カーニバル 10話目 |
夕暮れが過ぎ、食事の時間。
鍋がぐつぐつと、湯気がゆら〜りとのぼるキッチン。ボクは居間で
二人の様子を眺めている。
久しぶりだからなのだろう、とても楽しそうに華やいだ空間が
すぐそこで生まれている。
「さぁ、出来たロシー」
テーブルには、ぎちぎちにつめて、ようやく乗っている、お皿達。
どれもこれも美味しそうだが、食べきれるのか心配だ。
手を合わせて「いただきます」の声。
ドロシーさんは豪快に、オリンズは幸せな顔で食べている。食べる事が
好きな人は料理も上手とは、どこかで聞いたな。
しかし、この光景を見ていると、さっきの稽古は夢だったんじゃない
だろうか……いや、こっちの方が夢なのか……
ボクはスプーンを手に取りスープを口に運ぶ。眼をぱちぱちとさせ
「うまっ」と小声で言う。
中の具をコロコロと探ると、見慣れないものを見つけた。
「それは、トカゲの尻尾ロシー」
同時にピタっと手を止めて、サーっと血の気が引いた。
ドロシーさんはスプーンを二つ、目のところへ持っていき、どこぞの
ヒーローのものまねをしている。
それを見て、噴きそうになるオリンズ手を口に持っていき必死で堪える。
が!!!
鼻から、つるんと麺が「こんにちは」した。
ドロシーさんはテーブルをバンバン叩き、けらけら笑う。
時計の刻む音が色濃くなる深い夜。オリンズは、すやすや寝ている。
まるで妹を心配する姉のような顔で
「少年、これからあの娘を頼むロシー」
ボクは、自信をもって返事ができる程の強さは、まだ無い。
「君たちには、これからたくさんの試練が待っているだろうけど、一つ一つ
乗り越えた時に……私が、私たちが見てきた風景に出逢えるはず」
ドロシーさんは、首に着けたネックレスに手を当て、視線を落として微笑む。
「私には、もう開ける扉は残り少ない、乗り越える壁も……君たちが少しだけ羨ましいよ」
ボクは伝説の魔導士の心の隙間を覗いてしまった。何とも言えない、時が数秒流れた。
チラッとドロシーさんを見る。
「スピーロシー……グーロシー……」
ん?寝てる?これイビキ?ついさっきまで起きていたのに、熟睡しているとは……
パンが焼ける、良いニオイとオリンズの声で、ボクは目を開けた。
やさしい日差しが、部屋に入ってきて、朝だと知る。
朝食を終え、そろそろ出発の時。
「ああ、そうだ、ブラッドくんに伝えてほしいロシー」申し訳なさそうに
ドロシーさんは言う。
「実は、君たちがここへ来たのは、私を仲間に引き入れようとブラッドくんが
仕組んだんだロシー、けれど私は自由の身でいたいロシー」
……え!そんな裏事情があったとは。
「ドロシーさん、また会いに来てもいいよね?」オリンズが、ほんわかと聞く。
「ふふふ、もちろんロシー、また成長して会いにきなさいロシー」
少しだけ、ブラッドさんにやられた感じはあるけどオリンズもドロシーさんも
楽しい時間を過ごした事だし良い旅になった。
ボクはドロシーさんにお辞儀をした、オリンズは全力で何度も手を振って
別れを惜しんだ。
ブラッドさんのいる城へ戻った。シアさんの姿がみえない……
「久しぶりの再会はどうだったんだい?」
「はい!ドロシーさんは相変わらず、すーごかったです」
「へぇー、うん、やはり一度会ってみたいな」
ブラッドさんとオリンズの会話に、ボクは人混みをすり抜けるように、すっと
会話に入っていく。
「ブラッドさん、ドロシーさんは自由の身でいたいそうです」
「ハハハ、うんうん、二人とも気を悪くしないでくれ。ただ目的はオリンズと
ドロシーさんを再会させることが第一だったのは本当なんだよ、もう一つの方は
あわよくば、そうなればいいなってね」
少し真顔で答える。
「それに、オーダーくん、君も少し自分の能力に気づいたんじゃないのかい?」
ボクは、剣をチラッと見た。
「バローは、元気だったかい?」
「はい、力のある剣ですね……ボクが使いこなせるか、よく分かりません」
「ハハハ、上出来だよ、すでにコミュニケーションがとれているんだからね、素質はある」
城の窓をすり抜けて、白い鳥がブラッドさんの手元へ飛んできた。
「帰ってきて早々悪いんだが、実は今、命を狙われていてね、この手紙を読んでみてくれ」
ブラッドさんがポーンと手紙を投げる。
「王子よ、お前を亡き者にしなければ、俺の気が治まらん……鳴けない猫団」
なんだか理由がないし、書けない理由でもあるのか……鳴けない猫団って一体?
「ねぇ、オーダー、猫ちゃんたくさんいるのかな?」
「……い、いやオリンズ、そんなかわいい団体じゃないはずだよ」
「どうだい、居所は掴んでいるんだ、退治してきてくれないか?」
ボクは頷いて
「はい、いかにも物騒です、ボク達に任せてください」
「猫ちゃん猫ちゃん、かわいい猫ちゃん」
オリンズ……言えない、夢を壊すようなことは、言えない。僕は苦笑するしかなかった。
城を出て行く二人を見送ったブラッドにもう一通の手紙が届く。
それに目を通し、急いで旅の準備をする。
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ファンタジー小説です、続きものです。 | ||
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