超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第8話
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博覧会再開のニュースを聞いてから数日。

一行はアヴニールの依頼を受けアヴニールの所持する施設の一つの前に来ていた。

「おいおい……アヴニールの紹介でモンスター退治に来たというのはお前らか!?

何を考えているんだ、あの会社は!」

門の前に立つ男は一同を見て激怒の声を上げる。

「あー! 初めてココの協会に来たときに追い返した人だ! なんでこんなところにいるの?」

「アヴニール関係者の代理だ! 仕事の説明だけ先にして欲しいらしい。

今回は指定したモンスターを少しでも多く倒してほしい。生死は問わんそうだ」

男の言葉にアイエフは不機嫌な声を上げる。

「なんで会社がモンスターなんて欲しがるわけ? 退治してくれなら分からないでもないけど、それじゃあペットにもならないわよ?」

「もしかして毛皮とかじゃないですか? モンスターさんの乱獲はダメですよ!

絶滅しちゃったらどうするですか!」

コンパの非難の声に男は声を荒げて反論する。

「モンスターの毛皮なぞ欲しがる奴がいるか! だいたいモンスターなんて絶滅するに越したことはないだろう!!」

男はフンと鼻を鳴らして踵を帰し、その場を去る。

「どうしても知りたいというのなら、アヴニールの社員にでも聞くんだな!」

それだけを言い残し、男はスタスタとその場を後にする。

「けっ。見たくもねえ面見ちまったぜ」

テラは不機嫌そうにペッと唾を吐く。

「にしても、アヴニールは何をするつもりかしらね」

アイエフはう〜んと腕を組んで唸る。

「……とりあえず依頼をこなしちゃおうか。後でアヴニールの社員さんも来るって言ってたし、その時に聞けばよくない?」

ネプテューヌの言葉に一行は「まあそうか」みたいな雰囲気になり、それぞれ武器を構えて一帯を回り始めた――。

 

 *

 

「よっ、と」

テラは突っ込んでくるモンスターの攻撃を軽く飛んで避けて、ダガーで斬りつける。

モンスターが低い悲鳴を上げてパタリと動かなくなる。

「あっちも、問題なさそうかな」

テラの視線の先には指定されたモンスターと戦闘をしているコンパとアイエフの姿がある。

「テラ、悪いんだけどそっちが終わったのなら手伝って貰える?」

後方から聞こえるネプテューヌ(変身)の声で、テラはそちらの方向を向く。

「どうした? 苦戦でもしたか?」

「いいえ、ちょっと厄介なのに絡まれちゃって」

ネプテューヌが見据える先には巣から出てきたのであろう青龍がグルルル……と唸り、こちらを睨んでいる。

「……うわ、面倒くさ」

「縄張りを荒らされて怒っているんでしょうね」

「仕方がねえか。できれば放っておきたかったんだが」

テラは不本意そうにダガーを構える。

「行きましょう、テラ?」

「おうよ」

二人は大地を蹴って青龍の額を一突き、怯んだところで弾丸を撃ち込み、次々と切り刻んでいく。

青龍の尾が辺りを薙ぎ、テラは飛び退いて再び2発弾丸を入れる。

「ハァ!」

ネプテューヌが上空から一閃、更に青龍の爪を避けて一閃と叩き込んでいく。

「まだまだだな……」

さすがは戦闘のプロと言うべきかテラはモンスターの状態を見てまだまだ体力が有り余っていることを推測する。

青龍の爪がテラに襲いかかる瞬間にバック宙で飛び退き、後ろの大岩を使って大ジャンプ、牽制射撃で相手の動きを止めつつ、相手の情報源である目を斬りつける。

『ギャァアア!!』

暴れ、のたうち回るところでテラは青龍の脳天に銃を突きつける。

「……悪いな」

テラは一瞬、哀しげな目をすると発砲し、とどめを刺す。

ズンと地響きを起こし、青龍は力なく地に伏す。

「さすが、士官生と言うだけあって慣れているわね」

「いつまで経っても慣れるもんじゃねーよ。例えモンスターでも生命を奪う瞬間ってのはさ……」

テラは周囲を軽く確認し、敵がいないのを確認してから武器をしまう。

 

 †

 

『苦シイィ……!!』

 

 †

 

