超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第9話
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噂を聞きつけ、旧教会跡地コリーヌへと一行は足を向けた。

「意外とみんな旧教会の場所は知ってたですね」

「協会組織が今の都心部に移った所為で周りに誰も住まなくなって情報が少なかったみたいね。通りでなかなか見つからないはずだわ」

コンパはボロボロの建物を見て顔を青ざめる。

「……ここに本当に協会の人達がいるですか? 人よりお化けがすむ方が似合いそうですぅ……」

コンパは外れ掛けた扉の隙間から内部を覗く。

「明かりも見えないですし、噂は噂ですぅ。だから、即行で帰っても問題ないです!」

「大丈夫だって。お化けが出たとしてもちゃんと俺が守ってやるから」

テラの一言にコンパはズキューンとまたしてもハートを奪われたのだがテラには当然の如く自覚はない。

「私も怖いよー! 助けて、テラさーん♪」

「お前は一人でホラーDVD見れるから大丈夫だよ」

と、抱きついてくるネプテューヌを軽くあしらう。

ネプテューヌは「ケチ!」と声を上げて外れ掛かった扉に手を掛ける。

「んじゃ、お邪魔しまーす!」

 

コンパの言ったとおり、内部に明かりはなく月光のみが部屋の中を照らしている。

恐らく祈り部屋であろう、長椅子が並べられている。

ネプテューヌはキョロキョロと辺りを物色する。

が、

「動くな! アヴニールの手の者か? それとも国政院か!?」

突如向けられた銃にネプテューヌは両手を上げて交戦の意志がないことを示す。

「い、いきなり? 私達が山賊にでも見えるの!?」

一行の姿を確認した男性はスッと銃を降ろす。

「子供か……。済まない、ここを訪れる者など、久しくいなかったものでな」

「なんか物々しい感じです。誰かに命でも狙われているですか?」

自分達以外にも人がいることに安心したのか、テラに抱きつく力を弱めるコンパはそう言った。

「大々的にな。アヴニールの無人兵器がなだれ込んでくることも一度や二度じゃない」

「えー? アヴニールがなんでそんな事するの?

国政院の人だってもう協会を乗っ取ったんだから関係ないでしょ?」

ネプテューヌの問いに男性は

「教院が影も形もあるうちは国政院の連中も枕を高くして寝られないと言うことだろう。

権威を奪い、大陸の端へ追いやっても我々は公には協会を支える一組織だからな。

立ち話もなんだから、これ以上は奥で話そう」

男性は一行を促す。

『信用していいのか?』

『話を聞いてみて、そこから決めればいいわ。少なくとも教院の連中がそんな手荒な真似に出るとは考えにくいしね』

小声でそう言った会話を交わすテラとアイエフはネプテューヌとコンパの呼び声に急いで協会の奥へと足を踏み入れた。

 

 *

 

