オブリビオンノベル 8.第七話〜スキングラッド伯〜
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 スキングラッドにたどり着いたのは、夜明けの数刻前といったところだった。時間と距離は概ね予想通りだった。

 急ぎ宿を取り、やることを済ませて翌日の出立準備を整えておきたい所だ。

 ガード達に会釈して街の中へと足を踏み入れると、そこはまるで街道のようだった。

「……ふむ?」

 街かと思って入ってみれば街道のようで、街の様に思える部分は左右の崖の上に存在していた。

 今いる場所は崖の合間という事になる、そこを渡す様に橋が建設されていた。石材で頑丈に作られているであろうその上には飛び乗るには少々高すぎる。

 困惑しつつ道なりに歩いて行くと、街へと上がる坂が存在していた。

「なるほど、迷路のようになっておるのか。外敵から身を守るにはうってつけの作りをしておる……とりあえず宿を……しもうた、ガードのやっちゃらに聞けば良かったのぅ」

 長時間の飛行から来る妙な疲れを欠伸でごまかしつつ、街の中を足の向く方へとおもむろに歩く。

 店に寄れるような時間ではないし、この街に存在するであろう”Terran”の協力者を探す時間も惜しかった。

 本来ならば今後のために顔見せをしておくべきなのだろうが、そういった手間をかける時間を今は準備に使いたい。

 何かの拍子に道の向こう側から歩いてくればいいのに、と思わなくもないが、街中は街灯が照らす僅かな場所を除き、濃密な闇に包まれていた。

 人通りなど在るはずもない、そう思った矢先、脇道から人が踏み出してきた。

 暗闇程度で私の視界を奪う事は出来ない。闇の中から現れたのはウッドエルフと思しき男性だった。こんな時間に起きて活動をしているのかと思ったけれど、何か嫌な気配がする。

「おい、話がある」

 唐突にそのウッドエルフは、おそらく私に対してだろう、そう言った。

 そのあまりの物言いに、私は一瞬変な現場にでも遭遇してしまったのかと周囲に視線を巡らせる。

 けれど、ネズミ程度の気配すらも感じなかった。

「此処では人目があるからまずい。夜中に教会の裏まで来てくれ」

 こちらが言葉の意味を理解するよりも先に、そのウッドエルフは足早に闇の中へ消えていった、つもりなのだろう。丸見えだが。

 とりあえず関わらない様に見送るのだが、私の胸中にある声は一つだった。

「……ぇ、今……深夜じゃよ、な?」

 思わず、空を確認してしまった。どちらかと言えば明け方に近い所ではあるが、深夜といってまだ差し支えあるまい。

 もちろん、周りに感じる限りの人の気配も、無い。

 浮世は妙なところじゃなぁ、と思いつつも気を取りなおして街を歩く。

 あちこち入り組んだ街並みの中、ようやく宿の看板を見つけ足を向ける。

 ちょうど宿から人が出てくる所だった。

 随分と朝の早い奴じゃとおもったが、違うとすぐに気がつく。

 腰に下げている剣は翠色の宝石であしらわれていたし、服はブルースェードで一見して街の女性のようでも、纏う空気は常人とは一線を画していた。優雅な気品、というよりは、不思議な自信のようなものを纏っている。

