《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜
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第八話 クラス代表決定戦に向けて

「……やっと一日目が終わったな……」

「ああ……」

放課後、俺は夕日の光が差し込む教室の自分の席で伸びをしながら夏に話しかける。

「やっぱりグロッキーか?」

「そりゃそうだろ。専門用語の羅列で理解出来ないし、目線が痛い」

たしかに。今も他のクラスや学年の女子が押しかけている。昼休みも大名行列のようについてきて学食ではモーゼの海割り状態。たしかに席には着きやすかったが、度が過ぎると逆に疲れる。

「ああ、織斑くんと一ノ瀬くん。まだ教室に居たんですね。よかったです」

「はい?」

「なんでしょう?山田教諭」

呼ばれた方を見ると山田教諭が書類を持った状態で立っていた。よく見ると低身長のような印象だったが平均的な身長というのがわかる。ダボダボした服装とずり落ちそうな眼鏡を変えれば印象も変わるんだろうが……いや、山田教諭は今のままのほうがいいだろう。生徒にも人気あるらしいし。

「えっとですね、寮の部屋が決定したので、それを知らせに」

そう言って、キーと部屋番号の書かれた紙を渡された。

IS学園は全寮制でその理由は色々あるが一番の目的は保護らしい。国防力のためにどの国もやっきだからな、当たり前か。

「一応俺は前の家から直行で学園に来たんで荷物は持ってますけど、夏は自宅通学ってことで荷物がないんじゃあ?」

そうなのだ。俺と春華は必要最低限の物を持ってIS学園に来た。春華は赤いキャリーバッグ。俺は黒いスリーウェイバッグという軽装備(まあ鍛錬兼試合兼実戦兼護身用の真剣とハンドガンはさすがに持ってきたが)だったので特に邪魔にもならなかったのだ。しかしその他諸々は織斑家に届く手はずになっているのだ。そして夏は自宅通学なので勿論一回は帰らなければならない。

「あ、いえ、荷物なら――」

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

おっと冬姉の声だ。まったく夏、俺達は幸せものだな。こんないい姉を持って。まあ必要最低限の生活室需品だから着替えと携帯の充電器だけだろうがな。

その後、寮のルールや大浴場(ここで何故か夏のホモ疑惑がかかって女子達の間で大事件が起きていた)、その他諸々の説明を受けた。

最後に「道草くっちゃダメですよ」といわれたが五十メートルしか無いので頼まれたって無理な注文というものだ。しかしそこでふと思い出した。確かIS開発室というのがあった筈だ。

「織斑教諭、ちょっといいですか?」

「なんだ一ノ瀬、改まって?」

山田教諭と夏に聞こえないように小声で話しはじめた。

「俺と夏に専用機ってあたるんでしょうか?」

「ああ、状況が状況だし、データ収集も兼ねて与えられる事にはなっているが。不満か?」

「ええ、ちょっと。織斑教諭は知ってると思いますが仮にも自分はIS開発者ですから」

そう、冬姉は俺のことをしっている。というか知らなかったほうが逆に驚くだろう。何でかって?俺と束さんが作ったISのテストパイロットをやってた本人だから。

「俺は自分で自分のISを作ります。そこで俺には完成までに訓練用のラファール・リヴァイブを貸してもらえないでしょうか?あと開発室と整備室の無期限使用許可もできれば欲しいのですが」

俺の発言に冬姉は少し悩み、こう答える。

「別に構わんが、開発室と整備室の無期限使用許可はちょっとわからんぞ」

冬姉は俺の言葉を聞いて訓練機の方は承諾したが、設備の使用はわからないらしい。

「最悪の場合、自分がIS開発に携わっていたことを公開しても構いません。まあ出来れば隠しておいてもらえると有難いですが。勧誘とか来ても面倒なので」

俺は苦笑いする。しかし冬姉はニヤリと笑う。

「ここをIS学園ということを忘れたのか?生徒はどこの組織にも関与できない。心配するな」

そういやそうだった。だから全寮制だったんだしな。

「まあ上と話してみるさ。実際あの二つの施設はは授業等以外で使うことは殆どないからな。そう簡単には降りんと思うが絶対に降りないと言うこともないだろう」

「ありがとうございます。織斑教諭」

俺と冬姉はそう言って会話を終わらせようとした、が不意に冬姉が訪ねてくる。

「そういえば一ノ瀬、体の方は大丈夫なのか?」

「……今の所異常はありません。それにあの時から一年は経ってるんですよ?」

「馬鹿者が、一年しか経ってないんだ。《アレ》はまだ試作段階だったんだろう?なら何時異常が出るともわからんのだからな。まあお前なら大丈夫だろうが……それだけだ」

わかってるよ冬姉、でもどっちにしろ俺は《アレ》を使用していたと思う。人体実験なんてしたくないから。

その後冬姉と山田教諭は職員会議に。俺と夏は寮の部屋へと向かった。

 

