超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第6話
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テラはそっと目を覚ます。

別に何かあったわけではない。

眠っている以上、目は覚める。

それだけのことだった。

薄く、まだぼやけるテラの視界の端に人影が映る。

「っ!?」

同じ、だった。

まさに、ネプテューヌと出会ったときと。

テラは一瞬、無事だったのかと、表情を歓喜に染めて目を見開く。

「おはよう」

が、すぐに歓喜の色は無くなる。

微笑みかける少女、少女の姿に驚きつつも目の前の状況を分析する。

見たところ、彼女の個室であることは間違いない。

ドーム状に作られた構造の建物にはベッド一つしか配置されていないところを見ると寝室であることが予想される。

「大丈夫? まだ寝惚けてる?」

少女はテラの目の前で片手をヒラヒラと振る。

「や、もう大丈夫だ」

テラは少女にふっと微笑みかける。

「あ、そ、そう。大丈夫ならいいわ」

その行為に、頬を朱に染める少女だったがテラは気付かない。

「ここは?」

テラは持っていた疑問をぶつける。

流石に意識を失い、記憶が無いのかテラは額を押さえる。

「ここは……協会ね。私の個室」

「は?」

「ま、まあ色々あるのよ」

少女はあせあせと取り繕い、先程とは違う意味で頬を紅く染める。

「そ、そうなのか?」

しかし、深く突っ込まないところがテラのテラたる所以であるが。

「えーと、つまり君が俺を保護してくれたんだな?」

「まあ、見つけたのは私、運んでくれたのは教院の人達よ」

「そっか。とりあえずありがとう」

「どういたしまして」

 

「「……」」

 

しばしの沈黙が眺める。

まるで初々しい恋人達のように。

流れる空気は艶めかしいものへ。

 

 

 

 

なんて感じているのはその少女だけで、テラの心はここにあらず。

「ね、ねえ。貴方、名前は何て言うの?」

「え……? 俺は、テラバ・アイト。みんなはテラって呼ぶから、テラでいいよ」

「そう。私は、ノワールよ。よろしくね、テラ」

「うん。よろしく、ノワール」

二人の手がそっと触れる。

ノワールは自然と指を絡めてそっと手繰り寄せる。

その行為にテラは黙って身を任せる。

「あ、あのね、テラ?」

「……うん? 何?」

「その――会っていきなり、っていうのも変な話なんだけど……」

「……うん」

「私――」

テラには触れた肩越しに彼女の鼓動が伝わっていた。

妙に早いリズムを刻むノワールの鼓動が彼の思いを掻き立てる。

様々な自責の念が洗い流されるように、ただ彼女の瞳に魅入られている。

大きな紅の瞳に飲み込まれるように、テラはノワールの傍に身を寄せて、そっと頬を撫でる。

「……」

「……私――」

 

 

 

 

 

 

コン、コン

ドアをノックする音が部屋に響き、二人は閃光のような動きで身を離す。

「失礼します」

静かにドアが開き、そこにはノワールにガナッシュと呼ばれていた男性だった。

「おや、お目覚めですか?」

「アンタは……?」

しかし、ガナッシュはその問いには答えず、ニコリと微笑を返すのみだった。

「ブラックハート様、本日は――って、何故、そのような恐ろしい顔で睨むのでしょうか?」

ガナッシュは額に汗を浮かべてノワールのそれはそれは恐ろしい形相を見る。

「あー、で? 何?」

ノワールはガシガシと頭を掻いてふて腐れ気味にガナッシュに問う。

「あ、えと、少しばかり今後の傾向の話を、と思ったのですが……」

どんどん尻すぼみになっていくガナッシュ。

「あー、キャンセルにしてくれる? 今日はそんな気分じゃないから」

『しっし』と手で払うようにガナッシュを追い出そうとジェスチャーする。

「は、はあ……。では、本日の予定はキャンセルでよろしいですね?」

「分かってるわよ!」

「はい!」

ノワールの怒号にガナッシュは急いで退室する。

「ホント、使えはするけど気の回らない人ね……!」

「まあ……あの人もあの人なりに頑張ってるんだし、いいじゃないか」

事情の分かっていないテラは曖昧な答えを出す。

「はぁ……。っと、それより聞いておきたいことがあったんだった。

貴方、どうしていきなり倒れたりなんかしたの? 空腹?」

と、ノワールの言葉にテラは記憶をまさぐる。

確かに空腹ではあったが倒れるほどではなかったし、あの事件以外に気になることもなかった。少し、身体が怠いだけであったが。

「いや、これと言って別に」

「そう……。じゃあ、一体何かしら……?」

そういって悩むノワールをテラは微動だにせず、見守っていた。

「……とにかく、ありがとう」

「え? いいえ、気にしないで。こっちも仕事みたいなものだから」

「そうか」

テラはもぞもぞと布団から身を起こして、退室しようとする。

 

が、その腕はがっしりと捕まえられてベッドに押し戻される。

「わぷっ!」

「何考えてるの!? 今日は一日絶対安静よ!」

「いや、でも悪いし……」

「病人に悪いもクソもないわよっ! 病人は万国共通で病人よ!!」

半ば強引にベッドの中に引き戻されていく。

この流されやすさは異常であると思えるが、これは既に体験しているのと体質なのとで仕方がない。

ていうか、女の子がクソは無いよね、とかテラはまったく関係ないことを考えていた。ホントどうでもいいな。

ともかくである。

「俺、じっとしてるの性に合わないんだよ……」

「知らんわっ!」

トドメにバサーっと毛布を掛けられてテラはとうとう安静にするしかなくなってしまった。

まあ、別に振り切っても良かったのだがそれだとなんか悪いし、何より精神が少々疲れていたのでそんな思考に至らなかったのと、

(あ、こんなふかふかなベッド初めてだ)

とか、妙な心地よさに埋もれていたので動けなかった。

 

 †

 

ったく……。

テラも何を遠慮しているのかしら?

