世界を渡る転生物語 影技8 【父と娘】 |
ー氷 解 色 彩ー
ルイが息絶えたことにより、【呪符】の効果が切れ、冷気が霧散して白く煙っていた景色はその鮮やかな大地の色を取り戻し、氷は水になり、その形を失って大地に染み込んでいく。
そんな景色を背に、俺はオキトさんの屋敷である目の前の建物の扉を開け、俺の大きさでは背負いきれないオキトさんを背負った事により、オキトさんの足をずるずると引きずりながらも屋敷の中へと入っていく。
(……手足の凍った部分が凍傷寸前だ。揉み解しながら暖めないと、後から大変なことになるな。ほかにも先ほどの【氷槍】などで傷ついて凍り付いていた傷跡が解けて傷口が広がってきてるし……まずは血を止めることが先決か)
【氷槍】がえぐったのであろう傷跡が解凍され始め、赤い雫が屋敷の床に垂れて通り道になった痕跡を残す。
玄関広間から続くキッチンにたどり着いた俺は、近くにあった使用人の部屋であろう一室をあけ、そこにあったベッドにオキトさんの体をそっと横たえる。
急いでキッチンに戻り、その場にあった鍋に水を張り、薪を釜にくべて火をつけ、湯を沸かしつつオキトさんの凍りついた服を剥ぎ取り、桶に水を汲んで傷口を拭う。
傷口を拭った布を洗い、赤く染まった水を捨て、何度か水を変えながらも傷口を拭い終わる。
そしてその後に、リュックサックから消毒作用のある葉など、リュックサックに仕舞っていた薬草を取り出しながらオキトさんの傷を【((解析|アナライズ))】し、その結果を元に傷口に最適な薬草の調合を行う。
すりつぶした薬草の塗り薬を使ってオキトさんが怪我をしている傷口に塗りつけ、優先的に大きな傷から血止めを行って治療をほどこしていった。
そうして大きい傷の応急処置が終わった所で─
「……はっ?! ぐぁ……くっ?! ッ……!!」
「あ?! 動いちゃだめですよ? かなり怪我をしてるんだから絶対安静です!」
目を開き、ぼんやりとした意識を覚醒させたのか、オキトさんが突然その体を起こすが……その瞬間、その体を傷の激痛が襲い、声にならない悲鳴をあげながら悶絶し、ぷるぷると体を震わせる。
「もう! せっかく治療のために薬を塗っているんですから……横になっててください!」
「あ、ああ……ッ! うう……す、すまない」
俺が手を貸しつつ、痛みを絶えて体を振るわせるオキトさんをゆっくりとベッドに横たえさせる。
今無理やり動いたことで開いてしまった傷口に再び処置を施しながら、他の箇所にも怪我の治療を続けていく。
「くっ……!」
「あ、染みるかもですけど我慢ですよ! 試行錯誤して、傷に一番効き目のいい塗り薬使ってますから」
痛みで顔を顰めるオキトさんに、なるべく動かないようにと声をかけつつ、俺は自分で調合した止血・治癒効果のある塗り薬を惜しみなくオキトさんの怪我へと塗りこんでいく。
「っ〜……、あ、ああ。命を助けてもらい、尚且つ傷の手当まで……本当にすまないね」
「いいですってば。俺も貴方に用がありましたし……それに困ったときはお互い様ですしね! っと、お湯沸いたかな?」
オキトさんがベッドで横になり、一息つくのを見守りながら、俺はキッチンに沸かしておいたお湯の様子を見に行く。
(ん、いい感じ。後は水を入れて温度調節だな)
ぐつぐつと軽く沸騰し始めた大鍋を釜戸からはずし、洗濯用なのであろうか……かなり大きめの桶を二つ並べ、大鍋からお湯を注ぎ込む。
湯気がキッチンに漂い、熱気が感じられる中、これではあまりにも熱いだろうという事で水を注ぎだし、温度の調節を行って桶をオキトさんの部屋へと持っていく。
「温めにしてますけど、熱かったら言ってくださいね?」
「ぁあ……すまない」
そして、この凍傷対策で患部を温めるために用意したぬるま湯を張った桶に、左手と左足をつけさせる。
桶のお湯に使って表面の凍った部分が解けるのを見ながら、俺は桶からお湯を掬って足にかけながらも、お湯に浸かっている足を丁寧にゆっくりと揉み解していく。
(凍傷はひどければその部位を失うこともあるからな。腐ってしまうということもあるし……せっかく命を助けられたのに手足がなくなるとかいうのは考えものだしなあ……)
丁寧に、慎重に。
ストレッチのように伸ばしたりしつつ、揉み解して行く。
やがて固まっていた脚が徐々にその肌の柔らかさと温もり、血色を取り戻していく。
「ああ……血が通ってきたみたいだ。揉まれてるのがわかるし……何より暖かい」
「お、よかったあ……じゃあ足はよさそうですね。暖めるためにそのまま足を突っ込んでおいてくださいね〜、次は手にいきますんで」
氷が解けて血が通った感じがするという足のほうにお湯を足し、凍った脚をつけたことでぬるま湯になっていたお湯を温めなおすように暖かさを高め、普通に血流を取り戻すまでもう少しつけておいてもらう事にする。
そして、もう一つの桶につけていてもらった手のほうもまた、その氷を溶かし、固まった筋肉を揉んでほぐし、冷たい肌を温め、血流を取り戻させる。
それを何度も繰り返していくと……脚のときと同じように青白かった手にも血色が戻ってくる。
「……ん、手も動くみたいだ」
そうオキトさんがいいつつ、俺がマッサージをしている手をゆっくりと握って開いて見せる。
「よかった……神経が死んでないみたいだ。間に合ったみたいですね。……ん、大丈夫そうだ。おっし、んじゃまた手を桶に入れて暖めておいてくださいね? 今お湯足しますんで」
直接手にかからないように、手とは対象の位置にある桶の端からお湯を入れ、温度を上げて手の血のめぐりをよくするためにそのまま手足を浸けておいてもらう。
そんな作業をしていた俺だったが、そんな中でも俺が気になっていたのは……切り傷などの新しい傷、無数の傷の中にあってなお異彩を放っている、腹部にある大きな打撃痕。
深々と、まるで体を突き抜けるかのように拳大にめり込んだ跡は痛々しく、治りかけとはいえ、その傷は普通に生活するだけでもかなりの痛みを伴いそうだった。