「え〜と……1301…1301…っと、ここだな」

俺と夏は寮の部屋を探していた。夕食は面倒なので先に食堂で食べてきたが、この部屋が中々見つからなかった。そしてその部屋の場所は何を思ったのか寮の部屋として用意してある最上階のうちの一つだった。ついでに部屋番号の四桁目が学年、三桁目が各階の数字で、あとは部屋の番号らしい。だから1025だったら、一年寮のゼロ階(事実上は一階)の二十五番目の部屋となる。という訳で俺達は一年寮の四階の一番目の部屋が当てられた(というか四階はどうも俺達だけらしい)。立地条件は階段がすぐ近くで降りてすぐ前が出入り口に自販機、食堂やその他の設備がある棟(寮は寝室などの自室の棟と、その他の設備がある食堂や購買の棟の二つに分かれている)の連絡通路が階段のすぐ奥という何とも優遇されている立地条件だった。しかしこれで一階だったら、寮の出入り口とか更に近くで自販機も近くてよかったのだが……さすがに女子と男子の隔たりがないのはマズイと思ったのだろう、偶然にも二人だからルームメイトにしてしまえ、という訳でこうなったと俺は思っている。しかし男子のために四階全てを開けるというのはどうなんだろうか?……いや、もしかして毎年四階は使ってないとか?まあいいや、早く部屋に入ろう。

俺は部屋のドアに鍵を挿し込み、開錠して中にはいる。

「おおっ!すげぇ!」

中は1Kのホテルの一室みたいになっていたが結構広々している。布団は羽毛布団のベットが二つ、机には固定のPCに端末があり、どんな端末にも全てに対応している。キッチンは簡単なお茶や料理ぐらいなら出せるぐらいになっているし、冷蔵庫やレンジも完備……学生の寮にしては結構いいほうだと思う。

「秋、とりあえず今日は色々あったから一息着こうぜ」

「そうだな、忙しい一日だった」

俺と夏は制服から私服に着替え、一息いれることにする。俺が制服を脱いで着替えていると視線を感じた。この部屋には俺と夏以外はいないので振り向かずに言う。

「どうした、夏?」

「あ、いや、まだ傷跡あるんだな、って。何でそんなにくっきり残ってるんだろうな?」

夏が言ったのは俺の全身にある傷跡のことだろう。この世界では交通事故で妹をかばった時に出来た傷跡と居合いの傷だということになっている。本当は前世の傷跡が殆どだけどな。序に腕にも傷があったのだがある理由で無くなっている。夏はあまり憶えてないのか気にしてないが。

「さあ?まああって邪魔になることはないから深く考えたことはないな。まあ水着とかの時は少し気になるけどな。俺着替え終わったからお茶でも入れるわ、緑茶でいいか?」

「ああ、頼む」

俺はクローゼットを閉じるとお茶を入れ始める。俺の服装は黒に白いラインが入ったジョギングとかの時に着ているジャージだ。実はこれは冬姉に貰ったもので結構使い勝手がいいので愛用している。ついでに冬姉はこれの白いバージョンを持っていた。

俺がお茶を持って行くと夏は椅子に座っていた。お茶を渡して俺も席に着く。

「は〜……落ち着くな」

「そうだな」

俺達は暫く沈黙した後、不意に夏が口を開いた。

「よし、寝るか」

「早いな、おい!」

俺が突っ込む。この沈黙を破ったのだ、もうちょっと何かあると思うんだが。

「いや、だってやること無いし。シャワー浴びる気力もないだろ?」

「いや、そりゃそうだが……まあ確かに寝るしか無いか。明日もあるし。あ、夏は窓際のベッドでいいのか?」

なんか部屋に入った瞬間に自然と俺が入り口に近い方、夏が窓際となっていたがいいんだろうか?

「おう、俺は窓のほう狙ってたから」

俺はホッと息を吐き、安心した。こんなことで揉めたくはなかったのだ。

「あ、そうだ。訊いていいか?」

「ん?なんだよ?」

夏がベッドに移った所で俺に聞く。

「お前あのイギリス代表候補生に完全にキレてただろ?なのに目が赤くならなかったな〜って、何でだ?」

「ああ、そのことか……」

俺には《血の眼(ブラッディ・アイ)》という能力がある。これが発動すると目が赤黒くなり、人間の限界領域での行動が全て可能になる能力だ。代償は命の危機だがな、恐らくあの神様がくれたんだろう。そしてこの能力は感情に左右され、大体俺が怒ると発生するらしい。何とも面倒な能力だった。しかし――

「まあ理由は簡単だ。頑張って制御できるようにした。完全ではないけどな」

俺はこの能力を扱えるように努力した。そして今現在はある程度制御できるようにした。しかしやはり完全では無いので怒りが爆発するとなってしまう。しかしそんなことは稀だ。「ふ〜ん、そっか、よかったな!」

「ああ、あの時みたいなことはしたくないからな」

「ああ、あれか……まあ気にするなよ。正当防衛だったんだし、過ぎたこと悔やんでも仕方ないって」

「いや、別に悔やんではないんだけどな」

俺は昔、まだISがないときに一回能力を使ってしまい、甚大な被害を出したことがあり、俺を含めかなりの人数が病院に搬送された。その時の俺は能力のせいで瀕死だったが一命を取り留めた。そしてその時の冬姉の言葉が心に響いて俺は能力を制御する努力をするようになった。その言葉とは――

「力を使えるようになれ。使われるような力はただの暴力だ、か……」

「ん?なんかいったか?」

俺のつぶやきに夏は首をかしげたが、俺は「なんでもない」と答え、はぐらかした。

「さ、もう寝ようぜ。寝坊なんかしたら冬姉に殺されかねんからな」

「そうだな。じゃあまた」

「ああ、お休み」

俺達は布団に潜り、明かりを消し、意識を手放した。

 

早朝――まだ朝日が顔を出してなく、鳥のさえずりさえも聞こえない時間。俺は布団から抜け出し、タオルと道衣、鍛錬用の真剣を取り出し、冷蔵庫からポカリスエットを取り出すと部屋を出る。ジョギングと筋トレの後に居合いの鍛錬もやるのだが、さすがにジャージのままは出来ないので何処かのロッカールームを借りて着替えてやろうと思ったのだ。

