魔法少女リリカルなのはA's00〜とある日常〜(仮)−−02 フェイト・テスタロッサ−−
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「刹那」と同じ時間軸によるフェイト視点のお話です。

−−フェイト・テスタロッサ−−

 

12月初旬。日本、海鳴市内のマンション。

美しい金髪の少女が寝ている部屋に、カーテンの隙間から徐々に日の光が射しこむ。

ピピピピっと目覚まし時計が起床時刻を知らせる音が室内に響く。

「……うう」

ベッドから身を起こし、目を擦る。

少女の名は、フェイト・テスタロッサ。

市内にある私立聖祥大附属小学校に通う小学三年生。

……なのだが、フェイトは【魔法】を使うことの出来る【魔導師】である。

地球とは異なる世界の出身であり、物心が付いた頃から家庭教師から教わったため、僅か9歳でありながらその腕前は一流といっても遜色ない程である。

 

多少着崩れたパジャマを整えて、ベッドから足を下ろしてスリッパを履く。

ふと、毛布に包まれた子犬が目に映った。

穏やか寝息をたてている姿を見ると、自然と笑みが零れてくる。

ベッドからゆっくり降りて、床に膝をつけて子犬の頭を優しく撫でてから声をかける。

「アルフ、朝だよ」

「う〜〜〜……ふぇいとぉ?」

寝ぼけ眼にアルフと呼ばれた子犬が返事をする。

犬が喋れば普通は驚くところだが、フェイトにとっては当たり前のこと。

アルフはフェイトの【使い魔】である。

2年程前に死病に冒され、狼の群れからも見捨てられ瀕死の状態だったアルフを拾い、その命を助けるために契約を行った。

以後、フェイトとは主従関係であり、姉妹のように育ちフェイトを支えている。

では何故子犬の姿なのか?

地球……しかも日本で狼を飼っている人間などいないだろう。

しかも、かなり大型である。

現在住んでいるマンションはペットを飼う事を許可されているが、流石に狼はどうだろうか。

人の姿になることも出来るが、意識を集中しないと獣の耳と尻尾を隠せない。

おまけに、本来の狼の姿も人の姿も主であるフェイトの【魔力】をかなり消費し負担をかけてしまう。

それならばと、子犬の姿をとることにした。……近隣住民の視線も気にならないし。

 

「行こう、アルフ。多分、刹那は起きてるよ」

「あ〜、アイツは早起きだからね」

アルフと一緒に自室を出て、件の人物がいるであろうリビングへ向かう。

 

今、一緒に住んでいるのは自分とアルフ。そして、先ほど話題にあがった刹那の3人。

ここで暮らし始めて一週間。3人で住むには、このマンションの間取りは広すぎる、といまだに思う。

その広いリビングのソファーに、こちらに背を向けて座っているのは癖のある黒髪の少年。

背もたれに体を預け、新聞を読んでいた。

「刹那、おはよう」

その背中に声をかけると、こちらを振り向いて淡々と答えた。

「ああ。起きたか、フェイト。アルフ」

 

刹那・F・セイエイ。

春先の【ジュエルシード事件】(あの時は事件になるなんて思わなかったけど)で知り合った年上の男の子。

誰が話しかけても、いつも無表情で淡々と答える。

 

「フェイト、顔を洗って支度を整えてこい」

少し考えごとをしていたフェイトに、刹那が声をかけてきた。

「うん。わかった」

刹那に促されて洗面所へ向い顔を洗って、少し残っている眠気を飛ばす。

自室でパジャマを脱いで、クローゼットの中にある白い制服を手にとる。

冷たい空気が肌に触れて、少し身震いをしてしまうが、我慢。

制服を着て、ピンクのリボンを手に鏡の前に立つ。

いつもの髪型に整えながら、刹那と出会った時のことを思い出す。

 

