特捜戦隊デカレンジャー & 魔法少女まどか☆マギカ フルミラクル・アクション
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Episode.09 ロンリー・タイムトラベラー

 

デカベースの医務室の中、パトロールから戻ったジャスミンとウメコは、市民の保護という名目の元に連れ帰った魔法少女、暁美ほむらをベッドに寝かせていた。

 

「こうして寝ていると、普通の子供なのにね・・・」

 

「こんな子供達が戦うなんて・・・絶対おかしいよ。」

 

ほむらの寝顔を見ながら、本来ならば青春を謳歌している筈の年頃の少女達が、命がけの戦いに繰り出されているという現実を、その様な手引きをした存在を二人は憎んでいた。それと同時に、そんな少女達の真実に今まで気付けなかった自分達が不甲斐無く、悔しかった。

 

「やっぱり、あのキュウべえって呼ばれている白い動物の正体を見極めないと・・・」

 

「そうね。それに、この事件は私達が終わらせなきゃね・・・それじゃ、行くわよ。」

 

そう言って、グローブを取るジャスミン。ジャスミンはエスパーである。人に触れる事で、相手の記憶を読みとる事が出来るのだ。

 

(この子が魔法少女となって戦う理由・・・それは・・・・・)

 

ほむらの記憶の海へと意識を潜り込ませながら、彼女の魔法少女としての真実に迫るジャスミン。そしてそれは、同時に彼女が背負った過酷な運命を知ることでもあるの事を、この時の彼女はまだ知る由も無かった。

 

 

 

呪いや怨嗟に満ちた奔流が、譜面と音符で色取られた邪悪な旋律の世界を作りだした。辺り一面に絶望まで続いているかのように網状に展開する路線。そんな中、バンと杏子は自分達の置かれた状況を把握するよりも早く、自分達と共にこの世界に呑まれたさやかを見つけ出す。

 

「さやか!!」

 

邪悪な呪いに染まる世界の中枢、そこに佇む異形――魔女の目の前にて、空中から落下する少女の姿。それを認識するや、杏子は魔法少女へと変身し、救出に向かう。

 

「エマージェンシー・デカレンジャー!!!」

 

一方、バンもSPランセンスを取り出してデカスーツを装着し、デカレッドへと変身。杏子に続いてさやかの元へと向かう。

 

「クソッ!!」

 

だが、杏子の行く手を阻むように、中枢に居座る魔女から線路の様な無数の触手が繰り出される。それらの攻撃に苦戦する杏子に対し、デカレッドが援護射撃を行う。

 

「ディーマグナム!!」

 

デカレッドが取り出したディーマグナムの二丁拳銃から放たれるビーム光弾によって、杏子の行く手を阻む線路を撃ち抜いて行く。杏子は援護射撃によって出来上がった道を真っ直ぐ進み、さやかを受け止めるべく跳び上がる。

 

(やった・・・!)

 

そう内心で安堵したのも束の間だった。次の瞬間には、

 

ZeAahhhhhhhhhhhhhhhaaaaaaaa!!!!!

 

けたたましい異形の咆哮が響き渡る。空気をビリビリと振動させる程の衝撃を伴ったそれに、しかしデカレッドと杏子は踏み耐えた。

 

「くそっ・・・何なんだあの化け物は・・・一体、さやかちゃんはどうなったんだ!!」

 

「くっ・・・まさか、本当に・・・本当に魔女になっちまったのかよ!!」

 

目の前に広がる現状を作り出した根源の正体を知らないデカレッドには、目の前に佇む異形の存在が、倒すべき敵としか映らない。だが、杏子の反応は違った。彼女だけは目の前の存在が如何なるものかを知っていたのだ。

 

(あいつは・・・全部、こんな事まで知ってたってのかよ!!)

 

自身に真実を告げた少女――ほむらの事を半ば恨みながら思い出す杏子。今思い返してみれば、彼女がさやかを見つめる視線には諦めや呆れがいつも含まれていた。まるで、さやかがいずれこの様な結末を辿る運命を見透かしていたかのような・・・

 

「杏子ちゃん!!さやかちゃんを連れて逃げるんだ!!」

 

さやかを受け止めた杏子に対して魔女が放つ車輪や線路の攻撃を射撃で破壊していくデカレッド。杏子もさやかを背負ったままでは戦う事など出来る筈もなく、デカレッドの元まで後退していく。

 

「ディーマグナムの弾丸じゃ歯が立たないか・・・なら、これでどうだ!!」

 

両手に持っているディーマグナム01、02を連結・合体させるデカレッド。銃口を目の前に立ちはだかる魔女へ向け、エネルギーを収束していく。

 