まだみんな眠っているだろうから静かに一階まで降りる。そして出入り口に向かおうとした瞬間、《1001》と書かれた部屋のドアが開いた。しかし意外にも中から出てきたのは冬姉だった。

「お、織斑教諭?」

「む、なんだ一ノ瀬か……あ〜、こんな早朝にどうした?」

出てきた冬姉は俺と同じジャージの白いのを着ていた。冬姉は一瞬驚いたあと、少し視線を逸らし照れたような表情をした、しかしすぐに普段通りの顔つきになり、俺に聞いてきた。

「まずは、おはようございます。自分はこれからジョギングと筋トレの後居合いの鍛錬でもしようかと、日課ですので。織斑教諭はなにか?」

「ああ、私は一年の寮の寮長だからな。他にも色々やることがあってな。まあお前と似たようなものだ。いい事を教えてやる、ジョギングするならグラウンドを使うといい、一周五キロあるからな。あと道着に着替えるときは部活棟のロッカーを使うといい、シャワーも使えるからそこで浴びることも可能だ。部活棟の担当の教師には私から言っておく。それじゃあ朝食に遅れるなよ」

「はい、それではまた」

俺は冬姉と別れ、外に出ると言われた通り、グラウンドへ向かった。

グラウンドへ着くと、俺は端の方に持ってきたものを置いて、走り始めた。一定のペースを保つように緩やかに、それでも出来る限り速く。

――二時間半後――

「……十週目終了……と」

俺は十週目が終わった所で失速し、急には止まらずに自然に任せて歩きながら止まった。

「ハア……ハア……大体今は五時半位か?」

三時に起きて、二時間半も走ってたのでそれぐらいかと思い、時計を見ると五時半をちょっと過ぎたところであった。

「後は筋トレと鍛錬すれば六時半位でいいかな……よし!」

俺はその後、筋トレを三十分ぐらいかけてやり、部活棟で着替えたあと、真剣を腰に挿して居合いの鍛錬。仮想の敵を作り、間合い、足運び、腰の捻り等に気をつけて刀を振るう。最後に刀を鞘に収め、足を開き、腰を落として、集中した。

「…………はっ!!」

次の瞬間、ひとつの風切り音がした、と思った瞬間には俺は刀を抜いて、前方の仮想の敵を切り終わっていた。抜刀と攻撃を同時に行う――抜刀術をやったのである。

俺は刀を鞘に仕舞うと、一人で物思いに耽った。

「――一番の練習方法は竹入巻藁を切ることなんだが……無理かなあ?」

そんなことを思いながら部屋に帰るのであった。

 

「ただいま〜……っと」

俺は部屋に戻ると、カーテンを開けた。夏はまだ布団の中だった。

「……じゃあ俺はシャワーでも浴びようかね。汗で気持ち悪いし」

俺は制服とバスタオルを持って洗面所に入り、シャワーを浴び始めた。

暫くして洗面所の扉が開く音がした。恐らく夏が顔を洗いに来たのだろう。

「夏か?」

「あ、ああ、おはよう、秋」

「おはようさん」

「……何でシャワー浴びてんだ?」

夏は俺がシャワー浴びてるのが謎らしい、まあ男子は基本朝にシャワーってあんまり浴びないからな。

「いや、朝ちょっと運動してな、汗かいちまったから浴びてるんだ。昨日の夜も浴びてないから丁度いいと思ってな」

「ああ、なるほど。お前昔から冬姉についてよく剣道とか鍛錬してたもんな」

「今もたまにしてるぞ。夏はしてないのか?」

「ああ……中学はバイトしてたから帰宅部。三年連続皆勤賞だ!」

そんな部活ってあるのか?

「ふ〜ん、まあいいや。で、俺上がりたいんだけどいいか?」

「ああ、俺も顔洗い終わったから制服に着替えるよ」

「おう」

洗面所の扉が閉まる音がすると俺は上がり、ドライヤーで髪を乾かし、長髪を紐で束ねる。ふと鏡に写った俺の顔を見つめる。少しして顔の右半分を右手で覆った。暫くして俺は覆っていた手を離し、鏡に向き直る。次に上半身を見る。傷跡だらけだが、細身で、それでもちゃんとついてる筋肉はついてる。こういうのを細マッチョと言うんだろうか?そんなことを考えながら俺は制服を着る。

俺は部屋に戻り、鞄を取る。夏も準備は終わっているらしく、待っていた。

「いくか」

「ああ」

俺達は一緒に部屋を出て、鍵を閉め、下に降りた。

時計を見ると七時少し前だった。女子たちは今目覚めて準備をしている頃だろうか。廊下に出ている女子の姿が少ない。

「朝早く起きるってのはいいかもな……女子の集団の中での移動や朝食はあまり好きじゃないからな」

「秋もか。俺も嫌だな」

そんなくだらない雑談等をしながら歩き、食堂に入る。

「夏、お前和食と洋食どっちとる?」

「ん?ん〜……和食かな?」

「じゃあ俺洋食とるわ、メニューとか見たいし美味いか聞きたいからな」

「そうだな」

という訳で俺達は朝食をとるとテーブルに付いた。

メニューは俺がトースト二枚にベーコンエッグ、チキンサラダにコーンスープ、ヨーグルト、牛乳だった。やはり国が運営してる学校は違うのだろうか、何から何まで他の学校を上回っている。特にベーコンエッグは黄身が崩れてなく、半熟。縁に焦げ目がなく恐らく樹脂加工のフライパンでも使っているのだろう。