別に気にしなくてもいいのに。

あ、もしかしてこんな部屋で緊張しているのかしら?

そうよね、私だって初めてここに来たときはもう吃驚で夜なんか遠足前の小学生みたいな感じでドキドキしてたもの……。

 

――違うかな?

にしても、ホンット自分の不器用さが嫌になるわねー……。

病人くらいもっと優しくいたわれないものかしら……。

これでテラに悪い印象とか持たれちゃったらどうしよう……!?

って! いきなり愛称で呼ぶのも失礼!?

愛称でもやっぱり『さん』とかつけるべきだった!?

あー、でも、それじゃあ他人行儀過ぎるし、いやいや、でも――

 

 †

 

ノワールが頭を抱えてブンブンと振ったり、orzな格好になったりしてテラはちょっと心配になったがなんか面白かったので黙って見てた。

時折、「あ〜〜!?」とか叫んでは頬を真っ赤に染めていやんいやんな風に顔を横に振ったり、目がぐるぐるになったり百面相も極まれりかーとかテラは思ったらしい。

「っ〜〜!」

「なあ……大丈夫か?」

「私は大丈夫! 大丈夫だから!!」

誰がどう見ても大丈夫という様相ではなかったがテラは「そう……」とか呟いてスッと目を閉じた。

やがてすうすうと寝息を立てるテラを見て、ノワールは悶絶を止める。

「……無防備に寝ちゃって」

ノワールは枕元に頬杖を突き、テラの頬をぷにぷにとつつく。

「ん〜、んむ……」

とても戦闘に長けた少年兵とは思えない程の可愛らしい声を上げて寝返りを打つテラにノワールは更に心を奪われた。

「貴方は……本当の私を見たら、どう思うかしら……?」

ノワールは悲しそうにそう呟くとそっとその場を去った――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

パクパクパク

 

「……」

 

パクパクパク

 

「……」

 

なんかデジャヴ……、とかアイエフは思った。

ラステイション中央病院のとある一室。

 

ネプテューヌが入院して数日。

まだまだ安静にしていてはいけないものの、だいぶ回復し、今ではこうしてむっしゃむっしゃと病院食を腹に納められるほどに元気になっていた。

「あ〜、美味しい〜♪」

「はぁ……」

ていうか病院食を美味しいと言うのも如何なモンかな、とかアイエフは超どうでもいいことを思った。

しかし、である。

「アンタってホント、マイペースねぇ。こんな状況だって言うのに……」

「え?」

もぐもぐと口を動かしながらニンマリ笑顔でそう答えるネプテューヌにアイエフはわなわなと拳を振るわせる。

「んー、別にゆったりしてるワケじゃないよ。私だって私なりに悩んでるし……」

「ホント……?」

「でも、テラさんは何処行っちゃったです?」

コンパはネプテューヌにお茶を渡すと自分もストンと席に着く。

ネプテューヌは「ありがと」とコンパに礼を言い、ごくごくとお茶を飲み干す。

「知らないわよ、分かってたら速攻で追いかけてぶん殴りに行ってるわ……。

ったく、あんの馬鹿……!」

アイエフはフンと鼻を鳴らして窓の外を向く。

「で? 結局、あいちゃんはなんで怒ってるの? 私、何があったか覚えてないんだよねー」

そう言ってアハハと笑うネプテューヌにアイエフは人知れず、溜息を漏らした。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「えーと……?」