「……お待ちしておりました」

「え? …………あ、あぁ」

 さっきのことが一瞬頭をかすめ、普通にやり過ごそうとしてしまった。

 きょとんとしている相手を前に、しばし微妙な沈黙が流れる。

「ええと、ソマリ・フロリスヘイム様でよろしいですよね?」

「ええ、相違無いわ。悪いわね、変なのに声をかけられてちょっと」

「変なの? もしかして、ウッドエルフですか?」

 変なの、と言っただけでおおよその相手を特定してくるあたり、いわゆる有名人なのだろう。

「ええ、知っているの?」

「知っているも何も、有名人ですよ。悪い意味でのね。ガードからも目を付けられている狂人です、関わらないほうが懸命でしょう、特に私達にとっては」

 そう言って彼女は私の前まで来ると、うやうやしくお辞儀をしてみせる。

「伯爵の命によりお迎えに馳せ参じました。セリーネと申します、以後お見知りおきを」

 そう言って彼女は頭を上げ、微笑んでみせた。

「貴女は”Terran”の協力者よね? 伯爵とは?」

「スキングラッド伯です。こちらへ」

 端的に答えて案内するようにゆっくりした足取りで、彼女は迷路のような町並みを歩いて行く。

 それについていくと、一度門をくぐり町の外へ出ることになった。

 崖の上らしく、随分と風が強い。遠くの空が白んでいるのが見える。

 あの日の光をどれだけ渇望しても、もうこの身を暖かく包んでくれることはないのだろう。

 今では身を焼く忌々しい日差しでしか無いのだから……。

「どうか、なさいましたか?」

 白んでいく空を見て遅れていた私に、セリーネが声をかけてくる。

 どう答えるかと迷ったけれど、そんな気持ちは押し込めてしまえば済むことだ。

「クヴァッチは、向こうだったかしら?」

「いえ、逆です。クヴァッチは西側ですので。あの道を真っ直ぐいくと、途中で高台への分かれ道があり、その先になります」

「……そう」

 今は無事であることを祈るしかない。

 私は少なくとも今夜、この街から動く事は出来ないのだから。

 そのままセリーネについていくと、今度はかなりの高所に石造りの橋がかけられていた。

 対岸まではかなりの距離がある。これだけの橋を作るにはさぞかし費用も人手も必要だったことだろう。

 帝都も湖の中心の島に作られ、巨大な橋が唯一の通路となっているが、それと同程度の労力と資金がかかるのではないだろうかと思える。

 伯爵がどのような人物かはわからないが、街の様子も見るに、知恵が回り、領主として確かな人物なのだろう。

 橋の先にある城も見事な作りのものだった。

 城門をくぐり、中庭を抜けて場内へと案内されると、一人の初老の男性が出迎えた。

 しかし、即座に感じる違和感がにじみ出ている。見た目通りの年齢ではなさそうだった。身体も引き締まっていて、頭髪に白髪が混じっていなければ初老とすら思えないだろう。

「伯爵、ソマリ様をお連れいたしました」

「うむ、ご苦労だったセリーネ。浴場を準備させている、ゆっくり休むといい」

 伯爵に恭しく頭を下げて、彼女は退室していった。別の場所に住居があるのだろう。

 彼女を見送ってから、伯爵は改めて傍にやってきた。近くで見るとやはり匂いが違う。

「お初にお目にかかる、スキングラッド領主、ジェイナス・ハシルドアと言う」

 そう言って伯爵は私の手を取り、手の甲にキスをした。

 思わず鳥肌が立つ仕草だった。いわゆる貴族の挨拶というやつなのだろうが、どうにもこういうのは好きになれない。なんというか、きざすぎる。

「”Terran”が協力を仰いだ女性というから、豪傑でもっとたくましい、オークのような女性を想像していたがまるで違ったな。こんな可愛らしいお嬢さんだと知っていたら会いに出向いていたのだが」

「そ、そうか……じゃが、わしはお嬢さんというような年齢ではないぞ?」

「実年齢など我々にはあまり意味はないだろう?」

 やはりそうなのか、と得心がいった。”Terran”所属の吸血鬼で、領主ということなのだろう。

 長く生き、その知恵で民を潤す吸血鬼の領主。

「さて、立ち話もあれだな。こちらへ」

 そのまま奥の部屋へと招待される。そこには食事の用意がしてあった。

 かなり豪華な食事が並んでいる。肉も野菜も、果物も各種取り揃えてあり、好みのものが見つからないことなど無いだろう。

「さて、とりあえず食べながら話そうじゃないか。こちらの地方についての情報が多少はある、答えられることもあるだろう」

「ふ、む……礼を言う」

「はっはっは、堅苦しい事はなしだ。今宵は麗しい同胞に出会えた祝いだ。美しき君に、乾杯。なんてな」

 席についてワイングラスを持ち上げ、そんなことを言う。

 だが、どうにも本気ではなさそうで安心した。こういう性格なのだろう。

 私も同じようにワイングラスを持ち上げ、乾杯をする。

 席についてから、適当に傍にある生ハムを口に運ぶ。腕のいい職人が手間隙かけて作ったのだろう、肉の味のしっかりと残る、美味しいハムだった。塩辛さが残るということもない。