夏の方は和食セットで、ご飯に納豆、鮭の切り身に味噌汁。後は浅漬。こっちもこっちで白米がふっくらしていて美味そうだ。うむ、国立バンザイだな。夏も同じ事思っってるのだろう。顔でわかる。

「「いただきます」」

俺と夏は声を揃えて言う、夏は鮭の切り身をほぐし、食べた後、白米を。俺はトーストにバターを塗った後、口にする。

「秋、これ美味いぞ!程よい塩加減に白米もふっくらしてて、電子ジャーじゃこんな風にはならないからな……かまど飯とか?」

「なるほど、こっちもトーストの焼き加減が絶妙だ。これだけでも十分うまい……うん、スープも中々だ。お?あれ春華と箒じゃねえか?」

俺が入り口に眼を向けたら、そこには笑いながら入ってくる春華と、話に微笑みながら歩いてくる箒だった。春華の制服は黒のニーソにブーツとそれ以外は普通なのだが、首のリボンがネクタイになっているのだ。どうもIS学園の制服はカスタムや改造が自由な仕様になっているらしい。俺もネクタイ用にすればよかったかな、いや、するの面倒だからやっぱ今のままでいいか。

「あっ!お兄ちゃんだ!お〜い!!」

春華もこっちに気づいたようで大きな声を出してこっちに向けてブンブンと手を振っている。ほんと小学生みたいだな、あいつ。箒もこっちを向いたのだが、すぐに少し俯いてしまった。春華は人当たりいいし、誰とでも仲良くなれるからな。寧ろ箒にしてみればさっきの微笑が珍しい表情なのだ。何時も目を吊り上げて、少し険しい表情からは想像もできない。しかし俺は春華と一緒にいる箒を何度も昔から見てるので、こういう表情の変化はもう慣れていた。

暫くして春華は洋食セット、箒は和食セットを持ってやってきた、が春華は駆けてくるので転びそうで怖い。あいつはそういうところがたまにある。そして案の定――

「――きゃあっ!」

ほらやった!俺は急いで駆け出し、上着を脱ぐと宙を舞ったトレイをキャッチし、落ちてくる皿や食べ物を上手く受け止めるが、液体のスープやヨーグルトは無理なので、上着で零れないように空中で染みこませる。

倒れそうになった春華は箒に支えられていた。

「……あ、ありがとう、箒お姉ちゃん」

「気にするな。それよりも気をつける様にな。昔千冬さんにも言われただろう?」

「うう……」

箒に少し言われ落ち込む。

「まったくだ。俺がいたから良かったものの、いなかったらぶちまけてたぞ。ほら、スープとヨーグルトは新しいの貰ってこい。食器は俺が出しとくから……あちゃ〜上着が、こりゃクリーニングだな。予備の上着まだ来てないからな。織斑先生に怒られるかねえ」

俺はそう言いながら終わった自分の食器を持ち、春華と箒に席を譲る。

「わりぃ、夏。俺ちょっと部屋に行って上着の汚れとってからクリーニングに出してくるから遅れそうになったら織斑教諭に事情言っといて」

「ああ、わかった」

夏の返事を聞いた後、俺は食堂を後にする。しかしこの汚れ……落ちるかなあ?

 

「すみません!遅れました!」

SHRが始まる時間ギリギリに俺は教室に入った。結果的に上着は無かったのでYシャツ姿だ。

「一ノ瀬、事情は聞いている。早く席につけ」

「はい」

冬姉に言われて席に着く。夏は親指を立てて、俺は笑う。

 

朝にあった諸事情により、俺は上着なしで授業を受けているが特に支障があるわけでもないので大丈夫だった。だが問題は夏のほうだった。

昨日は放課後の教室や休み時間を利用して単語の意味などは教えたんだが所詮付け焼刃。やっぱり全然わからなくて二時間目を過ぎて三時間目の今でもグロッキーだ……ノイローゼとかで死ぬなよ?

しかし夏のそんな心境に授業はあわせてくれない。どんどん授業は進んでいく。まあ教えてるのが山田教諭だから時々つまりもするがな。しかしまだ基本の所でよかった、夏にも挽回するチャンスがある。

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定されて作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能を補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これは心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

山田教諭の話にクラスの女子の一人がちょっと心配そうに尋ねる。この辺の生命維持装置や機能は俺が作り、組み込んだシステムだが、まあたしかに機械に制御されるのは怖いかもな。出来る限り一体化出来るようにはしたが、逆にそれが怖かったりとかもするかもしれない。ここは一つ安心させなくては。

「そんなに心配することはない。要はサポーターだと考えればいい。訓練機とかでは誰でも扱えるように設定されているが、専用機とかになると個人個人に合わせた設定になるし、IS自体も学習して操縦者に合わせるようになるからな。むしろそれがなければ生命の危機が訪れる可能性がある」

なんせこの設定は全て俺が作ったんだからな。そして誰にでも合うように考慮して俺がISに導入させた。束さんは「ちーちゃんにそんなのはいらないよ!」って言ってたけど話したら理解してくれた。死なれたら困るだろうしな。

「………………」

「ん?」

あれ?なんか俺変なこと言った?

「あの……なんで一ノ瀬くん、そんなに詳しいの?」

やばいっ!しまった!でしゃばり過ぎた!俺が制作したからつい言ってしまった!