治療用の【呪符】というものがあるのか、徐々に治ってきているようだが……この傷ではルイと対峙しても録に動けなかったのではないだろうか。
そんな分析を行いつつ、とりあえず緊急箇所の処置も終わったという事で、一端一息を入れる事にした。
「ああ……本当になにからなにまですまない……。君は命の恩人だよ。私はオキト=クリンス。ここリキトアの呪符流派の最高位、そして【((呪符魔術士|スイレーム))】協会の統括……協会長をしている者だよ。よろしければ君の名を教えてもらえないかな?」
「えっと、蒼焔 刃っていいます。ここらへんだと……ジン=ソウエンかな? よろしくお願いしますね!」
「ジンちゃ─」
「ちなみに男ですから!」
「─君か。……治療までしてもらって世話をかけてしまったね。 何かお礼をしたいところなんだが……」
お互いに頭を下げて自己紹介を交わし、その間にも細かい傷の治療に塗り薬を塗りながらも、会話を続けていく。
「いえ、お礼なんて別に気にしないでください。それよりも傷を治すことだけを考えてくださいね?」
「いや、そうはいかないよ。命の危機を救われ、さらにここまでしてくれたのだから……このままでは私の矜持に反する。是非、何かお礼をさせてほしい」
俺は気にしないようにとオキトさんに言うのだが、オキトさんは真剣な表情で俺にお礼をしたいと話す。
「えっと……それなら……その、俺は見たとおり一人旅の最中なんです。もしよかったら……【呪符】の使い方を……【((呪符魔術士|スイレーム))】の技術を教えてもらってもいいですか?」
「っ……その年で一人旅……なのかい? なるほど……わかった。ルイを撃退できるほどの技術があるのだから、並の術者や闘士ならば相手にはならないとは思うが……世の中上には上がいるからね。この私、オキト=クリンスの名において必ず教えよう。ただ……さすがにこの怪我でね。今すぐとはいかないが……それでもいいだろうか?」
「はい、かまいません。よろしくお願いします! っと、細かいほうも大体いいな。この……腹部の打撃痕にも打撲用の薬草塗りますよ〜」
細かい傷に塗り薬を塗り終えた俺は、手際よくオキトさんの腹の打撃痕を隠すように塗り薬を塗りたくり、薬と相性のいい大きな薬草で打撃痕にふたをする。
「うっ……っ……!」
(うわ、痛そう……この深さだと内臓系までいっちゃってそうな怪我だもんなあ……)
俺が行った治療に対し、激痛を感じて悶絶するオキトさんを慌てて押さえつつ、丁寧に傷跡を処理していく。
「っ〜〜〜〜〜〜っ、はぁ、はぁ……。すまない、ね……」
「いえいえ。……うん、これで問題ない、かな。これ以上は俺も治療できないので……。あとは無理しないで横になっていてください。あ……そうだ、それとこれは飲み薬です。さっきの打撃痕から察するに……内臓までダメージがいってそうだったので体の内部から癒すように、内臓系にいいものと、痛み対策に少量睡眠薬も入ってます」
内臓系に効果のある薬草を集め、それを試行錯誤して体の内側から治療効果のある液状の飲み薬にしたものをオキトさんに渡す。
なんでもカイラ曰く、この薬草は【牙】族でも評判の薬だから効果は ば つ ぐ ん だ! との事。
(……その評判が、主に睡眠薬のほうの効き目のほうじゃないと思いたいな……)
俺はオキトさんにん飲み薬を渡しつつも、カイラの言葉が【牙】族用じゃないようにと祈りつつ、オキトさんに渡す。
「……ありがとう。助かるよ。では早速─」
そういいながら、オキトさんがその薬に口をつけ、喉を鳴らして一気に飲み干していく。
そして飲み終えた後、わずかな驚きと共に俺に声をかけてくる。
「おや……ふむ。ちょっと苦いけどさわやかな甘みがついてて飲みやすいね?」
「ああ、リキトアの森でとれる果物の果汁を混ぜてみたんです。果物自体にも滋養効果があるので、薬自体の効果は問題はありませんよ?」
「?! リキトアの……なるほど、これはいいね」
薬を飲んでその味に頷くオキトさんが、俺のリキトアの森という言葉に驚き、少し考え込むように顎に手を当てる。
……血塗れの顔を拭った事でよくわかったが、オキトさんはその知的な表情もあり、かなりの美形である。
娘さんがいるという事だったが……幼いのだろうか? 大きい子供がいるとは思えないほどの若々しさではあるが。
そんな事を考えながら、俺は一通り治療を終えたオキトさんの体に毛布をかけ、眠ってもらう事にした。
「ああ……本当に何から何まですまないね……」
「だからいいですってば。さあ、そろそろ薬も効き始めるころだし、ゆっくり休んでくださいね? ……せっかく命が助かったのに、俺に謝ってばかりじゃ疲れるもんなんですから」
「そ、うだね。 ……そうさせてもらうよ。ジンくん、君もこの家の好きな場所を使って寝るといい。今は使用人もやめてしまって私一人しかすんでいないからね。ジン君……助けてくれて、ありがとう」
「! ……いえ、どういたしまして! おやすみなさいオキトさん」
「うん、おやすみ……ジンくん」
睡眠薬が効いてきたのか、俺と会話しながらもゆっくりと瞼が閉じるオキトさんを確認すると、俺は会話を打ち切り、静かな足取りでドアに向かい、そっとドアを閉める。
最後でオキトさんが口にした……『助けてくれて、ありがとう』の言葉に心を暖かくしながら。
その後、オキトさんの治療のためにオキトさんの血と治療のために使用した薬草まみれの手を洗いに井戸まで行こうと外に出た所で─
ー死 屍 晒 体ー
彼の言っていた白……氷が解け、その衣服が赤に染まり、絶命しているルイの姿が眼に止まった。
俺は井戸に向かうはずの足をそのままルイの下へと向ける。
驚愕の表情で眼を見開いているルイの瞳を手でゆっくりと閉じさせ、俺は自分が奪った命を記憶するためその姿を見届け、礼をもって弔いとする。
(……貴公の生き様、戦った経験を糧として、俺は((生きる|進む))。……欲に走った結果、か。俺もあんたを反面教師として糧とし、自らを律し、得た力に溺れないようにしよう)
黙?を捧げた後、ルイの屍を埋葬する為にルイを運ぶ算段をつけ─
?【((野王武|ノーム))】?