「っ……!」

「テラ?」

頭を抑え、表情をゆがめるテラにネプテューヌは駆け寄る。

「いや……ただの目眩だ。気にするな」

「そう? ならいいのだけど……」

しかしながらテラの表情には先程から感じられた余裕はまるで無く、不安げに掃討したモンスター達の集団を見ている。

 

 †

 

『痛イヨ……』

 

 †

 

 

 

―――。

 

 *

 

「どうも、ご苦労様です。

本社から指示を受けてモンスターの回収に来ました」

若い男性が先程依頼の説明を受けた場所に立っていた。

「仕事とはいえ、敵と目されるアヴニールの手伝いなんて思い通りに行かないものね……」

ネプテューヌの不機嫌な声に男性は疑問符を浮かべる。

「……敵? あの、あちらの方は?」

「あの娘のことは放っておいてあげて。それより、ここら一帯は一通り回っておいたわ。できるだけ倒したつもりだけど」

アイエフの言葉に男性は頷いて報酬を手渡す。

「ありがとうございます。中々の成果だったようですね。お疲れさまでした」

そういって立ち去ろうとする男性をネプテューヌは引き留める。

「待って。貴方達はそのモンスターをどうするつもり? 返答次第によっては……」

「そう睨まないで頂けますか? 生死を問わずという部分が気になりますかね?」

男性は茶化すように答える。

「確かにモンスターは驚異ではあるが、アンタらがすることによってはこちらもモンスター達を渡すわけにはいかない」

「……我が社が独自に開発した電子基板のプリント配線にこのモンスターの神経組織が使用されているのです。どのみち神経組織を取り出した時点で死んでしまうので、生死は問わないと言ったのですよ」

男性の言葉にアイエフは納得したのか、警戒を解く。

「ふーん……要は機械を造る上で必要不可欠な者をコイツが持ってるってコトね」

「ご理解いただけたようで何よりです。今後も何か一般には取り扱いづらいモノを頼む場合は何卒よろしくお願いしますね」

男性の言葉にネプテューヌは癪に障ったのかピクリと眉を動かす。

「あまり嬉しくない頼まれ方ね」

「まあ、そう言わずに。では、私はコレで失礼いたしますよ」

「そう。引き留めて悪かったわ」

アイエフは男に一言詫びて踵を帰し、街へと帰還する。

 

 *

 

不自然な香りにテラはピクと眉を動かす。

嫌な気配。

命をかけた戦いの中で研ぎ澄まされた感覚はそれを見逃さなかった。

「……止まれ」

テラはすぐにパーティを制止して静かに武器を構える。

「どうしたの?」

「嫌な感じがする……」

テラはいつもの戦闘以上に強張った表情を見せる。

「久々の上玉だろうな、この感じは」

「そ、そんなにスゴイモンスターさんがいるですか?」

「そんなわけないじゃない。ここいらのモンスターはそんなに強くないはずよ?」

「……」

そんな二人の会話を余所にテラはいきなりふり返り、強く踏み込んでダガーを振るう。

 

『グガァアァア!!!』

 

べちゃ、と不快な音が響きズズンと地響きを起こす。

「浅いか……」

「何よ,あれ……」

アイエフの視線の先にはヘドロのような巨大な体躯に骸骨のような顔を持った山のような形をしたモノだった。

ひどい悪臭を放ち、時折ケタケタと歯をならして笑うソレはのらりくらりと上体を揺らせている。

「テラさん……? あれ、何?」

「モンスターの類かもしれねー。だが、あんなモンスター見たことねえし、文献にも載って無かった」

「新種ってコト?」

「……分からん」

全員も武器を構えてその異形の怪物と対峙する。

 

 †

 

『イタイヨォ……』

 

 †

 

「ハァ!」

テラはダガーを振りかぶり、無数に生える手の幾つかを削ぎ落とす。

しかし、斬られた位置から再びぞわりと手が生え、元に戻るどころか更に増えている。

テラは岩陰に身を隠して同じく隣にいるネプテューヌに問いかける。

「キリねーな。ねぷ子、変身してどうにかできないか?」

「もー無理。エネルギー切れだよー」

ネプテューヌはぐったりした声でそう答える。

「どうするです? このままじゃ何も変わらないですぅ」

「せめて弱点か何かでも分かればどうにかなるんだけど……」

アイエフも歯噛みしてハア、と一息吐く。

そうしている間にもモンスターは草をかき分けてテラ達を探している。

「知能は低いみたいだな」

「そうね。弱点て言えば、今はそんなところかしら」

「でも、斬っても斬っても再生するんじゃ、結局は変わらないですぅ」

「そうだよねー。そこが問題なんだよね」

4人はうーんと腕組み思考を廻らせる。

「一度、街に帰ってゆっくり作戦を練るか?」

「でも、その間にも人が襲われちゃうかもしれないです」

「だよな……」

 