「ハイブリッドマグナム!!ストライク・・・」

 

「やめろっ!!」

 

「なっ!?」

 

だが、デカレッドが射出した帯状のビームは、杏子の入れた文字通り横槍によって邪魔され、照準がずれた。ビームは魔女に命中する事なく、空間内に展開する線路の一部を破壊するに終わる。

 

「何するんだ!!」

 

「あいつを殺しちゃいけないんだよ!!あいつは・・・

あいつは、さやかなんだよ!!!」

 

一瞬、時が止まった様な錯覚が起きる。杏子の放った言葉の意味を理解できず、思考が硬直するデカレッド。だが、その数秒程の時が過ぎると同時に思考が復活し始め、徐々に杏子の言葉の意味を理解し始める。

 

「まさか・・・そんな・・・」

 

「・・・・・」

 

さやかのソウルジェムが砕ける瞬間に溢れた負の濁流。それを考えれば、目の前の魔女が何故いきなり現れたのかは想像に難くない。だが、それはバンにとっては受け入れがたい真実で、しかし杏子の沈黙がそれを肯定する。

 

「さやか・・ちゃん・・・」

 

自身が傍に居ながら救えなかった少女が辿った末路。魔女を倒し、人助けがしたいと、人の幸せを願って戦い続けた挙句、彼女は魔女と言う名の人を呪う存在となった。自分と同じ、正義の心を信じ続けていた筈の少女の、あまりに救われない凄惨な結末に、バンはマスクの下で涙を浮かべていた。

 

「おい!!避けろ!!」

 

「はっ!!!」

 

さやかだったモノを前にして、思考が硬直していたデカレッドは、魔女が放った車輪の攻撃に気付かなかった。杏子は既に安全圏に逃げていたが、デカレッドは反応が遅れていた。

そして、車輪がデカレッドに当ろうとしたその時だった。

 

「しっかりしろ、バン!!!」

 

デカレッドに迫っていた車輪が突如現れた影が視界を過ると共に、両断したのだ。バンは突然の出来事にはっと我を取り戻すが、目の前に現れた人物に驚愕する事になる。

 

「ボス!?どうしてここに!!」

 

そこに居たのは、黒とメタリックブルーのツートンで色取られたデカスーツに身を包んだ、自分達のよく知る地球署署長。第一線で活躍していた頃は、“地獄の番犬”と犯罪者達から恐れられた剣豪。ドギー・クルーガーがマスターライセンスで変身した姿、デカマスターだった。構えていた愛刀、ディーソード・ベガを下ろすと、バンの方を振り返る。

 

「話は後だ!!それより、今はここから退くぞ!!」

 

それだけ言うと、目の前に立ちはだかる魔女に背を向け、バンの横を通り過ぎて結界の中を走りだす。デカレッドは話をする間も無く、その跡を追う。

 

「君も早く来るんだ!!今は脱出する事が先決だ!!」

 

「ふざけんな!!あたしはさやかを・・・」

 

「今のままではあの魔女には勝てない!!今は黙って退け!!」

 

デカマスターの言葉に反抗する杏子だったが、その言葉の通り、今は目の前の魔女を――さやかを倒す事などできない。このまま結界の中に残っていても、力尽きて魔女の餌食になるのが関の山。ならば、退くしかない。

 

「おいアンタ!!脱出するって言ったからには、ちゃんと手はあるんだろうな!?」

 

杏子の心配も尤もである。魔女の結界を脱出するのは容易ではない。特に、今現在魔女はデカマスター達を敵と認識して攻撃を続けている。結界を抜けるのは困難を極める。だが、デカマスターは平然と返す。

 

「問題無い。そのための武器も用意した。」

 

「ボス、それってもしかして・・・」

 

デカマスターが取り出した、ディーソード・ベガとは別の、もう一振りの剣。その意匠に、デカレッドは見覚えがあった。それは確か、『天空の花事件』の時、敵として現れた魔導騎士が握っていた・・・

 

「ウルサーベル・・・魔導斬り!!」

 

デカマスターが魔剣・ウルサーベルで結界の空間を一閃。すると、剣を振るった空間だけが綺麗に刳り貫かれた様に穴が開く。

 

「嘘だろ、オイ!?」

 

「急げ、早くしないと塞がるぞ!!」

 

デカマスターの常識を逸した剣技に呆ける杏子を余所に、デカマスターは脱出を促す。デカレッドとデカマスター、そしてさやかを抱えた杏子が穴へと飛び込む。次の瞬間、突風に吹き飛ばされるかのような錯覚が起こり、周囲の景色が歪む。やがてそれは、形を取り戻して、当初居た駅のホームへと戻っていった。