ー土 人 連 立ー
俺が屍を持つと俺の体が小さい事もあり、オキトさんを運んだときのようにずるずる引きずってしまうことになるので、【((野王武|ノーム))】を使ってルイの屍を持ち上げ、葬儀の参列のように近くに見える森の中へと運んで行く事にした。
森を散策してルイの亡骸を埋める場を探していた俺は、森の中にあった少し空間の空いた広場というべき場に出た。
(ん、広さも十分。それに……ここなら人も入ってこないだろう)
?【((土拳|サフィスト))】?
ー土 拳 連 打ー
この場を墓として決めた俺は、大地に手をつくいて【魔力】を流し、【((土拳|サフィスト))】を使う。
手を突いた先の部分から土の拳が華咲くように土から持ち上がり、持ち上がったことにより地面に人大の穴が出来上がる。
そして【((野王武|ノーム))】達が持ち上げていたルイの屍を【((土拳|サフィスト))】を操って掴み、その穴へと横たえると、【((野王武|ノーム))】と【((土拳|サフィスト))】への【魔力】をカットし、土へと返して埋めていく。
「っしょっと」
近場にあった手ごろな岩を、ルイを生めた場……墓の上に載せ、リュックから持ってきていた獲物を捌くための切れ味は鈍いが頑丈な小型ナイフで銘をいれる。
ー『氷の【呪符】の使い手【((呪符魔術士|スイレーム))】ルイ=フラスニール、自らの【白】のうちにしてその命を散らし、ここに眠る』ー
そして、ルイの屍の傍に落ちていた【呪符】の束より一枚の【呪符】を取り出し、今作ったばかりの墓に備えて再び一礼をすると、俺はその墓に背を向けて振り向かず、真っ直ぐにオキトさんの屋敷へと戻っていく。
──明日は我が身。
生死をかけた闘いで……死は常に付きまとう。
俺の体は特殊だから死ねないのではあろうが……それでもその死という恐怖は消えないだろう。
だからこそ俺は闘いで得た経験を活かし、これから先を生きていかなければならないのだ。
奪った命を糧として。
戦った経験を糧として。
カイラに教えられた心構えを胸に、そう再び心に刻み込みながら……俺はオキトさんに言われた通り、空いている部屋と思しき物が何もない部屋へと脚を運び、きちんと人の手で創られたベッドへと体を横たる。
きっちりと加工された人工のベッドと布団のやわらかさを感じながらも……俺の意識は薄れていった。
そして……オキトさんの怪我の経過を見ながら、薬草や塗り薬、包帯を変えるなどの世話を続けること一週間。
毎日オキトさんの治療のためにつかっていた塗り薬と、傷の上に張る薬草の葉の在庫が心もとなくなってきたこともあり、俺はオキトさんの傷の手当をし終え、オキトさんと自分分の食事を作った後に足りない種類の薬草をオキトさんに見せ、この近くの森にも自生していないかを尋ねる。
オキトさんはしばし考え込んだ後、娘婿の話でそういう類のものがまとめて生えている場所があるとの回答が得られた。
俺は早速オキトさんにその場所を教えてもらい、ジェイクさんから貰った地図に書き込みを入れて礼を言いつつ、これから先のことも考えて多めに薬草を摘む為、背負い籠を背負って採取作業に向かう事にした。
「ではいってきますね! オキトさん」
「ああ、ここら辺はあまり危険な魔獣はいないと思うけど……気をつけていくんだよ?」
「はい!」
とりあえず屋敷を離れることになるので、オキトさんに一声かけた俺は、早速とばかりに玄関の扉を開け、地図を見て方向を確認する。
それじゃあ早速と、その場所へと駆け出そうとした瞬間。
「お父様ーーーー!!」
ー瞬 撃 吹 飛ー
「へぶら?!」
俯いて地図を見ていたために反応が遅れた俺の目の前に、突如空間が歪んで開いたかと思うと……何かが飛び出してきて俺を交通事故よろしく跳ね飛ばす。
そして跳ね飛ばされた俺は、玄関から家の中へと逆戻りする事となり、バランスをとって着地しようにも跳ね飛ばされた際に脳を揺らされたらしく、方向感覚とバランス感覚がまったくつかめなかった。
そして─
ー後 頭 殴 打ー
(ああ……不覚……こういうの多いなあ……)
ゴチン、といういい音を立ててキッチンカウンターへと後頭部をぶつけた俺の意識は遠くなり─
「あ、あれ? ちょ、ちょっと貴方、大丈夫?!」
「…………フォウリィ、急ぐのはいい事ですが、先を確認しなくてどうするのですか。まあいいです。ここは私がやっておきますから、フォウリィーは先に義父さんのほうへ」
「ッ! ええ、わかったわ! お父様!」
そういってフォウリィーが駆け出していきました。
それを見送った後、頭を打って眼を回している少女の状態を確認する私。
こんな状況になってしまった事に苦笑を浮かべつつも、少女が無事である事に安堵しました。
……私、ワークス=F=ポレロが、今回の件の情報を得たのは……まさに偶然でした。
私が国の執政官として担当する地区に、私の部下たる密偵が情報を届けてくれたのです。
義父さんが決闘にて【((影技|シャドウ・スキル))】と闘うという話は聞いていたのですが、その闘いに敗れ、大怪我を負ったというのです。