初めて刹那と会ったのは、母親のために【ジュエルシード】を探している時だった。

ジュエルシードの反応があった付近へ飛んで行くと、黒髪の自分より年上であろう少年がいた。

彼の右手にはジュエルシード。

現地の人かと思い、離れた場所に降りて近づいた。

地球では【魔法】を使う人はいない。

空を飛んでいる姿を見せて、余計な警戒心や疑いを持たれないようにするためだ。

彼はジュエルシードを見つめたまま微動だにしなかった。

ジュエルシードが発動するのではないかと思ったけど、その気配は一向になかった。

暫く様子を見てから、((防護服|バリアジャケット))を解き、【バルディッシュ】を待機状態に戻して、意を決して彼に話しかけた。

「あの……」

「誰だ」

私の声に反応して、こちらを振り向いた。

癖のある黒髪に褐色の肌。

なによりも、力強い光を宿した瞳が印象的だった。

「あなたが持っているそれを……渡してくれませんか」

「これは、お前の物か?」

彼はジュエルシードを私に見せながら聞いてくる。

「はい」と言えば渡してくれたかもしれない。でも、言えなかった。

「……」

思わず首を横に振ってしまった。

「では、何故これを欲しがる」

「それは……」

「言えないのか?」

「母さんの……ためです。母さんが必要としているから」

「母さん……母親のために?」

「……」

無言で頷く私に彼は質問を続ける。

「これは一体なんだ?」

「……」

答えられない。

「お前の母親は、何故これを必要としている?」

「分かりません。でも、必要なんです」

「理由も聞かされず、お前はこれを探していたのか?」

「理由なんて、私には必要ありません。ジュエルシードを持っていけば、母さんはまた笑ってくれる。母さんが笑ってくれるなら、私はなんだってする。ジュエルシードを全部集めて、母さんにまた笑ってほしいから!」

少し気持が昂ぶってしまったみたいで、最後の方は声が大きくなってしまった。

「……」

彼は何か考え事をしているのか、暫く黙っていたが「いいだろう」と言った。

ジュエルシードが手に入ると思った。

でも……。

「だが、((コレ|・・))はやれない」

「えっ!?……で、でもさっき……」

「いい」と言ったのに「くれない」と言ったのだ、少し頭が混乱してしまった。

「((コレ|・・))はやれない。だが、お前は「全部集めて」と言った。ジュエルシードと言ったな、全部でいくつあるんだ?」

冷静ではなかったとはいえ、余計なことを言ってしまった。

でも、今さら誤魔化しようもないから素直に答えた。

「……21個です」

「ここに一つ。あと20個必要ということか」

「?」

彼が何を言いたいのか、全く分からなかった。

混乱している私に彼は言った。

「コイツを集める手伝いをしてやる」

「ええっ!?」

「人数が多い方が手早く済む」

「で、でも……」

「コイツを集めて、お前の母親に真意を問う。俺が納得できる答えを得られたのなら、その時に((コレ|・・))を渡す。それまでは、俺が預かる」

「でも……」

彼の瞳を見て反論できなくなってしまった。

さっき見たのと同じ……ううん、それ以上に強い光が宿っていた。

でも、魔法が使えない人にジュエルシードの探索は無理がある。

だから……。

「お前、【魔導師】……というものなんだろう?」

「!!」

驚いた。本当に。

彼が手伝うと言った時よりも。

私はまだ魔法を使ったところを見せていないのに。

「な、なんで……」

「……」

「あなたは一体……」

本当に、何者なんだろう。

「それは後で話す。俺の名は、刹那・F・セイエイだ」

「刹那、さん」

「呼び捨てでかまわない」

「でも……」

「さん付けで呼ばれることに慣れていない。普通にしてくれ」

「……わかり……うん、わかった。よろしく、刹那。私は、フェイト。フェイト・テスタロッサ」

「よろしく頼む。フェイト・テスタロッサ」

「私の方が年下だから、フェイトでいいです」

「わかった、フェイト」

「うん」

 