「わぁ……。外は今にも壊れそうだったのに中は他の協会と一緒です」

「修繕したのさ。女神様をお迎えするのにボロボロのままでは我々も立つ瀬がないのでね」

男性は椅子を4つ用意して、一行に座るよう促す。

「ねえねえ、質問! 女神様は今いないの?」

「……今だけではない。もう三年近く前からお姿を見せていない。

どうしたのかと、我々も心配しているところだ」

男性の言葉にコンパは残念そうに声を上げる。

「アヴニールのことをお伝えしようと思ってたのに、残念です。どうにかならないですか?」

「その件に関しては、我々も動きたいのだがね。力関係、周囲への抑圧もあって未だ確実な証拠が得られていないんだ」

男性の言葉にネプテューヌは身を乗り出す。

「証拠なら、アヴニールに壊されたシアンの工場があるよ! でーっかい証拠でしょ?」

「無理だろ? そういう事実も国政院が揉み消してるはずだ。異論を唱えれば、そっちも潰されかねない」

テラはお手上げといった風に肩をすくめる。

「物分かりがいいな。そうだ、そのようなことがあれば我々と同じようにアヴニールから襲撃を受ける。

武力と権力の両方によって大陸中が抑え込まれている」

男性はバンとテーブルを叩き、立ち上がる。

「だが、我々も黙って見過ごすつもりはない。アヴニールと国政院の不正な繋がりを証明できれば、双方を切り崩す糸口になるのだが……」

「……そーいえば、アヴニールの仕事を何度か受けたけど、一回だけ協会の人が代理で来てたわね」

「確か、生死は問わないー、とか生体基盤がどうのーってなんか物騒なことを言っていたです」

コンパとアイエフの言葉に男性はうーんと腕組み、唸る。

「なら、その生態基盤途やらを手に入れられれば、重要な証拠となるかもしれん。

入手できれば、の話だが」

「なら、アヴニールの製品であるあのうじゃうじゃ出てくる機械をぶっ壊せば、出てくるだろ? あっちの戦力も削げて、一石二鳥だ」

「ドロップ率が分かんないけど、そんな探し方しか今の私達には出来ないわね」

「地道で大変そうです……」

話のまとまった一行に男性も納得する。

「話は分かった。

もし、基盤が見つかったのならもう一度来てくれないか? 我々も摘発の用意を進めておく」

「頼む」

その言葉を最後に、一行は旧教会跡地を去る。

アヴニールの不正の証拠を探すために――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

鬱蒼と生い茂る植物の中には明らかに場違いの機械兵達ががしゃがしゃと動き回っている。

「なーんか、前に来たことあるような場所だね」

「前にアヴニールの仕事を頼まれたところでしょ。代表のサンジュと会ったところ」

「あー、あん時のトコか。どうりで見てるとイライラしてくるはずだぜ」

テラは笑顔のままだが,額にはうっすらと青筋が浮かんでいる。

「囮って言うか、ウロウロしてたら不審者と間違えてロボが向かってくるんじゃないかと思ってね」

「でもさ、モンスターの数もふえてない? ロボから基盤入手する前に倒されちゃったらアウトじゃない?」

ネプテューヌの言葉に、アイエフは「あー」とか納得したような声を上げる。

「その可能性は考えてなかったわ。まあ、大丈夫でしょ」

本当に大丈夫ですか? とコンパは珍しく不安に駆られたが、考えても仕方がないので一人さっさと進んでいくネプテューヌの後を急いで追った。

 

 *

 