すでに時間が立っていましたが、重症ではあるものの……義父さんが生きているという事に安堵しました。
フォウリィーが心配するだろうという理由で内々に義父さんに接触しようと考えていた矢先……仕事が忙しくなり、申し訳なかったのですが今までかかってしまったのです。
ようやく時間がとれ、フォウリィーに事情を説明して義父さんのお見舞いに行こうとした矢先……非常によろしくない情報が飛び込んできました。
前々より『殺し屋』として名を売り、よろしくない噂が多かった義父さんの弟子……ルイ=フラスニールがそんな大怪我をしている義父さんの元へと向かったという情報だったのです。
イヤな予感に、私の妻……フォウリィーとは同門であり、兄弟子であるルイを疑うのも何ではあったので……とりあえずは妻に義父さんの怪我の事を教えました。
すると─
「! あなた! すぐに【((門|ゲート))】を実家につないで頂戴! 今すぐに!」
私の政務を手伝ってくれていたフォウリィーがその話を聞いて蒼白な顔になり、私に泣きそうな顔で懇願してきたのです。
我々【((魔導士|ラザレーム))】が私利私欲や、個人的な用事でその力である【神力魔導】を使うのには抵抗がありましたが……ここは緊急事態という事でお目こぼししてもらう事にし、部下に仕事の件を任せると、私は早速義父さんの元へと空間転移門……【((門|ゲート))】をつなげることにしました。
そして、いつものように空間に【神力魔導】が作用し、空間が歪んで【((門|ゲート))】が顕現し、その扉を開きます。
そして、その扉が開いた瞬間、フォウリィーが真っ先に【((門|ゲート))】へと飛び込みながら義父さんの名を叫ぶまではよかったのですが……そのあまりの勢いに、義父さんの所でお世話になっていたのでしょうか? 見目麗しい少女が大きな籠を背負って何かの採取作業に向かうところだったのでしょう、その子と接触してしまったのです。
フォウリィーは【((呪符魔術士|スイレーム))】でありあがら体術も扱えるという、見た目の麗しさからは想像しにくいのですが、以外に好戦的な面があります。
そんな一撃をくらってしまった少女は、驚愕の表情を浮かべたまま吹き飛ばされ、キッチンのカウンターの角に後頭部をぶつけて気絶してしまったのでした。
慌てるフォウリィーをどうにか宥めすかし、義父さんの状態確認へと向かわせる事にした私は、吹き飛ばされてしまった少女の状態を確認し、無事な事にほっと一安心。
背負っていた籠を下ろさせ、その小さな体を自分の背中に背負い、近くの空いている部屋のベッドへと寝かせることにしました。
蒼い髪が光に反射して美しい色合いを見せ、精悍な顔つきの中にも歳相応なやわらかさ。
……実に愛らしい子です。
……自分達にも子供が授かれば……きっとこの子のように愛らしく愛しい存在になってくれることでしょう。
それはとても幸せで暖かい事だと思えるのですが……今は忙しくてとても手の回らない状況が続いています。
……隣国の動きも活発になっていると聞きますしね……。
正直悔しいです。
そんな事を考えつつ、そっと目の前の子の頭を撫でてあげると、その柔らかい髪の感触が私の手に伝わり、その温かみが感じられました。
そして、私が頭を撫でた瞬間……フォウリィーに弾き飛ばされて険しくなっていた表情が柔らかく崩れ、ふにゃっとした笑みを浮かべたのです。
(……いいですね、子供……実にいい)
一瞬遠く意識が遠のきましたが、どうにか気を取り直してその子を部屋に寝かせたまま、自分も義父さんの容態を確かめに向かいました。
「義父さん、お久しぶりです。怪我の具合は─」
「う、ぐうう……」
「お、お父様?! お父様しっかりいい!」
「……落ち着いてくださいフォウリィー。義父さんが苦しんでいる理由は貴女が怪我をした箇所を力強く掴んでいるからです」
「……ぇ?!」
苦痛で顔を歪める義父さんを見て、半泣きになっているフォウリィー。
そんな表情を可愛いと思いつつも、そのフォウリィーが掴んでいる義理さんの体を見て溜息をつきながらフォウリィーをたしなめ、義理さんから少し離れた位置まで誘導する。
「はぁ……はぁ、た、助かったよポレロ君。 折角ジン君に治療してもらったというのに……また傷口が開くところだった」
「いえいえ、ご無事であれば何よりです。……それにしても、大分無茶をなさったようですね? やはり?」
「…………ああ。我が身の不覚だよ。……私が【((影技|シャドウ・スキル))】に破れ、怪我で動けない
のをどこかで知ったのだろう。ルイが……私の首を……私の地位を求めてやってきてね。……ジン君がいなければ私は確実に死んでいただろう」
「ッ……ルイィィ!」
その言葉を聴いて、フォウリィーがその表情を怒りに染め上げますが、義父さんが助かっているという事はすでに終わった事。
それを理解し、フォウリィーをどうにかたしなめつつ、私は会話を続ける事にしました。
