レッド・メモリアル Ep#.21「中枢」-1
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γ0080年5月11日

5:18 P.M.

 

 一機の黒塗りのヘリが北の海の上を飛んでいく。極寒に覆われたこの北の地には沿岸部に街もほとんどなく、船が航行する事も少ない。世界の果てであるかのような場所を飛んでいくヘリには10名ほどの人間が乗っていた。

 パイロットはベロボグの部下。そして彼の部下で黒服にサングラスをかけた者達もそのヘリに乗っていた。

 ほかにも数人の防寒着を着た人間がこのヘリには乗せられていた。彼らは客だ。ベロボグの客であり、彼の元へと向かうために、このヘリに乗るため、世界各地からやって来た者達である。

「もう10分ほどで到着する」

 ヘリの飛行音が聞こえる中、黒服の男がそのように声をかけた。

 このヘリに乗っている者達は、ベロボグの呼びかけによって集められた者達ばかりだった。

 それは全世界によって放たれた演説だった。その演説の為に、この場所に集結した。だがベロボグは具体的に集結の場所を定めてはいなかった。

「了解した。こちらはもう10分ほどでそちらに到着する」

 ベロボグの部下の一人であるジェイコブはそのように言い、本部との連絡を図った。ここは誰にも知られていないところにある。どの国の軍のレーダーにも見つけられることは無く、そして未だかつて誰にも知られていなかった場所。海上にある一点の孤島を誰も見つけられるわけがない。

 誰にも知られてはならない。この事に関して、ベロボグの配下の者達は慎重だった。この計画の最後を飾るために、この場所を誰にも知られてはならないのだ。

「まだ着かないのか?」

 そのように言葉を発したのは、ストラムと名乗った、顔に火傷を負って姿の分からない男だった。ジェイコブ達はこの男を警戒していた。このストラムと言う男は、なぜか自分達の聖域を知っている。それは警戒しなければならない事だった。

 今まで誰にも知られていなかった場所が外部へと漏れ出している。これは警戒しなければならない。

 ストラムからは少しも目を離さぬようにと言う、ベロボグからの命令が下っていた。

「もう着く。そこに座っていろ。だが、その場に到着したとしても、お前はすぐに拘束される。何にせよ、お前は我々の事を知りすぎているのだからな」

 ジェイコブは警戒心も露わにストラムにそう言った。

「ふふ。そのくらい承知の上で」

 そのように答えたストラムはどこか不気味だった。

 ジェイコブはヘリの窓から外をみやる。もう少しだ。雪の降る重たい雲に包まれた極寒の海の向こうにそれが見えてくる。

 

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エレメント・ポイント 北緯68度22分 東経15度36分

 

 『エレメント・ポイント』と名付けられたその場所は、極寒の海の上に浮かぶ、石油採掘基地と灯台とを組み合わせたような姿をした施設だった。青白い海の上に、赤い色の塔が立っている。

 一見すれば、それはあたかも、モニュメントであるかのように見えるだろう。鉄骨と無機的な物質によってくみ上げられた海の上に建造されたモニュメント。少し旧時代的な姿をしているのは、これが建造されたのが20年以上前に遡るためだ。

「ヘリが到着します」

 そのようにこの施設の中枢部にいるオペレーターの一人が言ってきた。ベロボグはその場に座ったまま、外に設置された監視カメラからの映像を、光学画面で見ている。建造されたのは大分昔だが、施設の中心部にあるコンピュータは全て最新式の物が入れられていた。

「ああ、分かった」

 一か月前、病気を乗り越えた時よりも、かなりしわがれた声でベロボグは答える。

 だが、ベロボグにとって、この『エレメント・ポイント』の施設は、命にも代えられる財産の一つだった。ここには彼が人生を賭して築き上げてきたもの達が詰まっている。

 そして今ヘリで到着したのは、彼がもう一つ、この世界に残した財産だった。

「お父様。そのお体では、外気に当たるのは毒です」

 シャーリがベロボグの体を気遣う。ベロボグの体は崩れかかっており、すでに自力では歩くことができないほどだった。彼は自動式の車椅子に座っている程である。もちろん、氷点下である外気に触れるのは、彼の肉体に大きなダメージを与える。

「いいや、私は見届けねばならぬのだ、シャーリ。この世に残した財産が到着したのを、この目で確認したい」

 ベロボグはそう言って、車椅子を自分で動かそうとしたが、すぐにシャーリが背後から車椅子を操作し出した。

「すまんな」

 自分には愛する娘がいる。彼女は、いきすぎてはいるが自分を愛してくれている。彼女もベロボグにとって、欠かすことができない財産の一人だった。

「私はもう、一生お父様の傍を離れません」

 切なる口調でそのように言って来るシャーリがいる。だが彼女の愛情というのは、やはりベロボグにとっても行き過ぎだった。

 車椅子は通路を幾つも抜け、やがて肌寒い外気が入り込んでくるエリアへと出た。ベロボグは防寒着を着せられ、何とかその寒さをしのぐ。だが、防寒着くらいで全ての寒さがしのげるほど、この地方の寒さは甘いものではなかった。