 †

 

『タスケテ……!』

 

『ナンデコンナヒドイコトヲ!』

 

『ダレカ、コロシテクレ!』

 

『コロス! コロシテヤル!!』

 

 †

 

『苦シィ……!』

『痛イヨォ……』

『タスケテ……!』

『ナンデコンナヒドイコトヲ!』

『ダレカ、コロシテクレ!』

『コロス! コロシテヤル!!』

異形の怪物は叫ぶ。

それは統合性はなく、子供や女性、野太い男性の声まで様々な声で叫び続ける。

 

怨嗟の声を。

 

『タスケテ!』

『イヤダ! シニタクナイ!』

『カミヨ! ワレヲミステタノカ!!』

『ダレガワタシノコドモヲコロシタノ!?』

『ダマレ! ダマレダマレダマレ!!』

叫ぶ。

人々は叫ぶ。

哀しき声を。

悲しみの心を。

「っ〜〜! 何よ、五月蠅いわね……!」

一同は騒音とも呼べる声に耳を塞ぐ。

「ぐ……頭が、割れそうだ……!」

「な、に……コレ……」

「頭が、痛いで、す……」

しかし、怪物の声は大きさを増すばかり。

木をなぎ倒し、草をざわめかせ、大地を揺する。

『ナゼ!? ナゼワタシガコンナメニ!!』

『フザケルナ!』

『キシンサマ、ワレニゴジヒヲ!!』

『ドウカタスケテクダサイ!!』

『イタイ、イタイィ……!』

『グガガガガガガガガガガガガガ!!』

『キシンサマ!』

『キシンサマ、オネガイデス!!』

『キシンサマタスケテクダサイ!!』

 

「『鬼神』……だと……?」

テラは遠のく意識の中でその言葉を耳にする。

 

鬼神。

武の神。

狂える混沌の神。

全てを無に返す異形の神。

 

「く……!」

テラは倒れ伏す。

既に彼の仲間たちは倒れていた。

彼が意識を失った中、その一帯には不安なほどに静寂が渦巻いていた。

 

そして、現れるは――

 

 

 

少女。

 

「……」

少女の瞳には、何が映ったのか――。

 

 

 ‡

 

――神界。

 