「基盤でないよ、あいちゃん?」

「知らんわ。おかしいわね、普通はここら辺でドロップしてもおかしくないはずなのに。

仕方がないわね。今日はもう疲れたし、宿に帰って休みましょ?」

そう言って踵を帰してところで、コンパが更に奥の方を指さす。

「待つです! アソコに誰かいるですよ?」

コンパの指す先には一人の男性が、妙に爽やかな、爽やかすぎて苛立ちを覚えるような笑みを浮かべてこちらに近付いてくるのが分かった。

「皆さん、こんにちは。こんな場所で奇遇ですね?」

「……偶然なんて思えないわね。ロボがいて、アンタがいて。出来過ぎのシチュじゃない?」

ガナッシュの姿にアイエフは一気に警戒心を強める。

「つーか、今気付いたんだけど、プラネテューヌでもあるまいし、ラステイションで完全自立型ロボってのも無理があると思わない?」

「……そう言えば」

アイエフの言葉にテラはハタと気付く。

ラステイションは技術はまだまだ発展途上。

プラネテューヌでも最近になって実用化され始めた機械自立機能がラステイションで易々と使用されているはずがないのだ。

「なかなか察しのいいお嬢さんですね。その通り、我が社のロボの中でも大型のモノは実は遠隔制御されているのです」

「もしかして、貴方が影で操作してたの? コレまでも、これからも?」

「コレまでは、そうですかね? これからは貴女達次第ですが」

ガナッシュの尋常ならざる雰囲気にテラとアイエフは身構える。

「そういや、アンタには前に借りがあったな?」

「ひとまず、協会に連れて行って洗いざらい話して貰うわ」

そんな二人をコンパは慌てて制止する。

「でも、基盤が見つかっていないです! そのことは今のうちに教えて貰った方がいいです!」

コンパの声にテラは「そうだな……」と呟き、一旦警戒態勢を解く。

「ふふ……実は私も、我が社の会社の方針に疑問を抱くようになりまして……。

今なら、何でもお話しいたしましょう。

今回は皆さんのアヴニール退治に協力するために来たわけです」

「いくらなんでも話がうますぎるです!」

「そもそも、それだけが目的なら私達をロボに襲わせる意味がないじゃん!」

ガナッシュは苦笑して

「堂々と貴女達に会うために口実がいると思いましてね。

一応社員ですから、仕事という形でした動けなくて、申し訳ありませんね」

「フン、体裁のために自分の会社のロボを何台もおじゃんにするとは、随分と熱心な話じゃねえか」

「よく分からないけど、貴方もアヴニール退治に協力したいって事だよね?」

「初めからそう言っているんですがね……」

ガナッシュはそう言うが、アイエフはいまだ警戒を解かない。

「でも、この間にダンジョンに閉じ込めた件が残ってるわ。誰にネプテューヌの名前を聞いたの? なんで私達を倒そうとしたの?」

「それは会社の命令です。パッセ工場を襲うので足止めを、と言われまして」

「つじつまは合うけど、納得は行かない話ね……」

アイエフは一応身構えることは止めたが、警戒心を解こうとは決してしない。

「信用いただけないのなら、生体基盤をお渡ししましょう。それに、不正な取引のことも証言いたします」

「やったね! アヴニールを倒すきっかけ掴めたじゃん! それともまだ疑ってる?」

アイエフはポリポリと後ろ頭を掻いて溜息を吐く。

「今までが今までだし。どう考えても不自然っていうか、ね?」

アイエフにいきなり投げかけられたテラは内心で「えぇー……」とか漏らすが、なんか雰囲気が雰囲気で不平を漏らせない。

「まー、仕方がないんじゃね? 協力するってんなら聞いてやろうぜ?」

「そうですぅ。ひとまず協会の人に話を預けて話を聞いて貰うのはどうですか?」

「そうですね。教院の方々なら詳しく話もできるでしょう。連れて行って貰えますか?」

ガナッシュの言葉に若干の不平を抱えつつも、アイエフは携帯を取り出して、先日教えて貰った教院の人の連絡先を呼び出した。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ここでいいのか?」

パッセ工場で残った食堂に教院関係者の男性がひょいと顔を覗かせる。

「あ、来た来た。狭苦しいところですが、どーぞどーぞ」

「シアンが聞いたら怒るわね……。それより、アイツはどうしたの? 会社に突き返した?」

男性は訝しげな表情で漏らす。

「いいや、気持ち悪いくらいに素直に吐いてくれたよ。例の生体基盤も受け取った」

男性はヒラヒラと受け取ったのであろう基盤をネプテューヌ達に見せる。

「疑念は拭えぬが、おかげで我々もアヴニール本社の調査にこぎ着けることが出来た。

当日は君達にも協力願いたい」

「そうか。それで、立ち入りは何時になるんだ?」

「決行は博覧会の当日だ。社員のほとんどはそっちに行くだろうが、代表のサンジュはそんなもの、興味も示さないだろうからな」

男性の言葉にコンパは声を荒げる。

「ダメですよ! 博覧会には私達も出るんです!」

「心配はない。博覧会が始まる前にケリが付くさ。

とにかく、アヴニールへの立ち入りの同行は引き受けてくれるね」

男性はそれだけを言うと、早々に引き上げていった。

一同が、遂にこの戦いの終結を望んでいた――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

時間を飛ばしに飛ばし、日にちは博覧会当日。

アヴニール本社ビル前に一行は集まっていた。

「来てくれたか。アレがアヴニール本社だ」

男性は目の前に佇む超高層のビルを指す。

「うわぁ……中が敵だらけなのが丸わかりです……。これじゃあ、自分達が悪い会社だって言ってるようなモノです……」

「どうやら、アヴニールはココに来て健全な一企業の仮面を脱ぎ捨てたらしい」

この時、ネプテューヌは脱ぎ捨てるってなんかいやらしい響きだなー、とかどうでもいいことを思った。ホントどうでもいいな。

「教院が取り調べに来るって分かってたのね。

にしたって、諦めがよすぎじゃない? 普通は隠蔽とかするモンじゃないの?」

「どーいう意図かは分からんが、敵が戦意むき出しって事は俺達がどうにかするしかないって話だろ」

「頼めるか。目的はアヴニール代表、サンジュの確保だ」

男性の言葉を背に、テラ達一行は躊躇いなく、アヴニールの会社に突っ込む。

 

 *

 

襲い来るアヴニール社製のロボを切り伏せて動かなくなった残骸を新たにわき出る機体に投げつける。

「アヴニールも全力って事か? 随分とまた多勢に無勢って感じだな」

テラはそう愚痴を漏らしつつも、新たに飛びかかってくる機体にダガーを振り下ろす。

「全く汚い話ねえ。ここまでするくらいなら、もう少し真っ当な仕事でもしてればよかったのに」

アイエフはそう漏らして新たな機体にかかと落としを決める。

「代表室までどれくらいですか?」

コンパの声にテラは手元の地図に目を向ける。

「もう少し。あと二階上がったところだ」

「なら、一気に斬り伏せる!」

ネプテューヌ(変身)は太刀を構えて通路に立ちふさがる機体を次々と葬っていく。

次々と階段を駆け上がっていき、掲げられている『代表室』の文字。

「ここね!」

ネプテューヌは扉を蹴破って荒々しく入室する。

 

 

 

 

 

 

 

――。

 

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「アヴニール代表、サンジュ……観念なさい。

もう終わり、抵抗は止めて投降しなさい」

ネプテューヌは椅子にもたれ掛かっているであろうサンジュに向けて太刀を向ける。

大椅子は反対側を向いており、サンジュの姿は隠れて見えない。

しかし、そこにいるハズである。

 

――だが、椅子はくるんと向きを変えて現れたのは予想外の男。

「どうも。最近はよく会いますね?