「どうかしたの?」

テラの眼前に広がるのは見たこともないような豪勢な料理の数々。

たらりと冷や汗を垂らしてテラは今の自分の状況を必死に整理しようと鑑みる。

「いや、これは何かなーって」

「見たらわかるでしょ? 夕食だけど」

「うん。昼飯じゃないことは確かだ」

窓の外から覗く空はすっかり漆黒になっており、これを昼だと主張できるものは眼科に行った方がいいかもしれない。

「な・ん・で! 俺がここにいるのか、って話だよ」

ガバッとテラは身を乗りだしてノワールに問いつめる。

が、ノワールは気にした様子もなく、目の前に分厚いステーキにフォークを刺す。

「夕食を共にするなんてよくある話でしょ?」

「そうなのか? 俺はそんなことしたことないけど……」

士官学校育ちのテラにはそんな経験はなかった。

スッと椅子に座り直し、改めて目の前の豪勢な料理達を見る。

「別に遠慮しないで。男の子なんだからもっと食べなくちゃ♪」

そう言ってノワールは傍らに佇んでいた使用人に何やら合図を送ると更にボリュームのありそうな料理がテラの前に運ばれる。

「いや、でも悪いし……」

「気にしないでって言ってるじゃない。過度な遠慮は時として人を苛立たせるものなのよ?」

笑顔で、しかし妙な勢いのあるノワールの声音にテラは身をちぢこませてとりあえず七面鳥のような料理に手を伸ばす。

「ん……。美味しいな」

「でしょう? 一流シェフが腕によりをかけて作ったんだもの」

「へぇ。ていうか、何? ノワールって実はお嬢様とかそういう類?」

「あながち間違ってるワケじゃないわね。待遇されているというか……ね」

「ふぅん……」

テラはどんどん並べられた料理を更に取り、もぐもぐと消化する。

「……こんなに長居するつもりじゃなかったんだが、なんか悪いな」

「別にここくらい、広いんだから2、3人いたって変わりはしないわよ」

テラは「ふーん」とか呟いて注がれたグラスの中身をコクリと一飲みする。

「テラは明日、何か予定とかあるの?」

「うーん……? 予定、ねぇ」

テラは腕を組んで思考を廻らせる。

(ぶっちゃけ、帰りづらいんだよな……。

確かにねぷ子は心配だけど、合わせる顔がないって言うか……。

かといって、こんなとこで油売ってるのもなんか悪い気がするし――)

テラはうんうんと唸っている。

「もし、予定がないなら明日、軽く市街を回ってみない?」

「でも、いいのか?」

「ええ、私もちょっと気分転換したいと思ってたの。気晴らしに街を散策でもしない?」

気晴らし、という言葉にテラはうんと考える。

「そう、だな……。気晴らしは、大事だよな……」

「じゃあ、決まりね!」

ノワールは嬉しそうに両手を合わせる。

「ついでだからウチに泊まっていけば?」

「んなっ!? さ、流石に……」

「別に遠慮することないわよ。それに私、貴方ともっとお話ししたいもの」

「……ま、まあ、それなら」

ひどく流されてる感が漂っているが、もう気にしなくなっているのがテラの性格である。

ここら辺はすでにとある人物によって洗脳されているという気がしないでもないが。

「ふふっ。楽しみね〜、お泊まり会って言うの? 私初めてなの。

こう、同じ布団で二人で寝るんでしょ?」

「いや、それ別物だから」

テラは手でバッテンマークを作る。

この子結構高貴そうに見えて下ネタとか抜かすのか、とかテラは思ったがそんな雰囲気ではないためにテラは黙っていた。

「あ、でもそれなら遅くまでお話しできるし、今日やってm「嬉しいけど、丁重にお断りさせていただきます」……けち」

途中、言葉を被せられたのが気にくわなかったのか、ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませるノワールにテラは少しドキッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、この夜は押されに押されて結局一緒に寝たらしい……。

 

 

 

 

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「ふぁ〜……」

テラは窓から差し込む光で目を覚ます。

傍らには天使のような寝顔で布団に埋もれている少女、ノワールがいた。

もめにもめて結局自分が折れて一緒に寝たんだった、とかテラはまだ上手く働かない脳味噌でそう考える。

彼女の艶やかな黒の髪をそっと撫でてからもそもそと布団を出る。

ぐぐぐ、と伸びをして軽く頬を叩き、テラは完全に脳を覚醒させる。

「さて」

テラは傍らにかけてあった自分の着替えを取り、ノワールが起床する前にサササっと着替えを済ませる。

とは言ってもすることもなく、所在なさげなテラはそこら辺をうろうろと忙しなく動き回っていた。

「お礼に掃除とかするかな――ってココすんごい綺麗だしな……」

キラキラと効果音が入りそうなくらいに光沢を放つ床や家具類を呆然と見る。

仕方なく、近くにある本棚に陳列してある書物類に目を移す。

「……『猿でも分かる統治法』って何だこれ?」

見なかったことにしよう、とテラは思い、そっとそれを元の位置に戻す。

スーッと視線を横にずらし、テラは一つのタイトルを目にして動きを止める。

「『より高度なコスプレイヤーになるための技術』……?」

(これはなんなんだろう……)

と思ったが、これも深く関わることは止めてそっと元の位置に戻す。

一通り、本棚に目を通したが特にめぼしいものはなく、テラは近くの椅子にどっかりと腰掛ける。

「ねぷ子、大丈夫かな……」

ふっと一人の少女の存在がテラの脳裏をよぎる。

 

 †

 

結局は逃げているだけなのだ。

自分からも、自分が傷つけた彼女からも――。

頭では分かっている。

今、自分がいるべき場所がココではないことくらい。

しなければいけないことが、あることくらい――。

しかし、身体が言うことを聞かない。傍に行きたい、そう思っても、動けない。

まるで暗闇の中で何かに足をとられているような感覚。

暗闇の中に引きずり込まれる感覚。

 

聞こえる。

闇の中から聞こえるのだ。

怨嗟、憎悪、悲鳴、喧騒、報復――。

それら全てが掻きむしるように、暴れて、狂って、堕ちていく……。

自分が何者なのか、自分は何なのか、何であるのか、何で――ありたいのか。

 

 

幼き頃の記憶、それがすっぽりと抜け落ちて、空白を造る。

恐怖、自分自身が、怖いのだ――――。

 

 †

 

「ん……」

ノワールはごろりと寝返りを打つ。

テラはふと時計に目を移す。

時計の針は既に10の位置を指している。

「流石に起こした方がいいかな……」

テラはそっと立ち上がり、ノワールの身体をゆさゆさと揺する。

それと同時に豊満な乳房がゆさゆさと揺れるのだが、テラは何とかそれを視線に映さないようにした。

「おーい、ノワール。起きろー」

「ふみゅ……」

ごしごしと目元を擦るノワールは重く瞼を持ち上げる。

「おはようございます」

「……」

「?」

みるみるノワールの顔は紅潮していく。

「どした? 熱でもあるのか?」

テラはピトッと自分の手をノワールの額に当てる。

「ひゃ……!?」

「んー、熱はないけど」

テラは小首を傾げる。

「あわわわ……。だ、ダメよ……テラ! 私達、昨日会ったばっかりだし!

