特捜戦隊デカレンジャー & 魔法少女まどか☆マギカ フルミラクル・アクション
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Episode.06 インタートゥワイン・フェイト

 

デカレンジャー二人掛かりでも止められない、熾烈を極めた魔法少女同士の戦闘に乱入したのは、黒い装束を纏った魔法少女――暁美ほむらだった。予期せぬ闖入者に、その場にいた一同は驚愕する。

 

「ほむら・・・ちゃん?」

 

「お前・・・何しやがってテメエ!!」

 

いきなり現れたほむらを警戒して、杏子が槍を向ける。だが、その矛先にはほむらの姿はあらず・・・

 

「なっ!?」

 

気付いた時には、既に後ろを取られていた。高速移動などによるものではなく、その場から消えて、別の場所に現れたのだ。

 

(馬鹿な・・・あの少女の動き、全く分からなかったぞ!?)

 

デカスーツのゴーグルに付いている分析機能をもってしても、ほむらの動きは一切解析不能だった。デカグリーンとデカイエローが未だに驚きで動けない状態の中、杏子は槍を再び構える。

 

「そうか・・・あんたが噂のイレギュラーって奴か。妙な技を使いやがる・・・」

 

「邪魔をするな!!」

 

傍から見れば、ほむらはさやかの危機を救ったのだが、本人はそれが気に入らなかったらしい。剣を構え、ほむらに切りかかろうとする。だが、

 

「あっ・・・」

 

いつの間にかさやかの横へ回り込んだほむらの手刀により、意識を刈られる。そのまま地面に倒れるさやかにまどかが駆け寄るが、ほむらはそれに目もくれず、再び杏子と向かい合う。

 

「大丈夫。気絶しているだけだ。」

 

その言葉に、ほっとするまどか。杏子とデカグリーン、デカイエローは、未だに種の分からない動きを見せるほむらに警戒を続ける。

 

「なんなんだあんた、一体誰の味方だ?」

 

「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。あなたはどっちなの?佐倉杏子。」

 

「なっ・・・!!」

 

自分の名前を告げられた事に、再び驚愕する杏子。その様子にデカレンジャー二人は、佐倉杏子と呼ばれた少女は暁美ほむらの事を知らないと悟る。

 

「どこかで会ったか?」

 

「さあ、どうかしら?」

 

しばらく睨みあう二人。一触即発な雰囲気に、その様子を見ていたデカレンジャー二人は、目の前の魔法少女が再び戦闘を開始しても即座に止めに入れるよう身構える。だが、先に折れたのは杏子の方だった。

 

「手札が見えないとあっちゃねえ・・・それに、そこサツにまた乱入されたんじゃ堪まったもんじゃないし・・・今日の所は、降りさせてもらうよ。」

 

「賢明ね。」

 

現状を冷静に分析し、撤退する事を選択した杏子。驚異的な跳躍力で両側の壁を蹴って上へと上って行く。やがて姿が見えなくなるのを確認すると、ほむらはまどかとさやかのもとへと向かう。と、そこへ・・・

 

「君達、ちょっと話を聞かせてくれないかな?」

 

デカグリーンことセンが、事情聴取に付き合ってほしいと申し出る。ほむらはデカグリーンの方へ顔を向けるが、

 

「ごめんなさい。」

 

「「!!!」」

 

そう言った瞬間、デカグリーンとデカイエローの目の前にいつの間にか投下された閃光弾が光を発する。激しい光に目晦ましを食らう二人。光が収まると、そこにはもう魔法少女達の姿は無かった。

 

「・・・・・ジャスミン、反応は?」

 

「・・・駄目。完全にロストしてるわ。」

 

デカイエローの言葉に、落胆した様子のデカグリーン。変身を解きながら溜息を吐く。

 

「また、振りだしかな・・・」

 

「そうでもないわ。とりあえず、まどかちゃんが魔法少女の関係者だって事は分かったんだから、あとはボスに報告して、後日にでも事情を聞けば良いわ。」

 

「・・・そうだね。しかし、奴は何者なんだ・・・」

 

「奴って・・・あの、白いウサネコ君?」

 

ジャスミンがウサネコ君と呼び、まどかがキュゥべえと呼んでいた白い四足歩行の動物。デカスーツを装着してから見えたと言う事は、間違いなく魔法関連の存在である。そして、まどかに対して魔法少女の素質があるなどと言っていた事から、恐らくは魔法少女を選定する役目を持っているのだろう。