残念ですが、社長は現在、席を外されております」

ガナッシュの姿を見てアイエフは驚愕の声を漏らす。

「は!? アンタがなんでココにいるわけ? 一番がっかりなパターンだわ!?」

「どういう意味ですか……?」

アイエフの言葉にガナッシュは目を細める。

「この私が出し抜かれるなんて……。ところで、何故貴方がここにいるの?」

「社長なら入れ違いで博覧会に向かいましたよ。ココに私がいたのは貴女達がここに来ると踏んだからです」

「おびき出されたってワケか?」

「どうぞ解釈はご勝手に」

ガナッシュの余裕めいた笑みにテラは嫌悪感を抱き、武器を構える。

ガナッシュは「ふふ……」と笑いを漏らす。

「大変でしたよ。協会の方々の目を盗んで先回りするのは」

「目的はなんです? どうして私達を待たないといけないです?」

ガナッシュは大層面倒くさそうにハァと溜息を吐く。

その視線には何やら不穏なものが映し出されていて、コンパは微かにソレを感じ取りブルリと身を震わせる。

「貴女達がココに来てしまいそうだったからですよ。

本当ならアヴニールのことは教院の方に任せて博覧会に行って欲しかったですね」

「残念だが、アンタの思惑通りには行かなかったって事だな」

テラは銃を構えてガナッシュへと銃口を向ける。

「私は全てを明かし、あなた方を博覧会会場へ向かわせるためにここに残りました」

ガナッシュの言葉にネプテューヌはピクリと眉を動かし、武器を降ろして叫ぶ。

「どういう事? 一体何を企んでいるの?」

「いいえ、企み終えて傍観に切り替えているだけですが」

ガナッシュは足を組んで、余裕の表情で大椅子の背もたれに深く身を預ける。

爽やかさを演出しているように笑みを絶やさないでいるのが、テラやアイエフには苛立ちの元となり、銃を握る腕にもどんどん力がこめられる。

「実は、アヴニール発足から現在までの全ては私が仕組ませていただきました。

……守護女神戦争を知った三年前からね。

些細な失敗で業績の落ち込んでいた小さな会社を選び、国政院との仲立ちをして、現在のアヴニールまで発展させてきたのです。大変でしたよ」

「守護、女神?」

聞き慣れぬ単語、『守護女神戦争』に一同は表情を歪める。

それに守護女神とついているからには明らかに女神関連の出来事、そうとなれば尚更気になることでもある。

「まあ、そのことについては私からは何も言いませんが」

「……ちょっと待って。アヴニールを貴方が造ったって……。

なんのために? そもそも貴方は一体何者!?」

アイエフの叫びにガナッシュは重々しく口を開く。

「私は大陸ルウィーの生まれでありながら、ラステイションの女神ブラックハート様を信仰する過激派ギルドのリーダー」

「ギルドの……?」

「ッ!」

その言葉に一同、特にアイエフは衝撃を受ける。

「目的は……ネプテューヌ。貴女です。

守護女神戦争において、ライバルとなる貴女を葬ること!!」

ガナッシュの激昂する言葉に、ネプテューヌは眉をひそめる。

思案、苦悩。

そんな表情が見て取れるが、しかし最後にはふるふると首を横に振り、哀しげな表情で告げる。

「……残念だけど、思い出せないわ。

だけど、アヴニールは私を倒すための捨て駒って事……。それだけは分かるわ」

「その状態だと物分かりがよくて助かりますね。大陸の技術を集約するためにアヴニールを作り、そして今、その推移を集めた兵器が完成した!!」

ガナッシュの叫びに、ネプテューヌは身構える。

自身の掃討するための兵器。

そう聞けば、誰しもが不安になるだろう。

例え、変身して冷静さを得ようがそれは変わらない。

微かではあるが、恐怖、畏怖の念が表情からは見て取れる。

「既にソレは会場で貴女を待っている。急いで方がよろしいのでは?