あれから、半年以上経つ。

当時、探索の拠点にしていたマンションに刹那を連れて行ったらアルフが凄く怒って、宥めるのに苦労したなぁ。

まさか、地球出身でも「平行世界の地球から来た」と言われるなんて予想外もいいところ。

支度が整ったのにも関わらず、思い出に浸ってしまったようだ。

「いけない。二人のところに行かなきゃ」

自室を出てキッチンへ向かう。

 

キッチンのテーブルには既に朝食が並べられていた。

トーストにベーコンエッグ、サラダの盛り合わせに牛乳。

少食の私にはこれでも十分な量。

いつもどおり、私は刹那の正面に座って、アルフが私の隣に座る。

「いただきます」

挨拶をして食べ始める。

静かだけど、でも3人でとる食事は幸せだと思う。

 

朝食を終えて、歯を磨くために一旦洗面所へ向かう。

リビングへ戻ると、刹那はコーヒーを飲んでいた。

何をするのでも無く、刹那から少し離れた場所にただ黙って座る。

少しのんびりとした空気に包まれていると、刹那が口を開いた。

「フェイト、そろそろ時間ではないか?」

「うん」

いつの間にか学校へ行く時間だった。

「準備はできているのか?」

「大丈夫。昨日のうちに済ませてあるから」

「そうか」

 

鞄とコートを取りに自室へ。

学校指定の薄い茶色のコートを羽織って、鞄を手に玄関へ向かう。

「刹那、アルフ。行ってきます」

「いってらっしゃい。フェイト」

「気をつけてな」

笑顔で答えてくれるアルフとは対照的に刹那は無表情だった。

義務的に刹那は言っているのか。それとも、真意で気にかけてくれているのかは、表情から読み取ることはできないけれど、声を掛けてくれるだけでも嬉しかった。

そんなことを考えながら、待ち合わせの場所へ小走りで向かう。

 

待ち合わせの場所は、とある民家の前。

「あ、フェイトちゃん!おはよ〜!」

「おはよう、なのは」

元気に挨拶をしてくれたのは、クラスメートで大切な友達の一人。高町なのは。

「寒くなってきたね〜」

「そうだね」

そんなことを話しながら一緒に通学路を歩く。

 

高町なのは。

刹那と出会って、暫くしてから森の中で出会った。

白い服を着た女の子。

なのはもジュエルシードを集めていた。

なのはは「どうして集めているのか」「お話がしたい」「名前を聞かせて」と会うたびに言っていた。

母さんのために。と頑なにしていた心が何度も揺さぶられた。

何度も戦って……最後は負けた。

事件が終わってもう一度会った時、なのはは本当に嬉しそうにしていた。

なのはが言った言葉「友達になりたいんだ」

その言葉に答えるために会いにきた。

でも、今まで友達なんていなかった。

だから、どうしたら友達になれるのか分からなかった。

そんな私に、なのは言った。

「名前を呼んで、最初はそれだけでいいの」

「な……のは」

「うん」

「なのは……」

「うん!」

なのはの名前を呼んだのは、この時が初めてだった。

 

通学路を歩いていると後ろから声をかけられた。

「おはよう。なのは、フェイト」

「なのはちゃん、フェイトちゃん。おはよー」

振り向くと、やや茶色がかった金髪の少女と長い紫の髪の少女が立っていた。

「アリサちゃん、すずかちゃん。おはよー!」

「おはよう。アリサ、すずか」

アリサとすずかだった。

なのはの友達で、今ではフェイトの友達でもある。

なのはとのビデオメールのやり取りで知り合って、先週こちらに来た時に初めて会う事ができた。

とても緊張したが、ビデオメールのおかげで直ぐに仲良くなることができた。

TV番組やゲーム、学校の事。取り留めのない話をしているうちに学校に着いていた。

4人揃って学校へ登校する。もう、ごく当たり前なことになっていた。

 

