仮面ライダークロス 番外編 マッドの挑戦
[全1ページ]

テメンニグル学園。

ここに、天才と呼べる頭脳を持つ一人の科学者がいた。

ジェイル・スカリエッティ。理科を担当している、この学園の教師だ。

しかし、彼には決定的な問題があった。

彼は無限の欲望を身に宿していたのだ。

己の欲望を満たすために、ありとあらゆるものに手を出し、非人道的実験を行うことも辞さない。いわゆるマッドサイエンティストである。

だが、賢明な読者諸君ならわかるだろう。過ぎたるは及ばざるがごとし。

欲望なしに生きていける生命体など存在しない。しかし、過度な欲望は逆に身を滅ぼしてしまう。

彼はそれに構わず実験を繰り返すので、悲惨な結果を招くこともしばしばあるのだ。

 

…これは天才科学者ジェイル・スカリエッティの実験と、その結果を描いた物語である。

 

 

スカリエッティは理科準備室で、不気味な笑みを浮かべていた。目の前には今まで二回に渡って破壊された赤い結晶体、レリックがある。

「ようやく再び完成できた。ようやく…」

そもそも、このレリックがどういう物かというと、それは現在高町なのはの娘となっている少女、ヴィヴィオと関係がある。

実は彼女は、スカリエッティが遺伝子操作によって生み出した古代の王国ベルカを治める王女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローンなのだ。

オリヴィエは聖王女と呼ばれ、文武両道に優れた魔導師でもあったのだが、スカリエッティが本当に興味を抱いたのは彼女ではない。彼女が治める、ベルカという国そのものだった。

ベルカには、かつて全世界を支配したという戦艦型の古代兵器、『聖王のゆりかご』が存在していた。

スカリエッティは、そのゆりかごを使って、世界を支配しようと考えたのだ。

聖王女オリヴィエは、ゆりかごを動かすための鍵であり、彼女自体に興味はない。スカリエッティの興味はあくまでもゆりかごにあったからだ。

ヴィヴィオを生み出した理由も、ゆりかごを動かすためだけである。

だが、ヴィヴィオだけではゆりかごは動かない。

そのために必要なものがレリックである。これをヴィヴィオに埋め込むことによって、ヴィヴィオという鍵は、初めて鍵として機能する。

しかし、そのレリックは、もはや存在していなかった。ベルカ自体が何百年も前に滅んでしまったのだから……

だがスカリエッティは、その程度のことでは諦めない。

ないのなら作ってしまえばいい。そう考えたスカリエッティは、残されたデータを元にレリック作成に取りかかり、見事再現してみせたのだ。

あとは脱走したヴィヴィオを捕らえ、確保してあるゆりかごに連れ帰れば…

「私は、世界を手にする…ふふふ…」

スカリエッティは笑いが止まらなかった。

その時、

「ダアァァァァァンテエェェェェェ!!!」

ダンテとベオウルフが乱入してきた。

「今度こそ、今度こそぉぉぉぉぉぉ!!!」

「無理だって言ってんだろ!」

二人は理科準備室を舞台に戦いを始める。

「…」

またか、とスカリエッティは思った。

だが、二度あることは三度ある、その言葉を信じていたスカリエッティは、ちゃんと対策を用意していた。

まずレリックを確保し、二人から遠ざかる。

次にスカリエッティは、腕時計のスイッチを押す。

すると、スカリエッティを中心に、球状のバリアが展開された。これはスカリエッティがこの状況を想定して開発した携帯バリアだ。これならダンテの銃撃でもレリックが爆発することはない。

ちなみに、なぜレリックが爆発するかというと、レリックは結晶体に見えるが、実は高純度なエネルギーの集合体なのだ。そのため、強い衝撃を受けると爆発する。これはスカリエッティでもどうにもならなかった。

このままやり過ごそう、スカリエッティが思っていた時、

ダンテとベオウルフは、突然動きを止めた。

しかしよく見てみると、ダンテの二丁拳銃、エボニーとアイボリーが赤く光っている。

ベオウルフの左手も、白く光っていた。

二人は魔力を貯めているのだ。

そして、

「チャージショット!!」

「ゾディアック!!」

ダンテは魔力を込めた銃弾を、ベオウルフは白い光弾を、

 

スカリエッティに向けて解き放った。

 

バリアは紙のように破られ、スカリエッティは、

「君達、わざとやっているだろう。」

と、爽やかな笑みを浮かべ、

 

ドガァァァァァン!!!

 

レリックの爆発に巻き込まれた。

 

 

スカリエッティは、なぜこうも立て続けにレリックを破壊されるのか考えた。

そこで、三度に渡って起きたダンテとベオウルフの乱入を、よく検討してみる。

そもそも、なぜ彼らは乱入してくる?そう思った時、ある仮説が生まれた。

ダンテとベオウルフが乱入してくる時、それはいつも体育の時間だ。ならば、体育でない時間にレリックを完成させたらどうか?