あー、でもイヤってワケじゃなくて! もちろん私的にはバッチコイだけどそれはそれで心の準備が出来ていないと言うかなんて言うかそのその……と、とにかく……!」

「? ホントに熱あるんじゃないか?」

ノワールがゴロゴロと身体をのたうち回らせる。

「っ〜〜〜!」

そして顔を押さえて縮こまる。

「お、おい……」

そして、テラはどうしようもなさげにポンとノワールの肩に手を置く。

「ハッ!?」

ノワールはガバッと顔を上げてテラの方に向き直る。

「……」

「おはよう、ノワール」

「……おはよう」

「落ち着いたか?」

「……うん」

「……」

「……」

なんか妙な雰囲気が流れてどうも気まずい感じになってしまっている。

まあ、元凶であるテラは自分の所為だとか、そんなことは一切自覚できておらず、「なんでこんな雰囲気になってるねん」とか思った。

「失礼します」

ふいに扉が開き、教院関係者の一人が恭しく入室する。

「ブラックハート様、本日の日程ですが……ああ、お楽しみの途中でしたか。

それは失礼いたしました。ごゆっくり」

現在の状況を軽く解釈した教院関係者はペコリとお辞儀をして退室しようとする。

「違う違う! そんなことしてないから!」

「おい待て! 誤解だから!」

二人の必死の呼び止めに教院関係者は「そうですか」と言って、踵を帰す。

「えぇと、本日はこれと言った予定はありませんのでクエストにでも精を出してみては?

もしお疲れでしたら、今日一日は休暇を取っていただいても構いませんが……」

「いいわ。昨日も充分休んだし。今日はクエストなり何なりやってみるわ。

ついでに市街の探索でも、ね」

「そうですか」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

テラとノワールの二人は街へ赴いていた。

協会で迷子捜しのクエストを受け、現在、その目的地のダンジョンへ向かう途中である。

クエストに必要な物品を買い求め、いざ出陣と意気込むところにきゅるきゅると可愛らしい音が響く。

「ノワール?」

「……」

ノワールは腹部を押さえて顔を赤らめる。

テラは苦笑いして設置されている時計に目を移す。

「……昼時だしな。飯食ってから行くか?」

「……そうね」

ノワールはしばらく考えてからそう答え、二人は飲食店が建ち並ぶ通りへと足を向ける。

「はぁ、格好悪いわ……」

「別にいいじゃないか。腹減るなんて自然の摂理だろ?」

「そうじゃなくて……」

ノワールは額を抑えてチラチラとテラを見る。

「何でもない」

「気になるだろ」

「いいから忘れて。……それより、ちょっといい?」

ノワールは遠慮がちにテラの手をぎゅっと握る。

「え……?」

「あ、い、イヤだった?」

ノワールはパッと手を放し、顔をみるみると紅潮させていく。

「あ、別にいいぞ。いきなりで吃驚しただけだから」

「そ、そう?」

ノワールはもう一度、テラの手を握る。

優しく、包み込むように――。

「……なんか、照れるな」

「そうね……さっきから超見られまくってるし」

ノワールの言葉通り、道行く人々は皆、チラチラとではあるが二人を見ている。

それもそのはず、ノワールも超絶美人であるし、テラも超が付くほどではないがなかなかの顔立ちをしているために周りの人々には美男美女カップルとして映っていることだろう。

そんな感じで注目度も鰻登りである。

まあ、それはどうでもいいことなのであるが。

そんなこんなで二人は手頃なファミリーレストランに入店する。

「いらっしゃいませ〜♪ 何名様ですか?」

「二名でお願いします」

ノワールは淡々と答える。

「ただいまサービス中でカップルのお二人には特別サービスを行っておりますが、如何でしょう?」

ウェイトレスはニコッと笑ってそう告げる。

「カップル!? やっぱりそう見えるかしら……! で、でもホントはカップルじゃないし……あ! もしかしてここでそう言っておけばもう公認カップルってことになるのかしら……? っ〜〜! でもでも――」

「いや、カップルとかそういうのじゃないんで、通常サービスでお願いします」

しかしながら、テラにはデリカシーとかそういう類の成分はほとんど無いので妄想というか何というかそれっぽいのを繰り広げるノワールをさしおいてきっぱりと断る。

「そうですか。それではこちらへどうぞ♪」

「ノワール、行くぞ」

「これを機会に仲が発展していつしか――なんて! キャー!!」

「……?」

テラは顔を押さえていやんいやんと首を振るノワールをズルズルと引きずってウェイトレスに指定された座席に向かう。

どうでもいいが、大声を上げるノワールは店内で妙な注目を受けてついでにテラも被弾して凄く恥ずかしい思いをしたとか何とか。

本当にどうでもいいのだが。

 

 *

 

「む〜……」

「……」

正気に戻ったノワールはメニューと格闘していた。

難しい顔をしてあれやこれやと選んでいる。

「早く決めたらどうだ?」

「ちょっと待って……これもいいし――」

「全部頼めばいいじゃん」

「そしたら太るでしょ……(小声)」

そして再び難しい顔でブツブツとノワールはメニューを眺める。

 

 †

 

女の子って料理のメニュー一つでこんなに悩むモンなのか?