 パンは焼かれてからだいぶ時間が経っていたようだが、風味をしっかりと残していた。混ぜ物のない、小麦だけの白いパン。

 シチューには肉や野菜がふんだんに盛り込まれているし、スパイスもきかせてある。

 香辛料などは食料の保存にも使われる。それがふんだんに手に入る証拠でもある。

 果物に至っては南の方で取れるような果実も揃っているというから驚きだ。

「随分と豪華な食事じゃな」

「たまにだからな。普段はもっと普通のものだよ」

「ふむ……街の作りといい、この館への経路といい、この食事といい……かなり見事な統治ぶりのようじゃな」

 豊かな食事を実現させるには、一定以上の交易が成立していなければなかなかに成し得ない事柄だ。それも、何時でも品物が手に入るとなれば交易の要と呼べる程度に大きく、信頼が置ける場所でなくてはならない。

 香辛料も果物も高価な品だ。特に果物は輸送に時間がかかるほど高くなる。小麦のみで焼いた白いパンなどはよほど小麦の生産と供給が安定していなければ作れるものではない。

 街の作りは堅牢、市壁が第一の壁の役割を果たし、入り組んだ内部は外敵の行動を阻む第二の壁として機能する。

 そして一旦別の門から町の外へ、領主の館へ避難すれば橋の上での攻防となるし、最悪橋を落とすという手段もある。

 幾重にも張り巡らされた、戦果に襲われる事を仮定してあるかのような街造りだった。

「無論だ、統治者というのはより良い統治をすることで民から生かされるものだよ。統治者は常に自分に問うべきだ、己が良き統治者であるのかと。そして民から問われるべきなのだ、良き統治者であるのかと」

「ふん、民から問われる立場に居るのは代理の領主じゃろうが。じゃが、その考え方は嫌いではない。領主とは民より多くの責務を負うことで、民より多くの権限を許されておる者じゃからの。そしてお主はそれを全うしておるということじゃろう、良いことじゃ」

 そう考えればこういった食事にありつけるのは役得というものか、と自分の状態についてふと目が行く。

 特に権限はないが、こなすべき危険な任務に対しての報酬と思うことにしておこう。

「そう評価されると好感が持てるね。さて、目的地はどこだね?」

 ジェイナスはそれほど料理に口をつけては居ないようだった。ワイングラスに新たなワインを注ぎつつ、唐突に話を切り出してくる。

 私はシチューを口に運びながら答える。

「クヴァッチじゃ」

「クヴァッチか、あそこはいい街だ。ここと同じぐらい、いやそれ以上かな。栄えている。私自身はあそこの領主とは面識はないのだが、良い領主だと聞いているよ……だが、ここ数日クヴァッチのほうから来る旅人が減っているらしい」

「ふむ?」

 唐突に旅人が少ないと言われ、少々考えルために食事の手が止まる。

 確かこの先はクヴァッチと、港町があるぐらいのはずだ。港町にやってきた人が帝都を目指すべく、クヴァッチ、スキングラッドを経由してくるのだから、一見すればそれは港町の原因のように思える。

 しかし、旅の途中に何か問題が起きているという可能性は十分に示唆出来る情報だった。

 旅というのは点と点で発生するものではない、線で結ばれる経路なのだから。

「更に、クヴァッチの商会との取引が遅れていてね。街道に盗賊団でも現れたのではないかと、不審に思って斥候を出した所だ」

「街道か、クヴァッチか、問題はどちらかで起きておるということか……じゃが……少なくとも可能性が高いのはクヴァッチじゃな」

「ほう?」

 ジェイナスが身を乗り出して来る。唯の興味関心ではなく、統治者として知っておくべき情報と判断したのだろう。

「これはまだ知るものが少ない情報で、かつ重要なものじゃ」

 前置きをして、暗に他言するなと釘を差してから、話を続ける。

「クヴァッチに、皇帝の子息がおるらしい」

「……なんと、王の血筋は絶えたものだとばかり」

「そこが重要なのじゃ。奴らはその血筋を完全に絶やそうとしておる。じゃが……奴らはおそらく、その子息の顔を知らん」

 ジェイナスが嫌な想像をしたのが手に取るようにわかる。あからさまな、苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいる。