 

(・・・・・どうあれ、とにかく奴の正体を確かめないと。)

 

キュゥべえの正体を探る事が、魔女や魔法少女の真実を知る唯一の術であると、センは考えていた。

 

 

 

一方その頃、ほむらの機転によって路地裏の戦闘から抜け出したまどかは、未だ目を覚まさないさやかを介抱しながら、脇で立っているほむらを見上げていた。

 

「助けて・・・くれたの?」

 

だが、そう問いかけるまどかへの視線は、どこまでも冷たかった。

 

「一体何度忠告させるの?どこまであなたは愚かなの?」

 

絶対零度の視線と辛辣な棘を持った言葉が、まどかの心に突き刺さる。だが、そんなまどかの様子などお構いなしに、さやかは言葉を続ける。

 

「あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もう散々言って聞かせたわよね?」

 

「私は・・・・・」

 

「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない。」

 

それだけ言うと、ほむらはその場を立ち去って行った。後に残されたまどかは、去って行くほむらの後ろ姿を怯えた様子で見送るだけだった・・・

 

「ほむらちゃん・・・なんで・・・」

 

「なんにせよ、彼女が何かを企んでいるのは確かだ。あの宇宙警察も、信用できるとは限らない。くれぐれも気を付けて。」

 

先の魔法少女同士の戦いに乱入したほむらと宇宙警察の両方に対して警戒するよう促すキュゥべえ。そしてその顔はいつも通り無表情ながらも、正体不明の存在に対して常以上の警戒心を抱いていた。

 

(暁美ほむら・・・君は、まさか・・・)

 

 

 

デカベースに戻ったデカレンジャー一同は、その日の捜査における成果を話し合っていた。そして、今日最大の収穫は言うまでもない、センとジャスミンの魔法少女との邂逅である。

 

「やはり、あの子・・・鹿目まどかちゃんは、魔法少女関連の事柄に関わっていました。」

 

「それに、その友達の美樹さやかちゃんも、魔法少女で間違いありません。」

 

センとジャスミンのライセンスのメモリーに残っていた魔法少女の戦いの映像を、オフィスに集まった一同は食い入るように見つめていた。年端も無い、中学生くらいの少女達が、自分達の知らない所でこんな命がけの戦いをしているのである。そんな事実を前に、市民の安全を守る立場にあるデカレンジャー達の心中は、不甲斐無い気持ちでいっぱいだった。

 

「・・・・・」

 

「バン、大丈夫?」

 

特にその中でも、一際表情が険しいのがバンだった。見滝原市に到着してから最初に出会ったのが彼女達だったにも関わらず、彼女達が心に抱えている不安や恐怖に気付いてやれなかった。そんな自分の愚かしさに、バンは胸を締め付けられる思いだった。

 

「先輩が気に病む必要はありませんよ。」

 

「そうだよ。彼女達はまだ死んだわけじゃないんだ。これからでも、まだ間に合う筈だよ。」

 

「・・・・・そうだな。」

 

センの言葉に、気持ちが晴れたわけではないが、いつまでも引きずっているわけにはいかないと、切りかえる気になったバン。改めて、これからの捜査をどうするべきか考える。

 

「ボス、彼女達が魔法少女関係者である事は明白です。明日、強制的にでも保護して、事情を聞くべきだと思います。」

 

真っ先に意見を出したのは、夕方に見滝原病院から退院したホージーだった。そして、その意見は尤もだった。一般市民である筈の彼女等がこんな危険な事に首を突っ込んでいい筈が無い。ここは少々強引にでも事情聴取をするしかない。

 

「だけどね、ホージー。彼女達は俺達が戦いを止めに入った後、敵意を向けてきたんだ。俺達警察を信用していないのは確かだよ。」

 

センに言葉に、ホージーは反論できない。信用されていない以上、強引に問いただしても、きちんと本当の事を教えてくれるか分からない。それに、もっと根本的な問題が残っている。

 

「それに、魔法少女なんて存在、誰が信じるんですか?」

 

