本日、お稲荷日和。〜ひまっ〜
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午後。

 

梅雨真っ只なかのこの時期に、気まぐれに顔を出した太陽がチャラチャラと「おひさーッス、マジで(笑)」と地上にご挨拶。

 

縁側でそれを見た蓉子(ようこ)は、魚のすり身の駄菓子を頬張って「チャラチャラしてんじゃね〜よ」と毒づいた。

 

居間ではドロッドロのメロドラマをだらしなく寝っ転がった橘音(きつね)がぼんやり眺めている。

 

……盛大に暇を持て余している2人であった。

 

高校卒業後、正式にお稲荷神社の管理人となった蓉子。

 

しかし、仕事のほとんどが橘音の身の回りの世話と家事全般。

 

ハナおばあちゃんの手伝いもあり、馴れてしまえば時間が余るのも無理はなかった。

 

「おばーちゃん、ハナさんは?」

 

蓉子が半ば屍と化した橘音に訊いた。

 

こういう暇な時間はハナおばあちゃんから料理やら手芸やらを習うに限る。

 

「老人会のゲートボール大会、例の2人もいっしょ」

 

例の2人とはハチとジョージのコトだ。

相変わらずハナおばあちゃんを巡って不毛な対決を繰り広げている。

 

「そっかー…」

 

ハナおばあちゃんの不在で蓉子の思いつきもパアだ。

 

「ねぇ……」

 

唐突に橘音の甘ったるい声が聞こえた。

 

蓉子の額にじっとりと嫌な汗が浮かぶ。

橘音が甘ったるい声を出したあとには、色んな意味でろくでもないメに遭っている蓉子なのだった。

 

「なに?」

 

逃走経路を確保して蓉子が訊いた。

 

橘音はゴロンと寝返りをうって蓉子の方を向くと……

 

「シャーベットが食べたいにゃ〜」

 

…と言った。

にゃ〜って、可愛らしく。キツネ(お稲荷様)のくせに。

 

 

両手にはそれぞれ手のひらサイズの箱。

 

それは牛乳と混ぜて冷凍庫に入れるだけでシャーベットが作れる商品、シャーベッチュ。

 

右手にはイチゴ味。

左手にはメロン味。

 

その真ん中で頭のキツネ耳をピコピコ動かしている橘音さん。

ニンマリ笑顔の橘音さん。

テレビではちょうどその商品のCMが流れている。

30秒バージョンで、2回繰り返して。

 

「自分で作れば?」

 

「やだ」

 

蓉子の提案は拒否されました。

即答で。

 

「暇潰しになるよ?」

 

「テレビ観賞で忙しいの」

 

人、それを暇人と言う。

 

「わたしもいっしょにやるから、ね?」

 

もはや幼稚園児相手の会話みたいだ。

 

しかしこのでっかい幼稚園児、みるみるうちにぶーたれた。

 

「作ってくれなきゃいや〜ん♪」

 

ぶーたれただけでは飽き足らず、駄々っ子と化した。

 

「ちょっと、おばーちゃん……」

 

バタバタと橘音が手足をバタつかせる度に薄手の浴衣の胸元がはだけていく。

裾も同様、白いフトモモがこんにちは。

 

おばーちゃんで年齢不詳とはいえ姿形は20代後半、三十路前の橘音さん。

 

目のやり場がないです。

というか、だんだん脱げてきてますよー、浴衣。

 

「わかった、作るから!両方(イチゴ味とメロン味)作るからぁ!!」

 

ついに蓉子が折れた。

橘音がピタリと停止。

 

「パッケージ裏のレシピ通り?」

 

イチゴ味とメロン味、それぞれの箱の裏を指差す橘音。

 

そこにはシャーベットを使ったシェイクとフルーツパフェの写真と作り方。

 

「作ればいいんでしょ、作れば!」

 

やけっぱちの蓉子が橘音の手からシャーベッチュ(商品名)の箱をひったくって台所に消えた。

 

「さぁーて、テレビテレビっと」

 

ひと仕事終えたかの様なやり遂げた感が漂う表情で、テレビ観賞を再開する橘音。

 

してやったりの橘音と、してやられた蓉子。

 

いつもと変わらないお稲荷神社でありました。

 

 

 

──その夜。

蓉子作のシェイク(メロン味)とフルーツパフェ(イチゴ味)をお供に蛍を見に出掛けましたとさ。

説明
季節は流れ、梅雨。久しぶりに晴れたのに、橘音さんはいつもの通りのグータラで・・・・・・?

第1話 http://www.tinami.com/view/403151
第2話 http://www.tinami.com/view/403636
第3話 http://www.tinami.com/view/403642
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オリジナル コメディ 本日、お稲荷日和。 短編 

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