「……相手の規模は?」

「これは予想の範疇じゃが、かなり大きいと見ていいじゃろう。まだ手の内が見えきっておらんからなおさらな」

「最悪の事態を想定しなければならないな」

 力の在るものが、ある重要な人物を殺したいとする。

 その時に取る手段はいくつか存在するが、皇帝は暗殺された。

 だが、顔を知らず、その街に居るとしか判断出来ない重要な人物が居るとしたら、どういう手段を取るだろうか?

 簡単な話だ、皆殺しにしてしまえばいい。

 それを躊躇なく行える実行力と、後は戦力があればいい。

 実行力は皇帝の暗殺という事実が保証する。

 であれば、あとは戦力。

「流石に、街を一つ落とせる程の力が在るとは思いたくないものじゃ」

 そんな連中を相手に挑むなぞ、軍隊に一人で突撃するような自殺行為になってしまう。

 私の感想に、けれどジェイナスは反応を返さずに考え込んでいた。

 時折口から漏れる数量と思しき言葉が、おそらく援助に必要な糧食などの計算なのだろう。

 私はなんとなくそのまま黙って料理を食べることに専念したが、程なくしてジェイナスは席を立ち上がった。

 部屋のドアを開け、メイドを一人呼びつけると彼女に鍵を渡しなにやら指示をしているようだった。

「ソマリ嬢、私はこれからもう一人の領主を起こして今後の事について決めなくてはならない。彼女に、宝物庫に案内するように伝えてある、何でも好きなものを見繕って持って行ってくれ。それぐらいしか出来る協力がなさそうだ」

「ふ、む……良いのか?」

「構わん、もともと有事の際のためにと集めた物品ばかりだよ、宝物とは名ばかりの実用品のつもりだ。明日の夜時間があれば見送りに行こう。君のほうが出るのが早ければ、そのまま出立してくれ。では、幸運を祈る」

 そう言ってジェイナスは足早に部屋を出ていった。

 私はなんとなく、メイドの案内を待たせて、もう少しとばかりにデザートに手を伸ばした。

 

 *   *   *

 

 宝物庫の中は整然と整えられていて、宝物庫と言うよりは武器防具を取り揃えた倉庫といったほうがしっくりと来る。ジェイナスの言ったとおりで、たしかに宝物庫という言葉は似合わない。

 武器や防具には一見して私に合いそうなものは見受けられなかった。

 どちらかと言えば大ぶりの武器や重装防具ばかりで、少々残念だった。

 となれば探すのはエンチャントのされ装身具、あるいは魔導書といった類だろうか。

 書架に本も収められており、開けば魔法についての講義が書かれている。

 いくつか手に取り、開いてみるとかなり高度な魔術について記されている。

 使いこなすにはそれなりの魔術の技能と大量の魔力を必要とする事だろう。

 いくつか本を取り替えひっかえしながら探していくと、いくつか目に止まるものがあった。

「(これは……アイスストーム? 広範囲に冷気を振りまく魔法か……役立ちそうじゃな)」

 本来、魔導書を読んだ程度で扱えるような魔法ではないのだろう。だが、そこはかつて様々な魔法を識った者として、記憶を呼び起こす呼び水のようなものだった。

 本の説明を知識で補い、また知識に足らぬところを本で補填してゆく。

 扱えるだろうという確信が芽生えるまでそう時間はかからなかった。

 実際に一度試し打ちしてみたいところだが、場所がない。記憶に忘れぬように留めて、本を書架に戻す。

 すでに陽は昇ったのだろう、身体が怠い。

 だが、建物の中ならばある程度は耐えることが出来る。早めに済ませておきたい以上、使える時間は今しかない。

 他にも有益そうな魔導書に次々と目を通していく。

 ひと通りよさそうな魔法を把握した頃、限界を感じて宝物庫を後にした。

 