 突き刺すような寒さに耐えながら、ベロボグは車椅子を進めた。苦痛ではあったが、彼はそれを受け入れる。何しろこのような体になってしまったのは、自らの責任だからだ。

 やがてヘリが到着するヘリポートへとやって来た。北風が吹きつけており、まるで氷河の上にいるかのようなヘリポートだった。だんだんと嵐が近づいているらしい。この施設は嵐程度で解体するようなものではなかったが、ヘリが着陸できない事態にはなって欲しくないものだった。

 やがて一機のヘリが着陸してくる。定員が10人以上はあるヘリであり、すでにその中には定員一杯の者達が乗っている事をベロボグは知っていた。

 やがて部下達に導かれ、ヘリが着陸してくる。ベロボグはヘリによって巻き起こされる風圧に耐えながらもヘリの到着を待つ。

「お待たせしました、ベロボグ様」

 ヘリの中から現れた自分の部下の一人に、そのようにベロボグは言われるのだった。

「ああ、分かっているよ。早く顔を見たいところだがね」

 そのようにベロボグは答える。できる事ならば、もっと温かい所で彼らを迎えたいところだったが、まずは自分に顔通しをさせたいものだった。

 ヘリの扉が開かれ、その中から数人の者達が自分の部下によって導かれ姿を見せる。皆が防寒具に身を包んでいるが、年頃は大体、10代から20代の者達であるという事が分かった。ベロボグは知っている。彼らが何に導かれてここに来たかという事をも。

 その中で異彩を放っているのが、防寒具のフードを目深く被った男だった。彼はその年齢さえも分からないほどに酷い火傷を負っている事が分かった。しかしながら、明らかに醸し出している雰囲気は20代の者達のものではない。

 若者ではない男。ベロボグは彼が部下のジェイコブに後ろを固められてこちらに近づいてきているのを見つめ、彼自身も警戒を強めていた。

 だがやがて、ベロボグはそこにやって来た若者達の前に車椅子を移動させた。

 男女の若者たちは、本当に若い者は10代の年端もいかぬ者もいる。人種も様々な者達がいた。彼らはベロボグの姿も見て、戸惑い、または、嫌悪さえ感じているものもいるようだった。

 しかしそれは無理もないだろう。彼らが知っているベロボグは、健康な時のものであり、今の死に瀕したベロボグの姿ではない。

 だがベロボグはやって来た若者達に向けて言うのだった。

「遠路はるばる、よくぞやって来てくれた。私の息子達、そして娘達よ」

 そしてベロボグは、その顔に恍惚たる笑みを浮かべるのだった。

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WNUAボルベルブイリ情報本部

5月12日 8:13A.M.

 

 アリエルの『レッド・メモリアル』を起動させるテストが行われた翌日。リー・トルーマンはずっとこの《ボルベルブイリ》にある情報本部に詰めていた訳だが、その地下施設にあるある場所へと向かうのだった。

 様々な、ガラクタにしか見えないような電子機器が置かれた部屋に、髪の長い女が突っ伏したかのように机の上で眠っていた。その机には、蓋が開かれ、電子回路がむき出しになったコンピュータデッキが置かれている。

 リーはため息をつき、彼女の肩を叩くのだった。

「おい。ちゃんとしたところで寝たらどうだ?」

 するとその女、フェイリン・シャオランははっとしたように顔を上げるのだった。フェイリンはきょろきょろとその場を見回した後、急いでその場のテーブルに置かれていた眼鏡を手に取るのだった。

「ああ、ええっと、わたし、どこまでやっていましたっけ」

 そう言って彼女は自分が今まで手をつけていた、コンピュータデッキの中を覗き込んだ。彼女は昨日からずっと、オーバーヒートしたその『レッド・メモリアル』読み取り装置のコンピュータの修理中だったのだ。

「壊れてしまったものは、もうそれ以上、どうしようもないだろう?それに、必要な情報ならばすでに手に入った」

 リーは彼女にそう言う。だがフェイリンはかけた眼鏡を直しながら、

「でも、これが必要になる時が必ず来ますよ」

 彼女はそのように言うのだが、リーは首を振るばかりだった。

「あの親子への協力はもう求める事はできないだろう。だが我々はベロボグにつながるための重要な手がかりを掴むことができた。君のお陰もあってな」

 そのようにリーは言う。フェイリンが、あの『レッド・メモリアル』の読み取り装置を作り出さなかったら、アリエルからベロボグの情報を引き出すことはできなかったのだ。

「そうだったとしても、もうセリアは戻ってきませんよ。あの子のお母さんが戻ってくる事はありません」

 フェイリンが独り言のように言った。

「我々に協力する事で、セリアの命に報いる事ができると、そう考えているのか?」

 フェイリンに尋ねるリー。

「さあ、どうでしょうね。でも、そんな事を聴きにここに来たわけではないでしょう?あなたは」

 寝起きの割には鋭く指摘してくるフェイリン。もちろんリーとしても、ただフェイリンの様子を見に来たわけではない。

「我々の組織には、君のような情報技術者が必要なものでね。この危機が去るまでの協力を求めたい。君は軍の情報部で働いていた事もあるんだろう?だから、セリアに協力を頼まれてここまで来た」