銃声、剣撃、爆発音が鳴り響く。

長身の少女はふうと溜息を吐き、持っていた武器を再び構える。

「……五月蠅いですわね。そろそろ諦めては頂けませんかしら?」

現れた黒い機影の少女は剣を肩に担いで同じく溜息を吐いた。

「その台詞、もう百回近く、いや最悪千回くらい聞いたかもね。何回言われたって引くつもりなんかない」

そう言って再び二人は武器を交える。

バンと、重々しい音が響き、小柄な少女がその身の丈の2倍はあろうかと言うほどの武器を構える。

「あたしはテメー等みたいな奴に負けんのはプライドが許さねえ」

少女は見た目とは裏腹に暴言を吐き捨てる。

「悪いけれど、それは私も同じことですわね。貴女みたいなガサツな者に負けるなんて……」

「へっ! あたしはテメーみてえな女が一番嫌いなんだよ!」

小柄の少女は持っていた武器を振りかぶって斬りかかる。

それを長身の少女は同じく自分が持つ武器で防ぐ。

「……私情で争い、時間を浪費するなんて。やはり貴女達には相応しくなんかないんじゃない?」

長い髪を三つ編みで束ねた少女はそんな二人を横目にそんなことをポツリと呟く。

「ホラ! こっちを無視するんじゃないわよ!」

黒の少女が剣で斬りかかるのを持っていた太刀でいなして弾き飛ばす。

「ホント厄介者ね。一体そんな頭の何処に戦闘の知識があるんだか」

体勢を立て直した黒の少女が皮肉っぽくそう漏らす。

「貴女……」

その言葉に三つ編みの少女はピクリと眉を動かす。

「全くだ。お前らは厄介そのもの」

ズンと地響きを立てて落下する銀髪の少年の姿を見て4人の少女達は更に目の色を変える。

「時間の浪費、まさにそうだ。

こうして争っていること自体が時間の浪費だと何故気付かない?」

銀髪の少年の言葉に小柄の少女は「へっ!」と声を漏らす。

「一番時間を浪費してたのは何処の何奴だか! 言ってられるような身分じゃねえハズだぜ?」

「全くですわね。遅咲きの貴方が一体どうしてそのような大口をたたけるのか……不思議ですわね」

長身の少女の余裕な言葉に少年はギロリと視線を鋭くする。

「強いからさ」

「へぇ、今まで言った嘘の中で一番笑えないわね。貴方がいつまで経っても出てこなかったのは、弱かったからじゃない?」

黒の少女は皮肉めいた笑みを浮かべて少年に剣を向ける。

「弱いのはお前達さ。何百年も争ってそれでも何も決められない下等な者どもが」

「これは心外ね。貴方に下等生物扱いされるなんて、悔しいなんてものじゃないわ」

三つ編みの少女は太刀を構えて少年に振りかぶる。

少年は面倒くさそうに右手で太刀を受け止めて左手で少女に拳を叩き込む。

「どうだ? これが力の差だ。武器を使っても、お前は俺に敵わなかっただろう?」

「……油断していただけよ。その程度で図に乗るなんて」

少女はグイと口元についた汚れを乱暴に拭い、少年を睨みつける。

「ま、俺に触れられたことは誇っていいぜ?」

「あら、『図に乗るな』と言われませんでした?

……ああ、なるほど。戦闘狂(バトルホリック)さんはそれを理解することもできませんのね」

長身の少女は余裕めいた笑みを浮かべ、少年を見る。

「その戦闘狂(バトルホリック)に一太刀浴びせることが出来たんだ。充分な成果だと思わないのか?

お前達も、遠慮せずに来ればいい」

「待っててやってんだよ。激弱の戦闘狂(バトルホリック)の顔を立たせるためにな!」

小柄の少女は武器を握り、少年に振り下ろす。

少年はそれを半身をずらして避け、少女の首に自分の手を当てる。

「……!」

「……フン」

少年は鼻を鳴らして腕を降ろし、後ろに飛び退く。

「どうだ? ……さあ、俺も混ぜてくれよ?

こんな楽しそうなイベント、下界や神界も隅々まで回ったとしてもここでしか開かれてないだろうからな」

少年の高笑いだけが、神界に轟く。

 

 

怨嗟

 

狂気

 

狂喜

 

 

神界に新たな轟音が響く。

 

銃声、剣撃、爆発音――

 

怨嗟の声。

 

 ‡

 

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「――っ!!」

テラはひどい頭痛に襲われて目を覚ます。

「な、んだ……今の」

そして自分がベッドの上にいることに気付く。

「……ここは?」

白く清潔な部屋。

ここが病院であることは容易に認識できた。

「そうだ! 確かワケの分からない化物に……!」

テラは布団をはね除けて出口であるドアに手を掛ける。

テラは一度、戸惑うがすぐにまたドアノブに手を掛けて勢いよく扉を開く。

「……普通の病院、だよな」

テラは周囲を一回りして脅威がないことを確認すると近くを歩く看護士に問う。

「すいません、えーと……俺と一緒に倒れていた娘達を知りませんか?」

「……ああ、ダンジョンで倒れていた方々ですか。それでしたら、貴方が眠っていた部屋の隣にいらっしゃいますよ」

看護士はそう笑顔で返す。

「ありがとう」

テラはそれだけ言い残して看護士に言われた部屋へと向かう。

 

 *

 

「失礼しまーす……」

一応病院なのでテラは少々遠慮がちに扉を開く。

見れば、そこには見知った顔が穏やかな表情ですうすうと寝息を立てていた。

「……はぁ」

安堵し、力が抜けてペタンと地面に座り込むテラ。

「良かった……無事だったか」

ストンと壁に身を預け、スッと目を閉じる。

 

 