アレはサンジュの言うことなど聞きませんので。

ああ、あとアヴニールの展示品には私が細工を施しておきました。貴女が来ないと会場の方々がひどい目に遭うように、ね……」

ガナッシュの言葉にテラは歯噛みする。

気に入らない。

汚いやり口が気に入らない、心の底から。

しかし、今はこの男に構っているヒマなど無い。

「……クソ! 今は会場の人達を助けんのが先決か」

「アイツの思惑通りに動くのは癪だけど、それがホントなら周りの人が危ないわね」

「あの人のことは後から来る教院の人達に任せるです。どうせ逃げられないですから、観念しておくです!」

「……一応、俺が見張っておこう。コイツの逃げ足の速さだけは厄介だ」

テラの言葉に三人は頷く。

コンパとアイエフは踵を帰して通路を引き返し、会場へと走り去っていく。

そんな二人の後ろ姿を目で追い、ネプテューヌはスッと視線をガナッシュに移す。

「悪いけど、貴方の企みは失敗に終わる。私が倒すから……」

そう言ってネプテューヌはコンパとアイエフの後を追う。

 

残されたテラとガナッシュの二人。

「……」

今だに向けられる銃口。

それにガナッシュは眉一つ動かさずにじっとテラを見ている。

「貴方も行った方がいいんじゃないでしょうか?」

「ねぷ子は負けない、アイツらも負けない。アンタらにもアンタらが作ったって言う機械にも……」

テラはぐっと銃の引き金に触れる指に力を込める。

「ふ……たいそうな自信ですねぇ。ですが、アレは我々がネプテューヌと倒すためだけに作り上げた最高の機体。止められるはずがありませんよ」

「止められるさ。いくら、アイツのデータを集めて、対策を練ったって、アンタらには負けない……!」

テラはスッと銃を降ろす。

その行為にガナッシュはピクリと眉を動かし、すぐに不敵な笑みを零す。

「いいんですか? 例えば、私が銃を持っていたならと仮定はしないのですか?」

「……持っているならとっくに俺を撃ってるだろうさ」

「なるほど……」

暫しの沈黙の後に、テラは重々しく声を上げる。

「どうして、こんな事が言えるか教えてやろうか?」

「ネプテューヌがアレに負けない、と言う理由ですか?」

「そうだ」

テラは腰に差してあるダガーをごそごそと取り出し、前に突き出す。

「ただの武器だ」

「そうですね。貴方がいつも使用しているダガー二本と銃ですが?」

「これは、いわばアンタらが作ったあの機械と同じだ」

「ほう……」

「でも――」

テラはダガーを再び腰に差し、余裕の笑みをつくる。

「これは、ある時、最強の武器になる」

「……士官生である貴方が『最強』なんて言葉に惑わされるとは驚きですね」

しかし、ガナッシュの言葉を無視してテラは睨む。

「どんな時だか、解るか?」

「……残念ながら」

ガナッシュは面倒くさそうに肩をすくめる。

「だろうな。こんなところで、ただ闇雲に機械を作ってるだけの奴らには一生解らないだろうね」

「何が言いたいのです?」

「要は使い方次第って事だよ。その武器が最強になる条件ってのは、守るために使ったときだ」

「……少年漫画じゃあるまいし、そんなことがあり得るわけ無いでしょう?」

「ははっ、少年漫画か。面白い表現だ。

だが、これは紛れもねえ事実だ。アイツも、それを解ってる。直感的だろうがな」

テラはそっと握っていた銃にもう片方の手を添える。

「テメエ等の――」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「結構シリアスな展開に入ってるんだから変身解かないでよ! 話がややこしくなるから!」

「えー、だってあの格好疲れるもん。知らないよ? 戦ってる途中にスタミナ切れちゃっても」

「……会場に着いたら即行で変身しなさいよ」

そう言ってだかだかと走っているところで会場入り口が三人の視界に入る。

ロボが暴れ回るような音は聞こえないものの一行は足を速める。

 

「シアン? 何してるの?」

ネプテューヌがいの一番に博覧会会場へと足を踏み入れ、ステージの前に一人座って壇上のサンジュを睨みつけているシアンを見つける。

シアンはこちらを向くと、相変わらず不機嫌な声でふてぶてしく答える。

「サンジュのくだらない演説を聴いてるところだよ」

シアンがクイと顎で指す先にはアヴニール代表であるサンジュがマイクに向かって熱々と語っている。

「解るか! 人の作ったものは時として思わぬ不幸を呼び寄せる!

かつての私がそうだった――」

しかしながらそんなサンジュの言葉には耳を貸さず、一行は眼前に佇む会場の天井すれすれの高さの巨大ロボに目を疑う。

「ホントにロボがいるです……。あれがアヴニールさんの出展用、ですか?」

「ねぷ子を倒すためだとか言ってたけど、確かに戦う以外に脳がなさそうね」

所々にゴツゴツとした武装を装備するロボを見てアイエフはそう漏らす。

「私は二度と同じ過ちを繰り返したくない! だから私は置き換えるのだ、人を機械に!」

サンジュはグッと拳を握る。

しかしながらその熱弁はネプテューヌ一行には全く届いておらず、巨大ロボを見て「おースゲー」とかなんとか呟いている。

「不完全なモノしか作れない人から完成された精密なる機械に!