 案内された部屋のベッドに、着の身着のままで倒れ伏す。もう太陽は高く登りはじめており、まもなく私の意識を奪うだろう。

 考えても仕方なのない事だが、クヴァッチがどうなっているのかを想像してしまう。

 けれど、その想像が形になる前に、私の意識はまどろみの中に溶けて消えた。

 

 *   *   *

 

 叫び声が聞こえる。

 身体はうまく動かず、唯見ているだけ。

 火の手が上がり、剣に、矢に、そして火に、人が倒れてゆく光景。

 生木が焼けて爆ぜる音と、悲鳴、そして剣戟の音がする。

 見たことも無い街を、上空から俯瞰するように眺めていることに気づいて、これが夢なのだと悟る。

 寝る前に考えていたことを夢としてみるなど、気にしすぎというものだ。

 大地を揺らして、巨大な何か……、異界の門のようなものが生える、そこから何かが溢れ出してくる。

 敵なのだろう。赤黒い鎧をまとった軍勢の刃に倒れていく人の中に、ガードの姿も見える。

 地獄のような、と表現するのがおそらく適切なのだろう。

 やがてその巨大な門の中から、おぞましい形状をした何かが現れる。

 無機物のようだけれど牙を持ち、何かを食いちぎらんとするそれが向かうのは市壁で、やがてそれらが激突したとき、あっけなく崩壊したのは市壁の方だけだった。

 崩れた壁から乗り込む赤黒い鎧の軍勢は、瞬く間に街を蹂躙していった。

 そんな中、人々を指揮する男性が居るようだった。視界は自然と、その人へと向かって拡大していく。

 その人の指揮のもと、人々が教会に逃げ込んだ所で、私は唐突に目を覚ました。

 

 陽が沈み、建物の中でならば行動に支障がでない時間のようだった。窓の外はまだ明るく、空が赤く染まっていた。

 まだやり残したことがある。

 頭の中に残っている、奇妙な夢を振り払う。残しておいても、意味はあるまい。

 私は未だにけだるい体を起こして、薬品の調合を済ませるべく調合道具を取り出す。

 素材の効果を強く引き出すのが錬金術の真髄であるのなら、素材を少し喰むだけでどういったものなのか把握して、感覚を頼りに調合していく。

 調合の傍らで、どこか心はここにあらずだった。

 もしも今見た夢が確かなら、厳しい戦いになることは間違いがない。

 アーベントを、無理を言ってでも連れてくるべきだったかも知れない。

 薬剤の調合を終え、すぐに取り出せるようにベルトポーチにしまい込む。

 少し多めに作ったつもりだが、これが足りないとしたらどうしようかという不安がわずかに頭をかすめた。考えた所で素材はあらかた使い果たしているし、詮無い事だ。

 準備も出来た、時間はまもなく活動時間になる。

 窓を開け放ち、箒を召喚する。

 微かに陽の光が肌を焼くが、問題ない程度だと判断して私は飛び立った。

 ジェイナスには、帰るときにでも挨拶に来るとしよう。帰れたら、の話だが。

 街道にそって西へと進む。一時間ほどだろうか、高台になっている部分が見え、そしてさらにしばらくして、その高台が焼け野原になって煙を上げていることに気づいた。

 立ったまま黒焦げになった樹木が立ち並んでいる。それが見えた瞬間、私は高度を下げて街道に降り立った。

 街道そのものは安全なのか、特に何かあることはない。

 しかし、その先にある光景に、私は首を傾げる事となった。

 街から少し離れた街道に、幾つものキャンプが張られていて、そこに何人もの人たちが滞在していたのだ。

 危機感はないのかと疑いたくなる。こんな街からすぐ傍に居るなど、追ってきて殺してくれというばかりではないか。

 怒鳴りたくなるのを抑え、私は目的である皇帝の子息、マーティンという修道士を探すべくそのキャンプへと足を運んだ。

 

説明
というわけで気付けばもう8回目の更新になります。
ほぼ隔週更新なのでもうはじめてから16週間ぐらいたってるんですね、早いなぁ。
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