ウメコの言葉に、頭を痛める一同。彼女達を保護するにしても、名目が『魔法少女だから』では、保護者や教育機関は絶対に承知しない。魔法を立証できない以上、彼女達を魔法少女として保護する事は不可能である。現在の捜査で得た成果を世間に公表するにしても、それが真か否か議論している暇は無い。それに、仮に魔法が世間に認識されたとしても、大きな混乱が生じるのは必定である。

 

「やっぱり、向こうから話してくれるのを待つしかないんじゃない?」

 

「ジャスミン先輩の言う通りですね。信用されていない以上、必死に呼びかけて信用してもらうしかないでしょうし。」

 

「・・・ボス、俺にやらせてください!!」

 

テツの言葉を聞くや、バンが名乗りを上げる。確かに、まどか達を説得して、事情を説明してもらうよう呼び掛ける役目ならば、バンが最も適役だろう。だが・・・

 

「大丈夫なんだろうな?」

 

「俺も刑事です。彼女達をこれ以上危険に晒すわけにはいきません・・・絶対に、彼女達の方から話してくれるよう、説得して見せます。」

 

「・・・・・よし、分かった。明日以降、鹿目まどかや美樹さやかはじめとする魔法少女及びその関係者に対する事情聴取は、バンに一任する。ほかの皆はこれまで通り、見滝原市の巡回に向かってくれ。」

 

『ロジャー!!』

 

宇宙警察を信用していないであろう彼女達を説得できるのは、バンしかいない。それは、デカレンジャー全員が理解していた。故に、少々無茶が過ぎると思いながらも、皆はバンに彼女達の相手を任せたのだ。

そしてもう一つ、地球署に所属していた頃、バンが『火の玉』と呼ばれていた事もあってか、八方ふさがりの状況を打開する糸口を掴んでくれるのではないかと、ドギーを含めた皆は、心のどこかで期待していたのだった。

 

「ボス、話があります。」

 

「ん?何だ、ホージー?」

 

皆が解散し、オフィスを後にする中、ホージーだけが残っていた。

 

「今日の夕方、美樹さやかを病院で見かけました。」

 

「そうか・・・それで、それがどうしたんだ?」

 

「彼女は今日、病院に入院している幼馴染の回復を祝うために見舞客として病院を訪れていたそうです。そしてその幼馴染、ヴァイオリニストなのですが、ついこの間までは現代医学では治らないとまで言われた重度の障害を左手に抱えていたそうなのですが・・・昨日、劇的に回復したそうです。」

 

「・・・・・何が言いたいんだ?」

 

捜査とは関係の無い話題に聞こえるが、ホージーがそんな事をわざわざ話すために残る筈がない。ドギーは真剣な顔で問い詰める。

 

「俺が病院で魔女に襲われた時、彼女は魔法少女に変身していませんでした。そして今日、彼女は魔法少女として戦っていたんです。」

 

「・・・・・幼馴染の回復が、美樹さやかが魔法少女になった事と何か関係しているとでも言うのか?」

 

さやかの幼馴染である上条恭介の左手の回復に、医師達は信じられないとばかりに驚いていたが、魔法で治したと考えれば不思議な事ではない。だが、ならば何故、さやかはもっと早く上条恭介の左手を治療しなかったのか?

考えられるのは、さやかが魔法少女になった事である。

 

「推測ですが、恐らく彼女は何者かと契約して魔法少女になり、その代償に幼馴染の左手を治療してもらった、と考えられるわけです。」

 

「成程・・・となれば、センが見たと言う謎の白い動物がそうなのかもしれないな。分かった。俺も別のルートで調査をしてみよう。」

 

魔法少女達が警戒するデカレンジャーは、彼女達の知らない所で魔法少女の、強いてはキュゥべえの真実に近づいていくのだった・・・・・

 

 

 

翌日、都内某所にあるゲームセンター。その一角で、対戦格闘ゲームをプレイしている二人の男女の姿があった。ゲームのキャラクターは所謂スーパー戦隊もののヒーローであり、二人が使っているキャラクターは、両方ともレッドだった。

 

「今日こそは負けないよ!!」

 

「どうかな!?」

 

少女の操るレッドが、男性の操るレッドに猛攻をかける。だが、男性の操るレッドはそれを見事に捌き、少女の操るレッドに対して渾身の一撃を加えた。それにより、少女の操るレッドの体力ゲージがゼロとなり、決着が着いた。

