らは同じ人間だと。」

 

「黙れ黙れ黙れ!!」

 

 

今まで無意識の内にこの世界の住人を((作り物|フィクション))だと見下していたのだ。

それが今お前もここの世界の((登場人物|じゅうにん))だと言われた。

 

……そんな事、認められる訳が無い。

 

ここが優しく楽しい((原作|フィクション))ではなく、逃げて来た筈の辛く厳しい((現実|ノンフィクション))などと。

 

 

「貴様の浮いている設定は切り取る。異論は認めない。

地に足を着けてこれからを考えるがいい。」

 

「ま、待て!何をするのか知らんがそんな事、神様が許すと・・・!!」

 

「私がそんな事知るものか。厚木さんが対処するだろ。」

 

「さっきから貴様は何を言っているッ!!??」

 

「理解出来なければ意味が無いし、知る必要もない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しゃきん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ・・・・・・ァあああ!!??????」

 

 

そこには様々な異能を持ち、吐き気を催すような魔力を纏った魔法使いの姿はなく。

 

只のスザク・神薙・フォン・フェルナンドが立っていた。

 

容姿はすでに自己のアイデンティティに組み込まれていたのだろう。

あの銀髪白貌、金銀妖瞳の美貌のまま。

 

だが、それだけ。

圧倒的な自信の源であった能力が喪失した事により、以前とすでに雰囲気が異なる。

 

 

ただの青年が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・終わったな。」

 

「・・・ハイ。」

 

 

エヴァンジェリンと茶々丸はあっけない舞台の幕引きに安堵の溜め息を漏らした。

 

フェルナンドの境界操作能力が喪われたため、大橋一帯を覆っていた異界が解けていく。

どうやら異界は時間の進み方が違ったようで、停電が復旧してからまだ一分しか経っていない。

 

今日は疲れた。

今夜は色々な事があり過ぎた。

 

おまけに決闘に水は差され、自分の封印は解けないまま。

まぁ、ぼーやの今後が楽しみだという収穫はあったか。

 

あと、あの規格外の化け物。あちらとかいったか。

事象を無かった事にする能力。

いや、あいつの言った通りだとすると、世界を切り取る能力。

とてもじゃないが相手にしたくない。

しかし今回の件で借りが出来てしまった。

 

ハァ・・・と非常にらしくない溜め息を吐いていると、茶々丸が

 

 

「マスター。目的達成おめでとうございます。」

 

「ああ?」

 

 

こいつは一体何を言ってるんだ?頭でもぶつけたのか?

茶々丸に何のことか問い質そうとして、自身に満ち溢れる魔力に気がついた。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「なァにィィィィィィ!!??」

 

「恐らく、あちら様がマスターの怪我を治そうと能力をご使用された時、怪我と一緒に呪いも絶ってしまったのかと。異界内での時間誤差で今魔力が戻ったのでしょう。」

 

「・・・また借りが出来てしまったな。それもとびっきりの。」

 

「ハイ。それは追々考えれば宜しいかと。」

 

 

吸血鬼の主従は主人は憂鬱そうで、従者は何故か心なしかうきうきしていた。

 

 

 

これで今夜の舞台は円満に滞り無く終了・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ァァァァアアアアァアアアァアアアアァアア!!!!!!!!!!!!

 

元に戻せェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

とは行かなかった。

 

 

迂闊だったとしか言いようが無い。

フェルナンドが茫然自失としていたため、麻帆良の魔法使い達が異常を感じてやってくる前に自分のいた痕跡を消そうと、ちょっきんちょっきん戦闘跡と血肉の消去を優先していた。

 

それがこのような暴挙に出るとは。

 

 

 

―――まさか気絶していたネギ君を人質に取るなんて。

 

卑怯な!許せない!(キリッ)

 

・・・ごめんネギ君。すっかり忘れてた。

先程までの戦闘の余波で少し煤けているネギ君を人質に取り、能力を戻せと喚いている。

 

どうしよう?

((犯人|フェルナンド))は凶器なんかも持ってないし、あのはさみは人に向けると完全にオーバーキルだから使いたくない。

第一、はさみは切るだけで設定は書き足せない。自分の領分を越えている。

 

するとそこへ何故か笑顔のエヴァンジェリンさん達が遣って来た。

お前の不始末の後始末を手伝ってやるとか、これで一つ借りはチャラだとか言っている。

なんでも借りを返せる時に返さないと多過ぎて息が詰まるとか。

 

ありがたくその申し出を受け、さてどうしようか?広範囲凍結魔法で人質ごと凍らせちゃう?などと話し合っていると、近くに居た千雨さんがゆらりと幽鬼の様にフェルナンドの方へ歩み始めた。

 

慌てて止めようとすると、物凄い目で一瞥されその場に固まってしまった。

千雨さんが近づいてきた事でさらにフェルナンドは調子を上げる。

 

 

「ああ千雨!

やっぱり千雨は俺に振り向いてくれる信じていた!

さっきまでのは照れ隠しとして不問にしよう!!

だから千雨!!さぁ千雨からも奴らに言ってくれ!

能力を戻せば、この主人公(オレ)にした無礼な振る舞いはすべて水に流そうと!

 

千雨!!」

 

「・・・と・・・・・・」

 

「ん?千雨、声が小さくて聞こえないぞ。」

 

「・・・め・・・と・・・・・・」

 

「と?」

 

 

「千雨、千雨と馴れ馴れしぃんだ!!!クソ野郎ォ!!!!!」

 

「ぅゴォ!?」

 

 

そして見事な放物線を描いた回し蹴りがフェルナンドの米神に突き刺さり、フェルナンドは強制的に夢の国へと旅立って行った。

 

 

「「・・・・・・ワーオ。」」

 

「とても綺麗な回し蹴りです。長谷川さん。」

 

 

 

 

 

 

麻帆良大橋の遠くの方から、ネギの安否を気遣う神楽坂明日菜の声とアルベール・カモミールの声が聞こえてくる。

 

 

 

短くも長かった魔法使い達の夜が終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
これにて「桜通りの吸血鬼」編終了です。


※本作は小説投稿サイト『ハーメルン』様でも投稿しています。
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