「落ち着いてくださいフォウリィー。義父さんが助かっているんですから、彼はもう既に倒された後でしょう。それで……義父さん、ジン君というのはもしかして……蒼髪の可愛いお子さんですか?」
「ん? ああ、出会ったのかい? 私も意識が朦朧としていたから、彼がどうやってルイを倒したのかは分からなかったんだがね。ともかく、次に意識を取り戻したときには私の体の治療を行ってくれていたよ」
「そう、ですか。しかし……実に見事な治療ですね……って、どうしたんですか? フォウリィー」
確認のために、先ほどフォウリィーが吹き飛ばしてしまった少女がジンという子供なのかを確認したところ、義父さんの反応から間違いない事がわかり、義父さんの怪我を治療したその腕に関心していると、フォウリィーがなにやら顔を蒼くして右往左往しているのが見えました。
「ど、どうしよう! わ、私知らなかったとはいえ……お父様の恩人を吹き飛ばしてしまったわ……」
「な、何?! フォウリィー! お前は一体何をやっているんだ! ……すまないポレロ君、君はジン君についてやってくれないか。私は少し、フォウリィーと話をしておかなければならない」
「ひ、お、お父様ごめんなさい〜!」
「逃がさないよフォウリィー! 大体君は昔から早とちりが過ぎる! 物事の本質を捉え、常に冷静であれとあれほど口をすっぱく─」
義理さんがフォウリィーの言葉に驚愕した後、私にジン君の様子を見るように頼んだ後、逃げようとしていたフォウリィーを掴んで正座させ、お説教モードに突入していました。
……まあ、今回についてはフォウリィーが全面的に悪いですし……諦めてください、フォウリィー。
そっと義父さんの部屋の扉を閉め、再びあの少女……いえ、君と呼ばれていたから男の子だったのでしょう。
……本当にそうなのでしょうか? そうは見えませんでしたが……。
まあ、それはともかく……私は再びジン君の眠る部屋へ戻ってきたのですが……眠っているジン君を見ていた時、私の目に飛び込んできたのは……その身に【魔力】を循環させる姿だったのです。
それは私のよく知る力の流れ……【((自然力|神力))】にもにた純粋な【魔力】。
そして、その【魔力】に呼応して、【((自然力|神力))】が反応する姿でした。
ジン君の周りを漂い、まるでジン君を祝福するかのように包み込むその様を見て……瞬時に理解しました。
この子は……我々【((魔導士|ラザレーム))】に連なるものだ、と。
我々にしか感じられない……その幻想的な姿を眺めながら……私はジン君が起きるまでの間、そっとその光景を見守る事にしました。
意識がゆっくりと浮上し……今まで感じられなかったような【力】の流れを体に感じつつも、俺ははっきりとしない意識を推してベッドから体を起こす。
(あれ? あっと……え〜)
やや朦朧な頭を振り、意識をはっきりしようとしたところで─
「ああ、起きられましたね?」
ふとかけられた声に対し、その方向へと顔を向けると……傍にはいかにも人のよさそうな、金髪をおかっぱにして背の低い丸顔の男性がいた。
あの女性に弾き飛ばされ意識がなくなる直前、あの女性の後ろに一瞬見えた影がこの人だったのだろう。
「妻があわてていたみたいで……君にこのような被害を与えてしまい、申し訳ありませんでしたね。私はワークス=F=ポレロといいます。私も医学の心得がありますので、勝手だとは思いましたが診察させていただきました。とりあえずは打撲だけで怪我はないみたいですよ?」
「あ、ありがとうございます。俺はジン=ソウエンです。よろしくお願いします」
そういって互いに頭をさげながら、微笑みあって挨拶を交わす俺達。
「いえいえこちらこそ。しかし……あなたはずいぶんと薬学に精通しているようですね? 私も義父さんの診察をしてみましたが……義父さんの傷はもうほとんどふさがっていましたよ?」
「あはは。まあ、一年程お世話になった人に教えてもらったんです。オキトさんに塗っている塗り薬の材料も、そのお世話になった人からの旅立ちの際、俺の荷物のリュックサックにつめてもらったものなんですよ。この一週間でオクトさんの治療に結構つかっちゃったんで、補充のために現物を見せてオキトさんに聞いたら、ここらへんにも群生してるって聞いたので取りにいこうとしたんですが……」
俺の目の前にオキトさんの奥さんが転移? してきて、俺がダッシュする勢い+出てきたオキトさんの奥さんの蹴りをカウンター気味にくらい、家の中まで蹴り飛ばされて後頭部を打ち、気絶しちゃったわけなんだけど。
「なるほど、そうでしたか。そうですね……それなら後で私と一緒にとりにいきましょう。義父さんに薬草の群生地を教えたのは私ですし。義父さんを助けてもらったのですから、薬草の調達ぐらいお手伝いしないと気がすみませんしね。しかし─」
柔らかい微笑みで俺に話しかけるポレロさんにほんわかとした気分になっていると……一旦言葉を区切り、真剣な眼をして俺を見つめる。