ネプ子達は結構ズバッて決める方だったけどな……。

あ、なんか表情からして決まりそう。あ、また難しい顔になった。

まだ時間掛かりそうだな……。

そう思って窓の外に視線を移す。

 

決められないって気持ちはよく分かるけど。

俺だって、結局重要なことを決められないからここにいる。

むしろ、ここにいるから余計に迷っているんだと思う。

もう、ネプテューヌ達にとって俺は要らないんじゃないか、とさえ思う。

もし、彼女、ノワールにとって俺が邪魔な存在でなければこの娘と一緒にいるのだって悪くないのかもしれない。

でも、心の片隅に、まだ彼女達の存在がある。

彼女たちと一緒に旅した期間が、鮮明に浮かぶ。

疲れはしたけど、楽しかった日々が――。

「――ラ、テラ?」

「ん? どした?」

「決まったのよ。もう注文しちゃうけど、いい?」

「おう、頼む」

ノワールはウェイトレスを呼び、あそこから気に入ったメニューをいくつかピックアップして頼んでいる。

俺も、自分が目につけたメニューを頼んで椅子に深く腰掛ける。

空は相変わらずの曇天が広がっていた。

 

飲食店のメニューと同じくらい、簡単に決められたらよかったのに――。

 

 †

☆ ☆ ☆

 

迷子の子供を街まで連れて行き、クエストを終えたのだがその迷子からダンジョンの奥に凶暴なモンスターが住み着いていた、との情報でテラとノワールは再びダンジョンに赴いていた。

「ねえ、テラ?」

「ん?」

ダンジョンを進む中、ノワールはピタリと足を止めて先を行くテラを呼び止める。

「何だ?」

「あ、あのさ……」

「うん」

ノワールはもごもごと口ごもり、両手を握ったり、放したりと忙しなくしている。

「その……もし、迷惑じゃなかったらの話なんだけど……」

「……」

周辺のモンスターを掃討した所為か、辺りは妙に静まりかえっている。

「このクエストが終わってから、なんだけど……」

「……」

その台詞は明らかに死亡フラグか何かが立ちそうだ、とかテラは一瞬そんなことを思ったが口を挟める雰囲気ではない。

「テラ、私と――「あれ? 誰かいるの?」……」

何者かの台詞が被り、テラとノワールは慌てて近くの岩陰に姿を隠す。

「ちょ、ねぷ子、いきなり走らない!」

「ねぷねぷ、危ないですぅ」

奥から現れた三人の少女の姿に二人は目を見開く。

「……!」

「アレは……!」

 

 *

 

ネプテューヌ、コンパ、アイエフの三人は迷子捜しのクエストを受けてダンジョン内を捜索していた。

先程、テラとノワールが倒したモンスターの死体の傍らにアイエフは膝を突いて訝しげに見ていた。

「ここ……ラステイションよね。鋭利な刃物に大口径の焼け跡なんて、この大陸の武器って感じじゃないわね……。

つーか、ねぷ子もこんぱもこっち来なさいよ」

と、遥か後方に岩陰から顔を覗かせるネプテューヌとコンパに声をかける。

「嫌だよー! 今回はあいちゃんに一任するから一人で勝手に閉めちゃって!

私とこんぱはこっちで静観してるから!」

「そうですぅ! あいちゃん、一人で適当に進めちゃってくださいです!」

「ったく、あの二人はモンスターの死体なんて散々見てるでしょうに……」

アイエフは聞こえないように文句を零しつつ再びモンスターの傷痕を確認する。

「あ、お宝はっけーん!

ぴゅー、とネプテューヌは一人突っ走っていく。

「あ、ちょっと!」

「ねぷねぷ、待って欲しいです〜」

ネプテューヌは宝を拾い、満足げに懐にしまう。

「――が終わってからなんだけど……」

「……」

ネプテューヌの耳にふと何者かの会話が聞こえる。

「……、私と「あれ? 誰かいるの?」」

ネプテューヌは思わず声を上げる。

しかし、その途端に声は静まり、あたりに静寂が流れる。

「ちょ、ねぷ子、いきなり走らない!」

「ねぷねぷ、危ないですぅ」

後からアイエフとコンパも追いつく。

「ねえねえ、こんぱ、あいちゃん。今ね、そこに誰かいたみたいなんだよ」

「は?」

「誰か、ですか?」

「うん」

アイエフはネプテューヌの言葉に眉をひそめ、ゆっくりとその声の下という方向に歩み寄る。

 

 *

 