 

「どうやら、元に戻れたようだな。」

 

変身を解除しながら呟くドギー。バンも同じく変身を解除する。そして、その場に先程まで居た筈の人物の姿が見えない事に気付く。

 

「あれ?杏子ちゃんは!?」

 

「恐らく、空間跳躍をした際に、離れた場所に飛ばされたんだろう。」

 

杏子が居なくなった事に驚くバンだが、ドギーは慌てた様子は無く、平然とそう返した。そして、踵を返して駅のホームから立ち去ろうとする。

 

「良いんですか、ボス?」

 

「彼女も魔法少女だ。恐らく無事に脱出しているだろう。それに、彼女を追う事はすでに禁じられている。」

 

「それはそうですけど・・・」

 

「それに、魔法少女についての情報なら、有力な物が基地に転がりこんできているそうだぞ。」

 

「へ?」

 

ドギーの言葉の意味を理解できず、困惑するバン。とりあえずドギーの言う通り、基地に戻ってみる事にするのだった。

 

 

 

「・・・・・」

 

暁美ほむらは、現在自分が置かれている状況を理解できなかった。

公園で起きたドロイド軍団との戦闘の後、デカレンジャー達に基地まで連れてこられたのだろう。目が覚めた時は、S.P.D.の文字が目立つ仮眠室の様な場所のベッドで横になっていた。目覚めた時に自分のもとへ来てくれたのが、公園で自分を保護してくれた、デカレンジャーのジャスミン、ウメコと呼ばれている女性だった。

すぐさま事情聴取に入るのかと思いきや、ウメコに手を引かれてやってきた場所は・・・

 

「フンフン〜〜♪」

 

「・・・・・」

 

ほむらのすぐそこで鼻歌交じりに入浴を楽しんでいるウメコ。そう、今現在彼女等は、デカベースの大型浴場へ来ていたのだった。ウメコに手を引かれてここに案内されたほむらは、目にも止まらぬペースで着衣を脱がされ、髪を纏められ、気付いた時には入浴していたのだった。

 

「いや〜、やっぱりお風呂は最高だね〜」

 

「・・・はい。」

 

アヒル人形を浮かべて遊びながら話しかけるウメコから掛けられる言葉に、ほむらは片言で返すしか出来ない。まさか、宇宙警察の人間が基地内にこんな浴室を設ける程の風呂好きだとは、ほむらは夢にも思わなかった。そして、自分が一緒に風呂に入れられる等全く予想していなかった出来事である。

 

「魔法少女も戦っていれば、汗はかくしね。それに、お風呂は身体だけじゃなくて、心の洗浄だよ。」

 

「そ、そうですね。」

 

魔法少女が戦いの中で溜めこんだ魂の穢れは、グリーフシードで浄化するのだが、ウメコの言葉には妙な説得力があった。そして、あの戦闘の後で穢れを溜めこんでいる筈の自身のソウルジェムには、何故か異常を感じない。

そうこうしている間に、入浴タイムは終了し、ほむらはS.P.D.支給の衣服に着替えて指令室へと連れて行かれたのだった。

 

 

 

デカベースのオフィスには、既にウメコを除くデカレンジャーの面子全員が揃っていた。その中には、つい先日までハザード星へ出張に出ていたテツや、駅でさやかの魔女化に立ち会ったバンとドギーの姿もある。

 

「全員、揃った様だな。」

 

オフィスに集まったデカレンジャーは七人。その中には、ほむらにとって初対面の人物も居た。

 

「ジャスミンとウメコはもう紹介を済ませたんだよね。俺は江成仙一。実際、会うのは二度目だけどね。」

 

「俺は初めてだったな。戸増宝児だ、よろしく。」

 

「姶良鉄幹です、よろしく。」

 

「ドギー・クルーガーだ。ここの署長をしている。」

 

地球署一同の自己紹介が済んだ所で、ほむらが前に出て、改めて自らも挨拶をする。

 

「暁美ほむら・・・魔法少女です。」

 

「それじゃあ、お互い挨拶も済んだ所で、早速話を聞かせてくれるか?」

 

ほむらをじっと見据えて話すバン。その目は真剣そのものだった。自分が不甲斐無いばかりにさやかが魔女化してしまったと考え、責任を感じていたバンは、さやかを救う可能性が微塵でもあるのならば、それに賭けてみたいと思っていた。たとえ、その結果自らの地位や職を失ったとしても。そしてそのためには、魔法少女に関する情報を何としても目の前の少女から手に入れなければと思っていた。