 

「今日も俺の勝ちだったな!!」

 

「くっそー!やっぱ健太さんは強いなぁっ!!同じレッドでもこんなに実力差があるなんて!」

 

「杏子ちゃんもなかなか筋が良いよ。ま、俺に勝つには十年早いけどね!!」

 

「くぅ〜〜!!」

 

対戦格闘ゲームをプレイしていたのは、昨日さやかと戦闘をした、佐倉杏子だった。そして、健太と呼ばれたその相手は、杏子が敬意を払う数少ない人物であり、遊び友達なのである。

悔しそうにする杏子に背を向け、席から立ち上がる健太。

 

「あれ?もう行っちゃうんですか?」

 

「休日はウチの店番しなきゃなんないからね。杏子ちゃん、またな!」

 

「仕事、頑張って下さいよー!」

 

そう声を掛けた杏子に対し、後ろを向いたまま手を振り、ゲームセンターから出て行く健太。杏子はその後ろ姿を見送ると、持っていたお菓子を取り出す。ゲームセンター内での飲食は禁止だが、彼女にはそんなものを守る気は無い。

 

「・・・・・んで、あんたは何さ?」

 

イモリの黒焼き煎餅なる怪しげなお菓子をつまみながら、杏子は自身の後ろにいる人物に声を掛ける。そこにいたのは、見滝原中学の制服に黒の長髪が目立つ、暁美ほむらだった。

 

「この街をあなたと巴マミに預けたい。」

 

「?」

 

イモリの黒焼き煎餅を食べながら、ほむらの話に聞き入る杏子。いきなり自分に対して友好的に接してくる事を怪訝に思っていた。

 

「どういう風の吹きまわしよ?」

 

「魔法少女には、あなたや巴マミのような、覚悟を持った子が相応しいわ。美樹さやかでは務まらない。」

 

「フッ・・・もとよりそのつもりだけどさ、そのさやかって奴どうする?あと、デカレンジャーだったかな?ほっとけばあいつらもまた、突っかかってくるよ?」

 

「なるべく穏便に済ませたい。あなたは手を出さないで。美樹さやかに関しては、私が巴マミと共に対処する。宇宙警察の方は、捕まりさえしなければ面倒は起きない筈よ。」

 

「・・・まだ肝心なところを聞いてない。あんた何者だ?」

 

ほむらの方を振り向きながら問いかける杏子。対するほむらは、首を傾げたまま口を開かない。

 

「一体、何が目的なのさ?」

 

黙ったままのほむらに背をむけ、ゲームの筺体を吟味する杏子。そんな杏子に、ほむらが重大な事実を告げる。

 

「二週間後、この町にワルプルギスの夜が来る。」

 

「・・・何故分かる?」

 

ゲームの筺体吟味をやめて、背を向けたままほむらへ問いかける杏子。ワルプルギスの夜とは、魔法少女たちの間で囁かれている、魔女の中でも強大な力を有した最強クラスの魔女である。その襲来を察知する事など、到底できるものではない。

 

「それは秘密。とにかく、そいつさえ倒せたら、私はこの街を出て行く。あとはあなた達の好きにすればいい。ただし、それまでは巴マミと事を構えないでほしい。」

 

「ふぅーん・・・ワルプルギスの夜ねえ・・・デカレンジャーの奴等じゃどうにもならねえだろうし、一人じゃ手ごわいが、あたしら三人がかりなら勝てるかもな。」

 

そう言うと、杏子はほむらへ再び向き直り、先程取り出したお菓子――イモリの黒焼き煎餅をほむらへ差し出す。

 

「食うか?」

 

「・・・・・」

 

イモリの形をした煎餅を見たほむらは、沈黙する。表情には出ていないが、内心では若干動揺していた。

 

「・・・ま、食わねえだろうがな。」

 

そう言いながら、また一つ煎餅を口にする杏子。二人の間には、それから一切言葉はなかった。

 

 

 

「やっぱり、宇宙警察の人たちがあの場所を立ち入り禁止にしちゃってるみたいね。」

 

とあるビルの屋上から、さやかと杏子が戦闘を行った路地裏を望遠鏡越しに見つめる少女が居た。マミである。

昨日、使い魔を見つけ、別の魔法少女と戦闘を行ったと聞いたマミは、手掛かりを探るべく現場に来ていた。だが、予想通り、戦闘に介入した宇宙警察によって路地裏は閉鎖され、近づくことすらできない状況だった。