「貴女達、こんなところで何をしているの?」

「っ! ノワ……あれ?」

飛び出したノワールを引き留めようと声を出したテラだが、目の前の少女の姿に戸惑う。

黒かった髪は銀髪へ、紅色の瞳は緑色へと変化している。

彼女の身に纏う衣装もいつの間にか軽装、つーかこれ軽装って呼んでいいの? 軽すぎじゃね? と言いたくなる程のものに変貌していた。

ノワールの問いに、こちらに向かってにじり寄っていたアイエフは声を上げる。

「それはこっちの台詞よ! 貴女、何しに来たの? こんな何もないところで」

「迷子の子からモンスターの情報を貰って、それを倒しに来たのよ」

「あれ? じゃあ、迷子は貴女がもう助けたの?」

「ええ。それより、貴女の後ろにいる娘、もしかして名前はネプテューヌじゃない?」

その言葉にアイエフは顔色を変える。

「おー、何? あいちゃんの知り合い? 格好良いね!!」

「や、アンタの名前知ってるってコトはアンタの知り合いでしょ?

この人、ねぷ子の名前知ってるわよ。変身後と格好似てるし……どういう関係?」

アイエフの言葉にネプテューヌは首を捻る。

「うぇ? 全然覚えがないけど……ごめん、何処かで会った?」

ネプテューヌの言葉にノワールは一瞬眉をひそめるが、すぐに余裕の表情に戻る。

「なるほど、下界だもの。部外者の前だし、知らないフリをして争いは極力避ける……。

そっちの姿にしては真っ当な判断だわ。でも、それで『はいでそうですか』って引き下がると思う?」

ノワールはどこからか剣を取り出し、ネプテューヌめがけて突っ込む。

「決着をつけるわ、ネプテューヌ!」

「っ!」

ネプテューヌはすかさず変身し、太刀で剣撃を防ぐ。

「ちょっと待ちなさい! 貴女は一体……!」

「随分と演技が上手くなったじゃない? ネプテューヌ!」

ノワールはブン、と剣を横に薙ぐ。

ネプテューヌは跳躍し、上から太刀で一閃、ノワールは横に避け、そこからネプテューヌは姿勢を低くして突っ込みさらに一閃と叩き込む。

太刀の一撃を剣で受け止め、ノワールはネプテューヌの腹部に蹴りを入れる。

「っ!」

「まだまだ!」

ノワールは射撃でネプテューヌを撃ち、追い打ちをかけるように斬撃波を飛ばす。

ネプテューヌはそれをなんなく避け、銃を発砲し突っ込む。

ガキン、と太刀と剣がぶつかり火花を散らす。

「なんでこんなに……!

まさか、以前よりも強くなっているとでも言うの……!」

「……!」

 

 

テラはその様子を呆然と見ていた。

「ねぷ子……」

生きていた。

その事実がテラを安堵させる。

しかしながら、悠長にその感情に浸っている状況ではない。

「なんとか止めないと……!」

しかし、あと一歩のところでテラの身体は踏みとどまる。

(顔を会わす資格なんて無い……)

罪悪感、いや逃げたいだけかもしれない。

しかし、テラは動けずにいる。

そうしている間にも戦闘は熱を帯び始める。

「っだ!」

「はぁ!」

何度も何度も剣と剣がぶつかり合う。

「止めなきゃ……!」

決断。

テラは駆け出していた。

もう、何も関係ない。

大事なものを傷つけたくない、失いたくない。

それだけを思い、走る。

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉ――――!!」

 

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バキィン!

ネプテューヌの太刀とノワールの剣がぶつかり、火花を散らす。

鍔迫り合いの後、ノワールは右足でハイキックを入れる。

ネプテューヌは左手でそれを受け止め、右手の太刀で横薙ぎに振るう。

ノワールは間一髪で避けて至近距離で銃撃を撃ち込む。

「っ!」

「相変わらず避けるのは上手いわね!」

ノワールは剣を振りかぶる。

ネプテューヌは身体をねじってそれを避ける。

互いの武器がぶつかり、二人は後退して距離を取る。

「貴女は誰!? 何故私と戦う必要があるの!?」

「別にとぼけなくても本当は分かっているんでしょ!?

あの時、させなかったトドメを私が刺すだけの話よ!!」

ノワールはブンと剣を振り、加速してネプテューヌに突っ込む。

ネプテューヌは銃で威嚇射撃をしつつ、牽制しながら小技を叩き込む。

 

 *

 

