《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜
[全1ページ]

第十一話 反応速度

俺はアリーナ上空で停止して、姿勢を整えた。

「よっと、それじゃささと始めようぜ、クソアマ」

「……………」

「?お〜い、生きてるか〜?」

「……織斑、一夏……」

駄目だ、こいつ意識が逝っちゃってる……敗北からの結果の姿なんだろうが、見てて哀れみの視線を送ってしまいたくなる。

しかし何で夏の名前を言ってたんだか……まあいい、それよりさっさと終わらせたいんだが……

俺はプライベート・チャンネルをセシリアのISに向けて開き、叫ぶ。

「おい!いい加減にしろ!このクソアマが!夏がどうしたかは知らんが後が詰まってんだ!ちょっとは他人の迷惑も考えろ!!」

『……はっ!?えっ?なっ?』

漸く正気に戻ったセシリアだったが次は今の状況を理解してないようだ。

「おいおい、勘弁しろよ!?次は俺達がやるんだよ!最初は夏、次に春華が戦い終わったから俺、わかったか!?」

『……も、もちろん、わかっていますわ!わたくしを誰だと心得てますの!?わたくしは――』

「うるせえ、じゃあさっさとやるぞ」

『あ、あなたねえ!!……い、いいですわ、そこまで死に急ぐのなら……望みどおりにして差し上げますわ!』

その瞬間、プライベート・チャンネルが閉じたと同時に、セシリアが手に持っていた《スターライトmkV》がビームをこちらに向けて発射してきた。俺はそれを横に僅かにブーストを駆けて避ける。

「やれやれ、やっとか……まあお手並み拝見といこうか?」

俺は更に向かってくるライフルからのビームをさっきと同じ方法で躱し続けた。

幼少の時からやっていたIS・VBGのゲームの中の《チーム戦》で五対五をやったことがあるのだが、その戦闘で結果的に味方は全機やられ、敵チームはまだ全機残ってるという状況になったことがある。その時編み出した方法がこれだ。最小限のブーストで紙一重に避ける。しかもそれを素早く複数回やれば残像を残しながら動くことも可能だった。しかしこれはゲーム機本体に相当の負荷をかけたらしく、あまり多用しなかった。

「しかしまさかこれを現実でもやるとは……まああのゲーム自体現実に近かったからな、出来て当たり前か」

俺はひとりごとを呟きながらその避け方――通称(と言っても俺が勝手に付けた名前)《電光石火》を使いライフルからの攻撃は元より、ビットからの攻撃も避け続ける。

四方八方、前後上下左右、いたるところからビットから攻撃されるが俺はPIC(ISの基本システムで浮遊、速度の加速や減速を行う機構。これによりISは浮いている)とスラスターをフルに活用し、難なく交わしている。

時たまビットの攻撃が止まったかと思うとセシリアのライフルでの狙撃が来る。そしてまたビットの攻撃……こっちから行動を起こさない限りこれは無限に続くと思われる。

ふむ、大体パターンもわかったし弱点も確証を得そうにある。そろそろ行動に移るかな?

俺はそんなコトを思いながら未だにビットの攻撃を交わしている。しかも開始位置から少ししか動いておらず、上下前後左右、四方八方に回転しまくっているので、もはやコマ状態である……目が回らないかって?ISのお陰でGを遮断してるから大丈夫。目に映る風景で少しは酔いそうだが。しっかし攻撃速度遅すぎだろ……

実を言うと電光石火は残像を残す程度の速度でやっと技と呼べる代物なのだが、この場合残像を残せてない、つまり残像を残す程度の速度以下で十分避けれているのである。しかしその瞬間、それは起きた。

「……え?おわっ!!」

急に目の前を過ぎる風景が止まったかと思うと一瞬にして目の前にビームの光が来てリヴァイブを襲うと同時にシールドエネルギーのゲージが減っていく。

俺の乗っていたリヴァイヴが急に回転を勝手にやめたのだ。そしてビットの攻撃が集中的に当たる。

馬鹿な!俺は回転をやめていない!!くそっ、これじゃあ試験の時みたいじゃねえかよ!!また誰かの整備ミスか!?

そう、試験の時もスラスターを連続稼動させていたら急に停止し、大打撃を食らった記憶がある。しかし前に考えた通り何も変化や欠陥はなかった。今だってそうだ!