 とリーが言っても、フェイリンは顔に影を落としたままだった。

「ええ、そうですね。でも、それがいつの間にかこんな事になっちゃって…」

「誰もこんな展開を予想していなかった。だからこそ、今では皆が協力し合わなければならない状況になっている。君に協力を頼めるか?」

 リーはフェイリンに顔を近づけた。するとフェイリンは彼から身を引いて答える。

「言っておきますけれどもね、わたしはフリーランスです。だから、無償での仕事は決してしませんよ。セリアのためとは言っても、報酬はきちんと貰います」

 そのような申し出だ。だがリーはフェイリンがそのように言って来ることくらいすでに予想はついていた。

「ああ、もちろんだ。私の方からきちんと連絡を入れておくよ」

 それを聞いてフェイリンは一つため息をついたようだった。

「早速だが、まもなくベロボグの本拠地が判明した事によって、作戦会議が開かれる事になった。今度こそ奴を逃さないようにとな。我々と共に働くからには、その会議に参加してもらうよ」

 と言って、リーはフェイリンを、ずっとこもっていた部屋から出させるのだった。

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 対策本部は、情報本部の地下大会議室に設けられていた。ここでも、かつては『ジュール連邦』の様々な機密情報がやり取りされ、決定が下されてきた場所なのだろう。『WNUA』がこの地を制圧してからは彼らのものとなり、すでに最新式の機材などがこの場所に設けられていた。

「『レッド・メモリアル』という装置から判明した、ベロボグ・チェルノの居所の一つと思われる場所は、北緯68度22分 東経15度36分。この《ボルベルブイリ》から800km離れた北海の海上の地点を示しています。

 この場所は冬は雪に閉ざされ、船舶の往来も無い場所。そして公海に位置している場所であり、この地に何らかの施設があると言う事は今まで誰にも知られてきませんでした」

 そのように会議室に集まった面々に話しているのは、『WNUA』連合軍の諜報部長の一人だった。

 アリエルの頭の中に埋まっていた『レッド・メモリアル』。そして彼女の意志によってプリントアウトされた数枚の書類は分析され、すでに『WNUA』軍の所有する情報の一つとなっている。

 その情報たちが示しているものは、ベロボグ・チェルノの存在と、ある場所を示しているものだった。

「そこは、20年来、私達組織も隠蔽してきた場所だ。とはいっても、すでに20年前に放棄した場所と言った方が正しいがね」

 口を挟んだのはタカフミだった。もはや組織と呼ばれる者達も、この場できちんとした発言権を持つことができるようになっている。どうやらその事を軍の連中などは気に食わない様子だった。

 しかしながら、組織の者達の方がずっとベロボグには詳しい。何しろ彼とかつて働いていたのだから。

「20年前に破棄をした場所とは具体的にどのような所だね?」

 そう言ってきたのは、光学画面越しに繋がっている『タレス公国』の《プロタゴラス》だった。そこからはカリスト大統領や彼の側近ら、そして、『WNUA』加盟国の者達の姿も見られる。

「簡単に言うと、それは代替エネルギーに関する事でしてね」

 タカフミはそう言うなり、自分の手元にある資料を、その場の光学スライドへと流すのだった。彼が流したスライドには赤く建つ灯台などの姿が描かれており、それはどこかの海の上へと立っていた。

「このような、旧時代の石油採掘基地のような建物が、代替エネルギーに関する事だと?もう10世代は前の代物だ」

 《プロタゴラス》にいる大統領の軍部顧問が言った。

「ベロボグがこんなものを狙っていると?まさかこの期に及んで、石油の覇権を狙っているなどとでも言うつもりかね?」

 連合軍の諜報部長が言った。しかしながらそれについてはリーが答えた。

「それは、石油採掘基地を再利用して建てられた、新たなエネルギー資源の採掘基地になっているのです。と言っても20年前に我々はすでに諦めましたが、『ゼロ』危機については、この世界に住んでいれば皆が良くご存じな事でしょう」

