ストライクウィッチーズ空我『受け継がれる言葉』 |
伝説の英雄クウガ
――じゃあ、見てて下さい
――俺の、変身
夜の廊下を2人の少女が歩いている
年齢は重大の半ばほどで、一人は薄い栗色の髪で、もう一人は濃い茶髪をしている
彼女たちの名前リネット・ビショップに宮藤芳佳
対ネウロ組織…ストライク・ウィッチーズの隊員だ
「そうそう!ねぇ、芳佳ちゃん!」
リネット…愛称、リーネは芳佳に妙に興奮した声で話しかける
「どうしたのリーネちゃん?」
「クウガっていうのはね…まだネウロイが現れて間もない頃に現れて、たった一人でネウロイと戦ったすごい人なんだよ!」
クウガの話をするリーネの興奮は収まるところをしらず、息継ぎもせずに話を続けた
おそらくリーネはクウガのファンなのだろう
「たった1人でネウロイと!?すごい…!その人、すごいウィッチだったんだね!」
ネウロイの強さを身をもって知っている彼女には、たった一人でネウロイと人を守り続けたウィッチというのはとても衝撃的な存在だった
だが、リーネの次の言葉で、彼女は本当の衝撃の意味を知ることになる
「ちがうよ芳香ちゃん。クウガはウィッチじゃなくて、男の人らしいよ」
「………」
一瞬の沈黙
そして…
「えええええええぇぇぇぇええええええ!!!???」
「すごいよね〜!なんでも、噂だと謎の赤い鎧をどこからともなく出して、バイクに乗って戦ってたんだって」
「すごいっていうかその人どうやって戦ってたの!?」
予想外のリーネの言葉に、芳佳は動揺を隠し切れず唖然としていた
「えっとね…たしか、基本的にはキックで、たまに棍棒や、ボウガン、剣なんかも使って戦ったらしいよ」
リーネは芳佳の質問にいとも簡単に答えていく
芳佳としては、この話自体が冗談じゃないかと思えてきたほどだ
棍棒やボウガン、剣はまだ分かる…でも、果たしてウィッチでもない人物のキックでネウロイは倒せるのか?
その後もリーネの語りは続いていたが、そのほとんどは芳佳の耳に入らなかった
「坂本さんっ!!!」
「なんだ宮藤?さわがしいぞ」
「あっ…ごめんなさい」
明朝、芳佳は自分の上官であり、恩人でもある坂本美緒の元を訪れていた
もちろん、昨日聞いたクウガの事を聞きに来たのだ
自分の父とも知り合いだった美緒なら何か知っているかもしれない…そう思ったのだ
「坂本さんはクウガってご存じですか?」
「くうが?…ああ…あの伝説の英雄か。知っているが、それがどうかしたのか?」
美緒は首をかしげながら芳佳に問う
「はい!坂本さん…私に教えてください、クウガのこと!」
「教えてくださいと言われても、私も噂程度の事しか知らんが…」
「噂?」
「ああ。なんでも、クウガはもう死んだとか」
芳佳にはその言葉の意味が理解できなかった
「死んだ…?クウガが!?」
「あくまで噂だ。だが、彼がストライカーユニットが完成すると共に姿を消したのは事実だがな」
その後も、芳佳は手当たり次第に隊員にクウガについて聞いてみた
だが…
『クウガ?ナンだそれ?新シいクワガタか?』
『…エイラはもう少し歴史を勉強したほうがいいよ』
『ああ、知ってるぜ。青くなるとむちゃくちゃ早くなるってやつだろ?』
『何それ何それ!?アタシ知らな〜い!!』
『知ってるも何も、トゥルーデが実はファ…ってモガァ!!ちょ…死……あっ……』
『なんでもない!!なんでもないぞ宮藤!!』
『ええ、人並み程度なら』
『まぁ、ネウロイと戦う以上。その話はどこかで必ず聞くことになりますからね。むしろ、宮藤さんが今まで知らなかったった事に驚きですわ』
…と、ロクな情報を得ることは出来なかった
「はぁ…やっぱりクウガってもういないのかな…」
そんなことを呟いていた芳佳に、耳慣れない声がかけられた
「あの〜すいません…」
「え?」
芳佳が顔を上げると、そこには人のよさそうな笑みを浮かべた青年が、少し困ったような表情を浮かべていた
「ああ、良かったぁ〜〜!この島、ぜんぜん人がいなくて困ってたんです!この辺って、もしかしてあまり人がいないんですか?」
「え?あの〜…え?」
芳佳は何かを言おうとしては言葉に詰まった
ここは人が少ないどころか、ウィッチの基地なのだから、一般人がそもそもいない
そういえば良いものを、芳佳には何故か、この男を突き放すような気がしてそれを言うことができなかった
「あの…どうやってここに来たんですか?」
「えっと…扶桑からボートを漕いで気ままに旅をしてたらいつの間にか」
一体この人は何年かけてやって来たんだろう?
「あの〜お名前を聞いてもいいですか?」
「あっ、じゃあコレどうぞ」
男はどこからともなく名刺を取り出し、芳佳に手渡す
「夢を追う男……2000の技を、持つ男……?」
「はい!俺、五代雄介って言います。よろしくお願いします!」
親指を突き立てて――所謂サムズアップのポーズを取りながら雄介は笑顔を浮かべる
「私は宮藤芳佳です!よろしくおねがいします!」
対する芳佳も、何が何だかわからないままに親指を立て返す
「そういえばさっきクウガがどうとか言ってなかった?」
数分後、芳佳と五代が軽い自己紹介と、ここがウィッチの基地であることを説明して、芳佳が五代を基地に連れて行く途中
五代が不意に口を開いた
「はい。私、今日クウガについて仲間たちに聞いていたんですけど…一番尊敬している人に、クウガは死んだって言われちゃったんです…五代さんはクウガってご存知ですか?」
その言葉を聞き、五代は腰を屈ませ、目線を芳佳と同じ高さに合わせる
「知ってるよ、クウガのこと…多分、この世界の誰よりも」
「本当ですか!?なら教えてください!クウガは本当に…」
「うん。クウガはもういない…でも、死んじゃったわけじゃないよ」
五代の回答に、芳佳は首をかしげる
いないけど、死んでないというのが理解できないのだ
「クウガは…最強のネウロイとの戦いで傷つき。その力を失ってしまったんだ…」
「最強の…ネウロイ…?」
五代は力強く頷く
「そう。クウガはその赤い体を黒くすることで…究極の力を持つ凄まじき戦士となる事で、ネウロイと戦った…」
今度は芳佳が頷く
「でも、最後にクウガは絶対にやりたくない事をした…そのせいでクウガは笑顔を失っちゃったんだ」
五代が思い出すのは雪山での最後の戦い
敵もまた力を失い、人の姿となったネウロイ…通称、未確認生命体第0号をこの手で殴り殺したのだ
「最後にもう一つ質問いいですか?」
「ん?なに?」
雄介が優しげな瞳を向ける
「五代さんは……クウガですか?」
「ちがうよ。俺はもうクウガじゃない…だからみんなの笑顔はこれから君たちが守るんだ。
その代わり、勇気が出る魔法の言葉を教えてあげるよ」
その日から、芳佳は出撃の際に五代に教えてもらった言葉を使うようになった
からかう者や、不思議そうにする物もいたが、芳佳もこの言葉が好きになった
五代は今、何故かストライクウィッチーズでコーヒー係という謎の役職を任されている
そんな彼に聞こえるように、芳かは今日も高らかに叫ぶ
変身、と___。
説明 | ||
基本的には芳佳が伝説のあの男の邂逅を描いています | ||
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