「ふぁー……むにゃ? テラさん?」

突如掛かる声にテラはビクッと身を震わせる。

声の方を見れば、ネプテューヌが寝惚け眼でこちらを見ている。

「あ、ああ……。起きたか?」

「うん……。って、あれ? ココ何処?」

「病院だよ。中央病院」

「何で!? 私達何時の間にここに来たの?」

ネプテューヌの漏らす疑問にテラははたと気付く。

「そういえば……何でココにいるんだ?」

テラも意識を失っていたために、ここに皆を連れてきたわけではない。

「誰か親切な人が連れてきてくれたのかな?」

「病院の人の聞けばいいんじゃないか? 俺ちょっと聞いてくるよ」

テラはそう言ってドアを開く。

 

 *

 

「ちょっといいスか?」

「はい、なんでしょう?」

受付の職員はテラに笑顔で対応する。

「△△室に入院してたんだが……」

「はい、ダンジョンで気を失っていた方々でしたか?」

「でしょうね。俺達を連れてきた人って誰だか分かります?」

テラの問いに、職員は少し怪訝な顔をするがすぐに元通りの笑顔で答える。

「女性でしたよ。それはそれは力強い御方で貴方様方4人を担いで連れてきたので私どもも驚いてしまって……」

「名前は?」

「……匿名でお願いしますと言われまして。あなた方に聞かれても決して答えないようにと堅く口止めをされました」

その言葉にテラは「そうですか」と言って、その場を後にする。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

一行が退院して二日。

アヴニールの依頼を受け、町はずれのとある廃工場へと足を運んでいた。

「はぁ、余計な時間を食っちゃったわね」

「全くです。私達は時間を無駄に使うわけにはいかないです!」

なんて雑談をしていると、一行の前に見知った顔の人物が現れる。

「どうも、お久しぶりです」

男、ガナッシュはペコリと一礼する。

「本日もお仕事の内容の説明で参りました」

「助けて以来よく出てくる外回りさんだ。お仕事大変だねー」

「そんなに忙しそうに見えますかね? こう見えても週の半分は休日なんですけどね」

ガナッシュの言葉にコンパは驚いた声を上げる。

「うらやま……週の半分もお休みなんて労働基準法違反です! やっぱり悪い会社ですね!!」

ガナッシュはクスクスと笑って余裕の笑みで返す。

「まあ、我が社は製造工程のほとんどを機械に任せているので」

「そ−だよね、代表が技術者嫌いだもんねー。造るのも機械の仕事なんだ」

「そう言うことです。では、本題に移ってもよろしいですかね?」

ガナッシュは資料と思われる紙をパラパラと捲る。

「えー、この施設ですが見た目以上に年数が経っていまして実はもう廃棄された工場なんですね」

「用が済んで取り壊しもしないで放置? 自分勝手な会社ね」

アイエフの悪口にガナッシュは苦笑し、ペラッとページを一枚捲る。

「実は、引き上げた際に資材の一部が取り残されたままになっていたらしくてですね」

「それを俺達に取ってこいと?」

「理解が早くて何よりです」

しかし、それにコンパは不服そうな声を上げる。

「アイテム集めて全部渡すんですか? なんかぬか喜びみたいで嫌ですぅ……」

「いいえ、回収したいのは一部なのでそれ以外は全て持って行って構いません」

「それはそれでおこぼれ貰っているみたいでやなお仕事です……」

それでもまだ渋るコンパをテラが宥めているうちにネプテューヌはぐいぐいと話を進める。

「で? どんなアイテムを取ってくればいいの? 銃器系? 先折りタバコ? 段ボール?」

段ボールは普通にそこら辺から調達できるだろ! というアイエフの言葉をネプテューヌは華麗にスルーする。

「特定の鉱石を見つけて回収していただきたいのです」

ガナッシュの表情には明らかに困惑の色が見て取れた。

「えー、石? そんなのアヴニールの何処で使うの?」

「意外と使うんですよ。モンスターの所為で採掘もままならない鉱石でしてね。

スゴイ石なんですよ? たった1グラムでゲーム機を一万年も動かすことの出来るエネルギー鉱石なのですから」

ガナッシュの言葉にネプテューヌは驚愕の声を上げてきゃっきゃと騒ぎ立てる。

「ゲーム機を一万年!? スゴイ……」

「うちの製品は屋外で使われるのが多いので、内部電源の場合が多いのですよ」

ガナッシュの説明を、テラは怪訝な顔つきで見ていた――。

 

 *

 