 

「す、すみません・・・」

 

「気にしないで。あなたの不手際じゃないわ。それに、使い魔相手じゃ痕跡を辿るのはどの道無理だったでしょうからね。」

 

同行していたさやかが謝罪をするが、マミは気に病む事は無いと慰めの言葉を送る。

 

「あの・・・マミさんは、昨日さやかちゃんを襲った魔法少女を知ってるんですか?」

 

「ええ・・・佐倉杏子。隣町をテリトリーにしている魔法少女だったんだけど、まさかあなた達を襲いに来るなんてね。私がもっと注意しておけば、こんな事にはならずに済んだかもしれない・・・さやかさん、ごめんなさい。」

 

「それこそ、マミさんが気にする事じゃないですよ・・・」

 

さやかと共に同行していたまどかの問いかけに、マミは苦虫を噛み潰したような顔をする。見滝原を管理する魔法少女として、彼女なりに責任を感じていたのだった。

 

「それにしても、厄介な事になったわね。彼女の乱入に加えて、宇宙警察まで捜査に乗り出すなんて・・・」

 

病院で魔女を倒した時から、宇宙警察を警戒してはいたものの、自分達魔法少女の事に関してはほとんど掴んでいないと思っていた。だが、今回の事件を考えるに、宇宙警察の人間は既に魔法少女や魔女の存在について気付いていると見て間違いない。

 

「昨日、私達の家に宇宙警察の人たちが尋ねてきたそうですよ。私やマミさんが魔法少女だって事は、とっくに知られているみたいです。」

 

「仕方ないわね・・・飽く迄、知らぬ存ぜぬで押し通すわよ。向こう側も、魔法少女の事を公に出来ない以上は、あまり派手な介入は出来ない筈よ。」

 

「もし、マミさん達の事が宇宙警察の人たちに知れたら、どうなるんですか?」

 

「それは僕にも分からない。けど、彼等宇宙警察が、君達の力を手に入れるために動いている可能性はある。佐倉杏子や暁美ほむら同様、気を付けた方がいい。」

 

暗に、宇宙警察を信用してはならないと告げるキュゥべえに、さやかとマミは頷く。だが、まどかだけはその意見に賛成できなかった。宇宙警察と聞いて思い出されるのは、いつも気さくに話しかけてくれるバンの事。彼に関しては、魔法少女である友人達を売る様な真似をする人間には思えなかった。だが、気の弱いまどかは二人に対してそれを意見する事は出来なかった。

 

「当面の敵は、あの杏子って魔法少女ですね。さて、どうしたもんやら・・・」

 

「あの・・・さやかちゃん。もう一度あの子と話し合えないかな?」

 

話題が杏子の事に戻ったところで、まどかがさやかに対して、杏子との話し合いを提案する。

 

「このまま魔女退治を続けてたら、またあの子と会って・・・またいきなり喧嘩の続きになっちゃうよ。その前に、話し合いを・・・」

 

「喧嘩ねぇ・・・まどかには、あれがただの喧嘩に見えたの?」

 

その言葉に、場の空気が凍りつく。マミは現場に居合わせていなかったが、杏子の性格を知っているだけに、どんな具合だったかは想像するに容易かった。

 

「あれはね・・・正真正銘の殺し合いだったよ。お互い嘗めてかかってたのは最初だけ。途中からは、私もアイツも本気で相手を終わらせようとしてた。」

 

「そんなの・・・尚更駄目だよ。」

 

「だから話し合えって?馬鹿言わないで!相手はグリーフシードのために人間を餌にしようって奴なのよ・・・どうやって折り合いつけろっていうの?」

 

さやかの気迫にまどかは慄き、言葉を失う。付き合いの長い親友が、こんなに恐い顔をするとは思ってもみなかった。

 

「昨夜逃した使い魔は小物だったけど・・・それでも人を殺すんだよ!!次にアイツが狙うのは、まどかのパパやママかもしれない・・・タッくんかもしれないんだよ!?それでもまどかは平気なの!?ほっとこうとする奴を許せるの!?」

 