「い、いや、そのだな……ほ、ほら!結構前にISの特番とかあっただろ!?それでISのこととかやってたし、予習も一応やってるからそれで知ったんだよ!みんなより遅れてるから頑張んないといけないしさ!あ、あははは」

「なんだー、てっきり一ノ瀬くん実は凄い詳しいとかかと思った」

よかった、何とか誤魔化せた……これはいっそばらしてしまったほうが楽になりそうだ。いや、しかしデメリットが。

「え、えーっと、授業の続きをします。そしてさっきの一ノ瀬くんの説明でも少し出ましたが大事な事をもう一つ。それはISにも意識に似たようなものがり、お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

まあようは努力を実るってやつだな。

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

その時女子の一人が挙手した。

「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……」

こういうのが《女子校》ってな雰囲気なんだろうな〜、ここで男の俺が口を挟むとどうなるだろう?気になったら即実行!検証開始!

「まあ多分男女交際に似たもんじゃないのかな?あれだって出会って、話し合いながら相手を理解して、付き合い始めて、より互いを理解して行くようなものだからな。俺も早くそういう相手(IS)が欲しいね」

その瞬間、教室中が黄色い声に囲まれた。

「はいはい!じゃあ一ノ瀬くん!私と付き合って!」

「ちょっと!抜け駆けは卑怯よ!私、私と付き合って!」

「こっちは一万年と二千年前から愛してるのよ!」

最後のは明らかにおかしい、そんなに生きてるようには見えないし、前世で約束した記憶もないし、それ以前の記憶なんかないしなあ。というかこの事態を収集しなくては。

「まあ、要は第一印象かな。まあ今授業中だし、告白されたからといって今は自分のことで一杯一杯だから付き合えないかな〜」

そう言ったら女子たちは次第に収まっていき、《保留》という形になった。う〜ん、実際に付き合うとしたら誰なんだろうな。あんまり《付き合いたい》とか《もっと良く知りたい》って思わないんだよな。第一、付き合えない理由がかなりあるし。

キーンコーンカーンコーン。

そうこうしてるうちにチャイムが鳴る。

「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

山田教諭がそういい、冬姉と教室を出た瞬間、一気に女子が俺と夏に押しかけてきた。もはや昨日の段階で様子見は終わり、出遅れないために一斉にアプローチ(という名の襲撃)に出たのだろう。夏はもはや女子から逃れる事が出来ずに質問攻めになっている。女子の中には整理券配って商売してる奴もいる。ん?俺か?一瞬の隙を見てノートPC持って男子トイレへ全力疾走!!もはやこの学園に俺の安息の地は数箇所しか残ってないのかもしれない……

俺はノートPCを開いて自作中ISのページの前に株価のチェックをした。俺や春華が普通に生活をして生計をたてていると思ったら大間違いである。いくら織斑家に世話になっているとは言え、あっちも両親がいなくてかなり苦しいのだ。だから俺はこの若さにして株に手を出した。しかしコツさえ覚えてしまえば簡単なもので、株式市場をこまめにチェックしながら株の変動を確認し、自分の持ってる情報と勘を信じることが大切なのだ。株で自分が行なっているのは至極簡単なことで、まずあまり上手く行ってない株式会社の株を買う。勿論全てを買うのではなくて、自分なりに今後莫大な利益を生み、株価が上がるのを予測したのだけを選んで買う。そしてその会社の株価が上がっていき、その配当金を得る。そして情報によってこれ以上は上がらない、と判断したら株価が高いうちに売る。要は《安い株を買い、株価を高くさせて、ある程度まで行ったら高いうちに売る》という方法だ。しかしさすがに手を出し過ぎると破産時が恐ろしいのでIS企業に留めている。

「よし、こことここは売って……この会社はまだ上がる……ここも取っておいて……この会社はこれから上がる可能性が大きいからできるだけ買って……問題は、ここか……」

俺はPCをいじりながらある画面で止まる。それはフランスのIS企業《デュノア社》であった。《デュノア社》とはIS量産機のシェアが第三位の大企業である。しかしじっさいは技術や情報不足で開発ができているのは第二世代までで現時点ではとても苦しい状態なのだ。その為株は殆ど買い手が付いていない。しかし俺の直観は言っていた《この会社は近い間に利益を生み、株価が上がる》と。

「……よしっ!買いだ!」

俺は《デュノア社》の株を買えるだけ買った。現時点ではこちらの大損だが、あとは《デュノア社》の出方次第だった。しかし余りにも大量に買ってしまったため、実質上俺は《デュノア社》を乗っ取った状態(オーナーっていう立ち位置になるのか?)になっている。まあ別に構わないが。例え今の時点で破産してもそれほどの痛手にはならないからだ。

「これでよし、あとはIS開発にいくか。ファイルを開いてっと……」

俺は暫くトイレの個室にこもってPCのキーボードを叩く。現在俺は誰も開発していない、あの束さんをも超えるISを開発している。そしてその夢は着々と現実に迫ってきている。

「この状態で行けば第二移行(セカンド・シフト)時にはこう言う風になってる筈だから……展開装甲を背部の羽根から展開できるようにして、あとは……シールドか。……こっちのISのビットから発射する防御用の展開装甲を流用して、手の甲に発生装置を付けたら?……よし、上手くいく!材料や制作にと問題があるが……俺が作るから大丈夫として……もう一人人員が欲しいところだ。出来れば俺の正体を知っても大丈夫で、且つIS関連に詳しくて、秘密を絶対に守れる奴……まあその内見つかるか。あとは開発室の使用許可さえ降りれば材料の発注をしてコアをはめ込む状態まで作成。コアは……最終的に自分で作るか?いやいや、バランス的に考えてやっぱり現存のコアを使用しなきゃ、ただでさえヤバイのに…っと、いけね!授業始まっちまう!」

俺は時計を確認して、男子トイレから速攻で出て、走って教室に戻った。トイレと教室間はある意味トレーニングに最適だな!と下らないことを考えながら席に着く。

俺が席についた時、夏はまだ女子の質問攻めにあっていた

「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」

女子のそんな質問が聞こえてきた瞬間冬姉が音もたてず、だが早歩きで夏の背後に回りこむ。いつの間に入ってきたんだか……

「え。案外だらしな――」

パアンッ!