 リーの放った意外な言葉にその場にいるもの皆が彼に注目した。

「20年前というと、あの『ゼロ』危機が関わってきていると言うのかね?」

 一人がテーブルに身を乗り出してくる。

 『ゼロ』危機とは、一人の過剰な人体実験により、恐ろしいまでの『能力』を持つに至った男により、二つの国が壊滅状態にまで追い込まれた、人類の文明史上最大の災害だ。

 無限にエネルギーを吸収し、それを解放する事ができるという『能力者』『ゼロ』によって、核爆弾の数倍のエネルギーを持つと言う破壊が2度に渡って世界を襲った。当時経済の中心であった『ユリウス帝国』の首都と、『NK』という二つの国が大幅に国力を失ってしまったのである。その被害者の数は数千万人とも言われており、それは戦争に匹敵する人類史上最悪の被害だった。

「そこにいる、タカフミ・ワタナベ氏は、当時の『ゼロ』危機を打破するための最後の作戦に臨んだ人物の一人。そして、彼自身も『ゼロ』についてはよくご存じだ」

 リーはそう言ってタカフミを指し示した。

 するとタカフミは一呼吸を置いてその場にいる者達に話し始めた。

「今、私が所属している『組織』は、『NK』を発祥としている。そしてあの『ゼロ』を生み出したのも我々『組織』だ。しかしながら、あの危機を経験した上で、私が危機の後に『組織』に入り、そして再編した。今度は二度とあのような危機を生み出さない事を目的としてね。

 当時、東側諸国でチェルノ財団を運営していたベロボグも、組織に入った。だが、彼はどうやらその『ゼロ』の強大な力に興味を示していたらしい」

 タカフミのその言葉にその場にいる者達が聞き入った。それには、光学画面越しにいる『WNUA』側の人間達も聞き入っていた。

 やがて口を開いたのは画面越しに通信しているカリスト大統領だった。

「では、その『ゼロ』というものはまだ存在していると?」

 彼の言葉が『ジュール連邦』側にいる者達に響き渡る。一国の大統領の威厳ある言葉が放たれていた。

 そんな中、タカフミは落ち着いて答えていた。あたかも、そんな事など慣れきっているかのように。

「いや、『ゼロ』は消滅した。しかしながら、奴が残したエネルギーが、この星の地中深くに眠っていて、それが不活性なまままだ地球上に、あたかも鉱脈のように流れているという事がその後の調査で分かった。

 もしそれを手に入れることができれば、今ある代替エネルギーなど目じゃあない。無限のエネルギーを手に入れることができる」

 そう言ってタカフミはあるデータを見せた。それは立体の光学画面に映し出され、これは『ジュール連邦側』にも『WNUA側』にも表示された。

 それは世界地図の表示となっており、そこにあたかも天気図であるかのような、グラデーション模様が表示されると言う映像だった。

 どうやらそれが、タカフミの言うエネルギーというものを表示しているという事は明らかであるようだった。

「この表示の具体的な意味は専門家なら分かると思う」

 タカフミハそう言って自分の言葉を省略するのだった。

「では、ベロボグはその無限のエネルギーを狙っていると?」

 そう答えてきたのは、『タレス公国』の大統領付き軍事補佐官だった。

「本来はそれを我々が管理するつもりでいた。だからこの施設、『エレメント・ポイント』を建設して、エネルギーの鉱脈を探った。しかしながら、数年かかってもかかるのはコストだけで、そのような鉱脈が見つからなかったので計画は中止。のはずだった。

 ベロボグは医療専門だったから、この『エレメント・ポイント』での出来事は知らないと思っていた。だがまさか奴がここに興味を示していたとは、私達も知らなかった。20年前の計画なんて、軍だって骨董品にしてしまうだろう。私達の研究や開発はもっと早い。だから『エレメント・ポイント』など資料の上でしか知らなかったさ」

「その話の信憑性は?」

 誰かがそのように尋ねた。

 タカフミの言っている事は、今まで誰も知らなかったような事だ。そんな事が現実に存在して、しかもそれを世界で最も有名に、そして脅威となったテロリストが狙っている。そんな事を誰が信じるのか。

「わたしが見せたデータを専門家に分析させれば、ベロボグが本気だと言う事が分かるだろう。しかしながら、そんな金塊の鉱脈のようなものは、もはや存在しないと私は思っていたのだがね」

 タカフミはそう言った。

 『ジュール連邦』側にいる人間も、『WNUA』側にいる人間達も、お互いが顔を見合わせる。やはりタカフミの言った言葉にどうしても信憑性を感じることができないせいだろう。あまりにも彼のいった事は突飛すぎる。

 少しの後、『タレス公国』のカリスト大統領が画面に向き直り、タカフミに尋ねてきた。

「ベロボグ・チェルノがそれを手に入れると、具体的にどのような危険性があるのか、説明してもらいたいが」

 そう尋ねられるとタカフミは、

「ベロボグの存在は、すでにあなた方の脅威となっているだろう?奴は一つの王国を建てるつもりでいるくらいだ。そんな奴が、巨大なエネルギーを手に入れたらどうなると思う?奴は世界を手中に収める事さえできるようになる。