……って人の話を聞け!!」

ようやくネプテューヌ達が自分の話を聞いていないことに気付いたのか、大音量でそう叫ぶ。

マイクが入っていたためにキーンとハウリングを起こして「あわー五月蠅い」とかなんとかネプテューヌは言った。

「何言ってるか全然分かんない……。結局は人が嫌いで機械が好きだから入れ替えちゃおうって事?」

「……アイツは自分の作ったものが信用できないんだ。

自分の失敗で自分の作ったものが人を傷つける。その責任が怖くて、アイツは全部物作りの所為にしたんだ!!」

シアンが布にくるまれた一本の剣をネプテューヌに手渡す。

ネプテューヌは一瞬キョトーンとしていたが、その剣をまじまじと見つめてこれでもかと言うほどに笑顔になる。

「私の作った武器でアイツに分からせてやれ! 自分の作ったものと向き合えない半人前に人の作るモンがどんだけスゴイかってコトをな!!」

「了解! アヴニールのロボをやっつけちゃおうってコトだね?」

「予定とは違うけど、アイツを倒せば絶好のデモンストレーションになる!」

「さて、この面倒な事態もようやく収集が作ってコトね!」

「アヴニールのロボを倒して私達が優勝を頂くです!!」

三人は武器を構えてロボに突っ込む。

 

 *

 

アヴニールのロボは押され始めている。

カノン砲を装備した右腕は削ぎ落とされ、ブースターを叩き潰され、地に這いつくばり最早見る影もないアヴニール社製の機体。

ソレを見てサンジュは後退る。

「……何故だ。あんな小娘が作った武器に……。ラステイションの全てを集約した機体のハズだ!!」

ネプテューヌは渡された剣を振るってロボの最後のブースターを破壊する。

「どうして喧嘩になったのかは分からないけど、なんで私達が勝てたのかは分かるよ」

ネプテューヌはそっと剣を自分の頬に当てる。

「シアンの作った武器はとっても暖かいの」

 

〜 〜

 

「テメエ等の武器は冷たい」

テラはそう言い放つ。

「どういう意味ですか?」

テラの言葉にガナッシュは不機嫌そうに眉をしかめる。

「テメエ等はただ、曖昧に武器や機械を作っているだけだ。でも、シアンの武器には気持ちが詰まってる。お前達が見ようともしなかった暖かいモンがな」

テラは踵を帰して代表室から去ろうとする。

「じきに教院の奴らが来る。しっかり捕縛されるんだな」

「……」

「武器ってのは、戦うためじゃねえ。守るために振るうモンだ。

自分達の利益のために、邪な目的のために使っていいようなモンじゃねえんだ」

そして、テラは代表室を去る。

守るために、止めるために。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「何が、劣っていたというのだ……」

サンジュは地面に両膝をつき、苦渋の表情でダンと地面を殴る。

コツン、とヒールの音が響き、黒い機影が現れる。

這いつくばるサンジュの姿を少女は冷ややかな視線で見つめる。

「それが分からないうちは、貴方は技術者としてやっていけないかもね。

……結局、何も上手くいかずに貴女達に止められた形となってしまったわね」

その少女の姿にネプテューヌは大声を張り上げる。

「あー、この前の新型! また出たな!!

ここで会ったが百年目! シアンの武器でぼっこぼこにしてやんよ!!」

ネプテューヌはブンと野球バットのように剣を振るう。

「そんなモンのために使うな」

ゴン、と地味に鈍い音がしてネプテューヌは叩かれた後頭部を押さえる。

「痛……、テラさん?」

半ば涙目にネプテューヌはふり返る。

「戦うつもりなら別に構わないわよ? こっちだって全力で迎え撃ってあげるわ」

以前の少女の好戦的な意志とは反対に、今日は随分と穏やかな雰囲気を醸し出している。

「ねぷ子、抑えて。あっちも戦うつもりはないみたい」

「何しに来たですか? もうロボは倒しちゃったから出る幕はないですよ?」

コンパの言葉に少女はハァと溜息を吐いて再び一行に向き直る。

「礼を言いに来たの。本当なら私が倒すはずだったしね。ありがと」

少女はくるっと向きを変えて出口を目指す。

今まで話に流されていたテラだが、既に彼女の正体を知っている彼は正気に戻り、大声を上げる。

「ちょ、ちょっと待て! ノw「私がしっかりしていれば、こんなことにはならなかった、それだけよ」……」

台詞を被せられて少しばかりショボーン状態になっているテラを無視して少女、ノワールはヒールの音を響かせて会場を去る。

「なーんか、取り残されちゃった感じです」

「もーいいでしょ、撤収撤収。事後処理は教院連中に任せて帰りましょ」

既に数人乗り込んできている教員関係者に事情を話し、一行は博覧会場を後にする。

 