「ちょ……! これどういう状況なの!?」

アイエフは高速で繰り広げられる戦いに戸惑う。

「わ、私に聞かれても分からないですぅ……」

コンパも二人を目で追うのが精一杯である。

「っ〜〜! もう! テラもテラでなんでここにいるワケ!?」

届かないと分かっていても、そう漏らさざるを得なかった。

アイエフは武器を構える。

「こんぱ! とにかくねぷ子を援護! 怪我してる身体じゃ、ねぷ子にもじき限界が来るわ!」

「は、はいですぅ!!」

アイエフはカタールを構えてノワールに銃弾を撃ち込む。

「っ!」

ノワールは銃弾を剣で弾き、振り下ろされるネプテューヌの太刀をいなす。

「フン、いいわ! これくらいでちょうどいいハンデよ!」

そう強がって見せるも、ノワールの顔には苦渋の表情が伺える。

「はぁっ!」

アイエフはカタールを振り下ろす。

カタールと剣がぶつかり合う。

「こんぱ! 今よ!」

「了解です!」

コンパは銃弾を装填し、動きが止まっているノワールに向けて発砲。

ノワールはギリギリで避けるが、その隙にネプテューヌとアイエフの二人からその武器が振り下ろされる。

「っ!」

ノワールは足下に銃爆撃を撃ち込み、その爆風で後ろに下がる。

ゴロゴロとノワールの身体が転がり、体勢を立て直して剣を構える。

「しぶといわね!」

アイエフはそう毒づく。

コンパは新たに弾を装填し、爆撃する。

ノワールは更に後ろに飛び退き、銃撃を避けてネプテューヌと剣を交える。

「だぁっ!」

「この……!」

アイエフは横からハイキックを叩き込み、ノワールの横腹を蹴り飛ばす。

「っく! 邪魔よ!」

ノワールはキッとアイエフを睨み、加速してアイエフを斬りつける。

「っあ!」

アイエフは斬られた右肩を押さえてうずくまる。

「この!」

その隙にノワールはアイエフを蹴り上げる。

「あいちゃん!」

コンパが何とか蹴り上げられたアイエフをキャッチする。

「ノワール、ネプテューヌ! やめるんだ!」

テラは叫ぶ。

しかし、その声は二人には届かない。

火花が飛び、剣を交え、起こっているのは正真正銘の殺し合い。

「っ! なんだよ……これ!」

テラは走る。

激化されたこの戦闘を止める術など、テラは持ち合わせてはいない。

しかし、身体が言うことをきかない。

走る。

止める。

なんとしてでも、止める。

止めて欲しい。

もう、傷ついて欲しくない。

殺し合う姿なんて見たくない。

それだけが、テラの中にある。

それだけが、望みだった。

 

 †

 

『何時だって、俺は、そうだ』

少年は、ハァと溜息を吐く。

『結局、守れはしないと分かっているはずなのに』

少年の姿は変貌する。

まるで、鬼のように。

戦場を駆ける一閃の光のように。

闇夜に輝く銀色の姿に―――。

 

 

『俺って奴は、本当に馬鹿な生き物だ』

 

 

 †

 

テラの姿は変化する。

髪は美しい銀髪へ、衣装は薄く特殊な形状のものへ、腕には白銀に煌めく爪が。

瞳は、悲しき色を秘めた藍の色へ――。

 

ガキン!

 

硬質な音が洞窟内に響き、太刀と剣をテラの腕が受け止める。

「……もう、やめてくれ」

「っ!」

「テラ……?」

ネプテューヌも、ノワールも、アイエフも、コンパもテラの変貌に目を見開く。

以前の彼とは似ても似つかぬ禍々しい気を放ち、それでありながら表情は悲しき色を映している。

「分かってる、これは俺の我が儘だって……。

けど、これ以上、大事な人達が戦う、殺り合う姿なんて見たくないんだ……!」

テラの剣を握る手に力がこもる。

テラの雰囲気に圧され、その場にいる全員が押し黙る。

殺し合い。

その現実が今更ながら突きつけられる。

「違う! 私は殺し合いなんて……」

「ノワール、じゃあ聞こう。

君はあの戦いがそのまま激化したときに本当にネプテューヌを殺さなかった、と言えるか?」

「それは……」

ノワールがふいと顔を背ける。

「もう、ここでやめにしよう。これ以上は無駄な争いだよ。

彼女たちにとっても、君にとっても――」

一瞬テラの姿がブレ、次の瞬間にはテラの姿は以前のものになっていた。

ノワールは剣をしまい、踵を帰してダンジョンの出口に向かう。

「ノワール」

「来ないで。そっちがそのつもりなら、次は私だって――」

テラの腕を乱暴に振り払い、ノワールは足音荒く姿を消す。

哀しそうに、一筋の迷いを映しているかのように――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「えっと……」

テラの額に冷や汗が浮かぶ。

ダンジョンを抜け、ラステイションの飲食店通りにある喫茶店でテラは妙に威圧感を醸し出しているアイエフに笑顔で睨みつけられていた。

「どう? パーティを放って何処ぞの誰かさんと過ごした二日間は?」

「ゴメンナサイ……」

テラは深々と頭を下げる。

もう、アイエフの周りにはそれはそれは言葉では表現しにくいような怒りの感情が、というかもう軽く殺気まで感じてしまえるような雰囲気なのである。

「ま、いいけど。それより、アンタはねぷ子に何か言っておくことがあるんじゃないの?」

アイエフの声に呼ばれたネプテューヌは「ふむ?」とかチョコレートパフェを頬張りながら間抜けな声を上げる。

「……え、と」

「……」

テラはしばらく間を取ったあと、重々しく尋ねる。

「怪我はいいのか?」

「あ、うん。私、怪我の直りが結構早いみたいで」

ネプテューヌは身振り手振りで何とか元気な姿をアピールする。

しかし、テラはますます表情を曇らせる。

「――悪かった」

「……」

「俺は結局逃げてたんだ。

ちっともお前のことなんざ、考えていなかった。自分のことしか、見えてなかった……」

テラは奥歯をギリリとならす。

拳もブルブルと震え、険しい表情へと変わる。

後悔、嫌悪――様々な感情が、今、テラの中を渦巻いていた。

 

 †

 

いつも俺はそうだ。

自分コトしか考えちゃいない。

みんなのためと言いながら、結局は自分を赦したいため。

自分を守りたい、慰めたかっただけなんだ。

自分は悪くない、と言いたかっただけなんだ。

 