 ベロボグは自分のしている事は正義だと言うが、脅威になる事には間違いない。あのエネルギーはそもそも…」

 タカフミは一端そこで言葉を切った。そしてまるで何かを思い出したかのようにして言葉を出す。

「そもそも、この世界に存在しちゃあいけないものなんだ」

 彼の言った言葉はあたかも独り言であるかのようだったが、その言葉はこの場と通信している者達皆に聞こえていた。

 そしてカリスト大統領が結論を出そうとする。

「ワタナベ氏。あなたが送ってくれたデータについては検討しよう。そして、ベロボグ・チェルノの所在は分かった。彼は戦争さえも引き起こしたテロリストであるという事は、我々としても認識している。

 あなたの言う、その『エレメント・ポイント』という場所を偵察させ、もしそこにベロボグ・チェルノの所在が確かめられれば、即座に彼の組織もろとも破壊する準備は我々にもできている」

 大統領の言ってきた事は最もであった。東側の国を制圧する事はできたとはいえ、『ジュール連邦』側との戦争はいまだに続いており、世界的な混乱は続いたままだ。だがここで、ベロボグという新たな勢力が大きな力をつけたとしたら、世界はさらなる混乱に陥り、出口の見えない世界戦争が続くことは明らかだろう。

 組織の理念からして、そんな事には決してなってはならないのだ。

「ああ、だができる限り早くした方がいい。ベロボグの奴も、急いでその力を手に入れたいだろうからな」

 タカフミは影を残すかのようにその言葉を言っていた。

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 ベロボグ・チェルノに対しての攻撃を進めるか否か、その会議が終わったのちで、リーは再びアリエルと出会うために彼女のいる部屋へと向かっていた。

 まだ彼女の保護観察は続いている。実際にアリエルが『レッド・メモリアル』と呼ばれるものを体内に有していることが確信のあるものとして分かった以上、ベロボグ・チェルノとその配下の者達が、新たに襲撃をしてくる可能性も高い。アリエルの居所もトップシークレットとして扱われている。

 部屋の中に入ると、アリエルは、どうやら身支度を始めているようだった。養母であるミッシェルも同様だった。

「ああ、すまないが…」

 リーは部屋の中に入るなりそう言いかけたが、ちらりとこちらを見たミッシェルが言って来る。

「ここを移る事になったわ。もうわたし達に用事は無いでしょう?だからもう、こんな所とはおさらばして、証人保護プログラムを受ける事になったわ」

「そうか」

 リーはミッシェルの言葉にそう答えるばかりだった。実際、リーには彼女らを止める事はできない。アリエル達が証人保護プログラムを受けるという事は知らされていなかった。

 組織は、法律には介入できない。アリエル達は、もうリーから離れたところへと行ってしまうのだろう。『ジュール連邦』を離れる事になり、『WNUA』にでも行くのだろうか。

 確かに、ベロボグの居所を掴んだ今では、アリエル達はもうこれ以上関わらない方が身のためだ。リーもそう思っていた。

 だがアリエルは、どうした事か、リーの方をちらちらと伺うように見ていた。まるで何かを話したくて仕方がないようである。

 リーはこの場を去ろうと思ったが、アリエルは突然リーの方へとやってきて、彼の腕を掴むのだった。

「あの…、私が、これ以上何か、助けられる事はありますか?」

 そのように、わざわざ彼女の母国語ではないタレス語を使って、アリエルは言ってきた。

「アリエル」

 そう言ったのはミッシェルだった。

 リーはアリエルの目を見て言うのだった。

「君はこれ以上関わらない方がいい。もうこれは我々の問題だ。ベロボグは世界で最大のテロリストとなっているし、戦争も続いている。君達は関わらない方がいい。お母さんと一緒に、どこか遠い国で平和に暮らすんだ。世界で起こっている出来事も、そこでは君にもお母さんにも関係がないはずだ」

「私の本当のお母さんは、私の見ている目の前で死にました」

 アリエルはリーの言葉を遮るかのようにそう言ってきた。

 確かにその現実はリーも知っている。何しろあの場には共にいたのだから。リーが助け出さなければアリエルも死ぬところだった。

「あれを、現実じゃあなかった事だなんて、思い込んで生きていく事なんて、できると思いますか?」

「そうは言っていない。セリアの事は気の毒に思うが…」

 リーはそう言いかけるが、

「アリエル。もうその人とは関わらないようにしなさい!」

 ミッシェルは言い放ち、アリエルとリーの間に割り込んできた。そしてリーの事はそっちのけで、アリエルに目線を合わせて言うのだった。

「駄目よ、駄目よ、アリエル。その人とかかわっては駄目。あなたの本当のお母さんは確かに死んだ。でも、その過去を変える事なんてできない。例えあなたが、ベロボグ・チェルノに何とかする事ができたとしても、その過去は決して変えられない。だから、今はこれからを生きるの。これからの事だったら、幾らでもあなたが選ぶことができるでしょう?」

 ミッシェルはそう言うのだった。だがアリエルはミッシェルの言葉をそのまま返すのだった。

「ええ、変えることができるよ、お母さん。私は、今まで本当の自分を知らないで生きてきた。だからこそ、私はその現実に向き合わなければならないと思う。どこか他の遠いところってどこ?