勝利を噛みしめて――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

後日。

国政院の不正を暴き、見事勝利した教院関係者から一向に呼びが掛かった。

何でもこの大陸を収める女神ブラックハートが一行の話を聞きつけ、お礼を言いたいとこの協会に呼び出したのだった。

「ブラックハート様、お連れいたしました」

装飾の施されたドアを開き、男性は恭しく一礼する。

「分かりました、下がってください」

奥から少女の声が響く。

男性はまた一礼して小声で「どうか粗相の無いように」とテラに告げて静かにドアを閉める。

果たしてそれが何の意味を示していたのか、この時点でテラは全く予想できなかった。

「はじめましてです、守護女神様! わざわざ呼んで貰って感激です」

コンパの声からすぐに女神の玉座を覆っていたカーテンが開く。

「はじめまして、私がこの大陸を守護する女神ブラックハートです」

軽く一礼して微笑む少女。

ソレを見てテラは衝撃を受ける。

 

彼が、よく知る人物――

 

ノワールであったからだ。

 

 

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大陸の守護女神である人物。

 

それはテラが知り合った謎の少女、ノワールであった。

その事実にテラは言葉を失う。

「……女神様ってそんなに若いの?」

ネプテューヌの全く礼儀を弁えない言動を聞いてアイエフは軽く小突く。

「ま、まあ、確かに私達と同年代くらいには見えますけど……」

アイエフが慌ててそう答える。

「神界にいるときは年をとらないから、そのせいじゃないかしら?」

「なんか、一気に話し方が女神様っぽくなくなったです」

「だって今、貴女達しかいないし。私の事情を知っているのもいるし猫かぶったってどうしようもないもの」

目で「ねえ?」と訴えられるテラはどうしようかと思い、苦笑するしかなかった。

「女神様も大変なんだね。大陸を守護してるんだもん」

「守護するのが大変って言うのはちょっと違うけどね。象徴みたいなモノだから、少し堅苦しいわね。

それより、強いモンスターの情報が知りたいんだっけ?」

「そうそう! ちょっとアイテムを探してるんだけど、いつの間にかアヴニールを倒そうーなんてコトに……」

アハハと笑うネプテューヌを見て、誰のせいだとかテラやアイエフは思ったが、最早突っ込んだら負けだなと悟っていたので口出しはしない。

「詳しいことは聞かないけど、どうしても必要なモノなの?」

「そう! いーすんを助けるためにどーしても必要なの!!」

「いーすん……? それはよく分かんないけど、それらしいダンジョンなら教えるわ」

ノワールは引き出しから地図を取り出してとあるダンジョンに印を付ける。

「とりあえず、怪しい場所はココよ」

「わーい! ありがとー」

ネプテューヌは嬉しそうに地図を抱える。

「さ、悪いんだけど今日は引き取って貰えるかしら。こっちも色々と忙しいのよ」

「ああ、そっか。女神様だし、あんなことがあったから事後処理に追われてるのね。

こんな時にお邪魔しちゃってなんか悪いわね」

「いいえ、こっちも久しぶりに気の抜ける話が出来てよかったわ」

テラを除く三人はペコリとお辞儀をして退室する。

しかし、テラは動かない。

「貴方も、早くしないとパーティに置いていかれるわよ」

ノワールは目をそらすように奥の部屋へ向かおうとする。

「待て」

テラはそんなノワールの腕を乱暴に掴む。

「何?」

「……ずっと礼が言いたかった」

テラは結局、あの後何度も教会を訪れたが相変わらず追い返されるのみで面会することはなかった。

しかし、こうして今、相見えることが出来た。

「君が助けてくれたから、俺はこうしてまた歩き出せた」

ノワールは静かに手を振り払おうとする。

でも、いくら足?いてもどうすることも出来なかった。

「私は――貴方のコトなんて……」

「君が俺をどう思っていても構わない。俺は、君にずっと言いたかった……」

テラはすうと息を吸い込む。

穏やかな笑顔で、そう告げる。

 

 

『――ありがとう』

 

 