工場に足を踏み入れる一行。

しかし、いきなり背後で荒々しい音が鳴り、鋼鉄製の扉が閉まる。

「はぁ! なんでイキナリ入り口閉まるわけ!? ちょ、アンタ変な冗談止めなさい!」

アイエフの言葉にガナッシュはとぼけたような声を上げる。

「冗談、何の話でしょうか? すみませんね、手違いで閉まってしまいました」

テラはタックルで扉に突っ込むが、扉はびくともしない。

「……まあ、それこそ冗談で単純にこちらの都合ですかね。

あなた達にはこの中でモンスター達の餌食になって貰いますよ」

ガナッシュの言葉に一同は目付きを変える。

「どういうコトです? 真っ暗は怖いです! 入り口を開けて欲しいです!」

「そうですか。流石に真っ暗は可哀想ですかね、明かりくらいは付けてあげましょう」

ガナッシュの言葉から程なくして、工場内の電灯に明かりが灯る。

「どういうこと? アイテム取ってきてあげないよ?」

「この状況でどうして間の抜けた発想が出来るんですかね?

ゲーム機が一万年動く鉱石なんてあるわけないでしょう」

「やっぱか……」

テラはぐったりとした表情で答える。

「は! アンタ分かってたわけ?」

アイエフは半ば怒り気味にテラに掴みかかる。

「予想だ、予想。んなスゴイ鉱石あったら今頃は凄いことになってら」

「早く言いなさいよ、そんなこと!」

アイエフはキレ気味にテラの頭を小突く。

「いて」

「オーバーな方が乗りやすいと思いまして。仕事もアヴニールではなく、私個人のものです。一応、名義に会社の名前を使いましたが、何か?」

ネプテューヌはゴンと扉を叩く。

「私達に恨みでもあるの? さっきまであんなに仲良く話してたのに何で?」

「ずっと前にある人に会いまして。それ以来、貴女のことは聞いていたのですよ。

ネプテューヌさん?」

「うわ、コイツもねぷ子狙い? やっぱ記憶無くなる前にスゴイ事してたんじゃないの?」

「そんなことないもん!」

「そうです!」

コンパは震える声でそう叫ぶ。

「私はネプネプを一番知ってるです! ねぷねぷはずっとねぷねぷです……!」

「ああ、ゴメンゴメン。信じたいってのは私も同じだから。冗談冗談,ね?」

アイエフは焦って,何とかコンパを慰める。

「俺も同じだ。でなきゃ、今頃こんなことしてるわけ無いだろ?」

「……そろそろ話してもいいですか?」

半ばリングアウトさせられ掛けていたガナッシュが遠慮がちに声を上げる。

「一つ言い忘れていたのですが、この施設、あと少しで爆発しますので。

お決まりで申し訳ないですね、それでは」

「死ね!」

テラはガツンと鋼鉄製の扉を蹴り、ダメージを受けて「うぐぐ……」とか唸って足を押さえてうずくまる。

「どーすんの? モンスターもいるみたいだし、他の出口があるかだって分からないわよ?」

「とにかくココを出よう! それに次にあったらあの人を倒しちゃおう!」

「出口がないかもって話、聞いてた?」

アイエフは困り顔でネプテューヌを見る。

「とにかく、探すしかなさそうだ。こんなにでかい工場なんだから非常口の一つや二つ、あるだろ?」

テラは武器を構えて工場の奥へと進む。

 

 *

 