朝の((HR|ホームルーム))が終わって授業が始まる。

今日は土曜日なので3時限目……午前で終わるのだが……。

1時限目……社会。

2時限目……算数。

3時限目……国語。

フェイトにとっては、結構辛い時間割である。

海外から来た、ということになっているが異世界出身のフェイトにとっては、地球の歴史を一から覚えなければならい。国語の漢字も然り。

 

帰りのHRが終わって、下校の準備をしながらなのはと話をしていたら、アリサが話かけてきた。

「ねぇ、すずかと話をしたんだけど。このあと((翠屋|みどりや))に行かない?」

「え?」

「別にいいよ」

「フェイトちゃんも一緒に行こう?」

「あ、うん。」

ちょっと、返答に困ったのは翠屋では刹那がアルバイトとして働いていることを知っているからだ。

困ったりしないだろうか……。

「決まりね。さ、早く行きましょ!」

フェイトの不安を余所に、鞄を持って教室を出ていくアリサを慌てて追いかける。

 

翠屋は駅前商店街にある喫茶店。

なのはの両親が経営していて、忙しい時期はなのはも時々手伝っているそうだ。

4人で来るのは2回目。この前は、こちらに来た直後の時だ。

「お父さん、お母さん。ただいま!」

「こ、こんにちは。お邪魔します」

「「お邪魔します」」

「おかえり、なのは。フェイトちゃん達もいらっしゃい」

なのはのお母さん。桃子さんが笑顔で出迎えてくれた。

店内を見渡すと、白いシャツの上に黒いエプロンを身に着けた刹那がいた。

「えへへ。あ、こんにちは。刹那君」

「こんにちは、刹那さん」

「お仕事、お疲れさまです」

「お疲れさま……刹那」

なのは達が刹那に声をかける。

「ああ」

相変わらず淡々とした刹那に、アリサとすずかは苦笑いをしていた。

刹那の態度に慣れているのか、なのはは「にゃはは」と笑っていた。

そんな様子を見ていると、桃子さんが話かけてきた。

「なのは、奥にお昼の用意をしてあるから。食べていきなさい。フェイトちゃん達もどうぞ」

「うん、わかった」

「え、いいんですか?」

「もちろん!」

「それなら、お言葉に甘えます。あっ、アルフに連絡しなきゃ」

制服のポケットから携帯電話を取り出す。

保護責任者のリンディ提督が買ってくれたものだ。

バルディッシュを連想させる黒色。

携帯を操作してアルフにお昼は食べて帰ることを伝える。

アリサとすずかも家に電話をしているようだ。

携帯をポケットしまって、なのは達のところへ行くと、エプロンを外した刹那が近づいてきた。

「刹那も一緒に食べるの?」

「ああ。食事を済ませてくるように言われた。すまないが、同席させてもらう」

 

「刹那君と一緒のお食事は、久しぶりだね」

なのはがニコニコしながら、刹那の方を振り返って話しかけている。

「そうだな」と刹那は短く答えていた。

「私たちは初めてね。ね、すずか」

「うん」

 

奥の間は畳になっていて、丸いテーブルを5人で囲んで昼食をとる。

時計回りに刹那、なのは、すずか、アリサ、私の順で座った。

なのはとアリサが良く喋って、すずかも時折会話に交じっていた。

刹那はごく稀に相槌をついていたけど、アリサはいささか不満そうだった。

 

昼食を終えて刹那は仕事に戻り、私達はなのはの家で遊ぶことになり翠屋をあとにした。

 