だが、目の前の少女はこの期に及んでも一行に口を開こうとしない。そんな中、沈黙を破ったのは、ジャスミンだった。

 

「・・・バン、私から説明するわ。」

 

ジャスミンの言葉に、一同の視線が集まる。ほむらだけは、彼女の能力を知らなかったために僅かに動揺している様子だった。

 

「ごめんなさい。私の能力で、あなたの記憶を覗かせてもらったわ。あなたが魔法少女になったきっかけも、まどかちゃんの事をどれだけ大切に想っているかも・・・それに、長い旅をしてきた事も。」

 

「!!・・・」

 

その言葉に、再び動揺するほむら。ジャスミンの口から出た内容を聞いて、ほむらは目の前の女性が自分の過去を知ったと言う事を疑わなかった。だが、ジャスミンが話し始めるのを止めようとも思わなかった。ほむら自身、この期に及んで魔法少女関連の情報を出し惜しみするつもりは毛頭無かったが、自身の事をあまり口にするのには抵抗があった。

 

「あなたの魔法は、時間操作。その能力で、これから起こる破滅の未来と、自分が魔法少女として戻りたいと願った時間とを何度も行き来してきたのね。」

 

「ちょ、ちょっと待て!!時間操作ってどういう事だよ!?あと、破滅の未来って何だ!?」

 

時間操作という突拍子もない単語が出てきた辺りから、事情を理解しきれなくなったバンが声を上げる。他の面子も皆驚いた様子だった。

ジャスミンが詳しく説明しようとした時、口を開いたのはほむらの方だった。

 

「私、暁美ほむらが魔法少女となる時に願った事、それは『まどかとの出会いをやり直し、彼女に守られる人間から彼女を守る人間になりたい』と言う事。その願いによって発現した能力が、『時間操作』。」

 

「成程・・・その能力を使って、過去と未来を行き来してきたというわけか。」

 

「・・・正確には、破滅の未来とまどかと出会う前の過去とを行き来してきたという事。」

 

「その、『破滅の未来』っていうのが気になるね。まどかちゃんの身に危険が迫る様な話だったけど、どういう事なのかな?」

 

ほむらの説明にドギーが得心したように頷く。一方、センは先程から出ている『破滅の未来』という単語について問い詰める。

 

「それは、これからそう遠くない内に見滝原市に来る魔女、『ワルプルギスの夜』の事よ。」

 

「ワルプルギスの夜?」

 

「魔法少女の歴史上で語り継がれる、超弩級の魔女の事よ。彼女の記憶を見る限りでは、見滝原市全てを破壊し尽くす程の力を持っていたわ。」

 

ジャスミンの説明に戦慄する一同。これまで怪重機の様な巨大な敵と幾度となく戦ってきたデカレンジャーだが、まさか魔女の中にそんな災害クラスの破壊力を持った存在が居るとは、全く想像出来なかった。

 

「まどかはそいつとの戦いで命を落とした。そこから、私の契約と旅が始まった・・・」

 

「そんな・・・それじゃあ君は、まどかちゃんが死ぬ運命を覆すために、時間跳躍を続けてきたって言うのかい?」

 

「その通りよ・・・まどかは、私のたった一人の親友だった。だから、どうしても助けたかった。彼女のためなら、私は譬えこの時間の中に・・・出口の無い迷路に閉じ込められても良いと、そう思ったのよ。」

 

「でも、それじゃあ君はどうなる!?誰が君を助けるんだ!?」

 

信念の籠った目で自身の真実を口にするほむら。その瞳には揺るぎない決意が灯っていた。だが、それに対してセンが声を荒げた。

 

「君がまどかちゃんの事を大事に想うのは分かる。でも、彼女の幸せを願うなら、なんでもっと自分を大切にしないんだ!!まどかちゃんにとっても、君は親友だろうに!!」

 

他者のために自身を犠牲にし続けるやり方に、センは憤りを覚える。何故自分一人が犠牲になる道を選ぶのか。大切な人を失う悲しみを知っているならば、もっとやり方があった筈だと、センは訴えかける。

 

「・・・簡単に言わないで。」

 

だが、ほむらはそれに対して怒りの籠った声で応えた。

 

「私が同じ時間を繰り返して知った事・・・今まで話さなかったと思うの?私は何度も皆に訴えかけたわ、キュゥべえに騙されてるって・・・でも、誰も聞く耳を持たなかった。」

 

同じ時間を繰り返す中で何度もほむらは魔法少女の真実について同じ魔法少女達に訴え続けてきた。だが、誰ひとりとして耳を貸す者はおらず、その言動は魔法少女達から疎まれ続けた。