「あなたは……年齢以上にしっかりしていますね。何よりあなたにはそう……自然界の加護ともいうべきものを……その身に宿す【魔力】、そしてそれに引かれる【((自然力|神力))】を感じます。そこまで自然と一体化する【魔力】など……我等の中でもいませんし、ありえないのですが……。ジン君は私と同じ【((魔導士|ラザレーム))】になれる素質があるのかも知れませんね」
「【((魔導士|ラザレーム))】……」
再び出てきた単語を反芻しつつも、恐らくはすごいことなのだろうと仮定しながらポレロさんの言葉に頷く。
「じゃあ……さっき見た、あの空間が歪んで扉が現れるのも?」
「ええ、あれも【((魔導士|ラザレーム))】の扱う力【神力魔導】の顕現の一つ。はるか遠き道程も一瞬で詰める事の出来る【((門|ゲート))】と呼ばれるものです。……そうですね、今回は無理ですが……次回までに貴方のために触媒を用意してみましょう。もし、貴方が【((自然力|神力))】に選ばれるものであれば反応を示すはずです」
「え? いいんですか?! ありがとうございます!」
ポレロさんの説明に集中しながらも、俺は新たな技術が得られるかもしれないという事に嬉しさを感じていた。
カイラと共に過ごした日々……次々と身についていく技術。
成長していく過程が分かる事は、自分の生きる力となり、また……知り合った人を守れる力になる事を知っているからだ。
ポレロさんのほんわりした優しい笑顔につられて笑顔を浮かべていると─
「……あなた。今の話は……本当なの?」
俺達が会話をしている最中、俺達の話を聞いて部屋に入ってきた……オキトさんに似ている美しい黒髪を腰の下まで伸ばした、綺麗な奥さんが、ポレロさんの言葉を聴いて驚いた顔で話しかけてくる。
「ええ、本当ですよ。彼はすばらしい素質があります。 さて……ようやくお説教が終わったようですね? それならばまず、そんな事を聞く前に君にはやることがあるでしょう?」
そんな奥さんの問いに優しい微笑みを浮かべて答えた後、奥さんを嗜めるように話を促すポレロさん。
「あ、えっと……まずは……ごめんなさい! 前を見ないで貴女と接触して弾き飛ばしてしまったわ。……お父様が……我が師オキト=クリンスが戦いに敗れて深い傷を負ったというのを聞いていて、いても立ってもいられなくて。あなた……ポレロに頼んで急いで運んでもらったのよ。それでお父様の様子を見ようと焦っていて……」
ばつの悪そうな顔で俺を見つめ、頭をさげつつ、もじもじと体を動かす奥さん。
「……フォウリィー、まだ名前を名乗っていませんよ?」
「あ、もう……私ってば何してるのかしら。自分でも思った以上に余裕がなかったみたいね……。初めまして、私はここの館に住んでいるオキト=クリンスの娘にして【((呪符魔術士|スイレーム))】の末席を担うもの。そして……」
そんなフォウリィーさんに苦笑をしつつ、先を促すポレロさんと。
しまったという表情を浮かべた後、改めて自己紹介を初め……説明途中で俺に向けていた視線を一旦はずし、ポレロさんを見つめる奥さん。
「このワークス=F=ポレロの妻、フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーです。近しい人はみんなフォウリィーって呼ぶわ。そう呼んで頂戴。よろしくね? ……ちなみに苗字が違うのは立場上の問題なの。クリンス家は【((呪符魔術士|スイレーム))】の名家だし……狙われることもあるし、ね」
微笑を浮かべたまま右手を差し出し、苗字が違うことについては一瞬暗い顔をするも、再び笑顔を見せるフォウリィーさん。
俺もその表情には触れないようにして右手を出し、フォウリィーさんの手を握って握手を交わしながら、こちらからも自己紹介を返す。
「初めまして、ジン=ソウエンです。宛てのない一人旅をする事になりまして……自分の身を守るための手段を得るために、凄腕の【((呪符魔術士|スイレーム))】の噂を聞いてオキトさんの所を尋ねたんですけど……そしたらオキトさんがルイに襲われていて、それで偶然助ける事になりました。今まではオキトさんの傷の治療をしていて、その縁でこのお宅にご厄介になってます。よろしくお願いします」
自分がここに来た経緯を、カイラの事を覗いて話しつつ、一礼をして笑顔を交わすと─
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「むぎゅう〜〜〜?!」
ー強 引 抱 擁ー
そういって笑いかけた瞬間、なぜか目の前のフォウリィーさんに抱きしめられていた。
「あなた……。子供が生まれるならこんなかわいい子がほしいわよね」
「そうですね。笑顔がとても素敵でした。私も先ほどそう思っていましたよ。こんなにかわいい子が生まれてくれたら、今君といられる幸せが、今よりもっと幸せになれるでしょうし……ね」
「む、むぐああああ?!?!」
かわいいー!と声をあげながら抱きついたまま、顔をぐりぐりとすり合わせてくるフォウリィーさん。
(ちょ、またこういうの?! 助けてポレロさん! 笑顔が素敵ですね!?)