なのはの家で遊ぶ……と言ってもトランプをしたり、おしゃべりをしたりくらい。

ただ……。

「そういえば。なのはもだけど、フェイトはいつ刹那さんと知り合ったの?」

唐突にアリサが聞いてきた。

「え?」

「今、一緒に住んでるんでしょ?兄妹じゃないし」

「あ、私も聞きたい」

すずかも興味津々だ。

「え〜と……初めて会ったのは今年の春頃」

「え!?まだ、1年経ってないの?」

「う、うん」

「なのはは?」

「私も同じ頃だよ。初めて会った時、フェイトちゃんと一緒にいたんだよ」

「それなら、フェイトを紹介してくれた時にどうして教えてくれなかったのよ。初めて会った時、なのはもフェイトも親しそうに話してるんだもん。びっくりしたわよ」

「ビデオメールには一度も映っていなかったよね」

「おまけに、なのはは『刹那君』。フェイトは呼び捨てだし」

実は、刹那はビデオメールに映っていないわけではない。

((なのはのみ|・・・・・))が観るビデオメールには映っているのだ。

ビデオメールは二種類あり、なのはのみが観るものとなのはとその友達が観るもの。

すずかの言うビデオメールは後者のことであり、そちらには映っていないからだ。

「まぁいいわ。次の質問ね」

「まだ聞くの?」

「当たり前でしょ!で、どんな出会いだったの?まずは、フェイトから」

人差し指で、ビシッと指しながら聞いてくる。

「そ、それは……」

い、言えない。ジュエルシードを探している時に……なんて。

「……え〜と」

う、どうしよう。

「なのはは?」

「ふえ!?わ、私?」

「そ」

「え〜と……え〜と」

「……はぁ、わかったわ」

あれ?アリサがなんか一人で納得してる?

「わかったって、なにが?」

「二人とも刹那さんとの出会いは、心の中に大切にしまっておきたいってことね」

「「っ!?」」

アリサ〜〜〜!!?

「ちょっ……アリサ。何言ってるの!?」

「そ、そうだよ!」

「はいはい」

「いいな〜。二人とも」

すずかまで!?

「あ、私達そろそろ習い事に行く時間だわ」

「本当だ」

「じゃあね。なのは、フェイト」

「ばいばい。またね」

「ま、待ってなの。アリサちゃん、すずかちゃん」

「アリサ、すずか。私達は……帰っちゃった」

「あう」

……何とも言えない、気恥ずかしい空気になってしまった。

 

アリサとずずかが帰ったあと、なのはと少しおしゃべりしてアルフが待つマンションへ帰る。

「ただいま」

「おかえり、フェイト」

「ごめんね。お昼一緒に食べられなくて」

「別にいいよ。リンディ提督達と一緒に食べたし」

「そっか」

そんな事を話ながら自室へ行って、鞄をおいてコートと制服を脱ぐ。

薄い黄色のインナーの上に黒の長袖、白のスカート。

着替えを済ませ、学校の宿題を始める。

漢字や歴史が苦手(というより知らなかった、が正確だが)のため、他の生徒より量が多い。

 

宿題を終えて、リビングのソファーでアルフと一緒にのんびりしていると、玄関のドアが開く音がした。

「戻った」

刹那がアルバイトから帰ってきたのだ。

「おかえり、刹那」

「おかえり〜」

マフラーを外し、適当にソファーへ置く。

「行くぞ」

「うん」

「はいよ」

行先は、((1階|ワンフロア))上に住んでいる。リンディ提督達のところ。

 

ベルを鳴らすと

『はいは〜い』

と、エイミィの声がインターフォンから聞こえてきた。

「こんばんは。エイミィ」

「三人ともいらっしゃい。待ってたよ」

「やっ!」

「失礼する」

「どうぞ、どうぞ」

いつもどおり、エイミィに招き入れられた。

 

リビングへ向かうとリンディ提督とクロノがソファーに座って待っていた。

「こんばんは。フェイトさん」

「こんばんは。リンディて……リンディさん」

言い直した私に、リンディ提督はクスリと笑った。

 

リンディ・ハラオウン。

私の保護責任者。とっても優しい人。

身寄りのない私を「養子として迎え入れたい」と言ってくれた。

とても嬉しいけれど……母さんのことで、まだ自分の心の整理がつかない。

私は、母さんの娘だから。

でも、答えを出すのにそんなに時間はかけない。

もう少し、待っていてください。

 