 私達はこれから、私の本当の父に怯えながら生きていかなければならないの?お母さんはそんな事ができる?私にはとてもできないわ」

 アリエルはそう言ってのけた。堂々たる声だった。彼女がこの一か月間で何を思い、過ごしてきたのかは分からない。

 だが、本当の両親に会い、実の母の死を目の当たりにして、確かに彼女の何かが変わっていた。

 しかしながら現実は違う。ベロボグはこの世界で最も権力を持った存在の一人だ。そんな彼に立ち向かう事など、今まではただの女子高生でなかった彼女にできるだろうか。彼女の平和を考えるのならば、これ以上関わらない方が身のためである事は確かだ。

「アリエル。確かに君の言う事は同感できるところもある。だが、君はこの世の現実をまだ知らない。だから、関わらない方がいいんだ。首を突っ込めば間違いなく…」

「私は死ぬと?」

 また言葉を遮るかのようにしてアリエルは言ってきた。

「もちろん、危険な事に首を突っ込めばそのようになってしまう。私だって、そんな事を君にさせたくはない」

 ついでにミッシェルも彼女に言うのだった。

「ええ、そうよ、アリエル。あなたがそんな事に首を突っ込む必要なんてない。だから、もういいの!あなたのお母さんとは元々会えなかった。お父さんなんていなかった。時間はかかるかもしれないけれども、それで受け入れる事ができるはずよ!」

 リーとミッシェルにそのように言われ、アリエルは納得する事ができるだろう。そのようにリーは思っていた。いずれは彼女にも、耐え難い運命を乗り越えられる時が来るはずなのだ。

 しかしながら、アリエルの意志は思ったよりも硬いものがあった。

「お母さん。私は、正直、お父さんのしている事も間違っているなんて思っていない。お父さんは、本当にこの世界を変えようとしている。そのためには、犠牲もつきものだと言っていた」

 意外な言葉がアリエルから飛び出してくるものだった。

「ちょ、ちょっと何を言っているのよ。ベロボグ・チェルノは、テロリストなのよ。あなたのお母さんをだまして、無理矢理あなたを連れ去った」

 しかしアリエルは、

「だから、私はお父さんの役に立つためにこの世に生を受けたようなもの。逃げも隠れもしない。私はもう一度、お父さんの役に立てるかどうか」

「そんな事はさせないわ!」

 アリエルの言葉を遮るようにミッシェルが言い放つ。

「アリエル。君がどのように思うのも構わない。しかしながら、ベロボグ・チェルノは西側にとっても、東側にとっても敵だ。もし、君がお父さんの下に入ったならば、世界を敵に回す事になってしまう」

 リーも口を挟んでアリエルに言う。

「世界を敵に回すつもりなんてない。でも、もう一度、お父さんに会って私は確かめたい。彼のしている事は何なのか、そして自分に一体何をする事ができるのかという事を、しっかりと確かめたいの。だからもし、あなた達が、父の居所を見つけたと言うのならば、私も一緒に連れて行ってください」

「アリエル!」

 ミッシェルは言い放ち、アリエルの目前に立ちふさがった。だが今では、アリエルの方が落ち着いているくらいだった。ミッシェルは荒波のような感情をもってして、彼女を引き留めようとしているが、アリエルは落ち着いていた。

「お母さん。私は今まで普通に暮らしてきたかもしれないけれども、ようやく自分がなんで生まれてきたのか。それが分かってきたような気がする。それを確かめる意味でも、誰かの役に立ちたい」

 確かにアリエルの意志は決意に満ち溢れているようなものだ。しかしそれは危険性をも秘めている。若くて、まだ経験も浅く、何も知らないような彼女が踏み込んでいって良い世界ではないのだ。

「アリエル。そんな事をしては駄目なのよ。あなたのお母さんだって、あなたを引き留めようとしたじゃあない。だから、あなたはもう、そっとしておいてくれればいいの」

「すいませんが…」

 ミッシェルがそう言ったとき、部屋の扉が開かれて、そこに『WNUA軍』の者が現れるのだった。

「そろそろ出発のお時間です。あなた達を保護するところまで案内します。道中は目立たぬように警備がつきますので」

 そのように軍の人間は言うのだった。アリエルの決意も確かに彼女の意志をしっかりと示したものだ。しかしながら、それももう遅いだろう。彼女が誰も知らないような遠い国に行ってしまえばそれでいい。