内心、カイラよりもやわっこく大きいものに包まれながらも強く抱きしめられるという出来事に羞恥心を感じながら身もだえをしていると、それを優しく見守るポレロさんと眼があった。
「ふふっ、フォウリィー……そろそろ離してあげたらどうです? ジン君が真っ赤になっていますよ?」
「あら……いけない。可愛いからつい……ごめんなさいねジン……君なの? ちゃんじゃ─」
「男です! 男なんです!」
「─あら、そう。ごめんなさいね」
抱きしめていた俺を体から一度放し、今度は俺の肩に両手を置いて目線を合わせてくるフォウリィーさん。
「お父様から話は聞いたわ。貴方がいなければ今頃ルイの手にかかって……お父様は帰らぬ人になっていたかもしれない……。さらには治療までしてくれたんですものね。本当に……本当にお父様を助けてくれて……ありがとう、ジン!」
ー柔 軟 抱 擁ー
再び抱きしめられる俺。
しかし今度は……先ほどまでの可愛がるような強く雑な抱きしめ方ではなく、感謝を込めて……優しく包み込むような暖かい抱擁だった。
「いえ……どういたしまして」
「私からもお礼を言わせてください。義父さんを……私達の幸せを助けてくれて……本当にどうもありがとう」
「あなた……」
フォウリィーさんがその腕を放し、ポレロさんもまた俺と視線を合わせて心からのお礼を言いながら頭を下げてくれた。
そんな暖かい雰囲気に自然に笑みが浮かび、お互いに微笑みあいながら暖かい時間を過ごす。
そうして少し時間が立った後。
俺はルイの呪符を形見……? として持っていることを思い出し、フォウリィーさんの兄弟子であったという事もあり、どうすればいいのかを尋ねることにした。
「それはルイの……」
「……はい。言い方は悪いですけど、どうしようもない外道でしたので……今は森の中に小さな墓を作って埋葬してあります。それで……彼はフォウリィーさんの兄弟子ということでしたので……一枚を墓にした場所に残し、使ってない分は持ってきたんですが。……どうしましょう?」
「……そうね。お父様を殺そうとしたルイに思うところがない訳じゃないけれど……そうね、これをお父様に見せにいきましょうか。今なら傷もほとんど塞がっているし、問題もないでしょうしね」
複雑そうな表情でルイの【呪符】を一度受け取ったものの、確認すると再び俺の手にルイの呪符を返すフォウリィーさん。
(そっか、オキトさんのほうが関わりが深いんだもんな。オキトさんに一任するのが妥当か……)
弟子についての複雑なオキトさんの心境を思い、渡すのを躊躇う気持ちもあったのだが……俺はフォウリィーさんの言葉に頷いてオキトさんの部屋へと向かう事にした。
私達もいきましょう、とフォウリィーさんとポレロさんが俺についてきてくれて、俺達は怪我がよくなり、使用人の部屋から自分の部屋へと移ったオキトさんの部屋へと向かい─
ー扉 叩 合 図ー
『……入りなさい』
コンコンとドアをノックし、オキトさんの反応を伺うと、、起きていたオキトさんがノックに対して返事をする。
「失礼します。オキトさん、具合どうです?」
「おお、ジンくん! どうやら娘が失礼したようだね……本当にすまない。昔から時々おっちょこちょいなことをするんだよ」
「お、お父様?!」
「まあ……そうですね」
「あ……あなたまで?!」
部屋に入ってきた俺を見て、フォウリィーさんが俺に対してしでかした事を謝りながら苦笑まじりにベットから体を起こすオキトさん。
フォウリィーさんがそれにあわてたように声をあげると、ポレロさんもそれに頷きながらも同意し、両方にそう言われてしまったフォウリィーさんが呆然とした表情で固まってしまう。
(フォウリィーさん、いじられてるなあ……。それに……オキトさん、大分ましになったみたいだ。前は体を起こすたびに痛みで身もだえしてたからなあ)
「あはは、気にしないでください、別段たいした怪我もしてませんし。それよりも……これなんですけど」
俺は、そんないじられているフォウリィーさんを見て苦笑をしつつ、頭を打っただけで怪我もないのでそう答えつつも……手に持っていたルイの呪符束をオキトさんにそっと手渡す。
「これは! そうか……」
俺から手渡されたルイの【呪符】を受け取り、驚愕していたオキトさんではあったが……すぐに眼をつぶり、険しく、またひどく悲しげな表情になってしばし思考の海に沈んでいた。
やがて、搾り出すような声で─
「……ジン君、私を助けた報酬は……【呪符】を……習いたいと……【((呪符魔術士|スイレーム))】の技術を教えて欲しいという事で変わりはないね?」
「はい、無理にとはいいませんが……この歳での一人旅なので……失礼になるかもしれませんが、身を守る手段がほしいのです」
正直に言えば、((普通の人間|・・・・・))ならば問題なく戦える自身はあるが、一流どころとなるとそうはいかない。
正直言えば【リキトア流皇牙王殺法】を全開で使えば戦えはするのだろうが……普通の人間が【リキトア流皇牙王殺法】を使うのは非常にまずい立場になるということがカイラの話からわかっているので、表立って使えない【リキトア流皇牙王殺法】に変わるような自衛手段が欲しかったのだ。
「そうか。……うん、それならばこれはジンくんがもっていなさい。これを参考にしたり、使用したりするのはあまり気分がよくないかもしれないが……この【呪符】の術式的には問題ない。ただ……大分属性が偏っているけどね。見たところ『氷』系の術式が多いようだし」
呪符の束を確認した後、俺にその呪符を返しながらもこの呪符を手にするのにあまり気分がよくなかったら、この【呪符】を破棄してくれてもいいよとオキトさんからルイの【呪符】束を手渡し返される。
(……すでに術式は【((解析|アナライズ))】はしていたけど……そうだな。死蔵するよりも使ったほうが呪符にとってもいいだろうし……いずれ使えるようになったら使わせてもらおう)
いろいろと思うことはあったが、作られた呪符自体に罪があるわけでもなし……【((呪符魔術士|スイレーム))】の技術を教わった際に使ってみようと決めて頷き、ハーフパンツのポケットにしまいこむ。