でも、そう思えば思うほどに俺の心は矛盾していって。

ねぷ子が傷ついたのは俺の所為。

こうやってパーティ内の関係がぎくしゃくしてるのも俺の所為。

ノワールが怒ってしまったのも俺の所為。

全部、全部――。

 

「その、テラさんは何も悪くないと思う……」

ねぷ子は遠慮がちに俺にそう告げる。

いつもは嬉々とした表情を見せる彼女ではあるが、流石に今の状況ではそんなものは望めない。

「テラさんだってどうしようもなかったコトだし、私は別に何も――」

「それなんだよ」

「え?」

ねぷ子はキョトンとした表情を見せる。

「お前は気にしてない、のかもしれない。

でも、俺の中にはお前を傷つけたっていう事実があるんだ。

それはどうしても覆せないし、俺の中から消えるコトなんて無い。紛れもない現実なんだ。俺が背負っていくべき咎なんだ」

そう、咎。

罪、罰、これは俺の責任だ。

例え誰が何といおうと、これは俺の中で永遠に忘れることの出来ない事実。

 

「少し質問してもいいです?」

ふと、コンパが口を開く。

「……なんだ?」

一体どんなことを聞かれるのか。

少しだけ恐怖する。

「テラさんは一体何なんですか?」

「……?」

「えーと、私が思ったことですけど、テラさんの『あの』姿はねぷねぷが変身した姿とそっくりだったです」

『あの』姿というのは恐らく俺が妙なモノに変身した姿のことだろう。

自身ではあまり実感はないが、回りから見れば俺とは違うもっと禍々しいものだという。

「コンパは、とどのつまりテラとねぷ子が同類かもしれないって言いたいわけ?」

「そう! そうです」

「えー、私はふつうの人間だと思うんだけど……」

「ふつうの人間は変身なんてしません」

「それって結局、ねぷねぷが変身したら性格が変わっちゃうように、テラさんも変身したら性格が変わっちゃって、すごく好戦的になっちゃうってことじゃないですか?」

……。

確かにそうだ。

意識はある。

しかし、身体は言うことを聞かない。

まるで、他の誰かに身体の主導権を奪われているような感覚。

「分からない。もしかしたらそうなのかもしれない」

「そ、そうです! だから――」

「だからこそ、俺はみんなとはいられないのかもしれない。

アレは、俺の意識の奥深くに眠るもう一つの俺の人格なんだ。

戦いを欲する、戦闘狂の俺が確かに存在している。

例え、どう解釈しようと俺自身がねぷ子を傷つけたことに変わりはないんだ」

俺の言葉にコンパは押し黙る。

少し、可哀想に思えた。

けど、これが俺の現実。

いくら、みんながその現実を否定しようと、俺にとってそれは事実だ。

否定しようがない。受け止めることしかできない。

「ふ、ふふ……」

「……? アイエフ?」

「いいわ……そこまで言うなら仕方がないわね。警察にでも突きだしてあげるわよ?」

……ちょっと待って。

顔に影が浮かんでる! 青筋が見える!!

怖い怖い!

アイエフはバンと喫茶店のテーブルを足蹴にして俺の胸ぐらに掴みかかる。

「そうよねぇ……、アンタそういう人間だもの。

そこまで罪を被りたいってんなら喜んで警察なり何なりに突きつけてやるわよ。

でもね? アンタはもう立派なパーティの一員なの。

ねぷ子が言っていたわ。『勝手に抜けるなんて許さない』って。

私もそう思うわよ。勝手に抜けたら、顔陥没するまで殴ってやるんだからね……!」

怖いよ!

声低くして言わないで! 脅しだから! 脅しだよ、それ!

しかもやりそうだよ!

 

 

パーティ。

仲間。

抜けるなんて許されない。

絶対の絆。

まったく、俺って奴は……

 

 

 

 

いい仲間を持った――。

 

 

 

 

俺の目から涙が溢れる。

「へへ……。俺が悪かった」

「分かればいいのよ」

グイ、と涙を乱暴に拭う。

もう俺は一人で背負わない。

絶対に。

みんなを見捨てたりしない。

俺はこの娘達と行くんだ、進むんだ。

スゥ、と息を吸う。

「みんな、よろしくお願いします!」

俺は高らかに告げる。

けじめ。

もう一度、俺は始めるんだ。

 

 

 

「――違うでしょ」

「あれ?」

アイエフの言葉に俺はガクリと肩を落とす。

なんか間違ったっけ?

 

――笑ってる。

みんな。

 

『おかえりなさい』

 

「あ……」

そうだ。

俺の居場所はここだったんだ。

それは変わっちゃいない。

今も、以前も――何も変わってなんかいなかったんだ。

また涙が伝う。

もう、俺は立ち止まったりしない。

例え、前が見えなかったとしても。

彼女たちとなら、きっと歩ける。

光を見いだせる。どんな暗闇の中でも、きっと――。

 

俺の帰るべき場所は、ここだったんだ……。

 

「ああ、ただいま!」

 

俺は、気の済むまで、彼女たちを、みんなを抱きしめた。

力強く、もう離さないように――。

 

 †

 

 

説明
超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第6話です
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超次元ゲイムネプテューヌ 二次創作 ご都合主義 

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