これは強烈!夏の頭の脳細胞大丈夫か?

「休み時間は終わりだ。散れ」

うむ、正論。実はもうチャイムが鳴っていたりするのだ。ついでにそれは俺が席に付くのと同時だった。

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

「へ?」

いきなりな話だな…まあ俺にはあんまり関係ないからいいけどさ。

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するようだ」

「???」

夏よ、わかるが教科書の予習とかをしていれば知っていると思うが……やめだ。夏にそんな期待をする方が間違いだ。

そんなことを考えてると教室がざわめき始める。

「せ、専用機!?一年のしかもこの時期に!?」

まあ異例だからな。しかし専用機の受け渡しは何処でやってるんだろうな?各国家でISは重要だからな、報道規制とか、かかってたりするから正確には知らない。

「つまりそれって政府からの支援がでるってことで……」

要はモルモットってことだ。代表候補生だってよく言えば《テストパイロット》、悪く言えば《モルモット》だ。まあそもそもISはまだ完成してないからな。まだまだ改良の余地はかなりある。

「ああ〜。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

じゃあ頑張って代表候補生クラスになるんだな。そしたら確実だぞ?

そんなこんなで理解してない夏のため冬姉がそれに関する所を音読させた。要約するとこうだ。

・ISは467機しか存在しない。

・コアは束さん(と俺)以外は作れなくて、現在は製造していない。

・夏は異例なので専用機が与えられるが実験体。

こんな感じだ。夏、ご愁傷さまだ。

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

まあ当然の疑問だよな、苗字同じだし。ってかバレてないのが不思議だな。

その後、冬姉の《箒は束さんの妹発言》をしたため、教室が再び騒ぎ出す。元気が良くて大変結構!しかしうるさい。

しかし箒のちょっと怒りがこもった声で教室が静まり返る。その時を逃さずに冬姉は今度は俺に話しかけてきた。

「でだ、一ノ瀬秋葉。お前には現在この馬鹿のISを作る企業がもう一機作る余裕が無くて他の企業も訊いたが生憎空いてなくてな。お前には訓練機の《ラファール・リヴァイヴ》を貸し出すこととなった。その代わりといっては何だが、整備室と開発室の使用許可が降りた。受け取れ」

冬姉はそう言って、深い緑色の十字の飾りが付いたネックレスとカードキーを俺に渡した。よし!これで設計に入れる。

「ありがとうございます、織斑教諭」

昨日の約束を果たしてくれて俺は感謝を述べた。

「気にするな。さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

さ〜て、まじめに授業受けましょうかね。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど。まあ一人は仕方なく訓練機でやるみたいですが、まあ泣いて謝れば今ならまだ許してあげますが、どうします?」

授業が終わったとたんクソアマ――セシリアがこっちにやってきて自慢話を再びし始めた。もはや反応するのすら面倒だ。というかキレたい……

「…………」

「あらあら、さすがにショックすぎて声も出ませんこと?まあ当然ですわね、なにせ訓練機で戦うんですものね?もう勝負は見えてますわ!」

……しょうが無い、そこまで言うなら少し相手をしてやるよ……

「……ああ、まったくだな。負け犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだ」

「ッ!あなた!今なんて言いました!?わたくしを侮辱いたしますの!?」

「俺は別にお前を負け犬といった覚えがないんだがな……まあ今自覚したから負け犬になったな。よかったな、今度から《クソアマ》から《負け犬》って呼んでやるよ。嬉しいだろ?負け犬?」

「ッ!!」

俺がそういった瞬間、セシリアは右手を振り上げて俺に平手打ちをしようとした。しかし俺は素早く移動してそれを避け、背後に回るときにセシリア左腕を取り後ろで捻る。同時に俺の右手を首に回して左の頸動脈に添える。右手にはナイフが握られている。

俺はそのままの状態で声を低く、だが確実に聞こえるようにゆっくりと言う。

「代表決定戦まで待てないなら今ここでやってやる。左肩を複雑骨折させられて無様に生きるか、首の頸動脈を切られて潔く死ぬか……選べ」

「あ……う……」

俺は徐々に力を込めていく。セシリアの左肩は次第にミシミシと軋むような音を発し、左の首筋からは少量ではあるが血が垂れて来ていた。

そこまでやって俺は腕を離し、ナイフを仕舞ってセシリアを突き飛ばす。

「まあ生憎と問題はあまり起こしたくないんでな、今回はこれで終いにしてやるよ。だが二度目は無いからな、その時は何の躊躇いもなく頸動脈を切断する。死にたくなかったら決定戦まで大人しくしていることだな」