「はぁっ……!」

「出られたわね……」

一行は見つけた出口から命からがら逃げ延びた。

「……って、こんなところでボーッとしてるヒマじゃないよ! 爆発するのなら離れないと!」

「あー……嘘だろ、アレ」

「え?」

テラの言葉にネプテューヌは耳を疑う。

「大方、俺達を焦らせてその状況を笑いながら見てたんだろ? 第一、こんなでかい工場壊せる爆弾が何処にあるよ?」

「あぁ、確かに。廃工場とはいえ、元はアヴニールが使ってたんだもの。そんなヤワな建物じゃないって事ね」

「えー、焦っただけ損ってこと?」

ネプテューヌは心の底から不安げな声を上げる。

「……って、街の皆さんが凄く慌ててますよ?」

「……そういえば」

一行は辺りを見回し、逃げまどう市民を見る。

「おい、アンタ」

テラはその内の一人の男性の腕を掴む。

「ひっ! 何だよ、早く逃げないと死んじまうぞ!」

「何で?」

「デッケェロボが現れて何処かの工場を壊しまくってんだよ!」

「工場……って、まさか!」

テラは大地を蹴って走る。

「ちょ、何処行くのよ!」

「シアンの工場だ!」

「えぇ!?」

三人も何とかテラの後を追う。

「どういうこと?」

「時間稼ぎだよ! あの工場に閉じ込めたのは俺達を始末するためじゃねえ! クッソ! 見誤ったぜ!!」

「なるほど! 要は私達を何とかして工場から引きはがしたかったのね。私達がいると厄介とでも思ったんでしょ!」

「そういうこと!」

「なるほどです!」

そうしている間にも、遠くから爆音が響く。

テラは走る。

ようやく工場に到着し、そこで見たのは、半壊した工場とその工場跡地の前にうずくまるシアンの姿だった。

「っ!」

「遅かった……」

「そんなぁ……これじゃあお仕事も出来ないですぅ……」

「アレがそんなことしたんだね! 許さないよ!!」

ネプテューヌの周りを光が覆い、その光が晴れネプテューヌは変身した。

「止めてみせる!」

ネプテューヌは高く跳躍して太刀を上段に構え、振り下ろす。

「馬鹿! 先走りすぎだ!!」

テラはネプテューヌに向かって向けられる砲台を破壊し、ロボの右腕に装着されている機械剣を切断する。

「……あーもう! これだからウチのパーティは!」

アイエフは銃弾でロボの気を引きつつ、潜り込んでブースターを破壊する。

「コンパ! 援護射撃!」

「分かりましたです!」

コンパは砲撃でロボの頭部を狙う。

ボフッと爆発音が鳴り、ロボの頭部が破壊される。

「中枢が壊れた! 行ける!」

ネプテューヌはロボの腰の辺りに飛び、太刀を横に振りかぶる。

「ハァアアッ!!」

ズシン、とロボの上半身が地面に崩れ、停止する。

「クソ! 許せねえ!」

テラはダンと工場跡の壁を力任せに殴りつける。

焼け落ち、脆くなった壁は衝撃で石片へと変わり、ボロボロと崩れる。

「し、シアンさん? そんなに落ち込まないで欲しいです……。

博覧会が無理でも、私達でアヴニールをなんとかするです」

「……」

シアンはぎゅぅと拳を強く握る。

それには悔しさの色が嫌と言うほどに読み取れ、もう何も言えなかった。

 

 

 

「っあー! やられたーっ!」

『!?』

突如、大声を上げたシアンに一同はビクッと肩を震わせる。

「おし! 大丈夫だ! なんとか博覧会展示用の作品は守ってある!」

そう言ってシアンは布にくるまれた剣であろう物体を持ち上げる。

「……わーぉ」

「……職人魂?」

「俺だってまだまだ諦めねーぜ! 中止だって言われた時みたいに情けない姿はもう見せないって決めたからな!

これを完成させた暁には、お前達にも是非博覧会に出展してこれのアピールをして貰う!」

その姿を見て一同は「逞しい……」と思ったという。

あと、ついでに「うげ……」ともテラとアイエフは思ったという。

はたまた、ネプテューヌとコンパは「ステージに上がれる……! やったぁ(ですぅ)!」とも思ったという。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「本格的に無視できない話になったぞ、コレは」

「ホントだね!」

「これはもうアヴニールを絶対に許せないです!」

テラ、ネプテューヌ、コンパの三人は足音荒くホテルへの道のりを歩く。

「あんのヤロー……次あったら絶対にぶっ殺してやる」

「はいはい、殺気立たない。それより、気になる情報を得たの」

「何?」

ネプテューヌは身を乗りだしてアイエフに問う。

「教院のことよ。ラステイションの教院の人達、どうも協会本部を追われたらしいのよ」

「は? 国政院に追い出されたって事か?」

「そうかもね。話だと、旧教会跡地コリーヌに身を寄せているという噂よ」

「アソコか……」

コリーヌとは以前、協会の建物として使用されていた場所であるが、ラステイションの協会が建物を一新しようと現在の協会に本部を移し、そのまま廃れた場所である。

「……行ってみるか?」

「当たり前よ、折角情報が得られたんだもの。例え噂でも、行ってみる価値はあるじゃない?」

アイエフの言葉に一同は頷き、やっと解決の糸口が見えたと思えたのだった――。

 

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