 

「だから私は誓った。“もう、だれにも頼らない”と」

 

誰も未来を信じない。誰も未来を受け止められない。ならば、自分が戦うしかない。まどかには戦わせず、自分一人で全ての魔女を屠るしかない。それが、長い時間を旅してきたほむらの答えだった。

 

「セン、そのくらいにしておけ。彼女だって、辛い思いをして戦ってきたんだ。だが、今は違うだろう?」

 

ドギーの言葉の意味を、一同は同時に理解した。過去は変えられなくても、未来は変えられる。ならば、まどかだけじゃない、ほむらを含めた皆が救われる未来を、自分達で作れば良いのだ。

 

「成程・・・確かにその通りだな。」

 

「そうですね。未来は変えるものです。」

 

決意を新たに、話題を戻す一同。内容は、ワルプルギスの夜の襲来についてだ。

 

「それで、その魔女はこの時間軸においても襲来するというのか?」

 

「ええ。そして、ワルプルギスの夜の襲来までのタイムリミットは、これまでの時間跳躍の統計からして・・・あと五日。」

 

「五日って・・・そんな!!」

 

「その話が本当なら、すぐにでも避難勧告を出さなければ・・・」

 

ワルプルギスの夜の襲来に騒然となる一同。だが、そんな中にあっても、署長たるドギーだけは冷静だった。

 

「皆落ち着け。魔法少女関連の事件に関して首を突っ込む事は止められている。俺達は大々的に動く事は出来ない。」

 

「そんな・・・それじゃあ、街の人たちを見殺しにするって言うんですか!?」

 

「そんな事は言っていない!!」

 

未だに落ち付きを取り戻さないバンと他の面々に対し、声を張り上げて断じる。

 

「ワルプルギスの夜の襲来に関する災害対策については、俺に考えがある。ここは任せてくれ。」

 

「ボスがそう言うなら・・・」

 

「それより、ほむら君。君はこの事をずっと前から知っていたのか?」

 

ドギーの問いかけに、黙ったまま頷くほむら。それを見て、バンは再び声を荒げる。

 

「何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!!そうしたら、さやかちゃんだって・・・!!」

 

「話したら、信じてくれた?それに、キュゥべえは・・・インキュベーターは、まどか達に宇宙警察を信用するなと吹聴していた。私があなた達に協力していたら、彼女達は絶対に私を信用しなかった。」

 

キュゥべえの言葉を真に受けて、マミやまどかが自分を敵と認識すれば、絶対に忠告には耳を貸さなくなる。それを恐れて、ほむらは宇宙警察とは距離を置いていたのだ。

宇宙警察という存在が、これまで繰り返した時間に無かった、運命を変えるキーになるであろう事を察していながら。

 

「確かに、俺達も簡単には信用していなかったかもしれないな。」

 

「ま、そんな事を言っても、今更だよね。それよりも、一番気になるのは君が今インキュベーターと呼んだ存在の正体だよ。」

 

「あれが魔法少女の契約を斡旋している存在なら、間違いなくこの事件の黒幕だよね。やっぱり、アリエナイザーなのかな。」

 

魔法少女と宇宙警察のこれまでから、キュゥべえことインキュベーターの正体へと話を移すセン。ウメコの言った通り、魔法少女の契約を取り持つインキュベーターこそが、今回の事件の黒幕。そして、その正体とは・・・

 

『それについては、俺が話そう。』

 

「うわっ!誰!?」

 

驚くウメコ。突如オフィスのモニターに電源が入り、一人の初老の男性がディスプレイに映し出される。服装からして、宇宙警察の所属には間違いないが・・・

 

「警視総監!?一条寺警視総監じゃないですか!!?」

 

「えっ!?あの伝説の宇宙刑事の!?」

 

バンだけは、その男性に見覚えがあった。宇宙警視総監、一条寺烈。バンは、ファイヤースクワッドで活動していた時に視察に来ていたところを何度か会って話をした事があった。

 

「一条警視総監、一体どのような御用向きですか?」

 

『ハハッ、そんなに固くなるなよ。俺とお前の仲じゃないか。ああ、デカレンジャー諸君も力を抜いてよろしい。』

 

気さくにそう話しかける烈だったが、宇宙警察の中でもトップに属す人間相手にそう簡単に打ち解ける事などできるわけもなく、デカレンジャー一同は若干緊張したままだった。

 

『それよりお前等、魔法少女事件を追ってるんだってな。』

 

「レツ、そう言えばお前の所でも追っているという話だったな。」

 

『ああ。だが、ついこの間、宇宙連合から捜査打ち切りの御達しが来た。』

 