俺はそこまで言うと夏と箒に声をかける。

「夏、箒、昼飯食いに行かね?時間がもったいないから早く決めろよ」

「あ、ああ、いくよ」

「わ、私もだ」

俺は春華にも目線をやった。春華はそれを確認すると近づいてきた。合計四人で学食へ向かうことになった。

俺が険しい顔のまま教室を出ると、集まっていた女子生徒たちは早々と両脇に逃げていった。そう、《避けた》のではなく《逃げた》のだ。まああれだけの事をしたんだ、俺の印象が悪くなるのは仕方の無いこと。明日には全員に噂として伝わるだろう。

 

秋葉達が去った後の教室周辺

「ね、ねえ、さっきのみた!?」

「見た見た!一ノ瀬くんってあんな顔も出来るんだね!」

「あ〜、私が彼女だったら言い寄ってくる男達をあんなふうにして守ってくれるかな!?」

「きっとそうよ!だって社交性は授業中の言葉からわかるんだし、間違いないわ!」

「で、でもなんか怖そうだったよ?」

「怒らなければやさしいと思うわ。大丈夫よ」

「わ、私アタックしちゃおうかな!?」

「ちょっと!抜け駆けは卑怯よ!」

秋葉の人気は寧ろ上がっていった。

 

学食はかなり混んでいたが俺達は各自の食券を買って列に並んだ。俺は味噌ラーメン大盛りに炒飯と餃子の中華セット。春華も同じ中華セット、ただし食券の枚数が尋常じゃなかった。夏と箒は日替わり定食、確か鯖の塩焼き定食だったはずだ。

「なあ、秋」

「あん?」

「何であそこまでしたんだよ。無視しとけばよかったんじゃないのか?」

夏が俺に聞いてくる。俺は「はぁ〜」とため息をつくと話し始めた。

「俺があそこで無視をし続けていたらどっちにしろ、あいつは怒り狂っていただろう。それに正直あのクソアマにむかついた。俺はお前みたいに大らかじゃないからな。それにこれ以上あいつに関わりたくなかった。だからああいう風に脅した。事実殺さなかっただろ?」

俺は列が進むに連れて前に進む。

「でも他に方法もあっただろうに、まったく秋葉は昔から全く変わってないな」

「生憎と不器用なんでな、箒みたいに無視できないんだよ。そういう箒こそ昔から変わってないよな。何時も凛としてて、怒りに任せた剣を絶対に振るわない、昔のままだ。剣の修行も欠かさずやってるんだろ?」

「あ、当たり前だ!そ、その……秋葉と一夏との……唯一の繋がりだったからな……」

俺は箒のその言葉を聞くときょとんとした後、爆笑した。

「わ、笑うな!!」

「あっはっは!ひーっひーっ!だ、だって唯一の繋がりって、手紙とかの方法もあっただろう?あ、おばちゃん、これお願いね」

俺は腹を抱えながら涙をふき、食券を出す。

「いや、それが機密が漏れるとかで連絡が一切経たれてな……その……」

「あ〜なるほど、そりゃ無理だな。まあでも、こうしてまた会えたんだ。束さんをあんまり嫌うなよ?」

「なっ!そ、そんな事言われなくても、わかっている!ふんっ!」

ありゃ、拗ねちまった。しかし箒のこういう行動は大概照れているのだ。まったく、可愛い奴め。

「じゃあ俺先にテーブル取ってるから、すぐ来いよ」

「おう!」

「ああ、わかった」

「先に食べないでよ!お兄ちゃん!」

各人それぞれの返事をした後、俺はテーブルに付いた。しかし食べ始めたのはその十分後だった。これほど遅かった理由は、春華の量が多すぎなのだ。

 

「そういえば秋、セシリアのあのセリフってどういう意味だ?」

「あん?」

夏の疑問の問の意味がわからず、俺はラーメンをすすりながら聞き返す。夏は鯖をほぐしている。

「ほら《訓練機で戦うと勝負が見えてる》ってやつ?」

ああ、あれか……

「代表候補生は全員それぞれ専用機を持ってるんだ。特に今年は各国の第三世代のデータ収集のため殆どが第三世代。それを量産の訓練機で相手をするとなるとかなりキツイ状態になる。誰でも扱えるんだから個人個人にあわせたセッティングができないからな。しかも相手は第三世代、第二世代の訓練機で勝てる見込みは……まあ三割程度かそれ以下だな」

「ええ!それって超ヤバイじゃんかよ!大丈夫なのか!?」

夏の大きな声に俺は苛立ちを覚えたがまあ普通の反応だろうと解釈して話をすすめる。

「他人の心配より自分の心配したらどうだ?今のままじゃ確実に負けるぞ?」

「いや、そりゃそうなんだけど……」

「せっかくだ、箒に教えてもらえ。春華は人に教えるのに向いてないし、俺もちょっと今日からやらなきゃいけないことがあるんでな」

俺はポケットから貰ったカードキーを見せる。しかしそこに否定の言葉が入る。

「な、何で私が!?」

箒がテーブルをバンッ、と叩いて立ち上がる。しかし俺はそれを無視し、冷静に言う。

「言った通りだ。俺は忙しくなるから時間が割けない、春華は教えるのが上手くない、なら残ったのは箒だけだ。第一他の女子になろうもんなら恐らく普通に学ぶなんて無理だぞ、赤の他人に教えてもらうわけだからな。ところが幼馴染の知り合いがいるからな、赤の他人よりかは気が楽だろ?それに夏は中学になってから剣道を全くやってないから感覚やらその他が壊滅的だ、そのへんも直してやってほしい、全国大会優勝者なんだから造作も無いだろう?」