「……フォウリィー、聞いての通り……私の命を助けてくれた報酬としてジン君に【呪符】の使い方を教えるという約束をしていたんだよ。しかし……私はこの様だし、復帰するにしてもかなり時間がかかりそうなんだ。……欲を言えば直接指導したいところではあるんだけどね。それで……もし君に時間があるなら……ジン君に【呪符】の扱いを教えてあげてくれないか?」
オキトさんが、フォウリィーさんのほうを向いて頼むと、フォウリィーさんが俺とオキトさんを交互に見つめながら考え込み、ポレロさんに視線を移してしばらく見つめあうと─
「あなた……いいかしら?」
「もちろん、君自身が決めたのだらかまいませんよ。私自身は公務がありますから一旦戻らねばなりませんが……フォウリィー、君ならばジン君の先生も問題なく出来るはずです。ふふ、フォウリィーに指導されたジン君が、次に出会うまでにどれほど成長しているか……実に楽しみですね。私も次にこれる時間が出来たときは、私達【((魔導士|ラザレーム))】の事がわかるような魔導理論などの本も触媒と一緒に持ってきましょう。……おそらくジンくんなら認められると思いますしね」
「そうね……」
「ええ」
そういう話し合いをしながらも、俺を見ながら微笑む夫妻。
「ありがとうございます。よろしくお願いします! オキトさん、ポレロさん、フォウリィーさん!」
【呪符】どころか、推測ではこの国でも最上位に位置するという【魔導】まで教えてもらえるかもしれないという、予想外且つ予想以上にいい状況に思わず顔がほころんでしまう。
こちらこそ、と互いに微笑みあいながら一息ついた所で─
「さあ、話も決まったわね! ……それじゃあ、これからの親睦を深める意味を込めて……ねえあなた? ジンくんも一緒にお風呂に入って裸のお付き合いっていうのはどうかしら♪」
「……ぇ?」
何気にフォウリィーさんがいった言葉に一瞬固まってしまい─
(あ、あれ? またか? またなのか?! カイラと同じ状況……! いや、ポレロさんやオキトさんがいるじゃないか!)
またしてもカイラのように風呂に連れ去られるのかと内心警戒を強くしていたのだが……そういえば良識的な二人がいるし、とその警戒を緩めた所に─
「そうですね。私も……子供に背中を流してもらうというのがささやかな夢でしたし。ここは是非一緒に入りましょうか」
「いいねポレロ君。私は残念ながら今は入れないから……傷が治ったら一緒に入ろう。ジンくん」
「ぉぅふ」
あっさりと良識派がその意見に乗ってしまい、退路を完全に立たれた俺。
がっちりと両肩をポレロさんとフォウリィーさんに掴まれたまま、俺は風呂場へと連れて行かれ……俺に逃げ場なんてないんだなあ、としみじみと肩を落としながらも入浴する事になったのだった。
『ステータス更新。現在の状況を表示します』
登録名【蒼焔 刃】
生年月日 6月1日(前世標準時間)
年齢 7歳
種族 人間?
性別 男
身長 114cm
体重 29kg
【師匠】
カイラ=ル=ルカ
フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー New
【基本能力】
筋力 BB
耐久力 B
速力 BBB
知力 B- ⇒BB New
精神力 BBB
魔力 BBB
気力 B
幸運 B
魅力 S+ 【男の娘】補正
【固有スキル】
解析眼 S
無限の書庫 EX
進化細胞 A+
【知識系スキル】
現代知識 C
サバイバル A
薬草知識 A
食材知識 A
罠知識 A
狩人知識 A-
魔力操作 A-
気力操作 A-
応急処置 A
地理知識 B-
【運動系スキル】
水泳 A
【探索系スキル】
気配感知 A
気配遮断 A
罠感知 A-
足跡捜索 A
【作成系スキル】
料理 A-
精肉処理 A
皮加工 A
骨加工 A
木材加工 B
罠作成 B
薬草調合 B+
【戦闘系スキル】
格闘 A-
弓 S 【正射必中】(射撃に補正)
リキトア流皇牙王殺法 A+
【魔術系スキル】
呪符魔術士 D (名前・【呪符】解析のみ)
魔導士 D New (知識・【((門|ゲート))】解析のみ)
【補正系スキル】
男の娘 S (魅力に補正)
正射必中 S (射撃に補正)
【ランク説明】
超人 EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS
達人 S⇒SS⇒SSS⇒EX-
最優 A⇒AA⇒AAA⇒S-
優秀 B⇒BB⇒BBB⇒A-
普通 C⇒CC⇒CCC⇒B-
やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C-
劣る E⇒EE⇒EEE⇒D-
悪い F⇒FF⇒FFF⇒E-
※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正
【所持品】
衣服一式
お手製の弓矢一式
簡易調理器具一式
ルイの呪符束 New
ジェイクの紹介状
皮素材
骨素材
説明 | ||
森を蹂躙せんと企んでいた【((暴猪|ボールボア))】を使役するゼドー一味を退けたものの、俺の存在がロカさんに知れてしまっためリキトアの森を出る羽目になってしまった俺。 街道に出て、道すがら出会った馬車の行商人・ゲインさんに気に入られ、ゼドー一味の死を知ったゲインさんに連れられて【((商人の止まり木|パーチ・マーチャント))】へと案内される。 そこのマスターであるジェイクさんと情報交換をしつつ、【((暴猪|ボールボア))】の肉を情報の裏づけ&情報料として渡し、凄腕の【((呪符魔術士|スイレーム))】・オキト=クリンスさんの話と、その人の居までの地図と食料などをもらい、二人に別れを告げて店を後にする。 そうしてその場所にたどり着くと、氷の【呪符】をあやつるルイがオキトさんを襲っている場面に出くわし、俺は自らの力を発揮し、ルイのいう白の世界を、ルイ自身の赤い血が染めることによってこの戦いに決着をつけたのだった。 |
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