気迫と共に増すさやかの怒りに、まどかは怯えるしかない。一歩、また一歩とさやかから後退りし、距離を開けるまどかからは、恐怖心が顕著に見られた。だが、さやかは言葉を止めない。そこへ、

 

「そこまでよ。」

 

「「!」」

 

マミが割って入った。これ以上感情的になると、二人の仲に皹が入るだろうと考えたマミは、さやかを諭すように口を開いた。

 

「美樹さん、あなたの言いたい事はよく分かるわ。私だって、魔女は勿論、使い魔だって放っておけない。」

 

マミの介入によってクールダウンしたさやかは、ただただその言葉に聞き入っている。

 

「でもね、人知れず活動する私達魔法少女には、世間の法律や道徳による拘束が存在しないの。この意味、分かる?」

 

まどかとさやかの両方へ目を向けるマミ。その視線は、とても冷たい物だった。

 

「魔女や使い魔を倒す事は私達の使命・・・だけど、人を守るのは義務じゃないの。それを行うかどうかは、個人の自由よ。そう言う意味では、佐倉杏子の様な魔法少女が真理なのかもしれないわね・・・」

 

「マミさん・・・そんな!!」

 

尊敬していた先輩が告げた言葉に絶句するさやか。さやかにとっての魔法少女としてのありようは、正義の味方そのものだった。だが、マミはそれが絶対的な価値観ではないと言ったのだ。

 

「私は、ただ魔女と戦うだけじゃなくて、大切な人を守るために子の力を望んだ・・・だから、もし魔女より悪い人間が居れば、私は戦う。譬えそれが、魔法少女でも!!」

 

それだけ言うと、さやかはその場を立ち去って行った。その後ろ姿を、まどかは涙を浮かべながら、マミは深刻な表情で見つめていた・・・

 

 

 

「今日も、いませんか・・・分かりました。また明日、お伺いします。」

 

時刻は既に夜中。夜の闇が包む住宅街の中、赤いラインの入った宇宙警察服を着た一人の刑事がマンションを出て、車に乗り込んでいた。・・・バンである。

 

「はぁ〜・・・また帰ってなかった・・・」

 

魔女捜査の傍ら、まどかとさやかに事情聴取を試みていたバンだったが、今回も空振りに終わっていた。ちなみに、訪れていたのはさやかの自宅があるマンションである。

 

「何でこんなときに会えないんだよ・・・」

 

まどか達には少しでも早く、危険な事から手を引かせたいと思っているバンだったが、一向にまどか達と会えない現状に、溜息を吐くばかりだった。

こうしていても仕方ないので、一先ず今日のところはデカベースへ戻ろうとハンドルを握るバン。ついでに、まどかの家の前を通って見ようと思ったその時・・・

 

「まどかちゃん!!?」

 

今日一日、探し回って見つからなかった目的の少女が、家から出て行く所を見つけるバン。車を道路脇に寄せ、まどかの手前で停車する。

 

「まどかちゃん!!」

 

「あ、バンさん!!」

 

突然のバンの登場に驚くまどか。バンは車から降りると、まどかの方へと歩み寄る。

 

「探してたんだ。ちょっと話を聞かせて欲しくてさ。」

 

「そ、それよりも・・・大変なんです!!」

 

「え、どうしたの?」

 

慌てた様子で、夜中に家を飛び出した理由を話すまどか。バンは事情を聞くと、まどかを車に乗せて、騒動が起こっているという場所へ向かって行った。

 

 

 

見滝原市の高速道路の上に架かる歩道橋。その上で、二人の魔法少女――さやかと杏子が対立していた。

 

「ここなら遠慮はいらないよね?いっちょ派手に行こうじゃない?」

 

左手を振りかざし、赤い装束を身に纏い、魔法少女へと変身する。それに対し、さやかもまた左手にソウルジェムを乗せ、魔法少女へと変身しようとするが・・・

 

「待って!!さやかちゃん!!」

 

「二人ともやめろ!!」

 

「!?」

 

魔法少女へと変身しようとした所へ割って入ったのは、バンとまどかだった。足元にはキュゥべえも居る。

 

「まどか・・・それにバンさん!?」

 

「魔法少女同士で戦うつもりなら、今すぐやめるんだ!!」

 

「っ・・・邪魔しないでください!!バンさんやまどかには関係ないでしょう!!」

 