「う……わ、わかった」

俺の唱える正論に箒は反論できなくなり。結果、夏に教える役は箒になった。

「それとも何だ?一夏が他の女子に手取り足取り教えてもらってる方が嬉しいか?」

「そ、それは絶対にダメだ!!」

「冗談だよ」

俺が笑いながらそう言うと拗ねたように昼食に戻った。

 

その後俺達は午後の授業を無事消化して夏と箒は剣道場へ、俺はIS開発室へ、春華は寮の自室に帰った。

開発室の扉の前で俺はポケットからカードキーを取り出し、挿入、そのあと暗証番号を入力し、空気が抜ける心地よい音と共に解錠、扉が開かれ中に入った。

「おお、こりゃすげえ!」

中にはIS開発に必要な機材やマシンが全て揃っており、大型ディスプレイも設置されていた。

これだけの機材があればあっという間に作れるな。後の問題はコアだけなんだがな〜。こればっかりはかなり時間が掛かりそうだし、その後情報や何やらの設定でどれだけかかることや……ん?

俺が自分のISの考え事をしてたら開発室の一角においてあるISに目が行った。確か名前は……《打鉄弐式》訓練機としても使用されている純日本産のIS《打鉄》の後続機。しかしこれは現在倉持技研で開発中の筈。なんでここに、しかも未完成の状態だ。

俺は携帯電話を取り出し、電話帳から連絡先を選択し、繋ぐ。

『はい、もしもし』

「あ、望か?久しぶり。秋葉だけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

『おお、秋葉か。IS学園入学おめでとう!で、なんだ、聞きたいことって?もしかして専用機関連?』

「ああ、そうだ。といっても俺のじゃないけどな。今俺の目の前にそっちにある筈の《打鉄弐式》がここにあるんだよ。どうしてこっちにあるんだ?」

『ああ、その事か』

望はため息混じりに呟き、言葉を続ける。

『いや、実はそっちにいるお前ともう一人の男子でISを操る人物のIS開発に総動員で人物が借り出されちゃってね。俺も今それで大忙しだ。で、開発途中の《打鉄弐式》がそっちにあるって言うこと。なんでも更識簪本人があとは自分でやるって言って持ってったらしいよ。で、何でお前は専用機いらないんだよ?折角のチャンスなのに。女性でも専用機持ちなんてそうそういねえぞ?』

「いや、別に深い理由はない。なんて言うか特別待遇とかで偏見もらうのが嫌なのさ」

嘘だけど。

「それじゃ、サンキュ。またな」

『あ、おい!待て――』

俺は電話を切って、しまう。

さてと、なんでこのISがあるかはわかったが肝心の本人が見当たらないが……ちょっとだけなら、いいよな?

俺はあたりを見渡して誰も居ないのを確認して、《打鉄弐式》のスペックや開発状況を確認した。

「なるほどね〜……あれ?このシステム出来てねえじゃん?」

目についたのは《山嵐》とよばれるこのISの最大武装。六機×八門で最大四十八発のミサイルが打てるのだがマルチロックオン・システムではなく、現在は単一ロックオン・システムになっていた。恐らく完成できないと踏んでそういたんだな。ようし……プレゼントだ。

俺はスペックや開発状況の画面を閉じ、USBメモリーを挿すとその中にマルチロックオン・システムの情報を書き記し、組み込み方まで親切に書き込み、メモリーに保存。そしてそのUSBメモリーを紐に通し《打鉄弐式》に引っ掛けておいた。「プレゼントだ。良かったら使ってくれ。一組の生徒より」と書き置きも付けておいた。

「さ〜て、こっちもIS作成に精を出しますかね!」

俺は別のディスプレイに自分のPCを接続し、設計図とデータ設定をどんどん作成していった。

 

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どうも、作者の菊一です……なんか読み返してみると文章の羅列率が凄いです、超恥ずかしいです。

さて、そんな風に自分をいじめていても仕方ないので……オホン!今回はちょろっと伏線がいっぱい?出ました。取り敢えず次回は原作では登場シーンがもっと後のはずな《あの子》が登場します。何気にあの子、好きだったりします。え〜セシリアとの戦闘は……多分次の次ぐらいだったと思います。すみません、書き溜めの内容とかは詳しく把握してませんw

さて、話は変わって自分の只今の小説の進行状況。え〜……全くといっていいほど進んでませんwというのも主人公の設定と専用機の設定を書いてたら思った以上に時間がかかっちゃってるんですね^^;一応秋葉の方の専用機は粗方書き終わったので、今は春華のISと二人の人物設定書いてます。というわけで詳細とか待ってる人、もう少々お待ち下さい。少なくとも専用機の情報は専用機が出てくるまでは公開できないわけですけど^^;

あと非常に申し上げにくいのですが、現在自分のIS小説の挿絵や表紙絵を書いてくださる方を探していたりします。といっても別に「暇な時でいいなら書きますよ」位の気持ちでも構いません、勿論「バリバリ書きますよ!」っていう人ならもっといいのですが。なにぶん初投稿の作品なのでそんな大っぴらに募集する根性も無いガラスハートの持ち主なので小説のあとがきにこんなふうに書くぐらいしか思いつきませんでした^^;というわけで絵師様を募集しています。画力や絵柄などは特に問いません(というか問うほど偉くもないので)。もし「書いてもいいよ」という人がいたらメッセージやコメントで連絡くれると嬉しです。宜しくお願いします。

 

では応援メッセや要望等も受け付けています!それでは〜

説明
第八話です。
最近主人公の専用機の説明書いてるだけで一日が終わっていきます……完成一体何時になるんだろうw
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インフィニット・ストラトス

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