 そして、リー達組織や、『WNUA』の者達が、ベロボグと決着をつければそれで済む。アリエル達は平和な人生を送る事ができる。

「行くわよアリエル」

 ミッシェルは命令でもするかのように、アリエルにそう言うのだった。

「私は、諦めていません。もう一度、父に会いたいとそう思っている」

 アリエルはそのようにリーに向かって言うのだが、

「残念だがアリエル。君への危険性を考えて、そのような事をさせるわけにはいかないんだ」

 彼はそう言った。残念だが、全てはアリエルのためだ。それに、自分達がベロボグ・チェルノを捕え、組織を壊滅させる事ができれば、アリエルも怯えて暮らす必要はなくなるはずだ。

 アリエルはそこまで言うと黙ってしまったが、どうやら彼女はまだ何かを言いたかったらしかった。

 もちろん彼女が何を言いたいのであったかは、リーにも分かっている。しかし今の世界の現状が、アリエルにそれをさせようとしなかった。

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『エレメント・ポイント』

7:22P.M.

 

 その頃、『エレメント・ポイント』と呼ばれるベロボグ達の新たな拠点では、じっと構えられたベロボグの武装した部下達の間を縫って、10人ほどの若い男女が連れられてきていた。

 この『エレメント・ポイント』は大部分が鉄骨がむき出しの姿という建物で、大半が地中から何かをくみ出すような設備としてできていたが、住居地域も設けられている。これはもともと作業員の為に作られた設備となっていたが、ベロボグの配慮で、人が住むことができるような設備も用意されている。それも、長期間滞在をする事ができるようにと、食料も設備もきちんとしたものが用意されている。

 彼らはその中の会議室のような所へと通されていた。

 ベロボグは自分の息子、そして娘達をこの地へと集め、すでに次の計画を進めようとしていた。計画のためには、シャーリ、レーシーだけでは足りない。彼が遺産としてこの世に残した子供達の力が必要だった。

 その中の一人が、いい加減飽きたと言った様子で、彼らをここへと連れてきたジェイコブに向かって言うのだった。

「おい、いい加減暇だぜ。何か茶でも出したらどうだ?」

 ふてぶてしい態度でそう言ったのは、『WNUA』側からやって来た一人の若い男だった。いかにもな若者と言った様子で、その態度を見せつけている。

「こんな心気臭せえところだとは聞いていなかったぜ。外もクソ寒いしよお…」

 そう言ってその若い男は、ジェイコブの前まで来て言うのだった。

 ジェイコブはその男に対してあからさまな嫌悪感を示し、彼に向かって言った。

「お前。自分の置かれた立場が分かっているのか?お前は、自分の父親の命令に従っていればいいんだ。お前達は客だ。客は大人しくしていろ」

 ジェイコブはその男に対して念を押した。そう言っても、その若い男は不敵な顔を崩さなかった。あたかも、それはまだ世間を知らず、愚かな若い者であるかのようだったが、

「まあ、まあ、良いではないか。ベロボグ氏の可愛い子供が来たものだと、そう思っていれば良いだろう」

 そのように言って間に入ってきたのは、ストラムという男だった。

 顔を半分隠した不気味な姿をしていたが、まるでこの場をなだめるかのような声を出す。

 すると、若い男は、ストラムの方に向かい、

「だとよ、この爺さんの言う通りだ」

 若い男にそう言われたストラムは、

「ははは、私が爺さん?まあ、そう見えても不思議ではないがな。まあ良いだろう。君の名前は何という?」

 ストラムはそう尋ねた。

「俺はジェフだ。ジェフリーが本名だが、皆ジェフっていう」

「ほうほう、そうか、ジェフ。お前はまだ学生と言ったところだろう。高校生か?まあいい。だがな、大人の世界にはある程度の礼儀というものがある。それを知らないと、色々と面倒事に巻き込まれるぞ…」

 そのようストラムは、大人が子供に言い聞かせるかのように言うのだった。

「爺さんよお…、偉そうなお説教は結構だが、俺達が何でここに集められたか、あんたは知っているんだよなあ…」

 ジェフはふてぶてしい態度でその場の椅子に座りながら言うのだった。

「もちろんだとも。君達が、ベロボグ・チェルノの子であるから、こうしてここにいるというわけだ」

 即座にストラムは答える。当然の事を述べるかのような口調だった。

「じゃあ、あんたは何故ここにいる?」

 ジェフはそう尋ねるのだが、ストラムはその焼け爛れた顔に、笑みを浮かべるばかりだった。

「ふふ。私は何というか、ベロボグ・チェルノ氏への情報提供者とでも思ってくれればよい。彼が有益としている情報を私は持っているのだ。ここへは、特別なゲストとしてやってきたのだよ」

 その声にジェイコブは顔をしかめるのだった。ストラムと名乗るこの男は、必要以上にベロボグ・チェルノの組織の事について知りすぎている。だからこそ、ここへと連れてくるべきだった。