スカリエッティは考えを行動に移した。

 

思った通りだった。レリックは完成し、数分経ってもダンテとベオウルフは乱入してこない。

笑いが止まらないスカリエッティ。

これで今度こそ世界を手にできる。

そう思った時、

「ヤッホー!」

奇妙な姿をした道化師が、かなりのハイテンションで現れた。

彼はジェスター。レディの父、アーカムが魔法で変身したものである。

「調子はドウダ〜イ?スカリエッティ先生!」

「…アーカムさんか。驚かさないで下さい。またダンテとベオウルフが乱入してきたかと思ったじゃありませんか」

「?」

ジェスターは首を傾げながら、頭のはげた人間の男性、アーカムの姿になった。

スカリエッティは失言だったと口を押さえた。

「いえ、何でもありません。ところで、本日はどうされました?」

「いや、娘を、メアリを捜しているのですが、ご存知ありませんか?」

メアリというのは、レディの本名である。アーカムはレディを溺愛しており、時々ジェスターに変身して学園までついてくるのだ。

「私ならここにいるわよ。」

二人は声がした方を見た。

そこでは、レディがミサイルランチャーを持って立っていた。

「おお!会いたかったよメアリ!ところで、どうしてそんなものをこっちに向けているんだい?」

「…いつも言ってるわよね?」

レディから、闘気が出ている。

そして、

「学園まで追いかけて来んな!!このクソ親父!!!」

レディはミサイルランチャーの引き金を引いた。

ミサイルは狂いなくアーカムへと叩き込まれ、レリックと連鎖爆破を引き起こし、

 

ドガァァァァァン!!!!!

 

理科準備室は消し飛んだ。

「「…」」

あとには黒コゲのスカリエッティとアーカムが残った。

 

 

スカリエッティは今度は何がいけなかったのかを再び検討した。

結果、ダンテとベオウルフの乱入を警戒して、様子見をしてしまったことが原因だと気付いた。

様子見さえしなければ、アーカムとレディに登場されることもなかったはずだからだ。

 

そして、スカリエッティは再びレリックを完成させた。

「ふふふ…いろいろ妨害があったが、ようやく再び完成させられた。さて、また邪魔が入る前に、さっさと運び出さなければ……」

スカリエッティがレリックを運び出そうとした、その時、

「先生。」

「スカリエッティ先生はおるか?」

二人の男子生徒が入ってきた。

アグニとルドラ、この学園に通う高等部三年生である。

この二人は双子の兄弟で、アグニが兄、ルドラが弟だ。

実は、悪魔である。

学園のみならず、悪魔がこの世界において生活するためには、原則として人化の術を使わなければならないが、この二人はどうも人化の術が得意ではないらしく、姿は人間だが、皮膚の色が本来の姿のものと変わっていない。

アグニが赤、ルドラが青である。

「…何の用かね?」

スカリエッティは尋ねた。アグニとルドラは交互に答える。

「少しわからんところがあってのう。」

「教えを乞いに来たのじゃ。」

「ほう、どこかね?」

「「ここじゃ。」」

二人はノートを差し出す。

断ってもまずいので、スカリエッティは教えることにした。

 

数分後、問題を理解したアグニとルドラは、礼を言った。

だが、この後スカリエッティにとって悲劇が起こる。

「スカリエッティ先生、それは何なのかのう?」

アグニがレリックの存在に気付いたのだ。

「あ、ああ、大切な物でね。教えるわけにはいかないんだよ」

「我らに隠し事をするつもりか?」

ルドラが少し怒った。

「いや、そういうわけでは…」

スカリエッティは否定するが、二人は聞かない。

「やるぞ兄者。」

「うむ。」

言うが早いか、二人は人化を解いた。

スカリエッティの前に首なしの大男が二人、現れた。ない首は、二人が持つノコギリのような剣の柄についている。これがアグニとルドラの真の姿である。

「な、何をするつもりだ!?」

「決まっておる!これを破壊するのじゃ!」

「一撃で砕いてくれるわ!」

アグニの剣に炎が、ルドラの剣に風が宿る。

「待て!待つんだ!」

「「ジェットストリーム!!」」

二人はレリックに刺突を繰り出した。

そして、

 

ドガァァァァァン!!!