俺はISのウインドウを開くが警告メッセージは疎か、何かの変化のメッセージすら出てきていない。

そうこうしている間にセシリアのライフルが火を吹いた。俺は咄嗟にスラスターを稼働させて避ける。今度はちゃんと動いた。しかしまた何時こんなことが起こるかわからない。

「……早期決着と行きますか……」

 

「はあ……凄ですね。織斑くんの時も驚きましたがそれ以上です。リヴァイヴをあそこまで扱う操縦者なんて中々いませんよ?」

モニター室で観戦していた者の二人を除き、残りの者は驚愕という顔をしていた。しかし除かれた二人の内の一人が口を開く。

「ISの適性検査ではSだったからな。殆ど完璧に近い形でISと一体化しているのだろう。じゃないとあんな芸当はできん。まあその他にも練習時間が半端無いのも要因の一つだろう」

除かれた者の一人――私こと織斑千冬はそう発言する。その隣では春華がニコニコと笑いながら私の言葉に続く。

「えへへ〜、何せお兄ちゃんは殆ど毎日やってたからね〜、総合的な時間にすると代表候補生や軍人のIS操縦時間以上は余裕だよ?」

「ああ、なるほど。だからあんな動きが……ってちょっと待って下さい!一ノ瀬くんはこれがISを動かすのが二回目なんですよね!?」

モニターを凝視していた山田先生がこっちを見る。相変わらず慌ただしいというか……とにかくそういう性格の人物だ。

「そうだ、私との入試の実技以来だからな。それ以前は乗ったことはない」

「そ、それじゃあ稼働時間は精々数時間っていうところですよ!?どうやってこれほどの練習を!?」

私は「ふう」と息をつくと、喋り始めた。

「山田先生、ゲームセンターにはよく行かれるか?」

「えっと……ゲームセンターですか?学生時代はよく行きましたが今はたま〜に覗く程で……そういえばゲームセンターにISのゲームがありましたね!モニターでオンラインの対戦を観戦してましたが殆ど本物でしたよ!?特に《シュウ》っていうプレイヤーが凄くて!ゲーム内でリヴァイヴを使って自由自在にそのゲームを駆けて五十人抜きしていましたね。あれはビックリしました!」

「……山田先生、実はそのプレイヤーこそが今戦っている一ノ瀬秋葉という人物だ」

「……え?」

「「「ええええええええええ!!!!!!?????」」」

モニター室で観戦していた三人の声が重なり響く。ついでに残り二人というのは私の弟の織斑一夏、そしてその友人の篠ノ之箒だ。少なくともこの二人は知っているとは思ったんだが……

「そうか、昔ゲーセンに足を運んでいたのはそういう理由だったのか……」

「あ、ああ、私も驚いたぞ。しかしあの時は将来が心配になるほどだったな……」

「「てっきり根暗なゲームオタクになるんじゃないかと……」」

お前達は……まあ私も思わなかったわけではないが……

「し、しかしいくらゲームをやっていたからといって……ゲームと現物は違います!」

山田先生はまだ興奮した様子で私を見てくる。

「それがそうでもないのだ……ゲーム開発協力のために私もやってみたんだが、未完成や欠陥機のISを使用して殆ど現実と寸分違わぬ操縦性に感覚だった。実際に精神が少し壊れてしまった者もいるようで、過去に一度危険視された代物だ」

「はあ……そうなんですか。しかしそれなら頷けます。もしかするとこのまま勝っちゃうかもですね!?」

「……そう、かもな」

私は少し沈んだ気持ちでそう言う。

何故かというとさっきも山田先生が言ったように秋葉はISのゲーム――IS・VBGでの王者だが、所詮ゲームはゲーム、現物とは違うのだ。即ちゲームで通用していた方法が現実でそのまま出来るということはないのだ。

だが実際秋葉は目の前で《電光石火》という技を使って攻撃を避けていた。この技はゲームでは残像を映させる速度を出していたらしい。実際私もモニター越しではあるが残像を数回見た。しかし今は速度を抑えているのか見られない。しかし秋葉はその技を使ったせいでゲーム機に多大な負荷をかけて一台を壊しているのだ(もちろん発覚したのは数日後だったため何もなかったが)。ゲーム機の処理が追いつかなかったのだろうが、ISに乗るとどうだろう?欠陥機とは言え、ISを使ったゲームを壊したのだ。実機でも異常が出てもおかしく無い操縦テクニックである。

そしてそれは起きた。

『……え?おわっ!!』

不意にスピーカーからそんな秋葉の声が聞こえたかと思うと、回避行動を停止し、ビットの攻撃を食らった秋葉がいた。一夏の時はスピーカーをつけていなかったのだが、秋葉の時は音も欲しいのでつけていたのだ。

「一ノ瀬くん!どうして途中で回避を!?」

「……やめたんじゃない、やめさせられたのだ」

「え?」

山田先生の疑問に私は答える。

しかし私はインカムを取り、秋葉にプライベート・チャンネルをつなげる。

 