 ジェイコブは傭兵として活動してきて、ベロボグにその能力を認められ、配下となったが、戦時中、このような危険な男は即座に拷問にかけ、必要な情報を聞き出して抹殺してしまうべきだ。

 やがて、広間の扉が開く。そこから現れた人物に、中にいるベロボグの子らは、思わず畏怖の目で現れた者の姿を見た。

 ベロボグ・チェルノがこの場へとやって来た。ヘリでの出迎えの時も、ベロボグの子らは彼の姿を見ていたはずだったが、やはり彼が人前へと出てくると、その場の空気を変える事が出来てしまう。

 ベロボグがその場に現れると、子らは道を譲った。彼は車椅子に座り、その顔の半分ほどが焼け爛れているという姿で、車椅子も彼が最も溺愛している娘のシャーリに押されていると言う姿ではあったが、その堂々たる姿は変わっていなかった。

「待たせてしまったね。私の子供達よ」

 ベロボグは広間の最も目立つ場所へと車椅子を移動させ、そのように言うのだった。

「私が何故、君らをここに呼び寄せたか、それについては君ら自身が良く知っているはずだ。何故、他の者達ではなく、君達だけが引き寄せられるようにこの地に来れたのか。それを良く知っているはずだと思う。

 君達はそれを、イメージとして認識する事ができたと思う。私が発信させた信号によって、君達の中に眠るデバイスが作動させられたのだ」

 そのベロボグの言葉に、部屋にいる彼の子供達は顔を見合わせるのだった。

「デバイスとは、一体、あなたは何を言っているのですか?」

 ベロボグの言葉に、彼の子の一人が質問をした。

「君達は、私の子供だ。皆、それぞれが、様々な環境で暮らしてきたと思うが、皆、私の子供であるという事に変わりはない。今、この世界を覆っている危機。その危機から分離独立を果たし、新たな王国を作り出す事ができる力を、君達は持っている」

 ベロボグはそのように皆に言うのだった。彼らの間にどよめきが広がる。まだベロボグが何を言ったのか、その言葉を理解できないのだろう。

「あんたは、一体何を言っているんだ?」

 ジェフがそう言った。彼の言葉の態度はベロボグの前でも変わらない。彼のふてぶてしい態度、そして横暴なまでの姿勢が、シャーリの癪に障ったらしい。彼女は顔をしかめていた。

「君たちの脳には、あるデバイスが埋め込まれている。それは、コンピュータ回路よりも小さなものであって、君達自身に害は無い。だが、君達は、そのデバイスによってこの地へと導くように仕向けさせてもらった。

 勝手な事かと思うかね?だが、こうして親と再会する事ができたし、これから君達には、この世界をも左右する事ができる力を授けたいと思っている」

 ベロボグはそう言って、自分の後ろにいるシャーリに動かせる方の指で合図をする。するとシャーリは、ステンレスのケースを持ち出し、広間にあるテーブルの上へとそれを乗せるのだった。

「生体コンピュータというものは、まだ世の中には知られていない。君達にとっても見るのは初めてだろう。私はこれに『レッド・メモリアル』という名をつけた」

 ベロボグがそう言うと同時に、シャーリはその『レッド・メモリアル』が入ったケースを開いた。するとそこからは赤い光が溢れ、透明な色をした指ほどの大きさの直方体のプラスチックのようなものが入っている。

 広間にいる者達がそれに見入る。『レッド・メモリアル』と名付けられたその物体は、ケースの中に8つセットされてあった。

「さあ、手に取りたまえ、君達にはこれを使う権利がある。ここにいる7人。私の子のために用意をした。このデバイスを使えば、この世界にある全てのコンピュータを支配する事ができる。そうすればすなわち、この世界に新たな王国を作り上げることができるのだ」

 ベロボグはそう言い、固く拳を握りしめ、己の手を上げるのだった。

「あんたの言っている事を、そう簡単に信用できるのかよ」

 ジェフがそのように言うのだった。

「なら、それを試してみなさいよ。一度使ったら、病み付きになるわよ」

 シャーリがベロボグの代わりに答える。シャーリはその銀色のケースの中に入っている『レッド・メモリアル』と同じものを一つ取り出して、それをジェフへと見せつけるのだった。

 ケースに入っているものとは少し違い、シャーリが手の上に載せているものは、赤いガラスのような内部を、白い糸のような光が流れていた。それがただの透明な塊ではなく、何かしらの電子媒体であるという事が分かる。

 しかしながら『レッド・メモリアル』はどこにも差込口がなく、コンピュータデバイスとしてどのように使ったらよいのか、見た目だけではわからないだろう。

「さあ、あなた達もこれを使ってみなさいよ」

 シャーリはそう言って、自分の目の前にいる7人のベロボグの子らを促すのだった。

説明
『エレメント・ポイント』というところを舞台にして展開する、クライマックス編に突入します。ベロボグが長年追い求めてきた、エネルギー開発とは?
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