「宇宙連合?」

 

宇宙連合とは、宇宙連合憲章のもとに設立された宇宙組織である。その主たる活動目的は、宇宙平和の維持、経済や社会などに関する惑星間を越えての協力の実現である。ようするに、地球で言う、国際連合の国が惑星になったような組織である。

 

『各惑星の代表達によって決定された通知らしい。わざわざ俺を通さず、魔法少女事件の対応に当っている各惑星の宇宙警察関係者全員に直接通知が来ているらしい。ま、お前の事だからこんな命令聞く気は無いんだろうがな。』

 

宇宙連合に逆らうという、暴挙を平然と許そうとしている宇宙警視総監に唖然とする一同。だが、ドギーの顔は真剣そのものだった。

 

「どうしても、今回の件の真相を明らかにしたい。それが譬え、俺の身の破滅に繋がるとしてもな。」

 

『・・・昔からお前はそうだったな。一度決めた事は絶対に曲げようとしせず、自分の信じた正義を貫き通す・・・そんなお前だったからこそ、俺も今日まで戦って来れたんだがな。で、インキュベーターの話だが、こっちでいろいろと裏の事情を調べた結果、奴等についてとんでもねえ事実が判明した。』

 

「・・・一体、奴は何者なんだ?」

 

宇宙警視総監、一条寺烈が調べ上げたインキュベーターの真実。それに対し、デカレンジャーは驚愕すると共に、自らの中で宇宙警察として戦う事の意味を問われる事となる。インキュベーターの秘密は、それほどまでに衝撃的で、残酷なのだから・・・

 

 

 

鹿目家のまどかの部屋。ベッドの上で膝を抱いて蹲るまどかの目には、絶望の色しかなかった。さやかが魔女となった真実を杏子から聞かされ、物言わぬ骸となった友人を目の当たりに涙が枯れる程に泣いた。自身の友人が遠い存在となり、遂には帰らぬ人となった事に、まどかは絶望していた。

そんな中、まどかに話しかける者が居た。

 

「入って良いかい?話があるんだ。」

 

既に何度も見てきた、魔法少女との契約を取り結ぶ存在である、キュゥべえ。友人であるさやかを失ったまどかの心中などお構いなしにいつもの調子で話しかけるキュゥべえに、しかしまどかは答えない。それを肯定と受け取ったキュゥべえは、窓の外からまどかの部屋へ入り込む。

 

「生きてたのに・・・ほむらちゃんが言ってた事、本当なの?」

 

「訂正する程間違ってはいないね。」

 

まどかの問いかけに、キュゥべえは否定をしない。その言葉に、まどかは僅かに顔を上げる。

 

「じゃあ・・・あなたは皆を魔女にするために、魔法少女に?」

 

「勘違いしないで欲しいんだが、僕等は何も、人類に対して悪意を持っているわけじゃない。全ては、この宇宙の寿命を延ばすためなんだ。まどか、君はエントロピーという言葉を知ってるかい?」

 

弁明の意思は無い、自分達の行動理由を嘘偽りなく述べるキュゥべえ。それに対し、まどかは自身の理解の範疇を若干超えるながらも耳を傾ける。

 

「簡単に例えると、焚火で得られる熱エネルギーは、火を育てる能力と釣り合わないって事さ。エネルギーは形を変換するごとにロスが生じる。宇宙全体のエネルギーは、目減りしていく一方なんだ。だから僕達は、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めてきた。そうして見つけたのが、魔法少女の魔力だよ。」

 

「あなたは・・・一体・・・」

 

「僕達の文明は、知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを発明した。ところが生憎、当の僕等が感情というものを持ち合わせていなかった。そこで、この宇宙の様々な異種族を調査し、君達人類をその一つとして見出したんだ。人類の個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生し、成長するまでに要したエネルギーを凌駕する。」

 

自分達の価値観で言葉を紡ぎ続けるキュゥべえ。対するまどかは、キュゥべえの話全てを理解できているわけではないが、自分達がキュゥべえのエネルギー事情の解決に利用されていると言う事だけは分かった。

 

「君達の魂は、エントロピーを覆すエネルギー源足り得るんだよ。とりわけ最も効率が良いのは、第二次成長期の少女の希望と絶望の相転移だ。ソウルジェムになった君達の魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、膨大なエネルギーを発生させる。それを回収するのが、僕達インキュベーターの役割だ。」

 

「私達・・・消耗品なの?あなた達のために、死ねって言うの?」

 