「俺は警察だ!!子供があんな物騒な物持って喧嘩するのを黙って見ていられる筈無いだろう!!」

 

「駄目だよこんなの・・・絶対おかしいよ!!」

 

魔法少女同士の戦いを止めようと必死になってさやかを説得する二人。そんな二人を、杏子は鼻で笑う。

 

「ウザい奴にはウザい仲間が居るもんだねえ。」

 

「じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら?」

 

「!?」

 

気配もなく、杏子の背後に現れたのは、ほむら。無表情ながら冷やかな視線を杏子に送る。そしてもう一人・・・

 

「美樹さん、そこまでにして。」

 

「マミさん!?」

 

魔法少女の姿で歩道橋へ現れるマミ。マスケット銃を手に持ち、戦闘態勢を整えている。

一方、ほむらは杏子のやり方に異議を申し立てている。

 

「話が違うわ。美樹さやかには手を出すなと言った筈よ。」

 

「あんたのやり方じゃ手ぬるすぎるんだよ!!どの道向こうはやる気だし・・・」

 

「巴マミが介入した以上、向こうは手を引いてくれる筈よ。そうよね?」

 

「そのつもりよ。私も、こんな争いを後輩にやらせるつもりは毛頭ないからね。」

 

「マミさん!!・・・くっ!!」

 

バン、まどか、マミ、ほむらの四人の介入にも関わらず、未だに戦闘をしようとするさやかと杏子。このままでは、四人の魔法少女による大乱闘が繰り広げられるかもしれない。

 

「さやかちゃん、ゴメン!!」

 

戦いを回避するにはこれしかない。そう思ったまどかは、さやかの左手に乗せてあるソウルジェムを取り、橋の上から投げ捨てる。ソウルジェムはトラックの荷台に落ち、遠くへと運ばれていった・・・

 

「なっ!!」

 

まどかの行動に驚愕する四人。だが、ほむらだけはいち早く動き出し、ソウルジェムの落下と共にその場から消えていた。

 

「まどか!!あんた何て事・・・!!」

 

「だって、こうしないと・・・」

 

その瞬間、さやかがまどかの方へ倒れる。それは、まるで糸の切れた人形の様だった。目は光を失い、本当に『魂の抜けた』人形の様だった。

 

「美樹、さん・・・?」

 

「ど、どうしたんだよ!?」

 

さやかの異変に気付いた残りの人間が、さやかとまどかのもとへ近づく。と、その時、歩道橋の手すりに乗ったキュゥべえが口を開いた。

 

「今のは拙かったよ、まどか。」

 

「え?」

 

「よりにもよって、友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ。」

 

「何・・・なんなの?」

 

キュウべえの言葉の意味が分からず、混乱するまどか。バンとマミも同様である。すると、後から駆け寄ってきた杏子が、さやかの首を掴んで持ち上げた。

 

「お、おい!!乱暴な事を・・・」

 

「・・・どういう事だ、オイ。コイツ死んでるじゃねえかよ!!」

 

「えっ!?」

 

「何っ!?」

 

「!!」

 

杏子の言葉に戦慄する一同。やがてさやかが地面に下ろされると、まどか達三人が駆け寄り、必死に名前を呼び掛ける。だが、返事は全くない・・・まるで、本当に死んでいるかのように。

 

「何がどうなってやがんだ・・・オイ!!」

 

現状について知っているであろうキュウべえに対して怒鳴りつける形で説明を要求する杏子。マミとバンも同様にキュゥべえの方を向く。

 

「君達魔法少女が体をコントロールできるのは、精々100メートル圏内が限度だからね。」

 

「100メートル・・・何の事だ!?どういう意味だ!?」

 

「普段は当然肌身離さず持ち歩いているんだから、こう言う事故は滅多にある事じゃないんだけど。」

 

「何言っているのよキュゥべえ!!助けてよ!!さやかちゃんを死なせないで!!」

 

友人の危機に半狂乱に陥ったまどかが必死にキュゥべえにさやかを助けてくれと頼み込む。だが、キュゥべえは呆れた様に溜息を吐くと、

 

「まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって。」

 

「え?・・・」

 

「さやかはさっき、君が投げて捨てちゃったじゃないか?」

 

「・・・まさか、あの宝石には・・・!!」

 