「っ!」

その言葉に、ノワールの顔が一気に紅潮する。

「う、五月蠅いわね! どうだっていいでしょ、そんなこと! わざわざそれ言うために残ったの!?」

「うん」

テラの微笑に更にノワールは顔を紅潮させてもう茹で蛸のようになる。

「っ〜〜! い、いいから出て行って!」

ノワールは今度こそテラの手を振りほどき、奥の扉に手を掛ける。

「俺は、もうじきラステイションを去るよ」

「……」

ノワールの背中はひどく寂しそうに見えた。

テラにも。

「でも、また来る。君に会いに」

「っ!」

「だから、その時はさ、君なりの笑顔で迎えて欲しい。迷惑じゃ、なかったらだけど」

テラはそう言って一礼し、踵を帰して出口を目指す。

「待ってて、やるわよ……」

「え?」

ノワールの突如発せられた言葉にテラはふり返る。

「千年だろうが、一万年だろうが、待ってるんだからね! 絶対来なさいよ!?」

と、ノワールは声を張り上げて荒々しくドアを閉める。

 

果たしてそれは愛の告白かと聞かれればたぶんテラは「え、違うと思うけど……?」とか答えるのだろうが、恐らくコレはノワールの色々なことのために黙っておいた方がよい事項であろう。

 

そんなノワールの後ろ姿を見て、

テラは微笑む。

 

 †

 

きっと、また会える。

会ってみせる。

もう一度。

俺に大切なことを教えてくれた君へ――。

みんなで世界を救って、もう一度……。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ノワールに指定されたダンジョン。

薄暗い遺跡のような雰囲気を漂わせているダンジョンである。

「流石、ラストダンジョンって言うだけに敵も強いね」

バンと銃でモンスターを射撃してネプテューヌはそう漏らす。

「だろうな。でも、鍵の欠片ってそんなにモンスターにとって重要なアイテムでもないだろ? 何でまた、モンスターがこんな形で配置されてるんだ?」

テラは疑問を投げかけつつも、地面を這うモンスターにダガーを一振りする。

そうして波のような勢いでモンスター達を駆逐していき、恐らく最下層と思われる妙に開けた場所に、一行はたどり着く。

ズシン、と地響きが鳴り巨大な蜘蛛のようなモンスターが現れる。

「でっか……」

「あー、あいちゃんとテラさんは知らないですね。アレがその鍵の欠片を守っている門番さんです」

モンスターを見てそう声を漏らすアイエフにコンパはそう答える。

「よーし! 超特急で倒しちゃうよー!!」

ネプテューヌは武器を構えてモンスターに突進する。

「あー、もう! 突っ走りすぎ!!」

「ねぷねぷ、危ないですぅ!」

二人がネプテューヌの後を追い、モンスターに攻撃を浴びせる。

「……俺も行くか!」

テラもダガーを構え、モンスターに牽制射撃で怯ませる。

「ていやぁー!!」

ネプテューヌの雄叫びが、ダンジョン中に響き渡る――。

 

 

モンスターは悲鳴とも何ともつかぬ声を上げて崩れ落ち、その身体から光が溢れ、一つの石片のようなモノが姿を現す。

地面に転がっているそれをテラは拾い上げて、指先でつまむ。

「これが……」

「そうです、鍵の欠片です」

「やっと見つけたよー!」

ネプテューヌは手放しで万歳万歳と喜んでいる。

「ていうか、前々から気になってたんだけど、いーすんさんて何者?

一番の交信者のねぷ子の説明はイマイチだし、テラはよく分かってないし……」

「最近お呼びがないんだよねー。いいじゃん、助けてからのお楽しみってコトで」

果たしてそんな行き当たりばったりな感じでいいのかな、とアイエフは自分達の行く末に一抹の不安を感じたのだが、全く持ってそれは予想できないのである。

 

ダンジョンを抜け出し、テラは名残惜しそうにラステイションの町並みを見渡す。

「……しばらくこの景色も見れないんだな。ほんの短い間だと思ってたのに、こんなに寂しい気持ちになるなんて」

「全くね。住めば都、なんてよく言ったモノだわ」

ホテルへと向かう道でアイエフはそう漏らす。

「だねー。この汚い空気! 排ガスですっかり灰色になった空! こうしてみると名残惜しさ満載だね!」

と言って、周囲から警戒と軽蔑の視線を送られていることに気付かないネプテューヌからテラとアイエフは数センチばかりの距離を取ったのだが焼け石に水である。

果たしてネプテューヌがラステイション住民に襲いかかられる前に一同は無理矢理ネプテューヌの背中を押してホテルを目指す。

テラは「こりゃ、ほとぼりが冷めるまで近付かない方がいいかも」と思った。

その点で言えばグッドタイミングだが、移動を決めたからこの話が上がってきたわけでどっちとも言えない。

 

 

 

 

 

「さよなら、ラステイション」

テラふり返り、はそう呟く。

果たしてそれは、何を意味するか、否、誰に向けられた言葉であるかは容易に想像がついた。

 

目指す次なる大地は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄大なる緑の大地。

 

 

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超次元ゲイムネプテューヌ 二次創作 ご都合主義 

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