「いらっしゃい。フェイト、アルフ、刹那」

「お、クロノ」

「ああ」

クロノがソファーから立ち上がって刹那達に声をかける。

「今日は、お鍋だよ!」

エイミィがキッチンのテーブルに少し大きな土鍋を置きながら、皆に声をかける。

鍋には、肉や豆腐、野菜など色々入っている。

「日本の冬といえば、お鍋なんだって〜」

エイミィの呼びかけに、皆テーブルに集まる。

 

温かいお鍋を皆で食べるのは、楽しくて心も温まる。

食事を終えて、今起きている事件の話になる。

ここからはお仕事。

最近地球を中心に魔導師が襲われる事件が多発している件で、((古代遺失物|ロストロギア))【闇の書】について。

つい先日、なのはが襲われた。

赤い服の勝気な少女。

アルフ同様の獣の耳と尻尾を持った男。

そして、『シグナム』と名乗った女性剣士。

……強かった。

鋭い剣戟にスピード。

自分もスピードにはそこそこ自信があるけど、シグナムのスピードもかなり早い。

なにより、剣から薬莢みたいな物が出た直後は、威力が格段に上がった。

【カートリッジシステム】。

弾丸に魔力を込めておき、それを使用することで一時的に自身の魔力を引き上げるものだと、クロノが説明してくれた。

結界に閉じ込められて、追いつめられていく私達のために、なのはは無理をして結界破壊の魔法を放とうとした瞬間、【リンカーコア】から魔力を蒐集されてしまった。

直ぐになのはの元に行こうとしたけど、シグナムに阻まれて助けに行くことが出来なかった。

闇の書は魔力を蒐集して、魔力の資質によってページが埋まっていく。

666ページ埋まると、闇の書は完成するらしい。

何のために蒐集しているかは、不明。

闇の書の魔力蒐集は一人につき一度きり。

またなのはが襲われる可能性は低いけれど、なのはの護衛は継続。

バルディッシュが修復中だから、無理はできないけれど、今度はなのはを絶対に護るよ。

午後9時を回ったことで、今日はお開き。

 

「……」

「ただいま」

私は【ここ】に帰ってくると、必ず言うことにしている。

【ここ】が私の帰る場所だから。

でも、刹那は一度も言ったことがない。

まるで【ここ】が帰る場所じゃないみたいに。

 

確かに、刹那はいずれ元の世界へ帰るのかもしれない。

それでも、今の刹那の帰る場所は【ここ】だから。

だから……。

 

「ただいま」

 

いつかは、言ってほしい。

 

母さんに笑ってほしいから。

そのために、言われるままに動いていた私。

あの時と同じ気持ち。

刹那に笑ってほしい。

でも、あの時と違う。

ゆっくりと刹那を変えてみせるよ。

私が……ううん、((私達|・・))が。

 

フェイト・テスタロッサの一日。

全てを断ち切る光は、未来を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていろ。お前の不安、俺が取り除いてやる」

そう言うなり、踵を返してブリッジを出て行こうとする刹那。

「パパ?」

「刹那君!?」

「刹那!」

声をかけるが、刹那の歩みが止まることはなかった。

「ダブルオーライザー、刹那・F・セイエイ。【ゆりかご】を破壊する!!」

バリアジャケットを身に纏った刹那が、【アースラ】から飛び出て【ゆりかご】へ向かって行く。

私達は、それをただ見ていることしか出来なかった。

説明
魔法少女の世界へ飛ばされた、ガンダムマイスター刹那・F・セイエイと魔法少女達のとある一日。魔法少女リリカルなのはA'sと機動戦士ガンダム00のクロスオーバー作品……などという大それたものではなく、物書き未経験の素人による処女作で駄文です。読みづらい、誤字脱字等の至らないところが多々あると思います。作者の原作知識は、それほど高くありません。また、オリジナル設定が含まれておりますので、原作を大切にされている方はご注意ください。コメント欄にはご自由にお書きください。
注)本小説は、某サイトにて投稿していたものを移したものです。
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