ん?プライベート?誰だこんな時に。

おれは再びコマのように回りながら通信を取る。ついでにその時セシリアは逆上して「さっきは当たったのに何で当たりませんの!?」と吠えている。

そして通信画面の先には冬姉がいた。

「あ、織斑教諭でしたか。なにか反則でもしましたか、自分?」

俺は自分の行動を思い返すが特に不自然なことはしなかったと思う(普通に考えれば今の状況も不自然といえば不自然なのだが)。

『一ノ瀬、すぐにその回避行動をやめろ。ISがもたない』

「……はい?」

『な、何言ってるんですか織斑先生!?』

『いいから黙って聞け、二人共』

恐らく向こうで声を上げたのは山田教諭だろう。まったく、しょうが無いな。

「取り敢えずプライベートからオープンに変えます。そうしないと落ち着けないですしね」

『……わかった、スピーカーでアリーナ内にも流すがいいな?』

「了解」

俺はセシリアに身振りで戦闘停止を伝えた。「あら、やっと負けを認めましたの?」と言ってたのにムカッときたが今は通信が先決だ。

「で、織斑教諭、さっきの《ISがもたない》という理由を教えて下さい」

おれは状況がわからない観戦者の生徒たちにも悟らせるためにそう言う。

『ああ、入試の時はまだわからなかったが一ノ瀬、お前の今乗ってるISがたまに動きが遅かったり、今みたいに止まったりしないか?』

俺は冬姉から発せられた言葉に半分驚き、半分納得した。その事か、俺も謎なんだよな〜と思いつつ答える。

「そうなんですよ。それどころか入試の時は武装まで別のもの展開しちゃうし……これって整備ミスか何かですかね?」

『我々の整備スタッフをなめるなよ、そんなヘマはしない。その答えは一ノ瀬秋葉、お前にある』

「お、おれ?」

意外な返答に俺は素っ頓狂な声で答えてしまう。しかし冬姉はそれを気にせず続ける。

「お前は昔IS・VBGで一台壊したことがあるだろう?それと同じ現象が今のISに起きてるんだ」

ああ、あの事件か……あれはビビった。ゲームを待ちながら観戦してたら急にゲーム機から黒い煙が上がって爆発音がしたと思ったらショートしてたんだからな……お陰であの日は泣く泣く帰ったという思い出が。

「ん?同じ現象って……まさか!?」

『そうだ、簡単に言うとISがお前の反応速度について行けてないんだ。訓練機は一般の女子生徒向けにしてあり専用機に劣るとは言え、モンド・グロッソ出場者以外は大体は誰でも扱えてこんな事態にはならないんだがな……兎に角そういうことだ。戦闘は中断し、残りの三人で代表を決定する。ピットに戻れ』

「……いやです」

俺は冬姉の言葉にハッキリとそう答えた。

『……一ノ瀬、聞いていなかったのか?基本的な人間の反応速度の平均0.2秒程を想定してセッティングしてあるんだ!こちらで計測したがお前の反応速度は人間の限界の0.11秒を叩き出したんだぞ!?だからその機体では無理だ!ただでさえお前の操縦は人間に近い動きをするISかそれ以上じゃないと対応できないぐらいなのだからな!』

「それでも俺はここで引くのは嫌です!ここで引いたら男として、俺として一生後悔します!観客のみんなにも問う!ここで引いていいと思うか!?」

俺の言葉に「そんなことなーい!」、「ここまでやったんだから最後まで見せて!」、「後悔のないようにしよう!」という声が上がった。

『……まったくお前らは……十分間だ。それ以上は何が何でも止めるからな』

俺は喜んで頷く。

「十分も要りません、五分で片付けます」

そういうと冬姉との通信を切った。

「さて、そういうことなんで早く済ませよう」

「あなた……そんなハンデを負ってまだ勝てる気でいますの?」

「ああ、何せ結構な数の弱点や欠点を見つけたからな」

「!!……すぐにその減らず口を閉じて差し上げますわ!」

「上等!!」

俺とセシリアは再び戦闘を再開した。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

どうも、作者の菊一です。

さて、まえがきにも書いたように要望が二つもあったのであげました!しかし戦闘描写……自分的に読み返してみて何かが足りないような気がしました。いや、読者の皆様がどう感じるかは人それぞれだとは思うので好きに思ってくれればいいとは思うんですが。「じゃあ直してから載せろよ!」って思われるかもですが実はその《足りない何か》がなんなのかイマイチわからなくて……出来る限りでいいので感想や指摘、アドバイスを貰えると嬉しいです。勿論個人的にでも客観的にでもどちらでも構いません。どうか宜しくお願いします!

説明
十一話です!
次の話を早く読みたいという要望を二つも受けたのであげます!
ではどうぞ!
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1342 1268 2
タグ
インフィニット・ストラトス

菊一さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com