 

「「ぬおおおおお!!」」

二人はレリックの爆発に巻き込まれ、吹き飛んだ。

黒コゲになったスカリエッティは、

(なぜだ…)

と思いながら倒れた。

 

 

スカリエッティは再び検討する。

そして、レリックの完成、運搬を確実に行ういい方法を思い付いた。

 

スカリエッティは再びレリックを完成させた。

だが理科準備室にいるのは、彼だけではない。

理科準備室の中には、長い丸の形をしたロボットが、数体いた。

ガジェットドローン。スカリエッティが発明したロボットである。

スカリエッティが思い付いたいい方法とは、護衛をつけることだった。護衛がいれば邪魔が入ってもすぐ対応できるし、レリックの運搬も楽だ。

「素晴らしい、完璧だ!これで「もしもし」今度こそ私は「もしもし」世界を手にできる!「もしもし」誰だねさっき、か…ら……」

スカリエッティは声がした方を向いて凍りついた。

「ドナルドです。」

そう、ドナルドがいたのだ。学園最強とまで言われているドナルドが。

「…」

「お話しようよ。」

スカリエッティはドナルドをやり過ごそうと、平常心を取り戻す。

「話?悪いが私は忙しくてね。君と話をしている暇はないんだ」

スカリエッティがそう言った時、

「アクティーブ!」

ドナルドがスカリエッティにアッパーを食らわせた。

「いきなり何を「ドナルドは今、ダンスに夢中なんだ!」ぐあああ!!」

さらに連続で回し蹴りを繰り出し、

「自然に身体が動いちゃうんだ!」

スカリエッティを蹴り上げた。

スカリエッティはボロボロになる。

「くっ、こうなったら……やれ!ガジェットドローン!」

スカリエッティはドナルドを退けるため、ガジェット達に命令を下した。

ガジェット達は光線を出しながら、ドナルドに向かっていく。

だが相手が悪かった。

「ランランルー!」

ドナルドがポーズを取った瞬間、

 

ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!

 

レリックすら消滅させるほどの大爆発が起き、

スカリエッティは黒コゲになって倒れた(よくそれだけで済んだな…)。

「ドナルドは先生が相手でも、殺っちゃうんだ♪」

ドナルドは意気揚々と去っていった。

 

 

スカリエッティは理科準備室で、レリックの作成に取りかかっていた。

今回は再びドナルドが乱入してきた時に備え、護衛を強化してある。

スカリエッティが来るべき世界征服の日のために製造しておいた、ナンバーズという存在だ。

このナンバーズは、人間と機械を組み合わせて造られる『戦闘機人』を、より高い完成度で造り上げた、特別な十二人の戦闘機人だ。

当然のことながら戦闘機人の製造は違法行為であるが、スカリエッティにとっては知ったことではない。

「もう少しだ!もう少しで完成する!その時こそ…私は…!」

一心不乱にレリックを作成するスカリエッティ。

「あ、あはは…ドクターったら、いつになくハイテンションッスねぇ…」

「ちょっと怖いかも…」

ナンバーズのウェンディとセインは引いていた。

スカリエッティは構うことなく、レリック作成を続ける。

「うまくいくさ…うまくいくとも!私が造った戦闘機人の彼女達がいれば、必ず!」

スカリエッティがそう言った、その時、

 

ガチャッ

 

スカリエッティに手錠がかけられた。

「!?」

スカリエッティは驚いて手錠をかけた主を見る。

それは照井だった。

実は、照井はかなり前からスカリエッティをマークしており、

最近起きているテメンニグル学園理科準備室爆破事件に目をつけ、こうして見に来たのだ。

「戦闘機人製造は犯罪だ。連行する」

それを見たナンバーズのノーヴェが、慌てて言う。

「お前ら何やってんだ!ドクターを守るぞ!」

あっけに取られていたナンバーズ達はその言葉で我に返り、スカリエッティを救うべく身構える。

しかし、その次の瞬間、

「ダアァァァァァンテエェェェェ!!!」

「しつけーんだよお前は!」

「アヒャハハハ!!!」

「逃げるなクソ親父!!」

「兄者!よくもわしのシュークリームを!」

「早い者勝ちじゃ!ぼさっとしておるお前が悪い!」

「ドナルドは今、ダンスに夢中なんだ!」

ダンテ、ベオウルフ、ジェスター、レディ、アグニ、ルドラ、ドナルドが乱入し、乱闘を始めた。

彼らが嵐のように立ち去ったあと、ナンバーズは全滅していた。全員戦いに巻き込まれたのだ。

「………」

「…連行する。」

照井は哀れなスカリエッティを連行していった。

 

 

その後、ナンバーズは理事長の計らいで、テメンニグル学園の生徒に編入された。

 

「…なんか女子の比率が増えたなぁ…」

光輝は呟いた。

 

 

 

 

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次回は長編です。今後の展開に関わってくる重要な話ですので、ぜひお付き合い下さい。

説明
今回はあの人視点の番外編です。
それから謝っておきます。スカリエッティファンの皆さん、すいません。
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