「この宇宙にどれだけの文明が犇めき合い、一瞬毎にどれ程のエネルギーを消耗しているのか分かるかい?君達人類だって、今はまだ異星人との交流だけにとどまっているけど、いずれはこの星を離れる筈だ。その時になって、枯れ果てた宇宙を引き渡されても困るよね?長い目で見れば、これは君たちにとっても、得になる取引の筈だよ。」

 

「馬鹿言わないで・・・そんなわけの分からない理由で、さやかちゃんがあんな目に遭って・・・・・あんまりだよ・・・酷過ぎるよ・・・!!」

 

「僕達は飽く迄君達の合意を前提に契約しているんだよ?それだけでも十分に良心的な筈なんだが・・・」

 

「皆騙されてただけじゃない!!!」

 

声を荒げて言いかえすまどか。飽く迄彼女の主観だが、魔法少女やソウルジェムについての事情を伏せて契約に及んだという事は、魔法少女となった者達を騙していた事に他ならない。

 

「騙すという行為自体、僕達には理解できない。認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、何故か人間は、他者を憎悪するんだよね。」

 

「・・・あなたの言ってる事・・・付いていけない。全然納得できない。」

 

「君達人類の価値基準こそ、僕等は理解に苦しむな。今現在で69億人。しかも、4秒に10人ずつ増え続けてる君達が、どうして単一個体の生き死ににそこまで大騒ぎするんだい?」

 

「そんな風に思ってるなら、やっぱりあなた・・・私達の敵なんだね。」

 

価値観の相違から生じる自身とキュゥべえとの軋轢に、どうあっても理解し合えないと認識したまどかの口から、諦めに近い言葉が漏れる。対するキュゥべえも、諦めに近い態度を示す。

 

「これでも弁解に来たつもりだったんだよ。君達の犠牲は、どれだけ素晴らしい物を齎すか、理解してもらいたかったんだが・・・どうやら無理みたいだね。」

 

「当り前でしょ。」

 

「まどか、いつか君は、最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう。その時僕等は、かつて無いほど大量のエネルギーを手に入れる筈だ。この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね。」

 

それだけ言うと、インキュベーターはまどかの傍から姿を消した。部屋に一人残されたまどかは、日常からかけ離れた世界に巻き込まれ、インキュベーターの思惑に踊らされ続ける自分と、友人達の運命にただただ涙を流すしか出来なかった。

 

 

 

デカベースのオフィスは、現在気まずい沈黙に包まれていた。既に通信は切れていたが、一条寺烈の口からモニター越しに開かされたインキュベーターの真実に衝撃を受けたデカレンジャー一同は、言葉を失くし、自分達の行動指針たる正義が砕け散ったかのような錯覚を覚えていた。

 

「・・・魔法少女の作りだすエネルギーを回収して、宇宙の寿命を延長か・・・・・成程、宇宙連合が目を瞑る筈だ。」

 

「そんな・・・だからって、こんなやり方あんまりだよ!!絶対おかしいよ!!」

 

知的生命体の住まう惑星に魔女を放ち、現地の少女を契約により魔法少女とする。そして、魔法少女が魔女化する際のエネルギーを宇宙の寿命を延ばすために利用する。宇宙全体の延命を図る彼等の目的は、決して間違ってはいない。だが、その手段は少なくともこの場に居る人間は誰ひとりとして賛同できるものではなかった。

 

「目的が手段を肯定するとは限らない・・・でも、宇宙連合はこの事を知っていた。」

 

「ナンセンス・・・少数の犠牲で、宇宙の延命が出来るのならば、有益と判断されたんですね。」

 

インキュベーターが行っている、少女達を犠牲にしたエネルギー搾取のやり口に、そしてそれを許容する宇宙連合に辟易して言葉を漏らすホージーとテツ。

 

「ふざけんなっ!!何が宇宙の延命だ・・・宇宙全体が助かれば、彼女達の未来を潰しても良いって言うのか!!」

 

「落ち着け、バン。誰だって、少なくとも俺達はそれを肯定する気は毛頭ない・・・だが、インキュベーターを全否定出来ない理由が、エネルギーの搾取意外にもう一つ存在する。」

 

「どういう事ですか?」

 

未だ得体の知れない存在であるインキュベーターが隠し持っている秘密について口にするドギー。しかもそれは、インキュベーターの存在を否定する事が出来なくなる様な物だと言う。センは緊張感を持って問いかける。

 

「・・・インキュベーターによる魔法少女を利用したエネルギー搾取は今に始まった事じゃない。恒星間飛行が始まり、地球にもこうして高い科学技術が流入した事によって浮き彫りになったんだ。なら、インキュベーターはいつからこんな事を始めていたと思う?」

 