キュゥべえの言葉から、バンは現在のさやかの状態を引き起こした根源となったモノ――ソウルジェムが、如何なるものかを察する。

 

「ただの人間と同じ、壊れやすい体のままで魔女と戦ってくれなんて、とてもお願いできないよ。君達魔法少女にとって、元の身体なんて言うのは、託のハードウェアでしかないんだ。君達の本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで安全な姿が与えられているんだ。」

 

その言葉に、バンは確信する。ソウルジェムと呼ばれる、魔法少女の持つ宝石の正体とは・・・

 

「魔法少女との契約を取り結ぶ、僕の役目はね、

君達の魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ。」

 

ソウルジェムの正体をはっきりと言いきったキュゥべえ。終始無表情のその様子に、一同は冷や汗しか出ない。

 

「テメエは・・・何て事を!!」

 

半ば逆切れに近い形で、キュゥべえを耳から持ちあげる杏子。バンとマミも同様に怒りを込めた視線をキュウべえへ送っている。

 

「ふざけんじゃねえ!!それじゃあたしたち、ゾンビにされた様なもんじゃないか!!」

 

「むしろ便利だろう?心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その体は魔力で修理すれば、すぐまた動くようになる。ソウルジェムさえ砕かれない限り、君達は無敵だよ。」

 

その言葉に、バンの額に青筋が浮かんだ。

 

「弱点だらけの人体よりも、よほど戦いでは有利じゃないか。」

 

「酷いよ・・・こんなの、あんまりだよ・・・!!」

 

「キュゥべえ・・・あなた、私達を騙していたのね・・・!!」

 

泣きだすまどかと、キュゥべえに怒りをぶつけるマミ。バンは怒りを露わにして、立ち上がった姿勢で動かない。

 

「君達はいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在り処にこだわるんだい?」

 

「こ、の・・・・ふざ」

 

「ふざけんなぁっ!!!」

 

今までキュゥべえの話を黙って聞いていたバンが、杏子を押しのける形で声を張り上げる。その顔には、怒り以外の何物もなかった。

 

「人間の身体は道具じゃねえ!!何がすぐに治せるだ!!修復できるだ!!たった一度の命を、生まれ持った体で一生懸命に生きるのが人間だ!!こんな力は間違ってる!!!」

 

「宇宙警察も、決まってそのパターンだったよ。全く、君達は本当に理解できないよ。」

 

「キュゥべえとか言ったな・・・お前を逮捕する!!!」

 

杏子に耳から吊るされているキュゥべえを確保すべく動くバン。だが、キュゥべえは、

 

「悪いけど、それはお断りだよ。」

 

そう言うと、背中の丸い穴を開いて、球体上の何かを出す。

 

「何!?」

 

「わっ!!何だこいつ等!!」

 

球体が地面に落ちると共に現れたのは、穴の空いた小惑星をモチーフにした顔のロボットが十数体。

 

「ドロイド!?まさか今まで捜査を撹乱していたのは!!」

 

「君達に魔法少女達の邪魔をされては困るんだよ。それに、僕も君達に捕まるつもりは無い。」

 

ドロイドの出現と同時に、杏子から開放されたキュゥべえはそれだけ言うと、歩道橋の向こうへ歩き去って行く。バンは後を追おうとするが、ドロイド――アーナロイド達が邪魔をする。

 

「エマージェンシー・デカレンジャー!!!」

 

すぐさまデカレッドへと変身してドロイド達を蹴散らすが、キュゥべえの姿は既に闇の奥へ消え、見えなくなっていた。やがて、デカレッドと杏子、マミがアーナロイドを倒し終えると共に、消えていたほむらがさやかのソウルジェム片手に戻り、さやかは意識を取り戻したのだった。

 

説明
見滝原市にて、謎のエネルギー反応が続発する。一連の現象について調査をすべく、見滝原市へ急行するデカレンジャー。そこで出会ったのは、この世に災いをまき散らす魔女と呼ばれる存在と戦う、魔法少女と呼ばれた少女達。本来交わる事の無い物語が交差する時、その結末には何が待っているのか・・・
この小説は、特捜戦隊デカレンジャーと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバーです。
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デカレンジャー 魔法少女まどか☆マギカ 戦隊ヒーロー 魔法少女 魔女 クロスオーバー 

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