ドギーの問いかけの意味を最初は理解できなかった一同。だが、センやジャスミンはその意味を悟り、目を見開く。

 

「・・・まさか、インキュベーターは人類誕生と共にこの様な事を行っていたと言うんですか?」

 

「そう言う事だ。」

 

「つまり、インキュベーターは人類の歴史と共にあった・・・魔法少女の契約の力が、地球上の文明を今日の繁栄へ導いたと言う事なんですか?」

 

ジャスミンの問いかけに、ドギーは無言で頷いた。新たに明かされた真実に衝撃を受け、凍りついたように硬直する一同。

今自分達が仇として憎んでいるインキュベーターが、実は自分達の今までの歴史を作り上げる手助けをしてきた。それは、地球人である自分達も例外ではない。犠牲の上で成り立った今の世界を甘受しておりながら、この世界の創造に貢献したとも言える存在に刃を向けようとしているのだ。

 

「インキュベーターが行った魔法少女の契約で繁栄した文明は、それこそ星の数ほどこの宇宙には存在する。今も尚、魔法少女達が戦っている筈だ。そして・・・」

 

ドギーがモニターを操作して映し出す、年表の様な物。そこには、これまでに消滅したとされる惑星及び銀河についての詳細が記されていた。

 

「魔法少女の絶望から生まれた、強大な魔女によって既に百数十もの惑星が滅ぼされている。中には、銀河消滅にまで至ったケースもあった。」

 

モニターに映し出された、破滅した星々の名前の羅列に沈黙する一同。インキュベーターは魔法少女の契約によって文明を育てると同時に、魔女と言う災厄の種を孵化させてきた。その歴史の繰り返しが、目の前に存在していた。

 

「ワルプルギスの魔女とやらがどの程度の物かは分からないが、いずれは地球もこのリストに入る事になるのは間違いない。今ここで戦って、ワルプルギスの魔女を倒せば、地球は延命できるだろう。

だが、この戦いに身を投じるのなら、インキュベーターとの対立は避けては通れない。戦う意思があるのならば、覚悟を決めろ。地球の破滅を一時的に回避すると言う理由では、奴等と変わらない。奴等の真実全てと向き合い、その上でインキュベーターという存在と戦い、破滅させる覚悟をな。」

 

ドギーの言葉に息を呑む一同。対するドギーは、尚も真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「今問われているのは、俺達の正義だ。インキュベーターの行為を悪と断じるのは容易い。だが、インキュベーターの真実を知った今、奴等のしてきた事全てを否定する事は出来ない筈だ。ならば、何をもって奴を裁くのか、そして何をもって正義を掲げるのか・・・その答えを見つけ出せなければ、戦う資格は無い。」

 

ドギーの言葉に耳を傾けるデカレンジャー達に走る緊張。今までアリエナイザーと戦って、デリートしてきた自分達の“正義”の心が揺らいでいる。インキュベーターとの戦いに臨むのならば、揺るぎない信念のもとの“正義”でなくては意味が無い。

 

「すぐに答えを出せとは言わん。だが、一刻の猶予も無い事態だと言う事は覚えておけ。」

 

それだけ言うと、ドギーはオフィスを立ち去って行く。残されたデカレンジャー達は、沈痛な面持ちで静まり返っていた。一同は懸命に悩み、導き出そうとする。自分達が戦う理由と、正義という言葉の意味を・・・

 

「・・・すまないな。」

 

オフィスを出た通路にて、ドギーはほむらに謝った。

 

「平気よ。宇宙警察が介入してくるのは今回が初めての事。あなた達が本当に運命を覆せるのか、見定めさせてもらうわ。」

 

「もし、それが出来なかったら?」

 

「何も変わらないわ。私はまた旅を続けるだけよ。」

 

それだけ言うと、ほむらは踵を返してその場を立ち去った。

デカレンジャー達の、そして魔法少女達の出す答えは、果たして絶望へ向かうのか、それとも新たな運命を紡ぐのか・・・その答えは、同じ時間を繰り返して来たほむらすら知り得なかった。

 

説明
見滝原市にて、謎のエネルギー反応が続発する。一連の現象について調査をすべく、見滝原市へ急行するデカレンジャー。そこで出会ったのは、この世に災いをまき散らす魔女と呼ばれる存在と戦う、魔法少女と呼ばれた少女達。本来交わる事の無い物語が交差する時、その結末には何が待っているのか・・・
この小説は、特捜戦隊デカレンジャーと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバーです。
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デカレンジャー 魔法少女まどか☆マギカ 戦隊ヒーロー 魔法少女 魔女 クロスオーバー 

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